説明

ハウスダストアレルギーの原因となるダニ・カビ類の検出・識別システム

【課題】専門的な知識を必要とせず、簡便な操作で、短時間で正確にアレルゲンを一括して同定可能なシステムを提供する
【解決手段】検査対象から採取したダニ類及びカビ類由来のゲノムDNA又はmRNAを鋳型とし、ダニ遺伝子特異的プライマーセット及びカビ遺伝子特異的プライマーセットを用いて増幅された検出対象DNA領域に対してハイブリダイズ可能である、ダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウスダストアレルギーの原因となるダニ・カビ類の検出・識別システムに関し、特に、ダニ類及びカビ類を同時に検出・識別できるマイクロアレイを用いた検出・識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハウスダストアレルギーは通年性アレルギーであり、主にダニ・カビ類がアレルゲンとなる。ハウスダストアレルギーを持つ患者は年々増加しており、ダニ・カビの評価と有効な対策のニーズが高まっている。通常、ダニ・カビの検出・同定は、専門家による顕微鏡鑑定で行われるため、非常に多くの時間と労力が必要とる。近年、ダニ類が持つアレルゲンとされるタンパク質に対する特異的な抗体を用いて免疫学的にアレルゲンを検出する技法が試みられているが、本手法ではダニ類の種の識別が困難であるといった問題がある。その上、本手法では、カビ類を検出することができず、アレルゲンを包括的に評価することができないといった問題もある。
【0003】
また、現在、アレルゲンとなるダニ・カビを検査するためには、一度カビ類を培養し、顕微鏡観察により同定を行う必要があるため、一定の期間と、分類に関する高度な知識が必要となる。このため、多くの検査サービスではカビ類については属レベルの調査に留まっている。これらのサービスは時間と手間と専門知識を要するため、コストが高価になり、容易に検査を依頼できるものではない。
【0004】
現状でも簡便・短時間でアレルゲンを識別するシステムは存在するが、対象がダニ1〜2種のみであり、カビについては検出ができない(例えば、商品名『マイティーチェッカー』シントーファイン社製)。現状におけるハウスダスト中のダニ・カビの検査はユーザーが手軽に利用でき、満足の行く結果を受け取ることができると言える状態ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-16695号公報
【特許文献2】特開2000-171464号公報
【特許文献3】特開2000-146964号公報
【特許文献4】特開2000-88848号公報
【特許文献5】特開平11-248705号公報
【特許文献6】特開2003-66045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上述したような実状に鑑み、専門的な知識を必要とせず、簡便な操作で、短時間で正確にアレルゲンを一括して同定可能なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成した本発明は、以下を包含する。
(1) 検査対象から採取したダニ類及びカビ類由来のゲノムDNA又はmRNAを鋳型とし、ダニ遺伝子特異的プライマーセット及びカビ遺伝子特異的プライマーセットを用いて増幅された検出対象DNA領域に対してハイブリダイズ可能である、ダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブ。
【0008】
(2) 上記ダニ類としてDermatophagoides farinae(コナヒョウヒダニ)、Dermatophagoides pteronyssinus(ヤケヒョウヒダニ)又はTyrophagus pterescentiae(ケナガコナダニ)であり、上記カビ類としてAlternaria alternata、Aspergills restrictus、Aspergills versicolor、Candida albicans、Cladosporium sphaerosporum又はEurotium herboriorum由来の検出対象DNA領域に対してハイブリダイズ可能であることを特徴とする(1)記載のダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブ。
【0009】
(3) 上記ダニ遺伝子特異的プライマーセットは以下の(a)、(b)又は(c)であることを特徴とする(1)記載のダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブ。
(a)配列番号56に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列からなるプライマーとのセット
(b)配列番号56に示す塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマーと配列番号57塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるからなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
(c)配列番号56に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
【0010】
(4) 上記カビ遺伝子特異的プライマーセットは以下の(a)、(b)又は(c)であることを特徴とする(1)記載のダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブ。
(a)配列番号58に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号59に示す塩基配列からなるプライマーとのセット
(b)配列番号58に示す塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマーと配列番号59塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるからなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
(c)配列番号58に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーと配列番号59に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
【0011】
(5) 配列番号1、5、9、13、17及び21からなる群より選ばれる1の塩基配列の一部又は全部を含むことを特徴とする(1)記載のダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブ。
(6) 配列番号24、28、32、36、40、44及び48〜53からなる群より選ばれる1の塩基配列の一部又は全部を含むことを特徴とする(1)記載のダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブ。
(7) (1)〜(6)いずれかに記載の核酸プローブと、前記核酸プローブを固定化した支持担体とを備える、ダニ類及びカビ類の検出及び識別用アレイ。
【0012】
また、本発明によれば、上述したダニ類及びカビ類の検出及び識別用核酸プローブとハイブリダイズする検出対象DNA領域を増幅するためのダニ遺伝子特異的プライマー及びカビ遺伝子特異的プライマーを提供することができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、検査対象から塵芥を採取する工程と、採取した塵芥からダニ類及びカビ類を分離し、分離されたダニ類及びカビ類からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAを鋳型とし、上記ダニ遺伝子特異的プライマーセット及び上記カビ遺伝子特異的プライマーセットを用いて検出対象DNA領域を増幅する工程と、上述した核酸プローブを用いて検出対象DNA領域を検出する工程とを含む、ダニ類及びカビ類の検出及び識別方法を提供することができる。
【0014】
さらにまた、本発明によれば、検査対象から採取した塵芥からダニ類及びカビ類を分離し、分離されたダニ類及びカビ類からDNAを抽出するDNA抽出手段と、上述したダニ遺伝子特異的プライマーセット及び上述したカビ遺伝子特異的プライマーセットと、上述した核酸プローブを含み、前記ダニ遺伝子特異的プライマーセット及び前記カビ遺伝子特異的プライマーセットにより増幅された検出対象DNA領域を検出する検出手段とを含む、ダニ類及びカビ類の検出及び識別キットを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、専門的な知識を必要とせず、簡便な操作で、短時間で正確にアレルゲンを一括して同定可能なシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で設計したプライマーを用いたPCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図2】実施例2で抽出したゲノムDNAを鋳型としたPCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図3】実施例3で設計したダニ遺伝子特異的プライマー及びカビ遺伝子特異的プライマーを使用したPCRの結果を示す電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るダニ・カビ類の検出・識別システムは、ハウスダストアレルギーの原因となるダニ類及びカビ類を検出及び識別できるシステムである。本システムにおいて検出及び識別対象のダニ類としては、Dermatophagoides farinae(コナヒョウヒダニ)、Dermatophagoides pteronyssinus(ヤケヒョウヒダニ)、Tyrophagus pterescentiae(ケナガコナダニ)、Hirstia domicola(イエチリダニ)、Malayoglyphus intermedius(ニセチリダニ)、Euroglyphus maynei(シワダニ)、Acarus siro(アシブトコナダニ)、Acarus immobilis(オソアシブトコナダニ)、Aleuroglyphus ovatus(ムギコナダニ)、Lardoglyphus konoi(コウノホシカダニ)、Suidasia nesbitti(チビコナダニ)、Calvolia domicola(ゴミウスケダニ)、Carpoglyphus lactis(サトウダニ)、Chortoglyphus domicola(イエマルニクダニ)、Glycyphagus destructor(サヤアシニクダニ)、Glycyphagus domesticus(イエニクダニ)、Glycyphagus privates(チリニクダニ)、Gohieria fusca(キナコダニ)、Sarcoptes scabiei (ヒゼンダニ)、Notoedres cati(ネコショウヒゼンダニ)、Dermanyssus hirundinis(スズメサシダニ)、Ornithonyssus sylviarum(トリサシダニ)、Ornithonyssus bacoti(イエダニ)、Cheyletus eruditus(ホソツメダニ)、Cheyletus malaccensis(フトツメダニ)、Chelacaropsis moorei(ミナミツメダニ)、Cheyletus malaccensis(クワガタツメダニ)、Chelatomorpha lepidopterorum(アシナガツメダニ)、Demodex folliculorum(ニキビダニ)、Pyemotes tritici(ムギシラミダニ)、Tarsonemus granaries(ナミホコリダニ)、Haplochthonius simplex(イエササラダニ)、Cosmochthonius reticulates(カザリヒワダニ)等を挙げることができる。本システムにおいて検出及び識別対象のカビ類としては、Alternaria alternata、Aspergills restrictus、Aspergills versicolor、Candida albicans、Cladosporium sphaerosporum、Eurotium herboriorum、Wallemia sebi、Botrytis cinerea、Mucor racemosus、Rhizopus stolonifer、Stachybotrys chartarum、Trichoderma viride Fusarium solani、Aspergillus fumigatus、Aspergillus niger、Aureobasidium pullulans、Cladosporium cladosporioides、Cladosporium herbarum、Epicoccum nigrum、Paecilomyces variotii、Penicillium chrysogenum、Penicillium citrinum、Ulocladium chartarum、Penicillium brevi-compactum、Penicillium aurantiogriseum、Aspergillus amstelodami(Eurotium amstelodami)、Aspergillus chevalieri(Eurotium chevalieri)、Acremonium strictum、Phoma glomerata、Scopulariopsis brevicaulis、Chaetomium globosum等を挙げることができる。
【0018】
本システムでは、先ず、検査対象の室内から塵芥を採取する。採取した塵芥には、検出及び識別対象のダニ虫体、カビ菌糸及び胞子が含まれることとなる。塵芥を採取する手段としては、特に限定されないが、一般的な家庭用掃除機に対して容易に脱着可能なフィルターを使用することができる。フィルターとしては、家庭用掃除機の吸引能力を妨げることなく、効率的にダニ虫体、カビ菌糸及び胞子を捕捉することが可能であることが望ましい。フィルターとしては、例えば、合成樹脂材料からなる不織布を使用することができる。なお、検査対象としては、室内全般、エアコン内部、家具、寝具等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0019】
本システムでは、次に、検査対象から採取したダニ虫体、カビ菌糸及び胞子からDNAを抽出する。DNA抽出の手段としては、特に限定されないが、上記塵芥から直接的にDNA成分を分離し、精製して回収できる手段であることが好ましい。DNA抽出手段としては、例えば、塵芥からダニ虫体、カビ菌糸及び胞子を分離するための装置、分離されたダニ虫体、カビ菌糸及び胞子からDNA成分を抽出する抽出用溶液、DNA成分を精製するための溶液及び精製用のカラム、精製後のDNA成分を保存するための緩衝液等を挙げることができる。
【0020】
特に、ダニ虫体、カビ菌糸及び胞子からDNAを分離する際には、先ず始めに、例えば、ホモジナイズ装置を使用して破砕しても良いし、乳鉢・乳棒を使用して破砕しても良い。次に、ダニ虫体、カビ菌糸及び胞子を破砕した後、蛋白質分解酵素で処理する。また、蛋白質分解酵素で処理した後もしくは蛋白質分解酵素処理を省いて、界面活性剤(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)、ソディウムドデシルスルフェイト(SDS)等)で処理しても良い。
【0021】
本システムでは、次に、抽出したDNAを用いて核酸増幅反応を行い、採取したダニ及びカビに由来する検出対象DNA領域を増幅させる。核酸増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)等を適用することができる。また、検出対象DNA領域とは、検出対象のダニ及びカビを種レベルで同定することができる程度に特異性を有するDNA領域である。より好ましくは、検出対象DNA領域としては、Internal Transcribed Spacer 領域(以下、ITS領域)や非翻訳領域を挙げることができる。より好ましくは、検出対象DNA領域としては、ITS1領域及びITS2領域を含む領域である。
【0022】
また、検出対象DNA領域を増幅させる際には、増幅後のDNA領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅されたDNAを標識する方法としては、特に限定されないが、例えば核酸増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用しても良いし、核酸増幅反応に修飾ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用しても良い。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0023】
特に、検出対象DNA領域を増幅させる際には、検出及び識別対象としているダニ類及びカビ類由来の検出対象DNA領域を1つの反応系で増幅させることが好ましい。すなわち、検出及び識別対象としているダニ類及びカビ類がそれぞれ複数種に亘っていたとしても、複数種のダニ類及び複数種のカビ類由来の検出対象DNA領域を1つの反応容器内で同時に増幅することが望ましい。このような反応系は、核酸増幅反応としてPCRを適用する場合には「1-tube PCR」と呼ばれる。
【0024】
またこの反応系は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、検出対象DNA領域特異的プライマー、修飾型ヌクレオチド三燐酸(具体的にはDIGラベル等を付加したヌクレオチド三燐酸)、ヌクレオチド三燐酸及び塩化マグネシウム等を含む反応系キットとして提供することができる。
【0025】
特に、ダニ類由来の検出対象DNA領域を増幅する際には、複数のダニ類の全てに共通して使用できる一対のプライマー(ダニ遺伝子特異的プライマー)を使用することが好ましい。ダニ遺伝子特異的プライマーとしては、具体的には、配列番号56に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列からなるプライマーのセットを挙げることができる。これらダニ遺伝子特異的プライマーによれば、少なくとも、Dermatophagoides farinae、Dermatophagoides pteronyssinus及びTyrophagus pterescentiae由来のITS領域を検出対象DNA領域として増幅することができる。
【0026】
また、ダニ遺伝子特異的プライマーとしては、配列番号56に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列からなるプライマーのセットに限定されず、上記ITS領域を増幅することができるならばこれら塩基配列において1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマーのセットであってもよい。さらに、ダニ遺伝子特異的プライマーとしては、上記ITS領域を増幅することができるならば、配列番号56に示す塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマー、及び配列番号57に示す塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーのセットであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、High stringency buf.(0.5xSSC, 0.1% SDS)、65℃、15分間程度の洗い条件を指す。
【0027】
また、同様に、複数のカビ類の全てに共通して使用できる一対のプライマー(カビ遺伝子特異的プライマー)を使用することが好ましい。カビ遺伝子特異的プライマーとしては、具体的には、配列番号58に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号59に示す塩基配列からなるプライマーのセットを挙げることができる。これらダニ遺伝子特異的プライマーによれば、少なくとも、Alternaria alternata、Aspergills restrictus、Aspergills versicolor、Candida albicans、Cladosporium sphaerosporum及びEurotium herboriorum由来のITS領域を検出対象DNA領域として増幅することができる。
【0028】
また、カビ遺伝子特異的プライマーとしては、配列番号58に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号59に示す塩基配列からなるプライマーのセットに限定されず、上記ITS領域を増幅することができるならばこれら塩基配列において1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマーのセットであってもよい。さらに、カビ遺伝子特異的プライマーとしては、上記ITS領域を増幅することができるならば、配列番号58に示す塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマー、及び配列番号59に示す塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーのセットであってもよい。
【0029】
次に、本システムでは、増幅した検出対象DNA領域を、特定の塩基配列を有する核酸プローブによって検出する。本システムにおいては、検出及び識別対象のダニ類及びカビ類それぞれについて核酸プローブを準備する。核酸プローブは、検出及び識別対象のダニ類及びカビ類からゲノムDNA或いはmRNAを抽出し、抽出したゲノムDNA或いはmRNAを鋳型としてPCR等の核酸増幅反応を利用してクローニングすることができる。
【0030】
例えば、Dermatophagoides farinae(コナヒョウヒダニ)を検出及び識別対象のダニ類とする場合、核酸プローブは、配列番号1に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域と配列番号5に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS2領域とすることができる。より具体的には、Dermatophagoides farinaeから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号2に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号4に示す塩基配列からなるDermatophagoides farinae由来ITS1領域の一部を増幅することができる。また、Dermatophagoides farinaeから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号6に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号8に示す塩基配列からなるDermatophagoides farinae由来ITS2領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号4に示す塩基配列からなる核酸プローブ及び配列番号8に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Dermatophagoides farinaeの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0031】
Dermatophagoides pteronyssinus(ヤケヒョウヒダニ)を検出及び識別対象のダニ類とする場合、核酸プローブは、配列番号9に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域と配列番号13に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS2領域とすることができる。より具体的には、Dermatophagoides pteronyssinusから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号10に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号11に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号12に示す塩基配列からなるDermatophagoides pteronyssinus由来ITS1領域の一部を増幅することができる。また、Dermatophagoides pteronyssinusから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号14に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号15に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号16に示す塩基配列からなるDermatophagoides pteronyssinus由来ITS2領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号12に示す塩基配列からなる核酸プローブ及び配列番号16に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Dermatophagoides pteronyssinusの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0032】
Tyrophagus pterescentiae(ケナガコナダニ)、を検出及び識別対象のダニ類とする場合、核酸プローブは、配列番号17に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域と配列番号21に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS2領域とすることができる。より具体的には、Tyrophagus pterescentiaeから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号18に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号19に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号20に示す塩基配列からなるTyrophagus pterescentiae由来ITS1領域の一部を増幅することができる。また、Tyrophagus pterescentiaeから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号22に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号23に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号21に示す塩基配列からなるTyrophagus pterescentiae由来ITS2領域を増幅することができる。すなわち、配列番号20に示す塩基配列からなる核酸プローブ及び配列番号21に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Tyrophagus pterescentiaeの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0033】
一方、Alternaria alternataを検出及び識別対象のカビ類とする場合、核酸プローブは、配列番号24に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域とすることができる。より具体的には、Alternaria alternataから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号25に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号26に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号27に示す塩基配列からなるAlternaria alternata由来ITS1領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号27に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Alternaria alternataの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0034】
Aspergills restrictusを検出及び識別対象のカビ類とする場合、核酸プローブは、配列番号28に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域とすることができる。より具体的には、Aspergills restrictusから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号29に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号30に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号31に示す塩基配列からなるAspergills restrictus由来ITS1領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号31に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Aspergills restrictusの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0035】
Aspergills versicoloを検出及び識別対象のカビ類とする場合、核酸プローブは、配列番号32に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域とすることができる。より具体的には、Aspergills versicoloから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号33に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号34に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号35に示す塩基配列からなるAspergills versicolo由来ITS1領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号35に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Aspergills versicoloの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0036】
Candida albicansを検出及び識別対象のカビ類とする場合、核酸プローブは、配列番号36に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域とすることができる。より具体的には、Candida albicansから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号37に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号38に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号39に示す塩基配列からなるCandida albicans由来ITS1領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号39に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Candida albicansの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0037】
Cladosporium sphaerospermumを検出及び識別対象のカビ類とする場合、核酸プローブは、配列番号40に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域とすることができる。より具体的には、Cladosporium sphaerospermumから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号41に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号42に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号43に示す塩基配列からなるCladosporium sphaerospermum由来ITS1領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号43に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Cladosporium sphaerospermumの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0038】
Eurotium herbariorumを検出及び識別対象のカビ類とする場合、核酸プローブは、配列番号44に示す塩基配列の一部又は全部を含むITS1領域とすることができる。より具体的には、Eurotium herbariorumから抽出したゲノムDNAを鋳型として、配列番号45に示す塩基配列からなるプライマー及び配列番号46に示す塩基配列からなるプライマーを使用したPCRによって、配列番号47に示す塩基配列からなるEurotium herbariorum由来ITS1領域の一部を増幅することができる。すなわち、配列番号47に示す塩基配列からなる核酸プローブを、Eurotium herbariorumの検出及び識別用の核酸プローブとすることができる。
【0039】
また、上述したように、Alternaria alternata、Aspergills restrictus、Aspergills versicolo、Candida albicans、Cladosporium sphaerospermum及びEurotium herbariorumを検出及び識別対象のカビ類とする場合に核酸プローブとして、それぞれITS1領域の一部を使用したが、これらカビ類についてITS2領域の一部を核酸プローブとして使用しても良い。Alternaria alternataにおけるITS2領域の一部を配列番号48に示し、Aspergills restrictusにおけるITS2領域の一部を配列番号49に示し、Aspergills versicoloにおけるITS2領域の一部を配列番号50に示し、Candida albicansにおけるITS2領域の一部を配列番号51に示し、Cladosporium sphaerospermumにおけるITS2領域の一部を配列番号52に示し、Eurotium herbariorumにおけるITS2領域の一部を配列番号53に示す。これら配列番号48〜53に示したカビ類由来のITS2領域は、全て配列番号54に示すプライマー及び配列番号55に示すプライマーにより増幅することができる。
【0040】
特に、検出及び識別対象のダニ類及びカビ類を、検出対象DNA領域としてITS1領域及びITS2領域を含むDNA断片を増幅する場合、上述したように、各ダニ類及び各カビ類についてそれぞれ、ITS1領域及びITS2領域をともに核酸プローブとして使用することが好ましい。核酸プローブとしてITS1領域及びITS2領域をともに使用することによって、上述した工程で増幅した検出対象DNA領域の検出精度を向上させることができる。すなわち、ITS1領域を含む核酸プローブ及びITS2領域を含む核酸プローブのうち一方のみにハイブリダイズが生じても、他方に対してハイブリダイズが認められない場合には、一方に生じたハイブリダイズを非特異的ハイブリダイズによる擬陽性であると結論付けることができる。これにより、非特異的ハイブリダイズによる誤判定の生じる可能性を非常に低く抑えることができるため、検出対象DNA領域の存在すなわち、特定のダニ類及びカビ類の検出及び識別を高精度に行うことができる。
【0041】
ところで、核酸プローブとしては、上述したように検出対象DNA領域とのハイブリダイズに寄与する塩基配列のみからなる核酸断片に限定されず、例えば、当該かハイブリダイズに寄与しない塩基配列が含まれていても良い。さらに、核酸プローブは、上述したように一対のプライマーを使用した核酸増幅反応により増幅されたものに限定されず、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することもできる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0042】
なお、核酸プローブを使用した検出対象DNA領域の検出は、核酸プローブと検出対象DNA領域とのハイブリダイズを検出できる方法であれば特に限定されない。例えば、ナイロンメンブラン等の比較的大型、もしくはスライドグラス等の小型の支持担体上に、核酸プローブを固定したアレイを使用することができる。なお、本システムにおいて、アレイの形状や寸法には何ら限定されず、従来公知のアレイを幅広く適用することできる。また、アレイには、ハウスキーピング遺伝子等のコントロールとなるコントロール・プローブが固定されていても良い。ここで、支持担体としては、核酸プローブを固定化できれば特に限定されず、ガラス板及び樹脂板等を使用することができる。樹脂板としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン及びシリコーン等のプラスティク板、ニトロセルロース及びセルロースアセテート等のセルロース板等を使用することができる。なお、核酸プローブの固定化方法によっては、一主面に表面処理を施した支持担体を使用することもできる。例えば、一主面をポリL-リシンでコーティングしたガラス板を使用することができる。また、支持担体の形状は、板状のものに限定したものではなく、ウェルプレート状の比較的大型、もしくはピコタイタ-プレート状の微細な孔を有するプレートや球状のもの(ビーズ)などがある。
【0043】
さらに、検出対象DNA領域とハイブリする核酸プローブは、DNA量を段階的に変化させた複数のスポットとして固定されていてもよい。例えば、個々の核酸プローブについて、DNA量を1ngとしたスポット、100pgとしたスポット及び10pgとしたスポットというように複数のスポットを形成してもよい。これにより、検出対象DNA領域を半定量することができ、検査対象に存在するアレルゲンについて半定量的な評価が可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
本実施例では、Dermatophagoides farinae(コナヒョウヒダニ)、Dermatophagoides pteronyssinus(ヤケヒョウヒダニ)、Tyrophagus pterescentiae(ケナガコナダニ)の3種のダニを識別できるPCR条件について検討した。
【0046】
本例では、Dermatophagoides pteronyssinus由来のITS1領域をPCRにより増幅するため、特異的なプライマーDP-ITS1F及びDP-ITS1Rを設計した。また、Dermatophagoides pteronyssinus由来のITS2領域をPCRにより増幅するため、特異的なプライマーDP-ITS2F及びDP-ITS2Rを設計した。
【0047】
DP-ITS1F:5'- TTC TTg AgC ATT TAT TTg C -3'(配列番号10)
DP-ITS1R:5'- TTT gTA TCA ATg TTT ATg g -3'(配列番号11)
DP-ITS2F:5'- TAT CAA ATT ATg ACC AAA C -3'(配列番号14)
DP-ITS2R:5'- TAC ATT gAT TTg TCA ACC -3'(配列番号15)
上記プライマーを用いて表1及び2に示す条件でPCRを行った。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
鋳型DNAとしてDermatophagoides farinaeのゲノムDNA、Dermatophagoides pteronyssinusのゲノムDNA又はTyrophagus pterescentiaeのゲノムDNAを使用してそれぞれPCRを行った後、反応液を電気泳動にかけた結果を図1Aに示す。
【0051】
また、本実施例では、Dermatophagoides farinae由来のITS1領域をPCRにより増幅するため、特異的なプライマーDF-ITS1F及びDF-ITS1Rを設計した。また、Tyrophagus pterescentiae由来のITS2領域をPCRにより増幅するため、特異的なプライマーTP-ITS2F及びTP-ITS2Rを設計した。
【0052】
DF-ITS1F:5'- TTg AAC AAT gAA ACA CTT g -3'(配列番号2)
DF-ITS1R:5'- TTg TTT CAA TgA TAC Tgg C -3'(配列番号3)
TP-ITS2F:5'- ATA TgC CAA ACA CCA TgC -3'(配列番号22)
TP-ITS2R:5'- gAA AgT TAA CAA CAA CTg C -3'(配列番号23)
上記プライマーを用いて表3及び4に示す条件でPCRを行った。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
鋳型DNAとしてDermatophagoides farinaeのゲノムDNA、Dermatophagoides pteronyssinusのゲノムDNA又はTyrophagus pterescentiaeのゲノムDNAを使用してそれぞれPCRを行った後、反応液を電気泳動にかけた結果を図1Bに示す。
【0056】
さらに、本実施例では、Dermatophagoides pteronyssinus由来のITS2領域をPCRにより増幅するための、特異的なプライマーDP-ITS2F及びDP-ITS2Rを用いて表5及び6に示す条件でPCRを行った。
【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
鋳型DNAとしてDermatophagoides farinaeのゲノムDNA、Dermatophagoides pteronyssinusのゲノムDNA又はTyrophagus pterescentiaeのゲノムDNAを使用してそれぞれPCRを行った後、反応液を電気泳動にかけた結果を図1Cに示す。
【0060】
以上、図1A〜Cに示したように、本実施例で設計したプライマーは全て特異的にITS領域を増幅することができ、他のダニ類のITS領域等の非特異的な領域を増幅しないことが明らかとなった。
【0061】
〔実施例2〕
本実施例では、検出及び標識対象のダニ類からのゲノムDNAを抽出する方法について検討した。本実施例では、供試ダニとしてアレルゲンの原因ダニとして知られるコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)を用いた。虫体の破砕には、ホモジナイゼーションペッスル(フナコシ株式会社)もしくは乳鉢・乳棒を用いた。Proteinase KはMERCK社の製品を用い、酵素反応は定法に従い0.5% SDSの存在下37℃で1時間行った。全ての手法において最終的にCTAB処理を行い、イソプロパノールにてDNAを沈殿させた。遠心分離を行い、上清を除去した後、10μLの滅菌水に溶解した。そのうち4μLを用いてrDNA ITS領域のPCRにより増幅を行った。
【0062】
本例のPCRでは以下のプライマーセットを使用し、表7及び8に示す条件とした。
Arthro-ITSF:5'- TAg Agg AAg TAA Aag TCG-3'(配列番号60)
Inaect-ITSR:5'- CCT TAg Atg gAg TTT ACC-3'(配列番号61)
【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
PCR終了後アガロースゲルにてPCR産物の電気泳動を行い確認した。上述した処理を表9にまとめた。
【0066】
【表9】

【0067】
PCR産物の電気泳動の結果を図2に示す。Arthro-ITSF及びInaect-ITSRを使用した場合、コナヒョウヒダニのrDNA ITS領域の全長は約1,200bpである。どの手法を用いてもほぼ同量のPCR産物が得られた。今回の条件では50個体からでもPCRが可能な量のDNAを抽出することが可能であった。液体窒素未使用の場合でも満足できるといった結果が得られており、操作を簡便化・迅速化することが可能となった。虫体の粉砕法については、ペッスル、乳鉢・乳棒いずれの場合においても大きな差は見られなかった。また、Proteinase Kを用いた場合でも顕著な差は認められなかった。このことから、通常1時間〜1日といった長時間を要するProteinase K処理は必ずしも必要な処理ではないことが明らかとなった。
【0068】
〔実施例3〕
本実施例では、ダニ遺伝子特異的プライマー又はカビ遺伝子特異的プライマーを使用した、いわゆる1-tube PCRについて検討した。
【0069】
本実施例では、ダニ遺伝子特異的プライマーとして、配列番号56に示す塩基配列からなるプライマー(Acari ITS1)と配列番号57に示す塩基配列からなるプライマー(Acari ITS2 R)を設計した。
Acari ITS1:5'- CAA ggT TTC CgT Agg TgA AC -3' (Tm: 55.4 ℃)(配列番号56)
Acari ITS2 R:5'- gCT TgA TCT gAg gTC gA -3' (Tm: 52.2 ℃)(配列番号57)
【0070】
また、カビ遺伝子特異的プライマーとして、配列番号58に示す塩基配列からなるプライマー(ITS1-F)と配列番号59に示す塩基配列からなるプライマー(FO514)を設計した。
ITS1-F:5'- CTT GGT CAT TTA GAG GAA GTA A -3' (Tm: 53.0 ℃)(配列番号58)
FO514:5'- TAT GCT TAA GTT CAG CGG GTA GTC C -3' (Tm: 60.5 ℃)(配列番号59)
これらプライマーセットにより増幅される領域はITS1~5.8S~ITS2である。
【0071】
また、本実施例では、鋳型DNAとしてpXcmkn12のXcm I部位に標的領域となるITS領域をクローニングしたサブクローン2種(ダニ1種、カビ1種)をそれぞれ最終濃度0.5ng/μlになるように添加した。コントロールにはDNAの代わりに滅菌水を加えたものを用意した。各反応に供したクローンが含む遺伝子供与生物の組み合わせは以下の通り。
1:Alternaria alternata+Dermatophagoides farinae
2:Cladsporium sphaerospermum+Dermatophagoide pteronyssinus
3:Eurotium herbariorum +Tyrophagus putrescentiae
【0072】
本実施例において、1-tube PCR における増幅断片の標識にはDIG ラベルを使用した。本実施例では、表10及び11に示す条件でPCRを行った。
【0073】
【表10】

【0074】
【表11】

【0075】
本実施例で行った1-tube PCRの後、反応液を電気泳動に供した結果を図3に示す。図3に示すように、カビ由来の鋳型DNAとダニ由来の鋳型DNAが共存した場合であっても、それぞれ目的とするDNA断片が増幅されていることが確認された。また、図3に示すように、ダニ遺伝子特異的プライマー(Acari ITS1及びAcari ITS2 R)を使用することによって、複数種のダニおいて所望のDNA断片が増幅されていることが確認された。同様に、カビについても、カビ遺伝子特異的プライマー(ITS1-F及びFO514)を使用することによって、複数種のカビにおいて所望のDNA断片が増幅されていることが確認された。したがって、本実施例で使用したダニ遺伝子特異的プライマー及びカビ遺伝子特異的プライマーは、本発明に係るシステムにおいて検査及び識別対象のダニ類及びカビ類に由来する検査対象DNA領域を増幅するのに使用できることが明らかとなった。これらダニ遺伝子特異的プライマー及びカビ遺伝子特異的プライマーは、複数種類のダニ類及びカビ類に対して使用することができる非常に有用なプライマーであるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象から採取したダニ類由来のゲノムDNA又はmRNAを鋳型とし、以下の(a)、(b)又は(c)に記載のダニ遺伝子特異的プライマーセットを用いて増幅された検出対象DNA領域に対してハイブリダイズ可能である、ダニ類の検出及び識別用核酸プローブ。
(a)配列番号56に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列からなるプライマーとのセット
(b)配列番号56に示す塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマーと配列番号57塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるからなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
(c)配列番号56に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
【請求項2】
上記ダニ類としてDermatophagoides farinae(コナヒョウヒダニ)、Dermatophagoides pteronyssinus(ヤケヒョウヒダニ)又はTyrophagus pterescentiae(ケナガコナダニ)由来の検出対象DNA領域に対してハイブリダイズ可能であることを特徴とする請求項1記載のダニ類の検出及び識別用核酸プローブ。
【請求項3】
上記検出対象DNA領域が配列番号1、5、9、13、17及び21からなる群より選ばれる1の塩基配列からなるDNAであることを特徴とする請求項1記載のダニ類の検出及び識別用核酸プローブ。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項記載の核酸プローブと、前記核酸プローブを固定化した支持担体とを備える、ダニ類の検出及び識別用アレイ。
【請求項5】
検査対象から採取したダニ類のゲノムDNA又はmRNAを鋳型とし、当該ダニ類の検出及び識別を可能とする検出対象DNA領域を増幅することができ、以下の(a)、(b)又は(c)に記載のダニ遺伝子特異的プライマーセット。
(a)配列番号56に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列からなるプライマーとのセット
(b)配列番号56に示す塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマーと配列番号57塩基配列において1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるからなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
(c)配列番号56に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーと配列番号57に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸断片に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる核酸断片からなるプライマーとからなり、上記(a)のプライマーセットと同一の領域を増幅できるプライマーのセット
【請求項6】
上記ダニ類として、少なくともDermatophagoides farinae(コナヒョウヒダニ)、Dermatophagoides pteronyssinus(ヤケヒョウヒダニ)及びTyrophagus pterescentiae(ケナガコナダニ)における上記検出対象DNA領域を増幅することができる請求項5記載のダニ遺伝子特異的プライマーセット。
【請求項7】
検査対象から塵芥を採取する工程と、
採取した塵芥からダニ類及びカビ類を分離し、分離されたダニ類からDNAを抽出する工程と、
抽出したDNAを鋳型とし、請求項5又は6記載のダニ遺伝子特異的プライマーセットを用いて検出対象DNA領域を増幅する工程と、
請求項1乃至3いずれか一項記載の核酸プローブを用いて検出対象DNA領域を検出する工程とを含む、ダニ類の検出及び識別方法。
【請求項8】
検査対象から採取した塵芥から分離したダニ類からDNAを抽出するDNA抽出手段と、
請求項5又は6記載のダニ遺伝子特異的プライマーセットと、
請求項1乃至3いずれか一項記載の核酸プローブを含み、前記ダニ遺伝子特異的プライマーセットにより増幅された検出対象DNA領域を検出する検出手段とを含む、ダニ類の検出及び識別キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−171986(P2009−171986A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114812(P2009−114812)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願2006−24552(P2006−24552)の分割
【原出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】