説明

ハーネス保護具及びワイヤーハーネス配索構造部

【課題】曲げ変形に係る負荷を軽減してワイヤーハーネスを曲げ易くすること。
【解決手段】エッジプロテクタ10は、貫通孔部103に対して挿入方向Sに挿入可能で、且つ、ワイヤーハーネス1を配設可能な配設孔部22を有する筒状の本体部20と、本体部20の外周部から張り出す形状に形成され、貫通孔部102の開口縁部に対して貫通方向に係止可能な係止構造部とを備える。配設孔部22は、ワイヤーハーネス1の外周部に沿う形状に形成されて貫通孔部103に対してワイヤーハーネス1を中心軸に対する放射方向において一定範囲内に位置決め可能な小空間部24と、挿入方向S後端部を含む部分に設けられ、周方向において小空間部24の少なくとも一方側において小空間部24より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部26とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔に通されるワイヤーハーネスを保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されるワイヤーハーネスが、金属パネル等に形成された貫通孔部に通される場合、ワイヤーハーネスが貫通孔部の開口縁部と接触して傷つくことを防ぐ必要がある。
【0003】
特許文献1には、車両パネル等に形成されたパネル孔の縁部に取り付けられ、この孔に挿通される電線を保護するグロメットインナー及びエッジプロテクタとして用いられる電線保護部材が開示されている。この電線保護部材は、半円環状に形成された二つの本体の端部同士を結合して円環状に組み立てられ、パネル孔への係止構造を構成する。
【0004】
グロメットのグロメットインナーとして用いられる電線保護部材は、パネル孔と電線との間隙を封止するための軟質材からなるアウターグロメットと組み合わせて用いられる。アウターグロメットは、グロメットインナーのブランジ部に嵌合されてグロメットインナーに対して装着される。そして、グロメットインナーの係止突起がパネル孔の縁部に係止することにより、グロメットがパネルに対して固定される。また、エッジプロテクタとして用いられる電線保護部材は、係止突起がパネル孔の縁部に係止することにより、単体でパネルに対して固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−138471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1では、電線保護部材の保護対象となる電線(以下ワイヤーハーネス)は、パネルに対して中心軸に対する放射方向において位置決めがされておらず、電線保護部材の内側で移動してしまう。すなわち、電線保護部材がグロメットインナーとして用いられる場合には、グロメットアウター自体が軟質材で形成されているため、グロメットアウターがワイヤーハーネスの外周部に密着しているものの、ワイヤーハーネスはアウターグロメットの弾性変形とともに移動してしまう。また、電線保護部材がエッジプロテクタとして用いられる場合にも、ワイヤーハーネスは、エッジプロテクタ内で自由に移動してしまう。
【0007】
この問題に対して、パネルに対してワイヤーハーネスを中心軸に対する放射方向に位置決めするためには、電線保護部材の内周部をワイヤーハーネスの外周部に沿う形状に形成することが考えられる。しかしながら、ワイヤーハーネスの外周部に沿う形態で電線保護部材が存在する場合、電線保護部材に近い位置でワイヤーハーネスを曲げようとすると、ワイヤーハーネスに大きな負荷がかかり曲げ変形が困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、曲げ変形に係る負荷を軽減してワイヤーハーネスを曲げ易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様は、結束電線を含むワイヤーハーネスが通される貫通孔部が形成されたパネル部において、前記貫通孔部の開口縁部に取り付けられるハーネス保護具であって、前記貫通孔部に対して挿入方向に挿入可能で、且つ、前記ワイヤーハーネスを配設可能な配設孔部を有する筒状の本体部と、前記本体部の外周部から張り出す形状に形成され、前記貫通孔部の開口縁部に対して前記貫通孔部の貫通方向に係止可能な係止構造部と、を備え、前記配設孔部は、前記ワイヤーハーネスの外周部に沿う形状に形成されて前記貫通孔部に対して前記ワイヤーハーネスを中心軸に対する放射方向において一定範囲内に位置決め可能な小空間部と、前記挿入方向前端部及び後端部の少なくとも一方を含む部分に設けられ、周方向において前記小空間部の少なくとも一方側において前記小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部とを有している。
【0010】
第2の態様は、第1の態様に係るハーネス保護具であって、前記大空間部は、前記挿入方向前端部又は後端部に向けて徐々に外周側に拡がる形状に形成されている。
【0011】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るハーネス保護具であって、前記小空間部は、正面視において一方向に長い形状に形成され、前記大空間部は、正面視において、前記小空間部の長手方向に直交する方向の少なくとも一方側において外周側に拡がる形状に形成されている。
【0012】
第4の態様は、第1〜第3のいずれか一態様に係るハーネス保護具であって、前記大空間部は、周方向全体において前記小空間部より外周側に拡がる形状に形成されている。
【0013】
第5の態様は、第1〜第4のいずれか一態様に係るハーネス保護具であって、前記配設孔部の前記小空間部から内周側に突出し且つ周方向に沿って延在する位置決めリブをさらに備えている。
【0014】
第6の態様は、第1〜第5のいずれか一態様に係るハーネス保護具であって、組立方向に近接させて筒状に組み立てられる一対の分割部材により構成され、前記各分割部材は、前記本体部の一部を形成する分割本体部と、前記係止構造部の一部を形成する分割係止構造部と、前記分割本体部において、前記分割係止構造部の前記挿入方向前方側の部位に形成され、前記組立方向後方に面する押圧面を有する押圧部と、が一体に形成されている。
【0015】
第7の態様は、結束電線を含むワイヤーハーネスを車両のボディに形成された貫通孔部を通じて前記ボディとドアとの間に配索するためのワイヤーハーネス配索構造部であって、前記ワイヤーハーネスと、前記貫通孔部に対して挿入方向に挿入され且つ前記ワイヤーハーネスが配設された配設孔部を有する筒状の本体部と、前記本体部の外周部から張り出す形状に形成されて前記貫通孔部の開口縁部に対して前記貫通孔部の貫通方向に係止可能な係止構造部とを有し、前記配設孔部は、前記ワイヤーハーネスの外周部に沿う形状の小空間部と、前記挿入方向ドア側端部を含む部分に設けられ、周方向において少なくとも前記小空間部の一方側において前記小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部とを有しているハーネス保護具と、前記ワイヤーハーネスにおける前記ドア内に配索される部分を、迂回可能な空間を有して収容する余長吸収部と、を備える。
【0016】
第8の態様は、第7の態様に係るワイヤーハーネス配索構造部であって、前記余長吸収部は、前記ドアの閉状態において、前記ハーネス保護具の前記配設孔部より車内側に前記ワイヤーハーネスが挿入される挿入口部を有し、前記ハーネス保護具の前記大空間部は、前記小空間部の車内外方向両側において前記小空間部より外周側に拡がる形状に形成されている。
【0017】
第9の態様は、第7又は第8の態様に係るワイヤーハーネス配索構造部であって、前記ハーネス保護具の前記大空間部は、周方向全体で前記小空間部より外周側に拡がる形状に形成されている。
【発明の効果】
【0018】
第1の態様に係るハーネス保護具によると、貫通孔部に挿入される本体部の配設孔部が、挿入方向前方側の部分に設けられてワイヤーハーネスの外周部に沿う形状に形成されて貫通孔部に対してワイヤーハーネスを中心軸に対する放射方向において一定範囲内に位置決め可能な小空間部と、挿入方向前端部又は後端部の少なくとも一方を含む部分に設けられて周方向において小空間部の少なくとも一方側において小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部とを有しているため、小空間部で本体部の中心軸に対する放射方向に位置規制されるワイヤーハーネスを、配設孔部の挿入方向前端部又は後端部より後方側又は前方側の位置を基点として大空間部内でも曲げることができる。これにより、曲げ変形にかかる負荷を軽減してワイヤーハーネスを曲げ易くすることができる。
【0019】
第2の態様に係るハーネス保護具によると、大空間部が挿入方向前端部又は後端部に向けて徐々に外周側に拡がる形状に形成されているため、ワイヤーハーネスが曲げられる際に、大空間部の内周部に沿って緩やかに曲げることができ、強干渉を避けてワイヤーハーネスにかかる負荷をより軽減することができる。
【0020】
第3の態様に係るハーネス保護具によると、小空間部が正面視において一方向に長い形状に形成され、大空間部が正面視において小空間部の長手方向に直交する方向の少なくとも一方側において外周側に拡がる形状に形成されているため、扁平なワイヤーハーネスを保護対象とする場合に、主として曲げられる短手方向において大空間部内でも曲げ変形させることができる。これにより、曲げ変形にかかる負荷を軽減してワイヤーハーネス曲げ易くすることができる。
【0021】
第4の態様に係るハーネス保護具によると、大空間部が周方向全体において小空間部より外周側に拡がる形状に形成されているため、配設孔部の中心軸に対する全放射方向において曲げ変形にかかる負荷を軽減してワイヤーハーネス曲げ易くすることができる。
【0022】
第5の態様に係るハーネス保護具によると、配設孔部の小空間部から内周側に突出し且つ周方向に沿って延在する位置決めリブをさらに備えているため、結束電線の外周にコルゲートチューブが装着されたワイヤーハーネスを保護する場合において、位置決めリブをコルゲートチューブの外周部に嵌合させることにより、よりコンパクトな形態でワイヤーハーネスを本体部の中心軸方向に位置決めできる。
【0023】
第6の態様に係るハーネス保護具によると、組立方向に近接させて筒状に組み立てられる一対の分割部材により構成されているため、ワイヤーハーネスを挟んで近接させて組み立てることにより、ワイヤーハーネスに対して取り付け可能であり、ワイヤーハーネスに対する取り付け作業性を向上させることができる。また、配設孔部において小空間部に加えて大空間部が設けられることにより、本体部の挿入方向における寸法が比較的大きく設定された構成において、組立方向後方に面する押圧面を有する押圧部が、分割本体部において分割係止構造部の挿入方向前方側の部位に形成されている。これにより、押圧部における押圧面を比較的大きく確保することができ、一対の分割部材の組立作業性を向上させることができる。
【0024】
第7の態様に係るワイヤーハーネス配索構造部によると、周方向において少なくとも小空間部の一方側において小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部を有するハーネス保護具により、ワイヤーハーネスがボディに支持されるため、ワイヤーハーネスは、ドアの開閉動作等に伴って、挿入方向ドア側端部よりボディ側の位置を基点として大空間部内でも曲げられる。これにより、ドアの開閉動作に伴うワイヤーハーネスの曲げ変形にかかる負荷を軽減して曲げ性能を向上させることができる。
【0025】
第8の態様に係るワイヤーハーネス配索構造部によると、余長吸収部の挿入口部がドアの閉状態においてハーネス保護具の配設孔部より車内側に設けられ、ハーネス保護具の大空間部が車内外方向両側において小空間部より外周側に拡がる形状に形成されているため、ドアの閉状態においてハーネス保護具から車内側に曲がってドア内に配索されるワイヤーハーネスが、ハーネス保護具の挿入方向ドア側端部よりボディ側を基点として大空間部内でもより緩やかに曲げられ、ドアの開操作の際には車外側により緩やかに曲げられる。
【0026】
第9の態様に係るワイヤーハーネス配索構造部によると、ハーネス保護具の大空間部が周方向全体で小空間部より外周側に拡がる形状に形成されているため、ワイヤーハーネスは、車内外方向への曲げ変形に加えて、上下方向に曲げ変形される場合にもより緩やかに曲げられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エッジプロテクタの斜視図である。
【図2】エッジプロテクタの正面図である。
【図3】エッジプロテクタの背面図である。
【図4】エッジプロテクタの側面図である。
【図5】エッジプロテクタの平面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】一対の分割部材の組立作業を示す正面図である。
【図8】ワイヤーハーネス配索構造部を示す側面図である。
【図9】ドアの閉状態におけるワイヤーハーネス配索構造部を示す平面図である。
【図10】ドアの開状態におけるワイヤーハーネス配索構造部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<エッジプロテクタ>
以下、実施形態に係るエッジプロテクタ10の構成について説明する。(図1参照)。エッジプロテクタ10は、パネル102に形成された貫通孔部103の開口縁部に取り付けられ、貫通孔部103に通して配索されるワイヤーハーネス1を該貫通孔部103の開口縁部(エッジ)から保護する部材である。
【0029】
本エッジプロテクタ10の保護対象となるワイヤーハーネス1は、例えば、自動車に搭載されるワイヤーハーネスであり、複数の電線がテープ巻き等により結束された結束電線2を含んでいる。ここでは、ワイヤーハーネス1は、結束電線2とその結束電線2の周囲を覆うコルゲートチューブ3とを備えている(図1参照)。コルゲートチューブ3は、結束電線2を外部から保護するための保護材であり、管状に形成され、周方向に沿った凸条の山部4及び凹条の谷部5が延在方向に交互に連続した部材である。ここでは、コルゲートチューブ3が、延在方向に直交する断面視において一対の弧状部を一対の直線部が結ぶ扁平な形状である例で説明する(図1参照)。すなわち、このコルゲートチューブ3は、断面視における長手方向に曲がり難く(剛性が高く)、短手方向に曲がりやすい(可撓性が高い)形状である。
【0030】
もっとも、保護対象となるワイヤーハーネス1のコルゲートチューブ3は、上記形状に限られず、例えば、延在方向に直交する断面視円形、長方形等の形状に形成されたものであってもよい。また、ワイヤーハーネス1は、結束電線2の周囲を覆ってコルゲートチューブ3が設けられているものに限られず、コルゲートチューブ3以外の管状の保護材が結束電線2の周囲を覆って設けられていてもよいし、管状の保護材が省略された結束電線2そのものであってもよい。
【0031】
パネル102は、例えば、自動車のボディを構成する金属パネルであり、より具体的には、ボディからフロントサイドドアに向かう配索経路では、ボディのフロントピラーにおける金属パネルを貫通してワイヤーハーネス1を配索するために配索経路上に貫通孔部103が形成されている。ここでは、貫通孔部103は、一対の弧状部を一対の直線部が結ぶ形状を成しているものとする。
【0032】
エッジプロテクタ10は、全体として筒状に形成され、貫通孔部103の開口縁部に対して貫通方向一方側から押し付けることにより、取り付け可能に構成されている。このエッジプロテクタ10は、本体部20と、位置決めリブ32と、係止構造部とを備えている(図1〜図6参照)。ここでは、エッジプロテクタ10は、組立方向Aに近接させて筒状に組み立てられる一対の分割部材110により構成される(図7参照)。まず、一対の分割部材110が組み立てられた状態について説明してから、各分割部材110について説明する。
【0033】
本体部20は、貫通孔部103に挿入可能で、且つ、ワイヤーハーネス1を配設可能な配設孔部22を有する筒状の部分である。そして、本体部20は、貫通孔部103に挿入され、ワイヤーハーネス1が配設孔部22内に配設された状態で、ワイヤーハーネス1と貫通孔部103の開口縁部との間に介在して、貫通孔部103の開口縁部からワイヤーハーネス1を保護する(図6参照)。
【0034】
ここで、本体部20は、貫通孔部103に対して、中心軸が貫通方向に沿う姿勢でパネル102を挟んだ一方側から他方側に向けて挿入される。以下、この方向を挿入方向Sと称し、エッジプロテクタ10及び貫通孔部103の向きを説明するのにも用いる。そして、エッジプロテクタ10について、挿入方向S前方側から後方側を見た面を正面(図2参照)、一対の直線部を結ぶ方向から見た面を側面(図4参照)、一対の弧状部を結ぶ方向から見た面を平面(図5参照)として説明する。
【0035】
本体部20のうち貫通孔部103の内側に配設される部分は、貫通孔部103の形状に対応して、中心軸に直交する断面視において一対の弧状部を一対の直線部が結ぶ外部形状に形成されている。また、本体部20の外周部は、貫通孔部103と同じかそれより小さく(ここでは僅かに小さく)設定されている。すなわち、本体部20は、貫通孔部103内に挿入された状態で、外周部が貫通孔部103の開口縁部に沿った形態で配置される。
【0036】
また、本体部20のうち、パネル102を貫通してその奥側に配設される挿入方向S前方側部分には、押圧部34が形成されている。この押圧部34については、エッジプロテクタ10を構成する分割部材110の説明と併せて具体的に説明する。
【0037】
本体部20の配設孔部22は、小空間部24と、大空間部26とを有している(図6参照)。
【0038】
小空間部24は、貫通孔部103に対して、ワイヤーハーネス1を中心軸に対する放射方向において一定範囲内に位置決め可能な部分である。この小空間部24は、内部に配設されるワイヤーハーネス1の外周部に沿う形状に形成されている。すなわち、小空間部24は、ワイヤーハーネス1の外周部に接触することにより、該ワイヤーハーネス1を中心軸に対する放射方向において位置決めすることができる。より具体的には、小空間部24は、ワイヤーハーネス1の外周部(ここでは、コルゲートチューブ3の山部の外周部)に沿う形状、すなわち正面視において一対の弧状部を一対の直線部が結ぶ一方に長い形状に形成されている。また、小空間部24の大きさは、ワイヤーハーネス1の外周部と同じかそれより大きく(ここでは僅かに大きく)設定されている。この小空間部24は、本体部20の挿入方向S前方側の部分に設けられている。
【0039】
大空間部26は、本体部20の挿入方向S後端部を含む部分に設けられ、周方向において小空間部24の少なくとも一方側において該小空間部24より外周側に拡がった内部空間を有する部分である(図3、図6参照)。ここでは、大空間部26は、小空間部24の挿入方向S後方側に連続して設けられている。ここで、周方向において小空間部24の少なくとも一方側とは、本体部20の正面視において、挿入方向Sに直交する一方向において小空間部24と重複する一方側の部分である。
【0040】
好ましくは、大空間部26は、内側に配設されるワイヤーハーネス1が曲げられる方向において小空間部24より外周側に拡がって形成されているとよい。ここでは、保護対象となるワイヤーハーネス1は、扁平な形状に形成されており、その延在方向に直交する断面視における短手方向に主として曲げられる。すなわち、大空間部26は、ワイヤーハーネス1の形状に対応して、正面視において、小空間部24の長手方向に直交する方向の少なくとも一方側において外周側に拡がる形状に形成されていることが好ましい。より好ましくは、大空間部26は、図4に示すように、周方向全体的に小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されているとよい。
【0041】
また、大空間部26は、挿入方向S前方側から後端部に向けて徐々に外周側に拡がる形状に形成されている(図6参照)。すなわち、大空間部26は、挿入方向S後端部に近付くほど内部空間が大きくなっている。ここでは、大空間部26は、周方向に直交する断面視において挿入方向Sに対して傾斜する直線状に設定されている。大空間部26の外周側への拡がり度合いは、保護対象のワイヤーハーネス1の曲げ変形量に応じて決定されるとよい。より具体的には、大空間部26は、ワイヤーハーネス1の曲げ状態において、ワイヤーハーネス1の曲げの内周側部分に沿って延在するとよく、すなわち、ワイヤーハーネス1の曲げ状態における挿入方向Sに対する傾斜角度に対応した(略同じ)角度で傾斜する形状に形成されているとよい。もっとも、大空間部26は、周方向に直交する断面視において、挿入方向S後方側に向けて外周側に拡がる曲線状に設定されていてもよい。
【0042】
なお、本体部20の挿入方向S後端部を含む部分に大空間部26が形成された例で説明したが、小空間部24を挟んで挿入方向S前端部を含む部分に、又は、両方に大空間部が形成されていてもよい。すなわち、大空間部26は、挿入方向S前端部及び後端部の少なくとも一方を含む部分に形成されていればよい。
【0043】
位置決めリブ32は、ワイヤーハーネス1を本体部20に対して挿入方向Sに位置決めする部分である(図6参照)。この位置決めリブ32は、配設孔部22の小空間部24から内周側に突出し、周方向に沿って延在する形状に形成されている。すなわち、位置決めリブ32は、ワイヤーハーネス1のコルゲートチューブ3の外周部に対して凹凸嵌合可能に形成されている。そして、位置決めリブ32は、挿入方向Sにおいて、コルゲートチューブ3の谷部に嵌まり込む間隔で複数設けられている。
【0044】
係止構造部は、本体部20の外周部から張り出す形状に形成され、貫通孔部103の開口縁部に対して貫通方向に係止可能な部分である(図6参照)。この係止構造部は、前方係止部42と、後方係止部46とを有している。
【0045】
前方係止部42は、貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向S前方側から係止可能に形成され、本体部20の挿入方向S後方側への抜け出しを規制する部分である。前方係止部42は、本体部20の挿入方向Sにおける中途部に設けられている(図4、図5参照)。より具体的には、前方係止部42は、基端部が本体部20の外周部に固定されると共に、先端部が挿入方向S後方側に延びて自由端とされ、基端部を基点として本体部20の内外方向に弾性変形可能に設定されている(図6参照)。ここでは、前方係止部42は、基端部から先端側に向けて徐々に本体部20の外周側に張り出す形状に形成されている。また、前方係止部42は、その先端部に、挿入方向S後方側に面する係止面を有する。この係止面は、弾性変形前の状態で、少なくとも一部が本体部20の外周部より外周側に位置している。そして、前方係止部42は、基端部を基点として弾性変形することにより、本体部20の外周部より外周側に出没可能に設けられている。
【0046】
この前方係止部42は、本体部20の周方向に間隔をあけて複数設けられている(図2参照)。ここでは、前方係止部42は、本体部20の周方向において等間隔に4箇所に設けられている。
【0047】
後方係止部46は、貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向S後方側から係止可能に形成された部分である。後方係止部46は、本体部20の挿入方向S後端部に設けられている。この後方係止部46は、鍔部47と、付勢部48とを有している。
【0048】
鍔部47は、貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向S後方側から対向して、本体部20の挿入方向S前方側への抜け出しを規制する部分である。鍔部47は、本体部20の外周部から挿入方向Sに直交する方向に沿って外周側に張り出す環鍔状に形成されている(図2参照)。この鍔部47は、外周部が貫通孔部103より大きく設定されている。また、鍔部47との関係において、前方係止部42(係止面)は、鍔部47に対してパネル102の厚さ寸法と同じかそれより大きい(ここでは僅かに大きい)間隔をあけた位置に設けられている。
【0049】
付勢部48は、パネル102における貫通孔部103の外周部分に対して挿入方向S後方側から接触して、前方係止部42との間でパネル102を挟む部分である。付勢部48は、鍔部47の外周部から外周側に張り出すと共に、外周部が鍔部47より挿入方向S前方側に突出する環鍔状に形成されている(図2、図6参照)。より具体的には、付勢部48は、外周部が前方係止部42の係止面に対してパネル102の厚さ寸法より小さい(ここでは僅かに小さい)間隔をあけて位置する形状に形成されている。この付勢部48は、外周側部分が挿入方向S後方側に弾性変形可能に形成されている。ここでは、付勢部48は、外周部に近付くにつれて徐々に薄肉になる形状に形成されている。
【0050】
そして、本体部20が貫通孔部103内に挿入されると、前方係止部42と鍔部47とが貫通孔部103の開口縁部を挟んで位置する。この状態で、本体部20はパネル102に対して挿入方向Sにおいて抜止めされる。また、付勢部48がパネル102における貫通孔部103の外周部分を付勢して、前方係止部42と付勢部48との間にパネル102が挟まれることにより、本体部20は、パネル102に対して挿入方向Sにおいてがたつきを抑制して位置決めされる。このとき、前方係止部42は、係止面が貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向S前方側から接触している。
【0051】
前方係止部42と後方係止部46とは、本体部20の上記位置に設けられる場合に限られず、本体部20の挿入方向S中間部等でも、貫通孔部103の開口縁部を挟んで配置される間隔を有して設けられればよい。
【0052】
また、後方係止部46は、環状に形成される場合に限られず、本体部20の周方向に断続的に形成されていてもよい。また、後方係止部46において、付勢部48は省略されてもよい。
【0053】
上述したように、エッジプロテクタ10は、一対の分割部材110が組み立てられることにより構成されている(図7参照)。各分割部材110は、正面視J字形状に形成されている。ここでは、一対の分割部材110は、同形状に形成されている。そして、一対の分割部材110は、ワイヤーハーネス1を延在方向に直交する断面視における長手方向両側から挟んで、端部同士を突き合わせる形態で組み立てられる。
【0054】
分割部材110は、分割本体部120と、分割リブ132と、分割係止構造部としての前方係止部42及び分割後方係止部146と、係合部152と、受け部154と、押圧部34とを有している。この分割部材110は、前記各部がPP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)等の硬質樹脂により(例えば射出成型することにより)一体に形成されている。
【0055】
分割本体部120は、本体部20の周方向一部を形成する部分である。より具体的には、分割本体部120は、弧状部と該弧状部の一端に連続する直線部とを有する正面視J字形状に形成されている。そして、一対の分割部材110の分割本体部120の端部同士が突き合わされて本体部20を形成する。
【0056】
分割リブ132は、位置決めリブ32の周方向一部を形成する部分である。より具体的には、分割本体部120の内周部のうち、本体部20の小空間部24の一部を形成する部分から内周側に突出し、周方向に沿って延在する凸条に形成されている。そして、一対の分割部材110がワイヤーハーネス1を挟んで組み立てられる際に、各分割リブ132がコルゲートチューブ3の谷部に嵌め込まれる。一対の分割部材110が組み立てられた状態で、分割リブ132が位置決めリブ32を形成する。
【0057】
前方係止部42は、分割本体部120の弧状部の中間部及び直線部の中間部の2箇所に設けられている。
【0058】
分割後方係止部146は、後方係止部46の周方向一部を形成する部分である。より具体的には、分割後方係止部146は、分割本体部120の外周部から外周側に張り出す形状に形成されている。そして、一対の分割部材110が組み立てられた状態で、分割後方係止部146が後方係止部46を形成する。
【0059】
係合部152及び受け部154は、一対の分割部材110の組立状態を維持するための部分である。
【0060】
係合部152は、分割本体部120の一方の端部(ここでは、直線部側の端部)に設けられている。より具体的には、係合部152は、分割本体部120の一方の端部から突出するアーム部と、アーム部の先端部からその側方に突起する突起部とを有する形状に形成されている。ここでは、突起部は、分割本体部120の内周側に向けて突起し、アーム部の先端部から基端部に向けて徐々に突起寸法が大きくなる形状に形成されている。
【0061】
受け部154は、分割本体部120の他方の端部(ここでは、弧状部側の端部)に設けられている。この受け部154は、別の分割部材110の係合部152が係合する部分である。受け部154は、分割本体部120の弧状部側の端部で開口し、係合部152を挿入可能な凹形状に形成されている。より具体的には、受け部154は、その奥側に係合部152の突起部が嵌り込む穴部を有している。すなわち、穴部は、分割本体部120の内周側に形成され、内周側の壁面で開口している。
【0062】
そして、一対の分割部材110が組み立てられると、一方の分割部材110における係合部152が他方の分割部材110における受け部154に挿入され、係合部152の突起部が受け部154の穴部に嵌り込む。これにより、一対の分割部材110が組立方向Aに離間不能となり、組立状態に維持される。
【0063】
もっとも、係合部152と受け部154との組合せは上記のものに限らず、一対の分割部材110を突き合わせることにより係合部が受け部に係合する構成であればよい。
【0064】
押圧部34は、一対の分割部材110の組み立て作業において、各分割部材110に対して組立方向Aに力を作用させるための部分である。押圧部34は、分割本体部120において、分割係止構造部における前方係止部42の挿入方向S前方側の部位に形成され、組立方向A後方に面する押圧面35を有する(図4、図5参照)。ここでは、押圧部34は、正面視において、分割本体部120の弧状部の中間部を含む部分に形成されている。好ましくは、押圧部34は、正面視において、押圧面35が分割本体部120の両端部(より好ましくは係合部152及び受け部154)に対して組立方向A後方に重複する部分に亘って存在する形状に形成されているとよい(図7参照)。
【0065】
そして、一対の分割部材110を組み立てる際には、各分割部材110の両端部が対向する姿勢で一対の分割部材110をワイヤーハーネス1を挟んで向かい合わせ、各押圧部34の押圧面35をそれぞれ指で押圧して組立方向A前方に向けて力を作用させる(図8参照)。例えば、一方の分割部材110の押圧部34に両手人差し指を掛けると共に他方の分割部材110の押圧部34に両手親指を掛け、人差し指と親指とで挟むように各押圧部34を押圧するとよい。なお、図7では、押圧時の指の配置を2点鎖線で示している。これにより、各係合部152と受け部154とが係合して一対の分割部材110が組立状態に維持され、エッジプロテクタ10がワイヤーハーネス1に取り付けられた状態となる(図1参照)。
【0066】
押圧部34は、上記箇所に連続して前方係止部42の側方の部分に亘って押圧面が形成されていてもよい。また、押圧部34は、正面視において、分割本体部120の各端部に対して組立方向A後方に重複する2箇所に分かれて形成されていてもよい。
【0067】
また、押圧部34は、押圧面35にしぼ加工等の滑り止め加工が施されていてもよい。
【0068】
本実施形態では、ワイヤーハーネス1を本体部20に対して挿入方向Sに位置決めする構成として、位置決めリブ32が設けられたエッジプロテクタ10について説明してきたが、位置決めリブ32の代わりに、本体部20の挿入方向S前端部から前方側に突出する扁平板状の位置決め用突出片が設けられていてもよい。すなわち、配設孔部22内に配設されたワイヤーハーネス1を、前記位置決め用片と共にテープ又はバンド等によって相対移動不能に束ねることにより、本体部20に対して位置決めすることができる。
【0069】
実施形態に係るエッジプロテクタ10によると、貫通孔部103に挿入される本体部20の配設孔部22が、挿入方向S前方側の部分に設けられてワイヤーハーネス1の外周部に沿う形状の小空間部24と、挿入方向S後端部を含む部分に設けられて周方向において小空間部24の少なくとも一方側において小空間部24より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部26とを有しているため、小空間部24で本体部20の中心軸に対する放射方向に位置規制されるワイヤーハーネス1を、配設孔部22の挿入方向S後端部より前方側の位置を基点として大空間部26内でも曲げることができる。すなわち、パネル102に対してより挿入方向S前方側を基点としてワイヤーハーネス1を曲げることができるため、パネル102に対してより近い箇所で曲げられる場合にも、曲げ変形にかかる負荷を軽減してワイヤーハーネス1を曲げ易くすることができる。
【0070】
また、大空間部26が挿入方向S前方側から後端部に向けて徐々に外周側に拡がる形状に形成されている構成によると、ワイヤーハーネス1が曲げられる際に、大空間部26の内周部に沿って緩やかに曲げることができ、強干渉を避けてワイヤーハーネス1にかかる負荷をより軽減することができる。
【0071】
また、小空間部24が正面視において一方向に長い形状に形成され、大空間部26が正面視において小空間部24の長手方向に直交する方向の少なくとも一方側において外周側に拡がる形状に形成されている構成によると、扁平なワイヤーハーネス1を保護対象とする場合に、主として曲げられる短手方向において大空間部26内でも曲げ変形させることができる。これにより、曲げ変形にかかる負荷を軽減してワイヤーハーネス1を曲げ易くすることができる。
【0072】
また、大空間部26が周方向全体において小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されている構成によると、配設孔部22の中心軸に対する全放射方向において曲げ変形にかかる負荷を軽減してワイヤーハーネス1を曲げ易くすることができる。
【0073】
また、配設孔部22の小空間部24から内周側に突出し且つ周方向に沿って延在する位置決めリブ32を備えている構成によると、結束電線2の外周にコルゲートチューブ3が装着されたワイヤーハーネス1を保護する場合において、位置決めリブ32をコルゲートチューブ3の外周部(谷部)に嵌合させることにより、よりコンパクトな形態でワイヤーハーネス1を本体部20の中心軸方向に位置決めできる。
【0074】
また、組立方向に近接させて筒状に組み立てられる一対の分割部材110により構成されている構成によると、ワイヤーハーネス1を挟んで近接させて組み立てることにより、ワイヤーハーネス1に対して取り付け可能であり、ワイヤーハーネス1に対する取り付け作業性を向上させることができる。また、配設孔部22において小空間部24に加えて大空間部26が設けられることにより、本体部20の挿入方向Sにおける寸法が比較的大きく設定された構成において、組立方向A後方に面する押圧面35を有する押圧部34が、分割本体部120において分割係止構造部における前方係止部42の挿入方向S前方側の部位に形成されている。これにより、押圧部34における押圧面35を比較的大きく確保することができ、一対の分割部材110の組立作業性を向上させることができる。
【0075】
<ワイヤーハーネス配索構造部>
次に、上記エッジプロテクタ10を用いたワイヤーハーネス配索構造部60について説明する(図8〜図10参照)。このワイヤーハーネス配索構造部60は、ワイヤーハーネス1を、車両のボディ101とドア104との間に配索するための構成である。ワイヤーハーネス配索構造部60は、ワイヤーハーネス1と、エッジプロテクタ10と、余長吸収部70とを備える。
【0076】
説明の便宜上、車両のボディ101及びドア104について説明しておく。ボディ101は、金属材料等により形成されるフレーム及びパネル等が溶接等されて構成された部分である。ドア104は、ボディ101に対して、ボディ101の側部に形成された乗降口を開閉可能にヒンジ部107等により連結されている。ここでは、ドア104は、ボディ101のフロントピラーに連結されるフロントサイドドアである。このドア104は、ドアインナーパネル105、図示省略のドアアウターパネル及びドアトリム106を有している。ドアインナーパネル105は、金属板をプレス成型、打抜き等して形成された部材であり、ドアアウターパネルは、ドアインナーパネル105の車外側に設けられる外装部材である。また、ドアトリム106は、合成樹脂材料等で形成され、ドアインナーパネル105の車内側に取り付けられる内装部材である。以下、ドア104及びワイヤーハーネス配索構造部60のうちドア104に配置される部分について、ドア104の前方から後方を見たのが正面、ドアの車内側から車外側を見たのが側面であるものとする。
【0077】
本実施形態に係るワイヤーハーネス配索構造部60は、ワイヤーハーネス1を、ボディ101のフロントピラーに形成された貫通孔部103を通じて、ドア104のドアインナーパネル105とドアトリム106との間に配索する(図9、図10参照)。以下、フロントピラーの表面に位置して貫通孔部103が形成されたパネル部分を単にパネル102と称する。
【0078】
また、ドア104には、周縁部に沿って防水用のウェザーストリップ108が設けられている。このウェザーストリップ108は、ドア104を閉めた状態で、ボディ101の乗降口の内周部に密着して車内外において止水する部分であり、ゴム等の弾性材料で形成されている。そして、本ワイヤーハーネス配索構造部60は、ワイヤーハーネス1をウェザーストリップ108より車内側に配索するように構成されている。
【0079】
ワイヤーハーネス配索構造部60は、上記ワイヤーハーネス1と、エッジプロテクタ10と、余長吸収部70とを備えている(図8参照)。なお、ワイヤーハーネス1及びエッジプロテクタ10の構成については既に述べたため、ここではワイヤーハーネス配索構造部60における特有の態様のみ説明する。
【0080】
ワイヤーハーネス配索構造部60において、ワイヤーハーネス1の結束電線2は、ボディ101内から貫通孔部103を通じてドア104内に配索されている。また、コルゲートチューブ3は、ドア104の開状態において、結束電線2におけるボディ101とドア104との間に架け渡される部分を含む範囲を囲って設けられている。このコルゲートチューブ3は、扁平な形状に形成されているため、延在方向に直交する断面視において短手方向に曲がりやすく、長手方向に曲がり難い。また、コルゲートチューブ3は、結束電線2より高い剛性を有するものが採用される。
【0081】
コルゲートチューブ3は、ボディ101側の端部が結束電線2におけるボディ101の内部に配索される部分に対してテープ90巻き等して固定されると共に、ボディ101側の端部寄りの一部分がエッジプロテクタ10によりボディ101に支持されている(図9、図10参照)。エッジプロテクタ10は、コルゲートチューブ3におけるボディ101側の端部寄りの一部分に取り付けられ、貫通孔部103に取り付けられる。
【0082】
より具体的には、エッジプロテクタ10の本体部20は、貫通孔部103に対してドア104側からボディ101内に向かう挿入方向Sに挿入されている。すなわち、大空間部26は、配設孔部22における挿入方向Sドア104側端部を含む部分に形成されていると言える(図9、図10参照)。また、本体部20の配設孔部22内には、ワイヤーハーネス1が配設されている。この状態で、ワイヤーハーネス1のコルゲートチューブ3の外周部に位置決めリブ32が嵌合している。すなわち、ワイヤーハーネス1は、小空間部24内で位置決めされ、大空間部26内で曲げ変形可能な状態に維持されている(図6参照)。
【0083】
ここでは、大空間部26は、周方向全体で小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されているが、周方向において少なくとも小空間部24の一方側(ワイヤーハーネス1が曲げられる側)において小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されていればよい。なお、ワイヤーハーネス1がドア104の開動作に伴って車外側に曲げられることを考慮すると、大空間部26は、少なくとも小空間部24より車外側で外周側に向けて拡がる形状に形成されていることが好ましい。
【0084】
また、第1係止部42は、貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向Sボディ101側(前方側)から係止し、第2係止部46は、貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向Sドア104側(後方側)から係止している(図6参照)。ここで、第2係止部46は、鍔部47が貫通孔部103の開口縁部に対して挿入方向Sドア104側から対向し(接触の有無は問わない)、付勢部48の外周部がパネル102における貫通孔部103の外周部分に当接した状態に維持されている。
【0085】
ここでは、エッジプロテクタ10は、コルゲートチューブ3の長手方向が上下方向(ヒンジ部107の連結軸方向)に沿う姿勢で貫通孔部103に対して固定される。これにより、コルゲートチューブ3内に配設されている結束電線2は、上下方向に曲げ規制されて垂れ下がりを抑制されると共に水平方向に(ドア104の開閉動作平面上で)曲げ変形し易く、ドア104の開閉動作に対してよりスムーズに連動する。
【0086】
余長吸収部70は、ワイヤーハーネス1におけるドア104内に配索される部分を迂回可能な空間を有して収容する部分である(図8参照)。この余長吸収部70は、案内部72と、収容部76とを有する。概略的には、余長吸収部70は、案内部72によりコルゲートチューブ3のドア104側の端部を含む一部分の進退経路を案内すると共に、収容部76によりコルゲートチューブ3のドア104側の端部から伸び出る結束電線2を迂回可能な空間を有して収容する形状に形成されている。ここでは、余長吸収部70は、プロテクタとも呼ばれる樹脂成形品(例えば凹状部材と蓋状部材の2部材で構成される)であり、ドア104内の周辺部材からワイヤーハーネス1を保護する部材でもある。
【0087】
この余長吸収部70は、案内部72においてワイヤーハーネス1を覆うコルゲートチューブ3が挿入される挿入口部74を有すると共に、収容部76においてワイヤーハーネス1をドア104の内部に引き出すための引出口部78とを有している。ここでは、余長吸収部70は、挿入口部74と引出口部78とが略直交する方向に貫通し、全体として側面視略L字形状に形成されている例で説明する。
【0088】
案内部72は、ボディ101側の端部に挿入口部74を有すると共にドア104側の端部が収容部76と連続する筒状に形成されている。より具体的には、案内部72は、コルゲートチューブ3の外部形状より大きい内部空間を有している。そして、案内部72は、挿入口部74を通じて挿入されるコルゲートチューブ3を、その外周部に接触することにより、コルゲートチューブ3の中心軸に対する放射方向において経路規制する。
【0089】
また、案内部72の挿入口部74は、開口端部に向けて徐々に外周側に拡がる形状に形成されている。また、挿入口部74の開口端部は、丸められた形状に形成されているとよい。
【0090】
収容部76は、案内部72の他端側(後方側)に連なる部分であり、内部に案内部72により案内されるコルゲートチューブ3のドア104側の端部から延び出た結束電線2を迂回可能な空間を有して収容可能な収容空間を有している。また、収容部76の引出口部78は、案内部72に対して収容空間を介した部位に設けられている。
【0091】
この収容部76は、コルゲートチューブ3のドア104側の端部から延び出たワイヤーハーネス1を、第1経路R1と、該第1経路R1に対して中間部が離間するように膨らんだ第2経路R2との間で曲げることにより迂回させて余長吸収可能に収容可能に形成されている(図8参照)。
【0092】
より具体的には、収容部76は、側面視において収容空間を挟んで対向する第1壁部と第2壁部とを有している。収容空間内に収容される結束電線2は、第1経路R1を通る際に第1壁部に近接し、第2経路R2を通る際に第2壁部に近接して配設される。すなわち、結束電線2が第1経路R1を通る状態で、該結束電線2の第2壁部側に迂回可能な空間が存在する。より具体的には、第1壁部は、側面視略L字形状の余長吸収部70の内周側で、案内部72の後方の端部と収容部76の引出口部78とを略直線状に結ぶ形状に延在している。また、第2壁部は、第1壁部に収容空間分の間隔をあけて、側面視略L字形状の余長吸収部70の外周側で、案内部72の後方の端部と引出口部78とを略L字状に結ぶ形状に延在している。すなわち、この収容部76は、側面視において第1壁部を斜辺とする略直角三角形状に形成されている。なお、図8では、第2壁部における案内部72の後方側の部位が、案内部72から離間する向きに(後方側に向けて)僅かに膨らんだ形状に形成されている収容部76を示している。
【0093】
そして、収容部76は、ドア104の開状態では、コルゲートチューブ3のドア104側の端部から延び出た結束電線2を、第2壁部側に迂回可能な空間をあけた第1経路R1を通る形態で収容する。また、収容部76は、ドア104の閉状態では、結束電線2を、第1経路R2より長い第2経路R2を通る形態で収容する。
【0094】
また、収容部76は、引出口部78で結束電線2を固定可能な引出位置決め部79を有している。ここでは、引出位置決め部79は、引出口部78の開口端部が部分的に延出した形状に形成されている。そして、引出口部78を通じて引き出される結束電線2を、引出位置決め部79と一緒に結束バンド92で締付けすることにより、余長吸収部70に対して位置決めすることができる。もっとも、結束電線2は、テープ巻きにより引出位置決め部79に固定されてもよい。
【0095】
そして、上記余長吸収部70は、挿入口部74がドア104の前方側端部で前方に向けて開口し、引出口部78が上方に向けて開口する姿勢で、ドアインナーパネル105とドアトリム106との隙間に配設されている。また、余長吸収部70の位置は、ドア104の閉状態において、エッジプロテクタ10の配設孔部22より車内側に挿入口部74が配置される位置である(図9、図10参照)。すなわち、ボディ101からドア104内に配索されるワイヤーハーネス1は、ドア104の閉状態において、エッジプロテクタ10から車内側に曲げられて余長吸収部70の挿入口部74に挿入されている。エッジプロテクタ10において、ワイヤーハーネス1が車内側に曲げられることを考慮すると、大空間部26は、車内側にも小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されていることが好ましい。
【0096】
余長吸収部70は、例えば、ドアインナーパネル105に形成された孔部に対してクランプを嵌合させることにより固定されるとよい。図9及び図10では、案内部72及び収容部76にそれぞれクランプが設けられた余長吸収部70を示している。ここで、クランプとは、例えば、余長吸収部70の外周部から突出する柱部と、柱部の先端部から外周側張り出す係止部と、係止部に間隔をあけて柱部の基端部に設けられた皿バネとを有するような構成である。他にも、余長吸収部70は、ねじ止め、ボルト止め、スタッドボルト止め又はブラケット固定等によりドアインナーパネル105に対して固定されてもよい。また、余長吸収部70は、ドアトリム106に固定されてもよい。
【0097】
上述した余長吸収部70の形状は、その一例であり、他の種々の形状を採用することができる。すなわち、余長吸収部70は、挿入口部74から挿入される結束電線2を収容部76により迂回可能な空間を有して収容できる構成であればよく、車種によるドア104の形状等を考慮して形成されるとよい。また、余長吸収部70は、ドア104とは別体の樹脂成形品である例で説明してきたが、余長吸収部70は、ドアインナーパネル105とドアトリム106との一部により構成される部分であってもよい。
【0098】
また、ここでは、余長吸収部70の挿入口部74がエッジプロテクタ10の配設孔部22より車内側に配置される例で説明したが、これに限られるものではない。すなわち、前記位置に余長吸収部70の挿入口部74が配置される場合において、大空間部26を有するエッジプロテクタ10がより顕著な効果を発揮することができることを示している。
【0099】
上記ワイヤーハーネス配索構造部60は、ボディ101からドア104内に配索されるワイヤーハーネス1、エッジプロテクタ10及び余長吸収部70をモジュール化して、車両組付け前に組み立てておくとよい。すなわち、ワイヤーハーネス1におけるコルゲートチューブ3の一方の端部寄りの一部分にエッジプロテクタ10を装着すると共に、他方の端部を含む一部分を余長吸収部70における第1部材76の案内部72内に配設する、また、コルゲートチューブ3の他方の端部から延び出た結束電線2を収容部76内に収容して引出口部78から引き出す。引出口部78から引き出した結束電線2は、引出位置決め部79に対して結束バンド92で固定する。
【0100】
これまで、ワイヤーハーネス1が延在方向に直交する断面視短手方向(車内外方向)に曲げられる例を説明したが、断面視長手方向(上下方向)に曲げられる場合、大空間部26が小空間部24の挿入方向Sに直交する断面視における長手方向において小空間部24より外周側に拡がる形状が採用されることにより、ワイヤーハーネス1の曲げ変形にかかる負荷を軽減して曲げ性能を向上させることができる。
【0101】
また、ワイヤーハーネス配索構造部60を、フロントサイドドアとしてのドア104に適用する例で説明したが、リアサイドドア等に適用してもよい。この場合、センターピラー(フロントサイドドアとリアサイドドアとの間のピラー)とリアサイドドアとの間に結束電線2が架け渡される。すなわち、センターピラーに貫通孔部が形成され、ここにエッジプロテクタ10が取り付けられる。
【0102】
本実施形態に係るワイヤーハーネス配索構造部60によると、周方向において少なくとも小空間部24の一方側において小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部26を有するエッジプロテクタ10により、ワイヤーハーネス1がボディ101に支持されるため、ワイヤーハーネス1は、ドア104の開閉動作等に伴って、挿入方向Sドア104側端部よりボディ101側の位置を基点として大空間部26内でも曲げられる。これにより、ドア104の開閉動作に伴うワイヤーハーネス1の曲げ変形にかかる負荷を軽減して曲げ性能を向上させることができる。
【0103】
また、余長吸収部70の挿入口部74がドア104の閉状態においてエッジプロテクタ10の配設孔部22より車内側に設けられ、エッジプロテクタ10の大空間部26が車内外方向両側において小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されている構成によると、ドア104の閉状態において車内側に曲がって配索されるワイヤーハーネス1が、エッジプロテクタ10の挿入方向Sドア104側端部よりボディ101側を基点として大空間部26内でもより緩やかに曲げられ、ドア104の開操作の際には車外側により緩やかに曲げられる。
【0104】
また、大空間部26が周方向全体で小空間部24より外周側に拡がる形状に形成されている構成によると、ワイヤーハーネス1は、車内外方向への曲げ変形に加えて、上下方向に曲げ変形される場合にもより緩やかに曲げられる。
【符号の説明】
【0105】
1 ワイヤーハーネス
2 結束電線
10 エッジプロテクタ
20 本体部
22 配設孔部
24 小空間部
26 大空間部
32 位置決めリブ
34 押圧部
35 押圧面
42 前方係止部
46 後方係止部
60 ワイヤーハーネス配索構造部
70 余長吸収部
74 挿入口部
101 ボディ
102 パネル
103 貫通孔部
104 ドア
110 分割部材
120 分割本体部
146 分割後方係止部
A 組立方向
S 挿入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結束電線を含むワイヤーハーネスが通される貫通孔部が形成されたパネル部において、前記貫通孔部の開口縁部に取り付けられるハーネス保護具であって、
前記貫通孔部に対して挿入方向に挿入可能で、且つ、前記ワイヤーハーネスを配設可能な配設孔部を有する筒状の本体部と、
前記本体部の外周部から張り出す形状に形成され、前記貫通孔部の開口縁部に対して前記貫通孔部の貫通方向に係止可能な係止構造部と、
を備え、
前記配設孔部は、前記ワイヤーハーネスの外周部に沿う形状に形成されて前記貫通孔部に対して前記ワイヤーハーネスを中心軸に対する放射方向において位置決め可能な小空間部と、前記挿入方向前端部及び後端部の少なくとも一方を含む部分に設けられ、周方向において前記小空間部の少なくとも一方側において前記小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部とを有している、ハーネス保護具。
【請求項2】
請求項1に記載のハーネス保護具であって、
前記大空間部は、前記挿入方向前端部又は後端部に向けて徐々に外周側に拡がる形状に形成されている、ハーネス保護具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のハーネス保護具であって、
前記小空間部は、正面視において一方向に長い形状に形成され、
前記大空間部は、正面視において、前記小空間部の長手方向に直交する方向の少なくとも一方側において外周側に拡がる形状に形成されている、ハーネス保護具。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のハーネス保護具であって、
前記大空間部は、周方向全体において前記小空間部より外周側に拡がる形状に形成されている、ハーネス保護具。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のハーネス保護具であって、
前記配設孔部の前記小空間部から内周側に突出し且つ周方向に沿って延在する位置決めリブをさらに備えている、ハーネス保護具。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のハーネス保護具であって、
組立方向に近接させて筒状に組み立てられる一対の分割部材により構成され、
前記各分割部材は、
前記本体部の一部を形成する分割本体部と、
前記係止構造部の一部を形成する分割係止構造部と、
前記分割本体部において、前記分割係止構造部の前記挿入方向前方側の部位に形成され、前記組立方向後方に面する押圧面を有する押圧部と、
が一体に形成されている、ハーネス保護具。
【請求項7】
結束電線を含むワイヤーハーネスを車両のボディに形成された貫通孔部を通じて前記ボディとドアとの間に配索するためのワイヤーハーネス配索構造部であって、
前記ワイヤーハーネスと、
前記貫通孔部に対して挿入方向に挿入され且つ前記ワイヤーハーネスが配設された配設孔部を有する筒状の本体部と、前記本体部の外周部から張り出す形状に形成されて前記貫通孔部の開口縁部に対して前記貫通孔部の貫通方向に係止可能な係止構造部とを有し、前記配設孔部は、前記ワイヤーハーネスの外周部に沿う形状の小空間部と、前記挿入方向ドア側端部を含む部分に設けられ、周方向において少なくとも前記小空間部の一方側において前記小空間部より外周側に拡がった内部空間を有する大空間部とを有しているハーネス保護具と、
前記ワイヤーハーネスにおける前記ドア内に配索される部分を、迂回可能な空間を有して収容する余長吸収部と、
を備えるワイヤーハーネス配索構造部。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤーハーネス配索構造部であって、
前記余長吸収部は、前記ドアの閉状態において、前記ハーネス保護具の前記配設孔部より車内側に前記ワイヤーハーネスが挿入される挿入口部を有し、
前記ハーネス保護具の前記大空間部は、前記小空間部の車内外方向両側において前記小空間部より外周側に拡がる形状に形成されている、ワイヤーハーネス配索構造部。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のワイヤーハーネス配索構造部であって、
前記ハーネス保護具の前記大空間部は、周方向全体で前記小空間部より外周側に拡がる形状に形成されている、ワイヤーハーネス配索構造部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−48509(P2013−48509A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185733(P2011−185733)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】