説明

ハンチントン病を治療するための組織カリクレイン

本発明は、前駆症状および成人発症段階のハンチントン病もしくはその症状、ならびに/または若年性ハンチントン病もしくはその症状を治療する方法に関する。本発明の方法は、治療有効量の組織カリクレイン、その変異体または活性断片を投与するステップを含む。本発明はさらに、経口または鼻腔内投与するために製剤化された治療有効量の組織カリクレイン、その変異体または活性断片を含む医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、「ハンチントン病を治療するためのカリクレインの使用」という表題で2009年4月22日に出願された、米国特許出願第61/171,579号の利益および優先権を主張する。
【0002】
上記特許出願の内容は、本明細書の詳細な説明中に、参照により本明細書に明白に組み込まれている。
【0003】
本発明は、成人型ハンチントン病、若年性ハンチントン病の前駆症状および発症、ならびに関連状態を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ハンチントン病(HD)は、HD遺伝子の5'末端でのCAGトリヌクレオチドリピートの不安定な伸長から生じるポリグルタミン神経変性障害である(The Huntington's Disease Collaborative Research Group、1993)。この突然変異は、タンパク質のN末端でグルタミン酸残基の伸長を有する変異ハンチンチンタンパク質の形成をもたらす。HDは、突然変異体HD遺伝子の対立遺伝子が不安定であり、CAGリピートが増減し得る常染色体性遺伝性疾患である。CAGリピートの数は、疾患の重症度の主な決定要因であり(Butterworthら、1998)、35〜39のリピートは、遅発型発症に関連し、40〜50のリピートは一般的な成人発症に関連し、より長いリピートは若年性発症に関連する(The Huntington's Disease Collaborative Research Group、1993)。
【0005】
この疾患は、100,000人当たり5〜10の症例の有病率を有し、北アメリカにおいて約30,000人が発症している(HerschおよびRosas、2008)。臨床的な発症の平均年齢は、約37歳であり(成人発症型)、発症して約10〜15年後に、患者は一般に、心不全または嚥下性肺炎で死亡する。成人発症型HDを生じさせる根本的なプロセスは、HDが明確に発症し、運動障害の存在によって臨床的に診断される10〜20年前に活性であると考えられている。HDプレマニフェスト(premanifest)前駆症状から診断(マニフェストHD)への移行は、PETおよびMRIによって検出される場合の、線条体、大脳皮質、および脳の白質領域の進行性神経細胞低代謝および神経変性(神経細胞減少/脳萎縮/体積減少)によって分かる(Ciarmielloら、2006;Harrisら、1999)。前駆症状段階の間に、運動技能、行動、代謝的および心理学的領域の段階的な変化が見られる。
【0006】
HDは、運動障害として分類され、これは、その最も早い段階において、不穏状態、異常な眼球運動、反射亢進、指叩きの障害、ラピッドオルタネーティングハンドムーブメント(rapid alternating hand movement)、および軽度の構音障害を含めた軽微な運動技能異常を生じさせる(AubeeluckおよびWilson、2008)。疾患の中間段階では、舞踏病(急速な、絶え間ない運動)を含めて、不随意性運動異常がより顕著になる。随意運動機能障害には、嚥下障害(嚥下運動)、構音障害、および歩行障害が含まれることになる。疾患の最終段階で、運動緩慢、運動低下、硬直、およびジストニアが、舞踏病運動を支配し、これに取って換わる。この段階までに、多くのHD患者は、運動の減少および食物嚥下の困難により、筋肉の消耗、脱水、および体重減少も経験し、したがって、食事介助、流動物を増やすこと、および運動の補助が、介護者の補助とともに必要である。集中、組織化、空間的知覚および記憶力における認知障害(認知症)、ならびに抑うつ症(低エネルギー、睡眠障害)、人格変化(被刺激性、低エネルギー、感情鈍麻、性快感消失症)、および双極性障害(妄想、幻覚、パラノイア)を含めた非認知性精神医学的欠陥を含む非運動性症状もHDにおいて存在する。
【0007】
現在の治療は、抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジン、オランザピン)、抗うつ剤(フルオキセチン、セルトラリン塩酸塩、ノルトリプチリン)、精神安定薬(ベンゾジアゼピン、パロキセチン、ベンラフェキシン、β-遮断薬)、気分安定剤(リチウム、バルプロ酸塩、カルバマゼピン)、およびボツリヌス毒素(筋収縮および顎の噛み締めのため)薬物療法を含めて、症状を予防することに注目されている。
【0008】
HDにおける神経変性の特徴は、脳の線条体領域の萎縮である(Vonsattelら、1985)。線条体内で、中型有棘神経細胞と呼ばれる神経細胞の特定のグループが、最も劣化しやすい。これらの神経細胞は、GABA作動性であり、これらは、阻害性神経伝達物質のγ-アミノ酪酸(GABA)を産生し、したがって、体、肢、および眼の運動の制御に関与する(GilおよびRego、2008)。これらは、ドーパミン作動性興奮性入力およびグルタミン酸作動性興奮性入力を、それぞれ、黒質緻密部および大脳皮質から受ける。したがって、これらの中型有棘神経細胞阻害性入力の神経変性損失(neurodegenerative loss)は、HD患者に見られる制御されない運動に導くと考えられている。
【0009】
伸長されたN末端ポリグルタミン酸末端を有する変異ハンチンチンタンパク質が、神経変性の主原因であると考えられている。野生型ハンチンチンの正常細胞機能は、依然として完全に明らかでないが、様々なタンパク質間相互作用、例えば、HAP1/ダイナクチン(BDNFの小胞輸送)(Gauthierら、2004)、HIP1(細胞骨格およびエンドサイトーシス)(Kaltenbachら、2007; Waelterら、2001)、HIP2(プロテアーゼによるユビキチン媒介性タンパク質分解)(de Prilら、2007)、GAPDH(解糖)(Kaltenbachら、2007)、PSD95(シナプス後膜でのNMDA受容体の固着)(Sunら、2001)、細胞質中のREST-NRSF転写因子複合体(BDNF転写、神経細胞生存を可能にする)(Zuccatoら、2003)、カスパーゼ-3、カスパーゼ-6、カスパーゼ-8の活性化の防止(抗アポトーシス、神経細胞生存)(GilおよびRego、2008)などを通じた複数の細胞過程および経路に関与すると思われる。
【0010】
しかし、変異ハンチンチンの毒性は、細胞機能不全およびアポトーシスをもたらすハンチンチン機能の複数の突然変異体の獲得およびこの機能の野生型の喪失によって媒介されると考えられている。
【0011】
変異ハンチンチンタンパク質は、ミスフォールドされたタンパク質のユビキチン-プロテアソーム分解を遮断することができ、アポトーシスに導く(Janaら、2001)。変異タンパク質は、転写因子(例えば、CBP、CBP-TAFII130、Sp1、NFκB)と異常に相互作用することによって、ヒストンのアセチル化および転写に悪影響する場合がある(Rozeら、2008)。これは、細胞質中でREST/NRSF抑制因子にもはや結合することができず、重要な神経細胞生存因子であるBDNF発現を阻害し(Zuccatoら、2003)、野生型ハンチンチンによって通常阻害されるカスパーゼ-8を活性化する(Gervaisら、2002)。変異ハンチンチンは、PGC-1αの活性を抑制する場合もあり(Cuiら、2006)、ROS-解毒酵素およびミトコンドリア発生の転写を減少させ、ミトコンドリア機能不全(ATPの減少、ROS酸化的ストレスの増大)をもたらす。
【0012】
変異ハンチンチンはまた、軸索輸送を混乱させ、シナプスにおける機能不全に導く。これには、軸索輸送のためにHAP1と相互作用する能力の喪失、およびベシクル再利用および受容体エンドサイトーシスに関与するタンパク質(例えば、コンプレキシンII、シナプトブレビン-2、ラブフィリンA)の欠乏が含まれる(GilおよびRego、2008)。変異ハンチンチンとPSD-95の相互作用(Sunら、2001)の欠如は、NMDA(NR2Bサブユニット)受容体のシナプスへの輸送を増大させ、これにより、過剰なCa2+流入によるグルタミン酸興奮毒性、およびミトコンドリア機能不全誘発アポトーシスに至る。興奮毒性は、線条体中に高濃度で見出される神経伝達物質であるドーパミンによって増強される(Tangら、2007)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,534,615号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Lehninger, A.L.、Biochemistry、2版、71〜92頁、(1975)、Worth Publishers、New York
【非特許文献2】RobertsおよびVellaccio、The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology、GrossおよびMeiehofer編、5巻 341頁、Academic Press, Inc、N.Y. 1983
【非特許文献3】Bornら、Nat. Neurosci. 2002、5(6):514〜6頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
HDにおいて使用される現在の治療のいずれも、神経変性によって引き起こされるHDの発症または進行を予防せず、これらは、疾患の症状の一部を一時的に軽減するだけである。証明された神経保護療法はまったく存在しないので、進行中の薬物開発は、変異ハンチンチンが引き起こす様々なタイプの細胞機能不全を対象としている。これには、ミトコンドリアの機能不全を防止し、細胞エネルギー代謝を改善するための抗酸化剤(CoQ1O、エチル-EPA、クレアチン、システアミン、インドール-3-プロピオン酸、N-アセチルシステイン)、プログラム細胞死の誘発を防止するための抗アポトーシス薬(ミノサイクリン、タウロウルソデオキシコール酸、メタゾラミド、カスパーゼ6阻害剤)、グルタミン酸興奮毒性の遮断(メマンチン、レマセミド)、ミトコンドリアの安定化(ディメボン)、ドーパミンの作用の遮断(テトラベナジン)、神経発生および生存を促進するための神経栄養成長因子(FGF2、ニュールツリン)、変異ハンチンチン対立遺伝子発現の防止(RNAi、アンチセンス)、生存のためのBDNFなどのタンパク質の転写の増大および発現の増大(システアミン、HDAC阻害剤、シタロプラム)、ハンチンチン凝集体を除去するための自食作用の誘導(ベラパミル、クロニジン、ランパマイシン(rampamycin))、または回復性(restorative)幹細胞の使用が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前駆症状および発症段階のハンチントン病またはその症状、および若年性ハンチントン病またはその症状の治療における、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0017】
一態様では、(a)ハンチントン病もしくはその症状、または(b)若年性ハンチントン病もしくはその症状を有する患者を治療する方法は、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を前記患者に投与するステップを含む。
【0018】
一態様では、組織カリクレインは、KLK1の単離形態、合成形態、または組換え形態であってもよい。
【0019】
別の態様では、単離KLK1は、ヒトKLK1(配列番号1)とすることができる。
【0020】
別の態様では、単離KLK1は、マントヒヒKLK1(配列番号2)、カニクイザルKLK1(配列番号3)、ワタボウシタマリンKLK1(配列番号4)、イヌKLK1(配列番号5)、ヒツジKLK1(配列番号6)、ウサギKLK1(配列番号7)、ウシKLK1(配列番号8)、ウマKLK1(配列番号9)、もしくはブタKLK1(配列番号10)、またはその変異体もしくは活性断片とすることができる。
【0021】
本発明の一実施形態では、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、ハンチントン病または若年性ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与される。
【0022】
別の態様では、医薬組成物は、経口投与のために製剤化された、1日当たり約1〜約1000IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片、および薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0023】
別の態様では、医薬組成物は、鼻腔内投与のために製剤化された、投与頻度1回当たり約0.001〜約5000IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片、および薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0024】
一実施形態では、本発明による医薬組成物は、アジュバントと組み合わせた組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、アジュバントは乳化剤である。
【0026】
さらなる実施形態では、本発明による医薬組成物は、親油性ミセルと組み合わせた組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0027】
さらなる実施形態では、本発明による医薬組成物は、ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物をさらに含む。
【0028】
本発明の別の態様は、(a)ハンチントン病もしくはその症状、または(b)若年性ハンチントン病もしくはその症状を治療するのに有用な薬物を調製するための、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。
【0029】
本発明の別の態様は、(a)ハンチントン病もしくはその症状、または(b)若年性ハンチントン病もしくはその症状を治療するための、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。
【0030】
本発明の一実施形態では、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用は、前駆症状および発症段階のハンチントン病および若年性ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物の同時の使用をさらに含む。
【0031】
本発明のさらなる実施形態では、第2の治療化合物は、栄養補給剤、抗酸化剤、抗アポトーシス化合物、NDMA受容体アンタゴニスト、ミトコンドリア安定剤、ドーパミン遮断薬、BDNF誘導物質、転写の誘導物質、変異ハンチンチン対立遺伝子発現の遮断薬、神経栄養因子、自食作用の誘導物質、または回復性神経幹細胞療法、抗精神病薬、抗うつ剤、精神安定薬、気分安定剤、または筋弛緩剤であってもよい。
【0032】
本発明のさらなる実施形態では、栄養補給剤は、CoQ1O、エチル-EPA、またはクレアチンとすることができる。
【0033】
本発明のさらなる実施形態では、抗酸化剤は、システアミン、インドール-3-プロピオン酸、N-アセチルシステイン、グルタチオン、またはブシラミンとすることができる。
【0034】
本発明のさらなる実施形態では、抗アポトーシス化合物は、ミノサイクリン、タウロウルソデオキシコール酸、メタゾラミド、またはカスパーゼ-6阻害剤から選択される。
【0035】
本発明のさらなる実施形態では、NDMA受容体アンタゴニストは、メマンチンまたはレマセミドとすることができる。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、ミトコンドリア安定剤は、ディメボンとすることができる。
【0037】
本発明のさらなる実施形態では、ドーパミン遮断薬は、テトラベナジンとすることができる。
【0038】
本発明のさらなる実施形態では、BDNF誘導物質は、システアミンまたはシタロプラムとすることができる。
【0039】
本発明のさらなる実施形態では、転写誘導物質は、HDAC阻害剤とすることができる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態では、変異ハンチンチン対立遺伝子発現の遮断薬は、ハンチンチン遺伝子特異的RNAi、またはアンチセンス分子とすることができる。
【0041】
本発明のさらなる実施形態では、神経栄養因子は、FGF2またはニュールツリンとすることができる。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、自食作用の誘導物質は、ベラパミル、クロニジン、またはランパマイシンとすることができる。
【0043】
本発明のさらなる実施形態では、回復性神経幹細胞療法は、脳内への単離幹細胞の導入とすることができる。
【0044】
本発明のさらなる実施形態では、抗精神病薬は、ハロペリドール、クロルプロマジン、またはオランザピンとすることができる。
【0045】
本発明のさらなる実施形態では、抗うつ剤は、フルオキセチン、セルトラリン塩酸塩、またはノルトリプチリンを含むことができる。
【0046】
本発明のさらなる実施形態では、精神安定薬は、ベンゾジアゼピン、パロキセチン、ベンラフェキシン、またはβ-遮断薬とすることができる。
【0047】
本発明のさらなる実施形態では、気分安定剤は、リチウム、バルプロ酸塩、またはカルバマゼピンを含むことができる。
【0048】
本発明のさらなる実施形態では、筋弛緩剤は、ボツリヌス毒素、ジアゼパム、スケラキシン、カリソプロドール、またはシクロベンザプリンを含むことができる。
【0049】
本発明のさらなる実施形態では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、鼻腔内投与することができる。
【0050】
本発明のさらなる実施形態では、治療有効用量は、投与頻度1回当たり約0.001〜約5000国際単位(IU)である。
【0051】
本発明のさらなる実施形態では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、経口投与することができる。
【0052】
本発明のさらなる実施形態では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、1日当たり約0.001〜約1000IUとすることができる。
【0053】
さらなる態様では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用は、その必要のある患者の脳への酸素取込みを改善するために投与してもよい。
【0054】
さらなる態様では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用は、その必要のある患者の脳への血流を改善するためであってもよい。
【0055】
さらなる態様では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用は、その必要のある患者の脳によるグルコース取込みを改善するためであってもよい。
【0056】
さらなる態様では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用は、その必要のある患者の脳の体積を改善するためであってもよい。
【0057】
さらなる態様では、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用は、その必要のある患者の脳内の細胞代謝を改善するためであってもよい。
【0058】
本発明のさらなる実施形態では、前駆症状および発症段階のハンチントン病または若年性ハンチントン病を治療する方法は、ハンチントン病統一評価尺度(Unified Huntington's Disease Rating Scale)(UHDRS)の総機能的能力(Total Functional Capacity)(TFC)部分、およびミニメンタルステート検査(MMSE)を含めた、標準化された尺度を使用することによって評価およびモニターすることができる。
【0059】
本発明のさらなる実施形態では、標準化された尺度には、それだけに限らないが、ハンチントン病統一評価尺度(UHDRS)の総機能的能力(TFC)部分、およびミニメンタルステート検査(MMSE)、またはこれらの組合せが含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
定義
「組織カリクレイン」または「KLK1」は、キニノーゲンを切断してリシル-ブラジキニン(カリジン)にすることによって高血圧症を制御することにおけるその役割について主に注目されているセリンプロテアーゼである(YousefおよびDiamandis、2001)。KLKファミリーには多数の酵素が存在するので、KLK1は、高血圧症制御におけるその認識された役割に加えて、遍在し、または複数の標的に作用する酵素であると思われ、したがって、前駆症状および発症段階のハンチントン病および若年性ハンチントン病の治療において重要な役割を特に果たすことができると、本発明者らは考えている。本明細書で使用する場合、用語「組織カリクレイン」は、以下の用語と同義である。カリクレイン(callicrein)、グルモリン(glumorin)、パドレアチン(padreatin)、パズチン(padutin)、カリジノゲナーゼ、ブラジキニノゲナーゼ(bradykininogenase)、膵臓カリクレイン、オノクレインP、ジルミナール(dilminal)D、デポー-パズチン、ウロカリクレイン(urokallikrein)、または尿カリクレイン。
【0061】
上述したように、「カリジン」は、リシル-ブラジキニンを指す。カリクレインは、キニノーゲンを切断してカリジンにする。カリジンは、ブラジキニン2受容体を活性化することができる。
【0062】
本発明の好適な実施形態は、ヒト組織カリクレイン前駆体ポリペプチド(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(KLK1)、その変異体、または活性断片であり、以下の配列(配列番号1)を有する。
NP_002248 GI:4504875 ホモ・サピエンス(Homo sapiens) KLK1_ヒト
1-18 シグナルペプチド
19-24 プロペプチド
25-262 成熟ペプチド
MWFLVLCLALSLGGTGAAPPIQSRIVGGWECEQHSQPWQAALYHFSTFQCGG
ILVHRQWVLTAAHCISDNYQLWLGRHNLFDDENTAQFVHVSESFPHPGFNMS
LLENHTRQADEDYSHDLMLLRLTEPADTITDAVKVVELPTEEPEVGSTCLASG
WGSIEPENFSFPDDLQCVDLKILPNDECKKAHVQKVTDFMLCVGHLEGGKDT
CVGDSGGPLMCDGVLQGVTSWGYVPCGTPNKPSVAVRVLSYVKWIEDTIAE
NS (配列番号1)
【0063】
本発明のさらなる実施形態は、マントヒヒ組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号2)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と90%の配列同一性を有する。
Q2877 KLK1_PAPHA
MWFLVLCLALSLGGTGAAPPIQSRIVGGWECSQPWQAALYHFSTFQCGGILV
HPQWVLTAAHCIGDNYQLWLGRHNLFDDEDTAQFVHVSESFPHPCFNMSLL
KNHTRQADEDYSHDLMLLRLTQPAEITDAVQVVELPTQEPEVGSTCLASGWG
SIEPENFSYPDDLQCVDLKILPNDKCAKAHTQKVTEFMLCAGHLEGGKDTCV
GDSGGPLTCDGVLQGVTSWGYIPCGSPNKPAVFVRVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号2)
【0064】
本発明のさらなる実施形態は、カニクイザル組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号3)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と90%の配列同一性を有する。
Q07276-1 KLK1_MACFA
MWFLVLCLALSLGGTGRAPPIQSRIVGGWECSQPWQAALYHFSTFQCGGILV
HPQWVLTAAHCISDNYQLWLGRHNLFDDEDTAQFVHVSESFPHPGFNMSLL
KNHTRQADDYSHDLMLLRLTQPAEITDAVQVVELPTQEPEVGSTCLASGWGS
IEPENFSFPDDLQCVDLEILPNDECAKAHTQKVTEFMLCAGHLEGGKDTCVG
DSGGPLTCDGVLQGVTSWGYIPCGSPNKPAVFVKVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号3)
【0065】
本発明のさらなる実施形態は、ワタボウシタマリン組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号4)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と82%の配列同一性を有する。
Q9N1Q1_SAGOE
MWFLVLCLALSLGGTGAVPPIQSRIVGGWDCKQHSQPWQAALYHYSTFQCG
GVLVHPQWVLTAAHCISDHYQLWLGRHDLFENEDTAQFVFVSKSFPHPDFN
MSLLKNHTRLPGEDYSHDLMLLQLKQPVQITDAVKVVELPTEGIEVGSTCLA
SGWGSIKPEKFSFPDILQCVDLKILPNDECDKAHAQKVTEFMLCAGPLKDGQ
DTCVGDSGGPLTCDGVLQGIISWGYIPCGSPNKPSVFVRVLSYVKWIKDTIAD
NS (配列番号4)
【0066】
本発明のさらなる実施形態は、イヌ組織カリクレイン(腎臓/膵臓/唾液腺カリクレイン)(配列番号5)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と74%の配列同一性を有する。
Q29474_CANFA
MWFLVLCLALSLAGTGAAPPVQSRIIGGWDCTKNSQPWQAALYHYSKFQCG
GVLVHPEWVVTAAHCINDNYQLWLGRYNLFEHEDTAQFVQVRESFPHPEFN
LSLLKNHTRLPEEDYSHDIMLLRLAEPAQITDAVRVLDLPTQEPQVGSTCYAS
GWGSIEPDKFIYPDDLQCVDLELLSNDICANAHSQKVTEFMLCAGHLEGGKD
TCVGDSGGPLICDGVLQGITSWGHVPCGSPNMPAVYTKVISHLEWIKETMTA
NP (配列番号5)
【0067】
本発明のさらなる実施形態は、ヒツジ組織カリクレイン-1(配列番号6)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と72%の配列同一性を有する。
A5A2L9_SHEEP
MWFPVLCLALSLAGTGAVPPVQSRIVGGQECEKHSQPWQVAIYHFSTFQCGG
VLVAPQWVLTAAHCKSENYQVWLGRHNLFEDEDTAQFAGVSEDFPNPGFNL
SLLENHTRQPGEDYSHDLMLLRLQEPVQLTQDVQVLGLPTKEPQLGTTCYAS
GWGSVKPDEFSYPDDLQCVDLTLLPNEKCATAHPQEVTDCMLCAGHLEGGK
DTCVGDSGGPLICEGMLQGITSWGHIPCGTPNKPSVYTKVIVYLDWINKTMT
DNP (配列番号6)
【0068】
本発明のさらなる実施形態は、ウサギ組織カリクレイン-1(配列番号7)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と73%の配列同一性を有する。
A5A2M0_RABIT
MWLPVLCLALSLGGTGAAPPLQSRIIGGWVCGKNSQPWQAALYHYSNFQCG
GVLVHPQWVLTAAHCFSDNYQLWLGRHNLFEDEAEAQFIQVSGSFPHPRFNL
SLLENQTRGPGEDYSHDLMLLKLARPVQLTNAVRVLELPTQEPQVGTSCLAS
GWGSITPIKFTYPDELQCVDLSILANSECDKAHAQMVTECMLCAGHLEGGRD
TCVGDSGGPLVCNNELQGITSWGHVPCGSPNKPAVFTKVLSYVEWIRNTIAN
NP (配列番号7)
【0069】
本発明のさらなる実施形態は、ウシ腺カリクレイン-1前駆体(配列番号8)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と72%の配列同一性を有する。
Q6H320_BOVIN
MWFPVLCLALSLAGTGAVFPIQSRIVGGQECEKHSQPWQVAIYHFSTFQCGG
VLVAPQWVLTAAHCKSDNYQVWLGRHNLFEDEDTAQFAGVSEDFPNPGFNL
SLLENHTRHPGEDYSHDLMLLRLQEPVQLTQNVQVLGLPTKEPQLGTTCYAS
GWGSVKPDEFSYPDDLQCVDLTLLPNEKCATAHPQEVTEWMLCAGHLEGGK
DTCVGDSGGPLICEGMLQGITSWGHIPCGTPNKPSVYTKVILYLDWINKTMTD
NP (配列番号8)
【0070】
本発明のさらなる実施形態は、ウマ腺カリクレイン-1前駆体(KLKE1)(配列番号9)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と70%の配列同一性を有する。
Q6H322_HORSE
MWLPVLCLALSLVGTGAAPPIQSRIIGGWECKNHSKPWQAAVYHYSSFQCGG
VLVDPQWVLTAAHCKGDYYQIWLGRHNLFEDEDTAQFFLVAKSFPHPDFNM
SLLENNNRLPGEDYSHDLMLLQVEQPDQITVAVQVLALPTQEPVLGSTCYAS
GWGSIEPDKFTYPDELRCVDLTLLSNDVCDNAHSQNVTEYMLCAGHLEGGK
DTCVGDSGGPLICDGVFQGVTSWGHIPCGRPNKPAVYTKLIPHVQWIQDTIAA
NP (配列番号9)
【0071】
本発明の別の好適な実施形態は、ブタ腺カリクレイン-1前駆体(配列番号10)を含み、これは、ヒトKLK1(配列番号1)と67%の配列同一性を有する。
NP_001001911 GI:50054435イノシシ(Sus scrofa)
1-17 シグナルペプチド
18-24 プロペプチド
25-263 成熟ペプチド
>gil50054435|ref|NP_001001911.11 カリクレイン1[イノシシ]
MWSLVMRLALSLAGTGAAPPIQSRIIGGRECEKDSHPWQVAIYHYSSFQCGG
VLVDPKWVLTAAHCKNDNYQVWLGRHNLFENEVTAQFFGVTADFPHPGFN
LSLLKNHTKADGKDYSHDLMLLRLQSPAKITDAVKVLELPTQEPELGSTCQA
SGWGSIEPGPDDFEFPDEIQCVELTLLQNTFCADAHPDKVTESMLCAGYLPGG
KDTCMGDSGGPLICNGMWQGITSWGHTPCGSANKPSIYTKLIFYLDWINDTIT
ENP (配列番号10)
【0072】
用語「活性断片」は、全長KLK1ポリペプチドの活性を保持する、KLK1ポリペプチドまたはKLK1ポリペプチド変異体のより小さい部分を指す。
【0073】
出発ポリペプチドまたは参照ポリペプチドの「変異体」または「突然変異体」は、1)出発ポリペプチドまたは参照ポリペプチドのアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有し、2)天然または人工の(人造の)突然変異生成によって出発ポリペプチドまたは参照ポリペプチドに由来したポリペプチドである。そのような変異体は、例えば、対象とするポリペプチドのアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/またはこれらの残基への挿入、および/またはこれらの残基の置換を含む。変異アミノ酸は、この脈絡において、出発ポリペプチドまたは参照ポリペプチド配列(源の抗体または抗原結合断片の配列など)における対応する位置でのアミノ酸と異なるアミノ酸を指す。最終的な変異体または突然変異体コンストラクトに到達するのに、欠失、挿入、および置換の任意の組合せを行うことができ、ただし、最終的なコンストラクトは、所望の機能的特性を有する。アミノ酸変化はまた、グリコシル化部位の数または位置を変更することなど、ポリペプチドの翻訳後プロセスを変更することができる。ポリペプチドのアミノ酸配列変異体を生成するための方法は、明白に参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第5,534,615号に記載されている。
【0074】
「野生型」もしくは「参照」配列、または「野生型」もしくは「参照」タンパク質/ポリペプチドの配列は、変異体ポリペプチドが突然変異を導入して得られる参照配列とすることができる。一般に、所与のタンパク質についての「野生型」配列は、自然において最も一般的な配列である。同様に、「野生型」遺伝子配列は、自然において最も一般に見出される、その遺伝子についての配列である。突然変異は、天然のプロセスまたは人に誘導される手段によって、「野生型」遺伝子(したがって、これがコードするタンパク質)中に導入することができる。そのようなプロセスの産物は、元の「野生型」タンパク質または遺伝子の「変異体」または「突然変異体」形態である。
【0075】
本明細書で同定されるポリペプチドに関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、最大パーセント配列同一性を実現するために、配列を整列させ、必要であればギャップを導入した後の、参照配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の百分率として定義され、いずれの保存的置換も配列同一性の一部としてみなさない。パーセントアミノ酸配列同一性を求める目的のためのアライメントは、例えば、公的に入手可能なコンピューターソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegAlign(DNASTAR)ソフトウェアなどを使用して、当技術分野の技術範囲内である様々な方法で実現することができる。当業者は、比較されている配列の全長にわたって最大のアライメントを実現するのに必要な任意のアルゴリズムを含めて、アライメントを測定するための適切なパラメータを求めることができる。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc.、South San Francisco、Californiaを通じて公的に入手可能である。
【0076】
本明細書における目的のために、所与のアミノ酸配列Bと比べた、この配列Bとの、またはこの配列Bに対する所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(これは代わりに、所与のアミノ酸配列Bと比べた、この配列Bとの、またはこの配列Bに対するある特定の%アミノ酸配列同一性を有し、または含む所与のアミノ酸配列Aと表現することができる)は、以下のように計算される。
割合X/Yの100倍
ここでXは、配列アライメントプログラムによって、AおよびBのそのプログラムのアライメントにおいて、完全な一致としてスコアを付けられたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bと比べたAの%アミノ酸配列同一性は、Aと比べたBの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが理解されるであろう。
【0077】
「パーセント(%)核酸配列同一性」は、最大パーセント配列同一性を実現するために、配列を整列させ、必要であればギャップを導入した後の、参照ポリペプチドコード核酸配列中のヌクレオチドと同一である、候補配列中のヌクレオチドの百分率として定義される。パーセント核酸配列同一性を求める目的のためのアライメントは、例えば、公的に入手可能なコンピューターソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2またはMegAlign(DNASTAR)ソフトウェアなどを使用して、当技術分野の技術範囲内である様々な方法で実現することができる。比較されている配列の全長にわたって最大のアライメントを実現するのに必要な任意のアルゴリズムを含めて、アライメントを測定するための適切なパラメータは、既知の方法によって求めることができる。
【0078】
本明細書における目的のために、所与の核酸配列Dと比べた、この配列Dとの、またはこの配列Dに対する所与の核酸配列Cの%核酸配列同一性(これは代わりに、所与の核酸配列Dと比べた、この配列Dとの、またはこの配列Dに対するある特定の%核酸配列同一性を有し、または含む所与の核酸配列Cと表現することができる)は、以下のように計算される。
割合W/Zの100倍
ここでWは、配列アライメントプログラムによって、CおよびDのそのプログラムのアライメントにおいて、完全な一致としてスコアを付けられたヌクレオチドの数であり、Zは、D中のヌクレオチドの総数である。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと等しくない場合、Dと比べたCの%核酸配列同一性は、Cと比べたDの%核酸配列同一性と等しくないことが理解されるであろう。同様の配列は、同様の機能を有することが多いことが、当技術分野で理解される。例えば、別の配列とその長さにわたって80%の同一性を有する配列は、多くの場合、この他の配列と同様の機能を有することになる。
【0079】
用語「アミノ酸」は、その最も広い意味において使用され、天然に存在するLα-アミノ酸または残基を含むことを意味する。天然に存在するアミノ酸について、一般に使用される1文字の略語および3文字の略語が、本明細書で使用される(Lehninger, A.L.、Biochemistry、2版、71〜92頁、(1975)、Worth Publishers、New York)。この用語は、すべてのD-アミノ酸ならびにアミノ酸類似体などの化学的に修飾されたアミノ酸、ノルロイシンなどの、タンパク質中に通常組み込まれない天然に存在するアミノ酸、ならびにアミノ酸の特徴であると当技術分野で知られている性質を有する、化学合成された化合物を含む。例えば、天然のPheまたはProと同じ、ペプチド化合物の立体配置的制限を可能にするフェニルアラニンまたはプロリンの類似体または模倣体は、アミノ酸の定義内に含まれる。そのような類似体および模倣体は、アミノ酸の「機能的な均等物」と本明細書で呼ばれる。アミノ酸の他の例は、The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology、GrossおよびMeiehofer編、5巻 341頁、Academic Press, Inc、N.Y. 1983において、RobertsおよびVellaccioによって列挙されており、これは、参照により本明細書に組み込まれている。
【0080】
「ポリペプチド」または「タンパク質」は、ペプチド結合によって連結された2つ以上のアミノ酸を含有するペプチドまたはタンパク質を指し、ペプチド、オリゴマー、タンパク質などを含む。ポリペプチドは、天然の、修飾された、または合成のアミノ酸を含有することができる。ポリペプチドはまた、翻訳後プロセシングなどによって自然に、またはアミド化、アシル化、架橋など化学的に修飾され得る。タンパク質の例には、それだけに限らないが、抗体、酵素、レクチンおよび受容体、リポタンパク質およびリポポリペプチド、ならびに糖タンパク質および糖ポリペプチドが含まれる。
【0081】
「融合タンパク質」および「融合ポリペプチド」は、一緒に共有結合的に連結された2つの部分を有するポリペプチドを指し、この部分のそれぞれは、異なる性質を有するポリペプチドである。性質は、インビトロまたはインビボでの活性などの生物学的性質であってもよい。性質はまた、単純な化学的または物理的性質、例えば、標的抗原への結合、反応の触媒作用などであってもよい。2つの部分は、1個のペプチド結合によって直接、または1つもしくは複数のアミノ酸残基を含有するペプチドリンカーを通じて連結することができる。一般に、2つの部分およびリンカーは、互いに読み枠内にある。ポリペプチドの2つの部分は、非相同ポリペプチドまたは異なるポリペプチドから得られることが好ましい。
【0082】
用語「治療有効量」は、対象または哺乳動物における疾患または障害を「軽減する」または「治療する」のに有効な、本発明の組成物の量を指す。一般に、疾患または障害の軽減または治療により、疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状または医学的問題が和らげられる。いくつかの実施形態では、これは、酸素取込み、血流、グルコース取込み、体積および細胞代謝、これらの組合せを改善する量である。
【0083】
用語「治療(treatment)」および「治療すること(treating)」は、それだけに限らないが、前駆症状および発症段階のハンチントン病、若年性ハンチントン病、ならびにこれらの状態または症状を含めたハンチントン病を阻害、軽減、ならびに治癒することを指す。「治療すること」または「治療」は、治療的処置(therapeutic treatment)を指し、その目的は、標的とされる病的状態または障害を予防し、または遅らせる(和らげる)ことである。治療は、治療有効量の少なくとも1つの本発明の化合物を投与することによって実施することができる。
【0084】
用語「酸素取込みの改善」は、脳および脳の細胞への酸素の送達の増大を指し、一方、用語「血流の改善」は、脳を通って循環する血液体積の増大を指す。当技術分野で確立されているようなMRIおよびSPECT複合画像法を使用することにより、前駆HDおよびHDを有するものの脳内の血流の空間的視覚化が可能になる(Harrisら、1999)。Tc-99m HMPAOトレーサーが、脳血流を検出するのにしばしば使用される。脳血流は、血流(blow flow)が起こっている周囲組織による酸素取込みを可能にする。前駆HDおよびHDでは、線条体(尾状核および被殻)を含む基底核内の脳血流が減少し、したがって同様に酸素取込みが減少する。ハンチントン病患者の脳内の血流欠乏および酸素取込み欠乏の領域をマッピングすることによって、対照として同年齢の非ハンチントン病患者を使用して、治療中および治療後に改善を評価することができる。「増大する」は、治療前の患者における血流または酸素取込みと比較して、治療後の患者におけるより大きい血流または酸素取込みを指す。
【0085】
用語「グルコース取込みの改善」は、脳が血流からグルコースを利用する能力の増強を指す。ハンチントン病の特徴は、それだけに限らないが、皮質および基底核などの領域内でのグルコース取込みおよび代謝の低下である(低代謝)。疾患の前駆段階および疾患発症のこのマーカーは、フッ素標識グルコース造影剤(18F-FDG PET)を用いた脳のPET画像法を使用することによって判定される(Ciarmielloら、2006)。治療前、治療中、および治療後にこの方法によって生成された画像を比較することによって、グルコース取込みの低下を以前に示していたハンチントン病患者における脳領域内のグルコース取込みの改善を、同年齢の非ハンチントン病対照対象を使用しながら評価することができる。
【0086】
用語「体積の改善」は、MRIによって測定された場合の脳体積の増大を指す。灰白質基底核(線条体を含む)、皮質、および脳白質の体積変化(減少)は、ハンチントン病の前駆症状および疾患発症段階において見られる。HDを有するものの脳組織萎縮は、脳体積MRIスキャンを同年齢の非HD対照対象と比較し、体積差異を求めることによって測定することができる(Ciarmielloら、2006)。治療後の、ハンチントン病によって一般に低減された脳領域内の体積の改善は、HDを有するものの治療前後のMRI画像を比較することによって評価することができる。
【0087】
用語「細胞代謝の改善」は、MRSによって測定された場合の代謝産物比のレベルの変化を指し、これは、脳内の正常な細胞代謝への回復を反映する。ある特定の代謝産物比は、異常代謝による神経変性のマーカーであり、線条体HD患者におけるN-アセチルアスパルテート(NAA)/クレアチン比の減少、コリン/クレアチン比の増大、および乳酸/クレアチン比の増大を含む(Jenkinsら、1998)。非HD同年齢対照の正常な比のレベルと比較して、HD患者における代謝産物比の異常を検出することによって、比の変化を、治療前、治療中、および治療後に評価することができる。細胞代謝の改善は、正常レベルの近くに、または正常レベルに代謝産物比が回復することによって分かるであろう。
【0088】
用語「標準化された尺度」は、ハンチントン病を有する個体を評価するためのアンケート調査および一覧表を指すが、ハンチントン病統一評価尺度(UHDRS)の総機能的能力(TFC)部分、およびミニメンタルステート検査(MMSE)に限られない。
【0089】
用語「ハンチントン病統一評価尺度(UHDRS)の総機能的能力(TFC)部分」は、本明細書で使用する場合、数値によって特徴づけられる疾患進行の程度を評価するのに使用される尺度を指し、13のスコアは、機能の正常な程度を表し、一方、0のスコアは、重度の障害状態を表す(Huntington Study Group、1996)。
【0090】
用語「ミニメンタルステート検査(MMSE)」は、認知障害の程度を評価し、数値によって特徴づけられる経時的な認知障害の変化を測定するのに使用される尺度である。30のスコアは、最高のスコアおよび正常な認識を表し、0のスコアは、最低のスコアおよび非常に重度の認知障害を表す(Folsteinら、1975)。
【0091】
ハンチントン病を治療する方法
本発明は、前駆症状および発症段階のハンチントン病、若年性ハンチントン病、またはこれらの症状の治療における、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。本発明の一実施形態では、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与することができる。ハンチントン病の治療において有用な化合物の例は、以下により詳細に論じられている。治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、経口投与、またはより好ましくは、鼻腔内投与することができる。投与方法は、以下により詳細に論じられている。
【0092】
本発明は、不穏状態、異常な眼球運動、反射亢進、指叩きの障害、ラピッドオルタネーティングハンドムーブメント、および軽度構音障害(発声)の軽微な運動技能異常;不随意性運動異常、例えば、舞踏病(急速な、絶え間ない運動)、運動緩慢、運動低下、硬直、およびジストニアなど;随意運動機能障害、例えば、嚥下障害(嚥下運動)、構音障害、および歩行障害など;筋肉の消耗、脱水、および体重減少;集中、組織化、空間的知覚および記憶力における認知障害(認知症)、ならびに抑うつ症(低エネルギー、睡眠障害)、人格変化(被刺激性、低エネルギー、感情鈍麻、性快感消失症)、および双極性障害(妄想、幻覚、パラノイア)の非認知性精神医学的欠陥の非運動性症状を含めた、ハンチントン病に関連する状態を治療することにおける組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用をさらに提供する。
【0093】
ハンチントン病の前駆症状段階は、成人発症型のHDの前の、PETおよびMRIで検出される場合の、線条体、大脳皮質、および脳の白質領域の進行性神経細胞低代謝および神経変性(神経細胞減少/脳萎縮/体積減少)である。HADの前駆症状段階は、成人発症型の10〜20年前の進行中のプロセスであると考えられており、運動技能領域、行動領域、および心理学的領域が徐々に変化することが見られる。
【0094】
本発明の別の実施形態は、前駆症状段階のハンチントン病を治療するための治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。
【0095】
若年性ハンチントン病は、ハンチントン病が現れるとき、20歳の年齢未満のハンチントン病として分類される。若年性形態は、突然変異体HD遺伝子中に50以上のCAGリピートを有する傾向があり、リピートの数が多いほど疾患の発症が早い。発症が早いと、硬直が見られる可能性がより高く、舞踏病運動を示す可能性がより低い。若年性ハンチントン病の独特の特徴は、てんかん性痙攣の傾向であり、成人発症型HDでは見られない。この疾患を有する小児は、行動および認知機能の段階的な変化を示す。
【0096】
本発明の別の実施形態は、若年性ハンチントン病を治療するための治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。
【0097】
ハンチントン病は、変異ハンチンチンタンパク質の発現による、転写、BDNF生存シグナル伝達、ユビキチン-プロテアソーム分解ミトコンドリア代謝、およびROS解毒酵素、軸索輸送、グルタミン酸-NMDA受容体シグナル伝達、およびカスパーゼ活性化における脳特異的異常に関連する。150のCAGリピートを有するヒトHD遺伝子のN末端断片を発現するトランスジェニックR6/2マウスにおいて、運動協調性の低下、歩行運動活動の変化、認知能力の障害、てんかん、および神経変性による脳の線条体領域および皮質領域の著しい萎縮を含めた、HDにおいて見られる症状の多くに類似する神経学的症状が発症する(Turmaineら、2000; Zourlidouら、2007)。R6/2マウスは、海馬の歯状回領域における神経発生の障害を示し(Phillipsら、2005)、その結果神経変性修復が損なわれる可能性がある。神経成長因子(NGF)は、海馬において神経発生を促進する神経栄養因子である(Frielingsdorfら、2007)。神経発生の増大は、脳内の劣化領域への神経細胞の遊走をもたらし、損傷を修復し、萎縮を逆転させてMRIスキャンによって検出される場合の体積の改善に導くことができる。本発明の別の実施形態は、HD患者の脳内の体積を改善するための、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。
【0098】
ハンチントン病患者は、皮質および基底核(これは、線条体を含む)の領域において、グルコースを取り込む能力の低減を示し、ともに神経変性のマーカーである、N-アセチルアスパルテートレベル(NAA/クレアチン比)の減少、およびコリンレベル(コリン/クレアチン比)の増大、ならびに乳酸のレベルの増大を含めた、HDの脳において検出される異常な細胞代謝に関連付けることができる。変異ハンチンチンによる転写の調節不全により、ROS-解毒酵素およびミトコンドリア発生の減少として異常な細胞代謝に至り、ミトコンドリア機能不全をもたらす。これにより、エネルギーATP産生がより少なくなり、細胞に対するROS酸化ストレスが増大する。
【0099】
本発明の別の実施形態は、患者の脳によるグルコース取込みおよび細胞代謝を改善する方法であって、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を投与するステップを含む方法を含む。
【0100】
本発明の別の実施形態は、患者の脳への血流の改善および/または酸素取込みを改善するための方法であって、治療有効量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を投与するステップを含む方法を含む。
【0101】
組織カリクレインの投与
脳内の栄養物を処理するための薬物投与の従来の様式には、経口ならびに静脈内投与経路が含まれる。これらの様式は、必ずしも理想的であるとは限らない。化合物の経口投与は、バイオアベイラビリティーの制限(溶解度、肝初回通過分解、血液脳関門制限)、ならびに潜在的に望ましくない胃腸の副作用を伴う持続放出問題が生じる。しかし、組織カリクレイン(KLK1)は、通過することができるように思われ、血液脳関門を迂回して脳へのその効果を生じさせることができる。
【0102】
静脈内(i.v.)投与は、訓練された医学専門家を必要とし、これは、健康管理システムにとって時間がかかり、高価である。これはまた、患者コンプライアンス問題をもたらす場合がある。静脈内投与に関連するリスクには、注射部位での感染症、ならびに患者および用量を投与する専門家の両方に対する安全性問題が含まれる。しかし、管理された設定では、静脈内投与は有効となり得る。
【0103】
鼻腔内投与は、薬物を「速効性」にさせ、その理由は、これが、より直接的な経路によって脳に到達することができるためである。鼻腔内投与は、好都合であり、静脈内投与に見られるような患者コンプライアンスの問題を実質的に排除する。嗅上皮細胞は、選択的に浸透性である。したがって、KLK1などのタンパク質は通過することができ、鼻腔内経路を介して血液脳関門を迂回することができる。それによって、KLK1の鼻腔内投与は、脳に直接にその効果を生じさせることができ、それによって、その上末梢効果を最小限にする。これは、鼻の経路の上部における嗅覚領域の関与による。
【0104】
鼻腔内に投与された物質が、嗅覚領域でたどることができる2つの可能な経路、すなわち、神経細胞内および神経細胞外が存在する。神経細胞内経路は、嗅覚ニューロン中へのペプチドの取込みを含み、ここでペプチドは、アクソンに沿って移動して血液脳関門を迂回する。嗅覚領域の上皮内のユニークな細胞間間隙を通る通過は、ペプチドをくも膜下空間内に拡散させる細胞外経路である。細胞外経路がより好ましく、その理由は、脳への迅速な通過時間、神経細胞内経路において伴われるタンパク質分解の回避(Bornら、Nat. Neurosci. 2002、5(6):514〜6頁)、および脳の複数の部位での生物学的効果の迅速な誘発(Throneら、2004)のためである。
【0105】
鼻腔内投与は、作用の所望の部位(脳)にKLK1をより直接的に送達することによって、経口投与に対して利点をもたらすことができる。
【0106】
本発明の医薬組成物は、経口で、静脈内に、または鼻腔内に投与することができる。鼻腔内投与に適した製剤には、軟膏、クリーム、ローション剤、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル、油などが含まれる。溶液または懸濁液は、従来の手段によって、例えば、点滴器、ピペット、またはスプレーを用いて鼻腔に直接塗布される。製剤は、単回投与形態または複数回投与形態で提供することができる。点滴器またはピペットの後者の場合では、これは、適切な、所定の体積の溶液または懸濁液を投与する患者によって実現することができる。スプレーは、計量噴霧化スプレーポンプを含む。
【0107】
エアロゾル製剤のための活性成分は、それだけに限らないが、クロロフルオロカーボン(CFC)、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素、または他の適当なガスを含む、適当な噴霧剤を含む加圧パックで提供することができる。エアロゾルは、レシチンなどの界面活性剤も含有することができる。薬物の用量は、計量されたバルブによって制御することができる。あるいは、活性成分は、乾燥粉末の形態で提供することができる。化合物の粉末ミックスは、適当な粉末基剤、例えば、ラクトース、デンプン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのデンプン誘導体、およびポリビニルピロリジン(PVP)などの中にあってもよい。粉末担体は、鼻腔内でゲルを形成することができる。粉末組成物は、それだけに限らないが、カプセルまたはカートリッジ(例えば、ゼラチン、もしくは粉末を吸入器によって投与することができるブリスター包装)を含めた、単位用量形態で差し出すことができる。
【0108】
経口投与は、溶液、錠剤、徐放カプセル、腸溶カプセル、口腔内崩壊錠、およびシロップの経腸投与を含む。
【0109】
「有効量」または「治療有効量」は、所望の効果をもたらすのに、無毒性であるが十分な量の薬物または作用剤を指す。併用療法では、組合せの1つの成分の「有効量」は、組合せの他の成分と併用して使用されるとき、所望の効果をもたらすのに有効なその化合物の量である。「有効な」量は、個体の年齢および一般的な状態、1つまたは複数の特定の活性薬剤などに応じて、対象によって変動することになる。任意の個体の場合における適切な「有効」量は、日常の実験を使用して求めることができる。
【0110】
上記に特定された疾患、またはこれらの症状を治療するための治療有効量の本発明の化合物は、その疾患または症状が発症する前、発症すると同時、または発症した後に投与することができる。本発明の化合物は、疾患または症状の発症と同時に投与することができる。「同時投与」および「同時に投与すること」は、本明細書で使用する場合、本発明のポリペプチドおよび別の治療剤を、混合物、例えば、医薬組成物もしくは溶液で、または別個に、例えば、連続して、同時に、もしくは異なる時間であるが、本発明の化合物および他の治療剤が相互作用することができず、より少ない投与量の活性成分を投与することができないようなそれほど隔たっていない時間で投与される別個の医薬組成物もしくは溶液などで投与することを含む。
【0111】
本発明の別の態様は、前駆症状および発症段階のハンチントン病、若年性ハンチントン病、またはこれらの症状を治療するのに有用な追加の治療化合物を同時に投与するステップをさらに含む、本明細書に記載される方法を含む。追加のハンチントン病治療化合物として、それだけに限らないが、栄養補給剤、抗酸化剤、抗アポトーシス化合物、NDMA受容体アンタゴニスト、ミトコンドリア安定剤、ドーパミン遮断薬、BDNF誘導物質、転写の誘導物質、変異ハンチンチン対立遺伝子発現の遮断薬、神経栄養因子、自食作用の誘導物質、または回復性神経幹細胞療法が挙げられる。栄養補給剤は、CoQ1O、エチル-EPA、またはクレアチンであってもよく、抗酸化剤は、システアミン、インドール-3-プロピオン酸、N-アセチルシステイン、グルタチオン、またはブシラミンであってもよく、抗アポトーシス化合物は、ミノサイクリン、タウロウルソデオキシコール酸、メタゾラミド、またはカスパーゼ-6阻害剤であってもよく、NDMA受容体アンタゴニストは、メマンチンまたはレマセミドであってもよく、ミトコンドリア安定剤は、ディメボンであってもよく、ドーパミン遮断薬は、テトラベナジンであってもよく、BDNF誘導物質は、システアミンまたはシタロプラムであってもよく、転写誘導物質は、HDAC阻害剤であってもよく、変異ハンチンチン対立遺伝子発現の遮断薬は、ハンチンチン遺伝子特異的RNAiまたはアンチセンス分子であってもよく、神経栄養因子は、FGF2またはニュールツリンであってもよく、自食作用の誘導物質は、ベラパミル、クロニジン、またはランパマイシンであってもよく、回復性神経幹細胞療法は、単離幹細胞を脳内に導入することであってもよく、抗精神病薬は、ハロペリドール、クロルプロマジン、またはオランザピンであってもよく、抗うつ剤は、フルオキセチン、セルトラリン塩酸塩、またはノルトリプチリンであってもよく、精神安定薬は、ベンゾジアゼピン、パロキセチン、ベンラフェキシン、またはβ-遮断薬であってもよく、気分安定剤は、リチウム、バルプロ酸塩、またはカルバマゼピンであってもよく、筋弛緩剤は、ボツリヌス毒素であってもよい。
【0112】
「治療」ならびに「治療すること」は、疾患および関連症状を阻害および/または軽減すること、ならびに哺乳動物の臓器および組織に影響する病状または症状を癒すことを指す。「予防」および「予防すること」は、疾患を発生させないことを指す。本発明の組成物は、任意の述べた状態が生じる前、間、および後に患者に治療有効量で投与することができる。
【0113】
医薬組成物
本発明は、前駆症状および成人発症段階のハンチントン病、若年性ハンチントン病、ならびにこれらの症状の治療において、経口投与ならびに鼻腔内投与に適した、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む医薬組成物を提供する。
【0114】
一態様では、本発明は、経口投与のために製剤化された、投与頻度1回当たり約0.001〜約1000国際単位(IU)の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片、および薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供する。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は、約0.001〜100IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は、約0.001〜10IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は、約0.01〜10IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は、約0.01〜1IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は、約0.1〜1IUとすることができる。
【0115】
別の態様では、本発明は、鼻腔内投与のために製剤化された、投与頻度1回当たり約0.001〜約5000IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片、および薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供する。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は、約0.001〜500IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は、約0.001〜50IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は、約0.01〜50IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は、約0.01〜5IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は、約0.1〜5IUとすることができる。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は、約0.1〜1IUとすることができる。
【0116】
医薬組成物は、上述したような前駆症状および成人発症段階のハンチントン病、または若年性ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物をさらに含むことができる。
【0117】
本発明の医薬組成物は、経口的に、静脈内に、または鼻腔内に投与される製剤を含む。鼻腔内投与に適した製剤には、粉末、顆粒、溶液、液滴、軟膏、クリーム、ローション剤、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル、油などが含まれる。本発明の溶液または懸濁液は、従来の手段によって、例えば、点滴器、ピペット、またはスプレーを用いて鼻腔に直接塗布することができる。製剤は、単回用量形態または複数回用量形態で提供することができる。溶液は、滅菌した、等張性、または低張性とすることができ、さもなければ、注射もしくは他の手段によって投与するのに適していることができ、適切なアジュバント、緩衝液、保存剤、および塩を含有することができる。点鼻剤などの溶液は、抗酸化剤、緩衝液などを含有することができる。粉末または顆粒形態の医薬組成物を、溶液、ならびに希釈剤、分散剤、および/または表面活性剤と組み合わせることができる。
【0118】
エアロゾル投与のための製剤は、鼻腔内投与のために設計された製剤を含む。活性成分は、適当な噴霧剤、例えば、クロロフルオロカーボン(CFC)(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタン)、二酸化炭素、または他の適当なガスなどを含む加圧パックで提供することができる。エアロゾルは、レシチンなどの界面活性剤も含有することができる。薬物の用量は、計量されたバルブによって制御することができる。あるいは活性成分は、乾燥粉末、例えば、適当な粉末基剤、例えば、ラクトース、デンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのデンプン誘導体、およびポリビニルピロリジン(PVP)などの中の化合物の粉末ミックスの形態で提供することができる。粉末担体は、鼻腔内でゲルを形成する。粉末組成物は、単位用量形態、例えば、ゼラチン、または粉末をデバイスによって投与することができるブリスター包装のカプセルまたはカートリッジで差し出すことができる。
【0119】
鼻腔内投与のために製剤化される医薬組成物は、約0.001〜約5000IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、薬学的に許容可能な賦形剤を任意選択によりさらに含む。経口投与に適した製剤には、液体、ピル、溶液、錠剤、徐放カプセル、腸溶カプセル、またはシロップが含まれる。経口投与のために製剤化される医薬組成物は、約0.001〜1000IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、薬学的に許容可能な賦形剤を任意選択によりさらに含む。
【0120】
鼻腔内投与に有用な医薬組成物、およびその使用
本発明の一態様は、約0.001〜約5000IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、薬学的に許容可能な賦形剤を任意選択により含む、鼻腔内投与のために製剤化された組成物を含む。
【0121】
組成物は、嗅覚神経経路によって脳の患部に向けて、ヒトまたは他の哺乳動物の鼻腔に投与することができる。本方法は、脳の病的な神経細胞にKLK1を輸送することができる医薬組成物を使用することができる。
【0122】
本発明の方法は、経ニューロン性逆行性および順行性輸送機構を通じて、脳の患部に化合物を送達することができる。その輸送システムによる脳への神経作用剤(neurologic agent)の送達は、いくつかの方法で実現することができる。一技法は、神経作用剤単独を鼻腔に送達するステップを含む。この場合では、KLK1の化学的特性により、脳内の病的神経細胞へのその輸送を促進することができる。嗅覚神経経路の末梢神経細胞を利用することによって、嗅球に接続された脳の領域内の損傷した神経細胞にKLK1を送達することができる。
【0123】
KLK1は、単独で、または前駆症状および成人発症段階のハンチントン病、ならびに若年性ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物と併用して、鼻腔に投与することができる。KLK1は、医薬組成物を形成するために、担体および/または他のアジュバントと組み合わせてもよい。潜在的なアジュバントには、それだけに限らないが、GM-1、ホスファチジルセリン(PS)、およびポリソルベート80などの乳化剤が含まれる。さらなる追加の物質には、それだけに限らないが、ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)などの親油性物質が含まれる。
【0124】
本発明の方法により、哺乳動物の鼻腔にKLK1が送達される。KLK1は、呼吸上皮内の毛細血管ではなく、末梢嗅覚ニューロン中に作用剤を輸送することを促進するために、鼻腔の上部3分の1内の嗅覚領域、特に嗅上皮に送達されることが好適である。それによって、KLK1は、神経系によって、脳および脳内の損傷した神経細胞に輸送される。
【0125】
本発明の方法の一実施形態では、KLK1は、親油性物質からなるミセルと組み合わせることができる。そのようなミセルは、鼻粘膜の浸透性を修正し、作用剤の吸収を増強することができる。親油性ミセルには、ガングリオシド、特にGM-1ガングリオシド、およびホスファチジルセリン(PS)が含まれる。
【0126】
KLK1が嗅上皮と交差した後、本発明は、嗅覚神経経路に沿ったKLK1の輸送をさらにもたらす。KLK1は、嗅覚系内で移動することができる。特に、神経栄養性物質および神経突起生成物質は、神経細胞膜中への即座の取込み、および神経細胞受容体部位に対する親和性を実証した。
【0127】
嗅覚ニューロンにKLK1を送達するために、医薬組成物として、KLK1を単独で、または他の物質と併用して、鼻腔の上部3分の1内に位置した嗅覚領域に投与することができる。組成物は、粉末もしくは液体経鼻スプレー、点鼻剤、ゲル、または軟膏として、管またはカテーテルを通じて、シリンジ、パックテイル(packtail)、綿球または粘膜下注入によって、鼻腔内に投与することができる。
【0128】
鼻腔内投与のための医薬組成物は、粉末、顆粒、溶液、軟膏、クリーム、エアロゾル、粉末、または液滴として製剤化することができる。溶液は、滅菌した、等張性、または低張性とすることができ、さもなければ、注射もしくは他の手段によって投与するのに適していることができる。KLK1に加えて、溶液は、適切なアジュバント、緩衝液、保存剤、および塩を含有することができる。粉末または顆粒形態の医薬組成物を、溶液、ならびに希釈剤、分散剤、および/または表面活性剤と組み合わせることができる。点鼻剤などの溶液は、抗酸化剤、緩衝液などを含むことができる。
【0129】
嗅覚系は、外側の環境と脳の間に直接的な接続を提供し、前駆症状および成人発症段階のハンチントン病、若年性ハンチントン病、ならびに記憶喪失症の軽度認知障害を治療するために、KLK1の素早い、即座の送達をもたらす。さらに、医薬組成物を鼻腔内に塗布する手段は、様々な形態、例えば、粉末、スプレー、または点鼻剤などとすることができ、これは、静脈内または筋肉内注射を不要にし、治療薬剤の投与を単純化する。
【0130】
本発明は、様々な具体的で好適な実施形態および技法を参照して記載される。しかし、多くの変形および改変を、本発明の精神および範囲内に留まりながら行うことができることが理解されるべきである。
【0131】
(実施例)
(実施例1)
KLK1を用いて処置した後の、R6/2トランスジェニックマウスモデルにおけるハンチントン病の予防
KLK1の投与により、ハンチントン病(HD)のR6/2トランスジェニックマウスモデルにおいて、行動の欠陥、体重減少、および生存時間が改善された。
【0132】
方法
45匹のオスおよびメスのR6/2トランスジェニック(TG)マウス、ならびに15匹のオスおよびメスの野生型同腹子(Jackson Labs、USA)を、実験に使用した。動物を、光制御環境(7amから8pmまで点灯)下で、標準温度(22±1℃)で収容し、食物および水に自由にアクセスさせた。動物を、以下の処置群に分割した。
1)生後4週間から開始して、生後20週間のエンドポイントまで毎日継続して、鼻腔内にPBSビヒクル(24μl)を用いて処置した、15匹の野生型同腹子対照マウス
2)生後4週間から開始して、生後20週間のエンドポイントまで毎日継続して、鼻腔内にPBSビヒクル(24μl)を用いて処置した、15匹のR6/2 TGマウス
3)生後4週間から開始して、生後20週間のエンドポイントまで継続して、鼻腔内にPBS24μl中5mg/mlのKLK1を用いて処置した、15匹のR6/2 TGマウス
4)生後4週間から開始して、生後20週間のエンドポイントまで継続して、鼻腔内にPBS24μl中50mg/mlのKLK1を用いて処置した、15匹のR6/2 TGマウス
【0133】
各動物の全体的な健康状態を毎日モニターし、24時間の観察期間における無自発的運動および飲食不能、大量出血、自発性炎症、欠損した解剖学的構造、腫張、または腫瘍を含めて、動物の健康が著しく悪化した場合、動物を屠殺した。
【0134】
体重および生存時間
試験の開始時(生後4週間)、および生後20週間の試験の最後まで週2回、体重を測定し、記録した。さらに、マウスを、死亡率について1日2回観察し、結果を記録した。
【0135】
運動技能試験:
ロータロッド
回転ロッド(TSE Systems、Germany)上に動物を置くことによって、マウスを試験して運動協調性を評価した。生後4、6、8、10、および12週間の各群について試験を実施し、2連続日でマウスを試験した。4rpmの一定速度で5分のトレーニングセッションのために、マウスを装置に最初に個々に曝した。マウスが、トレーニングの間に回転ロッドから脱落した場合、5分が経過するまで、このマウスをロッド上に戻した。トレーニングセッションの後、マウスのケージに戻して1時間の休憩をとった。1時間の休憩の後、マウスをロータロッド装置上で個々に試験し、速度を加速して(0〜40rpm)、5分にわたって2回試行した。各試行は、30分の休憩期間によって離した。マウスがロータロッドから脱落するたびに、脱落までの待ち時間および脱落時のロータロッドの速度を記録した。
【0136】
握力
握力測定を、各群について、Ugo Basile装置(Ugo Basile、Italy)を使用して、生後4、6、8、10、および12週で週1回実施した。マウスを握力装置上に置き、その前肢で小さい三角形のハンドルを掴ませた。次に、試験マウスをプラットフォームまで下げ、次いで、試験マウスがその前肢でハンドルを放すまで、尾でハンドルから徐々に引き離した。このプロセスを繰り返し、連続した順序で、マウス1匹当たり5つのスコアを記録した。
【0137】
オープンフィールド
オープンフィールド試験を、各群について、生後4、6、8、10、および12週間で実施した。活動チャンバー(Med Associates Inc、St Albans、VT;27×27×20.3cm)にIR光線を備え、マウスをチャンバーの中央に置き、その挙動を5分の瓶で15分間記録した。定量分析を、総歩行運動および立ち上がり頻度の測定に対して実施した。
【0138】
MRIおよびMRS分析
MRSおよびMRI分析を、送信および受信のために、方形ハーフボリュームコイル(quadrature half volume coil)(コイル直径16mm、HF Imaging LLC、Minneapolis、MN、USA)を使用して、Varian UNITYINOVAコンソール(Varian, Inc.、Palo Alto、CA)と連係したMagnex勾配セット(最大勾配強度170mT/m、口径12.5cm)を備えた、口径サイズ30cmを有する水平4.7Tの磁石(Magnex、Abington、UK)内で、生後12週間のすべてのマウスについて実施した。イソフルランで麻酔したマウスをヘッドホルダーに固定し、勾配コイルに対して標準的な配向で磁石の穴の中に配置した。脳、線条体、および側脳室の体積を求めるために、T2で重み付けしたマルチスライス(12〜14枚の連続的なスライス)画像を、断熱リフォーカシングパルスTR=2s、TE=65ms、256×128のマトリックスサイズ、20*20mm2のFOV、および0.7mmのスライス厚、4平均を用いて、ダブルスピンエコーシーケンスを使用して得た。
【0139】
1H-MRSデータは、同じ実験セットアップを使用して収集した。上述したように収集したT2重み付け画像に基づいて、3×3×3mm3のボクセルをマウスの線条体内に配置した。Fast, Automatic Shimming Technique by Mapping Along Projections (FASTMAP)を使用することによって、ボクセル内のB0均一性を調整する。緩和遅延が最適化された可変出力RFパルス(VAPOR)を使用して、水のシグナルを抑制することによって、B1およびT1非感受性を得た。プレ局在化(pre-localization)のために、アウターボリュームサプレッション(outer volume suppression)(OVS)と組み合わせた、短エコータイムSTEAMシーケンス(TE=2、TM=30ms)を使用した。3つのOVSブロックを、水抑制パルスと交互配置して使用した。データは、4sのTRでの256の励起、2048のポイント数、および2kHzのスペクトル幅を平均することによって収集した。さらに、水を抑制しない参照スペクトルを、同じ取得パラメータを使用して、同一のボクセルから収集した。主要な代謝産物(NAA、Cho、Tau、m-INS、Glu、Gln、GABA、Cr、PCr、およびGlx)についてのピーク面積を、LC-モデルを使用して分析し、結果を絶対値として得た。
【0140】
神経発生
神経発生を検出するために、細胞増殖特異的マーカーの5-ブロモデオキシウリジン(BrdU、Sigma)繰り返して投与した(食塩水中に溶解した50mg/kgのBrdU、i.p.、5ml/kg)。BrdU注射を18週目に開始し、14日間、1日1回継続した(20週目のエンドポイントまで)。
【0141】
生後20週間で、すべての群中のマウスを屠殺し、脳を頭蓋から取り出した。右脳半球を、リン酸緩衝液中の4%のPFA中に24時間浸漬することによって固定した。30%のスクロース中で2〜3日間凍結保護し、液体窒素中で凍結した後、右半球を、クリオスタット(Microm)を用いて切断して20μmの厚さの冠状凍結切片にし、SuperFrost Plusガラススライド上に収集した。4枚のガラスを、背側海馬のレベルから開始して収集した。海馬切片は、歯状回および脳室下帯(SVZ)を覆っていた。抗BrdU免疫組織化学を、標準的なIHCプロトコールを用いて実施した。簡単に言えば、切片を、0.1MのPBS中で5分間、5分のインキュベーションによって再水和し、2×SSC/50%のホルムアミドを用いて65℃で2時間処理し、その後、2×SSC中で5分間、2MのHCl中で30分間、および0.1Mのホウ酸緩衝液中で30分間インキュベートすることによって、抗原を露出させた。0.1MのPBS中で洗浄した後、内因性ペルオキシダーゼの活性を、メタノール中の0.3%のH2O2中でインキュベートすることによってブロックした。0.05%のTween(登録商標)-20(PBST)を含有する0.1MのPBS中で5分の洗浄を3回行った後、PBST中10%のNHSを用いて室温で30分間、切片をブロックした。この切片を洗浄し、PBST中5%の正常ウマ血清(NHS)で1:300に希釈した一次抗体(抗BrdU)溶液中で、室温で一晩インキュベートした。PBST中で5分の洗浄を3回行った後、二次抗体溶液(ビオチン化ウマ抗マウスIgG、5%のNHS中1:200)中で、室温で2時間、切片をインキュベートした。切片を洗浄した後、アビジン-ビオチンHRP複合体(Vector Vectastain ELITEキット)中で、室温で2時間インキュベートした。基質としてNi増感型DAB(Vector DABキット)を使用して、免疫反応を視覚化した。
【0142】
不偏立体解析学的分析を適用することによって、BrdUについて免疫陽性である細胞の総数をカウントした。指定した領域は、CFI Plan Achro 4×対物レンズを使用して輪郭を描いた。カウントは、3-チップCCDカラーカメラおよびLEP電動ステージ(0.1μmの分解能を有する、3軸コンピューター制御ステッピングモーターシステム)を有するEclipse E600顕微鏡上のCFI Plan Achro 10O×油浸対物レンズ(N.A. 1.30、W.D. 0.20)を使用して実施した。総細胞数は、Stereo Investigator 7ソフトウェア、光学フラクショネーター(optical fractionator)法(MicroBrightField、Colchester、VT)を使用して推定した。このソフトウェアは、14,400μm2(海馬)および8100μm2(SVZ)のサンプリンググリッドエリアを、描かれた輪郭の上にランダムに重ね合わせる。カウント枠は、細胞計数について900μm2であった。のせられた切片の平均厚は、20μmであった。z次元におけるカウント枠の頂部の面は、切片の表面から5μmに設定した(ガードゾーン)。カウント判定基準は、BrdU陽性核の頂部が、解剖用器具の高さ内で焦点が合うことであった。
【0143】
結果
生存時間。KLK1を用いた処置は、群3および4中のマウスについて、生存時間を延長した。この2つの群は、未処置の群2と比較して、生存時間の統計的に有意な増大を示した。
【0144】
運動能力。群3および4の運動能力は、ロータロッドから脱落するまでの待ち時間が、KLK1で処置されたこれらの群において増大したので改善された。群3および4における脱落までの待ち時間の改善は、群2と比較して統計的に有意であった。群3および4はまた、未処置の群2と比較して、握力(kgで測定したピーク張力)の増大を示し、これは、統計的に有意であった。
【0145】
オープンフィールド試験において、群3および4は、群2と比較して、総歩行運動スコアおよび立ち上がり頻度スコアの増加を示した。KLK1で処置したマウスにおけるこの増加は、統計的に有意であることが判明した。
【0146】
脳体積および代謝。群3および4は、群2と比較して、MRIで測定した場合の脳体積の有意な増加を示した。これは、KLK1処置が、脳の線条体および皮質などの領域において、R6/2 HDトランスジェニックモデルで見られる脳萎縮を予防するのに役立つことを示す。さらに、MRSによる分析により、群2と比較して、KLK1で処置した群3および4のマウスにおいて細胞代謝の改善が示された。群3および4は、未処置群2より、対照群1において見られるNAA/クレアチンの正常なレベルに近いので、差異は有意であり、群3および4における細胞代謝の改善を示した。この結果は、MRI試験によって見られた脳体積の増大を説明するのに役立ち、その理由は、NAA/クレアチン比の改善によって示されたように、神経変性が減少したためである。
【0147】
神経発生
群3および4は、未処置群2と比較して、海馬歯状回および脳室下帯(SVZ)領域のBrdU陽性細胞が統計的に有意に増加した。この結果は、KLK1処置は、神経発生を刺激し、したがって、R6/2モデルにおいて経時的に見られた神経変性に対処するのに役立つことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンチントン病もしくはその症状、または若年性ハンチントン病もしくはその症状を治療する方法であって、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を投与するステップを含む方法。
【請求項2】
治療が、前駆症状および発症段階のハンチントン病またはその症状のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織カリクレインがヒトKLK1(配列番号1)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
組織カリクレインが、マントヒヒKLK1(配列番号2)、カニクイザルKLK1(配列番号3)、ワタボウシタマリンKLK1(配列番号4)、イヌKLK1(配列番号5)、ヒツジKLK1(配列番号6)、ウサギKLK1(配列番号7)、ウシKLK1(配列番号8)、ウマKLK1(配列番号9)、もしくはブタKLK1(配列番号10)、またはその変異体もしくは活性断片である、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組織カリクレイン、その変異体、または活性断片が、ヒトKLK1(配列番号1)と80%の同一性を有する、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
組織カリクレインが、KLK1の単離形態、合成形態、または組換え形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
組織カリクレインが、ハンチントン病または若年性ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ハンチントン病もしくはその症状、または若年性ハンチントン病もしくはその症状を治療する方法であって、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片、および薬学的に許容可能な担体を含む組成物を投与するステップを含む方法。
【請求項9】
治療が、前駆症状および発症段階のハンチントン病またはその症状のものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
医薬組成物が、1日当たり約1〜約1000IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む、請求項8および9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
若年性ハンチントン病もしくはその症状、またはハンチントン病もしくはその症状を治療するための薬物の製造における、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項12】
ハンチントン病またはその症状の治療が、前駆症状および発症段階のハンチントン病もしくはその症状の治療である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
ハンチントン病もしくはその症状、または若年性ハンチントン病もしくはその症状を治療するための、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項14】
組織カリクレインがヒトKLK1(配列番号1)である、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
組織カリクレインが、マントヒヒKLK1(配列番号2)、カニクイザルKLK1(配列番号3)、ワタボウシタマリンKLK1(配列番号4)、イヌKLK1(配列番号5)、ヒツジKLK1(配列番号6)、ウサギKLK1(配列番号7)、ウシKLK1(配列番号8)、ウマKLK1(配列番号9)、もしくはブタKLK1(配列番号10)、またはその変異体もしくは活性断片である、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
組織カリクレインが、KLK1の単離形態、合成形態、または組換え形態である、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
組織カリクレイン、その変異体、または活性断片が、ヒトKLK1(配列番号1)と80%の同一性を有する、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
組織カリクレインが、ハンチントン病または若年性ハンチントン病を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与される、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2012−524725(P2012−524725A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506297(P2012−506297)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000575
【国際公開番号】WO2010/121361
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511256037)サノミューン・インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】