説明

バイオセンサカートリッジ

【課題】 穿刺時の衝撃で弾性体が意図しない動きをすることを防止できるとともに、血液の外部漏れを防止できるバイオセンサカートリッジを得る。
【解決手段】 バイオセンサカートリッジ100において、穿刺具本体31の前端面31aに穿刺用器具Nを軸線方向で突設した穿刺具33と、前端面に試料採取口23の開口するセンサチップ7を穿刺具33とで挟持する受け部材と、センサチップ7を挟持した穿刺具33及び受け部材の先端部に装着され軸線方向の圧縮変形にて穿刺用器具Nを先端面から突出可能とした弾性体39と、この弾性体39の後部を軸線直交方向から挟持するとともに穿刺具33及び受け部材を内方に収容して結合される一対のカバー41,43とを設けた。センサチップ7を挟持した穿刺具33及び受け部材と一対のカバー41,43との間には、液体吸収材の配置される収容空間Sを設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺用器具で穿刺して血液を採取するとともに、試薬を用いて化学物質の測定や分析を可能とするバイオセンサカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な高齢化の進展や食生活の変化などにより、わが国の糖尿病患者は増加の一途をたどっており、患者が日常生活の中で血糖値の自己管理を行なうために、血糖測定器の需要が増えている。糖尿病の早期発見・悪化防止のために、血中血糖値のモニタリングは効果的である。現在使用されている血糖測定装置は、穿刺針と検査片が分かれており、1日多数回の測定には適当ではない。穿刺針と試験片を一体にし、それに伴って測定器具までを一体化することが求められている(例えば特許文献1参照)。
しかし、上記の特許文献1に開示されたものは、穿刺針が測定装置内の空間を移動する穿刺機構を有するため、構造が複雑化している。
【0003】
【特許文献1】WO02−056769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者等は、穿刺用器具(針)を有した穿刺具と、センサチップとが一体化されていて、上記公報に記載されている従来タイプに比べて格段にシンプルな構造のバイオセンサカートリッジを既に提案している。
このバイオセンサカートリッジ(一体型チップ)1は、図6に示すように、穿刺具3と受け部材5とでセンサチップ7を挟持してなる。穿刺具3は、合成樹脂材料からなる略半円柱形状の穿刺具本体9の軸線方向前端面に、穿刺用器具Nを軸線方向に突出してなる。また、受け部材5は、合成樹脂材料からなり、穿刺具3とで略円柱体を構成するような略半円柱形状に形成される。
センサチップ7は、互いに対向する2枚の基板13,15と、この基板間に挟装される不図示のスペーサ層を有していて、2枚の基板の少なくとも一方の基板のスペーサ層側の表面には互いに離間して配置された一対の検知用電極17,19が設けられ、これら検知用電極17,19間には不図示の中空反応部が形成されている。中空反応部は、内部に試薬が設けられ、試料としての血液を導入する試料採取口が中空反応部に連通してセンサチップ7に形成されている。
【0005】
このような構成を有する一体型チップ1は、穿刺用器具Nで被検体を穿刺した後、センサチップ7の前端部に設けられている試料採取口を被検体の穿刺口に近づけて、流出した血液を採取する。
上記構成による一体型チップ1は、既述したように、穿刺針が測定装置内の空間を移動する従前のタイプに比べて、穿刺針の移動する穿刺機構を省略して格段にシンプルな構造が実現できる。
【0006】
また、本発明者等は、一体型チップとして、先端に、穿刺用器具Nの保護を兼ねたゴム等からなる弾性体を装着したものを提案している。この種の一体型チップは、先端に装着された弾性体を被検体に押し付けると、弾性体が圧縮変形し、内部に挿通された穿刺用器具Nが相対的に突出して被検体を穿刺する。そして、弾性体の復元力によって穿刺用器具Nが被検体から抜かれ、穿刺口から血液が流出し、一回の押圧動作のみで流出血液の採取が可能となる。
【0007】
しかしながら、弾性体を備えた一体型チップは、内部に流路を持つ弾性体を構成パーツとするため、穿刺時の衝撃で弾性体が意図しない動きをし、測定成功率を低下させる問題が判明したため、さらなる改良の余地がある。
また、一体型チップは、センサチップ7を単体で用いる測定装置よりも多くの血液が必要であるため、出血させた余分な血液が外部へ漏れ易く、測定装置等を汚染する虞がある。なお、現行の測定装置は、目視しながらセンサチップ先端に血液を付着させるため、汚染に対してさほど注意をはらう必要はない。
さらに、一体型チップは、粘着性のある弾性体を備える場合もあるため、多数の一体型チップをまとめて包装することができずに個別包装となる。そして、個別包装時には、除湿剤をそれぞれの包装に同梱しなければならず、一体型チップと除湿剤とを離間する仕切り部材等が必要となり、梱包の手間、コストが増大する。なお、除湿剤を同梱するのは、センサチップが空気中の水分の影響で性能が変化するため、水分を除いて性能を一定に保つ必要性があるためである。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、穿刺時の衝撃で弾性体が意図しない動きをすることを防止できるとともに、試料となる血液の外部漏れを防止できるバイオセンサカートリッジを提供すること、また、その第2の目的は、液体吸収材を同梱する際の梱包の手間を省けるバイオセンサカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 穿刺用器具を有した穿刺具と、
試料採取口を開口させたセンサチップと、
前記センサチップを前記穿刺具とで挟持する受け部材と、
前記センサチップを挟持した前記穿刺具及び前記受け部材の先端部に装着され前記穿刺用器具の軸線方向に沿う圧縮変形にて前記穿刺用器具を先端面から突出可能とした弾性体と、
該弾性体を軸線直交方向から挟持するとともに前記穿刺具及び前記受け部材を内方に収容して結合される一対のカバーと、
を具備したバイオセンサカートリッジ。
【0010】
このバイオセンサカートリッジによれば、穿刺具及び受け部材の先端部に装着された弾性体が、一対のカバーによって半径方向外側から挟持され、強固に固定される。これにより、穿刺時の衝撃によっても弾性体が意図しない動きをしなくなる。採血した余分な血液が穿刺具及び受け部材の接合周縁から滲み出ても、カバーの中に留められる(余分な血液の閉じ込めが可能となる)。複雑な外観となりがちな穿刺具、センサチップ及び受け部材の複合体が、カバーで一括して覆える。同一径の柱体等、所望の外観形状でカバーが形成可能となる。
【0011】
(2) 前記センサチップを挟持した前記穿刺具及び前記受け部材と前記一対のカバーとの間に、除湿剤の配置される収容空間を有する請求項1に記載のバイオセンサカートリッジ。
【0012】
このバイオセンサカートリッジによれば、除湿剤を、カバー内に設けられた収容空間に配置できる。つまり、除湿剤内蔵のバイオセンサカートリッジとすることができる。これにより、別体のバイオセンサカートリッジと除湿剤とを同梱する場合の仕切り部材等が不要となり、梱包の手間を省き、包装を簡単且つコンパクトにできる。除湿剤を内蔵すれば、センサチップの吸湿による性能低下を防止することができる。
【0013】
(3) 前記収容空間がさらに液体吸収材を配置する空間を有する請求項2に記載のバイオセンサカートリッジ。
【0014】
このバイオセンサカートリッジによれば、カバー内に設けられた収容空間は、さらに液体吸収材を配置することができる。これにより、液体吸収材を収容空間に配置して、血液がカバー外部へ漏れ出す可能性をさらに下げることができる。
【0015】
(4) 前記一対のカバーが、除湿剤を含有した樹脂成形品である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のバイオセンサカートリッジ。
【0016】
このバイオセンサカートリッジによれば、カバー内に、除湿剤を配置する収容空間を確保せずに、除湿効果を得ることができる。したがって上記と同様に、別々のバイオセンサカートリッジと除湿剤とを同梱する場合の仕切り部材等が不要となり、梱包の手間を省き、包装を簡単且つコンパクトにできる。これに加え、バイオセンサカートリッジ自体も小型にできる。
【0017】
(5) 前記センサチップを挟持した前記穿刺具と前記受け部材との接合周縁が、前記一対のカバーの結合部と離間された請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のバイオセンサカートリッジ。
【0018】
このバイオセンサカートリッジによれば、採血した余分な血液が、仮に穿刺具、センサチップ、受け部材の接合周縁から滲み出ても、カバー結合部へ直接流入することがなく、血液がカバー外部へ漏れ難くなる。
【0019】
(6) 前記受け部材の前記センサチップと対向する挟持面に軸線方向で延在する導入溝が形成され、且つ該導入溝の少なくとも一端が前記受け部材の前端面で開口する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のバイオセンサカートリッジ。
【0020】
このバイオセンサカートリッジによれば、穿刺用器具を伝って試料採取口に流入した血液に余剰が生じると、その直下で開口する受け部材前端面の導入溝へ余分な血液が流れ込み、受け部材とセンサチップとの間で導入溝に沿って収容される。これにより、殆どの余分血液を軸線方向に沿って収容でき、導入溝が無い場合に、軸線直交方向から血液が毛管現象によって滲み出ることを軽減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るバイオセンサカートリッジによれば、穿刺具及び受け部材の先端部に装着した弾性体を軸線直交方向から挟持するとともに、穿刺具及び受け部材を内方に収容して結合される一対のカバーを備えたので、弾性体をカバーによって強固に固定でき、穿刺時の衝撃で弾性体が意図しない動きをすることを防止できる。また、バイオセンサカートリッジは、採血した余分な血液をカバーの中に溜めることで、血液の外部漏れによる測定装置の汚染を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るバイオセンサカートリッジの好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1は本発明に係るバイオセンサカートリッジの分解斜視図、図2は図1の側面図、図3は図2の正面図、図4は実施の形態の弾性体を(a)、その変形例を(b)に表した拡大断面図、図5は図1に示したバイオセンサカートリッジにおける余分な血液の導入・収容状態を表す分解斜視図である。
【0023】
本実施の形態によるバイオセンサカートリッジ100は、穿刺具本体31の前端面31aに穿刺用器具Nを軸線方向で突設した穿刺具33と、前端面に試料採取口23(図3参照)の開口するセンサチップ7を穿刺具33とで挟持する受け部材35(図2参照)と、センサチップ7を挟持した穿刺具33及び受け部材35の先端部に装着され穿刺用器具Nの軸線方向に沿う圧縮変形にて穿刺用器具Nを先端面37から突出可能とした弾性体39と、弾性体39の後部39aを軸線直交方向から挟持するとともに穿刺具33及び受け部材35を内方に収容して結合される一対のカバー41,43とを具備してなる。
【0024】
センサチップ7は、穿刺具33と受け部材35とで挟持される。穿刺具33は、合成樹脂材料からなる略半円柱形状の穿刺具本体31の軸線方向前端面31aに、穿刺用器具Nを軸線方向に突出してなる。また、受け部材35は、合成樹脂材料からなり、穿刺具33とで略円柱体を構成するような略半円柱形状に形成される。穿刺用器具Nとしては、例えば針、ランセット(lancet;槍状刀)針、カニューレ(cannula;套管)等が挙げられる。
【0025】
センサチップ7は、互いに対向する2枚の基板13,15と、この基板間に挟装される不図示のスペーサ層を有している。2枚の基板13,15の少なくとも一方の基板15のスペーサ層側の表面には一対の検知用電極17,19が設けられ、それぞれの検知用電極17,19は前端部で互いに対向する方向へL宇状に曲げられて離間されている。センサチップ7の前端部には2つの検知用電極17,19が対向している部分にかけて、不図示の中空反応部が形成されている。中空反応部は、内部に試薬が設けられ、その前端には試料としての血液を導入する試料採取口23(図3参照)が形成されている。
【0026】
検知用電極17,19は、中空反応部21において露出しており、中空反応部21における検知用電極17,19の直上或いは近傍に、例えば酵素とメディエータを固定化し血液中のグルコースと反応して電流を発生する試薬が設けられる。つまり、中空反応部21は、試料採取口23から採取された血液が試薬と生化学反応する部分となる。
【0027】
検体の採血負担を考慮すると、中空反応部21の容積は1μL(マイクロリットル)以下が好ましく、特に300nL(ナノリットル)以下であることが好ましい。このような微小な中空反応部21であれば、採血負担を考慮した直径の小さな穿刺用器具Nを用いても、採取された血液量が反応に十分なものとなる。穿刺用器具Nの直径は、1000μm以下であることが好ましい。
【0028】
センサチップ7には中空反応部21と外部とを連通させる空気導通路が設けられ、空気導通路は外部から付与させる減圧力を中空反応部21へ作用させて、中空反応部21への血液の流入を容易にする。
【0029】
検知用電極17,19及びスペーサ層の材質としては、絶縁性材料のフィルムが選ばれ、絶縁性材料としては、セラミックス、ガラス、紙、生分解性材料(例えば、ポリ乳酸微生物生産ポリエステル等)、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂、UV硬化樹脂等のプラスチック材料を例示することができる。機械的強度、柔軟性、及びチップの作製や加工の容易さ等から、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック材料が好ましい。代表的なPET樹脂としては、メリネックスやテトロン(以上、商品名、帝人デュポンフィルム株式会杜製)、ルミラー(商品名、東レ株式会杜製)等が挙げられる。
【0030】
図4(a)に示すように、柱状に形成された弾性体39には軸線方向に貫通穴51が穿設され、貫通穴51は軸線方向の寸法が穿刺用器具Nの先端までの長さより長く形成されている。つまり、穿刺用器具Nは、貫通穴51に収容されている。貫通穴51は、穿刺用器具Nを挿通させるため、穿刺用器具Nの外径より大きく形成される。この弾性体39は、穿刺用器具Nの軸線方向に沿う圧縮変形にて穿刺用器具Nの先端を先端面37から突出可能とする。弾性体39の先端面37には環状凹部53が形成され、環状凹部53は貫通穴51と同心円状に形成される。つまり、貫通穴51は、環状凹部53によって包囲された膨出部55の先端に開口されている。
【0031】
弾性体39は、先端面37の周壁部57が、軸線方向の圧縮力によって潰れるように変形する。また、同様の圧縮力が作用した際に、膨出部55も環状凹部53の底面近傍まで潰れるように変形する。すなわち、この圧縮力が作用することにより、穿刺用器具Nが弾性体39の先端面37から相対的に突出されることとなる。この圧縮力は、不図示の測定装置、或いは手動によって付与される。
【0032】
環状凹部53より外側の環状前端面59には一対の通気溝61,61が形成され、通気溝61,61は環状凹部53と弾性体外周面とに渡って直径方向に形成されている。したがって、通気溝61,61は、弾性体39の先端面37が被検体によって塞がれた状態で、環状凹部53と外部とを連通可能にする。これにより、通気溝61,61は、密閉状態の環状凹部53が押圧変形されて内圧が上昇することで、弾性体39が潰れ難くなるのを阻止できる。
【0033】
穿刺具33と受け部材35の先端部には小径に形成された挿入部33a、挿入部35aが突設され、挿入部33a、挿入部35aは弾性体39の後端面に開口された嵌着穴67に挿嵌される。半円径の挿入部33aの外周には円周方向に90°の間隔で3つの係合突起63a,63b,63cが突設される。半円形の挿入部35aの外周には円周方向の中央部に係合突起63dが突設される。これらの係合突起63a,63b,63c、係合突起63dは、弾性体39の嵌着穴67の内部に円周方向で設けられた4つの係合穴65に、それぞれ嵌合される。つまり、弾性体39は、係合突起63a,63b,63c、係合突起63dを、係合穴65に係合して、抜脱不能となって挿入部33a、挿入部35aに挿着される。なお、弾性体39は、上記した係合突起63a,63b,63c、係合突起63dと係合穴65との係合を省略して、既述したように、一対のカバー41,43で弾性体39の外周面を軸線直交方向から挟持するだけで、穿刺具33と受け部材35の挿入部33a、挿入部35aに対して、抜脱不能に挿着することもできる。
【0034】
なお、弾性体39は、先端面37に環状凹部53、通気溝61,61を設けない図4(b)に示す筒状の弾性体39Aに形成されるものであっても勿論よい。また、図4中、69は、試料採取口23へ血液を導くための流路を形成する一対の離間片を表す。
【0035】
弾性体39は、硬度が、硬度E(JIS K 6253E)にて10〜40の範囲となるようにして作成される。好ましくは、硬度Eにて20〜30の範囲に設定される。弾性体39の硬度が、硬度Eにて20〜30の範囲に設定されることで、硬度Eにて10以下の柔らかい弾性体で発生する圧縮時の過剰変形による穿刺穴の閉塞が防止される。また、硬度Eにて40以上の硬い弾性体で発生する押圧時の変形不良による穿刺用器具Nの突出不足が防止される。これに加え、硬度Eにて10以下の柔らかい弾性体で生じがちなブリードも極めて微量に抑止される。
【0036】
弾性体39は、ブリードによる染みだし物質の被検体への付着を阻止する不図示のコーティング材にて表面が覆われている。このように弾性体39の表面がコーティング材によって覆われることで、弾性体39から染み出る僅かな染みだし物質も、採取試料に混入したり、被検体に接触しなくなる。これにより、染みだし物質が採取試料に混入することによる測定成功率の低下が抑止できるとともに、被検体への影響も防止することができる。
【0037】
弾性体39は、少なくとも天然ゴム、合成ゴム、スポンジのいずれか一つを含有する。弾性体39の主材料として、少なくとも天然ゴム、合成ゴム、スポンジのいずれかが使用されることで、原材料の入手が容易となり、所望硬度の弾性体39を、良好な成形性によって安価に生産できる。
【0038】
上記した合成ゴムは、少なくともシリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴムのいずれか一つを含有することが好ましい。弾性体39の主材料が合成ゴムとなり、この合成ゴムが少なくともシリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴムのいずれか一つを含有することで、弾性体39において、上記した所望の最適な硬度、すなわち、硬度E(JIS K 6253E)にて20〜30の範囲を容易に得ることができる。
【0039】
より具体的に、弾性体39の材質としては、シリコーン、ウレタン、アクリル、エチレン、スチレン等のポリマー単体若しくは共重合したポリマーからなるゴム若しくはスポンジ、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン及びパーフルオロアルコキシエチレンとポリフルオロエチレンの共重合体であるPFA等のフッ素樹脂などを利用できる。
【0040】
カバー41,43は、それぞれが半円筒形状に形成される。カバー41,43の軸線方向と平行な接合縁には2つの突起71,71と2つの固定孔73,73とが交互に設けられている。これらの突起71,71と固定孔73,73とは、カバー41,43の対向する接合縁同士で、突起71と固定孔73とが嵌合するように異なる並び順で配列されている。カバー41,43の先端部には半円状の挟持部75a,75bが形成され、挟持部75a,75bはカバー41,43が突起71と固定孔73とを嵌合して結合した状態で、弾性体39の後部39aを半径方向外側から挟持するようになっている。なお、挟持部75a,75bは、図3に示すように、半径内方向に突出する突起76が形成されていれば、弾性体39を強圧して弾性体39の離脱、回転を防止することができ、好ましい。
【0041】
カバー41,43の後端面には結合状態で矩形穴を形成する切欠77a,77bが形成され、切欠77a,77bは内部に収容されたセンサチップ7の後部を外部へ導出する。なお、カバー41上面に示した符号79は、バイオセンサカートリッジ100を不図示の装置に装填した際に、バイオセンサカートリッジ100が装置と嵌合して結合固定される部位である。
【0042】
センサチップ7を挟持した穿刺具33及び受け部材35と、一対のカバー41,43との間には収容空間Sが形成され、収容空間Sは不図示の除湿剤を配置可能としている。つまり、除湿剤内蔵のバイオセンサカートリッジ100とすることができる。これにより、従来品においてバイオセンサカートリッジ100と除湿剤とを同梱する場合の仕切り部材等が不要となり、梱包の手間を省き、包装を簡単且つコンパクトにできる。また、収容空間Sに除湿剤を内蔵すれば、血液の液状態時間を短くでき、血液がカバー41,43の外部へ溢れ出す可能性をさらに下げることができる。
【0043】
なお、一対のカバーは、除湿剤を混入した樹脂成形品であってもよい。この場合、カバー41,43内に、除湿剤を配置する収容空間Sを確保せずに、除湿効果を得ることができる。したがって上記と同様に、従来品においてバイオセンサカートリッジ100と除湿剤とを同梱する場合の仕切り部材等が不要となり、梱包の手間を省き、包装を簡単且つコンパクトにできる。これに加え、バイオセンサカートリッジ自体も小型にできる。
【0044】
図5に示すように、バイオセンサカートリッジ100は、センサチップ7を挟持した穿刺具33と受け部材35との接合周縁81が、一対のカバー41,43の結合部83と離間される。したがって、採血した余分な血液Bが、仮に穿刺具33、センサチップ7、受け部材35の接合周縁81から滲み出ても、カバー結合部83へ直接流入することがなく、血液がカバー41,43の外部へ漏れ難くなる。また、収容空間Sが、先の除湿剤に加えて不図示の液体吸収材を配置する空間を有して、この収容空間Sに液体吸収材を内蔵していれば、センサチップ7より滲み出た血液を吸収して、血液がカバー41,43の外部へ溢れ出す可能性をさらに下げることができる。
【0045】
受け部材35のセンサチップ7と対向する挟持面85には導入溝87が軸線方向で延在して形成され、導入溝87は一端が受け部材35の前端面35bで開口し、他端が受け部材35の後端35cで開口する。このように構成することで、穿刺用器具Nを伝って試料採取口23に流入した血液Bに余剰が生じると、その直下で開口前端面35bの導入溝87へ余分な血液Bが流れ込み、受け部材35とセンサチップ7との間で導入溝87に沿って収容される。これにより、殆どの余分血液Bを軸線方向に沿って収容でき、導入溝87が無い場合に、軸線直交方向で接合周縁81へ向かって血液Bが毛管現象によって滲み出ることを軽減できる。
【0046】
上記のバイオセンサカートリッジ100の作用を説明する。
不使用状態において、バイオセンサカートリッジ100は、弾性体39の貫通穴51に、穿刺用器具Nが挿嵌されることで、穿刺用器具Nが弾性体39に覆われた状態となる。一方、バイオセンサカートリッジ100を用いて血液Bを採取するには、先ず、弾性体39の先端面37を被検体である例えば指先に当てる。なお、バイオセンサカートリッジ100は、不図示の測定装置に装填され、穿刺ボタンの操作によって機械的に押圧されて先端が突出されても良く、或いはカバー41,43を手指にて把持し、弾性体39を被検体に押し付けても良い。
【0047】
バイオセンサカートリッジ100は、所定の押圧力で被検体に押し付けられると、弾性体39が穿刺用器具Nの軸線方向に沿って圧縮変形され、穿刺用器具Nの先端のみが弾性体39の先端面37から突出される。この際、膨出部55を包囲するように環状凹部53が形成されていることで、弾性体39は貫通穴51を中心として均一に変形し、穿刺用器具Nが体表面に対して高い垂直度で穿刺可能となる。
【0048】
穿刺用器具Nは、弾性体39の先端面37から突出されることにより、被検体に穿刺される。押し付け力によって変形した弾性体39は、復元力によって元の形状に戻る。これに伴って穿刺用器具Nは、若干後退され、被検体から引き抜かれる。被検体から穿刺用器具Nが抜かれると、その穿刺穴から血液Bが流出する。血液Bは、穿刺用器具Nを伝って試料採取口23へ導かれ、試料採取口23から中空反応部21へと流入する。中空反応部21に流入した血液Bが試薬と反応すると、電流が発生し、この電流が検知用電極17,19を介して測定装置の計測手段に入力され、血液中の成分が計測されることとなる。
【0049】
このバイオセンサカートリッジ100では、穿刺具33及び受け部材35の先端部に外嵌された弾性体39が、一対のカバー41,43によって半径方向外側から挟持され、強固に固定される。これにより、穿刺時の衝撃によっても弾性体39が意図しない動きをしなくなる。また、採血した余分な血液Bが穿刺具33及び受け部材35の接合周縁81から滲み出ても、カバー41,43の中に留められる(余分な血液Bの閉じ込めが可能となる)。そして、複雑な外観となりがちな穿刺具33、センサチップ7及び受け部材35の複合体が、カバー41,43によって一括して覆える。さらに、同一径の柱体等、所望の外観形状でカバー41,43が形成可能となる。さらに、カバーは、形状の異なる種々のチップセットを共通化した同一構造体として覆うことができ、単一の測定装置に装填可能なアダプタとなり得る。
【0050】
上記のバイオセンサカートリッジ100によれば、穿刺具33及び受け部材35の先端部に外嵌した弾性体39の後部を軸線直交方向から挟持するとともに、穿刺具33及び受け部材35を内方に収容して結合される一対のカバー41,43を備えたので、弾性体39をカバー41,43によって強固に固定でき、穿刺時の衝撃で弾性体39が意図しない動きをすることを防止できる。この結果、高精度な穿刺を実現して、測定成功率の低下を抑止できる。また、採血した余分な血液Bをカバー41,43の中に溜めることで、血液Bの外部漏れによる測定装置の汚染を防止できる。そして、カバー41,43は、穿刺具33、センサチップ7及び受け部材35の複合体を一括して覆えるので、外観の見栄えを良くできる。さらに、カバー41,43は、同一径の柱体等で形成できることから、ハンドリング性を高め、取り扱い易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るバイオセンサカートリッジの分解斜視図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】実施の形態の弾性体を(a)、その変形例を(b)に表した拡大断面図である。
【図5】図1に示したバイオセンサカートリッジにおける余分な血液の導入・収容状態を表す分解斜視図である。
【図6】一体型チップの外観斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
7 センサチップ
23 試料採取口
31 穿刺具本体
31a 前端面
33 穿刺具
35 受け部材
35b 受け部材の前端面
37 弾性体の先端面
39 弾性体
39a 弾性体の後部
41,43 カバー
81 穿刺具と受け部材との接合周縁
83 カバーの結合部
87 導入溝
100 バイオセンサカートリッジ
N 穿刺用器具
S 収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺用器具を有した穿刺具と、
試料採取口を開口させたセンサチップと、
前記センサチップを前記穿刺具とで挟持する受け部材と、
前記センサチップを挟持した前記穿刺具及び前記受け部材の先端部に装着され前記穿刺用器具の軸線方向に沿う圧縮変形にて前記穿刺用器具を先端面から突出可能とした弾性体と、
該弾性体を軸線直交方向から挟持するとともに前記穿刺具及び前記受け部材を内方に収容して結合される一対のカバーと、
を具備したバイオセンサカートリッジ。
【請求項2】
前記センサチップを挟持した前記穿刺具及び前記受け部材と前記一対のカバーとの間に、除湿剤の配置される収容空間を有する請求項1に記載のバイオセンサカートリッジ。
【請求項3】
前記収容空間がさらに液体吸収材を配置する空間を有する請求項2に記載のバイオセンサカートリッジ。
【請求項4】
前記一対のカバーが、除湿剤を含有した樹脂成形品である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のバイオセンサカートリッジ。
【請求項5】
前記センサチップを挟持した前記穿刺具と前記受け部材との接合周縁が、前記一対のカバーの結合部と離間された請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のバイオセンサカートリッジ。
【請求項6】
前記受け部材の前記センサチップと対向する挟持面に軸線方向で延在する導入溝が形成され、且つ該導入溝の少なくとも一端が前記受け部材の前端面で開口する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のバイオセンサカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−22675(P2009−22675A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191329(P2007−191329)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】