説明

ハニカム構造体

【課題】ガソリンエンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができ、圧力損失の増加が少ないハニカム構造体を提供する。
【解決手段】上流端面2から下流端面3まで延びる流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5を備え、下流端面3側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、セル4を区画形成する隔壁5が湾曲しているハニカム構造体100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及び排ガス浄化装置に関し、更に詳しくは、ガソリンエンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができ、圧力損失の増加が少ないハニカム構造体及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンは、吸気ポート燃料噴射の方式を採用していたため、粒子状物質(PM:パティキュレートマター)の発生が少なく、ほとんど問題にはならなかった。ここで、地球環境保護、資源節約の観点から自動車の燃費低減が求められており、乗用車において主として用いられるガソリンエンジンについては、燃費改善のために燃料直噴化が進められている。しかしながら、燃料直噴式のガソリンエンジンの場合は、吸気ポート燃料噴射の場合と比較してPMの発生量が多い。そのため、PMを大気に放出しないための対策が必要になることが予想され、上記対策の検討が始められている。
【0003】
一方、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質を除去するための捕集フィルタとして、ハニカム構造体が用いられている。粒子状物質捕集フィルタとして用いるハニカム構造体としては、両端面の所定の位置に目封止部を備えた目封止ハニカム構造体が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。ここで、目封止ハニカム構造体とは、流体(排ガス、浄化ガス)の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と最外周に位置する外周壁とを有するハニカム構造部と、このハニカム構造部における、「流体(排ガス)の入口側の端面における所定のセルの開口部」及び「流体(浄化ガス)の出口側の端面における残余のセルの開口部」に配設された目封止部とを備えるものである。このような目封止ハニカム構造体によれば、排ガスの入口側の端面からセル内に排ガスが流入し、セル内に流入した排ガスが隔壁を通過し、隔壁を通過した排ガス(浄化ガス)が排ガスの出口側の端面から排出される。そして、排ガスが隔壁を通過するときに、排ガス中に含有されるPMが隔壁により捕集され、排ガスが浄化ガスとなる。
【0004】
そこで、上記のようなディーゼルエンジンから排出される粒子状物質を除去するために使用される目封止ハニカム構造体を、ガソリンエンジンから排出される粒子状物質を除去するために使用する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−254034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来、ガソリンエンジンから排出される排ガスを処理するために、三元触媒コンバーター、NO吸蔵還元触媒等が使用されている。そのため、更に、上記のような目封止ハニカム構造体を排気系に搭載すると、排気系の圧力損失が大きくなり、エンジン出力の低下等の問題が生じると考えられる。
【0007】
また、目封止ハニカム構造体の隔壁に三元触媒を担持させたものを、上記三元触媒コンバーター、NO吸蔵還元触媒等と置き換えることが考えられる。しかし、目封止ハニカム構造体においては、流入した排ガスの全てが隔壁を通過し、排ガス中の粒子状物質及び灰分のほとんどが、隔壁で捕集されるため、圧力損失が増大し易いものであった。特に、エンジンオイル中に、灰分となる物質が多く含有される場合や、燃料中に不純物が多く含まれる場合には、エンジンから排出される排ガス中に粒子状物質や灰分が多量に含有されることになるため、圧力損失が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ガソリンエンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができ、圧力損失の増加が少ないハニカム構造体及び排ガス浄化装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム構造体及び排ガス浄化装置が提供される。
【0010】
[1] 上流端面から下流端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、前記下流端面側の端部を前記流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、前記セルを区画形成する前記隔壁が湾曲しているハニカム構造体。
【0011】
[2] 両端部以外の部分の前記隔壁は、湾曲していないか、または、前記下流端面側の端部の前記隔壁よりも湾曲の程度が小さい前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0012】
[3] 前記下流端面側の端部を前記流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、前記隔壁は、凸形状に湾曲している前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体。
【0013】
[4] 湾曲した前記隔壁からなる湾曲部は、前記湾曲部が形成された側の端面から15mmの範囲内に形成されており、複数の前記セルは、前記湾曲部が形成された側の端部を、前記流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図における一のセルの開口部の面積が、ハニカム構造体の中心軸方向の中間でハニカム構造体を切断した断面における前記一のセルの開口部の面積に対して、10〜60%の大きさである変形セルを含み、全セルの数に対する前記変形セルの数の割合が、60%以上である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0014】
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体と、流体が流入する流入口及び流体が流出する流出口を有し、前記ハニカム構造体を収納する筒状の缶体と、を備え、前記ハニカム構造体が、前記上流端面が前記缶体の前記流入口側を向くとともに前記下流端面が前記缶体の前記流出口側を向くように、前記缶体内に配置された排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハニカム構造体は、上流端面から下流端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、この隔壁の下流端面側の端部は、流体の流れ方向に垂直な断面において湾曲しており、端部以外の部分は湾曲していないため、湾曲している部分においてガソリンエンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができる。具体的には、セルを流れてきた排ガスが湾曲している部分を透過することにより排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができる。また、多孔質の隔壁は、表面に粒子状物質が吸着され易く、表面に吸着させることで粒子状物質を除去することができる。また、セルを塞ぐことなく隔壁の端部が湾曲している構成を採用しているため、目封止ハニカム構造体のように一部のセルを塞いでしまう場合に比べて圧力損失の増加が少ないものである。
【0016】
本発明の排ガス浄化装置は、本発明のハニカム構造体を備え、上記ハニカム構造体が、上流端面が缶体の流入口側を向くとともに下流端面が缶体の流出口側を向くように、缶体内に配置されているため、ハニカム構造体の湾曲している部分においてガソリンエンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができる。具体的には、セルを流れてきた排ガスが湾曲している部分を透過することにより排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができる。また、多孔質の隔壁は、表面に粒子状物質が吸着され易く、表面に吸着させることで粒子状物質を除去することができる。また、ハニカム構造体においてセルを塞ぐことなく隔壁の端部が湾曲している構成を採用しているため、目封止ハニカム構造体を備える場合に比べて圧力損失の増加が少ないものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の一方の端部における端面の一部の領域を拡大して模式的に示す平面図である。
【図3】図1に示されるハニカム構造体における排ガスの流れる方向に平行な平面で切断した断面を示す模式図である。
【図4】図1に示されるハニカム構造体の、一方の端部が湾曲した隔壁を示す模式図である。
【図5】図4に示す隔壁を矢印Aの方から見た矢視図である。
【図6】図4に示す隔壁を矢印Bの方から見た矢視図である。
【図7】図1に示されるハニカム構造体の、湾曲部が形成された側の端部を、流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図である。
【図8】本発明の排ガス浄化装置の一実施形態を示し、排ガスの流れる方向に平行な平面で切断した断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
[1]ハニカム構造体:
図1〜図3は、本発明のハニカム構造体の一実施形態を示しており、図1〜図3に示すハニカム構造体100は、上流端面2から下流端面3まで延びる流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5を備え、下流端面3側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、セル4を区画形成する隔壁5が湾曲しているものである。ハニカム構造体100は、外周に配設された外周壁7を有している。但し、本発明のハニカム構造体は、必ずしも外周壁を有する必要はない。なお、図1は、本発明のハニカム構造体100の一の実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1の一方の端部における端面(下流端面3)の一部の領域Sを拡大して模式的に示す平面図である。また、図3は、図1に示されるハニカム構造体100における隔壁5に直交するとともに隔壁5の長手方向の中間を通る平面で切断した断面を示す模式図である。
【0020】
このようなハニカム構造体100は、下流端面3側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、セル4を区画形成する隔壁5が湾曲しているため、上流端面側から微粒子状物質を含む流体(ガソリンエンジンから排気される排ガス(図3中の矢印で示す))が流入したときに、この流体が、湾曲した隔壁5からなる湾曲部10aを通過することにより、湾曲部10aによって流体中に含まれる微粒子状物質を流体から除去することができる。また、多孔質の隔壁5は、表面に粒子状物質が吸着され易く、表面に吸着させることで粒子状物質を除去することができる。また、セル4を塞ぐことなく隔壁の端部が湾曲した構成を採用しているため、例えば目封止ハニカム構造体のようにセルを塞いでしまう場合に比べて圧力損失の増加が少ないものである。
【0021】
また、セル4内を流れる流体(排ガス)は、隔壁5から離れるほど高温である。具体的には、流体の流れ方向に垂直な断面におけるセル4の中心部ほど高温の流体が流れている。ハニカム構造体100は、端部(特に下流端面側の端部)が湾曲した(上記湾曲部が形成された)構成であることにより、上記湾曲部がより高温の流体と接触することができる。そのため、エンジン始動後における隔壁の昇温速度が向上する。従って、触媒を担持させたハニカム構造体においては触媒の活性温度に到達し易く、また、ハニカム構造体の再生に際し、捕集した粒子状物質を容易に燃焼することができる。
【0022】
[1−1]隔壁:
本発明のハニカム構造体は、下流端面側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、セルを区画形成する隔壁が湾曲している。別言すれば、本発明のハニカム構造体の隔壁は、下流端面側の端部が、流体の流れ方向に垂直な断面において湾曲している。ここで、下流端面側の端部のみが、流体の流れ方向に垂直な断面において湾曲していてもよいし、下流端面側の端部及び上流端面側の端部の両方が、流体の流れ方向に垂直な断面において湾曲していてもよい。即ち、下流端面側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面のみにおいて、セルを区画形成する隔壁が湾曲していてもよいし、下流端面側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面及び上流端面側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面の両方において、セルを区画形成する隔壁が湾曲していてもよい。後者のような構成であると、上流端面側の端部に形成された湾曲部により、ハニカム構造体のセル内に流入する排ガスに乱流が生じ、セルを通過する排ガスの流れに大きな乱れ(大きな乱流)が生じる。そのため、PMと隔壁表面の接触頻度が増えることになる。従って、排ガス中に含有される粒子状物質の除去能力(捕集性能)が向上する。本明細書において「流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、隔壁が湾曲している」というときは、流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、隔壁が直線状でないことを意味する。本発明において、隔壁は、各セルをそれぞれ区画形成している壁のことである。
【0023】
下流端面側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、隔壁が凸形状に湾曲していることが好ましい。このような形状で湾曲していると、セルの中心部を流れる高温の流体と上記湾曲部が更に接触し易くなるため、エンジン始動後における隔壁の昇温速度が更に向上する。従って、触媒を担持させたハニカム構造体においては触媒の活性温度に到達し易く、また、ハニカム構造体の再生に際し、捕集した粒子状物質を容易に燃焼することができる。凸形状とは、中央部分がそれ以外の部分よりも盛り上がった形状であり、例えば、円弧状(図2参照)などを挙げることができる。
【0024】
湾曲部の形状は特に制限はないが、例えば図4及び図5に示すように、ハニカム構造体の中央から端面に向かって次第に隆起し、ハニカム構造体の端面にて最も隆起している形状であることが好ましい。このようにハニカム構造体の中央から端面に向かって次第に隆起し、ハニカム構造体の端面にて最も隆起している形状であると、PMを捕集し易くかつ圧力損失が上昇し過ぎないという利点がある。
【0025】
本発明のハニカム構造体は、両端部以外の部分の隔壁は、湾曲していないか、または、下流端面側の端部の隔壁よりも湾曲の程度が小さいことが好ましい。隔壁の、両端部以外の部分が湾曲していない場合、圧力損失の増大を防止することができる。そして、隔壁の、両端部以外の部分における湾曲の程度が、下流端面側の端部の湾曲の程度よりも小さい場合、湾曲していない場合に比べて圧力損失が増えるものの、端部以外の部分における湾曲部分によって流体の進行が適度に妨げられるためセル内で乱流が適度に発生し、PMの捕集効率が向上する。
【0026】
ここで、「下流端面側の端部の隔壁よりも湾曲の程度が小さい」とは、セルを通る流体の流れが、下流端面側の端部に比べて、下流端面側の端部以外の部分の方が阻害され難いことを意味し、具体的には、「湾曲部が形成された側の端部以外の部分を流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図における上記一のセルの開口部の面積」が、「湾曲部が形成された側の端部を流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図における一のセルの開口部の面積」に比べて、大きいことをいう。
【0027】
図4及び図5に示す隔壁5は、湾曲部1a以外の部分11aが平らな板状(湾曲しない板状)である例を示している。なお、図4は、図1に示されるハニカム構造体の、一方の端部が湾曲した隔壁を示す模式図である。図5は、図4に示す隔壁を矢印Aの方から見た矢視図である。なお、図6は、図4に示す隔壁を矢印Bの方から見た矢視図である。
【0028】
本発明のハニカム構造体は、下流端面側の端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、セルを区画形成する隔壁が湾曲していれば特に制限はないが、隔壁の交差部は湾曲していないことが好ましい。交差部が湾曲している場合、流路方向(流体の流れ方向)の圧縮強度が低下するため、ハニカム構造体に流路方向の力が加わるとハニカム構造体が破壊され易い。特に、交差部の湾曲した部分の根元から折れ曲がり破壊されるおそれがある。一方、本発明のハニカム構造体のように交差部が湾曲していない場合には、流路方向の圧縮強度が低下しない(圧縮強度が維持される)ため、流路方向の力が加わったとしてもハニカム構造体が破壊され難いという利点がある。
【0029】
隔壁の端部は、具体的には、端面から、ハニカム構造体の中心軸方向の長さ(流体の流れ方向の長さ)の25mmの位置までの範囲の部分をいう。
【0030】
湾曲部は、この湾曲部が形成された側の端面(湾曲部に近い方の端面)から15mmの範囲に形成されていることが好ましく、上記端面から5mmの範囲に形成されていることが更に好ましい。上記範囲内であると、湾曲の程度にもよるが、仮に湾曲の程度が同じ場合(セル閉塞率が同じである場合)、上記範囲外である場合に比べて流路の形状が急激に変化する(セルが急に曲がる)ことになるため、排ガスなどの流体に乱流が生じ易い。その結果、粒子状物質と隔壁表面の衝突頻度が高くなり、粒子状物質の捕集性能が向上する。上記範囲外であると、セル閉塞率が同じである場合、上記範囲内である場合に比べて流路の形状の変化が緩やかになる。そのため、流路(セル)中の流体に乱流が生じ難くなる。その結果、粒子状物質と隔壁表面の衝突頻度が低くなり、粒子状物質の捕集性能が十分に得られなくなるおそれがある。なお、「湾曲部が形成された側の端面」とは、下流端面または下流端面と上流端面との両方のことである。そして、上記端面から15mmの範囲とは、湾曲部が形成された側の端面からハニカム構造体の中心軸方向に15mmまでの範囲である。別言すれば、上記端面と、上記端面から流体の流れ方向に15mm離れた位置(深さF(図3参照))に形成される流体の流れ方向に垂直な平面との間の範囲を意味する。
【0031】
複数のセルは、湾曲部が形成された側の端部を、流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図における一のセルの開口部の面積が、ハニカム構造体の中心軸方向の中間でハニカム構造体を切断した断面における上記一のセルの開口部の面積に対して、10〜60%の大きさである変形セルを含み、全セルの数に対する変形セルの数の割合が、60%以上であることが好ましい。このような変形セルが上記範囲を満たす場合、PM詰まりが生じ難く良好にPMを捕集できる。ここで、変形セルは、上記条件を満たすセルのことであるが、別言すれば、湾曲部によって流体がセル内を直進することを妨げているセルのことであり、例えば、湾曲部を有する隔壁により区画形成されているセルであったとしても、湾曲部によって流体がセル内を直進することを妨げていない場合には変形セルには該当しない。
【0032】
図7は、図1に示されるハニカム構造体100の、湾曲部10aが形成された側の端部を、流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図の一部を示している。図7において、この投影図(図7)における一の変形セル4aの開口部8の面積S1(上記投影図において隔壁が投影されている領域とそれ以外の領域とに分けた場合の上記「それ以外の領域」)が、ハニカム構造体100の中心軸方向の中間M(図3参照)でハニカム構造体100を切断した断面における一の変形セル4aの開口部18の面積S0(図7において破線で示す四角形の面積)に対して、10〜60%である例を示している。以下、(S1/S0)×100で算出される値を「セル閉塞率」と記す場合がある。
【0033】
全セルの数に対する変形セルの数の割合は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることが更に好ましい。上記範囲内であると、得られるハニカム構造体は、粒子状物質を効果的に除去することができ、圧力損失の増加がより少ない。
【0034】
隔壁5の気孔率は、25〜65%であることが好ましく、30〜50%であることが更に好ましい。25%より小さいと、ハニカム構造体に触媒を担持させる場合、触媒を担持させることが困難になることがある。65%より大きいと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。隔壁5の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0035】
隔壁5の厚さは、0.05〜0.45mmであることが好ましく、0.10〜0.25mmであることが更に好ましい。0.05mmより薄いと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。0.45mmより厚いと、圧力損失が増大することがある。隔壁5の厚さは、中心軸に平行な断面を顕微鏡観察する方法で測定した値である。なお、隔壁5の厚さとは、湾曲している部分以外の部分における隔壁5の厚さのことである。
【0036】
ハニカム構造体100のセル密度(ハニカム構造体100の流体の流れ方向に垂直な断面における、単位面積当たりのセルの個数)は、30〜150個/cmであることが好ましく、50〜150個/cmであることが更に好ましい。30個/cmより小さいと、捕集性能が低下することがある。150個/cmより大きいと、圧力損失が大きくなることがある。
【0037】
隔壁5の平均細孔径は、10〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであることが更に好ましい。10μmより小さいと、粒子状物質の堆積が少ない場合でも圧力損失が増大することがある。一方、100μmより大きいと、ハニカム構造体が脆くなり欠落し易くなることがあり、また、粒子状物質の捕集性能が低下することがある。隔壁5の平均細孔径は、水銀ポロシメータで測定した値である。
【0038】
ハニカム構造体100のセル4の形状は、特に限定されないが、流体の流れ方向に垂直な断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、または楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。四角形と八角形との組み合わせであることも好ましい態様である。
【0039】
外周壁7の厚さは、特に限定されないが、1〜7mmが好ましい。1mmより薄いと、強度が低下することがある。7mmより厚いと、圧力損失が増大することがある。
【0040】
ハニカム構造体100の流れ方向に垂直に切断した断面の形状は、特に限定されないが、円、楕円、多角形等が好ましい。ハニカム構造体100は、流体の流れ方向を中心軸方向とする円柱状であることが好ましい。また、ハニカム構造体100の大きさは、特に限定されないが、流体の流れ方向における長さが50〜400mmであることが好ましい。具体的には、ハニカム構造体100の形状が円柱状の場合、下流端面の直径は、50〜400mmであることが好ましい。
【0041】
ハニカム構造体100の隔壁5及び外周壁7は、セラミックを主成分とするものであることが好ましい。隔壁5及び外周壁7の材質としては、具体的には、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたコージェライトが好ましい。隔壁5と外周壁7の材質は、同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。また、「セラミックを主成分とする」というときは、セラミックを全体の80質量%以上含有することをいう。
【0042】
[1−2]触媒:
本実施形態のハニカム構造体100においては、隔壁5に触媒が担持されていることが好ましい。担持される触媒は、目的に応じて適宜決定することができる。例えば、三元触媒、酸化触媒、NO選択還元触媒、NO吸蔵還元触媒などを挙げることができる。触媒の単位体積当りの担持量は、10〜300g/リットルであることが好ましく、15〜250g/リットルであることが更に好ましい。上記担持量が10g/リットル未満であると、触媒機能が十分に得られないおそれがある。一方、300g/リットル超であると、流路が狭くなり、圧力損失が大きくなることがある。
【0043】
三元触媒とは、主に炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)を浄化する触媒のことをいう。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を含む触媒を挙げることができる。この三元触媒により、炭化水素は水と二酸化炭素に、一酸化炭素は二酸化炭素に、窒素酸化物は窒素に、それぞれ酸化或いは還元によって浄化される。
【0044】
酸化触媒としては貴金属を含有するものを挙げることができ、具体的には、Pt、Rh及びPdからなる群より選択される少なくとも一種を含有するものが好ましい。貴金属の合計量は、ハニカム構造体100の単位体積当り、0.1〜10.0g/リットルであることが好ましい。
【0045】
NO選択還元触媒としては、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含有するものを挙げることができる。
【0046】
NO吸蔵還元触媒としては、アルカリ金属、及び/またはアルカリ土類金属等を挙げることができる。アルカリ金属としては、K、Na、Li等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、Caなどを挙げることができる。
【0047】
[2]ハニカム構造体の製造方法:
まず、成形原料を混練して坏土とする。次に、得られた坏土をハニカム形状に押出成形して押出成形体を得た後、この押出成形体の少なくとも一方の端部を、ステンレス鋼(SUS)などの金属製の糸(太さ0.01〜0.8mm)、ステンレス鋼(SUS)製やアルミニウム製の金属板などの切断手段により切断して、隔壁の端部を、流体の流れ方向に垂直な面においてセルの内側に湾曲させたハニカム成形体を得ることができる。次に、得られたハニカム成形体を焼成することによってハニカム構造体を作製することができる。上記焼成の後、必要に応じて、隔壁に触媒を担持させることによって触媒が担持されたハニカム構造体(ハニカム触媒体)を作製することができる。なお、坏土をハニカム形状に押出成形した後、上記切断手段により切断することなく、端面を押し潰すことによって、隔壁の端部を、流体の流れ方向に垂直な面においてセルの内側に湾曲させることもできる。また、ハニカム形状に押出成形して、中心軸方向に長い柱状の連続ハニカム成形体を得た後、得られた連続ハニカム成形体を、上記切断手段により切断することによりハニカム成形体を得てもよい。上記切断手段は、押出成形体を切断する際に隔壁の端部を上記切断手段の進行方向に変形させながら進む。従って、上記切断手段は、上記隔壁の端部に変形を生じさせることができる程度に押出成形体との抵抗値が大きいものである。具体例としては、上記太さのステンレス鋼などを挙げることができる。
【0048】
切断手段の移動速度(押出成形体の端部の切断速度)は、押出成形体を切断する際に隔壁の端部を上記切断手段の進行方向に変形させる限り特に制限はなく、切断手段の材質や太さとの関係により適宜決定することができるが、10〜20cm/秒であることが好ましい。
【0049】
湾曲部を形成しない側の端部においては、従来のハニカム構造体の製造に使用されている公知の切断手段(鋭利な金属刃など)により従来公知の条件で切断することができる。
【0050】
成形原料は、セラミック原料に分散媒及び添加剤を加えたものであることが好ましく、添加剤としては、有機バインダ、造孔材、界面活性剤等を挙げることができる。分散媒としては、水等を挙げることができる。
【0051】
セラミック原料としては、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト化原料、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたコージェライト化原料が好ましい。
【0052】
有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。有機バインダの含有量は、セラミック原料100質量部に対して、3〜10質量部であることが好ましい。
【0053】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、8〜15質量部であることが好ましい。
【0054】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜5.0質量部であることが好ましい。
【0055】
分散媒の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.2〜3.0質量部であることが好ましい。
【0056】
使用するセラミック原料(骨材粒子)の粒子径及び配合量、並びに添加する造孔材の粒子径及び配合量を調整することにより、所望の気孔率、平均細孔径の多孔質基材を得ることができる。
【0057】
成形原料を混練して坏土を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。押出成形は、所望のセル形状、隔壁の厚さ、セル密度を有する口金を用いて行うことができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0058】
焼成温度は、ハニカム成形体の材質よって適宜決定することができる。例えば、ハニカム成形体の材質がコージェライトの場合、焼成温度は、1380〜1450℃が好ましく、1400〜1440℃が更に好ましい。また、焼成時間は、3〜10時間程度とすることが好ましい。
【0059】
ハニカム成形体を焼成する前に乾燥させてもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、これらの中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥または熱風乾燥を単独でまたは組み合わせて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、乾燥温度30〜150℃、乾燥時間1分〜2時間とすることが好ましい。
【0060】
ハニカム構造体の隔壁に触媒を担持する方法は、特に限定されないが、例えば、ハニカム構造体の隔壁に触媒スラリーを塗工して、乾燥、焼付けを行う方法を挙げることができる。触媒スラリーを塗工する方法は、特に限定されず、公知の方法で塗工することができる。例えば、まず、触媒を含有する触媒スラリーを調製する。その後、調製した触媒スラリーを、ディッピングや吸引によりセル内に流入させる。この触媒スラリーは、セル内の隔壁の表面全体に塗工することが好ましい。そして、触媒スラリーをセル内に流入させた後に、余剰スラリーを圧縮空気で吹き飛ばす。その後、触媒スラリーを乾燥、焼付けすることにより、セル内の隔壁表面に触媒が担持されたハニカム構造体を得ることができる。乾燥条件は、80〜150℃、1〜6時間とすることが好ましい。また、焼付け条件は450〜700℃、0.5〜6時間とすることが好ましい。なお、触媒スラリーに含有される触媒以外の成分としては、アルミナ等が挙げられる。
【0061】
[3]排ガス浄化装置:
本発明の排ガス浄化装置の一実施形態は、図8に示すように、ハニカム構造体100(本発明のハニカム構造体)と、排ガスG1が流入する流入口22及び浄化された排ガスG2が流出する流出口23を有し、ハニカム構造体100を収納する筒状の缶体21とを備え、ハニカム構造体100が、上流端面2が缶体21の流入口22側を向くとともに下流端面3が缶体21の流出口23側を向くように、缶体21内に配置されたものである。図8は、本発明の排ガス浄化装置の一実施形態を示し、排ガスの流れる方向に平行な平面で切断した断面を示す模式図である。
【0062】
このように、本実施形態の排ガス浄化装置200は、ハニカム構造体100(本発明のハニカム構造体)を備え、上記ハニカム構造体100が、上流端面2が缶体21の流入口22側を向くとともに下流端面3が缶体21の流出口23側を向くように、缶体21内に配置されているため、ハニカム構造体100の湾曲している部分においてガソリンエンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができる。具体的には、セル4(変形セル4a)を流れてきた排ガスが湾曲している部分を透過することにより排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができる。また、多孔質の隔壁5は、表面に粒子状物質が吸着され易く、表面に吸着させることで粒子状物質を除去することができる。また、セル4を塞ぐことなく隔壁の一部が湾曲している構成を採用しているため、目封止ハニカム構造体のように一部のセル4を塞いでしまう場合に比べて圧力損失の増加が少ないものである。
【0063】
[3−1]ハニカム構造体:
本発明の排ガス浄化装置において、缶体内に収納されるハニカム構造体は、上記本発明のハニカム構造体である。ハニカム構造体100の個数は、粒子状物質の捕集性能、圧力損失等が所望の値になるように、また、排ガス中の粒子状物質の排出規制の程度によって、適宜決定することができる。
【0064】
缶体内に2個以上のハニカム構造体を配置する場合には、複数のハニカム構造体は、全て、「上流端面2が缶体21の流入口22側を向くとともに下流端面3が缶体21の流出口23側を向く」ように配置される。また、ハニカム構造体を2個以上配置する場合、それぞれのハニカム構造体の「セルの延びる方向に直交する断面」における直径は、他のハニカム構造体の「セルの延びる方向に直交する断面」における直径と同じであることが好ましいが、直径の異なるハニカム構造体があってもよい。
【0065】
例えば、図8は、ハニカム構造体100を1つ備えている排ガス浄化装置200の例であり、図8に示す排ガス浄化装置200においては、1つのハニカム構造体100が、上流端面2が缶体21の流入口22側を向くとともに下流端面3が缶体21の流出口23側を向いた状態で、缶体21内に配置されている。
【0066】
[3−2]缶体:
排ガス浄化装置200において、缶体21は、排ガスG1が流入する流入口22及び浄化された排ガスG2が流出する流出口23を有し、ハニカム構造体100を収納する、筒状の構造体である。
【0067】
缶体21は、特に限定されるものではなく、自動車排ガス等の排ガス浄化用のハニカムフィルタを収納するために通常用いられるものを用いることができる。缶体21の材質としては、ステンレス鋼等の金属を挙げることができる。缶体21の大きさは、ハニカム構造体100にクッション材31を巻きつけた状態で圧入できる大きさであることが好ましい。缶体21は、筒形状の両端部がテーパー状に細くなり、流入口22及び流出口23の「排ガスが流れる方向に直交する断面」における直径が、中央部のハニカム構造体が収納される部分の「排ガスが流れる方向に直交する断面」における直径より小さいことが好ましい。具体的には、缶体21の中央部の上記直径は、60〜410mmが好ましい。また、缶体21の流入口22及び流出口23の上記直径は、60〜410mmが好ましい。
【0068】
排ガス浄化装置200において、缶体21内に2個以上のハニカム構造体100を配置する場合、各ハニカム構造体100間の距離(即ち、隣合うハニカム構造体の向かい合う流入端面と流出端面との間の距離)は、1〜90mmが好ましく、2〜50mmが更に好ましい。1mmより短いと、隣り合うハニカム構造体100同士が接触し、破損等が生じることがある。90mmより長いと、排ガス浄化装置200が大きくなることがある。
【0069】
ハニカム構造体100は、外周にクッション材31が巻き付けられた状態で、缶体21内に圧入されていることが好ましい。このような状態で収納されると、ハニカム構造体100が缶体21内で移動することを防止することができ、缶体21内で安定させることができる。これにより、ハニカム構造体100が破損されることが防止される。クッション材31としては、特に限定されないが、耐熱無機絶縁マット等を挙げることができる。
【0070】
また、ハニカム構造体100は、留め具32により両端面を固定された状態で、缶体21内に収納されていることが好ましい。留め具32は、平板の中央部が取り除かれた形状であるリング状であってもよいし、ハニカム構造体100の端面の外縁の一部を留める板状であってもよい。留め具32の材質は、セラミックであってもよいし、ステンレス鋼、鉄鋼等の金属であってもよい。
【0071】
[4]排ガス浄化装置の製造方法:
図8に示される本発明の排ガス浄化装置の一の実施形態(排ガス浄化装置200)を製造する方法としては、本発明のハニカム構造体の一の実施形態(ハニカム構造体100)の外周に、クッション31材を巻きつけ、クッション材31が巻き付けられたハニカム構造体100を、缶体21内に圧入することにより排ガス浄化装置200を得る方法であることが好ましい。
【0072】
クッション材31としては、耐熱無機絶縁マット等を挙げることができる。このように収納すると、ハニカム構造体100が缶体21内で移動することを防止することができる。
【0073】
缶体21は、公知方法で作製することができる。例えば、フェライト系ステンレスからなる板材料を、プレス加工して、溶接することによって作製することができる。缶体の形状、大きさ等の条件は、上記本発明の排ガス浄化装置の一実施形態において好ましいとされた条件であることが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、隔壁の平均細孔径及び気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0075】
(実施例1)
焼成後にコージェライトとなるように、タルク、カオリン、アルミナ、シリカ等を所定の配合割合で調合し、有機バインダ、界面活性剤、水を加えて坏土を得た。
【0076】
得られた坏土を押出成形機を用いて、円筒のハニカム形状に成形して押出成形体を得た後、この押出成形体の一方の端部を、ステンレス鋼(SUS)製の糸(太さ0.05mm)で切断するとともに、鋭利な金属刃で他方の端部を切断することによって、隔壁の下流側の端部(一方の端部)が、流体の流れ方向に垂直な面においてセルの内側に湾曲しており、上流側の端部(他方の端部)は湾曲していない円筒状のハニカム成形体を得た。なお、上記糸で切断する際における上記糸の移動速度は、15cm/秒とした。
【0077】
得られたハニカム成形体を、熱風乾燥機を用いて120℃で1時間乾燥し、その後、1350〜1450℃で6時間焼成してハニカム構造体を得た。
【0078】
このハニカム構造体は、セル閉塞率が40%であり、湾曲部の形成範囲が20mmであり(即ち、湾曲部が形成された側の端面(下流端面)から20mmの範囲内に形成されており)、厚さ割合が30%であり、全セルの数に対する変形セルの数の割合が70%であった。また、このハニカム構造体は、隔壁の厚さ(隔壁の、流体の流れ方向の中間位置における厚さ)が120μmであり、セル密度が62セル/cmであり、端面(下流端面、上流端面)の直径が93mmであり、中心軸方向長さ(流体の流れ方向の長さ)が76mmであり、隔壁の平均細孔径が4μmであり、隔壁の気孔率が32%であった。
【0079】
得られたハニカム構造体について、以下の方法で、「捕集性能」、「PM詰まり」、及び「圧力損失」を評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「セル閉塞率」は、全セルのセル閉塞率の平均値を示す。湾曲部の形成範囲の値(mm)は、湾曲部が形成された側の端面(下流端面、上流端面)からの距離を示す。
【0080】
[捕集性能]
得られたハニカム構造体を、厚さ2mmの仕切り板が配設された、流入口及び流出口を有する金属製(具体的には、フェライト系ステンレス製)の缶体内に収納した。収納に際しては、セラミックス繊維を主成分とするマットでハニカム構造体の外周をそれぞれ覆い、かつ、ハニカム構造体が、上流端面が缶体の流入口側を向くとともに下流端面が缶体の流出口側を向くようにして、ハニカム構造体を缶体内に圧入して固定した。このようにして、排ガス浄化装置を作製した。作製した排ガス浄化装置を、排気量2Lのディーゼルエンジンの排気系統に取り付けた後、排ガス温度200℃、排ガス流量2Nm/分の条件で上記エンジンを運転した。そして、ハニカム構造体にPMが0.2g/L堆積したときの捕集効率を測定した。その後、以下の評価基準で捕集性能の評価を行った。式:[本実施例のハニカム構造体の捕集効率(%)]−[比較例1のハニカム構造体の捕集効率(%)]により算出される値が、25%以上のときは「AA」と評価し、25%未満で20%以上のときは「A」と評価し、20%未満で15%以上のときは「B」と評価し、15%未満で10%以上のときは「C」と評価した。なお、捕集効率は、式:(ハニカム構造体の出口側から排出されたPM量(g)/ハニカム構造体に供給されたPM量(g))×100により測定することができる。
【0081】
[PM詰まり]
上記[捕集性能]の評価後のハニカム構造体の隔壁を目視することによりPM詰まりの有無を確認した。PM詰まりが観察された場合には「詰まる」とし、PM詰まりが観察されなかった場合には「詰まらない」とした。
【0082】
【表1】

【0083】
表1中、「形状」の欄における「−」は、ハニカム構造体が、隔壁の端部が湾曲していない形状である(湾曲部が形成されていない)ことを示し、「凸」は、隔壁の端部が湾曲している形状である(湾曲部が形成されている)ことを示す。そして、この「凸」は、具体的には、図4及び図5に示すような形状であることを示している。即ち、端部を流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、セルを区画形成する隔壁が凸形状に湾曲しており、かつ、ハニカム構造体の中央から端面に向かって次第に隆起し、ハニカム構造体の端面にて最も隆起している形状であることを示す。
【0084】
(実施例2〜17)
ハニカム構造体の形状、セル閉塞率、湾曲部の形成範囲、変形セルの数の割合、及び厚さ割合がそれぞれ表1に示すものとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様の隔壁の厚さ(隔壁の、流体の流れ方向の中間位置における厚さ)、セル密度、端面の直径、中心軸方向長さ(流体の流れ方向の長さ)、隔壁の平均細孔径、及び、隔壁の気孔率のハニカム構造体(実施例2〜17のハニカム構造体)を作製した。作製した各ハニカム構造体について、実施例1と同様の方法で「捕集性能」、及び「PM詰まり」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0085】
(実施例18)
焼成後にコージェライトとなるように、タルク、カオリン、アルミナ、シリカ等を所定の配合割合で調合し、有機バインダ、界面活性剤、水を加えて坏土を得た。
【0086】
得られた坏土を押出成形機を用いて、円筒のハニカム形状に成形して押出成形体を得た後、この押出成形体の両方の端部を、ステンレス鋼(SUS)製の糸(太さ0.05mm)で切断することによって、隔壁の下流側の端部(一方の端部)及び上流側の端部(他方の端部)が、流体の流れ方向に垂直な面において湾曲している円筒状のハニカム成形体を得た。なお、上記糸で切断する際における上記糸の移動速度は、18cm/秒とした。
【0087】
得られたハニカム成形体を、熱風乾燥機を用いて120℃で1時間乾燥し、その後、1350〜1450℃で6時間焼成してハニカム構造体を得た。
【0088】
このハニカム構造体は、下流端面において、セル閉塞率が40%であり、湾曲部の形成範囲が2mmであり(即ち、湾曲部が、下流端面から2mmの範囲に形成されている)、厚さ割合が30%であり、全セルの数に対する変形セルの数の割合(変形セルの数の割合)が70%であった。そして、上流端面において、セル閉塞率が40%であり、湾曲部の形成範囲が2mmであり(即ち、湾曲部が、下流端面から2mmの範囲に形成されている)、厚さ割合が30%であり、全セルの数に対する変形セルの数の割合(変形セルの数の割合)が70%であった。また、このハニカム構造体は、隔壁の厚さ(隔壁の、流体の流れ方向の中間位置における厚さ)が120μmであり、セル密度が62セル/cmであり、端面の直径が93mmであり、中心軸方向長さ(流体の流れ方向の長さ)が76mmであり、隔壁の平均細孔径が4μmであり、隔壁の気孔率が32%であった。
【0089】
得られたハニカム構造体について、上記の方法で、「捕集性能」、及び「PM詰まり」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
焼成後にコージェライトとなるように、タルク、カオリン、アルミナ、シリカ等を所定の配合割合で調合し、有機バインダ、界面活性剤、水を加えて坏土を得た。
【0091】
得られた坏土を押出成形機を用いて、円筒のハニカム形状に成形して押出成形体を得た後、鋭利な金属刃で両端部を切断して、円筒状のハニカム成形体を得た。
【0092】
得られたハニカム成形体を、熱風乾燥機を用いて120℃で1時間乾燥し、その後、1300〜1450℃で6時間焼成してハニカム構造体を得た。
【0093】
このハニカム構造体は、セル閉塞率が0%であり、湾曲部の形成範囲が0mmであり(即ち、湾曲部は形成せず)、厚さ割合が100%であり、全セルの数に対する変形セルの数の割合が0%であった。また、このハニカム構造体は、隔壁の厚さ(隔壁の、流体の流れ方向の中間位置における厚さ)が120μmであり、セル密度が62セル/cmであり、端面の直径が93mmであり、中心軸方向長さ(流体の流れ方向の長さ)が76mmであり、隔壁の平均細孔径が3μmであり、隔壁の気孔率が32%であった。
【0094】
得られたハニカム構造体について、実施例1と同様の方法で「捕集性能」、及び「PM詰まり」を評価した。評価結果を表1に示す。なお、本比較例において「捕集性能」が「−」であるのは、本比較例のハニカム構造体における捕集効率を基準として実施例1〜18のハニカム構造体の捕集効率を算出して捕集性能を評価しているためである。
【0095】
表1から明らかなように、実施例1〜18のハニカム構造体は、比較例1のハニカム構造体に比べて、エンジンから排気される排ガス中に含有される粒子状物質を除去することができることが確認でき、また、圧力損失の増加が少ないものである。
【0096】
実施例2〜5では、「湾曲部の形成範囲(mm)」が15mm以内であるので、実施例1(「湾曲部の形成範囲(mm)」が20mm)に比べて、流路の形状が急激に変化する(セルが急に曲がる)ことになるため、排ガスなどの流体に乱流が生じ易く、その結果、粒子状物質と隔壁表面の衝突頻度が高くなり、粒子状物質の捕集性能の評価が良好であった。
【0097】
実施例7〜10では、「セル閉塞率(%)」が10〜60%の範囲であるので、実施例11(「セル閉塞率(%)」が65%)に比べてPM詰まりの評価が良好であり、また、実施例6(「セル閉塞率(%)」が8%)に比べて捕集されるPMが多くなり、PM捕集性能の評価が良好であった。
【0098】
比較例1では、隔壁が湾曲した部分を有していないため、セルに流入した流体(排ガス)が一方の端面から他方の端面まで流れが規制されることなく流れる。そのため、「捕集性能」が十分に得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のハニカム構造体及び本発明の排ガス浄化装置は、ガソリンエンジンから排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
2:上流端面、3:下流端面、4:セル、4a:変形セル、5:隔壁、7:外周壁、8,18:開口部、10a:湾曲部、11a:湾曲した端部以外の部分、12:交差部、21:缶体、22:流入口、23:流出口、31:クッション材、32:留め具、100:ハニカム構造体、200:排ガス浄化装置、G1:排ガス、G2:浄化された排ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流端面から下流端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、
前記下流端面側の端部を前記流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、前記セルを区画形成する前記隔壁が湾曲しているハニカム構造体。
【請求項2】
両端部以外の部分の前記隔壁は、湾曲していないか、または、前記下流端面側の端部の前記隔壁よりも湾曲の程度が小さい請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記下流端面側の端部を前記流体の流れ方向に垂直に切断した断面において、前記隔壁は、凸形状に湾曲している請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
湾曲した前記隔壁からなる湾曲部は、前記湾曲部が形成された側の端面から15mmの範囲内に形成されており、
複数の前記セルは、前記湾曲部が形成された側の端部を、前記流体の流れ方向に垂直な平面に投影したときの投影図における一のセルの開口部の面積が、ハニカム構造体の中心軸方向の中間でハニカム構造体を切断した断面における前記一のセルの開口部の面積に対して、10〜60%の大きさである変形セルを含み、
全セルの数に対する前記変形セルの数の割合が、60%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
流体が流入する流入口及び流体が流出する流出口を有し、前記ハニカム構造体を収納する筒状の缶体と、を備え、
前記ハニカム構造体が、前記上流端面が前記缶体の前記流入口側を向くとともに前記下流端面が前記缶体の前記流出口側を向くように、前記缶体内に配置された排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−115744(P2012−115744A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266478(P2010−266478)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】