説明

ハニカムフィルタ

【課題】チタン酸アルミニウムからなるハニカムフィルタであって、低い熱膨張係数を有し、気孔率が高く、かつ高強度で、耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタを得る。
【解決手段】チタン酸アルミニウムからなるハニカムフィルタであって、アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3以上である柱状チタン酸アルミニウムと、アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3未満である粒状チタン酸アルミニウムとを、柱状チタン酸アルミニウム:粒状チタン酸アルミニウムの重量比で、95:5〜60:40の範囲内の割合となるように混合して用い、粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さいことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウムからなるハニカムフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウムは、低熱膨張性で耐熱衝撃性に優れ、かつ融点が高いため、自動車の排ガス処理用触媒担体や、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等に用いられる多孔質材料として期待され、種々の開発が行われている。
【0003】
特許文献1においては、チタン酸アルミニウムが有する高融点、低熱膨張性を損なうことなく、高強度を有し、繰り返しの熱履歴に対して機械的強度の劣化が少ないチタン酸アルミニウム焼結体を得るため、チタン酸アルミニウムに、酸化マグネシウム及び酸化ケイ素を添加したものを焼結することが提案されている。
【0004】
特許文献2においては、柱状チタン酸アルミニウムを用いて排ガスフィルタを製造することが開示されており、柱状粒子の長手方向が負の熱膨張係数であるとき長手方向と垂直な方向が正の熱膨張係数であるか、あるいは柱状粒子の長手方向が正の熱膨張係数であるとき長手方向と垂直な方向が負の熱膨張係数である排ガスフィルタを製造することが提案されている。
【0005】
しかしながら、柱状チタン酸アルミニウムの具体的な製造方法については開示されていない。また、柱状チタン酸アルミニウムと粒状チタン酸アルミニウムを混合して用いることについても開示されていない。
【0006】
チタン酸アルミニウムからなるハニカムフィルタにおいては、上述のように、低い熱膨張係数を有し、かつ高強度で、繰り返しの熱履歴に対して機械的強度の劣化が少ないことが求められると共に、高い気孔率が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−249657号公報
【特許文献2】特開平9−29023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低い熱膨張係数を有し、気孔率が高く、かつ高強度で耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、チタン酸アルミニウムからなるハニカムフィルタであって、アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3以上である柱状チタン酸アルミニウムと、アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3未満である粒状チタン酸アルミニウムとを、柱状チタン酸アルミニウム:粒状チタン酸アルミニウムの重量比で、95:5〜60:40の範囲内の割合となるように混合して用い、粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さいことを特徴としている。
【0010】
本発明においては、上述のように、柱状チタン酸アルミニウムと粒状チタン酸アルミニウムとを上記の割合で混合して用い、粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さいことを特徴としている。これにより、低い熱膨張係数を有し、気孔率が高く、かつ高強度で、耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタとすることができる。
【0011】
柱状チタン酸アルミニウムは、押出成形により成形する際、柱状形状の長手方向が押出方向に平行に揃うように配列する。このため、低い熱膨張係数を有するC軸が配向し、押出方向におけるハニカムフィルタの熱膨張係数を低くすることができる。
【0012】
また、柱状チタン酸アルミニウムは、アスペクト比が大きいため、柱状チタン酸アルミニウム粒子同士が重なりやすくなり、高強度化することができる。また、アスペクト比が大きいため、気孔率を高めることができる。
【0013】
しかしながら、柱状チタン酸アルミニウムを用いたハニカムフィルタは、押出方向に対して垂直な方向における熱膨張率が大きいため、押出方向と、押出方向に対して垂直な方向とにおいて、大きな熱膨張率の差を生じる。その結果、ハニカムフィルタとして強度は高いが、耐熱衝撃性に劣る。
【0014】
本発明においては、柱状チタン酸アルミニウムと、粒状チタン酸アルミニウムとを、上記の所定の範囲内の割合となるように混合して用いている。柱状チタン酸アルミニウムと粒状チタン酸アルミニウムを混合して用いることにより、柱状チタン酸アルミニウム粒子の間に粒状チタン酸アルミニウム粒子を配置することができ、押出方向に対して垂直な方向における熱膨張係数を低くすることができる。このため、押出方向における熱膨張係数と、これに垂直な方向における熱膨張係数との差を小さくすることができ、耐熱衝撃性を高めることができる。
【0015】
また、粒状チタン酸アルミニウムを混合することにより、ハニカムフィルタにおけるチタン酸アルミニウムの構造を緻密化することができ、気孔率が高く、かつ強度が高いハニカムフィルタとすることができる。
【0016】
粒状チタン酸アルミニウムの混合割合が少ないと、耐熱衝撃性及び強度が向上するという効果が十分に得られない。また、粒状チタン酸アルミニウムの混合割合が多すぎると、気孔率が減少すると共に、強度が低くなり、耐熱衝撃性も低下する。
【0017】
本発明において、粒状チタン酸アルミニウムは、その個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さいものが用いられる。これにより、気孔率及び強度が高く、耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタとすることができる。粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径より大きくなると、柱状チタン酸アルミニウム同士の重なりが減少し、強度が低下すると共に、焼結が進行しにくくなり、押出方向に対して垂直な方向における熱膨張係数の低減が十分にできなくなり、耐熱衝撃性が低下する。
【0018】
本発明における柱状チタン酸アルミニウムは、チタン源、アルミニウム源、及びマグネシウム源を含む原料をメカノケミカルに粉砕しながら混合し、粉砕した混合物を焼成することにより製造することができる。
【0019】
マグネシウム源を、チタン源及びアルミニウム源の合計に対しそれぞれの酸化物換算で、0.5〜2.0重量%の範囲内となるように混合した原料を用いることが好ましい。マグネシウム源の混合割合をこのような範囲内とすることにより、平均アスペクト比が1.3以上である柱状チタン酸アルミニウムが得られやすくなる。
【0020】
粉砕混合物を焼成する温度としては、1300〜1600℃の範囲内の温度であることが好ましい。このような温度範囲内で焼成することにより、本発明の柱状チタン酸アルミニウムをより効率的に製造することができる。
【0021】
焼成時間は、特に限定されるものではないが、0.5時間〜20時間の範囲内で行うことが好ましい。
【0022】
メカノケミカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕が挙げられる。振動ミルによる粉砕処理を行うことにより、混合粉体の摩砕による剪断応力によって、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時に起こり、異種粒子の接点部分の原子移動が起こる結果、準安定相が得られると考えられる。これにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られ、この反応活性の高い粉砕混合物を焼成することにより、上記本発明の柱状チタン酸アルミニウムを製造することができる。
【0023】
本発明におけるメカノケミカルな粉砕は、一般に、水や溶剤を用いない乾式処理として行われる。
【0024】
メカノケミカルな粉砕による混合処理の時間は特に限定されるものではないが、一般には0.1時間〜6時間の範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明において用いる原料には、チタン源、アルミニウム源、及びマグネシウム源が含まれる。チタン源としては、酸化チタンを含有する化合物を用いることができ、具体的には、酸化チタン、ルチル鉱石、水酸化チタンウェットケーキ、含水チタニアなどが挙げられる。
【0026】
アルミニウム源としては、加熱により酸化アルミニウムを生じる化合物を用いることができ、具体的には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に酸化アルミニウムが好ましく用いられる。
【0027】
チタン源とアルミニウム源の混合割合としては、Ti:Al=1:2(モル比)の割合を基本とするが、それぞれ±10%程度であれば変化させても支障はない。
【0028】
マグネシウム源としては、加熱により酸化マグネシウムを生じる化合物を用いることができ、具体的には、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムが好ましく用いられる。
【0029】
また、原料中にケイ素源がさらに含まれていても良い。
【0030】
ケイ素源が含有させることにより、チタン酸アルミニウムの分解を抑制することができ、高温安定性に優れた柱状チタン酸アルミニウムを製造することができる。
【0031】
ケイ素源としては、酸化ケイ素、ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、特に酸化ケイ素が好ましく用いられる。ケイ素源の原料中における含有量は、チタン源及びアルミニウム源の合計に対してそれぞれの酸化物換算で、0.5〜10重量%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内とすることにより、柱状チタン酸アルミニウムをより安定して製造することができる。
【0032】
本発明の粒状チタン酸アルミニウムは、例えば、従来から公知の製造方法により製造することができる。また、チタン源、アルミニウム源、及びマグネシウム源を含む原料をメカノケミカルに粉砕しながら混合し、粉砕した混合物を焼成することによっても製造することができる。この場合、マグネシウム源の混合割合は、チタン源及びアルミニウム源の合計に対してそれぞれの酸化物換算で、2.0重量%より多くなるように混合することが好ましい。また、原料をメカノケミカルに粉砕せずに混合することによっても、粒状チタン酸アルミニウムを製造することができる。
【0033】
粒状チタン酸アルミニウムを製造する場合のアルミニウム源及びシリカ源の混合割合は、柱状チタン酸アルミニウムを製造する場合と同様の割合とすることができる。
【0034】
本発明におけるチタン酸アルミニウムのアスペクト比は、上述のように個数平均長軸径/個数平均短軸径の比から求められる値である。個数平均長軸径及び個数平均短軸径は、例えば、フロー式粒子像分析装置により測定することができる。
【0035】
本発明における柱状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径は、7〜17μmの範囲内であることが好ましく、個数平均短軸径は、5〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0036】
また、粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径は、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましく、個数平均短軸径は、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
上述のように、粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径は、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さくなるように、粒状チタン酸アルミニウム及び柱状チタン酸アルミニウムが選ばれる。
【0038】
本発明における柱状チタン酸アルミニウムのアスペクト比は、好ましくは1.3〜5.0の範囲内であり、さらに好ましくは1.3〜2.5の範囲内であり、さらに好ましくは1.3〜2.0の範囲内である。
【0039】
本発明における粒状チタン酸アルミニウムのアスペクト比は、1.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.1〜1.0の範囲内である。
【0040】
本発明のハニカムフィルタは、柱状チタン酸アルミと粒状チタン酸アルミとを上述のようにして混合して用いることにより、押出方向に対して垂直な方向における30〜800℃の間の熱膨張係数を低くすることができ、押出方向の熱膨張係数と、これに垂直な方向における熱膨張係数の差を小さくすることができ、耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタとすることができる。
【0041】
本発明のハニカムフィルタは、押出成形により成形された成形体を焼成することよって得られるハニカムフィルタであり、押出方向に対して垂直な方向における30〜800℃の間の熱膨張係数が、2.0×10−6/℃以下であることを特徴としている。
【0042】
押出方向に対して垂直な方向における熱膨張係数は、さらに好ましくは、0.0〜1.5×10−6/℃の範囲である。
【0043】
また、本発明のハニカムフィルタの押出方向における30〜800℃の間の熱膨張係数は、0.0×10−6/℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは−2.0〜0.0×10−6/℃の範囲である。
【0044】
本発明のハニカムフィルタは、柱状チタン酸アルミニウム及び粒状チタン酸アルミニウムの混合物に、例えば、造孔剤、バインダー、分散剤、及び水を添加した混合組成物を作製し、これを、例えば押出成形機を用いてハニカム構造体となるように成形し、セルの開口が市松模様となるように片側の目封止を行った後、乾燥して得られた成形体を焼成して製造することができる。焼成温度としては、例えば、1400〜1600℃が挙げられる。
【0045】
造孔剤としては、黒鉛、グラファイト、木粉、ポリエチレンが挙げられる。また、バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコールが挙げられる。分散剤としては、脂肪酸石鹸、エチレングリコールが挙げられる。造孔剤、バインダー、分散剤、及び水の量は適宜調整することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、低い熱膨張係数を有し、気孔率が高く、かつ高強度で、耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に従う実施例において用いられた柱状チタン酸アルミニウムを示す走査型電子顕微鏡写真。
【図2】本発明に従う実施例において用いられた粒状チタン酸アルミニウムを示す走査型電子顕微鏡写真。
【図3】ハニカム焼結体を示す斜視図。
【図4】ハニカム焼結体から切り出した測定サンプルを示す斜視図。
【図5】ハニカム焼結体の曲げ強度の測定方法を説明するための模式図。
【図6】ハニカム焼結体から切り出した測定サンプルを示す斜視図。
【図7】ハニカム焼結体を示す斜視図。
【図8】ハニカム焼結体から切り出した押出面のX線回折を測定するための測定サンプルを示す斜視図。
【図9】本発明に従う実施例で得られた柱状チタン酸アルミニウムのX線回折チャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を具体的な実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔柱状チタン酸アルミニウムの製造方法〕
(製造例1)
酸化チタン360.0g、酸化アルミニウム411.1g、水酸化マグネシウム9.7g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0050】
以上のようにして得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。得られた生成物について、X線回折にて結晶相を同定したところ、AlTiOであった。
【0051】
また、得られた生成物について走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認した。また、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。表1に組成、形状、個数平均長軸径、個数平均短軸径、及びアスペクト比を示す。
【0052】
図1は、本製造例で得られた柱状チタン酸アルミニウムを示すSEM写真である。
【0053】
図9は、本製造例において得られた柱状チタン酸アルミニウムのX線回折チャートを示す図である。
【0054】
(製造例2)
酸化チタン354.7g、酸化アルミニウム405.0g、水酸化マグネシウム21.3g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0055】
以上のようにして得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。得られた生成物は、X線回折にて結晶相を同定したところ、AlTiOであった。
【0056】
また、得られた生成物について走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認した。また、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。表1に組成、形状、個数平均長軸径、個数平均短軸径、及びアスペクト比を示す。
【0057】
〔粒状チタン酸アルミニウムの製造〕
(製造例3)
酸化チタン340.1g、酸化アルミニウム388.3g、水酸化マグネシウム52.6g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0058】
以上のようにして得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。得られた生成物は、X線回折にて結晶相を同定したところ、AlTiOであった。
【0059】
また、得られた生成物について走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認した。また、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。表1に組成、形状、個数平均長軸径、個数平均短軸径、及びアスペクト比を示す。
【0060】
図2は、本製造例で得られた粒状チタン酸アルミニウムを示すSEM写真である。
【0061】
(製造例4)
酸化チタン340.1g、酸化アルミニウム388.3g、水酸化マグネシウム52.6g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0062】
以上のようにして得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。更に、生成物を自動乳鉢にて12時間粉砕して粒径を調整した。
得られた生成物は、X線回折にて結晶相を同定したところ、AlTiOであった。
【0063】
また、得られた生成物について走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認した。また、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。表1に組成、形状、個数平均長軸径、個数平均短軸径、及びアスペクト比を示す。
【0064】
(製造例5)
酸化チタン340.1g、酸化アルミニウム388.3g、水酸化マグネシウム52.6g、及び酸化ケイ素19.0gを振動ミルにて粉砕しながら、2.0時間混合した。
【0065】
以上のようにして得られた粉砕混合粉500gをルツボに充填し、電気炉にて1500℃で4時間焼成した。更に、生成物を自動乳鉢にて100時間粉砕して粒径調整を行った。得られた生成物は、X線回折にて結晶相を同定したところ、AlTiOであった。
【0066】
また、得られた生成物について走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を確認した。また、フロー式粒子像分析にてアスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)を測定した。表1に組成、形状、個数平均長軸径、個数平均短軸径、及びアスペクト比を示す。
【0067】
製造例1〜5で得られたチタン酸アルミニウムの組成、形状、長軸径(個数平均長軸径)、短軸径(個数平均短軸径)、アスペクト比を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、製造例1及び2で得られたチタン酸アルミニウムは、アスペクト比が1.3以上の柱状チタン酸アルミニウムである。また、製造例3〜5により得られたチタン酸アルミニウムは、アスペクト比が1.3未満の粒状チタン酸アルミニウムである。
【0070】
〔ハニカム焼結体の製造〕
表2に示すように、実施例1〜9及び比較例6〜8については、ベース材のチタン酸アルミニウムと、添加材のチタン酸アルミニウムを混合して用い、ハニカム焼結体を製造した。実施例1〜9においては、製造例1または2の柱状チタン酸アルミニウムをベース材とし、製造例4または5の粒状チタン酸アルミニウムを添加材として用いた。
【0071】
比較例6〜8においては、製造例1または2の柱状チタン酸アルミニウムをベース材として用い、製造例3〜5のいずれかの粒状チタン酸アルミニウムを添加材として用いた。
【0072】
比較例1〜5においては、ベース材のみを用い、ベース材として製造例1〜2の柱状チタン酸アルミニウムまたは製造例3〜5の粒状チタン酸アルミニウムを用いた。
【0073】
ベース材と添加材の混合比は、表2に示す通りである。
【0074】
上記のチタン酸アルミニウムを用いて、以下のようにしてハニカム焼結体を製造した。
【0075】
チタン酸アルミニウム100重量部に対し、黒鉛20重量部、メチルセルロース10重量部、脂肪酸石鹸0.5重量部を配合し、さらに水を適当量添加して混練し、押出成形可能な坏土を得た。
【0076】
得られた坏土を押出成形機にてハニカム構造体となるように押し出して成形し、次に熱風乾燥機で乾燥した後、得られた成形体を1600℃で焼成し、ハニカム焼結体を得た。
【0077】
〔ハニカム焼結体の評価〕
得られた各ハニカム焼結体について気孔率、曲げ強度、熱膨張係数、結晶配向度、及び耐熱衝撃温度を以下のようにして測定した。
【0078】
(気孔率)
図3は、ハニカム焼結体を示す斜視図である。図3に示すように、ハニカム焼結体1は、8×8セルを有し、端面1aは、縦1.8cm、横1.8cmの大きさを有している。矢印Aは、押出方向を示しており、矢印Bは押出方向Aに対し垂直な方向を示している。
【0079】
気孔率は、上記の8×8セルのハニカム焼結体1の中心部2から、2×2セルに相当する部分を、押出方向Aに沿う長さが2cm程度となるように切り出し、測定サンプルとした。
【0080】
図4は、測定サンプル3を示す斜視図である。図4に示す測定サンプル3を用い、JIS R1634に準拠して気孔率を測定した。
【0081】
(曲げ強度)
図5に示すように、上記の8×8セルのハニカム焼結体1を、支持点11及び12に支持した状態で、焼結体1の中心部を押圧棒10で押圧することにより、JIS R1601に準拠して、曲げ強度を測定した。
【0082】
(熱膨張係数)
図3及び図4を参照して説明した、気孔率の測定サンプル3と同様にして、8×8セルのハニカム焼結体1の中心部2から、押出方向Aに沿う長さが2cm程度となるように切り出し、測定サンプル3とした。図6に示すように、測定サンプル3の押出方向Aにおける線膨張係数を、JIS R1618に準拠して測定した。同様に、押出方向Aと垂直な方向Bに沿う長さが2cm程度となるようにハニカム焼結体1の中心部2から測定サンプルを切り出し、この測定サンプルの垂直な方向Bにおける熱膨張係数を測定した。
【0083】
(結晶配向度)
結晶配向度は、ハニカム焼結体の押出面のX線回折を測定し、(002)面の回折ピーク強度(=I(002))及び(230)面の回折ピーク強度(=I(230))より、以下の式により算出した。
【0084】
結晶配向度=I(002)/{I(002)+I(230)}
なお、(002)面の回折強度は、2θ=50.8°付近に現れるピークであり、(230)面の回折ピークは、2θ=33.7°付近に現れるピークである。
【0085】
図7及び図8は、押出面のX線回折を測定するための測定サンプルの作製を示す斜視図である。
【0086】
図7に示すように、ハニカム焼結体1の端面1aを含む領域4を切り取り、図8に示す測定サンプルを作製した。図8に示す測定サンプル5を用い、この測定サンプル5の押出面5aのX線回折を測定した。
【0087】
なお、(002)面はC軸に垂直な面であり、(002)面の強度が高いということは、C軸が配向していることを意味する。
【0088】
(耐熱衝撃温度)
得られた各ハニカム焼結体を、所定温度にて電気炉内で30分間保持した後、水中へ導入し、ひび割れが生じない最高温度を耐熱衝撃温度とした。
【0089】
なお、加熱する所定温度は500℃〜1200℃の範囲内の50℃毎の温度とした。
【0090】
以上のようにして測定した結果を、表2に示した。
【0091】
【表2】

【0092】
表2に示すように、本発明に従う実施例1〜9のハニカム焼結体(ハニカムフィルタ)は、高い気孔率を維持したままで、垂直方向における熱膨張係数を低くすることができ、かつ焼結体の強度を向上させることができる。このため、高い耐熱衝撃温度を得ることができ、耐熱衝撃性に優れていることがわかる。
【0093】
本発明に従うことにより、ハニカム構造体を押出成形する際、押出方向に配向した柱状チタン酸アルミニウム粒子と造孔剤との間に粒状チタン酸アルミニウム粒子が配置され、これによって結晶配向性を損なうことなく、垂直方向における線熱膨張係数を小さくすることができるものと思われる。または、粒状チタン酸アルミニウムを柱状チタン酸アルミニウムと混合することにより、ハニカム焼結体が緻密化し、高い強度が得られるものと思われる。
【0094】
柱状チタン酸アルミニウムを用いた比較例1及び2においては、高い強度及び高い気孔率が得られているが、垂直方向における熱膨張係数が大きくなっており、押出方向と、それに垂直な方向における熱膨張係数の差が大きくなるため、耐熱衝撃温度が低くなっている。
【0095】
粒状チタン酸アルミニウムを用いた比較例3〜5においては、押出方向と、それに垂直な方向における熱膨張係数の差が小さくなっているが、ハニカム焼結体の強度が非常に低いため、耐熱衝撃温度が低くなっている。また、チタン酸アルミニウムの粒子径が小さいほど、焼結の進行により熱膨張係数が小さくなっているが、同時に気孔率も減少するため、適切な焼結体が得られないことがわかる。
【0096】
比較例6及び7においては、粒状チタン酸アルミニウムの添加量が多いため、柱状チタン酸アルミニウム粒子同士の重なりが減少して、強度が低下すると共に、気孔率が低くなっている。
【0097】
粒状チタン酸アルミニウムの長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの短軸径よりも大きい比較例8においては、柱状チタン酸アルミニウムの配向が、粒状チタン酸アルミニウムにより妨げられるため、柱状チタン酸アルミニウム粒子同士の重なりが減少する。このため、強度が低くなっている。また、焼結性が悪いため、押出方向と垂直な方向における熱膨張係数が高くなっている。
【0098】
以上のように、本発明に従い、柱状チタン酸アルミニウム:粒状チタン酸アルミニウムの重量比で、95:5〜60:40の範囲内の割合となるように、柱状チタン酸アルミニウムと粒状チタン酸アルミニウムを混合して用い、かつ粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さくなるように設定することにより、低い熱膨張係数を有し、気孔率が高く、かつ高強度で、耐熱衝撃性に優れたハニカムフィルタを得ることができる。
【符号の説明】
【0099】
1…ハニカム焼結体(ハニカムフィルタ)
1a…ハニカム焼結体の端面
2…ハニカム焼結体の中心部
3…ハニカム焼結体から切り出した測定サンプル
4…ハニカム焼結体の端面近傍の領域
5…ハニカム焼結体の押出面をX線回折測定するためのサンプル
5a…押出面
6…ハニカム焼結体の8×2セルの領域
7…ハニカム焼結体の垂直面をX線回折測定するためのサンプル
7a…垂直面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸アルミニウムからなるハニカムフィルタであって、
アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3以上である柱状チタン酸アルミニウムと、アスペクト比(=個数平均長軸径/個数平均短軸径)が1.3未満である粒状チタン酸アルミニウムとを、柱状チタン酸アルミニウム:粒状チタン酸アルミニウムの重量比で、95:5〜60:40の範囲内の割合となるように混合して用い、
粒状チタン酸アルミニウムの個数平均長軸径が、柱状チタン酸アルミニウムの個数平均短軸径よりも小さいことを特徴とするハニカムフィルタ。
【請求項2】
押出成形により成形された成形体を焼成することによって得られるハニカムフィルタであり、押出方向に対して垂直な方向における30〜800℃の間の熱膨張係数が、2.0×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のハニカムフィルタ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−6285(P2011−6285A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151089(P2009−151089)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】