説明

ハニカム構造体

【課題】熱衝撃が加わっても損傷しにくいハニカム構造体を提供する。
【解決手段】複数の多角形断面の流体通路を備えたハニカム構造体1であって、多角形断面の流体通路2を形成する壁面2w同士が交差する位置に、円形断面の流体通路3が形成されている。ハニカム構造体1中の温度差に起因する熱応力が発生しても、その熱応力を円形断面の流体通路3を形成する壁面3wが断面円弧状であるので、ハニカム構造体1中に発生する熱応力をある程度抑えることができる。よって、熱衝撃によるハニカム構造体1中の損傷を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。さらに詳しくは、ディーゼル機関の排ガスや石炭火力発電の排ガス等の流体中に含まれる微粒子等を捕集して浄化するために使用されるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体中に含まれる粒子状物質等を捕集するフィルタとして、ハニカム構造を有するハニカムフィルタが開発されている(例えば、特許文献1,2)。
図4に示すように、従来のハニカムフィルタ100は多孔質体によって形成されており、その軸方向に沿って伸びた複数の流体通路101,102を備えている。そして、複数の流体通路101,102のうち、流体通路102は軸方向における一端が閉塞されており、流体通路101は軸方向における他端が閉塞されている(図4(B))。
このため、ハニカムフィルタ100の軸方向のおける一端100aから流体を供給すれば、流体通路101にのみ流体が流入し、流入した液体は壁面103を通って流体通路102に流入し、流体通路102の他方の開口部、つまり、ハニカムフィルタ100の軸方向における他端100bから外部に排出される。すると、ハニカムフィルタ100を通過する間に流体は壁面103を通り、壁面103によって流体中の粒子が捕集されるから、ハニカムフィルタ100によって流体を浄化できるのである。
【0003】
しかるに、上記のごときハニカムフィルタ100を、ディーゼル機関の排ガス等のような高温流体の浄化用フィルタとして使用した場合、使用開始時には、低温のフィルタに対して高温の流体が接触することになる。すると、熱衝撃によってフィルタが損傷する可能性がある。具体的には、高温の流体がフィルタに接触したときに、フィルタ中には高温部と低温部が形成され、高温部の熱膨張によって高温部と低温部との間に熱応力が発生してクラックが入るなどの損傷を生じる可能性がある。
【0004】
かかる問題はハニカムフィルタ100が大型化するほど発生しやすくなるので、大型(例えば、直径150mm以上)のものでは、複数のセグメントを一体化して一つのフィルタ(集合フィルタ)を形成することも行われている。この場合、各セグメントの熱膨張割合が小さくなるし、セグメント間にシール剤等の弾性を有する部材が配置されていればシール剤等によって熱膨張を吸収できるから、熱衝撃を緩和でき、熱衝撃に起因する損傷を防ぐことができる。
【0005】
しかし、集合フィルタを形成するには、複数のセグメント同士の相対的な位置を正確に合わせて連結する作業や、複数のセグメント同士を連結したのち所定の形状に加工する作業が必要になるため、製造工数が増大する。そして、フィルタが大型化すれば、一つの集合フィルタの形成に必要なセグメント数が増加するので、製造工数はさらに増加する。
【0006】
一方、引用例2には、熱応力に起因するクラック等の発生を防止するために、隣り合う大容積貫通孔の長手方向に垂直な断面における重心間距離と、隣り合う小容積貫通孔の上記断面における重心間距離とを等しくする構成が開示されている。そして、引用例2には、上記のごとき構成を採用すれば、再生時に熱が均一に拡散する結果、温度分布が均一になりやすくなるから、長期間繰り返し使用しても、熱応力に起因するクラック等が発生しにくくなる旨の記載がある。
しかし、上記の構造を採用すれば、ハニカムフィルタの温度変化が緩やかな場合であれば上記のごとき効果を奏する可能性はあるものの、ハニカムフィルタとの温度差が大きい流体が急激に接触した場合には、ハニカムフィルタ中の温度分布を均一することはできない。すると、ハニカムフィルタ中には、温度差が大きい高温部と低温部とが形成されてしまうから、熱衝撃に起因する損傷を防ぐことは難しい。
【0007】
【特許文献1】特開2004−896号
【特許文献2】特開2005−118747号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、熱衝撃が加わっても損傷しにくいハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明のハニカム構造体は、複数の多角形断面の流体通路を備えたハニカム構造体であって、前記多角形断面の流体通路を形成する壁面を含む面同士が交差する位置に、円形断面の流体通路が形成されていることを特徴とする。
第2発明のハニカム構造体は、第2発明において、前記円形断面の流体通路と前記多角形断面の流体通路とを隔離する壁面は、多孔質構造を有しており、前記円形断面の流体通路は、その一端が閉塞されており、前記多角形断面の流体通路は、その他端が閉塞されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、円形断面の流体通路を形成する壁面は断面円弧状になるので、構造体中の温度差に起因する熱応力が発生しても、ハニカム構造体中に発生する熱応力をある程度抑えることができる。よって、熱衝撃によるハニカム構造体の損傷を防ぐことができる。
第2発明によれば、円形断面の流体通路と多角形断面の流体通路との間の壁面が多孔質構造を有しているので、流体を構造体の一端側から供給すれば、流体は円形断面の流体通路から流入し、円形断面の流体通路と多角形断面の流体通路との間の壁面を通過して、多角形断面の流体通路を通って構造体の他端側から排出される。すると、壁面がフィルタとして機能するので、流体中の粉体等を流体から除去することができる。また、流体が流入する流体通路が円形断面であるから、流体通路が多角形断面である場合に比べて、流体が通過する壁面の表面積に対する断面積の割合を大きくできる。すると、流体が構造体に流入するときの圧力損失も抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のハニカム構造体は、例えば、ディーゼル機関の排ガスや石炭火力発電の排ガス等の流体中に含まれる微粒子等を捕集して浄化するために使用されるものであるが、用途は特に限定されない。例えば、触媒を担持させるハニカム触媒担体としても使用できる。また、ハニカム触媒担体として使用する場合であれば、微粒子等を捕集するだけではなく、捕集した微粒子等をハニカム内で触媒燃焼させてしまうものとして使用することも可能である。
以下では、代表として、本発明のハニカム構造体を、ディーゼル機関から排出される排ガス中の粉塵を除去するフィルタとして使用する場合を説明する。
【0012】
図1は(A)は本実施形態のハニカム構造体1の概略斜視図であり、(B)はハニカム構造体1を(A)のB−B線で切断した図である。図2は(A)は本実施形態のハニカム構造体1を図1と逆方向から見たときにおける概略斜視図であり、(B)はハニカム構造体1を(A)のB−B線で切断した図である。図3(A)は本実施形態のハニカム構造体1の概略横断面図であり、(B)は他の実施形態のハニカム構造体1の概略横断面図である。
【0013】
本実施形態のハニカム構造体1は、炭化珪素(SiC)やコージライト等のセラッミクスを素材として形成されたものである。なお、ハニカム構造体1の素材は、上記のごときセラミックスに限られず、耐熱金属によって形成することも可能である。
図1〜図3に示すように、ハニカム構造体1は、複数の壁面1w,2w,3wを備えており、これらの壁面に囲まれた流体通路2,3を備えている。
前記複数の壁面1w,2w,3wのうち、壁面3wは多孔質構造を有するように形成されている。例えば、壁面3wは、気孔率が40〜90%程度、気孔の大きさがφ2μm〜φ50μm程度となるように形成されている。
【0014】
図1〜図3に示すように、ハニカム構造体1の壁面2wは、格子状に形成されており、この壁面2wに囲まれた空間が流体通路2となっている。この流体通路2は、断面形状が略四角形状であり、ハニカム構造体1の一端と他端との間を連通している。
そして、この断面略四角形状の流体通路2(以下、角形通路2という)は、その一端(図1では左端、図2では右端)が、流体を透過しない、耐熱性を有するSiC等からなる閉塞部材2bによって閉塞されている。
【0015】
なお、閉塞部材2bの素材はとくに限定されないが、ハニカム構造体1に対して排ガスなどの高温の流体を供給する場合には、壁面1w,2w,3wと同じ素材によって形成することが好ましい。なぜなら、高温の流体を供給したときにおける閉塞部材2bの熱膨張する割合を閉塞部材2bと接する壁面1w,2w,3wと同程度にすることができ、閉塞部材2bと壁面1w,2w,3wとの間に発生する熱応力を抑えることができるからである。
【0016】
一方、前記壁面2wを含む面同士が交差する部分には、前記角形通路2と平行に、ハニカム構造体1の一端と他端との間を連通する流体通路3が設けられている。
この流体通路3は、断面視円弧状である壁面3wに囲まれた空間であり、断面略円形に形成されている。例えば、流体通路3は、壁面2wを含む面同士が交差する線を中心軸とする円筒となるように形成されているのである。
そして、この断面略円形の流体通路3(以下、円形通路3という)は、その他端(図1では右端、図2では左端、)が、流体を透過しないSiC等からなる閉塞部材3bによって閉塞されている。
【0017】
なお、閉塞部材3bの素材もとくに限定されないが、ハニカム構造体1に対して排ガスなどの高温の流体を供給する場合には、閉塞部材2bと同様の理由により、壁面1w,2w,3wと同じ素材によって形成することが好ましい。
【0018】
以上のごとき構造を有しているので、本実施形態のハニカム構造体1では、以下のようにして流体が浄化される。
【0019】
まず、本実施形態のハニカム構造体1に対して、ディーゼル機関の排ガスをハニカム構造体1の一端側(図1の左端側)から供給する。すると、角形通路2の一端が閉塞部材2bによって閉塞されているので、排ガスは円形通路3からのみハニカム構造体1内に流入する。
一方、円形通路3はその他端が閉塞されているので、円形通路3に流入した排ガスは、円形通路3の他端からは外部に排出されない。しかし、円形通路3を囲む壁面3wは多孔質構造を有しており、円形通路3内の排ガスは円形通路3を形成する壁面3wを通過できる。
よって、円形通路3内の排ガスは、壁面3wを通って角形通路2に流入する。
【0020】
ここで、壁面3wは、その気孔の大きさがφ2μm〜φ50μm程度であるから、排ガスは壁面3wを通過できるものの、この排ガスに含まれる壁面3wの気孔より大きい粒径を有する粉塵等の粒子状物質は壁面3wを通過できない。このため、排ガス中に含まれる粉塵等は壁面3wによって捕集され、排ガスから除去される。
【0021】
粉塵等の粒子状物質が除去された排ガスは角形通路2に流入するが、円形通路3とは逆に、角形通路2はその他端は開放されている。このため、角形通路2に流入した排ガスは角形通路2の他端、つまり、ハニカム構造体1の他端から排出される。
【0022】
したがって、本実施形態のハニカム構造体1の一端から排ガス等の流体を供給すれば、この流体は、ハニカム構造体1内を、円形通路3、壁面3w、角形通路2の順で通過し、流体中に含まれる粉塵等は壁面3wによって捕集されて流体から除去されるから、本実施形態のハニカム構造体1によって流体を浄化することができるのである。
【0023】
ここで、排ガス等の高温の流体を本実施形態のハニカム構造体1に供給した場合、流体の供給を開始した直後等では、ハニカム構造体1は流体に比べてその温度が非常に低くなっている。このため、流体が接触した部分とその他の部分との間では大きな温度差が生じる。つまり、流体が接触した部分は高温部となり、その他の部分は低温部となる。すると、高温部と低温部では熱膨張する量が大きく異なるので、高温部と低温部との間に熱応力が発生する。
しかし、本実施形態のハニカム構造体1では、高温の流体が最初に接触するのは円形通路3を囲む壁面3wであり、この壁面3wは断面円弧状になっている。すると、壁面3wは半径方向に膨らむように熱膨張するので、低温部となる壁面2wとの間に発生する熱応力を壁面3wの変形によってある程度吸収することができる。
よって、流体の供給開始時などにおいて、ハニカム構造体1中に温度差の大きい高温部と低温部とが形成されても、熱衝撃によってハニカム構造体1が損傷することを防ぐことができる。
【0024】
なお、本実施形態のハニカム構造体1を上記のごときフィルタとして使用する場合には、各円形通路2の断面積が、各角形通路2の断面積よりも大きくなるように形成することが好ましい。すると、流体がハニカム構造体1に流入するときにおける抵抗が小さくなるし、角形通路2と円形通路2との間の壁面3wの表面積が大きくなるので、粉塵等の捕集物質が壁面3wに堆積してもその厚さを薄くできる。すると、ハニカム構造体1の経時的な圧力損失の上昇を抑えることができるし、ハニカム構造体1が捕集できる粉塵等の限界量を多くすることができる。
【0025】
また、流体を流入する円形通路2は円形断面であるから、流体通路が多角形断面である場合に比べて、流体が通過する壁面3wの表面積に対する円形通路2の断面積の割合を大きくできる。すると、流体がハニカム構造体1に流入するときの圧力損失も抑えることができる。
【0026】
さらに、本発明のハニカム構造体は、例えば、微粒子等の捕集だけでなく捕集した微粒子等をハニカム内で触媒燃焼させて消滅させてしまうハニカム触媒担体として使用する場合等には、両通路2,3に閉塞部材2b,3bを設けない状態で使用することができる。この場合でも、ハニカム構造体1中に高温部と低温部とが形成されて熱応力が発生したときに、その熱応力を円形通路3を形成する壁面3wの変形によってある程度吸収することができるから、熱衝撃によりハニカム構造体が損傷することを防ぐことができる。
【0027】
また、本発明のハニカム構造体は、例えば、セラミックス電子部品等の焼結時に使用する非反応性セッター(部品を乗せて焼結する台)として使用してもよく、かかる場合には、ハニカム構造体の壁面等を多孔質構造としなくてもよい。
【0028】
また、円形通路3は、壁面2wを含む面同士の全交差部分に設けなくてもよい。例えば、図3(B)に示すように、千鳥配置となるように円形通路3を配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のハニカム構造体は、ディーゼル機関の排ガスや石炭火力発電の排ガス等の流体中に含まれる微粒子等を捕集して浄化するフィルタに適している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)は本実施形態のハニカム構造体1の概略斜視図であり、(B)はハニカム構造体1を(A)のB−B線で切断した図である。
【図2】(A)は本実施形態のハニカム構造体1を図1と逆方向から見たときにおける概略斜視図であり、((B)はハニカム構造体1を(A)のB−B線で切断した図である。
【図3】(A)は本実施形態のハニカム構造体1の概略横断面図であり、(B)は他の実施形態のハニカム構造体1の概略横断面図である。
【図4】(A)は従来のハニカム構造体100の概略斜視図であり、(B)は(A)のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ハニカム構造体
2 流体通路
2w 壁面
2b 閉塞部材
3 流体通路
3w 壁面
3b 閉塞部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の多角形断面の流体通路を備えたハニカム構造体であって、
前記多角形断面の流体通路を形成する壁面を含む面同士が交差する位置に、円形断面の流体通路が形成されている
ことを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記円形断面の流体通路と前記多角形断面の流体通路とを隔離する壁面は、多孔質構造を有しており、
前記円形断面の流体通路は、その一端が閉塞されており、
前記多角形断面の流体通路は、その他端が閉塞されている
ことを特徴とする請求項1記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−270455(P2009−270455A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120083(P2008−120083)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(592129486)株式会社長峰製作所 (18)
【Fターム(参考)】