ハナビラ茸菌核の栽培方法
【課題】大型のハナビラタケの菌核を栽培可能とし、大収量を得られる、ハナビラタケ菌核の栽培方法を提供する。
【解決手段】培地にハナビラタケ種菌を植菌し、ハナビラタケ菌糸が培地に蔓延・熟成させた後に、10lx以上の光照射を行い小型の菌核(子実体原基)を発生させた後に、光照射を抑制することで子実体の形勢を回避して菌核を成長させる。または、小型の菌核(子実体原基)形成後に、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を継続的に2000ppm以上に維持することによって菌核を成長させる。なお、菌核とは菌糸体から分化した菌糸の塊であり、胞子が存在しない点で子実体と区別される。
【解決手段】培地にハナビラタケ種菌を植菌し、ハナビラタケ菌糸が培地に蔓延・熟成させた後に、10lx以上の光照射を行い小型の菌核(子実体原基)を発生させた後に、光照射を抑制することで子実体の形勢を回避して菌核を成長させる。または、小型の菌核(子実体原基)形成後に、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を継続的に2000ppm以上に維持することによって菌核を成長させる。なお、菌核とは菌糸体から分化した菌糸の塊であり、胞子が存在しない点で子実体と区別される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用茸であるハナビラタケの栽培方法に関する。より詳しくは、より大型で多くの収量のハナビラタケ菌核を得ることを可能とする栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの種類の茸類が食用に供されるほか、茸類は薬理作用を有する種を利用して漢方薬の原料とされたり、あるいは、生理活性成分を抽出する原料としても利用されている。様々な用途で利用される茸類の一つとして、ハナビラタケは注目に値する特徴をいくつも備える興味深い茸である。
【0003】
ハナビラタケは、特有の風味・食感、外観の美しさを有するといった理由から食用に適し、特開2004−290159号公報に佃煮の原料としての利用が開示されているなど食材として利用される他、多糖類、特に生理活性を有するとして注目されているβ−グルカン含有量が茸類の中でも際立って多いことから、特開2004−290157号公報に開示されているようにその成分を溶媒で抽出して健康食品等に利用することも行われている。さらに、本願発明者の研究によれば、ハナビラタケは裁断して穀物の粉とともに混練すると麺類をはじめとする穀物の加工食品を好ましく改質できるなど、その応用範囲はきわめて広範である。
【0004】
しかし、ハナビラタケは多湿条件で栽培され、その子実体は花弁状で薄い形態であり、美しい特徴的な外観ではあるものの、表面積が極めて大きいために、子実体の表面に酵母・カビ等に代表される真菌類や細菌類の汚染を発生し易く、栽培を難しくする要因となっている。
【0005】
また、ハナビラタケは成長が遅い茸であり、子実体を得るために長い栽培期間を要するのみならず、菌床の重量あたりに得られる子実体の重量も少ない。このため、製造コストが高くなり、従って人工栽培品であっても高価な茸となってしまう。ハナビラタケを食品利用する場合はいうに及ばず、βグルカンをはじめとする生理活性成分の抽出原料や、増粘安定剤の原料等として利用する場合でも、生産コストは最大の関心事の一つであり、ハナビラタケが高価な茸であることは大きな課題である。
【0006】
本願発明の発明者らは、このような課題を、ハナビラタケの子実体ではなく、菌核を食品として利用することで解決しようと試みており、その内容は特開2009−050192号公報に開示されている。すなわち、花弁状で薄い形態であるハナビラタケの子実体ではなく、これの蕾ともいうべき塊状の菌核を直接食品等として利用しようとする発明である。なお、この発明におけるハナビラタケ等の菌核とは、主に人工栽培によって得られるものであるが、子実体や菌糸体とは全く異なる形態である。これは、菌糸体から分化した菌糸の塊であり胞子が存在しない点で子実体と区別される。さらに、本発明におけるハナビラタケ等の菌核は収穫時、即ち、切断や粉砕などの加工前の体積が100cm3以上のものであり、傘や襞、肢、袋状・貝殻状・花弁状等の子実体に特徴的な構造を持たない。また、菌核から子実体が発生し、菌核と子実体が一体化した形態をとることがあるが、本発明におけるハナビラタケ等の菌核とは、前記菌核が収穫時の全重量(すなわち子実体と菌核の合計重量)の20乃至100重量%を占めるものをいう。
【0007】
より具体的には、一般にハナビラタケは、菌床にハナビラタケ菌種を植菌後、約50日程度の期間で菌糸が成長して菌床に蔓延する。ここで、約10lx以上の光照射を行うと、10日乃至20日程度で子実体原基である菌核が形成される。通常であれば、この後、光照射を継続し、温度や湿度を適当に管理・維持することで、菌核は子実体に形態変化して40日乃至100日程度成長し、ハナビラタケとして収穫されるのであるが、子実体の発生・成長には長期間にわたって温度や湿度を厳格に管理することを要するために多くのコストを要するといった課題があるため、前記発明では子実体発生の前段階である菌核そのものを食品として利用しようとしたものである。なお、以下、菌核を食品として利用する、とは、菌核そのものを直接的に食用とする場合のほか、菌核からβグルカン等の生理活性成分をはじめとする様々な成分を抽出することをも含むものとする。
【0008】
前記の通り、ハナビラタケ等の菌核は養分を蓄えた菌糸の塊であり、子実体のように厚みが薄く面積が広い形状ではなく塊状である。従って、真菌類や細菌類といった雑菌の付着・混入が起こりにくく、栽培時にカビの発生等の事故も起こり難い。加えて、菌核は菌糸から分化した子実体の発生する前段階の形態であり、したがって菌核を収穫するということは、子実体を発生させる工程を経ずに収穫を行うことになる。よって、より無菌的な栽培工程となり、より栽培は容易となる。これについては、実施例の中でより具体的に説明する。また、前記公報中で明らかにされている通り、ハナビラタケ菌核は、ハナビラタケ子実体と極めて近い成分を含有するものであり、ハナビラタケ子実体と同様の利用が可能である。
【0009】
このような優れた特徴を有するハナビラタケ菌核であるが、ハナビラタケは依然として成長が遅く高価な茸であり、ハナビラタケ菌核を利用することとしても、子実体ほどではないにせよ、なお高価であるといわざるを得ない。したがって、より安価により多くのハナビラタケ菌核を収穫可能な栽培方法が求められている。
【0010】
なお、ハナビラタケについてでは無いものの、菌核の栽培に関して、特開2000−092986号公報や特開2006−008645号公報に開示がある。前者に漢方薬原料としてブクリョウの菌核の人工栽培方法が開示されている。しかし、これはハナビラタケ菌核の栽培に直接適用できるものではない。
【特許文献1】特開2004−290159号公報
【特許文献2】特開2004−290157号公報
【特許文献3】特開2009−050192号公報
【特許文献4】特開2006−008645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上説明したとおり、本発明が解決しようとする課題は、より多くの収量を得られるハナビラタケ菌核の栽培方法を提供することである。すなわち、本発明は、より大型のハナビラタケ菌核を栽培可能とし、菌床の重量あたりのハナビラタケ菌核収量を増やすことを可能とするハナビラタケ菌核の栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が2000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0013】
ハナビラタケの子実体ではなく、その発生前段階であるハナビラタケ菌核を直接利用することで、製造コストの問題や雑菌・カビ等の汚染の危険は相当程度低減されることはすでに説明したとおりである。しかし、ハナビラタケ菌核は、通常、比較的小さな組織であり、菌床当たりの収量が少ないため、栽培の技術的難度が低下したとしても依然として高価な食材とならざるを得ない。
【0014】
ところが、本願発明の発明者の研究によれば、菌核発生後の栽培環境の二酸化炭素濃度を2000ppm以上とすれば、菌核から子実体への形態変化に不全を発生することが判明している。すなわち、菌核の形態のままで成長が継続し、最終的に巨大な菌核を収穫することが可能となるのである。子実体を成長させる場合には、花びら状のハナビラタケ子実体が成長できるように十分な空間を確保しなければならず、また、湿度管理や雑菌・害虫の汚染対策に万全を期さなければならないが、塊状の菌核を成長させる場合にはその成長に比較的小さな空間があれば足り、子実体形成の場合のような厳密な湿度管理を要さない。また、密閉状態で栽培を継続できることから、雑菌・害虫の汚染の懸念もほとんど無い。さらに、このとき、同じ体積の菌床から最終的に収穫できる菌核の重量は、子実体の場合と比較して大きい。従って、安価により多くの収量を確保できる。
【0015】
また、菌核発生後に栽培環境の二酸化炭素濃度が低下すると、菌核が子実体に分化してしまう危険があるので、少なくとも菌核発生後は継続的に二酸化炭素の濃度が2000ppm以上に維持されることが好ましい。例えば、菌核発生後に、栽培雰囲気中の二酸化炭素の濃度を2000ppm以上に高めた後は、その後菌核が成長して収穫される直前までこの濃度を維持すると良い。
【0016】
もっとも、菌核発生後といっても栽培環境の二酸化炭素濃度が2000ppm未満に低下すると、瞬間的に菌核が子実体に分化するというものでは無い。従って、本発明は、菌核発生後に例えば数時間から1日程度、栽培環境の二酸化炭素濃度が2000ppm未満に低下する期間が発生することを妨げるものでは無い。しかし、これがさらに長期間継続したり、このような事態が過度に繰り返されてはならない。具体的には、ある部屋において菌床に菌核を発生させた後に、菌床を菌核を成長させる専用の部屋に移動するような場合、この移動の間に菌床がさらされる空気の二酸化炭素濃度が2000ppm未満になるような事態は、本発明にとってなんら問題になるものでは無い。
【0017】
なお、菌床に菌核を発生させるには、菌床に光照射を行うことができる。具体的には、菌子体が菌床に成長・蔓延した状態で10lx以上の照度の光照射を数日乃至20日行うことで菌核が発生する。ただし、菌核の発生方法はこれに限らず、任意の方法を用いることが可能である。
【0018】
(2)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が4000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、(1)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0019】
本願発明者の研究によれば、ハナビラタケ菌核は栽培環境の二酸化炭素濃度が2000ppm以上に維持されれば、子実体への形態変化に不全を発生し、菌核のまま成長が継続して最終的に巨大な菌核が得られるのであるが、この現象は、栽培環境の二酸化炭素濃度がさらに高くなり、4000ppm以上となっても不都合なく発生することが明らかになっている。
【0020】
栽培環境の二酸化炭素濃度をこのように高く設定しておけば、栽培容器に軽微な損傷(例えば、いわゆるピンホール等)が存在しても、依然として栽培環境の二酸化炭素濃度が必要十分に高く保たれ、菌核が子実体に分化してしまうという事故が防止される。また、茸栽培には通常はガスバリア性が比較的良好なポリプロピレン製の栽培瓶や栽培袋が使用されるが、特に薄いフィルムからなる栽培袋ではこのような事故が発生し易い他、ガス透過性も問題となるが、二酸化炭素濃度を4000ppm以上となるように管理する場合には、実質的にこのような問題は発生しなくなる。
【0021】
(3)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床を、
少なくとも菌核発生後は、通気を制限した状態とする
ことを特徴とする、(1)または(2)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0022】
すでに説明したとおり、本発明においては、ハナビラタケ種菌を植菌し、菌糸を成長・蔓延させた菌床に菌核を発生させた後に、栽培環境の二酸化炭素濃度を高く維持することで、菌核の子実体への形態変化に不全を発生させ、菌核を巨大に成長させる。ここで、二酸化炭素濃度を高く維持する方法は任意の方法をとり得る。例えば、市販の二酸化炭素ボンベからレギュレータを介して適量の二酸化炭素を栽培環境に導入してもよい。
【0023】
しかし、本発明においては塊状の菌核を栽培することが目的であって、花びら状の子実体を得ることが目的では無いので、栽培空間は子実体栽培の場合と比較して大幅に小さくできる。また、子実体の栽培の場合のように、厳密な湿度管理も必要ない。この為、栽培容器を実質的に密閉した状態で維持することで、栽培しているハナビラタケの菌糸の呼吸等に伴って発生する二酸化炭素によって、栽培雰囲気の二酸化炭素を必要な濃度まで高めることが可能である。
【0024】
実際には、栽培容器に詰めた菌床に種菌を植菌して密閉した段階では、当然ながら栽培雰囲気の二酸化炭素濃度は大気の二酸化炭素濃度にほぼ等しく、概ね380ppm程度と考えられる。この後、菌床に菌子体が成長・蔓延するに伴って、密閉された栽培容器内の二酸化炭素濃度は上昇する。そして、栽培容器の大きさや菌床の量を適切に選択すれば、菌核の発生時には栽培容器内の二酸化炭素を5000ppm以上といった高濃度にすることが可能である。
【0025】
このような設定をしたとしても、通常のハナビラタケ子実体の栽培時には、この後、厳密な湿度管理を行うために通気を行う。また、特に栽培容器として栽培瓶を使用する際には、子実体が十分に成長できる空間を確保するために栽培瓶を開放する。この為、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度は速やかに大気のそれに近づくのであるが、本発明においては、栽培容器を密閉したまま維持することが可能であり、その為、適切な栽培容器と菌床の量の選択によって、菌核発生後の二酸化炭素濃度を菌子体の呼吸に伴って発生する二酸化炭素濃度によって適正なものとすることができるのである。
【0026】
このような方法によれば、栽培容器と菌床の量の適切な設定値を見出すことは必要であるが、一端条件を見出した後は、実質的にコストを要さずにハナビラタケ菌核の栽培を達成することができるという顕著な効果が得られる。また、同時に、栽培容器に外部から雑菌や害虫を導入する懸念も皆無となり、より衛生的で安定したハナビラタケの菌核の栽培が達成できるという効果も得られる。
【0027】
(4)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0028】
菌核発生後に、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を高く維持することで、菌核の子実体への形態変化に不全を発生させ、巨大な菌核を栽培できることはすでに説明したとおりであるが、本願発明の発明者はさらに、菌核発生後に光照射を制限することによっても菌核から子実体への形態変化に不全を発生させることができることを見出している。このことを利用しても、菌核の形態のままで成長を継続させ、最終的に巨大な菌核を収穫することが可能となるのである。当然に、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を高く維持する場合と同様、子実体の代わりに菌核を収穫することによる利点を享受することができる。
【0029】
より具体的には、菌核発生後も、菌床に対して平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップの後に、該菌核への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップを適用する。なお、第2のステップは事実上光が全く無い状態(0lx)であっても支障は無く、技術的・経済的に容易且つ有利であるので、通常はこのようにするとよい。この第1のステップと第2のステップを含む工程は、継続的に反復適用することでよりその効果は顕著となる。このような工程によって、菌核を速い成長速度で巨大化させることが出来る理由は必ずしも明らかではないものの、第1のステップにおける光照射が菌核の発生を促するとともに、第2のステップで光照射を制限されることによって菌核から子実体への形態変化が抑制され、これら工程が反復することで、菌核が巨大化するものと想像される。
【0030】
なお、ここで平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップとは、本質的にはハナビラタケの菌糸(菌床に成長したものに加え菌核も含む)に対して十分な光刺激を与える工程であるから、必ずしも光照射が完全に連続的に継続しなければならないということではない。例えば、より強い光を断続的に照射したとしても、平均的に10lx以上となる光照射が1時間以上行われているのであれば、本発明の要請は満たされる。
【0031】
逆に、光照射を平均5lx未満に制限する第2のステップとは、ハナビラタケの菌核に対して子実体への分化を促する光刺激を与えない工程であるから、一瞬なりとも光が当たってはならないということではない。従って、栽培状況の確認等の為に、人間が菌床を目視可能程度に明るい環境に短時間さらされたとしても、このことが直ちに本発明の障害となるものではない。あくまでも、平均的に5lx未満に光照射が制限される期間が4時間以上継続するのであれば、本発明の要請は満たされる。
【0032】
また、光照射を行う際の光源は、本質的には自然光源(日光)、人工光源を問わないが、光照射の強度や時間の管理が容易である点で人工光源を用いることが好ましい。この理由として、天候に左右されない点はもちろん、実際の栽培時に株間での光照射の強度のばらつきが発生しにくいことなどをあげることができる。また、人工光源としては事実上任意のものが利用可能で、いわゆるフィラメントランプや蛍光灯、発光ダイオードなどが利用できるが、ハナビラタケ栽培では比較的厳格な温度管理が必要であることや、消費電力が小さくさらに寿命も長いために経済的であることなどから、冷光でありかつ発光効率の高い蛍光灯や発光ダイオードを利用することが好ましい。
【0033】
(5)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする(1)乃至(3)に記載の、ハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0034】
前記の通り、菌床中に菌糸が成長・蔓延した後に、菌床に対して平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップを含むハナビラタケ菌核の栽培方法とするか、または、少なくとも菌核発生後は、栽培雰囲気中の二酸化炭素濃度を2000ppm以上となる状態を含むハナビラタケ菌核の栽培方法とすることで、通常は小さな菌核を巨大に成長させることが出来る。本発明は、これら2つの栽培方法を組み合わせたものであり、仮に一方の条件が事故等で損なわれたとしても、ハナビラタケ菌核が子実体に分化することなく、安定して巨大な菌核を栽培できるという効果が得られる。
【0035】
つまり、菌床に平均10lxl以上の照度の光照射を行ったとしても、栽培施設や、時には菌核自体の影等が原因となって、菌床表面全体に一様の照度の光照射を行うことは容易ではない。しかし、菌床中に菌糸が成長・蔓延した後に、菌核を発生させるために光照射は必ず必要であり、不足してしまうと菌核が発生しない。一方で、光照射を過剰に行えば菌核は子実体に分化してしまう危険がある。ところが、近年ではさまざまな機器が動作状態を示すために発光源を備えることが多く、また、栽培施設に非常口の誘導灯を設置したい場合もあり、栽培中のすべての菌床に対して一様に一定照度未満に光照射を制限することは困難な場合がある。さらに、栽培環境の二酸化炭素濃度についても、例えば、栽培容器の軽度な欠陥(典型的にはピンホール)やガス透過による意図しない空気の流入や漏れによって部分的に所望の条件を満足しない場合が起こり得る。
【0036】
しかし、光照射を制限する方法であっても、栽培雰囲気中の二酸化炭素の濃度を高く維持する方法であっても、最終的に菌核を巨大に成長させることが出来る点ではその効果は共通しており、その一方が満たされておれば目的は達成される。そこで、光照射に関する条件と、栽培雰囲気中の二酸化炭素濃度に関する条件を、基本的にはいずれも満たす状態で栽培を行うことで、仮に一方の条件が満たされない菌床が発生したとしても、結果としては、ハナビラタケ菌核が子実体に分化することなく、安定して巨大な菌核を栽培できることが本発明の利点である。
【発明の効果】
【0037】
以上説明した通り、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、次のような効果を得られる。
【0038】
(1)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が2000ppm以上となる状態に維持される期間を含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、ハナビラタケ菌核が子実体に形態変化することが抑制されたまま成長を続け、巨大な菌核として収穫することができる。これにより、ハナビラタケ子実体を成長させる場合のような厳密な湿度管理が不要となり、また、成長に必要な空間もより狭くてよい。さらに、密閉状態で栽培を継続できることから雑菌・害虫の汚染の懸念もほとんど無い。しかも、ハナビラタケ菌核は、ハナビラタケ子実体よりも同重量の菌床あたりに得られる収量が多く、総合的に、より安価にハナビラタケの可食部が栽培可能になるという顕著な効果が得られる。
【0039】
(2)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が4000ppm以上となる状態に維持される期間を含むことを特徴とする、(1)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、栽培容器に軽微な損傷が存在しても、なお、菌核から子実体への形態変化が抑制される。これにより、安価な栽培袋を使用しても、より確実にハナビラタケ菌核を栽培することが可能となる。
【0040】
(3)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床を、少なくとも菌核発生後は、通気を制限した状態とすることを特徴とする、(2)または(3)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、積極的に二酸化炭素を栽培容器に供給することなく、栽培環境の二酸化炭素濃度を所望の濃度に高めることが可能となり、より低いコストでハナビラタケ菌核を栽培することが可能となる。さらに、栽培容器に外部から雑菌や害虫を導入する懸念も皆無となり、雑菌・害虫の汚染の無い、より衛生的なハナビラタケ菌核が得られるという顕著な効果が得られる。
【0041】
(4)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップとを含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、ハナビラタケ菌核が子実体に形態変化することが抑制されたまま成長を続け、巨大な菌核として収穫することができ、(1)または(3)の場合と同様の効果が得られる。
【0042】
(5)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップとを含むことを特徴とする、(1)乃至(3)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、菌床への光照射条件や栽培雰囲気の二酸化炭素濃度条件が事故等で満たされない場合が発生した場合であっても、いずれか一方の条件が満足される限り、ハナビラタケ菌核が子実体に形態変化することが抑制されたまま成長を続ける。これにより、多少の事故にも関わらず安定した品質のハナビラタケ菌核を栽培できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法を実施例によって詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
茸栽培用のポリプロピレン製栽培瓶(内容量850cc)及び、茸栽培用のポリプロピレン製栽培袋(内容量2000cc)に各種栄養素を添加したおが粉を充填後高温殺菌し、ハナビラタケ菌種を植菌して菌床を作成した。さらに、これらの口を閉じて、50日程度一定温度で培養し、菌子体を栽培容器内に成長・蔓延させた。この時点で、菌床はほぼ全体が菌子体によって白色になっていることが観察された。
【0045】
次に、数日乃至20日程度の期間にわたって、栽培容器に10lxの照度の光照射を実施したところ、菌床表面に菌核の発生が観察された。なお、栽培容器として栽培瓶を使用した場合は、栽培瓶内に空間がほとんど無いためにこのまま成長を継続させることは事実上不可能であるので、栽培瓶の口を開いて通気を確保し、湿度・温度を調整して子実体の生育を行った。これにより、最終的に、植菌後4ヶ月程度の期間で、ハナビラタケ子実体を約60g収穫することができた。
【0046】
また、栽培容器として茸栽培袋を使用した例においても、比較のために子実体の生育を行った。この例でも、菌核発生後に栽培袋の口を開いて通気を確保し、湿度・温度を調整して子実体の生育を行い、最終的に、植菌後6ヶ月程度の期間で、ハナビラタケ子実体を約210g収穫することが出来た。
【0047】
一方、栽培容器として茸栽培袋を使用した例では、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法を適用したハナビラタケ菌核の栽培も実施した。すなわち、菌核発生後も栽培袋を密閉して通気を制限し、収穫直前まで継続的に栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を4000ppm以上に維持した。
【0048】
さらに、この栽培容器に1日間、照度10lxの光照射を実施し、つづけて暗黒条件に3日間放置することを繰り返した。これにより、菌子体の更なる菌核への形態変化と、発生した菌核の成長が観察された。
【0049】
このように本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、植菌後10ヶ月程度も成長が継続し、最終的に、ハナビラタケ菌核を約540g収穫することが出来た。
【0050】
なお、下に示すグラフは栽培期間を通じての栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を測定した結果である。栽培容器をほぼ密閉して栽培しているため、菌子体の成長時の菌子体の呼吸によると思われる二酸化炭素濃度の上昇が約40日目まで見られ、この時点で二酸化炭素濃度が5000ppm以上に達している。この後、10日程度、栽培容器に10lxの照度の光照射を実施して菌核を発生させ、その後は、菌核を成長させているのであるが、この間も栽培容器をほぼ密閉しているので、収穫直前まで栽培雰囲気の二酸化炭素濃度は4000ppm以上に継続して維持されていることが明らかである。なお、栽培日数が60日を経過したころより徐々に二酸化炭素濃度が低下しているが、これは栽培容器の微小な漏れによるものと想像される。
【表1】
【0051】
以上の結果を整理すると、下表の通りである。栽培瓶を用いた茸栽培は、栽培瓶が丈夫で取り扱いが簡単なため、自動化に適しているという特徴を有するものの、栽培瓶が比較的高価であるほか、850ccの菌床に対して約60gのハナビラタケ子実体が収穫できたに過ぎない。より安価な栽培袋を用いた場合には、2000ccの菌床に対して約210gのハナビラタケ子実体が収穫できており、かなりの改善が見られる。しかし、本願発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、2000ccの菌床に対してなんと約540gものハナビラタケ菌核が収穫できており、飛躍的に大量のハナビラタケ可食部が得られていることが示されている。
【表2】
【0052】
また、こうして得られたハナビラタケ菌核は、熱殺菌された菌床に無菌下でハナビラタケの種菌を植菌したのちに、収穫直前まで密閉状態で栽培するという、より衛生的なものであるから、雑菌の汚染がほとんど発生しないことが期待される。実際、ハナビラタケの菌核及びハナビラタケの子実体について、一般生菌数及び真菌類の検査をした結果を下表に示す。ハナビラタケの菌核に付着している雑菌類は子実体に付着している雑菌類として圧倒的に少ないことが検査結果にはっきりとあらわれている。
【表3】
【0053】
以上では、菌核発生後も栽培袋を密閉して二酸化炭素濃度を高く維持すると共に、1日間照度10lxの光照射を実施し、つづけて暗黒条件に3日間放置することを繰り返した。しかし、これらの一方のみ、すなわち、菌核発生後も栽培袋を密閉して二酸化炭素濃度を高く維持するのみであっても、あるいは、1日間照度10lxの光照射を実施し、つづけて暗黒条件に3日間放置することを繰り返すのみでも、多少、菌核の成長速度に違いが発生する程度であり、最終的にほぼ同様の収量のハナビラタケ菌核が得られることが分かっており、栽培を行う者がその判断で適宜栽培工程の設計を行うことができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したとおり、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、無菌性の高く衛生的な菌核が得られ、しかも同量の菌床からより多くの収量が得られる。また、栽培自体も、栽培容器の密閉を維持する、又は、所望の時間に限って光照射を行うなど、特殊な設備をほとんど用いずに実施することが出来るという特徴を有する。このような特徴により、本発明は安価なハナビラタケ可食部を得ることが出来る、産業上極めて有用なものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用茸であるハナビラタケの栽培方法に関する。より詳しくは、より大型で多くの収量のハナビラタケ菌核を得ることを可能とする栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの種類の茸類が食用に供されるほか、茸類は薬理作用を有する種を利用して漢方薬の原料とされたり、あるいは、生理活性成分を抽出する原料としても利用されている。様々な用途で利用される茸類の一つとして、ハナビラタケは注目に値する特徴をいくつも備える興味深い茸である。
【0003】
ハナビラタケは、特有の風味・食感、外観の美しさを有するといった理由から食用に適し、特開2004−290159号公報に佃煮の原料としての利用が開示されているなど食材として利用される他、多糖類、特に生理活性を有するとして注目されているβ−グルカン含有量が茸類の中でも際立って多いことから、特開2004−290157号公報に開示されているようにその成分を溶媒で抽出して健康食品等に利用することも行われている。さらに、本願発明者の研究によれば、ハナビラタケは裁断して穀物の粉とともに混練すると麺類をはじめとする穀物の加工食品を好ましく改質できるなど、その応用範囲はきわめて広範である。
【0004】
しかし、ハナビラタケは多湿条件で栽培され、その子実体は花弁状で薄い形態であり、美しい特徴的な外観ではあるものの、表面積が極めて大きいために、子実体の表面に酵母・カビ等に代表される真菌類や細菌類の汚染を発生し易く、栽培を難しくする要因となっている。
【0005】
また、ハナビラタケは成長が遅い茸であり、子実体を得るために長い栽培期間を要するのみならず、菌床の重量あたりに得られる子実体の重量も少ない。このため、製造コストが高くなり、従って人工栽培品であっても高価な茸となってしまう。ハナビラタケを食品利用する場合はいうに及ばず、βグルカンをはじめとする生理活性成分の抽出原料や、増粘安定剤の原料等として利用する場合でも、生産コストは最大の関心事の一つであり、ハナビラタケが高価な茸であることは大きな課題である。
【0006】
本願発明の発明者らは、このような課題を、ハナビラタケの子実体ではなく、菌核を食品として利用することで解決しようと試みており、その内容は特開2009−050192号公報に開示されている。すなわち、花弁状で薄い形態であるハナビラタケの子実体ではなく、これの蕾ともいうべき塊状の菌核を直接食品等として利用しようとする発明である。なお、この発明におけるハナビラタケ等の菌核とは、主に人工栽培によって得られるものであるが、子実体や菌糸体とは全く異なる形態である。これは、菌糸体から分化した菌糸の塊であり胞子が存在しない点で子実体と区別される。さらに、本発明におけるハナビラタケ等の菌核は収穫時、即ち、切断や粉砕などの加工前の体積が100cm3以上のものであり、傘や襞、肢、袋状・貝殻状・花弁状等の子実体に特徴的な構造を持たない。また、菌核から子実体が発生し、菌核と子実体が一体化した形態をとることがあるが、本発明におけるハナビラタケ等の菌核とは、前記菌核が収穫時の全重量(すなわち子実体と菌核の合計重量)の20乃至100重量%を占めるものをいう。
【0007】
より具体的には、一般にハナビラタケは、菌床にハナビラタケ菌種を植菌後、約50日程度の期間で菌糸が成長して菌床に蔓延する。ここで、約10lx以上の光照射を行うと、10日乃至20日程度で子実体原基である菌核が形成される。通常であれば、この後、光照射を継続し、温度や湿度を適当に管理・維持することで、菌核は子実体に形態変化して40日乃至100日程度成長し、ハナビラタケとして収穫されるのであるが、子実体の発生・成長には長期間にわたって温度や湿度を厳格に管理することを要するために多くのコストを要するといった課題があるため、前記発明では子実体発生の前段階である菌核そのものを食品として利用しようとしたものである。なお、以下、菌核を食品として利用する、とは、菌核そのものを直接的に食用とする場合のほか、菌核からβグルカン等の生理活性成分をはじめとする様々な成分を抽出することをも含むものとする。
【0008】
前記の通り、ハナビラタケ等の菌核は養分を蓄えた菌糸の塊であり、子実体のように厚みが薄く面積が広い形状ではなく塊状である。従って、真菌類や細菌類といった雑菌の付着・混入が起こりにくく、栽培時にカビの発生等の事故も起こり難い。加えて、菌核は菌糸から分化した子実体の発生する前段階の形態であり、したがって菌核を収穫するということは、子実体を発生させる工程を経ずに収穫を行うことになる。よって、より無菌的な栽培工程となり、より栽培は容易となる。これについては、実施例の中でより具体的に説明する。また、前記公報中で明らかにされている通り、ハナビラタケ菌核は、ハナビラタケ子実体と極めて近い成分を含有するものであり、ハナビラタケ子実体と同様の利用が可能である。
【0009】
このような優れた特徴を有するハナビラタケ菌核であるが、ハナビラタケは依然として成長が遅く高価な茸であり、ハナビラタケ菌核を利用することとしても、子実体ほどではないにせよ、なお高価であるといわざるを得ない。したがって、より安価により多くのハナビラタケ菌核を収穫可能な栽培方法が求められている。
【0010】
なお、ハナビラタケについてでは無いものの、菌核の栽培に関して、特開2000−092986号公報や特開2006−008645号公報に開示がある。前者に漢方薬原料としてブクリョウの菌核の人工栽培方法が開示されている。しかし、これはハナビラタケ菌核の栽培に直接適用できるものではない。
【特許文献1】特開2004−290159号公報
【特許文献2】特開2004−290157号公報
【特許文献3】特開2009−050192号公報
【特許文献4】特開2006−008645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上説明したとおり、本発明が解決しようとする課題は、より多くの収量を得られるハナビラタケ菌核の栽培方法を提供することである。すなわち、本発明は、より大型のハナビラタケ菌核を栽培可能とし、菌床の重量あたりのハナビラタケ菌核収量を増やすことを可能とするハナビラタケ菌核の栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が2000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0013】
ハナビラタケの子実体ではなく、その発生前段階であるハナビラタケ菌核を直接利用することで、製造コストの問題や雑菌・カビ等の汚染の危険は相当程度低減されることはすでに説明したとおりである。しかし、ハナビラタケ菌核は、通常、比較的小さな組織であり、菌床当たりの収量が少ないため、栽培の技術的難度が低下したとしても依然として高価な食材とならざるを得ない。
【0014】
ところが、本願発明の発明者の研究によれば、菌核発生後の栽培環境の二酸化炭素濃度を2000ppm以上とすれば、菌核から子実体への形態変化に不全を発生することが判明している。すなわち、菌核の形態のままで成長が継続し、最終的に巨大な菌核を収穫することが可能となるのである。子実体を成長させる場合には、花びら状のハナビラタケ子実体が成長できるように十分な空間を確保しなければならず、また、湿度管理や雑菌・害虫の汚染対策に万全を期さなければならないが、塊状の菌核を成長させる場合にはその成長に比較的小さな空間があれば足り、子実体形成の場合のような厳密な湿度管理を要さない。また、密閉状態で栽培を継続できることから、雑菌・害虫の汚染の懸念もほとんど無い。さらに、このとき、同じ体積の菌床から最終的に収穫できる菌核の重量は、子実体の場合と比較して大きい。従って、安価により多くの収量を確保できる。
【0015】
また、菌核発生後に栽培環境の二酸化炭素濃度が低下すると、菌核が子実体に分化してしまう危険があるので、少なくとも菌核発生後は継続的に二酸化炭素の濃度が2000ppm以上に維持されることが好ましい。例えば、菌核発生後に、栽培雰囲気中の二酸化炭素の濃度を2000ppm以上に高めた後は、その後菌核が成長して収穫される直前までこの濃度を維持すると良い。
【0016】
もっとも、菌核発生後といっても栽培環境の二酸化炭素濃度が2000ppm未満に低下すると、瞬間的に菌核が子実体に分化するというものでは無い。従って、本発明は、菌核発生後に例えば数時間から1日程度、栽培環境の二酸化炭素濃度が2000ppm未満に低下する期間が発生することを妨げるものでは無い。しかし、これがさらに長期間継続したり、このような事態が過度に繰り返されてはならない。具体的には、ある部屋において菌床に菌核を発生させた後に、菌床を菌核を成長させる専用の部屋に移動するような場合、この移動の間に菌床がさらされる空気の二酸化炭素濃度が2000ppm未満になるような事態は、本発明にとってなんら問題になるものでは無い。
【0017】
なお、菌床に菌核を発生させるには、菌床に光照射を行うことができる。具体的には、菌子体が菌床に成長・蔓延した状態で10lx以上の照度の光照射を数日乃至20日行うことで菌核が発生する。ただし、菌核の発生方法はこれに限らず、任意の方法を用いることが可能である。
【0018】
(2)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が4000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、(1)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0019】
本願発明者の研究によれば、ハナビラタケ菌核は栽培環境の二酸化炭素濃度が2000ppm以上に維持されれば、子実体への形態変化に不全を発生し、菌核のまま成長が継続して最終的に巨大な菌核が得られるのであるが、この現象は、栽培環境の二酸化炭素濃度がさらに高くなり、4000ppm以上となっても不都合なく発生することが明らかになっている。
【0020】
栽培環境の二酸化炭素濃度をこのように高く設定しておけば、栽培容器に軽微な損傷(例えば、いわゆるピンホール等)が存在しても、依然として栽培環境の二酸化炭素濃度が必要十分に高く保たれ、菌核が子実体に分化してしまうという事故が防止される。また、茸栽培には通常はガスバリア性が比較的良好なポリプロピレン製の栽培瓶や栽培袋が使用されるが、特に薄いフィルムからなる栽培袋ではこのような事故が発生し易い他、ガス透過性も問題となるが、二酸化炭素濃度を4000ppm以上となるように管理する場合には、実質的にこのような問題は発生しなくなる。
【0021】
(3)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床を、
少なくとも菌核発生後は、通気を制限した状態とする
ことを特徴とする、(1)または(2)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0022】
すでに説明したとおり、本発明においては、ハナビラタケ種菌を植菌し、菌糸を成長・蔓延させた菌床に菌核を発生させた後に、栽培環境の二酸化炭素濃度を高く維持することで、菌核の子実体への形態変化に不全を発生させ、菌核を巨大に成長させる。ここで、二酸化炭素濃度を高く維持する方法は任意の方法をとり得る。例えば、市販の二酸化炭素ボンベからレギュレータを介して適量の二酸化炭素を栽培環境に導入してもよい。
【0023】
しかし、本発明においては塊状の菌核を栽培することが目的であって、花びら状の子実体を得ることが目的では無いので、栽培空間は子実体栽培の場合と比較して大幅に小さくできる。また、子実体の栽培の場合のように、厳密な湿度管理も必要ない。この為、栽培容器を実質的に密閉した状態で維持することで、栽培しているハナビラタケの菌糸の呼吸等に伴って発生する二酸化炭素によって、栽培雰囲気の二酸化炭素を必要な濃度まで高めることが可能である。
【0024】
実際には、栽培容器に詰めた菌床に種菌を植菌して密閉した段階では、当然ながら栽培雰囲気の二酸化炭素濃度は大気の二酸化炭素濃度にほぼ等しく、概ね380ppm程度と考えられる。この後、菌床に菌子体が成長・蔓延するに伴って、密閉された栽培容器内の二酸化炭素濃度は上昇する。そして、栽培容器の大きさや菌床の量を適切に選択すれば、菌核の発生時には栽培容器内の二酸化炭素を5000ppm以上といった高濃度にすることが可能である。
【0025】
このような設定をしたとしても、通常のハナビラタケ子実体の栽培時には、この後、厳密な湿度管理を行うために通気を行う。また、特に栽培容器として栽培瓶を使用する際には、子実体が十分に成長できる空間を確保するために栽培瓶を開放する。この為、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度は速やかに大気のそれに近づくのであるが、本発明においては、栽培容器を密閉したまま維持することが可能であり、その為、適切な栽培容器と菌床の量の選択によって、菌核発生後の二酸化炭素濃度を菌子体の呼吸に伴って発生する二酸化炭素濃度によって適正なものとすることができるのである。
【0026】
このような方法によれば、栽培容器と菌床の量の適切な設定値を見出すことは必要であるが、一端条件を見出した後は、実質的にコストを要さずにハナビラタケ菌核の栽培を達成することができるという顕著な効果が得られる。また、同時に、栽培容器に外部から雑菌や害虫を導入する懸念も皆無となり、より衛生的で安定したハナビラタケの菌核の栽培が達成できるという効果も得られる。
【0027】
(4)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0028】
菌核発生後に、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を高く維持することで、菌核の子実体への形態変化に不全を発生させ、巨大な菌核を栽培できることはすでに説明したとおりであるが、本願発明の発明者はさらに、菌核発生後に光照射を制限することによっても菌核から子実体への形態変化に不全を発生させることができることを見出している。このことを利用しても、菌核の形態のままで成長を継続させ、最終的に巨大な菌核を収穫することが可能となるのである。当然に、栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を高く維持する場合と同様、子実体の代わりに菌核を収穫することによる利点を享受することができる。
【0029】
より具体的には、菌核発生後も、菌床に対して平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップの後に、該菌核への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップを適用する。なお、第2のステップは事実上光が全く無い状態(0lx)であっても支障は無く、技術的・経済的に容易且つ有利であるので、通常はこのようにするとよい。この第1のステップと第2のステップを含む工程は、継続的に反復適用することでよりその効果は顕著となる。このような工程によって、菌核を速い成長速度で巨大化させることが出来る理由は必ずしも明らかではないものの、第1のステップにおける光照射が菌核の発生を促するとともに、第2のステップで光照射を制限されることによって菌核から子実体への形態変化が抑制され、これら工程が反復することで、菌核が巨大化するものと想像される。
【0030】
なお、ここで平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップとは、本質的にはハナビラタケの菌糸(菌床に成長したものに加え菌核も含む)に対して十分な光刺激を与える工程であるから、必ずしも光照射が完全に連続的に継続しなければならないということではない。例えば、より強い光を断続的に照射したとしても、平均的に10lx以上となる光照射が1時間以上行われているのであれば、本発明の要請は満たされる。
【0031】
逆に、光照射を平均5lx未満に制限する第2のステップとは、ハナビラタケの菌核に対して子実体への分化を促する光刺激を与えない工程であるから、一瞬なりとも光が当たってはならないということではない。従って、栽培状況の確認等の為に、人間が菌床を目視可能程度に明るい環境に短時間さらされたとしても、このことが直ちに本発明の障害となるものではない。あくまでも、平均的に5lx未満に光照射が制限される期間が4時間以上継続するのであれば、本発明の要請は満たされる。
【0032】
また、光照射を行う際の光源は、本質的には自然光源(日光)、人工光源を問わないが、光照射の強度や時間の管理が容易である点で人工光源を用いることが好ましい。この理由として、天候に左右されない点はもちろん、実際の栽培時に株間での光照射の強度のばらつきが発生しにくいことなどをあげることができる。また、人工光源としては事実上任意のものが利用可能で、いわゆるフィラメントランプや蛍光灯、発光ダイオードなどが利用できるが、ハナビラタケ栽培では比較的厳格な温度管理が必要であることや、消費電力が小さくさらに寿命も長いために経済的であることなどから、冷光でありかつ発光効率の高い蛍光灯や発光ダイオードを利用することが好ましい。
【0033】
(5)以上説明した課題を解決するため、本発明は、ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする(1)乃至(3)に記載の、ハナビラタケ菌核の栽培方法としている。
【0034】
前記の通り、菌床中に菌糸が成長・蔓延した後に、菌床に対して平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップを含むハナビラタケ菌核の栽培方法とするか、または、少なくとも菌核発生後は、栽培雰囲気中の二酸化炭素濃度を2000ppm以上となる状態を含むハナビラタケ菌核の栽培方法とすることで、通常は小さな菌核を巨大に成長させることが出来る。本発明は、これら2つの栽培方法を組み合わせたものであり、仮に一方の条件が事故等で損なわれたとしても、ハナビラタケ菌核が子実体に分化することなく、安定して巨大な菌核を栽培できるという効果が得られる。
【0035】
つまり、菌床に平均10lxl以上の照度の光照射を行ったとしても、栽培施設や、時には菌核自体の影等が原因となって、菌床表面全体に一様の照度の光照射を行うことは容易ではない。しかし、菌床中に菌糸が成長・蔓延した後に、菌核を発生させるために光照射は必ず必要であり、不足してしまうと菌核が発生しない。一方で、光照射を過剰に行えば菌核は子実体に分化してしまう危険がある。ところが、近年ではさまざまな機器が動作状態を示すために発光源を備えることが多く、また、栽培施設に非常口の誘導灯を設置したい場合もあり、栽培中のすべての菌床に対して一様に一定照度未満に光照射を制限することは困難な場合がある。さらに、栽培環境の二酸化炭素濃度についても、例えば、栽培容器の軽度な欠陥(典型的にはピンホール)やガス透過による意図しない空気の流入や漏れによって部分的に所望の条件を満足しない場合が起こり得る。
【0036】
しかし、光照射を制限する方法であっても、栽培雰囲気中の二酸化炭素の濃度を高く維持する方法であっても、最終的に菌核を巨大に成長させることが出来る点ではその効果は共通しており、その一方が満たされておれば目的は達成される。そこで、光照射に関する条件と、栽培雰囲気中の二酸化炭素濃度に関する条件を、基本的にはいずれも満たす状態で栽培を行うことで、仮に一方の条件が満たされない菌床が発生したとしても、結果としては、ハナビラタケ菌核が子実体に分化することなく、安定して巨大な菌核を栽培できることが本発明の利点である。
【発明の効果】
【0037】
以上説明した通り、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、次のような効果を得られる。
【0038】
(1)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が2000ppm以上となる状態に維持される期間を含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、ハナビラタケ菌核が子実体に形態変化することが抑制されたまま成長を続け、巨大な菌核として収穫することができる。これにより、ハナビラタケ子実体を成長させる場合のような厳密な湿度管理が不要となり、また、成長に必要な空間もより狭くてよい。さらに、密閉状態で栽培を継続できることから雑菌・害虫の汚染の懸念もほとんど無い。しかも、ハナビラタケ菌核は、ハナビラタケ子実体よりも同重量の菌床あたりに得られる収量が多く、総合的に、より安価にハナビラタケの可食部が栽培可能になるという顕著な効果が得られる。
【0039】
(2)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が4000ppm以上となる状態に維持される期間を含むことを特徴とする、(1)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、栽培容器に軽微な損傷が存在しても、なお、菌核から子実体への形態変化が抑制される。これにより、安価な栽培袋を使用しても、より確実にハナビラタケ菌核を栽培することが可能となる。
【0040】
(3)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床を、少なくとも菌核発生後は、通気を制限した状態とすることを特徴とする、(2)または(3)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、積極的に二酸化炭素を栽培容器に供給することなく、栽培環境の二酸化炭素濃度を所望の濃度に高めることが可能となり、より低いコストでハナビラタケ菌核を栽培することが可能となる。さらに、栽培容器に外部から雑菌や害虫を導入する懸念も皆無となり、雑菌・害虫の汚染の無い、より衛生的なハナビラタケ菌核が得られるという顕著な効果が得られる。
【0041】
(4)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップとを含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、ハナビラタケ菌核が子実体に形態変化することが抑制されたまま成長を続け、巨大な菌核として収穫することができ、(1)または(3)の場合と同様の効果が得られる。
【0042】
(5)ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップとを含むことを特徴とする、(1)乃至(3)に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法としたので、菌床への光照射条件や栽培雰囲気の二酸化炭素濃度条件が事故等で満たされない場合が発生した場合であっても、いずれか一方の条件が満足される限り、ハナビラタケ菌核が子実体に形態変化することが抑制されたまま成長を続ける。これにより、多少の事故にも関わらず安定した品質のハナビラタケ菌核を栽培できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法を実施例によって詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
茸栽培用のポリプロピレン製栽培瓶(内容量850cc)及び、茸栽培用のポリプロピレン製栽培袋(内容量2000cc)に各種栄養素を添加したおが粉を充填後高温殺菌し、ハナビラタケ菌種を植菌して菌床を作成した。さらに、これらの口を閉じて、50日程度一定温度で培養し、菌子体を栽培容器内に成長・蔓延させた。この時点で、菌床はほぼ全体が菌子体によって白色になっていることが観察された。
【0045】
次に、数日乃至20日程度の期間にわたって、栽培容器に10lxの照度の光照射を実施したところ、菌床表面に菌核の発生が観察された。なお、栽培容器として栽培瓶を使用した場合は、栽培瓶内に空間がほとんど無いためにこのまま成長を継続させることは事実上不可能であるので、栽培瓶の口を開いて通気を確保し、湿度・温度を調整して子実体の生育を行った。これにより、最終的に、植菌後4ヶ月程度の期間で、ハナビラタケ子実体を約60g収穫することができた。
【0046】
また、栽培容器として茸栽培袋を使用した例においても、比較のために子実体の生育を行った。この例でも、菌核発生後に栽培袋の口を開いて通気を確保し、湿度・温度を調整して子実体の生育を行い、最終的に、植菌後6ヶ月程度の期間で、ハナビラタケ子実体を約210g収穫することが出来た。
【0047】
一方、栽培容器として茸栽培袋を使用した例では、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法を適用したハナビラタケ菌核の栽培も実施した。すなわち、菌核発生後も栽培袋を密閉して通気を制限し、収穫直前まで継続的に栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を4000ppm以上に維持した。
【0048】
さらに、この栽培容器に1日間、照度10lxの光照射を実施し、つづけて暗黒条件に3日間放置することを繰り返した。これにより、菌子体の更なる菌核への形態変化と、発生した菌核の成長が観察された。
【0049】
このように本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、植菌後10ヶ月程度も成長が継続し、最終的に、ハナビラタケ菌核を約540g収穫することが出来た。
【0050】
なお、下に示すグラフは栽培期間を通じての栽培雰囲気の二酸化炭素濃度を測定した結果である。栽培容器をほぼ密閉して栽培しているため、菌子体の成長時の菌子体の呼吸によると思われる二酸化炭素濃度の上昇が約40日目まで見られ、この時点で二酸化炭素濃度が5000ppm以上に達している。この後、10日程度、栽培容器に10lxの照度の光照射を実施して菌核を発生させ、その後は、菌核を成長させているのであるが、この間も栽培容器をほぼ密閉しているので、収穫直前まで栽培雰囲気の二酸化炭素濃度は4000ppm以上に継続して維持されていることが明らかである。なお、栽培日数が60日を経過したころより徐々に二酸化炭素濃度が低下しているが、これは栽培容器の微小な漏れによるものと想像される。
【表1】
【0051】
以上の結果を整理すると、下表の通りである。栽培瓶を用いた茸栽培は、栽培瓶が丈夫で取り扱いが簡単なため、自動化に適しているという特徴を有するものの、栽培瓶が比較的高価であるほか、850ccの菌床に対して約60gのハナビラタケ子実体が収穫できたに過ぎない。より安価な栽培袋を用いた場合には、2000ccの菌床に対して約210gのハナビラタケ子実体が収穫できており、かなりの改善が見られる。しかし、本願発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、2000ccの菌床に対してなんと約540gものハナビラタケ菌核が収穫できており、飛躍的に大量のハナビラタケ可食部が得られていることが示されている。
【表2】
【0052】
また、こうして得られたハナビラタケ菌核は、熱殺菌された菌床に無菌下でハナビラタケの種菌を植菌したのちに、収穫直前まで密閉状態で栽培するという、より衛生的なものであるから、雑菌の汚染がほとんど発生しないことが期待される。実際、ハナビラタケの菌核及びハナビラタケの子実体について、一般生菌数及び真菌類の検査をした結果を下表に示す。ハナビラタケの菌核に付着している雑菌類は子実体に付着している雑菌類として圧倒的に少ないことが検査結果にはっきりとあらわれている。
【表3】
【0053】
以上では、菌核発生後も栽培袋を密閉して二酸化炭素濃度を高く維持すると共に、1日間照度10lxの光照射を実施し、つづけて暗黒条件に3日間放置することを繰り返した。しかし、これらの一方のみ、すなわち、菌核発生後も栽培袋を密閉して二酸化炭素濃度を高く維持するのみであっても、あるいは、1日間照度10lxの光照射を実施し、つづけて暗黒条件に3日間放置することを繰り返すのみでも、多少、菌核の成長速度に違いが発生する程度であり、最終的にほぼ同様の収量のハナビラタケ菌核が得られることが分かっており、栽培を行う者がその判断で適宜栽培工程の設計を行うことができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したとおり、本発明に係るハナビラタケ菌核の栽培方法によれば、無菌性の高く衛生的な菌核が得られ、しかも同量の菌床からより多くの収量が得られる。また、栽培自体も、栽培容器の密閉を維持する、又は、所望の時間に限って光照射を行うなど、特殊な設備をほとんど用いずに実施することが出来るという特徴を有する。このような特徴により、本発明は安価なハナビラタケ可食部を得ることが出来る、産業上極めて有用なものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が2000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項2】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が4000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、請求項1に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項3】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床を、
少なくとも菌核発生後は、通気を制限した状態とする
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項4】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項5】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の、ハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項1】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が2000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項2】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床が、
少なくとも菌核発生後は二酸化炭素濃度が4000ppm以上となる状態に維持される期間を含む
ことを特徴とする、請求項1に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項3】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床を、
少なくとも菌核発生後は、通気を制限した状態とする
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項4】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする、ハナビラタケ菌核の栽培方法。
【請求項5】
ハナビラタケ菌種が植菌された菌床に、
平均10lx以上の光照射を1時間以上行う第1のステップと、
該菌床への光照射を平均5lx未満に制限して4時間以上放置する第2のステップと、
を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の、ハナビラタケ菌核の栽培方法。
【公開番号】特開2011−160759(P2011−160759A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29594(P2010−29594)
【出願日】平成22年2月14日(2010.2.14)
【出願人】(307029098)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月14日(2010.2.14)
【出願人】(307029098)
【Fターム(参考)】
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