説明

ハイブリッド車両

【課題】オイル供給を不足させることなくモータ冷却と油圧クラッチの断接動作とを支障なく実行可能とした上で、オイル供給用のオイルポンプの容量増大を抑制してこれに起因する燃費悪化などの弊害を未然に防止できるハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】クラッチ3の接続指示があったときに(S6がYes)、開閉弁26を閉弁してモータ4へのオイル供給を中断した上で(S16)、クラッチ3を接続動作させる(S14)。オイル供給の中断がクラッチ3の接続動作中に限られるためモータ冷却に支障はなく、このオイル供給の制限によりクラッチ3の接続動作に必要なオイル供給量が確保される。そして、モータ冷却とクラッチアクチュエータ13との同時作動で要求されるオイル供給量を満足するようにオイルポンプ2の容量を増大する必要がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及びモータの駆動力を変速機により変速して駆動輪に伝達すると共に、該駆動力の伝達状態を油圧クラッチの断接に応じて切り換えるハイブリッド車両に係り、詳しくはモータの冷却や油圧クラッチの断接動作に用いられるオイルの供給を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンなどを走行用動力源とする自動車に代わりハイブリッド車両が普及し始めている。
この種のハイブリッド電気自動車は、エンジンにより発電機を駆動してバッテリを充電しながら、発電した電力により走行用のモータを駆動している。例えばパラレル方式のハイブリッド車両では、エンジン及びモータの間に介装した油圧クラッチの断接に応じて、エンジンのみを駆動源としたエンジン走行、モータのみを駆動源としたモータ走行、エンジン及びモータを駆動源としたエンジン・モータ併用走行を任意に切換可能としている(例えば、特許文献1参照)。
一般的な車両と同様にハイブリッド車両でも、車室スペースや荷室スペースを拡大するために駆動系の小型化が要望されている。そこで、上記特許文献1の技術では、油圧クラッチ、モータ、変速機などを同一ケーシング内に収容すると共に、モータの冷却や油圧クラッチの断接動作に用いるオイルを共用することにより、オイル供給用のオイルポンプや油圧回路を共通化して駆動系の小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−76229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された技術ではオイルを共用する複数の装置が同時作動する場合があり、このような状況でも各装置に対して不足なくオイルを供給して円滑に作動可能とする必要がある。例えば、モータ冷却は常に必要であるとの観点からモータへのオイル供給は常時行われているが、油圧クラッチが断接動作されると、クラッチ作動に要するオイル供給量がモータへのオイル供給量に上乗せされる。
一般的に油圧クラッチはオイル供給により切断または接続の何れか一方に動作し、内蔵されたリターンスプリングの付勢力などで元の断接状態に復帰するが、切断または接続の何れか一方への動作時には、断接ストローク相当分だけクラッチを作動させるためにかなり多量のオイルを消費する。よって、この場合にはモータ冷却と油圧クラッチの断接動作とが同時に行われることを想定し、双方の装置へのオイル供給を可能とするためにオイルポンプの容量を大幅に増大させる必要がある。
【0005】
しかしながら、オイルポンプの容量増大は駆動損失の増大につながり、例えばエンジンによりオイルポンプを駆動する構成ではエンジンの駆動損失の増大、ひいてはそれに起因する燃費悪化などの弊害を引き起こしてしまう。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、オイル供給を不足させることなくモータ冷却と油圧クラッチの断接動作とを支障なく実行可能とした上で、オイル供給用のオイルポンプの容量増大を抑制してこれに起因する燃費悪化などの弊害を未然に防止することができるハイブリッド車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、エンジン及びモータの駆動力を変速機により変速して駆動輪に伝達すると共に、該駆動力の伝達状態を油圧クラッチの断接に応じて切り換えるハイブリッド車両において、油圧クラッチにオイルを供給する油圧供給手段と、油圧供給手段により供給されたオイルを油圧クラッチに供給して油圧クラッチを断接駆動するクラッチ駆動手段と、ハイブリッド車両の走行状態に基づき、クラッチ駆動手段に対してクラッチの断接動作を指示するクラッチ制御手段と、油圧供給手段から供給されるオイルをモータへ供給することによりモータを冷却するモータ冷却手段と、クラッチ駆動手段により、油圧クラッチの断接動作が実行されるときには、モータ冷却手段によるモータへのオイル供給を制限するモータ冷却制限手段とを備えたものである。
請求項2の発明は、請求項1において、クラッチ駆動手段が、油圧クラッチに予圧を与えるプリチャージの実行後、油圧クラッチの断接動作を完了するものであり、モータ冷却制限手段が、クラッチ駆動手段により、プリチャージが実行されるときは、モータ冷却手段によるモータへのオイル供給を制限するものである。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または2において、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を更に備え、油圧供給手段が、エンジン回転により駆動されるオイルポンプとして構成され、モータ冷却制限手段が、エンジン回転速度検出手段により検出されたエンジン回転速度が予め設定された回転判定値以上のときには、クラッチ駆動手段が油圧クラッチの断接動作を実行している場合であっても、モータへのオイル供給量を制限しないものである。
請求項4の発明は、請求項1において、油圧供給手段から供給されるオイルにより作動して変速機の変速操作を行う変速駆動手段と、ハイブリッド車両の走行状態に基づき、変速駆動手段に対して変速操作を指示する変速制御手段とを備え、オイル冷却制限手段が、クラッチ駆動手段により油圧クラッチの断接動作が実行され、且つ、変速駆動手段により変速機の変速操作が実行される場合に、モータ冷却手段によるモータへのオイル供給量を制限するものである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド車両によれば、クラッチ制御手段からの断接動作の指示に基づき、油圧供給手段から供給されるオイルによりクラッチ駆動手段が油圧クラッチを断接動作させると共に、モータ冷却手段によりオイルをモータに供給して冷却し、クラッチ駆動手段により油圧クラッチの断接動作が実行されるときに、モータ冷却手段によるモータへのオイル供給を制限するようにした。
従って、モータへのオイル供給の制限が油圧クラッチの断接動作時に限られるためモータ冷却に支障を生じることはない。一方、このオイル供給の制限により油圧クラッチの断接動作に必要なオイル供給量を確保できることから、油圧クラッチを円滑に断接動作させることができる。そして、モータ冷却とクラッチ駆動手段との同時作動で要求されるオイル供給量を満足するように油圧供給手段の容量を増大する必要がなくなるため、油圧供給手段の駆動損失を低減することができる。
【0009】
請求項2の発明のハイブリッド車両によれば、請求項1に加えて、クラッチ駆動手段が油圧クラッチのプリチャージを実行するときは、モータ冷却制限手段によりモータへのオイル供給量を制限するようにした。
従って、油圧クラッチのプリチャージに必要なオイル供給量を確保でき、もって油圧クラッチを円滑に断接動作することができる。
請求項3の発明のハイブリッド車両によれば、請求項1または2に加えて、油圧供給手段をエンジン駆動のオイルポンプとし、エンジン回転速度が回転判定値以上のときには、クラッチ駆動手段が油圧クラッチの断接動作を実行している場合であっても、モータへのオイル供給量を制限しないようにした。
【0010】
従って、エンジン回転速度が回転判定値以上であり、オイルポンプがモータ冷却とクラッチ駆動手段との同時作動で要求されるオイル供給量を満足できる状況では、モータへのオイル供給量が制限されない。このため可能な限りモータ冷却を継続して故障低減や寿命延長などを実現することができる。
請求項4の発明のハイブリッド車両によれば、請求項1乃至3に加えて、クラッチ駆動手段により油圧クラッチの断接動作が実行され、且つ、変速駆動手段により変速機の変速操作が実行される場合に、モータ冷却手段によるモータへのオイル供給量を制限するようにした。
従って、モータ冷却に支障を生じることなく油圧クラッチの断接動作及び変速機の変速操作に必要なオイル供給量を確保でき、もって、これらの断接動作及び変速操作を円滑に実行して変速時の係合ショックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1及び第2実施形態のハイブリッド型トラックを示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態のECUが実行するモータ冷却制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】第2実施形態のECUが実行するモータ冷却制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
以下、本発明をハイブリッド型トラックに具体化した第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態のハイブリッド型トラックを示す全体構成図である。トラックはパラレル方式のハイブリッド電気自動車として構成されている。ディーゼルエンジン1の出力軸1aにはオイルポンプ2(油圧供給手段)を介してクラッチ3(油圧クラッチ)の入力側が連結され、エンジン1の運転中はオイルポンプ2と共にクラッチ3の入力側が回転駆動される。クラッチ3の出力側にはモータ4の回転軸を介して変速機5の入力側が連結され、モータ4は、例えば永久磁石式同期電動機のように発電機としても機能し得る。変速機5の出力側はプロペラシャフト6、差動装置7及び駆動軸8を介して左右の駆動輪9に連結されている。
【0013】
従って、クラッチ3の接続時には、エンジン1の出力軸1aとモータ4の回転軸の両方が変速機5を介して駆動輪9側と機械的に接続され、エンジン1やモータ4の駆動力が変速機5の変速段に応じて変速された後に駆動輪9に伝達される。また、クラッチ3の切断時には、モータ4の回転軸のみが変速機5を介して駆動輪9側と機械的に接続され、モータ4の駆動力が変速機5の変速段に応じて変速された後に駆動輪9に伝達される。
モータ4は、走行用のバッテリ11を電源としてインバータ12により駆動制御されて駆動輪9側に駆動力を伝達する。また、車両減速時のモータ4は駆動輪9側から逆駆動されることにより発電機として作動し、その発電電力がインバータ12によりバッテリ11に充電されると共に、このときのモータ4の回生トルクにより駆動輪9に減速抵抗が付与される。
【0014】
上記変速機5は、一般的な手動式変速機をベースとして構成されており、以下に述べるように、その変速操作及び変速に伴うクラッチ3の断接動作が自動化されている。
即ち、クラッチ3には油圧式のクラッチアクチュエータ13(クラッチ駆動手段)が連結され、このクラッチアクチュエータ13により断接動作される。クラッチアクチュエータ13は油圧上昇に伴ってクラッチ3を接続方向に駆動し、切断方向への復帰はクラッチ3に内蔵されたリターンスプリングの付勢力を利用して行われる。
【0015】
但し、油圧の増減とクラッチ3の断接方向との関係は上記に限定されるものではない。例えば上記とは逆に、油圧上昇に伴ってクラッチアクチュエータ3がクラッチ3を切断方向に駆動するようにしてもよい。
また、変速機5には油圧式のギヤシフトアクチュエータ14(変速駆動手段)が連結され、このギヤシフトアクチュエータ14により変速段が切り換えられる。周知のように手動式変速機では、各変速段のギヤに対してスリーブをシンクロ機構により回転同期させながら結合して所望の変速段を達成させている。このため、図では単一のギヤシフトアクチュエータ14が示されているが、実際には各スリーブと対応する数のギヤシフトアクチュエータ14が変速機5上に配設されている。
【0016】
クラッチアクチュエータ13及び各ギヤシフトアクチュエータ14は油路15(モータ冷却手段)を介して上記オイルポンプ2に接続されている。オイルポンプ2からオイルを供給されてクラッチアクチュエータ13によるクラッチ3の断接動作、及び各ギヤシフトアクチュエータ14による変速機5の変速操作が実行される。
また、油路15はモータ4内に形成された図示しない循環路(モータ冷却手段)にも接続され、オイルポンプ2からのオイルが循環路内を循環することによりモータ4が冷却されるようになっている。
【0017】
上記エンジン1及びモータ4の運転、クラッチ3の断接動作、及び変速機5の変速操作などはECU21(電子制御ユニット)により実行される。これらの制御のためにECU21の入力側には、エンジン回転速度Neを検出する回転速度センサ22、モータ温度Tmを検出する温度センサ23、アクセル操作量θaccを検出するアクセルセンサ24、車速Vを検出する車速センサ25などの各種センサ類が接続されている。またECU21の出力側には、上記オイルポンプ2、エンジン1の各気筒に設けられた図示しない燃料噴射弁、モータ4を駆動制御するインバータ12、クラッチアクチュエータ13、各ギヤシフトアクチュエータ14などの各種デバイス類が接続されている。
例えばECU21は、アクセル操作量θaccなどに基づき運転者の要求トルクを算出する一方、車両の走行状態、エンジン1及びモータ4の運転状態、或いはバッテリ11のSOC(充電率:State Of Charge)などに基づき、要求トルクをエンジン1側とモータ4側とに配分してそれぞれの目標駆動力を算出する。そして、目標駆動力を達成すべく燃料噴射弁を駆動制御してエンジン1を運転すると共に、インバータ12を駆動制御してモータ4を運転する。これにより、エンジン1のみを駆動源としたエンジン走行、モータ4のみを駆動源としたモータ走行、エンジン1及びモータ4を駆動源としたエンジン・モータ併用走行を適宜切り換えながら車両の走行を行う。
【0018】
一方、例えばECU21は、運転席に設けられたセレクトレバーによるDレンジの選択時には、アクセル操作量θacc及び車速Vに基づき図示しないシフトマップから変速機5の目標変速段を算出する。そして、クラッチアクチュエータ13に対してクラッチ3の断接動作を指示すると共に、変速段を目標変速段に対応するようにギヤシフトアクチュエータ14対して変速段を切り換えるように指示することで目標変速段を達成するよう制御する。これにより常に適切な変速段をもって車両を走行させる。
また、例えばECU21はモータ走行中にバッテリ11のSOCが低下して所定の判定値を下回ると、モータ走行を継続不能と判断してエンジン・モータ併用走行に切り換えるよう制御する。このときのECU21は、クラッチアクチュエータ13に対してモータ走行中に切断状態に保持していたクラッチ3を接続するように指示することにより、モータ4の駆動力と共にエンジン1の駆動力を駆動輪9側に伝達するよう制御する。
【0019】
ところで、オイルポンプ2から供給されるオイルは、モータ4内の循環路を循環することにより消費される一方、クラッチ3の断接動作時にはクラッチアクチュエータ13でも消費される。クラッチアクチュエータ13はクラッチ3を接続する際に油圧を上昇させる必要があるため、より詳しくはクラッチ3の接続動作時にクラッチアクチュエータ13でオイルが消費される。このようなモータ冷却及びクラッチ3の接続動作の要求を満たすべくオイルポンプ2の容量を増大すると、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、エンジン1の駆動損失の増大に起因して燃費悪化などの弊害が発生してしまう。
そこで、オイルポンプ2とモータ4とを接続する油路15に電磁式の開閉弁26(モータ冷却制限手段)を介装し、クラッチ3を接続動作させたとき、ECU21により開閉弁26を閉弁してモータ4へのオイル供給を遮断することでモータ冷却を一時的に中断する対策を講じている。本実施形態では、モータ走行からエンジン・モータ併用走行への切換などのように走行モードの切換に伴って実行されるクラッチ3の接続動作を想定し、このときに開閉弁26の閉弁を行っており、以下、ECU21が実行する開閉弁26の制御を詳述する。
【0020】
図2は第1実施形態のECU21が実行するモータ冷却制御ルーチンを示すフローチャートであり、ECU21は当該ルーチンを車両の走行中に所定の制御インターバルで実行している。
まず、ステップS2で温度センサ23により検出されたモータ温度Tmが温度判定値Tm0以上であるか否かを判定する。温度判定値Tm0は、オイルによるモータ4の冷却を要する下限温度として予め設定されたものである。例えば寒冷地での走行時によりモータ温度Tmが温度判定値Tm0未満になっているときには、ステップS2でNo(否定)の判定を下してステップS4に移行し、開閉弁26を閉弁した後にルーチンを終了する。開閉弁26の閉弁によりモータ4の循環路にはオイルが循環しなくなって冷却作用が得られなくなるが、このときのモータ4の温度Tmは極低温のため、オイルによる冷却が中止されても何ら問題なく運転する。
【0021】
また、モータ温度Tmが温度判定値Tm0以上であるとしてステップS2でYes(肯定)の判定を下したときには、ステップS6に移行して走行モードの切換に伴ってクラッチ3を接続動作させる指示があったか否かを判定する。判定がNoのときにはステップS8に移行して開閉弁26を開弁した後にルーチンを終了する。開閉弁26の開弁によりモータ4の循環路内にはオイルが循環し、モータ4はオイルにより冷却されて何ら問題なく運転を継続する。
ステップS6の判定がYesのときにはステップS10に移行して、エンジン回転速度Neが回転判定値Ne1未満であるか否かを判定する。エンジン回転速度Neの上昇に伴ってオイルポンプ2の吐出量は増加するが、例えば回転判定値Ne1は、モータ冷却とクラッチアクチュエータ13との同時作動で要求されるオイル供給量を満足できる下限回転速度に設定されている。判定がNoのときには、ステップS12に移行して開閉弁26を開弁し、続くステップS14でクラッチアクチュエータ13によりクラッチ3を接続動作させた後にルーチンを終了する。
開閉弁26の開弁によりモータ4の循環路内にオイルが循環してモータ冷却が行われ、必要なオイル供給量は増加する。しかし、エンジン回転速度Neの上昇によりオイルポンプ2の吐出量が十分であるため、クラッチアクチュエータ13によりクラッチ3は円滑に接続動作され、係合ショックを生じることなく走行モードが切り換えられる。
【0022】
なお、クラッチ3の接続動作はどのような制御内容により実行してもよい。例えば単にクラッチアクチュエータ13の油圧を立ち上げてクラッチ3を接続方向に動作させてもよいし、或いは、まずクラッチ3を遊びストローク分だけ接続方向に作動させ(プリチャージと称する)、その後に完全に接続させてもよい。
また、ステップS10の判定がYesのときには、ステップS16に移行して開閉弁26を閉弁した後に(モータ冷却制限手段)、ステップS14でクラッチ3を接続動作させる。このときにはエンジン回転速度Neが低くオイルポンプ2の吐出量が十分ではないが、開閉弁26の閉弁によりモータ冷却が中断されるため、クラッチ3の接続動作に必要なオイル供給量が確保される。よって、クラッチアクチュエータ13によりクラッチ3が円滑に接続動作される。
そして、クラッチ3を接続動作させる指示がなくなった時点でステップS6の判定がNoになるため、ステップS8で開閉弁26が開弁されてモータ冷却が再開され、その間にモータ4に致命的な問題が生じることはない。
【0023】
以上のように本実施形態のハイブリッド型トラックでは、走行モードの切換に伴ってクラッチ3を接続動作させるときに、開閉弁26を閉弁してモータ4へのオイル供給を中断するようにした。従って、モータ冷却に支障を生じることなくクラッチ3の接続動作に必要なオイル供給量を確保でき、もってクラッチ3を円滑に接続動作させて走行モードの切換時の係合ショックを防止することができる。そして、モータ冷却とクラッチアクチュエータ13との同時作動で要求されるオイル供給量を満足するようにオイルポンプ2の容量を増大する必要がないことから、オイルポンプ2を駆動するエンジン1の駆動損失の増大、ひいては燃費悪化などの弊害を未然に防止することができる。
【0024】
また、クラッチ3の接続動作時であっても、エンジン回転速度Neが回転判定値Ne1以上でオイルポンプ2の吐出量が十分なときには、開閉弁26を開弁状態に保持している。このため可能な限りモータ冷却を継続でき、もってモータ4を良好な温度環境の下で運転させて、故障低減や寿命延長などの効果を得ることができる。
加えて図1から明らかなように、本実施形態は一般的なハイブリッド型トラックに対して、油路15を開閉する開閉弁26、及び図2のルーチンに相当するECU21の処理を追加しただけの簡単な構成で実施できる。そして、開閉弁26としては一般的な油圧回路で使用するバルブ類を流用可能であることから、極めて安価なコストにより上記種々の作用効果を得ることができる。
一方、オイルポンプ2の容量を増大する必要がないため、ハイブリッド車両とエンジン車両とで駆動系部品を共用化した場合には、オイルポンプ2についても共用化でき製造コストを低減することができる。
【0025】
[第2実施形態]
次に、本発明を別のハイブリッド型トラックに具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態の全体的な構成は図1に示した第1実施形態と同様であり、相違点は、走行モードの切換を想定した第1実施形態に対して、本実施形態では変速機5の変速操作に伴うクラッチ3の断接動作を想定し、このときに開閉弁26の閉弁を行う点にある。そこで、共通する構成は同一部材番号を付して説明を省略し、ECU21による開閉弁26の制御について詳述する。
図3は第2実施形態のECU21が実行するモータ冷却制御ルーチンを示すフローチャートである。図2のフローチャートとの相違点は、ステップS6,10の処理内容、及びステップS14をステップS22〜26に変更した点にあるため、相違する処理を重点的に述べる。
【0026】
まず、ステップS2でモータ温度Tmが温度判定値Tm0以上であるか否かを判定し、判定がYesのときにはステップS6で変速機5の変速操作の指示があったか否かを判定する。シフトアップまたはシフトダウンのために変速機5の目標変速段が切り換えられて変速操作の指示があると、ステップS10でエンジン回転速度Neが回転判定値Ne2未満であるか否かを判定する。変速機5の変速操作はクラッチ3を断接動作させながら互いに入れ替わりのタイミングで行われる。このため、クラッチアクチュエータ13とギヤシフトアクチュエータ14とのオイル消費量が大の方を選択し、この選択したアクチュエータ13,14とモータ冷却との同時作動で要求されるオイル供給量を満足できる下限回転速度として、上記した回転判定値Ne2が設定されている。
ステップS10の判定がNoのときにはステップS12で開閉弁26を開弁し、続くステップS22でクラッチアクチュエータ13によりクラッチ3を切断し、ステップS24でギヤシフトアクチュエータ14により変速段を切り換え、ステップS26でクラッチアクチュエータ13によりクラッチ3を接続してルーチンを終了する。エンジン回転速度Neの上昇によりオイルポンプ2の吐出量が十分であるため、クラッチアクチュエータ13によるクラッチ3の接続動作、及びギヤシフトアクチュエータ14による変速機5の変速操作は共に円滑に行われ、ショックを生じることなく目標変速段への変速が完了する。
【0027】
第1実施形態でも述べたが、ステップS26ではどのような制御によりクラッチ3を接続動作させてもよく、例えばプリチャージ後に完全に接続させてもよい。
また、ステップS10の判定がYesのときにはステップS16で開閉弁26を閉弁した後に(モータ冷却制限手段)、ステップS22〜26の処理を行う。エンジン回転速度Neが低くオイルポンプ2の吐出量が十分ではないが、開閉弁26の閉弁によりモータ冷却が中断されるため、クラッチ3の接続動作及び変速機5の変速操作に必要なオイル供給量が確保される。よって、ショックを生じることなく目標変速段への変速機5の変速が完了する。
そして、変速操作の指示がなくなった時点でステップS6の判定がNoになるため、ステップS8で開閉弁26が開弁されてモータ冷却が再開され、その間にモータ4に致命的な問題が生じることはない。
【0028】
以上のように本実施形態のハイブリッド型トラックでは、クラッチ3の断接動作を伴って変速機5の目標変速段への変速操作が行われたときに、開閉弁26を閉弁してモータ4へのオイル供給を中断するようにした。従って、モータ冷却に支障を生じることなくクラッチ3の接続動作及び変速機5の変速操作に必要なオイル供給量を確保でき、もって、これらの接続動作及び変速操作を共に円滑に行って変速操作時のショックを防止することができる。そして、モータ冷却とクラッチアクチュエータ13との同時作動で要求されるオイル供給量、或いはモータ冷却とギヤシフトアクチュエータ14との同時作動で要求されるオイル供給量を満足するようにオイルポンプ2の容量を増大する必要がないことから、オイルポンプ2を駆動するエンジン1の駆動損失の増大、ひいては燃費悪化などの弊害を未然に防止することができる。
また、重複する説明はしないが、変速機5の変速操作時であっても、エンジン回転速度Neが回転判定値Ne2以上でオイルポンプ2の吐出量が十分なときには開閉弁26を開弁状態に保持するため、可能な限りモータ冷却を継続でき、しかも、開閉弁26及びECU21の処理を追加するだけの簡単な構成で実施できる。
【0029】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記各実施形態ではハイブリッド型トラックに具体化したが、対象となる車両はこれに限ることはなく、例えばバスや乗用車に具体化してもよい。
また、上記実施形態ではエンジン1とモータ4との間にクラッチ3を介装したが、駆動系のレイアウトはこれに限定されるものではない。例えば、エンジン1とモータ4とを直接接続し、モータ4と変速機5との間にクラッチ3を介装したレイアウトの車両として具体化してもよい。
また、上記実施形態では、単一のクラッチ3を備えた手動式変速機をベースとして変速操作及びクラッチ断接動作を自動化した変速機5に具体化したが、変速機5の種別はこれに限ることはなく、例えば所謂デュアルクラッチ式変速機を対象としてもよい。
【0030】
当該デュアルクラッチ式変速機の構成は、例えば特開2009−035168号公報などで周知であるが、奇数段と偶数段とに分けた歯車機構をそれぞれクラッチを介してエンジン側と連結した2系統の動力伝達系を備えるシステムである。一方の歯車機構のクラッチを接続して動力伝達しているときには、他方の歯車機構のクラッチを切断して次に予測される変速段に予め切り換えておき、次変速段への変速タイミングになると両クラッチの断接状態を逆転させて他方の歯車機構による動力伝達を開始し、これにより変速時の動力伝達の中断を防止している。
詳細は説明しないが、このようなデュアルクラッチ式変速機においても、2系統の動力伝達系に備えられた何れかのクラッチの断接動作を実行するとき、或いはクラッチの断接動作を伴って何れかの歯車機構の変速操作を実行するときに、モータを冷却するためのオイル供給を開閉弁の閉弁により遮断するように構成すれば、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
また、上記実施形態では、オイルポンプ2からモータ4へのオイル供給を完全に遮断するように開閉弁26を構成したが、開閉弁26の機能はこれに限ることはない。例えば閉弁時においてモータ4へのオイル供給量を50%程度まで低下させるように開閉弁26を構成してもよい。この場合でもモータ4へのオイル供給量が制限される分だけオイルポンプ2の容量を縮小でき、また開閉弁26の閉弁時でもモータ冷却効果がある程度継続して得られる。よって、オイルポンプ2の容量縮小とモータ冷却との何れを重視するかに応じて、開閉弁26の閉弁時の開度(即ちオイル制限量)を適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0032】
1 エンジン
2 オイルポンプ(油圧供給手段)
3 クラッチ(油圧クラッチ)
5 変速機
9 駆動輪
13 クラッチアクチュエータ(クラッチ駆動手段)
14 ギヤシフトアクチュエータ(変速駆動手段)
15 油路(モータ冷却手段)
21 ECU(モータ冷却制限手段、クラッチ制御手段、変速制御手段)
26 開閉弁(モータ冷却制限手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及びモータの駆動力を変速機により変速して駆動輪に伝達すると共に、該駆動力の伝達状態を油圧クラッチの断接に応じて切り換えるハイブリッド車両において、
上記油圧クラッチにオイルを供給する油圧供給手段と、
上記油圧供給手段により供給されたオイルを上記油圧クラッチに供給して該油圧クラッチを断接駆動するクラッチ駆動手段と、
上記ハイブリッド車両の走行状態に基づき、上記クラッチ駆動手段に対してクラッチの断接動作を指示するクラッチ制御手段と、
上記油圧供給手段から供給されるオイルを上記モータへ供給することにより該モータを冷却するモータ冷却手段と、
上記クラッチ駆動手段により、油圧クラッチの断接動作が実行されるときには、上記モータ冷却手段による上記モータへのオイル供給を制限するモータ冷却制限手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
上記クラッチ駆動手段は、上記油圧クラッチに予圧を与えるプリチャージの実行後、該油圧クラッチの断接動作を完了するものであり、
上記モータ冷却制限手段は、上記クラッチ駆動手段により、上記プリチャージが実行されるときは、上記モータ冷却手段による上記モータへのオイル供給を制限することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
上記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を更に備え、
上記油圧供給手段は、エンジン回転により駆動されるオイルポンプとして構成され、
上記モータ冷却制限手段は、上記エンジン回転速度検出手段により検出されたエンジン回転速度が予め設定された回転判定値以上のときには、上記クラッチ駆動手段が油圧クラッチの断接動作を実行している場合であっても、上記モータへのオイル供給量を制限しないことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
上記油圧供給手段から供給されるオイルにより作動して上記変速機の変速操作を行う変速駆動手段と、
上記ハイブリッド車両の走行状態に基づき、上記変速駆動手段に対して変速操作を指示する変速制御手段と、
を備え、
上記オイル冷却制限手段は、上記クラッチ駆動手段により油圧クラッチの断接動作が実行され、且つ、上記変速駆動手段により上記変速機の変速操作が実行される場合に、上記モータ冷却手段による上記モータへのオイル供給量を制限することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−6433(P2013−6433A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138364(P2011−138364)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】