説明

ハースロール

【課題】表面温度をばらつかないで適正温度に維持できる耐久性の高いハースロールを提供する。
【解決手段】冷却水を通過させるように形成された金属軸2の外周に、無機質繊維板からなる複数の低熱伝導円板4と、金属板などからなる複数の高熱伝導円板5とを積層して嵌装し、低熱伝導円板4および高熱伝導円板5の外周を覆うように外管8を嵌装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の圧延材の搬送などに使用されるハースロールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、図2から5に示す、第1から第4のハースロールの従来例が記載されている。
【0003】
図2(A)に示す第1従来例のハースロールは、内部を水冷される中空の金属軸11の外周に設けた金属製のフランジ12,13および支持リング14で金属製の外管15を支持しており、外管15が圧延材を支持して搬送する。図2(B)は第1従来例のハースロールの表面温度分布を示す。図示するように、外管15は、フランジ12,13および支持リング14に指示された部分だけが冷却され、表面温度が大きくばらつく。
【0004】
図3(A)に示す第2従来例のハースロールは、第1従来例の支持リング14の数を増やしたものであるが、図3(B)に示すように、外管15の温度のバラツキを十分に小さくできるものではない。
【0005】
図4(A)に示す第3従来例のハースロールは、支持リング14に変えて、金属軸11と外管15との間の空間に耐熱モルタル16を詰め込んだものである。この第3従来例では、外管15の中央部分からの放熱が少ないので、図4(B)に示すように、外管15の広い範囲で温度を略一定にすることができるが、フランジ13,14に支持された両端部を除いて金属軸11を通水する冷却水に放熱することができないので、外管15の中央部は適正温度より高くなってしまい、酸化雰囲気内で使用する場合、スケールが生成されハースロール表面に積層するビルドアップが発生するという問題があった。また、図4(A)下側に示すように、使用によって耐熱モルタル16が劣化し、外管15を支持できずに変形させてしまう問題もあった。
【0006】
また、第3従来例のハースロールにおいて、耐熱モルタル16に代えて、金属軸11と外管15との間の空間に粉末断熱材を詰め込んだものもあるが、やはり、外管15の中央部分からの放熱が少なく、外管15の温度が高くなり過ぎてビルドアップが発生する。さらに、粉末断熱材を完全に充填することや、フランジ13と外管15との隙間からの粉末断熱材の漏れを防止することが難しいために、第3従来例と同様に外管15の内側に隙間が発生し、外管15の変形を防ぐことができない。
【0007】
図5(A)に示す第4従来例は、第3従来例の耐熱モルタル16に変えて無機質繊維板からなるディスク17を多数積層して嵌装したものであり、ディスク17を密着させるために、金属軸11に嵌装したフランジ13をナット18で締め込んで固定している。この第4従来例は、繰り返し使用しても、ディスク17が劣化して外管15を支持できなることがない。しかしながら、図5(B)に示すように、外管15の中央部の温度が高くなりすぎ、酸化雰囲気内でビルドアップが生じるという欠点は解消されていない。
【0008】
図6(A)に示すように、第4従来例の外管15を省いた第5従来例は、金属ではなく無機質繊維板のディスク17で圧延材を支持するので、圧延材から伝達される熱量が少なく、図6(B)に示すように、その表面温度を略適正温度に維持することができる。しかしながら、図6(A)下側に示すように、繰り返し使用すると無機質繊維板のディスク17が摩耗するため、耐久性が不足するという問題がある。
【特許文献1】特開平11−29826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上、従来のハースロールの問題点に鑑みて、本発明は、表面温度をばらつかないで適正温度に維持できる耐久性の高いハースロールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明によるハースロールは、冷却水を通過させるように形成された金属軸の外周に、複数の低熱伝導円板と複数の高熱伝導円板とを積層して嵌装し、前記低熱伝導円板および前記高熱伝導円板の外周を覆うように外管を嵌装したものとする。
【0011】
この構成によれば、保温性能に優れる低熱伝導円板と、冷却能力に優れる高熱伝導円板とを積層して外管を支持するので、外管の全体を支持しながら、外管の複数箇所から熱を奪い、金属軸を通過する冷却水に放熱することができる。外管は、多数の高熱伝導円板によって分散して冷却されるので表面温度がばらつかない。また、機械的強度の高い高熱伝導円板を積層することで、低熱伝導円板への機械的負荷を小さくでき、高い耐久性が得られる。
【0012】
また、本発明のハースロールにおいて、前記低熱伝導円板は、無機質の繊維を板状に抄造した無機質繊維板で構成してもよい。これにより、低熱伝導円板は、耐熱性、耐久性に優れ、熱伝導率が小さいものとなり、耐久性の高いハースロールが提供できる。
【0013】
また、本発明のハースロールにおいて、前記高熱伝導円板は、耐熱性、耐久性、加工性に優れる金属板で構成できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、高温に晒される外管を断熱性に優れる多数の低熱伝導板と、冷却性に優れる多数の高熱伝導円板とで保持するので、外管を多数の高熱伝導円板で分散して冷却できる。これによって、外管の表面温度がばらつかず、耐久性も高いハースロールが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1(A)は、本発明の一実施形態であるハースロール1を示す。ハースロール1は、内部に冷却水を通過させられるように形成した中空の金属軸2と、金属軸2に嵌装し、溶接して固定した固定フランジ3と、セラミックファイバにバインダを加えて抄造した無機質繊維板からなり、金属軸2に嵌装した多数の低熱伝導円板4と、金属軸2に嵌装した低熱伝導円板4の間に分散して積層されたステンレス鋼板からなる多数の高熱伝導円板5と、固定フランジ3と共に、低熱伝導円板4および高熱伝導円板5を挟み込むように嵌装された可動フランジ6と、可動フランジ6を固定フランジ3に対して押圧するように締め付けることで、低熱伝導円板4と高熱伝導円板5とを圧接して固定するダブルナット7と、低熱伝導円板4および高熱伝導円板5の外周を覆うように嵌装され、一端が固定フランジ3に溶接固定されたSUS310Sよりなる外管8とからなる。
【0016】
本実施形態では、低熱伝導円板4と高熱伝導円板5の厚みはすべて同じである。4枚の低熱伝導円板4と1枚の高熱伝導円板5とが交互に配置されており、両端にそれぞれ4枚の低熱伝導円板4が配置されているので、低熱伝導円板4の厚みの合計は、高熱伝導円板5の厚みの合計の略4倍より僅かに大きい。
【0017】
以上の構成からなるハースロール1で、高温の圧延材を搬送した際の、外管8の表面温度分布を図1(B)に示す。外管8は、固定フランジ2または可動フランジ6と接する両端の温度が低くなっているが、それ以外の部分は、適正温度に近い温度に保たれている。
【0018】
外管8は、搬送する圧延材から軸方向に略均一に熱を受け取る。外管8のフランジ3,6または高熱伝導円板5と接触する部分は、フランジ3,6または高熱伝導円板5、さらには、金属軸2を介して金属軸2に通水される冷却水に放熱するが、低熱伝導円板4は外管8から熱を奪うことができないので、外管8の低熱伝導円板と接触する部分は直接冷却されない。
【0019】
このため、図1(B)に示すように、外管8の表面温度は、低熱伝導円板4と接する部分において僅かに高く、高熱伝導円板5と接する部分において僅かに低くなっている。しかしながら、高熱伝導円板5は薄い板状であるので、1枚当たりの放熱量が限られており、外管8の表面温度を局部的に大きく低下させることはない。また、4枚の低熱伝導円板4につき1枚の高熱伝導円板5が配置されているので、外管8の低熱伝導円板4に接する部分は、外管8内での熱伝導によって高熱伝導円板5を介して間接的に放熱することができ、高温になりすぎることがない。これにより、外管8の表面温度が適正に保たれるのでスケールがビルドアップしない。
【0020】
ハースロール1は、外管8で圧延材を支持するので、低熱伝導円板4が摩耗する心配がなく、無機質繊維板からなる低熱伝導円板4は安定であるので、ハースロール1を繰り返し使用しても劣化することがない。
【0021】
また、本発明のハースロール1において、低熱伝導円板4の厚みの合計が、高熱伝導円板5の厚みの合計より大きいので、高熱伝導円板5による外管8の冷却能力に、低熱伝導円板4による断熱能力が勝る。これにより、1000℃以上の圧延材を搬送する場合にも、金属軸2を十分に冷却して不図示の軸受の長寿命化を測りながら、外管8の過冷却を防いで外管8の表面を適正温度に維持できる。
【0022】
本願発明のハースロール1のさらなる特徴は、低熱伝導円板4と高熱伝導円板5の比率を変えることで、外管8を冷却する能力を容易に調節できることである。例えば、高熱伝導円板5の枚数を多くすれば、冷却水やその他の条件を変えずに、外管8の表面温度を低くすることができる。
【0023】
外管8の表面温度は、低熱伝導円板4と接する部分において高く、高熱伝導円板5と接する部分において低くなるが、できるだけ薄い低熱伝導円板4および高熱伝導円板5を使用し、高熱伝導円板5を極力分散して配置することで、表面温度を略均一にすることができる。このため、特に中央部においては、低熱伝導円板4と高熱伝導円板5とを周期的に積層することが好ましい。これによって、外管8の局部的な過熱や過冷却を防止できるとともに、表面温度の予測や調整が容易になる。
【0024】
また、本実施形態のハースロール1は、低熱伝導円板4および高熱伝導円板5の厚みがすべて同じであるが、厚みの異なる低熱伝導円板4や高熱伝導円板5を積層することで、高熱伝導円板5を低熱伝導円板4の間に分散して配置してもよい。
【0025】
また、本発明のハースロール1において、高熱伝導円板5は、ステンレス鋼板に限らず、他の金属や黒鉛膨張シートなど、他の高熱伝導材料を使用することができる。
【0026】
また、本発明のハースロール1において、外管8は、金属に限らず、セラミック結晶体スリーブなどが使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態のハースロールの断面図と表面温度分布図。
【図2】ハースロールの第1従来例の断面図と表面温度分布図。
【図3】ハースロールの第2従来例の断面図と表面温度分布図。
【図4】ハースロールの第3従来例の断面図と表面温度分布図。
【図5】ハースロールの第4従来例の断面図と表面温度分布図。
【図6】ハースロールの第5従来例の断面図と表面温度分布図。
【符号の説明】
【0028】
1 ハースロール
2 金属軸
3 固定フランジ
4 低熱伝導円板
5 高熱伝導円板
6 可動フランジ
7 ダブルナット
8 外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を通過させるように形成された金属軸の外周に、複数の低熱伝導円板と複数の高熱伝導円板とを積層して嵌装し、前記低熱伝導円板および前記高熱伝導円板の外周を覆うように外管を嵌装したことを特徴とするハースロール。
【請求項2】
前記低熱伝導円板は、無機質繊維板からなることを特徴とする請求項1に記載のハースロール。
【請求項3】
前記高熱伝導円板は、金属板からなることを特徴とする請求項1または2に記載のハースロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−92148(P2007−92148A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284999(P2005−284999)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【出願人】(592245812)株式会社アスクテクニカ (6)
【Fターム(参考)】