説明

ハニカム構造体成形用金型及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法

【課題】発泡材を含有する材料を成形した場合であっても、乾燥時における外周スキンの膨れを抑制することができるハニカム構造体成形用金型及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくともセラミックス原料粉末、水、バインダ及び加熱時にガス成分を生じうる熱膨張性の発泡材を含有する材料を用いてハニカム構造体を成形するハニカム構造体成形用金型1は、供給穴31を設けた供給穴部3とスリット溝41を設けたスリット溝部4とを有する金型本体2と、ガイド立設部51とガイド突出部52とを有するガイドリング5とを備えている。スリット溝部4は、材料の押出方向に突出した段付部42を有する。スペーサ厚a、クリアランスb及び段付高さcは、(c−a)/b>1、かつ(a/b)>1の関係を満たす。段付角度θは、90°≦θ≦130°を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体を押出成形するためのハニカム構造体成形用金型及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排ガス浄化装置におけるフィルタとして、ハニカム状のセル壁と該セル壁に囲まれた多数のセルと外周側面を覆う筒状の外周スキンとを有するハニカム構造体が用いられている。
上記ハニカム構造体は、一般的に、ハニカム構造体成形用金型(以下、適宜、単に金型という)を用いて、セラミックス等の原料粉末を含有する材料を押出成形し、乾燥、焼成することによって製造される。
【0003】
上記ハニカム構造体をディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(粒子状物質)を含む排ガスを浄化するDPF等の排ガス浄化フィルタに適用する場合、パティキュレートを捕集するための細孔をセル壁に設ける。
セル壁にパティキュレートを捕集するための細孔を設ける方法としては、例えば材料中に有機系の発泡材等を含有させておく方法が知られている(特許文献1参照)。また、細孔を効率よく設けるために、加熱時にガス成分を生じて発泡(膨張)する熱膨張性の発泡材が用いられる。
【0004】
また、図8に示すごとく、上記金型91としては、材料80を供給するための供給穴931と材料80をハニカム状に成形するためのスリット溝941とを有する金型本体92と、スリット溝941から押し出された材料80を案内して所望の外形を得るためのガイドリング95とを備えているものがある。金型本体92の押出方向端面であるスリット溝形成面940は、ガイドリング95に対面する部分と対面しない部分とが面一の平面状となっている。
【0005】
上記金型91を用いて材料80を押出成形した場合、同図に示すごとく、ガイドリング95に対面するスリット溝941から押出方向に押し出された材料80は、金型本体92とガイドリング95との間の間隙96に流入し、金型本体92の中心方向に向かって流動する。そして、ガイドリング95の先端部951に案内されて押出方向に方向転換し、外周スキン83を形成する。また、ガイドリング95に対面しないスリット溝941から押出方向に押し出された材料80は、そのまま押出方向にセル壁81を形成する。このようにして、セル壁81と外周スキン83とを同時進行で一体的に形成する。押出成形後、乾燥、焼成することにより、ハニカム構造体8(図5参照)を得る。なお、図8では、材料80は、押し出された材料のみを示している。
【0006】
【特許文献1】特開2002−219319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記金型を用いて加熱時にガス成分を生じる発泡材を含有する材料を押出成形した場合には、次のような問題があった。
すなわち、図8に示すごとく、金型本体92のスリット溝形成面940が面一の平面状であるため、材料80がガイドリング95の先端部951に案内されて押出方向に方向転換する際に、一部の材料80がそのまま金型本体92の中心方向へ流動してしまう。そのため、外周スキン83の内側(内周面831)の形状が材料80の自由流れによって形成されていた。
【0008】
これにより、図9(a)に示すごとく、外周スキン83の形状(特に内周面831の形状)・厚みが不安定となっていた。また、これによって、外周スキン83とセル壁81とが充分に接合されている部分とそうでない部分とが生じ、両者の間に隙間89(図10(a)参照)が発生していた。そして、このような状態のハニカム構造体8を乾燥させると、材料80中に含まれる発泡材の作用によって、図9(b)、(c)に示すごとく、外周スキン83の外周面832に膨れ839が発生していた。
【0009】
外周スキンにおける膨れ発生のメカニズムは、未だ明確にされていないが、次のように推測される。
すなわち、図10(a)に示すごとく、外周スキン83とセル壁81との間に隙間89が形成された状態のハニカム構造体8を加熱して乾燥させると、図10(b)に示すごとく、含有されている発泡材801からガス成分802が生じ、そのガス成分802が隙間89に溜まる。そして、図10(c)に示すごとく、ガス成分802が膨張することにより、外周スキン83とセル壁81とが離れる。このようにして、外周スキン83の外周面832に膨れ839が発生する。
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、発泡材を含有する材料を成形した場合であっても、乾燥時における外周スキンの膨れを抑制することができるハニカム構造体成形用金型及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、少なくともセラミックス原料粉末、水、バインダ及び加熱時にガス成分を生じる熱膨張性の発泡材を含有する材料を用いて、ハニカム状のセル壁と該セル壁に囲まれた多数のセルと外周側面を覆う筒状の外周スキンとを有するハニカム構造体を成形するためのものであり、上記セル壁と上記外周スキンとを一体的に成形することができるハニカム構造体成形用金型であって、
該ハニカム構造体成形用金型は、上記材料を供給するための供給穴を設けた供給穴部と、上記供給穴に連通して上記材料をハニカム状に成形するための格子状のスリット溝を設けたスリット溝部とを有する金型本体と、上記スリット溝部の外周部から上記材料の押出方向に伸びたガイド立設部と、該ガイド立設部から内方に向かって突出していると共に上記スリット溝部との間に間隙を設けたガイド突出部とを有するガイドリングとを備えており、
上記スリット溝部は、上記ガイド突出部に対面しない部分に、上記材料の押出方向に突出した段付部を有し、
上記スリット溝部と上記ガイド突出部との間の上記間隙の厚さをスペーサ厚a、上記段付部の外周側面と上記ガイド突出部の先端部との間の距離をクリアランスb、上記スリット溝部における上記段付部を有する部分の高さを段付高さcとした場合に、(c−a)/b>1、かつ(a/b)>1の関係を満たし、
上記段付部の外周側面と上記スリット溝部における上記段付部の周囲の部分のスリット溝形成面とが成す角度を段付角度θとした場合に、90°≦θ≦130°を満たすことを特徴とするハニカム構造体成形用金型にある(請求項1)。
【0012】
本発明のハニカム構造体成形用金型は、上記ハニカム構造体を成形するためのものであり、上記セル壁と上記外周スキンとを一体的に成形することができるよう構成されている。上記金型は、上記金型本体と上記ガイドリングとにより構成されている。そして、上記金型本体の上記スリット溝部は、上記ガイドリングの上記ガイド突出部に対面しない部分に、材料の押出方向(以下、適宜、単に押出方向という)に突出した上記段付部を有する。
【0013】
上記構成の金型を用いて材料を押出成形した場合、上記スリット溝部と上記ガイド突出部との間の上記間隙を通過する材料により、得ようとするハニカム構造体の外周スキンが形成される。すなわち、上記ガイド突出部に対面する上記スリット溝から押出方向に押し出された材料は、上記間隙に流入し、上記金型本体の中心方向(以下、適宜、単に中心方向という)に向かって流動する。そして、上記ガイド突出部の先端部に案内されて押出方向に方向転換し、外周スキンを形成する。
【0014】
ここで、本発明では、上記スリット溝部の上記ガイド突出部に対面しない部分に、材料の押出方向に突出した上記段付部が設けられている。そして、上記スペーサ厚aと上記クリアランスbと上記段付高さcとが(a/b)>1、かつ(c−a)/b>1の関係を満たしている。そしてさらに、上記段付角度θは、90°≦θ≦130°である。これにより、本発明の金型は、発泡材を含有する材料を成形した場合であっても、乾燥時における外周スキンの膨れを抑制することができる。
この理由について、以下に説明する。
【0015】
上記構成の金型を用いて材料を押出成形した場合において、材料が上記ガイド突出部の先端部に案内されて押出方向に方向転換する際に、材料の中心方向への流動を上記段付部によって規制することができる。また、押出方向に方向転換した材料によって形成される外周スキンの内側の形状は、上記段付部の外周側面によって規定される。これにより、外周スキンの内周面は、上記段付部を設けない場合に比べて凹凸や変形等のない寸法精度の良いものとなる。そして、外周スキンとセル壁との接合部分において、両者の接合状態を充分なものとすることができる。
【0016】
また、外周スキンは、上記スペーサ厚aである上記間隙を通過した材料が、上記クリアランスbである上記段付部の外周側面と上記ガイド突出部の先端部との間を通過することにより形成され、上記クリアランスbによって得ようとする外周スキンの厚みが決定される。そのため、上記スペーサ厚aと上記クリアランスbとが(a/b)>1の関係を満たしていることにより、つまり上記スペーサ厚aを上記クリアランスbよりも大きくすることにより、外周スキンを形成するのに必要な材料を上記間隙からの供給によってほとんど賄うことができる。これにより、外周スキンを形成する材料の供給量が不足するおそれがなく、所望の厚みの外周スキンを安定的に得ることができる。
【0017】
また、上記スペーサ厚aと上記クリアランスbと上記段付高さcとが(c−a)/b>1の関係を満たしていることにより、つまり上記段付高さcを充分に確保しておくことにより、材料の中心方向への流動を規制するという上記段付部を設けたことによる効果を充分に発揮することができる。また、外周スキンの内側の形状を規定するという効果も充分に発揮することができる。
【0018】
また、上記段付角度θが90°≦θ≦130°であることにより、材料が上記ガイド突出部の先端部に案内されて押出方向に方向転換する際に、材料の中心方向への流動を上記段付部によって規制することができると共に、材料の押出方向への方向転換をスムーズに行うことができる。また、外周スキンとセル壁との接合状態を良好なものとすることができる。
【0019】
以上のように、上記段付部を設け、上記スペーサ厚aと上記クリアランスbと上記段付高さcとを上記関係式を満たすように設定し、さらに上記段付角度θを上記特定の範囲の角度とすることにより、従来の問題点を解決することができる。
つまり、外周スキンの内側の形状が材料の自由流れによって形成され、外周スキンの形状・厚みが不安定となり、外周スキンとセル壁との間に隙間(図10(a)参照)が発生することを防ぐことができる。そして、成形したハニカム構造体を加熱して乾燥させる際に、材料に含有されている発泡材からガス成分が生じても、そのガス成分が外周スキンとセル壁との間の隙間に溜まることもなく、また隙間に溜まったガス成分が膨張して外周スキンの膨れを発生させることもなくなる。
【0020】
このように、本発明のハニカム構造成形用金型によれば、発泡材を含有する材料を成形した場合であっても、乾燥時における外周スキンの膨れを抑制することができる。
【0021】
第2の発明は、ハニカム状のセル壁に囲まれた多数のセルと外周側面を覆う筒状の外周スキンとを有するハニカム構造体を製造する方法であって、
上記第1の発明のハニカム構造体成形用金型を用いて、少なくともセラミックス原料粉末、水、バインダ及び加熱時にガス成分を生じうる熱膨張性の発泡材を含有する材料を押出成形し、上記ハニカム構造体を成形する成形工程と、
上記ハニカム構造体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム構造体を焼成する焼成工程とを有することを特徴とするハニカム構造体の製造方法にある(請求項3)。
【0022】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、上記のごとく、成形工程、乾燥工程、焼成工程を順に行う。そして、上記成形工程においては、上記第1の発明のハニカム構造体成形用金型を用いて、上記発泡材を含有する材料を押出成形し、上記ハニカム構造体を成形する。そのため、本発明の製造方法によれば、上記乾燥工程における外周スキンの膨れを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
上記第1の発明において、上記のスペーサ厚a、クリアランスb及び段付高さcの関係について、(c−a)/b≦1である場合には、材料の中心方向への流動を上記段付部によって規制するという効果を充分に発揮することができないおそれがある。
また、(a/b)≦1である場合には、上記間隙を通過する材料の量が外周スキンを形成するために必要な量に対して不充分となり、外周スキンを安定的に形成することができないおそれがある。
【0024】
また、上記段付角度θについて、θ<90°である場合には、セル壁と外周スキンとの接合状態が不充分となり、両者を一体的に形成することができないおそれがある。一方、θ>130°である場合には、材料の中心方向への流動を上記段付部によって規制するという効果を充分に発揮することができないおそれがある。
したがって、上記段付角度θは、100°≦θ≦120°であることがより好ましい(請求項2)。
【0025】
上記第2の発明において、上記発泡材は、例えば排ガス中のパティキュレートを捕集するための細孔をハニカム構造体に形成するため、予め材料中に含有させておく。
上記発泡材は、加熱時にガス成分を生じうる熱膨張性の発泡材であり、一般的に有機物で構成されている。そして、上記発泡材は、成形したハニカム構造体の乾燥時に加熱されてガス成分が生じ、そのガス成分によって発泡(膨張)する。その後、焼成時に焼失する。これにより、上記発泡材が焼成により焼失した部分に細孔を形成することができる。
【0026】
また、上記材料に対する上記発泡材の含有率は、1〜10重量%であることが好ましい(請求項4)。
上記発泡材の含有量が1重量%未満の場合には、上記発泡材を含有することによる効果を充分に得ることができないおそれがある。一方、10重量%を超える場合には、得られるハニカム構造体の強度が低下するおそれがある。
したがって、上記材料に対する上記発泡材の含有率は、3〜7重量%であることがより好ましい(請求項5)。
【0027】
また、上記発泡材は、熱可塑性高分子よりなるポリマー外殻の内部に、低沸点炭化水素よりなる液状ガスを内包してなる粒子からなることが好ましい(請求項6)。
上記発泡材は、加熱されたときに、上記ポリマー外殻の内部に内包された上記液状ガスが気化してガス圧が増加すると共に上記ポリマー外殻が軟化することで体積が大幅に増加し、発泡(膨張)する。これにより、上記発泡材が焼成により焼失した部分に、細孔を設けることができる。つまり、上記ハニカム構造体のセル壁に、排ガス中のパティキュレートを捕集するための細孔を効率よく設けることができる。
【0028】
上記発泡材としては、具体的には、松本油脂製薬株式会社のマツモトマイクロスフェアー等を用いることができる。これは、アクリロニトリル、塩化ビニリデン共重合物等からなるポリマー外殻の内部に、液状ガスとしてブタン等を内包してなる熱膨張性のマイクロカプセルである。
もちろん、上記発泡材としては、上記以外の構造を有するもの、上記以外の材料よりなるもの等を用いることができる。
【0029】
また、上記ハニカム構造体は、コーディエライトセラミックスにより構成することができる。なお、上記以外の材料により構成することもできる。
また、上記ハニカム構造体は、内燃機関から排出される排ガス中のパティキュレートを捕集して排ガスの浄化を行うDPF等の排ガス浄化フィルタとして用いることができる。
【0030】
また、上記ハニカム構造体を実際にDPF等の排ガス浄化フィルタとして用いる場合には、上記セルの両端のいずれか一方の端部を閉塞する栓部を設ける等して用いられる。
この場合には、例えば上記焼成工程の後に上記栓部を構成する材料(栓材)を上記セルの所望の位置に充填し、焼成することによって上記栓部を設けることができる。また、上記乾燥工程の後に上記栓材を上記セルの所望の位置に充填し、上記焼成工程において上記ハニカム構造体と上記栓材とを一体的に焼成することによって上記栓部を設けることもできる。なお、上記栓部を構成する材料である上記栓材としては、例えば上記ハニカム構造体を構成する材料と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
実施例にかかる本発明のハニカム構造体成形用金型及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法について説明する。
本例のハニカム構造体成形用金型1は、図1〜図3に示すごとく、少なくともセラミックス原料粉末、水、バインダ及び熱膨張性の発泡材を含有する材料を用いて、ハニカム状のセル壁81とセル壁81に囲まれた多数のセル82と外周側面を覆う筒状の外周スキン83とを有するハニカム構造体8(図5参照)を成形するためのものであり、セル壁81と外周スキン83とを一体的に成形することができる。
【0032】
金型1は、図1、図2に示すごとく、金型本体2と外周ガイドリング5とにより構成されている。図示を省略したが、金型本体2及びガイドリング5には、それぞれピン穴が設けられている。そして、金型本体2とガイドリング5とは、それぞれに設けられた上記ピン穴にピンを挿設することによって固定されている。
【0033】
金型本体2は、図2に示すごとく、材料を供給するための供給穴31を設けた供給穴部3と、供給穴31に連通して材料をハニカム状に成形するための格子状のスリット溝41を設けたスリット溝部4とを有している。
【0034】
図2、図3(a)に示すごとく、スリット溝部4のスリット溝形成面400には、四角形格子状のスリット溝41が設けられている。また、スリット溝部4は、後述するガイド突出部52に対面しない部分に、材料の押出方向に突出した円形状の段付部42を有している。また、スリット溝形成面400は、段付部42における中央スリット溝形成面402と段付部42の周囲の部分における外周スリット溝形成面401とを有している。本例において、段付部42の中央スリット溝形成面402の外径(段付径A)は160.5mmである。
【0035】
また、図3(a)に示すごとく、スリット溝部4に形成されたスリット溝41のうち、最も外側のスリット溝419は、押出成形時に材料がスリット溝部4の外周側面409から漏れ出すことを防止するために、充填材、金属材等の材料を用いて象眼細工様の方法により目止めがされている。
【0036】
図2に示すごとく、供給穴部3の供給穴形成面300(スリット溝形成面400の反対側の面)には、スリット溝41に連通する供給穴31が多数設けられている。
また、図3(b)に示すごとく、供給穴31は、四角形格子状のスリット溝41の格子点のうち、縦方向及び横方向の1つおきの格子点に対応する場所に形成されている。
【0037】
ガイドリング5は、図1、図2に示すごとく、スリット溝部4の外周部から材料の押出方向に伸びたガイド立設部51と、ガイド立設部51から内方に向かって突出していると共にスリット溝部4との間に間隙6を設けたガイド突出部52とを有する。本例では、ガイド立設部51とガイド突出部52とは、別体で構成されている。
【0038】
ガイド立設部51は、スリット溝部4とガイド突出部52との間に設けられ、両者の間の間隙6を確保している。
ガイド突出部52は、スリット溝部4の外周スリット溝形成面401と対面するガイド対向面500がスリット溝部4との間の間隙6を維持するように内方に突出するように設けられている。また、ガイド突出部52の先端部521が呈する形状は、得ようとするハニカム構造体8の外形寸法に合わせた円形状としてある。本例において、ガイド突出部52の先端部521の内径(ガイドリング径B)は162.1mmである。
【0039】
そして、本例の金型1において、図2に示すごとく、スリット溝部4とガイド突出部52との間の間隙6の厚さをスペーサ厚a、段付部42の外周側面420とガイド突出部52の先端部521との間の距離をクリアランスb(=(ガイドリング径B−段付径A)/2)、スリット溝部4のうちの段付部42を有する部分における高さを段付高さcとした場合に、(c−a)/b>1、かつ(a/b)>1の関係を満たす。本例において、スペーサ厚aは1.0mm、クリアランスbは0.8mm、段付高さcは2.0mmである。
【0040】
また、同図に示すごとく、段付部42の外周側面420とスリット溝部4における段付部42の周囲の部分のスリット溝形成面400、すなわち外周スリット溝形成面401とが成す角度を段付角度θとした場合に、90°≦θ≦130°を満たす。本例において、段付角度θは110°である。
【0041】
次に、上記構成のハニカム構造体成形用金型1を用いてハニカム構造体8を製造する方法について説明する。
【0042】
まず、金型1をスクリュー式の押出成形装置(図示略)の先端にセットする。そして、上記押出成形装置内に混練した材料を投入する。材料としては、カオリン、溶融シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、タルクを含有し、最終的にコーディエライトを主成分とする化学組成となるように調整した原料粉末に水、バインダ、発泡材等を加えて混練したものを用いた。
【0043】
なお、本例では、発泡材として、松本油脂製薬株式会社のマツモトマイクロスフェアーを用いた。これは、熱可塑性高分子であるアクリロニトリルよりなるポリマー外殻の内部に、液状ガス(低沸点炭化水素)としてのブタンを内包してなる熱膨張性のマイクロカプセルである。材料に対する発泡材の含有量は5重量%とした。
【0044】
次いで、図4に示すごとく、上記押出成形装置から金型1に材料80が供給され、供給穴31、スリット溝41を順に通過して押し出され、所定の長さで切断することにより、ハニカム構造体8(図5参照)が成形される。なお、図4では、材料80は、押し出された材料のみを示している。
【0045】
具体的に説明すると、同図に示すごとく、スリット溝部4とガイド突出部52との間の間隙6を通過する材料80により、得ようとするハニカム構造体8の外周スキン83が形成される。すなわち、ガイド突出部52のガイド対向面500に対面する外周スリット溝形成面401のスリット溝41から押し出された材料80は、間隙6に流入し、中心方向に向かって流動する。そして、ガイド突出部52の先端部521に案内されて押出方向に方向転換し、段付部42の外周側面420とガイド突出部52の先端部521との間を通過して、外周スキン83を形成する。
【0046】
このとき、同図に示すごとく、材料80が押出方向に方向転換する際には、段付部42によって材料80の中心方向への流動が規制される。
また、押出方向に方向転換した材料80が段付部42の外周側面420とガイド突出部52の先端部521との間を通過して外周スキン83を形成する際には、内側(内周面831)の形状が段付部42の外周側面420によって規定され、外側(外周面832)の形状がガイド突出部52の先端部521によって規定される。
【0047】
一方、同図に示すごとく、ガイド突出部52のガイド対向面500に対面しない中央スリット溝形成面402のスリット溝41から押し出される材料80は、直接、四角形格子状のセル壁81を形成する。
このようにして、セル壁81と外周スキン83とを同時に進行しながら一体的に形成する。そして、図5に示すごとく、ハニカム状のセル壁81とセル壁81に囲まれた多数のセル82と外周側面を覆う筒状の外周スキン83とを有するハニカム構造体8を成形する。
【0048】
次いで、押出成形後のハニカム構造体8を乾燥し、所定温度で焼成する。このとき、材料中に含まれる発泡材は、乾燥時に加熱されてポリマー外殻の内部に内包された液状ガスが気化してガス圧が増加すると共にポリマー外殻が軟化することで体積が大幅に増加し、発泡(膨張)する。その後、焼成時に焼失する。そして、発泡材が焼成により焼失した部分に細孔が形成される。
以上により、コーディエライトセラミックからなるハニカム構造体8を得る。本例で得られたハニカム構造体8の気孔率は、60〜65%であった。
【0049】
次に、本例のハニカム構造体成形用金型1における作用効果について説明する。
本例の金型1は、スリット溝部4のガイド突出部52に対面しない部分に、材料80の押出方向に突出した段付部42が設けられている。そして、スペーサ厚aとクリアランスbと段付高さcとが(a/b)>1、かつ(c−a)/b>1の関係を満たしている。そしてさらに、段付角度θは、90°≦θ≦130°である。これにより、本例の金型1は、発泡材を含有する材料80を成形した場合であっても、乾燥時における外周スキン83の膨れを抑制することができる。
この理由について、以下に説明する。
【0050】
上記構成の金型1を用いて材料80を押出成形した場合において、材料80がガイド突出部52の先端部521に案内されて押出方向に方向転換する際に、材料80の中心方向への流動を段付部42によって規制することができる。また、押出方向に方向転換した材料80によって形成される外周スキン83の内側の形状は、段付部42の外周側面420によって規定される。これにより、外周スキン83の内周面は、段付部42を設けない場合に比べて凹凸や変形等のない寸法精度の良いものとなり、所望の形状・厚みの外周スキン83を安定的に得ることができる。そして、外周スキン83とセル壁81との接合部分においても、両者の接合状態を充分なものとすることができる。
【0051】
また、外周スキン83は、スペーサ厚aである間隙6を通過した材料80が、クリアランスbである段付部42の外周側面420とガイド突出部52の先端部521との間を通過することにより形成され、クリアランスbによって得ようとする外周スキン83の厚みが決定される。そのため、スペーサ厚aとクリアランスbとが(a/b)>1の関係を満たしていることにより、つまりスペーサ厚aをクリアランスbよりも大きくすることにより、外周スキン83を形成するのに必要な材料80を間隙6からの供給によってほとんど賄うことができる。これにより、外周スキン83を形成する材料80の供給量が不足するおそれがなく、所望の厚みの外周スキン83を安定的に得ることができる。
【0052】
また、スペーサ厚aとクリアランスbと段付高さcとが(c−a)/b>1の関係を満たしていることにより、つまり段付高さcを充分に確保しておくことにより、材料80の中心方向への流動を規制するという段付部42を設けたことによる効果を充分に発揮することができる。また、外周スキン83の内側の形状を規定するという効果も充分に発揮することができる。
【0053】
また、段付角度θが90°≦θ≦130°であることにより、材料80がガイド突出部52の先端部521に案内されて押出方向に方向転換する際に、材料80の中心方向への流動を段付部42によって規制することができると共に、材料80の押出方向への方向転換をスムーズに行うことができる。また、外周スキン83とセル壁81との接合状態を良好なものとすることができる。
【0054】
以上のように、段付部42を設け、スペーサ厚aとクリアランスbと段付高さcとを上記関係式を満たすように設定し、さらに段付角度θを上記特定の範囲の角度とすることにより、従来の問題点を解決することができる。
つまり、外周スキンの内側の形状が材料の自由流れによって形成され、外周スキンの形状・厚みが不安定となり、外周スキンとセル壁との間に隙間(図10(a)参照)が発生することを防ぐことができる。そして、成形したハニカム構造体を加熱して乾燥させる際に、材料に含有されている発泡材からガス成分が生じても、そのガス成分が外周スキンとセル壁との間の隙間に溜まることもなく、また隙間に溜まったガス成分が膨張して外周スキンの膨れを発生させることもなくなる。
【0055】
このように、本例のハニカム構造成形用金型によれば、発泡材を含有する材料を成形した場合であっても、乾燥時における外周スキンの膨れを抑制することができる。
【0056】
なお、本例において製造されたハニカム構造体8は、例えば内燃機関から排出される排ガス中のパティキュレートを捕集して排ガスの浄化を行うDPF等の排ガス浄化フィルタとして用いることができる。
ハニカム構造体8を実際にDPF等の排ガス浄化フィルタとして用いる場合には、セル82の軸方向両端のいずれか一方の端部を閉塞する栓部を設ける。
【0057】
この栓部を設ける方法としては、例えば焼成工程の後に上記栓部を構成する材料(栓材)をセル82の所望の位置に充填し、焼成することによって設けることができる。また、乾燥工程の後に上記栓材をセル83の所望の位置に充填し、焼成工程においてハニカム構造体8と上記栓材とを一体的に焼成することによって設けることもできる。なお、上記栓部を構成する材料である上記栓材としては、例えばハニカム構造体8を構成する材料と同様のものを用いることができる。
【0058】
(実施例2)
本例は、本発明のハニカム構造体成形用金型における効果を検証した例である。
本例では、金型の段付角度θと外周スキンの膨れを抑制する効果との関連性について検証した。
【0059】
以下、試験方法について説明する。
本例では、まず、基本的な構成が実施例1と同様であり、段付角度θのみが異なる複数の金型を準備した。段付角度θは、90°〜140°の範囲で5°刻みとした。次いで、準備した複数の金型を用いて、ハニカム構造体を成形した(n=30)。そして、ハニカム構造体を乾燥させた後、外周スキンを目視により観察し、不良対象である膨れの発生を確認した。
【0060】
次に、試験結果を示す。
図6は、段付角度θ(°)と膨れ発生率(%)との関係を示したものである。同図からわかるように、段付角度θが90°〜130°の範囲では、膨れ発生率が5%以下であり、外周スキンの膨れを充分に抑制することができる。さらに、段付角度θが100°〜120°の範囲では、膨れ発生率がほぼ0%であり、外周スキンの膨れをほとんど完全に防止することができる。
【0061】
また、図7には、段付角度θが110°の金型(実施例1と同様のもの)を用いて成形したハニカム構造体8を示した。
図7(a)に示すごとく、外周スキン83の内周面831は、凹凸や変形等のない寸法精度の良いものとなっている。また、外周スキン83とセル壁81との接合状態も良好である。また、図7(b)に示すごとく、外周スキン83の外周面832には、膨れの発生は見当たらない。
【0062】
以上の結果から、段付角度θを本発明の範囲である90°〜130°とすることにより、外周スキンの膨れを抑制する効果を充分に得られることがわかった。また、段付角度θを100°〜120°とすることにより、外周スキンの膨れをほとんど防止することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1における、ハニカム構造体成形用金型を示す説明図。
【図2】図1のX−X線断面図。
【図3】実施例1における、(a)スリット溝部を示す平面図、(b)スリット溝形成面の拡大図。
【図4】実施例1における、ハニカム構造体を成形する様子を示す説明図。
【図5】実施例1における、ハニカム構造体を示す説明図。
【図6】実施例2における、段付角度と膨れ発生率との関係を示す説明図。
【図7】実施例2における、(a)ハニカム構造体の径方向断面を示す写真、(b)外周スキンを示す写真。
【図8】従来における、ハニカム構造体を成形する様子を示す説明図。
【図9】従来における、(a)ハニカム構造体の径方向断面を示す写真、(b)外周スキンの外周面を示す写真、(c)ハニカム構造体の軸方向断面を示す写真。
【図10】従来における、外周スキンの膨れ発生のメカニズムを示す説明図。
【符号の説明】
【0064】
1 ハニカム構造体成形用金型
2 金型本体
3 供給穴部
31 供給穴
4 スリット溝部
41 スリット溝
42 段付部
5 ガイドリング
51 ガイド立設部
52 ガイド突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセラミックス原料粉末、水、バインダ及び加熱時にガス成分を生じうる熱膨張性の発泡材を含有する材料を用いて、ハニカム状のセル壁と該セル壁に囲まれた多数のセルと外周側面を覆う筒状の外周スキンとを有するハニカム構造体を成形するためのものであり、上記セル壁と上記外周スキンとを一体的に成形することができるハニカム構造体成形用金型であって、
該ハニカム構造体成形用金型は、上記材料を供給するための供給穴を設けた供給穴部と、上記供給穴に連通して上記材料をハニカム状に成形するための格子状のスリット溝を設けたスリット溝部とを有する金型本体と、上記スリット溝部の外周部から上記材料の押出方向に伸びたガイド立設部と、該ガイド立設部から内方に向かって突出していると共に上記スリット溝部との間に間隙を設けたガイド突出部とを有するガイドリングとを備えており、
上記スリット溝部は、上記ガイド突出部に対面しない部分に、上記材料の押出方向に突出した段付部を有し、
上記スリット溝部と上記ガイド突出部との間の上記間隙の厚さをスペーサ厚a、上記段付部の外周側面と上記ガイド突出部の先端部との間の距離をクリアランスb、上記スリット溝部における上記段付部を有する部分の高さを段付高さcとした場合に、(c−a)/b>1、かつ(a/b)>1の関係を満たし、
上記段付部の外周側面と上記スリット溝部における上記段付部の周囲の部分のスリット溝形成面とが成す角度を段付角度θとした場合に、90°≦θ≦130°を満たすことを特徴とするハニカム構造体成形用金型。
【請求項2】
請求項1において、上記段付角度θは、100°≦θ≦120°を満たすことを特徴とするハニカム構造体成形用金型。
【請求項3】
ハニカム状のセル壁に囲まれた多数のセルと外周側面を覆う筒状の外周スキンとを有するハニカム構造体を製造する方法であって、
請求項1又は2に記載のハニカム構造体成形用金型を用いて、少なくともセラミックス原料粉末、水、バインダ及び加熱時にガス成分を生じうる熱膨張性の発泡材を含有する材料を押出成形し、上記ハニカム構造体を成形する成形工程と、
上記ハニカム構造体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム構造体を焼成する焼成工程とを有することを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、上記材料に対する上記発泡材の含有率は、1〜10重量%であることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、上記材料に対する上記発泡材の含有率は、3〜7重量%であることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項において、上記発泡材は、熱可塑性高分子よりなるポリマー外殻の内部に、低沸点炭化水素よりなる液状ガスを内包してなる粒子からなることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−61683(P2009−61683A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231671(P2007−231671)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】