説明

バイアル

【課題】開閉栓時の安全性に優れるとともに薬剤の汚染の懸念がないバイアルを提供する。また、薬剤をバイアル内部に配置し、閉栓する工程時に優れた作業効率が実現されるバイアルを提供する。
【解決手段】バイアルは、開口部23を有し、薬剤を貯留するための容器本体21と、螺合により開口部23に着脱可能に装着され、開口部23に装着された状態で容器本体21の内部空間を容器本体21の外側に開放する筒状のキャップ31と、押圧によりキャップ31に脱離不能に嵌合され、開口部23を閉塞する栓体41とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的に、バイアルに関し、より特定的には、凍結乾燥製剤を収容するためのバイアルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバイアルに関して、たとえば、特開平11−342959号公報には、容器本体の開口部への装着操作が簡単かつ容易に行なうことができ、再使用が可能な構造を実現することを目的とした栓部材が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された栓部材は、容器本体の開口部内に装着される弾性を有するコックと、コックに一体的に装着されて開口部の外周部を覆うキャップとから構成されている。キャップには、栓部材を容器本体から簡単かつ容易に取り外すための開口部が形成されている。
【特許文献1】特開平11−342959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
種々の薬剤を収容するためのバイアルとして、容器本体の開口部をゴム栓によって塞ぐゴム栓タイプのバイアルや、容器本体の開口部にねじを設け、その開口部にキャップを巻き締めるねじ口タイプのバイアルなどが利用されている。
【0004】
しかしながら、ゴム栓タイプのバイアルでは、ゴム栓を容器本体から外す際に、作業者が血液由来製剤などの危険な薬剤に触れるおそれが生じる。また、バイアルに収容された薬剤が検査用試薬として用いられる場合、容器本体の開口部が繰り返し開閉栓されることによって、容器本体内部の製剤がゴム栓を介して汚染されるおそれが生じる。
【0005】
また、バイアルに凍結乾燥製剤を収容する場合、凍結乾燥製剤の製造工程時に、容器本体の閉栓を凍結乾燥機の内部で行なう必要がある。この場合、ねじ口タイプのバイアルでは、凍結乾燥機の内部でキャップの巻き締め工程をバイアル1本ごとに行なう必要が生じ、このため作業効率の低下を招くおそれがある。
【0006】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、開閉栓時の安全性に優れるとともに薬剤の汚染の懸念がないバイアルを提供することである。また、この発明の別の目的は、上記の課題を解決することであり、薬剤を容器本体内部に配置し、閉栓する工程時に優れた作業効率が実現されるバイアルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従ったバイアルは、開口部を有し、薬剤を貯留するための容器本体と、螺合により開口部に着脱可能に装着され、開口部に装着された状態で容器本体の内部空間を容器本体の外側に開放する筒状のキャップと、押圧によりキャップに脱離不能に嵌合され、開口部を閉塞する栓体とを備える。
【0008】
このように構成されたバイアルによれば、薬剤を容器本体に配置し、容器本体の開口部を栓体により閉塞する工程時、予め開口部にキャップを装着しておけば、栓体を押圧するだけの作業で開口部を閉塞することができる。このため、複数のバイアルについて開口部を閉塞する作業を一括に行なうことが可能となり、作業効率を向上させることができる。また、薬剤を貯留したバイアルを使用する場合には、栓体と一体となったキャップを回すことによって、容器本体の開口部の開閉を行なうことができる。このため、ユーザが栓体に付着した薬剤に触れるというおそれがなくなり、開閉栓時の安全性を確保することができる。また、容器本体に貯留された薬剤が栓体を介して汚染されるおそれがなくなる。
【0009】
また好ましくは、栓体は、キャップと嵌合する嵌合部材と、嵌合部材と一体に設けられ、開口部に挿入される弾性部材とを有する。このように構成されたバイアルによれば、嵌合部材により栓体とキャップとを一体化するとともに、弾性部材により開口部を確実に閉塞することができる。
【0010】
また好ましくは、弾性部材は、ゴム材料から形成される。弾性部材は、開口部に対する弾性部材の挿入方向において、嵌合部材よりも奥まった位置に設けられる。このように構成されたバイアルによれば、薬剤を容器本体に配置し、容器本体の開口部を栓体により閉塞する工程時に、キャップを押圧するための部材がゴム材料から形成された弾性部材に接触することを防止できる。
【0011】
また好ましくは、栓体は、弾性部材の一部が開口部に挿入され、嵌合部材がキャップと嵌合していない半打栓の状態をとることが可能である。弾性部材には、半打栓の状態において容器本体の内部空間と容器本体の外側とを連通させるスリットが形成される。このように構成されたバイアルによれば、容器本体に配置された薬剤を凍結乾燥する場合に、栓体を半打栓の状態にすることで、薬剤に含まれる水分をスリットを通じて容器本体からその外側に逃がすことができる。
【0012】
また好ましくは、容器本体には、凍結乾燥製剤が貯留される。このように構成されたバイアルによれば、凍結乾燥機の内部で容器本体の開口部を栓体により閉塞する際、その作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、この発明に従えば、開閉栓時の安全性に優れるとともに薬剤の汚染の懸念がないバイアルを提供することができる。また、この発明に従えば、薬剤をバイアル内部に配置し、閉栓する工程時に優れた作業効率が実現されるバイアルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態におけるバイアルを示す斜視図である。図2は、図1中のバイアルの分解組み立て図である。
【0016】
図1および図2を参照して、まず、本実施の形態におけるバイアルの基本的な構造について説明すると、バイアル10は、開口部23を有し、薬剤を貯留するための容器本体21と、螺合により開口部23に着脱可能に装着され、開口部23に装着された状態で容器本体21の内部空間を容器本体21の外側に開放する筒状のキャップ31と、押圧によりキャップ31に嵌合され、開口部23を閉塞する栓体41とを備える。
【0017】
続いて、バイアル10の構造について詳細に説明する。
図3は、図1中のバイアルの上部を拡大して示す断面図である。図1から図3を参照して、容器本体21の内部には、薬剤が収容される。容器本体21は、薬剤を出し入れするための開口部23を有する。開口部23は、一方端が容器本体21の外側に開口する円筒形状を有し、容器本体21の内部空間を一方向に開放している。容器本体21を机の上などに載置した状態で、開口部23の開口面は、鉛直上側に面する。開口部23の外周面には、雄ねじ25が形成されている。
【0018】
なお、図中には、有底の円筒形状を有する容器本体21が示されているが、本発明における容器本体は、このような形状に限定されるものではなく、薬剤を収容可能な任意の形状を取り得る。
【0019】
キャップ31および栓体41は一体となって、開口部23を塞ぎ、容器本体21の内部空間を密閉する。
【0020】
まず、キャップ31の具体的な形状について説明すると、キャップ31は、その内側に孔33を形成する円筒形状を有する。キャップ31は、樹脂から形成されており、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどから形成されている。
【0021】
円筒形状を有するキャップ31の内周面には、雄ねじ25に対応する雌ねじ37が形成されている。キャップ31は、開口部23の外周上で巻き締められる。これにより、雄ねじ25と雌ねじ37とが螺合し、キャップ31が開口部23に対して着脱可能に装着される。キャップ31は筒形状を有するため、キャップ31が開口部23に装着された状態においても、容器本体21の内部空間は、開口部23を通じて容器本体21の外側に開放される。キャップ31は、開口部23の外周上を覆い、さらに開口部23の開口面よりも突出するように開口部23に装着される。
【0022】
キャップ31には、溝部35が形成されている。溝部35は、キャップ31の内周面から凹み、環状に延びるように形成されている。キャップ31が開口部23に装着された状態で、溝部35は、開口部23の開口面よりも突出するキャップ31の部位に形成されている。
【0023】
次に、栓体41の具体的な形状について説明すると、栓体41は、弾性部材としてのゴム栓51と、嵌合部材としてのクラウン61とが組み合わさって構成されている。ゴム栓51は、弾性を有するゴム材料から形成されており、たとえば、シリコンゴム、ブチルゴムなどから形成されている。クラウン61は、ゴム栓51よりも硬質な材料から形成されており、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどから形成されている。
【0024】
ゴム栓51は、開口部23に圧入されることによって容器本体21を密閉可能な形状を有する。本実施の形態では、円筒形状を有する開口部23の形状に合わせて、ゴム栓51が略円柱形状に形成されている。ゴム栓51は、開口部23に圧入された状態で、開口部23の開口面よりも突出するように設けられている。
【0025】
ゴム栓51には、溝部53が形成されている。溝部53は、ゴム栓51の外周面から凹み、環状に延びるように形成されている。ゴム栓51が開口部23に圧入された状態で、溝部53は、開口部23の開口面よりも突出するゴム栓51の部位に形成されている。ゴム栓51には、さらにスリット55が形成されている。スリット55は、開口部23の内周面に圧接するゴム栓51の外周面から凹むように形成されている。
【0026】
クラウン61は、リング形状を有する。クラウン61は、ゴム栓51の外周上に配置される。クラウン61は、鍔部63を有する。鍔部63は、リング形状を有するクラウン61の内周側に突出するように形成されている。鍔部63が溝部53に係合することによって、クラウン61とゴム栓51とが一体となり、栓体41を構成する。
【0027】
クラウン61は、さらに突起部65を有する。突起部65は、クラウン61の外周面から突出するように形成されている。キャップ31が開口部23に装着された状態で、栓体41が開口部23に向けて押圧されたとき、突起部65が溝部35に係合する。これにより、栓体41がキャップ31と脱離不能な状態で一体となり、開口部23を塞ぐ。なお、脱離不能な状態とは、特別過大な力を加えたり、特殊な道具を用いない限りにおいて、バイアル10の一般的な使用に際し、栓体41とキャップ31とが分離されることがない程度を意味する。
【0028】
クラウン61およびゴム栓51は、それぞれ、頂面61aおよび頂面51aを有する。開口部23に対するゴム栓51の圧入方向において、ゴム栓51はクラウン61よりも奥まった位置に設けられている。言い換えれば、クラウン61およびゴム栓51は、開口部23の開口面と頂面51aとの間の距離が開口部23の開口面と頂面61aとの間の距離よりも小さくなるように設けられている。
【0029】
本実施の形態におけるバイアル10には、たとえば、測定機器を校正するための標準化試薬が凍結乾燥された形態で収容される。凍結乾燥された試薬がバイアル10の内部で溶解されると、得られた溶解液は、測定機器の校正のため複数回に分けて使用される。次に、本実施の形態におけるバイアル10の使用方法について、上記の標準化試薬を製造する工程との関係において説明する。
【0030】
図4は、図1中のバイアルの納入時の形態を示す断面図である。図4を参照して、まず、ユーザへのバイアル10の納入時の形態について説明すると、キャップ31は、開口部23の外周上で巻き締められることによって、容器本体21に装着されている。一方、栓体41は、クラウン61とゴム栓51とが一体とされた状態で、容器本体21とは別にして納入される。
【0031】
図5から図7は、図1中のバイアル内部で標準化試薬の製造する工程を示す断面図である。図5を参照して、次に、バイアル10が納入されたユーザによって実施される標準化試薬の製造工程について説明する。まず、溶液状の試薬原料を、開口部23を通じて容器本体21の内部に注ぐ。
【0032】
図6を参照して、次に、開口部23に対して栓体41を半打栓の状態で装着する。このとき、ゴム栓51の下端部分が開口部23に圧入され、かつ、クラウン61がキャップ31と嵌合していない状態で、栓体41が位置決めされる。容器本体21の内部空間とその外側の空間とが、スリット55によって連通する。
【0033】
次に、栓体41を半打栓の状態で装着した容器本体21を、凍結乾燥機の内部に配置する。凍結乾燥機の内部には、上下方向に移動可能な打栓用部材71が設置されている。容器本体21は、打栓用部材71の下方に配置される。
【0034】
次に、凍結乾燥機を稼動させることにより、容器本体21内部の試薬原料を凍結させる。さらに、凍結乾燥機の内部を減圧することによって、凍結した試薬原料に含有される水分をスリット55を通じて、容器本体21の外側に排出する。これにより、容器本体21の内部には、試薬原料の乾燥物質のみが残り、凍結乾燥された状態の標準化試薬が得られる。
【0035】
図7を参照して、打栓用部材71を容器本体21に向けて駆動させることにより、栓体41を開口部23に向けて押圧する。打栓用部材71による栓体41の押圧に伴って、突起部65が溝部35に係合する。これにより、栓体41がキャップ31と嵌合し、栓体41とクラウン61とが一体となって開口部23を塞ぐ。以上の工程により、バイアル10の内部において、凍結乾燥された標準化試薬が製造される。
【0036】
本実施の形態におけるバイアル10では、開口部23に対するゴム栓51の圧入方向において、ゴム栓51はクラウン61よりも奥まった位置に設けられている。このような構成により、凍結乾燥機の内部で、打栓用部材71はクラウン61と接触することとなり、ゴム材料から形成されたゴム栓51と打栓用部材71との接着を確実に防ぐことができる。すなわち、ゴム材料がキャップを押圧するための部材に貼り付くことがなく、打栓後にバイアルが持ち上げられることがない。結果、バイアル落下による破損や、バイアル破損によって、同時製造される他のバイアルが汚染されることを回避することができる。
【0037】
図8は、図1中のバイアルの使用の形態を示す断面図である。図8を参照して、凍結乾燥された標準化試薬は、バイアル10の内部で溶解された後、測定機器の校正のため複数回に分けて使用される。この際、ユーザは、栓体41と一体とされたキャップ31を開口部23に対して回すことによって、開口部23の開閉栓を行なうことができる。
【0038】
このように構成された、この発明の実施の形態におけるバイアル10によれば、標準化試薬の製造工程時、凍結乾燥機の内部で栓体41を開口部23に向けて押圧することによって、開口部23の閉栓を行なう。このため、キャップの巻き締め工程を行なう場合と比較して、開口部23を容易かつ短時間で閉栓することができ、また、複数のバイアル10の閉栓工程を一括に行なうことも可能となる。
【0039】
また、ユーザは、バイアル10の内部に製造された標準化試薬を使用するに際しては、栓体41と一体とされたキャップ31を開口部23に対して回すことによって、開口部23の開閉栓を行なう。このため、ユーザが栓体41に付着した試薬に触れるというおそれがなくなり、試薬の種類にかかわらず開閉栓時のユーザの安全性を確保することができる。また、容器本体21に貯留された標準化試薬が栓体41を介して汚染されるおそれもなくなる。
【0040】
なお、本実施の形態では、バイアル10の内部に、凍結乾燥された標準化試薬が収容される場合について説明したが、このような使用形態に限られず、バイアル10の内部には、たとえば液状の薬剤が収容されてもよい。このような場合であっても、上下動作する単純な装置を用いて打栓工程を行なうことが可能となるため、製造設備を簡易化することができる。
【0041】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施の形態におけるバイアルを示す斜視図である。
【図2】図1中のバイアルの分解組み立て図である。
【図3】図1中のバイアルの開口部を拡大して示す断面図である。
【図4】図1中のバイアルの納入時の形態を示す断面図である。
【図5】図1中のバイアル内部で標準化試薬の製造する第1工程を示す断面図である。
【図6】図1中のバイアル内部で標準化試薬の製造する第2工程を示す断面図である。
【図7】図1中のバイアル内部で標準化試薬の製造する第3工程を示す断面図である。
【図8】図1中のバイアルの使用の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 バイアル、21 容器本体、23 開口部、31 キャップ、41 栓体、51 ゴム栓、55 スリット、61 クラウン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し、薬剤を貯留するための容器本体と、
螺合により前記開口部に着脱可能に装着され、前記開口部に装着された状態で前記容器本体の内部空間を前記容器本体の外側に開放する筒状のキャップと、
押圧により前記キャップに脱離不能に嵌合され、前記開口部を閉塞する栓体とを備える、バイアル。
【請求項2】
前記栓体は、前記キャップと嵌合する嵌合部材と、前記嵌合部材と一体に設けられ、前記開口部に挿入される弾性部材とを有する、請求項1に記載のバイアル。
【請求項3】
前記弾性部材は、ゴム材料から形成され、
前記弾性部材は、前記開口部に対する前記弾性部材の挿入方向において、前記嵌合部材よりも奥まった位置に設けられる、請求項2に記載のバイアル。
【請求項4】
前記栓体は、前記弾性部材の一部が前記開口部に挿入され、前記嵌合部材が前記キャップと嵌合していない半打栓の状態をとることが可能であり、
前記弾性部材には、前記半打栓の状態において前記容器本体の内部空間と前記容器本体の外側とを連通させるスリットが形成される、請求項2または3に記載のバイアル。
【請求項5】
前記容器本体には、凍結乾燥製剤が貯留される、請求項1から4のいずれか1項に記載のバイアル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−110378(P2010−110378A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283345(P2008−283345)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】