説明

バイオチップ、反応装置及び反応方法

【課題】PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップ、反応装置及び反応方法を提供すること。
【解決手段】長手方向を有する容室11と、容室11の長手方向の所定領域40内に被検液(検体を含む液体)を保持し、所定の押圧力によって所定領域40から被検液を解放する保持手段20と、被検液に所定の押圧力を印加する押圧手段30と、を含む。容室11は、所定領域40となる第1領域41と、容室11の長手方向に長い第2領域42とを含んでいてもよい。保持手段20は、所定の押圧力により第1領域41から第2領域42へと被検液を移動させるように構成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップ、反応装置及び反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な疾患に関与する遺伝子の存在が明らかになり、遺伝子診断や遺伝子治療など遺伝子を利用した医療が注目されている他、農畜産分野においても品種判別や品種改良に遺伝子を用いた手法が多く開発されてきており、遺伝子の利用技術が拡大している。遺伝子を利用するために核酸増幅技術が広く普及している。この技術としては一般的にPCR(Polymerase Chaine Reaction)などが知られており、今日では、PCRは、生体物質の情報解明において必要不可欠な技術となっている。
【0003】
PCRによる検査では、チューブやチップ(バイオチップ)と称する検体反応用容器を用いて反応を行う手法が一般的である。しかしながら従来の手法においては、必要な試薬等の量が多く、また必要な熱サイクルを実現するために装置が複雑化したり、反応に時間がかかったりするという問題があった。そのため微少量の試薬や検体を用いてPCRを精度よく短時間で行うためのバイオチップや反応装置が必要とされていた。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1には、被検液と混和せず被検液よりも比重の軽い液体(ミネラルオイル等)を充填したチューブの中で、液滴の状態で含まれる被検液を往復移動させることによってサーマルサイクルをかけて反応を行う方式(以下、本明細書において、これを「昇降型」と称する場合がある。)のバイオチップ及び反応装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−136250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PCRを開始する前には、被検液を所定温度で所定時間だけ保持する工程が必要となることも多い。
【0007】
例えば、Taqポリメラーゼを用いたホットスタート法でPCRを行う場合には、95℃で5分間程度の保持時間が必要になる。また、インフルエンザウイルスのようなRNAウイルスの検査を行うためには、RNAを逆転写したcDNAとしてからPCRを行うのが通常であるが、RNAを逆転写したcDNAとするためには、例えば、45℃で30分間程度の保持時間が必要になる。
【0008】
このような場合には、昇降型においては、所定温度で所定時間だけ保持する工程を他の装置で行う方法や、バイオチップの収容部の回転を停止させた状態で、所定温度で所定時間だけ保持する方法がある。
【0009】
しかしながら、前者の方法の場合には、装置間でバイオチップを移し替える手間がかかり、後者の方法の場合には、異なるタイミングで用意された複数のバイオチップを連続して処理できるという昇降型の反応装置の利点が失われる。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップ、反応装置及び反応方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るバイオチップは、
長手方向を有する容室と、
前記容室の前記長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放する保持手段と、
前記被検液に前記所定の押圧力を印加する押圧手段と、
を含む。
【0012】
本発明によれば、容室の長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって容室内において所定領域から被検液を解放する保持手段を有することにより、被検液を所定領域内に留める状態と、被検液を所定領域外に移動できる状態とを、所定の押圧力によって切り替えることができる。したがって、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0013】
(2)このバイオチップは、
前記容室は、前記所定領域となる第1領域と、前記長手方向に長い第2領域とを含み、
前記保持手段は、前記所定の押圧力により前記第1領域から前記第2領域へと前記被検液を移動させてもよい。
【0014】
所定の押圧力により、容室の長手方向に長い第2領域に被検液を移動させることにより、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0015】
(3)このバイオチップは、
前記保持手段は、前記長手方向と直交する面における前記容室の断面積を、前記長手方向と直交する面における前記所定領域での前記容室の断面積よりも小さく構成する手段であってもよい。
【0016】
これにより、簡易な構成で、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0017】
(4)このバイオチップは、
前記保持手段は、弁を有していてもよい。
【0018】
これにより、簡易な構成で、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0019】
(5)このバイオチップは、
前記容室の、前記所定領域側となる前記長手方向の一端を封止する第1可動栓と、
前記容室の、前記長手方向の他端を封止する第2可動栓とを含み、
前記押圧手段は、前記第1可動栓であってもよい。
【0020】
これにより、容室の体積を略一定にした状態で、所定の押圧力を印加することができる。
【0021】
(6)このバイオチップは、
前記押圧手段は、前記保持手段を介して前記被検液に前記所定の押圧力を印加し、
前記保持手段は、前記容室にオイルが充填されている場合に、前記被検液を解放するとともに、前記所定領域内の前記被検液と前記オイルとを入れ替えてもよい。
【0022】
これにより、所定の押圧力を印加することによる容室の体積変化を小さくできる。
【0023】
(7)本発明に係る反応装置は、
長手方向を有する容室と、前記容室の前記長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放する保持手段と、前記被検液に前記所定の押圧力を印加する押圧手段と、を含むバイオチップを収容する収容部と、
水平成分を持つ方向の回転軸で前記収容部を回転させる回転駆動部と、
前記収容部に前記バイオチップが収容された場合に、前記回転軸に対して温度分布が軸対称になるように、前記回転軸から第1距離範囲に設けられ、第1温度に制御される第1ヒートブロック、及び、前記回転軸から前記第1距離範囲と異なる第2距離範囲に設けられ、前記第1温度と異なる第2温度に制御される第2ヒートブロックと、
を含み、
前記収容部は、前記バイオチップが収容された場合に、
前記容室の前記長手方向の一端と他端とで、前記回転軸からの距離が異なり、
前記所定領域の少なくとも一部が、前記回転軸から前記第1距離範囲及び前記第2距離範囲のいずれかの距離となるように構成されている。
【0024】
本発明によれば、所定領域の少なくとも一部が、回転軸から第1距離範囲及び第2距離範囲のいずれかの距離となるように構成されていることにより、被検液を所定領域内に留める状態では所定の温度状態に保持し、被検液を所定領域外に移動できる状態では所定の温度サイクルを実現できる。したがって、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができる反応装置を実現できる。
【0025】
(8)本発明に係る反応方法は、
長手方向を有する容室と、前記容室の前記長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放する保持手段と、前記被検液に前記所定の押圧力を印加する押圧手段と、を含むバイオチップの前記容室の前記所定領域内に前記被検液を注入する注入工程と、
前記保持手段により前記被検液を前記所定領域内に保持した状態で、前記所定領域が所定の温度となるように配置するとともに、前記容室の長手方向の一端と他端とからの距離が異なり水平成分を持つ方向の回転軸で、前記バイオチップを回転させる第1回転工程と、
前記押圧手段により前記被検液に前記所定の押圧力を印加して、前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放させる押圧工程と、
前記バイオチップを前記回転軸で回転させる第2回転工程と、
を含む。
【0026】
本発明によれば、押圧手段により被検液に所定の押圧力を印加して、容室内において所定領域から被検液を解放させる押圧工程により、被検液を所定領域内に留める状態と、被検液を所定領域外に移動できる状態とを、所定の押圧力によって切り替えることができる。これにより、被検液を所定領域内に留める状態では所定の温度状態に保持し、被検液を所定領域外に移動できる状態では所定の温度サイクルを実現できる。したがって、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができる反応方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(A)は、第1実施形態に係るバイオチップ1の断面構造を模式的に表した図、図1(B)は、第1実施形態に係るバイオチップ1の図1(A)のA−A線における断面を模式的に表した図。
【図2】図2(A)は、第2実施形態に係るバイオチップ2の断面構造を模式的に表した図、図2(B)は、第2実施形態に係るバイオチップ2の図2(A)のA−A線における断面を模式的に表した図。
【図3】図3(A)は、第2実施形態の変形例に係るバイオチップ2aの断面構造を模式的に表した図、図3(B)は、第2実施形態の変形例に係るバイオチップ2aの図3(A)のA−A線における断面を模式的に表した図。
【図4】図4(A)は、第3実施形態に係るバイオチップ3の断面構造を模式的に表した図、図4(B)は、第3実施形態に係るバイオチップ3の図4(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図4(C)は、第3実施形態に係るバイオチップ3の図4(A)のB−B線における断面を模式的に表した図。
【図5】図5(A)は、本実施形態に係る反応装置100を模式的に表した図、図5(B)は、本実施形態に係る反応装置100の図5(A)のA−A線における断面を模式的に表した図。
【図6】本実施形態に係る反応装置100の収容部110に、バイオチップ1が収容される様子を模式的に表す図。
【図7】容器移動手段300の一例を説明するための図。
【図8】容器移動手段300の一例を説明するための図。
【図9】容器移動手段300の一例を説明するための図。
【図10】押圧力印加手段400の一例を説明するための図。
【図11】押圧力印加手段400の一例を説明するための図。
【図12】押圧力印加手段400の一例を説明するための図。
【図13】本実施形態に係る反応方法を説明するためのフローチャート。
【図14】図14(A)ないし図14(D)は、バイオチップ1と反応装置100とを用いて本実施形態に係る反応方法を実施する様子を模式的に表す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0029】
1.第1実施形態に係るバイオチップ
図1(A)は、第1実施形態に係るバイオチップ1の断面構造を模式的に表した図、図1(B)は、第1実施形態に係るバイオチップ1の図1(A)のA−A線における断面を模式的に表した図である。
【0030】
第1実施形態に係るバイオチップ1は、長手方向を有する容室11と、容室11の長手方向の所定領域40内に被検液(検体を含む液体)を保持し、所定の押圧力によって所定領域40から被検液を解放する保持手段20と、被検液に所定の押圧力を印加する押圧手段30と、を含む。
【0031】
バイオチップ1の外形形状は、任意の形状を有することができる。バイオチップ1の大きさや形状は、特に限定されないが、用途に応じ、例えば、充填されるオイル等の液体の量、熱伝導率、内部に形成される容室11の形状、および取り扱いの容易さの少なくとも1種を考慮して選択されてもよい。
【0032】
バイオチップ1の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えばパイレックスガラス(パイレックスは登録商標))、および有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。バイオチップ1を、PCR(Polymerase Chaine Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)の反応容器(反応チップ)として使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、バイオチップ1は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、バイオチップ1をPCRの反応容器として用いる場合、バイオチップ1はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0033】
さらに、バイオチップ1の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。バイオチップ1の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、バイオチップ1の外部から、内部の容室11内を観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にバイオチップ1を用いる場合には、必要に応じて、バイオチップ1の材質を透明なものとすることができる。またなお、バイオチップ1をPCRの反応チップとして使用する場合には、バイオチップ1の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0034】
図1(A)及び図1(B)に示すバイオチップ1では、略中空円筒状に構成された容器本体部10の中空部分の一部を容室11として用いている。図1(A)に示すように、容器本体部10は、端部に鍔12を有していてもよい。
【0035】
図1(A)に示す例では、容室11は、略中空円筒状に構成された容器本体部10の中心軸方向(図1(A)における上下方向)を長手方向とする形状に構成されている。
【0036】
容室11が、細長い形状であると、例えば、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、容室11内に温度の異なる領域が設けられるようにバイオチップ1を温度制御する際に、異なる温度の領域の間の距離を離間させやすくなる。昇降型のサーマルサイクラーとは、被検液と混和せず被検液よりも比重の軽い液体(ミネラルオイル等)を充填した反応容器の中に液滴の状態で含まれる被検液を、反応容器中のある温度領域と異なる温度領域とを往復移動させることによってサーマルサイクルを実現する装置である。
【0037】
また、容室11が細長い形状を有すると、容器の体積に対して、容器の表面積の割合が大きくなるので、例えば、容室11内にオイル等の液体が充填された場合に、熱の伝導の効率がよくなり、液体の温度調節を容易化することができる。
【0038】
容室11の機能の一つとしては、液体が充填されたときに、当該液体の反応室となることが挙げられる。例えば、容室11は、被検液となるPCR反応液とオイルとが充填された場合には、PCR反応液を反応させる空間となることができる。そして特に容室11が細長い場合には、昇降型のサーマルサイクラーを用いて容室11の中でPCR反応液を移動させることにより、PCR反応液にサーマルサイクルを施すことが容易となる。
【0039】
図1(A)に示すバイオチップ1では、容室11は、所定領域40となる第1領域41と、容室11の長手方向に長い第2領域42とを含んでいる。すなわち、図1(A)に示すバイオチップ1では、容室11の長手方向において、第2領域42は第1領域41よりも長い領域として構成されている。また、図1(A)に示す例では、第1領域41と第2領域42とは、容器本体部10の内側面(すなわち、容室11内)に設けられた保持手段20によって区切られている。
【0040】
保持手段20は、容室11の長手方向の所定領域40内に被検液を保持し、所定の押圧力によって容室11内において所定領域40から被検液を解放する。図1(A)及び図1(B)に示すバイオチップ1の例では、保持手段20は、所定の押圧力により第1領域41から第2領域42へと被検液を移動させるように構成されている。
【0041】
より具体的には、図1(A)及び図1(B)に示すバイオチップ1の例では、保持手段20は、容室11の長手方向と直交する面における容室11の断面積を、容室11の長手方向と直交する面における所定領域40(すなわち、第1領域41)での容室11の断面積よりも小さく構成する手段で構成されている。また、保持手段20の表面は、撥水性を有するように構成されていてもよい。
【0042】
図1(A)及び図1(B)に示すバイオチップ1の例では、保持手段20は、中心部に円形の開口を有する円形の板状に構成され、周囲が容器本体部10の内側面に密着された状態で保持されている。開口の大きさは、所定の押圧力が被検液に印加されるまでは、被検液を所定領域40(第1領域41)に留めておくことができ、所定の押圧力が被検液に印加された場合には、被検液が開口を通って第2領域42に移動できるような大きさであればよい。なお、開口の形状は円形に限らず、例えば、多角形であってもよい。また、開口を複数有していてもよい。
【0043】
押圧手段30は、所定領域40内に置かれた被検液に所定の押圧力を印加する。図1(A)及び図1(B)に示すバイオチップ1の例では、バイオチップ1は、容室11の所定領域40側となる長手方向の一端を封止する第1可動栓31と、容室11の長手方向の他端を封止する第2可動栓32とを含み、押圧手段30は、第1可動栓31で構成されている。バイオチップ1は、第1可動栓31と保持手段20との距離を近づけるように第1可動栓31及び容器本体部10の少なくとも一方に外部から力を加えることにより、所定領域40(第1領域41)内に置かれた被検液に対して所定の押圧力を印加することができる。
【0044】
第1可動栓31及び第2可動栓32は、容室11内に充填される被検液やオイル等が容室11外に漏れ出さないように構成されているとともに、少なくとも容室11内の所定範囲内で移動可能に構成されている。これにより、バイオチップ1は、第1可動栓31と保持手段20との距離を近づけるとともに、第2可動栓32と保持手段20との距離を遠ざけることにより、容室11の体積を略一定に保つことができる。したがって、バイオチップ1は、容室11の両端にそれぞれ第1可動栓31及び第2可動栓32を有することにより、容室11の体積を略一定にした状態で、所定の押圧力を印加することができる。
【0045】
このように構成された第1実施形態に係るバイオチップ1によれば、容室11の長手方向の所定領域40内に被検液を保持し、所定の押圧力によって容室11内において所定領域から被検液を解放する保持手段20を有することにより、被検液を所定領域40内に留める状態と、被検液を所定領域40外に移動できる状態とを、所定の押圧力によって切り替えることができる。これにより、被検液を所定領域40内に留める状態では、昇降型のサーマルサイクラーの回転に関わらず所定の温度領域に被検液を置くことができ、被検液を所定領域40外に移動できる状態では、昇降型のサーマルサイクラーの回転に応じて温度サイクル内に被検液を置くことができる。
【0046】
これにより、他の装置から昇降型のサーマルサイクラーにバイオチップを移し替える手間がかからず、また、1つの昇降型のサーマルサイクラーで、異なるタイミングで用意された複数のバイオチップを連続して処理できるようになる。したがって、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0047】
また、所定の押圧力により、所定領域40(第1領域41)から、長手方向に長い第2領域42に被検液を移動させることにより、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0048】
さらに、容室11の長手方向と直交する面における容室11の断面積を、容室11の長手方向と直交する面における所定領域40(すなわち、第1領域41)での容室11の断面積よりも小さく構成する保持手段20を有することにより、簡易な構成で、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0049】
なお、バイオチップ1の容室11内に被検液と混和しないオイルが充填されていてもよい。これにより、昇降型のサーマルサイクラーを用いて容易にPCRを行うことができる。
【0050】
さらに、バイオチップ1の容室11内に、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方が塗布されていてもよい。これにより、バイオチップに被検液を分注すれば、被検液と標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方とを混合することができるので、より簡単にPCRを行うことができる。
【0051】
2.第2実施形態に係るバイオチップ
図2(A)は、第2実施形態に係るバイオチップ2の断面構造を模式的に表した図、図2(B)は、第2実施形態に係るバイオチップ2の図2(A)のA−A線における断面を模式的に表した図である。
【0052】
第2実施形態に係るバイオチップ2は、第1実施形態に係るバイオチップ1と比べて、保持手段20の構成のみが異なり、他の構成はバイオチップ1と同様である。したがって、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様の構成には同一の符号を付し、以下では、特にバイオチップ2の保持手段20の構成について説明する。
【0053】
第2実施形態に係るバイオチップ2の保持手段20は、弁21を有している。図2(A)及び図2(B)に示す例では、保持手段20は、支持部22で容器本体部10の内側面の一部と接続されることにより支持されている弁21を有している。また、弁21は、支持部22を支点として、容室11の一部を開閉可能に構成されている。すなわち、図2(A)及び図2(B)に示す例では、弁21は仕切弁として機能する。
【0054】
弁21の弾性の大きさは、所定の押圧力が被検液に印加されるまでは、被検液を所定領域40(第1領域41)に留めておくことができ、所定の押圧力が被検液に印加された場合には、被検液が弁21を開き、開口を通って第2領域42に移動できるような弁21の弾性の大きさであればよい。
【0055】
図3(A)は、第2実施形態の変形例に係るバイオチップ2aの断面構造を模式的に表した図、図3(B)は、第2実施形態の変形例に係るバイオチップ2aの図3(A)のA−A線における断面を模式的に表した図である。
【0056】
図3(A)及び図3(B)に示す例では、保持手段20は、支持部22aで中心部に円形の開口を有する円形の板状の部材の一部と接続されることにより支持されている弁21aを有している。板状の部材は、その周囲が容器本体部10の内側面に密着された状態で保持されて構成されている。また、弁21a及び支持部22aは、第1領域41から第2領域42への被検液の移動を必要以上に制限しないように、第2領域42側に設けられ、板状の部材の開口を開閉可能に構成されている。すなわち、図3(A)及び図3(B)に示す例では、弁21aは仕切弁として機能する。また、図3(A)及び図3(B)に示す例では、弁21aは、第1領域41から第2領域42への移動を可能にするとともに、第2領域42から第1領域41への移動を制限する、逆止弁として機能する。
【0057】
開口の大きさ及び弁21aの弾性の大きさは、所定の押圧力が被検液に印加されるまでは、被検液を所定領域40(第1領域41)に留めておくことができ、所定の押圧力が被検液に印加された場合には、被検液が弁21aを開き、開口を通って第2領域42に移動できるような開口の大きさ及び弁21aの弾性の大きさであればよい。なお、開口の形状は円形に限らず、例えば、多角形であってもよい。また、開口と、開口に対応する弁21aとを複数有していてもよい。
【0058】
このように、保持手段20が弁21又は弁21aを有することにより、簡易な構成で、昇降型のサーマルサイクラーを用いて、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができるバイオチップを実現できる。
【0059】
第2実施形態に係るバイオチップ2及び第2実施形態の変形例に係るバイオチップ2aは、保持手段20以外の構成については、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様であり、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様の効果を奏する。また、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様の変形が可能である。
【0060】
3.第3実施形態に係るバイオチップ
図4(A)は、第3実施形態に係るバイオチップ3の断面構造を模式的に表した図、図4(B)は、第3実施形態に係るバイオチップ3の図4(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図4(C)は、第3実施形態に係るバイオチップ3の図4(A)のB−B線における断面を模式的に表した図である。
【0061】
第3実施形態に係るバイオチップ3は、第1実施形態に係るバイオチップ1と比べて、主として保持手段20及び押圧手段30の構成が異なり、他の構成はバイオチップ1と同様である。したがって、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様の構成には同一の符号を付し、以下では、主としてバイオチップ3の保持手段20及び押圧手段30の構成について説明する。
【0062】
第3実施形態に係るバイオチップ3においては、押圧手段30は、保持手段20を介して被検液に所定の押圧力を印加し、保持手段20は、容室11にオイルが充填されている場合に、被検液を解放するとともに、所定領域40内の被検液とオイルとを入れ替えるように構成されている。
【0063】
図4(A)及び図4(B)に示すバイオチップ3の例では、押圧手段30は、可動栓33として構成されている。可動栓33(押圧手段30)は、保持手段20と一体となるように構成されていてもよい。図4(A)及び図4(B)に示すバイオチップ3の例では、可動栓33(押圧手段30)は、保持手段20を介して被検液に所定の押圧力を印加することができる。
【0064】
図4(A)及び図4(B)に示すバイオチップ3の例では、保持手段20は、挟持部23として構成されている。挟持部23は、容室11の長手方向と平行な方向に、可動栓33(押圧手段30)から遠い方から近い方に向かって(図4(A)及び図4(B)における下から上に向かって)スリット24を有している。また、図4(A)ないし図4(C)に示すように、挟持部23のスリット24の内部には、所定領域40となるキャビティー45が設けられている。すなわち、キャビティー45は、スリット24を介して容室11と連通可能に構成されている。
【0065】
図4(A)及び図4(B)に示すバイオチップ3の例では、容器本体部10の内側面に楔25が設けられている。楔25は、可動栓33(押圧手段30)から遠い方から近い方に向かって(図4(A)及び図4(B)における下から上に向かって)細くなるように構成されている。また、楔25は、挟持部23が所定の位置に到達した場合に、スリット24に挟入される位置に設けられている。図4(A)及び図4(B)に示す例では、挟持部23は、スリット24の面方向に幅広となる部分を有し、当該幅広となる部分が楔25の端部に到達した場合に、楔25がスリット24に挟入されるように構成されている。
【0066】
図4(A)及び図4(B)に示すバイオチップ3では、被検液を挟持部23のキャビティー45(所定領域40)内に挟持させることができる。また、可動栓33(押圧手段30)により挟持部23(保持手段20)を介して所定の押圧力が被検液に印加されると、挟持部23(保持手段20)にも押圧力が印加されるため、挟持部23が可動栓33と反対向き(図4(A)及び図4(B)における下向き)に移動して楔25がスリット24に挟入されることにより挟持部23が開き、被検液をキャビティー45(所定領域40)から解放することができる。容室11にオイルが充填されている場合には、挟持部23が開くことにより、キャビティー45(所定領域40)内の被検液とオイルとが入れ替わることになる。
【0067】
このように、押圧手段30は、保持手段20を介して被検液に所定の押圧力を印加し、保持手段20は、容室11にオイルが充填されている場合に、被検液を解放するとともに、所定領域40内の被検液とオイルとを入れ替えるように構成されていることより、所定の押圧力を印加することによる容室11の体積変化を小さくできる。
【0068】
第3実施形態に係るバイオチップ3は、保持手段20及び押圧手段30以外の構成については、ほぼ第1実施形態に係るバイオチップ1と同様であり、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様の効果を奏する。また、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様の変形が可能である。
【0069】
4.反応装置
図5(A)は、本実施形態に係る反応装置100を模式的に表した図、図5(B)は、本実施形態に係る反応装置100の図5(A)のA−A線における断面を模式的に表した図である。
【0070】
本実施形態に係る反応装置100は、バイオチップを収容する収容部110を含む。収容部110に収容されるバイオチップは、長手方向を有する容室11と、容室11の長手方向の所定領域40内に被検液を保持し、所定の押圧力によって容室11内において所定領域40から被検液を解放する保持手段20と、被検液に所定の押圧力を印加する押圧手段30と、を含むバイオチップである。このようなバイオチップの例としては、上述した第1実施形態に係るバイオチップ1、第2実施形態に係るバイオチップ2、第3実施形態に係るバイオチップ3などを挙げることができる。
【0071】
図5(A)及び図5(B)に示す例では、反応装置100は、円柱状の回転体124を有し、収容部110は、バイオチップを挿入するための挿入孔として、回転体124の側面に開口を有するように設けられている。収容部110は、収容されるバイオチップの外側面との摩擦力により、バイオチップの移動を抑制するように構成されていてもよい。
【0072】
本実施形態に係る反応装置100は、水平成分を持つ方向の回転軸Rで収容部110を回転させる回転駆動部120を含む。水平成分を持つ方向とは、水平方向のベクトル成分を持つ方向、すなわち、非重力方向である。図5(A)に示す例では、回転軸Rは、水平方向の回転軸である。
【0073】
図5(A)及び図5(B)に示す例では、回転駆動部120は、回転支持部122を介して回転体124を回転軸Rで回転させることにより、収容部110を回転軸Rで回転させるように構成されている。
【0074】
本実施形態に係る反応装置100は、収容部110にバイオチップが収容された場合に、回転軸Rに対して温度分布が軸対称になるように、回転軸Rから第1距離範囲に設けられ、第1温度に制御される第1ヒートブロック、及び、回転軸Rから第1距離範囲と異なる第2距離範囲に設けられ、第1温度と異なる第2温度に制御される第2ヒートブロックを含む。
【0075】
図5(A)及び図5(B)に示す例では、回転軸Rに近い順に、ヒートブロック210、ヒートブロック220、ヒートブロック230が、回転体124に設けられている。ヒートブロック210、ヒートブロック220、ヒートブロック230のうち、任意に選択した2つのヒートブロックが、それぞれ第1ヒートブロック及び第2ヒートブロックに対応する。
【0076】
ヒートブロックは、温度制御部240によって制御され、所望の温度に加熱又は冷却することができる。例えば、反応装置100を、インフルエンザウイルスのようなRNAウイルスの検査を行うために、RNAを逆転写したcDNAとしてから、Taqポリメラーゼを用いたホットスタート法によるPCRに用いる場合には、ヒートブロック210を45℃に、ヒートブロック220を95℃に、ヒートブロック230を65℃に制御してもよい。また、図5(B)に示すように、隣り合うヒートブロック210とヒートブロック220との間と、隣り合うヒートブロック220とヒートブロック230との間に、それぞれ断熱材250を設けてもよい。
【0077】
図6は、本実施形態に係る反応装置100の収容部110に、バイオチップ1が収容される様子を模式的に表す図である。
【0078】
本実施形態に係る反応装置100において、収容部110は、バイオチップが収容された場合に、容室11の長手方向の一端と他端とで、回転軸Rからの距離が異なり、所定領域40の少なくとも一部が、回転軸Rから第1距離範囲及び第2距離範囲のいずれかの距離となるように構成されている。
【0079】
図6に示す例では、回転軸Rに最も近いヒートブロック210を第1ヒートブロックとし、回転軸Rからのヒートブロック210が設けられている距離範囲を第1距離範囲として、バイオチップ1の所定領域40(第1領域41)が、回転軸Rから第1距離範囲となるように、収容部110が構成されている。
【0080】
また、図6に示す例では、回転軸Rに2番目に近いヒートブロック220を第2ヒートブロックとし、回転軸Rからのヒートブロック220が設けられている距離範囲を第2距離範囲として、バイオチップ1の第2領域42の少なくとも一部が、回転軸Rから第2距離範囲となるように、収容部110が構成されている。
【0081】
図6に示す例において、被検液を所定領域40内に留める状態では、ヒートブロック210の温度である45℃の状態に保持して被検液を置くことができる。また、図6に示す例において、被検液を所定領域40外に移動できる状態(被検液が第2領域42内にある状態)では、被検液が第2領域42の長手方向の範囲で移動可能になるため、第2領域42の長手方向における温度分布に基づいて、温度サイクル内に被検液を置くことができる。
【0082】
このように、本実施形態に係る反応装置110によれば、所定領域40の少なくとも一部が、回転軸Rから第1距離範囲及び第2距離範囲のいずれかの距離となるように構成されていることにより、被検液を所定領域40内に留める状態では所定の温度状態に保持し、被検液を所定領域40外に移動できる状態では所定の温度サイクルを実現できる。したがって、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができる反応装置を実現できる。
【0083】
図5(A)に示すように、本実施形態に係る反応装置100は、収容部110に収容されるバイオチップを移動させる容器移動手段300を含んでいてもよい。また、図5(A)に示すように、本実施形態に係る反応装置100は、収容部110に収容されるバイオチップの押圧手段30に所定の押圧力を印加する押圧力印加手段400を含んでいてもよい。
【0084】
図7ないし図9は、容器移動手段300の一例を説明するための図である。図7ないし図9は、収容部110にバイオチップ1が収容されている例である。また、バイオチップ1の容室11にはオイルが充填され、所定領域40内に被検液800が液滴として置かれている。
【0085】
図7に示す例では、容器移動手段300は、筐体310と可動板320とを含んでいる。可動板320には、バイオチップ1の鍔12と係合されることにより、バイオチップ1の鍔12に下向きの力を印加するためのフォーク323が設けられている。
【0086】
図7に示す例では、筐体310には、ガイドピン311及びガイドピン312が固定して設けられている。可動板320には、ガイドピン311及びガイドピン312とそれぞれ係合するガイド溝321及び322が設けられ、ガイドピン311及びガイドピン312が、それぞれガイド溝321及び322の形状によって規定される範囲で可動板320は筐体310に対して移動可能に構成されている。図7に示す例では、可動板320が、収容部110に収容されたバイオチップ1に対して水平方向に近づく動作と、垂直方向に下降する動作とを行えるように、ガイド溝321及び322は、アルファベットのL字型に構成されている。
【0087】
また、図7に示す例では、容器移動手段300は、溝カム350を含んでいる。溝カム350は、筐体310に設けられた駆動軸351、一端が駆動軸351に固定され、駆動軸351を回転軸として回転される腕352、腕352の他端に設けられたピン353、ピン353と係合し可動板320に設けられたL字型のカム溝354を含んで構成されている。
【0088】
次に、容器移動手段300の動作について、図7ないし図9を参照して説明する。まず、図7に示す状態から、溝カム350の腕352を駆動軸351で右回り(図7における白抜き矢印方向)に180度回転させると、可動板320は、収容部110に収容されたバイオチップ1に対して水平方向に近づき、フォーク323がバイオチップ1の鍔12と係合した、図8に示す状態となる。
【0089】
図8に示す状態から、溝カム350の腕352を駆動軸351で右回り(図8における白抜き矢印方向)に90度回転させると、可動板320は、垂直方向に下降し、フォーク323を介してバイオチップ1の鍔12に下向きの力を印加することにより、バイオチップ1を押し下げた、図9に示す状態となる。
【0090】
図7ないし図9に示す例では、ヒートブロック210に対応する位置からヒートブロック220に対応する位置まで所定領域40内に被検液800を置いたままバイオチップ1を移動させることができる。
【0091】
このように、容器移動手段300によって、収容部110に収容されたバイオチップ1を収容部110内で移動させることができる。これにより、被検液800を異なる温度のヒートブロックに対応する位置に移動させることができる。
【0092】
図10ないし図12は、押圧力印加手段400の一例を説明するための図である。図10ないし図12は、収容部110にバイオチップ1が収容されている例である。また、バイオチップ1の容室11にはオイルが充填され、所定領域40内に被検液800が液滴として置かれている。
【0093】
図10に示す例では、押圧力印加手段400は、筐体410と可動板420と可動栓押さえ板430とを含んでいる。可動板420には、バイオチップ1の鍔12と係合されることにより、バイオチップ1の鍔12に上向きの力を印加するためのフォーク424が設けられている。
【0094】
図10に示す例では、筐体410には、ガイドピン411及びガイドピン412が固定して設けられている。可動板420には、ガイドピン411及びガイドピン412とそれぞれ係合するガイド溝421及び422が設けられ、ガイドピン411及びガイドピン412が、それぞれガイド溝421及び422の形状によって規定される範囲で可動板420は筐体410に対して移動可能に構成されている。図10に示す例では、可動板420が、収容部110に収容されたバイオチップ1に対して水平方向に近づく動作と、垂直方向に上昇する動作とを行えるように、ガイド溝421及び422は、アルファベットのL字型に構成されている。
【0095】
また、図10に示す例では、押圧力印加手段400は、溝カム450を含んでいる。溝カム450は、筐体410に設けられた駆動軸451、一端が駆動軸451に固定され、駆動軸451を回転軸として回転される腕452、腕452の他端に設けられたピン453、ピン453と係合し可動板420に設けられたL字型のカム溝454を含んで構成されている。
【0096】
さらに、図10に示す例では、L字型に設けられた可動栓押さえ板430の上下移動を制限するガイド板413が筐体410に設けられている。また、可動栓押さえ板430が可動板420の上下移動には追従せず、水平移動には追従するように、ガイド溝423が可動板420に設けられている。
【0097】
次に、押圧力印加手段400の動作について、図10ないし図12を参照して説明する。まず、図10に示す状態から、溝カム450の腕452を駆動軸451で右回り(図10における白抜き矢印方向)に180度回転させると、可動板420は、収容部110に収容されたバイオチップ1に対して水平方向に近づき、フォーク423がバイオチップ1の鍔12と係合し、可動栓押さえ板430が可動栓31の上部を押さえる状態となる。すなわち、フォーク424と可動栓押さえ板430とでバイオチップ1を挟持する状態となる。
【0098】
さらに、図11に示すように、溝カム450の腕452を駆動軸451で右回り(図11における白抜き矢印方向)に回転させると、可動栓押さえ板430の位置は変化せず、可動板420は垂直方向に上昇し、フォーク423を介してバイオチップ1の鍔12に上向きの力を印加することにより、バイオチップ1の容器本体部10を押し上げる。溝カム450の腕452を駆動軸451で右回り(図11における白抜き矢印方向)に回転させると、図12に示す状態となる。すなわち、可動栓31の位置を変化させることなく、容器本体部10を上昇させることにより、可動栓31(押圧手段30)を介して所定領域40内に置かれた被検液800に所定の押圧力を印加し、被検液800を所定領域40(第1領域41)から解放させることができる。
【0099】
図10ないし図12に示す例では、容室11に充填されたオイルの、ヒートブロックに対する位置を変化させることなく、可動栓31(押圧手段30)を介して被検液800に所定の押圧力を印加することができる。これにより、容室11に充填されたオイルの温度分布が安定した状態で、被検液800を温度サイクル内に置くことができる。
【0100】
このように、押圧力印加手段400によって、可動栓31(押圧手段30)を介して所定領域40内に置かれた被検液800に所定の押圧力を印加することができる。
【0101】
さらに、本実施形態に係る反応装置100は、図5(A)に示すように、蛍光検出器500を含んでいてもよい。図5(A)に示す例では、蛍光検出器500は、回転体124の下方に設けられている。蛍光検出器500としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサーやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサーを利用したエリアセンサー、ラインセンサー、ポイントセンサーなどを用いることができる。
【0102】
これにより、バイオチップを反応装置100の収容部110に入れたまま、蛍光検出することができる。したがって、リアルタイムPCR測定に適した反応装置を実現できる。
【0103】
5.反応方法
図13は、本実施形態に係る反応方法を説明するためのフローチャートである。
【0104】
本実施形態に係る反応方法は、長手方向を有する容室と、容室の長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって容室内において所定領域から被検液を解放する保持手段と、被検液に所定の押圧力を印加する押圧手段と、を含むバイオチップの容室の所定領域内に被検液を注入する注入工程(ステップS100)と、保持手段により被検液を所定領域内に保持した状態で、所定領域が所定の温度となるように配置するとともに、容室の長手方向の一端と他端とからの距離が異なり水平成分を持つ方向の回転軸Rで、バイオチップを回転させる第1回転工程(ステップS102)と、押圧手段により被検液に所定の押圧力を印加して、容室内において所定領域から被検液を解放させる押圧工程(ステップS104)と、バイオチップを回転軸Rで回転させる第2回転工程(ステップS106)と、を含む。
【0105】
本実施形態に係る反応方法で用いられるバイオチップの例としては、上述した第1実施形態に係るバイオチップ1、第2実施形態に係るバイオチップ2、第3実施形態に係るバイオチップ3などを挙げることができる。
【0106】
図14(A)ないし図14(D)は、バイオチップ1と反応装置100とを用いて本実施形態に係る反応方法を実施する様子を模式的に表す図である。バイオチップ1の容室11には、被検液800と混和しないオイルが充填されている。また、被検液800には、検体の他に、反応に必要な酵素等が含まれている。
【0107】
まず、バイオチップ1の容室11の所定領域40内に被検液800を注入する注入工程を行う(ステップS100)。
【0108】
次に、保持手段20により被検液800を所定領域40内に保持した状態で、所定領域40が所定の温度となるように配置するとともに、容室11の長手方向の一端と他端とからの距離が異なり水平成分を持つ方向の回転軸Rで、バイオチップ1を回転させる第1回転工程を行う(ステップS102)。
【0109】
図14(A)に示す例では、所定領域40が45℃となるように、45℃に制御されたヒートブロック210に対応する位置に配置されている。図14(A)に示す状態で、バイオチップ1を回転軸Rで回転させると、被検液800は所定領域40内に留まっているため、バイオチップ1の回転に関わらず45℃となる所定領域40に配置され続ける。例えば、RNAを逆転写したcDNAとする場合には、図14(A)に示す状態で、バイオチップ1を30分間程度回転させてもよい。
【0110】
また、図14(B)に示す例では、所定領域40が95℃となるように、95℃に制御されたヒートブロック220に対応する位置に配置されている。例えば、図7ないし図9に示す容器移動手段300のフォーク323を介してバイオチップ1の鍔12に下向きの力を印加することにより、図14(A)に示す状態から図14(B)に示す状態へと移行させてもよい。図14(B)に示す状態で、バイオチップ1を回転軸Rで回転させると、被検液800は所定領域40内に留まっているため、バイオチップ1の回転に関わらず95℃となる所定領域40に配置され続ける。例えば、Taqポリメラーゼを用いたホットスタート法でPCRを行う場合には、図14(B)に示す状態で、バイオチップ1を5分間程度回転させてもよい。
【0111】
次に、押圧手段30により被検液800に所定の押圧力を印加して、容室11内において所定領域40から被検液800を解放させる押圧工程を行う(ステップS104)。例えば、図10ないし図12に示す押圧力印加手段400のフォーク424と可動栓押さえ板430とで、バイオチップ1の鍔12と可動栓31(押圧手段30)とを挟持するように力を加えることにより、被検液800に所定の押圧力を印加してもよい。これにより、図14(C)に示す、被検液800が所定領域40内に留まっている状態から、図14(D)に示す、被検液800が容室11内において所定領域40から解放されている状態となる。
【0112】
次に、バイオチップ1を回転軸Rで回転させる(ステップS106)。図14(D)に示す状態でバイオチップ1を回転軸Rで回転させると、被検液800が容室11内において所定領域40から解放されている状態で、重力方向における容室11内の最下点と回転軸Rとの距離が変化するようにバイオチップ1が回転される。このため、被検液800が所定領域40内に留まっている状態とは異なり、被検液800は容室11内を移動して、容室11の長手方向の温度分布に基づいて、温度サイクル内に置かれることになる。例えば、シャトルPCRによりDNAを増幅する場合には、95℃に制御されたヒートブロック220に対応する位置と、63℃に制御されたヒートブロック230に対応する位置にまたがるようにバイオチップ1を配置して、1回転あたり15秒程度の回転速度で、回転軸Rで回転させてもよい。これにより、95℃と63℃の温度サイクル内に被検液800を置くことができる。また、1回転ごとに蛍光検出器500によって蛍光検出することにより、リアルタイムPCR測定が可能になる。
【0113】
このように、本実施形態に係る反応方法によれば、押圧手段20により被検液800に所定の押圧力を印加して、容室11内において所定領域40から被検液800を解放させる押圧工程(ステップS104)により、被検液800を所定領域40内に留める状態と、被検液800を所定領域40外に移動できる状態とを、所定の押圧力によって切り替えることができる。これにより、被検液800を所定領域40内に留める状態では所定の温度状態に保持し、被検液800を所定領域40外に移動できる状態では所定の温度サイクルを実現できる。したがって、PCRを用いる一連の検査を迅速に効率良く行うことができる反応方法を実現できる。
【0114】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0115】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0116】
1,2,2a,3 バイオチップ、10 容器本体部、11 容室、12 鍔、20 保持手段、21,21a 弁、22,22a 支持部、23 挟持部、24 スリット、25 楔、30 押圧手段、31 第1可動栓、32 第2可動栓、33 可動栓、40 所定領域、41 第1領域、42 第2領域、45 キャビティー、100 反応装置、110 収容部、120 回転駆動部、122 回転支持部、124 回転体、210,220,230 ヒートブロック、240 温度制御部、250 断熱材、300 容器移動手段、310 筐体、311,312 ガイドピン、320 可動板、321,322 ガイド溝、323 フォーク、350 溝カム、351 駆動軸、352 腕、353 ピン、354 カム溝、400 押圧力印加手段、410 筐体、411,412 ガイドピン、413 ガイド板、420 可動板、421,422 ガイド溝、423 ガイド溝、424 フォーク、430 可動栓押さえ板、450 溝カム、451 駆動軸、452 腕、453 ピン、454 カム溝、500 蛍光検出器、800 被検液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向を有する容室と、
前記容室の前記長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放する保持手段と、
前記被検液に前記所定の押圧力を印加する押圧手段と、
を含む、バイオチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオチップにおいて、
前記容室は、前記所定領域となる第1領域と、前記長手方向に長い第2領域とを含み、
前記保持手段は、前記所定の押圧力により前記第1領域から前記第2領域へと前記被検液を移動させる、バイオチップ。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載のバイオチップにおいて、
前記保持手段は、前記長手方向と直交する面における前記容室の断面積を、前記長手方向と直交する面における前記所定領域での前記容室の断面積よりも小さく構成する手段である、バイオチップ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のバイオチップにおいて、
前記保持手段は、弁を有する、バイオチップ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のバイオチップにおいて、
前記容室の、前記所定領域側となる前記長手方向の一端を封止する第1可動栓と、
前記容室の、前記長手方向の他端を封止する第2可動栓とを含み、
前記押圧手段は、前記第1可動栓である、バイオチップ。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のバイオチップにおいて、
前記押圧手段は、前記保持手段を介して前記被検液に前記所定の押圧力を印加し、
前記保持手段は、前記容室にオイルが充填されている場合に、前記被検液を解放するとともに、前記所定領域内の前記被検液と前記オイルとを入れ替える、バイオチップ。
【請求項7】
長手方向を有する容室と、前記容室の前記長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放する保持手段と、前記被検液に前記所定の押圧力を印加する押圧手段と、を含むバイオチップを収容する収容部と、
水平成分を持つ方向の回転軸で前記収容部を回転させる回転駆動部と、
前記収容部に前記バイオチップが収容された場合に、前記回転軸に対して温度分布が軸対称になるように、前記回転軸から第1距離範囲に設けられ、第1温度に制御される第1ヒートブロック、及び、前記回転軸から前記第1距離範囲と異なる第2距離範囲に設けられ、前記第1温度と異なる第2温度に制御される第2ヒートブロックと、
を含み、
前記収容部は、前記バイオチップが収容された場合に、
前記容室の前記長手方向の一端と他端とで、前記回転軸からの距離が異なり、
前記所定領域の少なくとも一部が、前記回転軸から前記第1距離範囲及び前記第2距離範囲のいずれかの距離となるように構成されている、反応装置。
【請求項8】
長手方向を有する容室と、前記容室の前記長手方向の所定領域内に被検液を保持し、所定の押圧力によって前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放する保持手段と、前記被検液に前記所定の押圧力を印加する押圧手段と、を含むバイオチップの前記容室の前記所定領域内に前記被検液を注入する注入工程と、
前記保持手段により前記被検液を前記所定領域内に保持した状態で、前記所定領域が所定の温度となるように配置するとともに、前記容室の長手方向の一端と他端とからの距離が異なり水平成分を持つ方向の回転軸で、前記バイオチップを回転させる第1回転工程と、
前記押圧手段により前記被検液に前記所定の押圧力を印加して、前記容室内において前記所定領域から前記被検液を解放させる押圧工程と、
前記バイオチップを前記回転軸で回転させる第2回転工程と、
を含む、反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−217699(P2011−217699A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92928(P2010−92928)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】