説明

ハードディスク装置用ガスケット形成材料及びそれを用いたハードディスク装置用ガスケット

【課題】ハードディスク装置におけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものにし得るガスケットを与えるハードディスク装置用ガスケット形成材料、及びこの材料を用いて作製されたガスケットを提供する。
【解決手段】(A)重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーと、(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーとを含むことを特徴とするハードディスク装置用ガスケット形成材料、及びこの材料を、エネルギー線照射により硬化させてなる硬化物を含むハードディスク装置用ガスケットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置用ガスケット形成材料及びそれを用いたハードディスク装置用ガスケットに関する。さらに詳しくは、本発明は、ハードディスク装置におけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性が改善されたガスケットを与えるハードディスク装置用ガスケット形成材料、及び該ガスケット形成材料を用いて作製された上記特性を有するハードディスク装置用ガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータのHDD(ハードディスク装置)においては、高性能化、小型化が進み、複雑な回路構成を有するようになっており、わずかな塵によっても障害が起こるため、実用上、防塵の必要性が高まっており、ガスケットを使って塵の侵入を防ぐことが一般に行われている。
HDDのガスケットの製造方法としては、熱可塑性エラストマーなどを射出成形する方法、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)やフッ素ゴムなどからなるシートを所定の形状に打ち抜き、これを接着するなどの方法が採られてきた。
一方、近年、設備投資や加工費削減を図るため、光硬化性シール材用組成物を、ディスペンサーを用いて被着体に塗布し、成形した後、主として紫外線により硬化させることにより、ガスケットを製造する方法が採られるようになってきた(例えば、特許文献1〜4参照)。ガスケットとしての十分なシール性を得るため、この光硬化性シール材用組成物には、硬化物が低硬度のものとなるように、高分子量のウレタンアクリレートオリゴマーが主成分として用いられている。
【0003】
【特許文献1】WO96/10594号パンフレット
【特許文献2】特開2003−7047号公報
【特許文献3】特開2004−26919号公報
【特許文献4】特開2006−298964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HDDは図1に示すような、カバープレート11とベースプレート12からなる保護体1により保護される。より具体的には、HDDはベースプレート12に配され、カバープレート11とベースプレート12によってガスケット13を挟むことでシールがなされる。
ところでHDDは、現状製造歩留まりが50%程度であり、不良品は図2又は図3に示すように、カバープレート11をベースプレート12から外して、部品を調整することが必要である。ガスケットは、図2に示すようにカバープレートに接着されて形成される場合と、図3に示すようにベースプレートに接着されて形成される場合があるが、いずれも他方のプレートに押付けられてシールがなされ、通常、該他方のプレートに粘着されている。HDDの部品を調整するに際し、カバープレート11をベースプレート12から外した場合に、粘着部分はガスケットが残存することなくきれいに剥がれ、接着部分はガスケットがそのまま維持されることが望まれる。このような特性を有することで、カバープレート及びベースプレートを再使用することができる、いわゆるリワーク性を付与することができる。しかしながら、上記先行技術文献には、リワーク性に関する記述は見当たらない。
本発明は、このような状況下で、ハードディスク装置におけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものにし得るガスケットを与えるハードディスク装置用ガスケット形成材料、及び該ガスケット形成材料を用いて作製された上記特性を有するハードディスク装置用ガスケットを提供することを目的とするものである。
なお、ここで、接着とは紫外線照射による硬化などによって、被接着体と化学結合等によって強固に密着した状態をいい、粘着とはガスケットのタック、熱及び圧縮などにより、物理的に被粘着体と密着した状態をいう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ね、ハードディスク装置におけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性を改善するには、上記装置におけるカバープレートとベースプレートとの間に介在させるガスケットにおいて、ガスケットがカバープレートに接着されてなる場合には、カバープレートとの接着性を高め、ベースプレートとの粘着性をシール性が損なわれない範囲で低くすること、または、ガスケットがベースプレートに接着されてなる場合には、ベースプレートとの接着性を高め、カバープレートとの粘着性をシール性が損なわれない範囲で低くすることが重要である点に着目した。
【0006】
本発明者は、この着目に基づき、さらに研究を重ねた結果、重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーと、硬化物のガラス転移温度が所定の範囲にある一官能(メタ)アクリル系モノマーとを含む材料を、ハードディスク装置におけるカバープレートに塗布し、エネルギー線を照射して硬化させて得られたガスケットは、該カバープレートとの接触面積がペースプレートとの接触面積に比べて大きく、かつ未硬化材料がカバープレートと接触した状態で硬化するため、該カバープレートとの接着性が、ベースプレートとの粘着性に比べて高くなることを見出した。
また、当該ガスケットにおいては、ペースプレートとの接触部分の圧縮面圧が低く(20%圧縮面圧は、通常4N以下)、かつタックも小さいことから、カバープレートをガスケットが破断や剥離することなく、ペースプレートから容易に取り外すことができることを見出した。
【0007】
一方、本発明の材料をペースプレートに適用した場合には、該ペースプレートとの接着性が、カバープレートとの粘着性に比べて高くなり、カバープレートとの接触部分の圧縮面圧が低く、かつタックも小さくなって、上記と同様にカバープレートをガスケットが破断や剥離することなく、ペースプレートから容易に取り外すことができることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(A)重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーと、(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーとを含むことを特徴とするハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(2)(A)重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーが、下記一般式(I)
【化1】

【0009】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基及びビニル基の少なくともいずれかの不飽和基を含有するモノオール化合物の脱水酸基残基、R2は有機ジイソシアナート化合物の脱イソシアナート残基、R3は、数平均分子量1×103〜1×104で環状基又は分岐鎖状基を含有するポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基であり、Aはジアミン化合物の脱水素残基又はジオール化合物の脱水素残基、p及びrの各々は0〜7、qは0〜3、ただし、q=0のとき、1≦p+r≦10である。)
で表され、かつ数平均分子量が5×103〜5×104である不飽和基含有ウレタンオリゴマーである上記(1)に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(3)一般式(I)におけるR3が、環状基含有ジカルボン酸とジオールとが縮合したポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基、又は環状基含有ジカルボン酸無水物がジオールに反応して変性したポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基である上記(2)に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(4)一般式(I)におけるR1が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルのいずれかのモノオール化合物の脱水酸基残基である上記(2)に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(5)不飽和基含有ウレタンオリゴマー(ただし、一般式(I)においてq=0の場合)が、ポリエステルジオール化合物と、有機ジイソシアナート化合物とを重付加反応させてイソシアナート基を両末端に有する付加物を形成した後、該イソシアナート基に、モノオール化合物を付加して得られるものである上記(2)〜(4)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(6)不飽和基含有ウレタンオリゴマー(ただし、一般式(I)においてq≠0の場合)が、ポリエステルジオール化合物と有機ジイソシアナート化合物とを重付加反応させてイソシアナート基を両末端に有する付加物を形成した後、ジアミン化合物またはジオール化合物の末端の各々を、該付加物の片端のイソシアナート基に付加させ、該付加物の他の片端のイソシアナート基に、モノオール化合物を付加して得られるものである上記(2)〜(4)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
【0010】
(7)(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーが、一般式(II)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数8〜20のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(8)(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーが、一般式(III)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、A1は炭素数2〜4のアルキレン基、R6は水素原子又はメチル基、R7は炭素数6〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基又は炭素数6〜20のアリール基、nは平均で1〜7を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(9)(A)成分100質量部に対し、(B)成分5〜40質量部を含む上記(1)〜(8)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(10)さらに、(A)成分100質量部に対して、(C)チクソ性付与剤0.5〜10質量部を含む上記(1)〜(9)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(11)(C)成分が有機増粘剤である上記(10)に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(12)有機増粘剤が、水添ひまし油である上記(11)に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、
(13)さらに、(D)成分として、重合開始剤及び架橋剤のうちの少なくとも一種を含む上記(1)〜(12)のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料、及び
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載のガスケット形成材料をエネルギー線照射により硬化させてなる硬化物を含むことを特徴とするハードディスク装置用ガスケット、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーと、硬化物のガラス転移温度(Tg)がある範囲にある低Tg一官能(メタ)アクリル系モノマーとを含むガスケット形成材料を用いることにより、該ガスケット材料をカバープレートに適用した場合はカバープレートとの接着性が高く、かつベースプレートとの粘着性を低く抑えることができ、一方、該ガスケット材料をベースプレートに適用した場合はベースプレートとの接着性が高く、かつカバープレートとの粘着性を低く抑えることができる。従って、該カバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものとすることができる。また、本発明によれば、カバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものにし得るハードディスク装置用ガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のハードディスク装置用ガスケット形成材料(以下、単にガスケット形成材料と称することがある。)は、(A)重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーと、(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーとを含むことを特徴とする。
[(A)エネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマー]
本発明のガスケット形成材料において、(A)成分として用いられるエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーとは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち紫外線、α線、β線、γ線及び電子線などを照射することにより、架橋するウレタン液状オリゴマーを指す。
当該(A)成分のエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーとしては、下記一般式(I)
【0017】
【化4】

【0018】
で表される構造を有する数平均分子量が5×103〜5×104である不飽和基含有ウレタンオリゴマーを用いることができる。
一般式(I)において、R1は、(メタ)アクリロイル基およびビニル基の少なくともいずれかの不飽和基を含有するモノオール化合物の脱水酸基残基である。
モノオール化合物としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートやヒドロキシアルキルビニルが好ましく挙げられ、例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートやポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基をいう。
【0019】
2は、有機ジイソシアナート化合物の脱イソシアナート残基である。例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基などのアルキレン基、シクロヘキシレン基などのシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などのアリレン基、キシリレン基などが含まれる。ここで、アルキル基は直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよい。有機ジイソシアナート化合物としては、イソホロンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、キシレンジイソシアナート、トリメチルへキサメチレンジソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナート、水添ジフェニルメタンジイソシアナートおよびジフェニルメタンジイソシアナートなどが好ましく挙げられる。
【0020】
3は、数平均分子量1×103〜1×104で環状基または分岐鎖状基を含有するポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基である。
これらの中でR3は、環状基含有ジカルボン酸とジオールとが縮合した前記ポリエステルジオール化合物の脱水素残基、又は環状基含有ジカルボン酸無水物がジオールに反応して変性したポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基が好ましい。
【0021】
3を構成する環状基含有ジカルボン酸またはその酸無水物としては、例えばフタル酸、無水フタル酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。また、これらは複数種混合して用いてもよい。
3を構成するジオールとして、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3−プロパンジオール、ビスフェノールA、2,2−チオジエタノール、アセチレン型ジオール、ヒドロキシ末端ポリブタジエン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ノルボルニレングリコール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、2,4−ジメチル−2−エチレンヘキサン−1,3−ジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、および3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0022】
また、一般式(I)において、Aはジアミン化合物の脱水素残基、またはジオール化合物の脱水素残基である。
このような脱水素残基としては特に限定されるものではないが、例えばジアミノプロパン、ジアミノブタン、ノナンジアミン、イソホロンジアミン、へキサメチレンジアミン、水添ジフェニルメタンジアミン、ビスアミノプロピルエーテル、ビスアミノプロピルエタン、ビスアミノプロピルジエチレングリコールエーテル、ビスアミノプロピルポリエチレングリコールエーテル、ビスアミノプロポキシネオペンチルグリコール、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン、トリレンジアミン、および両末端アミノ基変性シリコーンから選ばれるジアミン化合物の脱水素残基、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、両末端水酸基変性シリコーン、およびカルボキシル基含有ジオールから選ばれるジオール化合物の脱水素残基であるものが好ましい。
また、R1は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルのいずれかのモノオール化合物の脱水酸基残基であることが好ましく、例えばヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルビニールエーテルなどの脱水酸基残基が挙げられる。
【0023】
当該(A)成分のエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーは、好ましくは下記方法により製造することができる。
一般式(I)においてq=0の場合の不飽和基含有ウレタンオリゴマーは、前記ポリエステルジオール化合物と、前記有機ジイソシアナート化合物とを重付加反応させてイソシアナート基を両末端に有する付加物を形成した後、該イソシアナート基に、前記モノオール化合物を付加して得ることができる。
また、一般式(I)においてq≠0の場合の不飽和基含有ウレタンオリゴマーは、前記ポリエステルジオール化合物と、前記有機ジイソシアナート化合物とを重付加反応させてイソシアナート基を両末端に有する付加物を形成した後、前記ジアミン化合物または前記ジオール化合物の末端の各々を、該付加物の片端のイソシアナート基に付加させ、該付加物の他の片端のイソシアナート基に、前記モノオール化合物を付加して得ることができる。
このエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーは、本発明のガスケット形成材料をエネルギー線照射により硬化させてガスケットを作製する場合に、該ガスケットに適度のゴム弾性を付与し、ガスケットのシール性を向上させる効果を発揮する。この効果や成形性などの観点から、当該エネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーの数平均分子量は、その構造にもよるが、通常5×103〜5×104程度であることが好ましい。
本発明においては、(A)成分として、上記の重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーを一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
[(B)一官能(メタ)アクリル系モノマー]
本発明においては、発明の主旨から、ハードディスク装置におけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものにし得るガスケットが得られるように、ガスケット形成材料を選択する。
以下、ガスケットをカバープレートに形成する場合について説明する。上記カバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものにするには、ハードディスク装置におけるカバープレートとガスケットとの接着性を強くすると共に、ベースプレートとガスケットとの粘着性を弱くし、カバープレートをガスケットの破断や剥離することなく、取り外すことができるようにすればよい。該カバープレートとガスケットとの接着性を高くする手段としては、後で説明するように種々の方法を用いることができる。一方、ベースプレートとガスケットとの粘着性を弱くするには、ベースプレートに接触する部分のガスケットの圧縮面圧を低くし、タックを小さくすればよく、そのためには、ガスケットのベースプレートに接触する部分の硬化部材の架橋密度やガラス転移温度を低下させればよいことを、本発明者らは見出した。
一方、ガスケットをベースプレートに形成する場合についても同様であり、ベースプレートとガスケットとの接着性を強くすると共に、カバープレートとガスケットとの粘着性を弱くし、カバープレートをガスケットの破断や剥離することなく、取り外すことができるようにすればよい。
【0025】
また、ハードディスク装置用ガスケットは、カバープレート及びベースプレートのリワーク性の面から、前述した性状を有すると共に、ガスケットとしての性能や良好な成形性を有することも重要である。
このような点から、本発明のガスケット形成材料においては、(B)成分としてホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃、好ましくは−70〜0℃である一官能(メタ)アクリル系モノマー(以下、低Tg一官能(メタ)アクリル系モノマーと称することがある。)を用いる。
【0026】
なお、(メタ)アクリル系モノマーのガラス転移温度(Tg)は、通常のラジカル重合法によりに重合させて得られたポリマーを、示差走査熱量計(DSC)で通常の条件で測定した値である。
上記の低Tg一官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば一般式(II)及び一般式(III)
【0027】
【化5】

【0028】
で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物の中からTgが上記範囲にあるものを適宜選択することができる。
上記一般式(II)において、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5は炭素数8〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。R5で示されるアルキル基の例としては各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基などを挙げることができる。
一方、上記一般式(III)において、A1は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。このアルキレン基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1−メチルプロピレン基などを挙げることができるが、これらの中でエチレン基及びプロピレン基が好ましく、特にエチレン基が好ましい。R6は水素原子又はメチル基を示し、R7は炭素数6〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を示す。
上記R7のうちの炭素数6〜20のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、具体的には各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基
などが挙げられる。炭素数7〜20のアラルキル基は、芳香環上に炭素数1〜15程度の直鎖状又は分岐状のアルキル基が導入されていてもよく、具体的にはベンジル基、アルキルベンジル基、フェネチル基、アルキルフェネチル基、ナフチルメチル基、アルキルナフチルメチル基などが挙げられる。また、炭素数6〜20のアリール基は、芳香環上に炭素数1〜15程度の直鎖状又は分岐状のアルキル基が導入されていてもよく、具体的にはフェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基、アルキルナフチル基などが挙げられる。
nは平均で1〜7の数であり、nが大きくなると、硬化時に酸素阻害を受けにくく、その結果、表面のタックが小さくなるが、硬化物の透湿性が低下する傾向がある。nとしては、平均で1〜4程度がタック及び透湿性のバランスの観点から好ましい。
【0029】
当該(B)成分の低Tg一官能(メタ)アクリル系モノマーの中で、好ましいものとしては、硬化物の圧縮面圧を低下させる観点から、上記一般式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物として、例えばラウリルアクリレート(Tg:−3℃)及びイソミリスチルアクリレート(Tg:−56℃)などを挙げることができ、一般式(III)で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物として、例えば下記の式(III−a)(Tg:17℃)、式(III−b)(Tg:−20℃)、式(III−c)(Tg:−22℃)、式(III−d)(Tg:−25℃)及び式(III−e)(Tg:−18℃)
【0030】
【化6】

【0031】
で表される化合物などを挙げることができる。これらの中で、圧縮面圧、タック及び透湿性のバランスの観点から、式(III−a)及び式(III−d)が特に好適である。
本発明においては、(B)成分として、当該低Tg一官能(メタ)アクリル系モノマーは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のガスケット形成材料においては、当該(B)成分の低Tg一官能(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、得られるガスケットが、ハードディスク装置におけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性を良好なものとし、かつガスケットとしての性能及び成形性などの観点から、(A)成分のエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマー100質量部に対して、5〜40質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
【0032】
[(C)チクソ性付与剤]
本発明のガスケット形成材料には、さらに(C)成分としてチクソ性付与剤を含有させることができる。
ハードディスク装置用ガスケットの製造法としては、ディスペンサーを用いて溶融樹脂又は溶液状樹脂を、カバープレート又はベースプレートにガスケット形状に押出し、一体化するディスペンシング法が、貼り付け工程などの工程が不要などのメリットがあることから、工業的に広く使用されている。そして、押出しによるガスケット形状を正確にするために、粘度の剪断速度依存性を大きく制御して、低剪断速度では粘度が高く、高剪断速度では粘度の低い材料を用いる方法が採用されている。このような粘度の剪断速度依存性を制御するために、チクソ性付与剤が用いられる。
当該(C)成分のチクソ性付与剤は、前記(A)成分のエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマー100質量部に対して、0.5〜10質量部を含有させることが好ましい。このチクソ性付与剤を併用することにより、チクソトロピー性が効果的に向上し、押出し形状を精度よく制御して加工することが可能となる。この点から(C)成分の添加量は1〜5質量部がより好ましい。このチクソ性付与剤としては、無機充填剤および有機増粘剤のいずれも用いることができる。
無機充填剤としては、湿式シリカや乾式シリカの表面処理微粉シリカや、有機化ベントナイトなどの天然鉱物系のものが挙げられる。具体的には、乾式法により微粉化したシリカ微粉末[例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル300など]、このシリカ微粉末をトリメチルジシラザンで変性した微粉末[例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジルRX300など]及び上記シリカ微粉末をポリジメチルシロキサンで変性した微粉末[例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジルRY300など]などが挙げられる。無機充填剤の平均粒径は、増粘性の観点から、5〜50μmが好ましく、5〜12μmがより好ましい。
【0033】
また、有機増粘剤としては、アマイドワックス、水添ひまし油系又はこれらの混合物などが挙げられる。具体的には、ひまし油(主成分がリシノール酸の不乾性油)の水添品である水添ひまし油[例えば、ズードケミー触媒(株)製, 商品名:ADVITROL 100、楠本化成(株)製, 商品名:ディスパロン305など]及びアンモニアの水素をアシル基で置換した化合物である高級アマイドワックス[例えば、楠本化成(株)製, 商品名:ディスパロン6500など]などが挙げられる。
これらチクソ性付与剤の中で、有機増粘剤が好ましい。天然鉱物系の無機充填剤は重金属等の不純物が避けられず、また、表面処理微粉シリカは、表面の濡れ性が変わり組成物の粘度が変化することがあり、また表面処理剤の種類によっては、使用中に器具に有害なガスを発生することがある。
さらに、有機増粘剤の中でも、アマイドワックスは、原料に由来するアミンの存在により架橋密度を高めて硬度が大きくなることがあるので、特に水添ひまし油が好ましい。
【0034】
[(D)添加成分]
本発明のガスケット形成材料には、さらに(D)成分として、光重合開始剤及び架橋剤のうちの少なくとも一種を添加することができる。これらの添加は、紫外線照射して硬化させる場合には特に好ましい。
光重合開始剤としては、分子内開裂型、水素引き抜き型のいずれでもよい。分子内開裂型としては、べンゾイン誘導体類、べンジルケタール類[例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア651]、α−ヒドロキシアセトフェノン類[例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ(株)製、商品名:ダロキュア1173、イルガキュア184]、α−アミノアセトフェノン類[例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア907、イルガキュア369]、α−アミノアセトフェノン類とチオキサントン類(例えば、イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン)との併用、アシルホスフィンオキサイド類[例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア819]などが挙げられる。水素引き抜き型としては、ベンゾフェノン類とアミンの併用、チオキサントンとアミンの併用などが挙げられる。また、分子内開裂型と水素引き抜き型を併用してもよい。中でもオリゴマー化したα−ヒドロキシアセトフェノン及びアクリレート化したベンゾフェノン類が好ましい。より具体的には、オリゴ[2−ヒドロキシー2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン][例えば、Lamberiti S・P・A製、商品名:ESACURE KIP150など]、アクリル化べンゾフェノン[例えは、ダイセル・ユー・シー・ビー(株)製、商品名:Ebecryl P136など]、イミドアクリレートなどが挙げられる。
【0035】
架橋剤としては、有機パーオキサイドが好適に挙げられ、具体的には、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−へキサン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)−へキサン;t−ブチルパーオキシベンゾエート;ジクミルパーオキサイド;t−ブチルクミルパーオキサイド;ジイソプロピルベンゾハイドロパーオキサイド;1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)−ベンゼン;ベンゾイルパーオキサイド;1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0036】
[他の任意添加成分]
本発明のガスケット形成材料には、本発明の目的が損なわれない範囲で必要に応じ、他のモノマー例えば(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを適宜含有させることができる。
また、上記チクソ性付与剤の他に、クレー、珪藻土、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウムなどのりん片状無機系添加剤、各種の金属粉、ガラス粉、セラミックス粉、粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填剤、その他の各種の天然または人工の短繊維、長繊維(例えば、ガラスファイバー、金属ファイバー、その他各種のポリマーファイバー等)などを配合することができる。
さらに、中空フィラー、例えば、ガラスバルーンなどの無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラーを配合することにより、軽量化を図ることができる。また、軽量化などの各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入することも可能であり、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
【0037】
さらに、他の添加剤として、必要に応じて、光増感剤、熱重合禁止剤、硬化促進剤、難燃剤、抗菌剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、石油系炭化水素、ロジン誘導体などの各種粘着付与剤(タッキファイヤー)、レオストマーB(商品名:理研ビニル社製)などの各種接着剤性エラストマー、ハイブラー(商品名:クラレ社製、ビニル−ポリイソプレンブロックの両末端にポリスチレンブロックが連結したブロック共重合体)、ノーレックス(商品名:日本ゼオン社製、ノルボルネンを開環重合して得られるポリノルボルネン)などの他の熱可塑性エラストマー又は樹脂などを併用することができる。
【0038】
[ハードディスク装置用ガスケット]
本発明のハードディスク装置用ガスケットは、前述した本発明のガスケット形成材料を、エネルギー線照射により硬化させて得られた硬化物を含むものであり、例えば以下の方法、すなわち
(1)本発明のガスケット形成材料を、三次元自動塗布制御装置の押し出し口から押し出して一段目の未硬化ガスケットを形成した後、必要に応じ該一段目の未硬化ガスケットの上に、さらに同ガスケット形成材料を押し出して二段構造の未硬化ガスケットを形成し、その後にエネルギー線を照射して硬化させることによりガスケットを製造する方法、
(2)本発明のガスケット形成材料以外のカバープレートとの接着性に優れるガスケット形成材料を、三次元自動塗布制御装置の押し出し口から押し出して一段目の未硬化ガスケットを形成し、エネルギー線を照射するなどして硬化させた後、該一段目のガスケットの上に、さらに本発明のガスケット形成材料を、同様にして三次元自動塗布制御装置の押し出し口から押し出して二段目の未硬化ガスケットを形成し、その後にエネルギー線を照射して硬化させることにより、ガスケットを製造する方法、
により、製造することができる。
なお、上記(2)の方法において、ガスケットをベースプレート上に形成する場合には、本発明のガスケット形成材料以外の接着性に優れるガスケット形成材料を用いてベースプレート上に形成された一段目のガスケットの上に、本発明のガスケット形成材料によって、二段目のガスケットを形成すればよい。
【0039】
ガスケットを多段構造とすることで、線幅が狭く、かつ高さが高いガスケットを得ることができる。なお、多段構造は、二段構造に限定されるものではなく、三段構造以上であってもかまわない。また、多段構造において、ガスケット形成材料が異なる場合、本発明においては、カバープレート及びベースプレートのリワーク性の観点から、低い粘着性を必要とする部分のガスケットに、本発明のガスケット形成材料を用いることが必要である。
【0040】
ガスケット材の押し出しに用いる装置は、カバープレート又はベースプレートに所望の形状のガスケットを形成することができる装置であれば特に制限はなく、空圧式押し出し装置、機械的なラムプレス押し出し装置、プランジャー式押し出し装置などが挙げられる。また、ノズル形状については特に制限はなく、円形状、楕円形状、多角形状等が挙げられる。また、ノズルの内径については、ガスケットの幅に応じて適宜選定することができるが、通常、0.1〜1.2mmの範囲である。
ガスケット形成材料の押し出し圧は、ガスケット形成材料の種類及び粘度等によって適宜選択されるが、50kPa〜1MPaとすることが好ましい。この範囲内であると、ガスケット形成材料の押し出しが効率よく行えるとともに、未硬化ガスケットが押しつぶされることがなく、十分に線幅が狭く、かつ高さが高いガスケットが得られる。こうした観点から、ガスケットの押し出し圧は、さらに80kPa〜800kPa、さらには100kPa〜800kPa、特には200kPa〜800kPaの範囲がより好ましい。
なお、ガスケットの成形温度は用いるガスケット材によって適宜選定されるが、0℃〜100℃の範囲であることが好ましく、さらに30℃〜70℃の範囲であることが好ましい。
【0041】
ガスケット形成材料の粘度については、ガスケット形成材料を塗布することができる範囲で特に限定されないが、通常、50℃での粘度が50〜1000Pa・sの範囲であることが好ましい。50℃での粘度がこの範囲内であると、流動性が適度であるため、ガスケット形状の賦形が行いやすい。
未硬化ガスケットを硬化させるために用いられるエネルギー線とは、紫外線及び電子線、α線、β線、γ線をいい、本発明ではこれらのうち、特に紫外線が好ましい。紫外線は、装置が簡便で使い易く良好に未硬化ガスケットを硬化させることができる。
また、紫外線を用いる場合にはガスケット形成材料に光重合開始剤及び/又は光増感剤を含有させることが好ましい。一方、電子線やγ線などを用いる場合には、光重合開始剤や光増感剤を含有させることなく速やかに硬化を進めることができる。
紫外線源としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯等を挙げることができる。紫外線を照射する雰囲気としては、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガス雰囲気あるいは酸素濃度を低下させた雰囲気が好ましいが、通常の空気雰囲気でも紫外線により硬化させることができる。照射雰囲気温度は、通常10〜200℃とすることができる。また、硬化後にベーキングを行い、揮発成分を除去することができる。その時のベーキング温度は100〜160℃が好ましい。
【0042】
(カバープレート及びベースプレート)
ガスケット形成材料を押し出して、硬化させてなるガスケットと一体化されるカバープレート又はベースプレートは、金属や熱可塑性樹脂等の合成樹脂で形成することができる。カバープレート及びベースプレートを形成する金属としては、例えばニッケルめっきアルミニウム、ニッケルめっき鋼、冷延鋼、亜鉛めっき鋼、アルミニウム/亜鉛合金めっき鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金などの中から、適宜選択して用いることができる。
また、マグネシウムを射出成形したものも用いることができる。耐食性の点から、無電解ニッケルめっき処理を施した金属が好適であり、本発明においては、ニッケルめっきアルミニウム及びニッケルめっき鋼が好ましい。
無電解ニッケルめっき処理方法としては、従来金属素材に適用されている公知の方法、例えば硫酸ニッケル、次亜リン酸ナトリウム、乳酸、プロピオン酸などを適当な割合で含有するpH4.0〜5.0程度で、かつ温度85〜95℃程度の水溶液からなる無電解ニッケルめっき浴中に、金属板を浸漬する方法などを用いることができる。
【0043】
カバープレート及びベースプレートを形成する熱可塑性樹脂としては、例えばアクリロニトリルスチレン(AS)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレン複合体などのオレフィン系樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、アクリル系樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの中から、適宜選択すればよい。液晶ポリマーとしてはサーモトロピック液晶ポリマーが好ましく、具体的にはポリカーボネート系液晶ポリマー、ポリウレタン系液晶ポリマー、ポリアミド系液晶ポリマー、ポリエステル系液晶ポリマーなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
カバープレート又はベースプレートとガスケットとの接着性を向上させるために、カバープレート又はベースプレートが合成樹脂製の場合、予めカバー体を表面処理することができる。表面処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理などが挙げられる。プラズマ処理には、キーエンス社製のプラズマ照射器などの装置を用いることができる。
また、カバープレート又はベースプレートに、ガスケットの形状に合わせて接着性向上剤を塗布するなど、プライマー処理を施したのち、ガスケット形成材料を押し出すことにより、カバープレート又はベースプレートとガスケットとの接着性を向上させることができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例における評価は下記方法により行った。
(1)硬化物の物性
ガラス上にガスケット形成材料を厚さ0.6mmに製膜し、これにエネルギー線を照射して硬化シートを得た。エネルギー線には、メタルハライドランプを使用し、空気雰囲気下で照度約150mW/cm2、積算光量約9000mJ/cm2の条件で照射を行った。この硬化シートをさらに、空気雰囲気下120℃で4時間ベーキング処理した。
(a)タック(表面粘着性)
上記で得られた0.6mm厚さの硬化シート表面にSUS304製の円柱型プローブを一定条件で押し付け、引き上げる時の力を測定する。尚、シートの測定面は紫外線硬化時に空気側を向いていた面である。
(測定条件)
測定環境:25℃
プローブ径:φ5.0mm
押し込みスピード:120mm/min
押し込み荷重:30gfで3秒間
引き上げスピード:600mm/min
(b)圧縮面圧
上記で得られた0.6mm厚さの硬化シートを2枚重ねて1.2mmの厚さにして、圧力をかけ、圧縮率20%とした際の圧縮力(面圧)を測定した。なお、圧縮力は、荷重−たわみ試験装置(アイコーエンジニアリンク(株)製、機種名「MODEL 1605N」)を使用し、圧力を加える治具の先端子としては2mmφの円形のものを使用した。
(c)透湿性
上記で得られた0.6mm厚の硬化シートについて、JIS L1099に記載のA法の透湿カップを使用し、JIS Z0208に準拠して40℃、相対湿度90%の条件で測定した。
(d)硬度
JIS K6253−1993に準拠し、タイプAデュロメータにより上記で得られた硬化シートの硬度を測定した。試験体として厚さが約0.6mmのシート10枚を積層した厚さが約6mmのものを用いた。
【0046】
(2)HDDにおけるカバープレートのリワーク性
ガスケットを成形したカバープレートをベースプレートに組み込み、85℃、24時間放置した後、カバープレートを取り外してガスケットの破断、剥離の有無を目視にて確認した。上記試験を5回繰り返し、最終的にリワーク性の是非を確認した。
【0047】
製造例1 エネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーの製造
2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールと無水フタル酸とから得られるポリエステルジオール化合物(数平均分子量2000)400gとノルボルナンジイソシアナート82.4gと、酸化防止剤の2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.10gとを、攪拌機、冷却管、温度計を備えた1リットル四つ口フラスコに加え、80℃で2時間反応させた。次いで2−ヒドロキシエチルアクリレート46.2g、重合禁止剤のp−メトキシフェノール0.10g、付加反応触媒としてのチタンテトラ(2−エチル−1−ヘキサノエート)0.06gとを加え、85℃で6時間反応させた。反応液の一部を取り出し赤外線吸収スペクトルで2280cm-1のイソシアナート基の吸収ピークが消失したことにより、反応の終点を確認し、ウレタンオリゴマーを得た。得られたウレタンオリゴマーについて数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、ポリスチレン換算値で求めたところ18000であった。
【0048】
実施例1〜13及び比較例1〜3
第1表に示す組成のガスケット形成材料を調製し、各材料について、その硬化物の物性を求めると共に、HDDにおけるカバープレートのリワーク性を評価した。結果を第1表に示す。なお、対照として、モノマーを配合していないウレタンオリゴマーのみのものも第1表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
[注]
1)製造例1で得られたウレタンオリゴマー
2)A:ノニルフェノールEO変性アクリレート(n=1)、東亜合成社製、商品名「M−111」、構造式(III−a)、Tg:17℃
B:ノニルフェノールEO変性アクリレート(n=4)、共栄社化学社製、商品名「NP−4EA」、構造式(III−b)、Tg:−20℃
C:フェノールEO変性アクリレート(n=2)、東亜合成社製、商品名「M−101A」、構造式(III−d)、Tg:−8℃
D:フェノールEO変性アクリレート(n=2)、共栄社化学(株)製、商品名「P−200A」、構造式(III−d)、Tg:−25℃
E:フェノールEO変性アクリレート(n=4)、東亜合成社製、商品名「M−102」、構造式(III−e)、Tg:−18℃
F:ラウリルアクリレート、共栄社化学(株)社製、商品名「L−A」、Tg:−3℃
G:イソミリスチルアクリレート、共栄社化学(株)社製、商品名「IM−A」、Tg:−56℃
H:エチルカルビトールアクリレート、大阪有機化学工業(株)製、商品名「ビスコート#190」、Tg:−67℃
I:イソボルニルアクリレート、大阪有機化学工業(株)製、商品名「IBXA」、Tg:94℃
J:N−(アクリロイル)モルホリン、興人社製、商品名「ACMO」、Tg:145℃
K:ポリエチレングリコールジアクリレート、東亜合成(株)製、商品名「M−243」、Tg:12℃
3)増粘剤:ズードケミー触媒社製、商品名「ADVITROL 100」、水添ひまし油
4)トナー:日本ピグメント(株)製、商品名「CMB−B1」
5)カルボジイミド:液状カルボジイミド化合物、日清紡績社製、商品名「Elastostab H01」
6)光重合開始剤:チバ・スペシャルティケミカルズ社製、商品名「イルガキュア2959」
【0052】
第1表から分かるように、実施例1〜3、5〜11のガスケット形成材料における硬化物の物性は、いずれもタック、圧縮面圧、透湿性及び硬度のバランスが良好であって、HDDカバープレート及びベースプレートのリワーク性が良好である。実施例4及び実施例13は、(メタ)アクリル系モノマーの配合量が多いため、タックが悪くなっており、実施例12は、(メタ)アクリル系モノマーの配合量が少なすぎるために、圧縮面圧が高くなっている。
比較例1〜3は、いずれも圧縮面圧が実施例のものよりも高い。
【0053】
参考例1
製造例1で得たウレタンオリゴマー100質量部、N−(アクリロイル)モルホリン7質量部、増粘剤「ADVITROL 100」(前出)3質量部、トナー「CMB−B1」(前出)1質量部、カルボジイミド化合物「Elastostab H01」(前出)1質量部及び光重合開始剤「イルガキュア2959」(前出)2質量部を含むガスケット形成材料を調製した。
【0054】
実施例14
参考例1で得たガスケット形成材料を用い、三次元自動塗布制御装置を用いて、1.8インチHDDのニッケルメッキした0.4mm厚のSUS304製プレート(カバープレート)及び2.5インチHDDのニッケルメッキした0.4mm厚のアルミプレート(カバープレート)上に一段目の未硬化ガスケットを形成し、これに紫外線照射装置で紫外線を照射して硬化させた。この一段目のガスケット上に、実施例6で用いたガスケット形成材料を、同装置にて押し出し、二段目の未硬化ガスケットを形成した後、さらに、紫外線照射装置で紫外線を照射して硬化させた。紫外線照射の条件は、いずれも、照度150mW/cm2、積算光量9000mJ/cm2の条件であり、得られたガスケットの高さ(h)と幅(w)の比率(h/w)は1.1であった。
なお、三次元自動制御装置としてはディスペンサー機を用いた。当該装置はスクリュー式及び空圧式として使用できるが、本実施例では空圧式押し出し装置として使用した。これらの押し出し機の押し出し口は交換可能であって、押し出し口の形状は円形であり、ノズル内径0.72mmのものを使用して押出しを行った。
また、紫外線照射装置としては、センエンジニアリング社製「UV1501BA−LT」を使用した。
このようにして作製された二段構造のガスケットについて、HDDカバープレートのリワーク性を評価した。カバープレートをベースプレートから外すに際し、1.8インチHDD及び2.5インチHDDのいずれも、ガスケットの破断及び剥離がなく、また抵抗が小さく、作業性も良好であり、良好なリワーク性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のガスケット形成材料は、HDDにおけるカバープレート及びベースプレートのリワーク性が改善されたガスケットを与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】HDDを保護する保護体を示す概念図である。
【図2】HDDを保護する保護体のカバープレートをベースプレートから取り外した図であり、ガスケットがカバープレートに接着された場合を示す図である。
【図3】HDDを保護する保護体のカバープレートをベースプレートから取り外した図であり、ガスケットがベースプレートに接着された場合を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1.保護体
11.カバープレート
12.ベースプレート
13.ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーと、(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーとを含むことを特徴とするハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項2】
(A)重合性不飽和基を有するエネルギー線硬化性ウレタン液状オリゴマーが、下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1は(メタ)アクリロイル基及びビニル基の少なくともいずれかの不飽和基を含有するモノオール化合物の脱水酸基残基、R2は有機ジイソシアナート化合物の脱イソシアナート残基、R3は、数平均分子量1×103〜1×104で環状基又は分岐鎖状基を含有するポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基であり、Aはジアミン化合物の脱水素残基又はジオール化合物の脱水素残基、p及びrの各々は0〜7、qは0〜3、ただし、q=0のとき、1≦p+r≦10である。)
で表され、かつ数平均分子量が5×103〜5×104である不飽和基含有ウレタンオリゴマーである請求項1に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項3】
一般式(I)におけるR3が、環状基含有ジカルボン酸とジオールとが縮合したポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基、又は環状基含有ジカルボン酸無水物がジオールに反応して変性したポリエステルジオール化合物の脱水酸基残基である請求項2に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項4】
一般式(I)におけるR1が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルのいずれかのモノオール化合物の脱水酸基残基である請求項2に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項5】
不飽和基含有ウレタンオリゴマー(ただし、一般式(I)においてq=0の場合)が、ポリエステルジオール化合物と、有機ジイソシアナート化合物とを重付加反応させてイソシアナート基を両末端に有する付加物を形成した後、該イソシアナート基に、モノオール化合物を付加して得られるものである請求項2〜4のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項6】
不飽和基含有ウレタンオリゴマー(ただし、一般式(I)においてq≠0の場合)が、ポリエステルジオール化合物と有機ジイソシアナート化合物とを重付加反応させてイソシアナート基を両末端に有する付加物を形成した後、ジアミン化合物またはジオール化合物の末端の各々を、該付加物の片端のイソシアナート基に付加させ、該付加物の他の片端のイソシアナート基に、モノオール化合物を付加して得られるものである請求項2〜4のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項7】
(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーが、一般式(II)
【化2】

(式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数8〜20のアルキル基を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物である請求項1〜6のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項8】
(B)硬化物のガラス転移温度(Tg)が−70〜20℃である一官能(メタ)アクリル系モノマーが、一般式(III)
【化3】

(式中、A1は炭素数2〜4のアルキレン基、R6は水素原子又はメチル基、R7は炭素数6〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基又は炭素数6〜20のアリ―ル基、nは平均で1〜7の数を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル化合物である請求項1〜6のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項9】
(A)成分100質量部に対し、(B)成分5〜40質量部を含む請求項1〜8のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項10】
さらに、(A)成分100質量部に対して、(C)チクソ性付与剤0.5〜10質量部を含む請求項1〜9のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項11】
(C)成分が、有機増粘剤である請求項10に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項12】
有機増粘剤が、水添ひまし油である請求項11に記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項13】
さらに、(D)成分として、重合開始剤及び架橋剤のうちの少なくとも一種を含む請求項1〜12のいずれかに記載のハードディスク装置用ガスケット形成材料。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のガスケット形成材料を、エネルギー線照射により硬化させてなる硬化物を含むこと特徴とするハードディスク装置用ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−43295(P2009−43295A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203977(P2007−203977)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】