説明

ハニカム構造体の製造方法

【課題】気孔率の高い捕集層が、隔壁表面に配設されたハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材を備えるとともに、流体の流入側の端面における所定のセルの開口部及び流体の流出側の端面における残余のセルの開口部に目封止部を備える目封止ハニカム基材の、流入側の端面から残余のセル内に、セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子を流入させて、混合粒子を、目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程と、残余のセル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱して、造孔材を焼失させて隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る工程とを有するハニカム構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関し、更に詳しくは、気孔率の高い捕集層が、隔壁表面に配設されたハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関や各種の燃焼装置等から排出されるガスには、煤(soot)を主体とする粒子状物質(パティキュレートマター(PM))が、多量に含まれている。このPMがそのまま大気中に放出されると、環境汚染を引き起こすため、排出ガスの排気系には、PMを捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が搭載されている。
【0003】
このようなDPFとしては、例えば、「流体(排ガス、浄化ガス)の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを備え、流体(排ガス)の流入側の端面における所定のセルの開口部と、流体(浄化ガス)の流出側の端面における残余のセルの開口部に目封止部を有する」ハニカム構造体が用いられている。
【0004】
このようなハニカム構造体を用いて排ガス中のPMを捕集しようとすると、PMが多孔質の隔壁の内部に侵入して、隔壁の細孔を閉塞させ、圧力損失(圧損)が急激に増加することがあるという問題があった。
【0005】
このような圧損増加を抑制するため、隔壁の表面に、PMを捕集するための捕集層を設け、その捕集層によって、隔壁内部へのPMの侵入を防ぎ、圧損の上昇を抑制しようとするハニカム構造体が提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−249124号公報
【特許文献2】特開2006−685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1,2に開示された製造方法では、気孔率の高い捕集層を形成することが、必ずしも容易ではなかった。
【0008】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、「気孔率の高い捕集層」が隔壁表面に配設されたハニカム構造体を製造することができるハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材を備えるとともに、流体の流入側の端面における所定の前記セルの開口部及び流体の流出側の端面における残余の前記セルの開口部に目封止部を備える目封止ハニカム基材の、前記流入側の端面から前記残余のセル内に、セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子を流入させて、前記混合粒子を、前記目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程と、前記残余のセル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱して、前記造孔材を焼失させて前記隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る工程とを有するハニカム構造体の製造方法。
【0010】
[2] 前記残余のセル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱したときに、前記造孔材を焼失させるとともに前記セラミック粒子同士を結合させて前記隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0011】
[3] 前記混合粒子を含む気体を、前記流入側の端面から前記残余のセル内に流入させることにより、前記混合粒子を、前記流入側の端面から前記残余のセル内に流入させる[1]又は[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0012】
[4] 前記造孔材のメジアン平均粒子径が、0.002〜10μmである[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0013】
[5] 前記セラミック粒子の前記メジアン平均粒子径が、0.5〜15μmである[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0014】
[6] 前記造孔材のメジアン平均粒子径を前記セラミック粒子のメジアン平均粒子径で除した値が、0.001〜3である[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[7] 得られる前記ハニカム構造体の前記捕集層の気孔率が、80〜95%である[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、目封止ハニカム基材の流入側の端面から、残余のセル(流入セル)内に、「セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子」を流入させて、当該混合粒子を、目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程と、「流入セル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材」を加熱して、造孔材を焼失させて隔壁表面に捕集層を形成する工程とを有するため、気孔率80〜95%という高気孔率の捕集層を備えたハニカム構造体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製されるハニカム成形体を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製されるハニカム成形体の断面を示す模式図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製される目封止ハニカム基材を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製される目封止ハニカム基材の断面を示す模式図である。
【図5】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、目封止ハニカム基材に混合粒子を流入させる方法を説明するための模式図である。
【図6】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製される「混合粒子が付着した目封止ハニカム基材」の断面を示す模式図である。
【図7】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態によって作製されたハニカム構造体の断面を示す模式図である。
【図8】従来のハニカム構造体の製造方法の一実施形態によって作製されたハニカム構造体の断面の一部を示す模式図である。
【図9】実施例1において、目封止ハニカム基材に混合粒子を流入させる方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
1.ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態は、「流体の流路となる複数のセル」を区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材を備えるとともに、流体の流入側の端面(一方の端面)における所定のセル(流出セル)の開口部及び流体の流出側の端面(他方の端面)における残余のセルの開口部に目封止部を備える目封止ハニカム基材の、流入側の端面から残余のセル(流入セル)内に、セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子を流入させて、混合粒子を、目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程(混合粒子付着工程)と、残余のセル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱して、造孔材を焼失させて隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る工程(捕集層形成工程)とを有するものである。ここで、ハニカム基材の「端面」というときは、セルが開口する面のことを意味する。
【0020】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によれば、目封止ハニカム基材の流入側の端面から、残余のセル(流入セル)内に、「セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子」を流入させて、当該混合粒子を、目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程と、「流入セル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材」を加熱して、造孔材を焼失させて隔壁表面に捕集層を形成する工程とを有するため、気孔率80〜95%という高気孔率の捕集層を備えたハニカム構造体を作製することができる。
【0021】
以下、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0022】
(1)ハニカム基材作製工程;
まず、セラミック原料を含有するセラミック成形原料を成形して、図1、図2に示すような、流体の流路となる複数のセル2を区画形成する隔壁1と最外周に位置する外周壁3とを備える筒状のハニカム成形体100を成形する。尚、外周壁3は、形成しなくてもよい。図1は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製されるハニカム成形体を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製されるハニカム成形体100の断面を示す模式図である。
【0023】
セラミック成形原料に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含むものであることが好ましく、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが更に好ましく、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された1種であることが特に好ましい。尚、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料であって、焼成されてコージェライトになるものである。
【0024】
また、このセラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することが好ましい。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム構造体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0025】
セラミック成形原料を成形する際には、まず成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形することが好ましい。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0026】
ハニカム成形体の形状は、特に限定されず、図1に示すような円筒形状(円柱状)、中心軸に直交する断面が楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形の筒形状(柱状)等を挙げることができる。作製しようとするハニカム構造体が、複数のハニカムセグメントが接合されて形成されたものである場合には、ハニカム成形体の形状は、中心軸に直交する断面が三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形の筒形状(柱状)であることが好ましい。
【0027】
また、上記成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。
【0028】
次に、得られたハニカム成形体を焼成してハニカム基材を得ることが好ましい。尚、ハニカム成形体の焼成は、ハニカム成形体に目封止部を配設した後に行ってもよい。
【0029】
また、ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0030】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、4〜6時間が好ましい。
【0031】
(2)目封止工程;
次に、ハニカム基材の、一方の端面(流体の流入側の端面)における所定のセル(流出セル)の開口部と、他方の端面(流体の流出側の端面)における残余のセル(流入セル)の開口部に目封止材料を充填して、流体の流入側の端面における所定のセル(流出セル)の開口部と、流体の流出側の端面における残余のセル(流入セル)の開口部に目封止部を形成する。
【0032】
ハニカム基材に目封止材料を充填する際には、まず一方の端部側に目封止材料を充填し、その後、他方の端部側に目封止材料を充填する。一方の端部側に目封止材料を充填する方法としては、ハニカム基材の一方の端面にシートを貼り付け、シートにおける、「目封止部を形成しようとするセル」と重なる位置に孔を開けるマスキング工程と、「ハニカム基材の、シートが貼り付けられた側の端部」を目封止材料が貯留された容器内に圧入して、目封止材料をハニカム基材のセル内に圧入する圧入工程と、を有する方法を挙げることができる。目封止材料をハニカム基材のセル内に圧入する際には、目封止材料は、シートに形成された孔を通過し、シートに形成された孔と連通するセルのみに充填される。
【0033】
また、ハニカム基材の他方の端部側に目封止材料を充填する方法も、上記、ハニカム基材の一方の端部側に目封止材料を充填する方法と同様の方法とすることが好ましい。また、ハニカム基材の両端部に、目封止材料を同時に充填してもよい。
【0034】
次に、ハニカム基材に充填された目封止材料を乾燥させて、目封止部(図3、図4参照)を形成し、目封止ハニカム基材200(図3、図4参照)を得ることが好ましい。尚、ハニカム基材の両端部に目封止材料を充填した後に、目封止材料を乾燥させてもよいし、ハニカム基材の一方の端部に充填した目封止材料を乾燥させた後に、他方の端部に目封止材料を充填し、その後、他方の端部に充填した目封止材料を乾燥させてもよい。更に、目封止材料を、より確実に固定化する目的で、焼成してもよい。また、乾燥前のハニカム成形体又は乾燥後のハニカム成形体に目封止材料を充填し、乾燥前のハニカム成形体又は乾燥後のハニカム成形体と共に、目封止材料を焼成してもよい。図3は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製される目封止ハニカム基材を模式的に示す斜視図である。図4は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製される目封止ハニカム基材の断面を示す模式図である。
【0035】
図3、図4に示されるように、目封止ハニカム基材200は、流入セル2aと流出セル2bとが交互に並び、両端面11,12において、目封止部5とセルの開口部とにより市松模様が形成されていることが好ましい。
【0036】
(3)混合粒子付着工程;
混合粒子付着工程は、目封止ハニカム基材の、流入側の端面から残余のセル内に、セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子(複数種類の粒子が混合されたもの)を流入させて、混合粒子を、目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程である。このように、混合粒子内に造孔材を含有させることにより、高気孔率の捕集層を形成することができる。ここで、図4に示されるように、目封止ハニカム基材200の流入側の端面11に開口する(目封止部5が形成されていない)セル2を「流入セル2a」と称し、流出側の端面12に開口する(目封止部5が形成されていない)セル2を「流出セル2b」と称する。また、セラミック粒子は、複数のセラミック粒子が集合したセラミック粉末であることが好ましい。
【0037】
混合粒子に含有されるセラミック粒子のメジアン平均粒子径(粒子径の中央値)は、0.5〜15μmであることが好ましく、1〜10μmであることが更に好ましく、2〜5μmであることが特に好ましい。セラミック粒子のメジアン平均粒子径がこのような範囲であることにより、ガス透過性が良好で且つPMの捕集効率が高い捕集層が形成できるという利点がある。0.5μmより小さいと、セラミック粒子が充填されやすく、気孔率が低くなってしまうことがある。15μmより大きいと、造孔材(混合粒子)が、セル内へ流入してセル表面へ堆積するときに、セラミック粒子に働く流体の抵抗力が大きいため、造孔材を押しつぶしてしまい、結果的に気孔率を高くすることが困難なことがある。ここで、メジアン平均粒子径とは、粒子径の中央値のことであり、粒子径の小さな粒子から順に質量を積算していき、積算値が「全体の質量の50%」になるときの粒子の粒子径である。また、メジアン平均粒子径は、レーザー回折粒度測定機で測定した値である。セラミック粒子の形成に際しては、粗粒子を、ジェットミル(乾式)、ポットミル(湿式)等によって粉砕して、微粒であり且つシャープな粒子径分布を持つ粉砕粒子とし、得られた粉砕粒子を分級して所望のメジアン平均粒子径の粒子(セラミック粒子(粉体))とすることが好ましい。
【0038】
混合粒子に含有されるセラミック粒子の材質としては、コージェライト化原料、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。更に、形成される捕集層の材質が、ハニカム基材の材質と同じになるように、セラミック粒子の材質を選択することが更に好ましい。
【0039】
混合粒子に含有される造孔材のメジアン平均粒子径(粒子径の中央値)は、0.002〜10μmであることが好ましく、0.002〜7μmであることが更に好ましく、0.002〜5μmであることが特に好ましい。造孔材のメジアン平均粒子径がこのような範囲であることにより、気孔率の高い捕集層を形成することができ、更に、混合粒子をセル内へ流入させるときに、造孔材を、セラミック粒子に対して比較的均一に分散された状態で流入させることができる。0.002μmより小さいと、造孔材が優先的に目封止ハニカム基材の細孔を通り抜けてしまい、投入しただけの造孔材の効果が発現されないことがある。10μmより大きいと、造孔材の、セラミック粒子に対する分散性(セラミック粒子に混合した際の分散性)が悪く、造孔材が混合粒子内で均一に分散せずに、部分的に緻密な捕集層が形成されやすくなることがある。
【0040】
混合粒子に含有される造孔材の材質としては、熱処理により焼失するものであればよいが、例えば、カーボンブラック、コークス、白玉粉、澱粉、天然樹脂及び合成樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。
【0041】
造孔材のメジアン平均粒子径をセラミック粒子のメジアン平均粒子径で除した値が、0.001〜3であることが好ましく、0.001〜2であることが更に好ましく、0.001〜1であることが特に好ましい。造孔材のメジアン平均粒子径をセラミック粒子のメジアン平均粒子径で除した値が、このような範囲であることにより、気孔率の高い捕集層を形成することができ、更に、造孔材のセラミック粒子に対する分散性を良好にすることができることにより、混合粒子をセル内へ流入させるときに、造孔材を、セラミック粒子に対して比較的均一に分散された状態で流入させることができる。造孔材のメジアン平均粒子径をセラミック粒子のメジアン平均粒子径で除した値が、0.001より小さいと、造孔材がセラミック粒子径に対して小さ過ぎるため、造孔材としての役割(気孔を形成する役割)を果たさないことがあり、また、造孔材同士が凝集して二次粒子を形成したとしても、当該二次粒子径がセラミック粒子径に対して小さいため、造孔材の効果(気孔を形成する効果)が小さくなり、緻密な捕集層を形成することがある。造孔材のメジアン平均粒子径をセラミック粒子のメジアン平均粒子径で除した値が、3より大きいと、造孔材の、セラミック粒子に対する分散性(セラミック粒子に混合した際の分散性)が悪く、混合粒子をセル内へ流入させるときに、「造孔材が、セラミック粒子に対して十分に分散した状態」で流入させることができず、部分的に緻密な捕集層が形成されやすくなることがある。
【0042】
混合粒子における、セラミック粒子の含有量と造孔材の含有量との比は、セラミック粒子100質量部に対して造孔材20〜400質量部が好ましく、セラミック粒子100質量部に対して造孔材30〜350質量部が更に好ましく、セラミック粒子100質量部に対して造孔材50〜200質量部が特に好ましい。セラミック粒子100質量部に対して、造孔材が20質量部より少ないと、捕集層の気孔率が高くなり難くなることがある。また、セラミック粒子100質量部に対して、造孔材が400質量部より多いと、捕集層が脆くなることがある。
【0043】
目封止ハニカム基材のセル内に、混合粒子を流入させる方法は、特に限定されないが、混合粒子を気体中に分散させてエアロゾル(aerosol)を形成し、当該エアロゾルをセル内に流入させる方法や、混合粒子を液体中に分散させてスラリーを形成し、当該スラリーをセル内に流入させる方法を挙げることができる。これらの中でも、エアロゾル(混合粒子を含む気体)を、流入側の端面から流入セル内に流入させることにより、混合粒子を、流入側の端面から流入セル内に流入させる方法(エアロゾル法)が好ましい。エアロゾル法としては、容器内に、混合粒子を含有するエアロゾルを形成し、当該エアロゾルを目封止ハニカム基材に供給する方法や、エジェクターを用いてエアロゾルを形成し、当該エアロゾルを目封止ハニカム基材に供給する方法(図9及びその説明参照)等を挙げることができる。
【0044】
以下、容器内に、混合粒子を含有するエアロゾルを形成し、当該エアロゾルを目封止ハニカム基材に供給する方法について説明する。
【0045】
図5は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、目封止ハニカム基材に混合粒子を流入させる方法を説明するための模式図である。図5においては、混合粒子供給装置21に、目封止ハニカム基材200を装着し、エアロゾル22をセル2(流入セル2a)内に流入させている。混合粒子供給装置21は、エアロゾル排出口24及びガス供給口25が形成された容器23と、エアロゾル排出口24に連通するように容器23に配設された筒状体26と、容器23のガス供給口25に差し込まれたガス導入管27とを備えるものである。そして、目封止ハニカム基材200は、入口側筒状体26aと出口側筒状体26bとから構成される筒状体26に装着されており、目封止ハニカム基材200の流入側の端面11側に入口側筒状体26aが配置され、目封止ハニカム基材200の流出側の端面12側に出口側筒状体26bが配置されている。目封止ハニカム基材200は、「容器23から排出されたエアロゾルが入口側筒状体26a内を通って「流入側の端面11」から流入し、隔壁1を通過して「流出側の端面12」から流出した空気が出口側筒状体26bを通って外部に排出される」ように、筒状体26に配置されている。尚、エアロゾルを目封止ハニカム基材に供給したときに、「流出側の端面12」から流出する空気には、隔壁を通過した混合粒子が含まれていることがある。図5中の矢印は、空気又はエアロゾルの流れを示す。また、図5においては、容器23内にエアロゾルが形成された状態が示されている。また、図5においては、各要素の断面が示されている。
【0046】
エアロゾルをセル内に流入させる際には、容器23内に混合粒子を入れ、ガス導入管27を通じて空気を容器23内に流入させて容器23内にエアロゾルを形成しながら、筒状体26を通じて目封止ハニカム基材200の流出側の端面12側から吸引することが好ましい。これにより、効率的に容器23内で形成された「混合粒子を含有する空気(エアロゾル)」を筒状体26内を移動させて、流入側の端面11から目封止ハニカム基材200のセル2(流入セル2a)内に流入させ、混合粒子を流入セル2a内の隔壁1の表面に付着させることができる。このとき、エアロゾル中の空気は、目封止ハニカム基材200の隔壁1を透過し、流出セル2bを通過して、流出側の端面12から排出される。尚、容器23内のエアロゾルは、ガス導入管27を通じて容器23内に導入された空気が、容器23内の混合粒子を巻き上げながら容器23内を流動することにより形成される。
【0047】
上記のようにしてエアロゾルをセル(流入セル)内に流入させることにより、図6に示すような、「混合粒子が付着した目封止ハニカム基材(混合粒子付着基材)」300を得ることができる。混合粒子付着基材300は、目封止ハニカム基材200の流入セル2a内の隔壁1の表面に混合粒子13が付着したもの(混合粒子が堆積して形成された混合粒子層)である。図6は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態において、ハニカム構造体を製造する過程で作製される「混合粒子が付着した目封止ハニカム基材」の断面を示す模式図である。
【0048】
従来、セラミック粒子を含有するエアロゾルを目封止ハニカム基材201のセル32(流入セル32a)内に流入させて、流入セル32a内の隔壁31の表面にセラミック粒子を堆積(付着)させると、図8に示すように、流入セル32a内において、目封止ハニカム基材201の流出側の端面35に近いほど、セラミック粒子(セラミック粒子により形成されたセラミック粒子層)33が厚く堆積する傾向があった。そのため、流入セル32a内における流入側の端面34に近い部分に、十分な量の混合粒子を堆積させるためには、流出側の端面35に近い部分の混合粒子(混合粒子層)33の厚さが過剰に厚くする必要があった。以下、隔壁表面に堆積した混合粒子の層を「混合粒子層」と称することがある。図8は、従来のハニカム構造体の製造方法の一実施形態によって作製されたハニカム構造体の断面の一部を示す模式図である。
【0049】
これに対し、本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、セラミック粒子だけでなく、造孔材をも合わせて隔壁に付着させる(混合粒子を隔壁に付着させる)ため、セラミック粒子のみを堆積させたときと比較して全体的に膜厚を薄くすることができる。これは、流入側の端面34に近い部分に十分な量の混合粒子(セラミック粒子)を堆積させるときに必要なセラミックの量の一部を、造孔材で賄うことができるために、セラミック粒子の堆積量を少なく出来るためである。
【0050】
流入セル内の、混合粒子層の厚さは、作製されるハニカム構造体の捕集層の厚さが所望の値になるように調整することが好ましい。
【0051】
また、本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、混合粒子中に造孔材が含有されているため、製造時間短縮のために大きな流量で混合粒子を目封止ハニカム基材に流入させても、造孔材の存在する部分が最終的に気孔になるため、捕集層が緻密化することがなく、得られたハニカム構造体をフィルタとして使用した時に、初期圧損を低くすることができる。
【0052】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、容器23内に形成される「混合粒子を含有する空気(エアロゾル)」の密度(混合粒子質量/空気体積)は、1g/m以上、1600g/m以下であることが好ましく、20g/m以上、1600g/m以下であることが更に好ましく、20g/m以上、1400g/m以下であることが特に好ましい。1g/mより小さいと、混合粒子を目封止ハニカム基材内に付着させるのに、長時間を要することがある。1600g/mより大きいと、セラミック粒子同士が凝集し、不規則に凹凸が形成された状態の捕集層が、形成されるおそれがある。
【0053】
エアロゾルのセル内における流速は、0.2(m/秒)以上、100(m/秒)以下とすることが好ましく、0.2(m/秒)以上、95(m/秒)以下とすることが更に好ましく、0.2(m/秒)以上、90(m/秒)以下とすることが特に好ましい。0.2(m/秒)より小さいと、原料を効率よくセル内へ流入させることができずに原料収率が低下することがある。100(m/秒)より大きいと、セラミック粒子がセル内における出口側(目封止ハニカム基材の流出側の端面側)に偏って堆積しやすくなることがあり、更に、セラミック粒子または造孔材が密に堆積し易くなり、混合粒子層が緻密になることがある。
【0054】
また、「(セラミック粒子平均粒子径)/(基材平均細孔径)」が、0.02より大きく、1.5より小さい範囲であることが好ましく、0.02より大きく、1より小さい範囲であることが更に好ましく、0.02より大きく、0.5より小さい範囲であることが特に好ましい。セラミック粒子平均粒子径/基材平均細孔径が0.02以下であると、セラミック粒子が細孔を通り抜けて収率が低下したり、セラミック粒子が隔壁の表面において層を形成せずに細孔内に付着することにより細孔径が小さくなったりするおそれがある。一方、セラミック粒子平均粒子径/基材平均細孔径が1.5以上であると、フィルタとして使用した際に、PMが捕集層を通り抜けて隔壁の細孔を塞いで、フィルタの圧損が上昇し易くなるおそれがある。ここで、「セラミック粒子平均粒子径/基材平均細孔径」とは、目封止ハニカム基材の平均細孔径に対するセラミック粒子の平均粒子径の比の値である。基材の平均細孔径は、より厳密には、ハニカム構造体の流入セルを形成する隔壁の平均細孔径である。
【0055】
また、特に、エアロゾル密度を、1g/m以上、1600g/m以下とし、エアロゾルのセル内における流速を、0.2m/sec.以上、100m/sec.以下とし、セラミック粒子平均粒子径/基材平均細孔径が、0.02より大きく、1.5より小さい範囲とすることにより、投入した原料(セラミック粒子)が、良好にセル内の隔壁表面に付着し、効率よく捕集層の形成に使用され、原料収率が高くなる。これは、吸引された気体に含まれるセラミック粒子が、隔壁の細孔の入口に付着し、且つ、細孔の入口を覆うような層を形成するためと考えられる。
【0056】
目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に、混合粒子を付着させ堆積させた後に、エアノズル等を用いて、目封止ハニカム基材の、流入側の端面(エアロゾルが送り込まれた側の端面)に残存する混合粒子を除去することが好ましい。
【0057】
(4)捕集層形成工程;
捕集層形成工程は、残余のセル(流入セル)内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱して、造孔材を焼失させて隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る工程である。混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱する際には、造孔材が焼失する温度で加熱を行う。更に、その後、昇温して、セラミック粒子が焼結する(セラミック粒子同士が結合する)温度で加熱することが好ましい。セラミック粒子同士は、結合していなくてもよいが、焼結等により結合していることが好ましい。尚、セラミック粒子が焼結する温度で、一度に熱処理してもよい。また、セラミック粒子を焼結させる温度は、目封止ハニカム基材を作製した際の焼成温度より低いことが好ましい。
【0058】
造孔材を焼失させる条件としては、例えば、大気雰囲気において、400〜800℃で0.5〜20時間、加熱することが好ましい。セラミック粒子を焼結させる(セラミック粒子同士を結合させる)条件としては、目封止ハニカム基材の材質やセラミック粒子の材質によっても異なるが、例えば、大気雰囲気において、1200〜1300℃で1〜20時間、加熱することが好ましい。造孔材の焼失、及びセラミック粒子の焼結を行う方法としては、特に限定されないが、電気炉、ガス炉等を用いて加熱する方法を挙げることができる。
【0059】
また、混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱処理して捕集層を形成した後に、外周部分を研削加工して所望の形状に整え、その後、コート材を外周に塗布して、乾燥させ、外周部を配設することにより、ハニカム構造体を作製してもよい。外周部を配設すると、ハニカム構造体の外周の凹凸が少なくなる。コート材としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤、水等を混合したもの等を用いることが出来る。コート材を塗布する方法は、特に限定されず、捕集層が形成されるとともに外周部分が研削された目封止ハニカム基材を、ろくろ上で回転させながら、ゴムへら等でコーティングする方法等を挙げることが出来る。
【0060】
上記のようにして製造された1つのハニカム構造体を1つのハニカムセグメントとして、複数のハニカムセグメントを作製し、当該複数のハニカムセグメントを接合材によって接合して接合型ハニカム構造体を作製してもよい。
【0061】
2.ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の製造方法によって製造されたハニカム構造体400は、図7に示すように、流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有するハニカム基材4と、流体の流入側の端面11における所定のセル2(流出セル2b)の開口部及び流体の流出側の端面12における残余のセル2(流入セル2a)の開口部に配設された目封止部5と、セル2(流入セル2a)内の隔壁1の表面全体に配設された捕集層14と、を備えるものである。
【0062】
ハニカム構造体400は、捕集層の気孔率が80〜95%であることが好ましく、80〜90%であることが更に好ましく、85〜90%であることが特に好ましい。80%より小さいと、初期圧力損失が大きくなるおそれがある。95%より大きいと、捕集層が脆くなり易くなるおそれがある。捕集層の気孔率は、捕集層のSEM画像を画像解析することにより算出したちである。具体的には、ハニカム構造体を、セルの延びる方向に直交する面で切断し、切断面を研磨して得られる研磨面(二次元)の画像から、面積割合で算出する。
【0063】
ハニカム構造体400は、流入セル内の、捕集層の最も厚い部分における、当該捕集層の厚さが、10〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであることが更に好ましく、20〜50μmであることが特に好ましい。また、流入セル内の、捕集層の最も薄い部分における、当該捕集層の厚さは、5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることが更に好ましく、10〜30μmであることが特に好ましい。捕集層の平均厚さは、10〜100μmであることが好ましく、10〜80μmであることが更に好ましく、10〜50μmであることが特に好ましい。このように、捕集層の最も厚い部分における厚さを、薄くすることができるため、捕集層の平均厚さを薄くすることができ、排ガス処理時の初期の圧力損失(初期圧損)を低くすることができる。また、捕集層の最も厚い部分の厚さを、薄くすることができるため、捕集層の原料である混合粒子の付着量を減らすことができる。また、捕集層の平均厚さが薄いため、流入セルの空間容積が大きくなり、灰分の堆積による閉塞を抑制することができる。流入セル内の、捕集層の最も厚い部分は、通常、流入セル内における、ハニカム構造体の流出側の端面に最も近い部分である。また、流入セル内の、捕集層の最も薄い部分は、通常、流入セル内における、ハニカム構造体の流入側の端面に最も近い部分である。尚、「捕集層の厚さ」というときは、流入セル内の空間と隔壁とにより挟まれた部分における厚さを意味する(目封止部の表面に配設された捕集層は含まない)。捕集層の厚さは、捕集層の断面(厚さ方向に平行な断面)の画像を画像処理することにより求めることができる。例えば、画像測定システムNEXIV(ニコン社製)を用いて、捕集層の厚さを測定することができる。具体的には、捕集層が配設された隔壁の厚さ(捕集層の厚さと隔壁の厚さの合計)を測定し、別途、隔壁のみの厚さを測定し、捕集層が配設された隔壁の厚さから隔壁のみの厚さを差し引いて算出することができる。尚、捕集層が配設された隔壁の切断はダイヤモンドカッターを用いて行い、観測される断面の画像は、切断面の実態像である。
【0064】
ハニカム構造体400において、上記本発明のハニカム構造体の製造方法から導かれる構造、形状等の条件以外の条件については、特に限定されず、DPF等のハニカムフィルタ(又は、ハニカム触媒体の基材)として用いられる公知のハニカム構造体における条件とすることができる。
【0065】
従来の、捕集層が備えられていないハニカム構造体をフィルタとして用いて、PMを含む排ガスを処理すると、隔壁の細孔内にPMが浸入して細孔を閉塞させるため、初期圧損が急速に上昇するという問題があった。これに対し、本願発明のハニカム構造体の製造方法により作製されたハニカム構造体は、流入セル内の隔壁の表面に捕集層が形成されているため、PMが捕集層で捕集されて、隔壁の細孔内に浸入することを防止することができ、初期圧損の急速な上昇を抑制することができる。
【0066】
本発明のハニカム構造体は、「一個の成形体」が焼成されて得られたハニカム基材を有するものであってもよいし、このような「一個の成形体が焼成されて得られたハニカム基材を有するハニカム構造体」をハニカムセグメントとし、複数のハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されて形成された接合型ハニカム構造体であってもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
セラミック原料として、炭化珪素及び金属珪素を用いた。炭化珪素と金属珪素の質量比を8:2(炭化珪素:金属珪素)とした。セラミック原料100質量部に、造孔材13質量部、分散媒35質量部、有機バインダ6質量部、分散剤0.5質量部を混合し、混練して坏土を調製した。造孔材としては、平均粒子径10μmのコークスを用い、分散媒としては水を用い、有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用い、分散剤としては、エチレングリコールを用いた。コークスの平均粒子径は、レーザー回折の方法で測定した値である。
【0069】
次に、所定のスリット幅を有する金型を用いて、坏土を押出成形し、セル形状が四角形であり、全体形状が四角柱状のハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた。その後、ハニカム成形体の一方の端面における複数のセル開口部の中の一部に、マスクを施したセルとマスクを施さないセルとが交互に並ぶように、マスクを施した。そして、マスクを施した側の端部を、炭化珪素を含有する目封止スラリーに浸漬して、マスクが施されていないセルの開口部に目封止スラリーを充填した。同様にして、ハニカム成形体の他方の端面のセル開口部についても、目封止スラリーを充填した。これにより、得られるハニカム構造体の両端面が、セルの開口部と目封止部とにより市松模様が形成された状態になった。その後、目封止スラリーが充填されたハニカム成形体を乾燥し、アルゴン雰囲気下で1430℃、10時間焼成した。このようにして、四角柱状の目封止ハニカム基材を作製した。得られた目封止ハニカム基材の(隔壁の)平均細孔径は13μmであった。平均細孔径は、以下に示す方法で測定した値である。
【0070】
次に、「エゼクターを用いてエアロゾルを形成し、当該エアロゾルを目封止ハニカム基材に供給する方法」を用いて、目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に混合粒子を付着させた。図9を参照しながら説明する。図9は、実施例1において、目封止ハニカム基材に混合粒子を流入させる方法を説明するための模式図である。
【0071】
図9においては、エゼクター式混合粒子供給装置51に、目封止ハニカム基材200を装着し、エアロゾル52をセル(流入セル)内に流入させている。エゼクター式混合粒子供給装置51は、混合粒子57が入れられた容器53と、容器53内に入れられた混合粒子57を吸い上げて空気58aと混合してエアロゾル52として排出するエゼクター54と、エゼクター54から排出されたエアロゾル52が流入し、「エアロゾル52が流入側の端面11から流入し、隔壁を通過した空気58bが流出側の端面12から流出するように」目封止ハニカム基材200が配設される筒状体56と、を備えるものである。目封止ハニカム基材200の流出側の端面12から流出した空気58bは、筒状体56を通じて外部に排出した。目封止ハニカム基材200は、固定部55によって、筒状体56に固定した。また、エゼクター54から排出されたエアロゾル52を目封止ハニカム基材200に導入するため、筒状体56を通じて、目封止ハニカム基材200の流出側の端面12側から吸引した。吸引は、0.4m/分の流量で行った。また、エアロゾル密度は、100g/mであった。
【0072】
このようにしてエアロゾルをセル(流入セル)内に流入させることにより、「混合粒子が付着した目封止ハニカム基材(混合粒子付着基材)」を得た。混合粒子付着基材は、目封止ハニカム基材の流入セル内の隔壁の表面に混合粒子が付着したもの(混合粒子が堆積して形成された混合粒子層)である。混合粒子を目封止ハニカム基材に流入させるのに要した時間は、0.4分であった。
【0073】
混合粒子としては、メジアン平均粒子径2.6μmの炭化珪素粒子(粉体)と、メジアン平均粒子径0.014μmのカーボンブラック(粉体)とを混合させたものを用いた。メジアン平均粒子径は、以下に示す方法で測定した値である。炭化珪素粒子とカーボンブラックとの体積比は、1.0:1.8(炭化珪素粒子:カーボンブラック)であった。尚、炭化珪素粒子の比重は3.2であり、カーボンブラックの比重は1.8である。また、混合粒子付着基材に付着している混合粒子の量は、4g/リットル(混合粒子付着基材1リットル当たりの混合粒子の質量)であった。
【0074】
得られた混合粒子付着基材を、700℃で、3時間加熱し、更に、1300℃で、1時間加熱して、捕集層を備えたハニカム構造体を得た。得られたハニカム構造体は、四角柱状であり、中心軸方向の長さが152.4mm、中心軸に直交する断面のが36.2×36.2mmの四角形であった。また、セル密度は、46.5セル/cmであり、隔壁厚さは、300μmであった。また、ハニカム構造体に配設された捕集層全体の質量は、0.4gであった。また、捕集層の気孔率は、90%であった。捕集層の気孔率は、以下に示す方法で測定した値である。
【0075】
得られたハニカム構造体について、下記方法により、「初期圧損上昇率」及び「煤付き圧損低減率」を測定した。得られた結果を表1に示す。表1において、「骨材」は、混合粒子に含有されるセラミック粒子(炭化珪素粒子又はコージェライト粒子)を示す。「造孔材/骨材メジアン平均粒子径比」は、造孔材のメジアン平均粒子径を骨材のメジアン平均粒子径で除した値である。また、「造孔材/骨材」の欄の「体積比」は、混合粒子に含有される骨材の体積に対する、混合粒子に含有される造孔材の体積の比の値(造孔材/骨材)である。また、「造孔材/骨材」の欄の「質量比」は、混合粒子に含有される骨材の質量に対する、混合粒子に含有される造孔材の質量の比の値(造孔材/骨材)である。また、「混合粒子付着量」は、混合粒子付着基材に付着している混合粒子の量であり、混合粒子付着基材1リットル当たりの混合粒子の質量で示されている。
【0076】
(エアロゾル密度)
「捕集層全体の質量[g]÷(吸引流量[m/分]×製膜時間[分])」の式によってエアロゾル密度を求めた。
【0077】
(メジアン平均粒子径)
JIS R 1629に準拠して、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製:LA−920(商品名))にて測定した。
【0078】
(平均細孔径)
目封止ハニカム基材から5mm×5mm×15mmの試料を切り出し、水銀ポロシメーター(株式会社島津製作所製、水銀ポロシメーターMIC−9405(商品名))により平均粒子径を測定した。
【0079】
(捕集層の気孔率)
ハニカム構造体を、セルの延びる方向に直交する面で切断し、切断面を研磨して得られる研磨面を、走査型電子顕微鏡「S−3200N(日立製作所社製)」を用いて300倍で観察した像を、電子データで保存し、そのデータを画像解析ソフト(三谷商事株式会社製、「Win ROOF」)で解析した。捕集層とそこに存在する気孔の面積を算出し、その面積比から気孔率を算出した。
【0080】
(煤付き圧損低減率)
捕集層を備えたハニカム構造体と捕集層を備えないハニカム構造体とを、コモンレール式2.0Lディーゼルエンジンのターボチャージャー直下に搭載し、エンジン回転数2000rpm、トルク50Nm一定でエンジンを運転し、煤(soot)が4g/L堆積した状態におけるそれぞれの圧力損失(圧損)を測定した。「L」は、「リットル」を意味する。そして、捕集層を備えないハニカム構造体の圧力損失と捕集層を備えたハニカム構造体の圧力損失との差を、捕集層を備えないハニカム構造体の圧力損失で除して、100倍した値(百分率で表現した値)を煤付き圧損低減率[%]とした。尚、煤の堆積量は、ハニカム構造体1Lあたりの煤の堆積量[g]である。ここで、「煤付き圧損低減率」は、上記のように、煤が付いた状態の「捕集層を備えないハニカム構造体」の圧力損失に対する、煤が付いた状態の「捕集層を備えたハニカム構造体」の圧力損失の小ささの度合いを示したものである。煤付き圧損低減率は、30%以上が合格である。
【0081】
(初期圧損上昇率)
捕集層を備えたハニカム構造体及び捕集層を備えないハニカム構造体について、大型風洞装置を用いて、1m/分の風量における圧力損失を測定した。そして、捕集層を備えないハニカム構造体の圧力損失と捕集層を備えたハニカム構造体の圧力損失との差を、捕集層を備えないハニカム構造体の圧力損失で除して、100倍した値(百分率で表現した値)を煤付き初期圧損上昇率[%]とした。ここで、初期圧損上昇率は、煤が付いていない状態における、「捕集層を備えないハニカム構造体」の圧力損失に対する、「捕集層を備えたハニカム構造体」の圧力損失の大きさの度合い(大きい程度)を示したものである。初期圧損上昇率は、5%以下が合格である。
【0082】
【表1】

【0083】
(実施例2〜18)
目封止ハニカム基材に流入させる「混合粒子」に関する各条件及び、混合粒子付着量を表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体を作製した。上記方法により、「捕集層の気孔率」、「煤付き圧損低減率」及び「初期圧損上昇率」を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1〜3)
捕集層を形成する際に、混合粒子の代わりに炭化珪素(粒子)又はコージェライト(粒子)を使用した(混合粒子から造孔材を除いて、炭化珪素粒子(粉末)又はコージェライト粒子(粉末)を単独で使用した)以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体を作製した。上記方法により、「捕集層の気孔率」、「煤付き圧損低減率」及び「初期圧損上昇率」を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
実施例1〜18及び比較例1〜3より、炭化珪素及び造孔材を含有する混合粒子を隔壁に付着させて捕集層を形成するほうが、炭化珪素のみ又はコージェライトのみを隔壁に付着させて捕集層を形成するより、捕集層の気孔率が大きくなり、初期圧損上昇率が小さくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、ディーゼルエンジン等の内燃機関や各種の燃焼装置等から排出されるガスを浄化するためのハニカム構造体(フィルタ)の製造に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1:隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、3:外周壁、4:ハニカム基材、5:目封止部、11:流入側の端面、12:流出側の端面、13:混合粒子、14:捕集層、21:混合粒子供給装置、22:エアロゾル、23:容器、24:エアロゾル排出口、25:ガス供給口、26:筒状体、26a:入口側筒状体、26b:出口側筒状体、27:ガス導入管、31:隔壁、32:セル、32a:流入セル、33:セラミック粒子、34:流入側の端面、35:流出側の端面、51:エゼクター式混合粒子供給装置、52:エアロゾル、53:容器、54:エゼクター、55:固定部、56:筒状体、57:混合粒子、58a,58b:空気、100:ハニカム成形体、200,201:目封止ハニカム基材、300:混合粒子付着基材、400:ハニカム構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材を備えるとともに、流体の流入側の端面における所定の前記セルの開口部及び流体の流出側の端面における残余の前記セルの開口部に目封止部を備える目封止ハニカム基材の、前記流入側の端面から前記残余のセル内に、セラミック粒子及び造孔材を含有する混合粒子を流入させて、前記混合粒子を、前記目封止ハニカム基材のセル内の隔壁表面に付着させる工程と、
前記残余のセル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱して、前記造孔材を焼失させて前記隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る工程とを有するハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記残余のセル内の隔壁表面に混合粒子が付着した目封止ハニカム基材を加熱したときに、前記造孔材を焼失させるとともに前記セラミック粒子同士を結合させて前記隔壁表面に捕集層を形成してハニカム構造体を得る請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記混合粒子を含む気体を、前記流入側の端面から前記残余のセル内に流入させることにより、前記混合粒子を、前記流入側の端面から前記残余のセル内に流入させる請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記造孔材のメジアン平均粒子径が、0.002〜10μmである請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック粒子の前記メジアン平均粒子径が、0.5〜15μmである請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記造孔材のメジアン平均粒子径を前記セラミック粒子のメジアン平均粒子径で除した値が、0.001〜3である請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
得られる前記ハニカム構造体の前記捕集層の気孔率が、80〜95%である請求項1〜6のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−75989(P2012−75989A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221096(P2010−221096)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】