説明

バイオチップ読取装置

【課題】 光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能なバイオチップ読取装置を実現する。
【解決手段】 バイオチップ読取装置において、発散若しくは集光による出射角が狭い角度に制限された任意の大きさの複数のマイクロレンズが任意位置に形成されたマイクロレンズ板と、コヒーレント光を励起光としてマイクロレンズ板に照射する光源と、マイクロレンズ板からの出射光を透過若しくは反射させ、バイオチップで生じた蛍光を反射若しくは透過させるダイクロイックミラーと、撮影手段と、このダイクロイックミラーで反射若しくは透過された光を撮影手段に集光するレンズと、ダイクロイックミラーと撮影手段との間に設けられたバリアフィルタと、マイクロレンズ板を駆動して複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光をバイオチップの表面に対して走査する駆動手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップやプロテインチップ等のバイオチップ読取装置に関し、特に光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能なバイオチップ読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオチップは、例えば、DNAチップは数千から数万種類の既知のDNAの断片を基板上にアレイ状に配置したものである。このようなDNAチップに未知のDNAの断片を流した場合に同じ種類のDNA同士で結合する性質を利用して結合が生じた既知のDNAをバイオチップ読み出し装置を用いて調べることにより、未知のDNAの配列等を特定するものである。
【0003】
図17はこのようなバイオチップにおけるハイブリダイゼーションの一例を示す説明図である。図17中“SB01”に示す基板上には図17中”DN01”、”DN02”、”DN03”、”DN04”、”DN05”及び”DN06”に示す6種類のDNAの断片によるサイトがアレイ状に配置されDNAチップを構成している。
【0004】
一方、図17中”UN01”は未知のDNAの断片であり、このDNAの断片は図17中”LM01”に示すように蛍光標識が予め付加されている。このような未知のDNAの断片を前述のDNAチップにハイブリダイズさせることにより、配列が相補的なDNA同士が結合する。
【0005】
例えば、図17中”CB01”に示すように図17中”UN01”の未知のDNAの断片は図17中”DN01”に示す既知のDNAの断片と結合する。
【0006】
バイオチップ読取装置を用いてこのようにハイブリダイズされたDNAチップに励起光を照射し、前記蛍光標識で発生する蛍光を検出することにより、既知のDNAの内でどのDNAと結合したかを識別することができる。
【0007】
例えば、図17中”SI01”に示すようなDNAチップを走査した結果のイメージにおいて、図17中”CB01”が生じた部分のみが蛍光を生じるので図17中”LD01”に示す部分のみから蛍光が検出されることになる。
【0008】
そして、従来のDNAチップやプロテインチップ等のバイオチップ読取装置に関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0009】
【特許文献1】特開2001−194309号公報
【特許文献2】特開2001−194310号公報
【特許文献3】特開2003−028799号公報
【特許文献4】特開2003−057557号公報
【特許文献5】特開2004−138420号公報
【0010】
図18はこのような従来のバイオチップ読取装置の一例を示す構成ブロック図である。図18において1は円形の基板上に複数のマイクロレンズが形成されたマイクロレンズ板、2は波長に応じて光を透過或いは反射させるダイクロイックミラー、3は複数個のセルがアレイ状に配置されたバイオチップ、4はレンズ、5は特定の波長領域の光の透過を遮断するバリアフィルタ、6はカメラ等の撮影手段、7はマイクロレンズ板1を回転させるモータ等の駆動手段である。
【0011】
コヒーレント光を出射するレーザ光源等の光源(図示せず。)からの出射光である図18中”EL11”に示す励起光はマイクロレンズ板1に照射され、マイクロレンズ板1に形成されている複数のマイクロレンズで集光された励起光はダイクロイックミラー2を透過してバイオチップ3に集光される。
【0012】
そして、励起光によりバイオチップ3で生じた蛍光(具体的には、同一種類のDNAの断片が複数個配置されているセルで生じた蛍光)はダイクロイックミラー2で反射され、レンズ4によって当該反射光はバリアフィルタ5を透過して撮影手段6に集光される。
【0013】
一方、駆動手段7はマイクロレンズ板1を円板の中心軸を中心に回転させることにより、マイクロレンズ板1に形成された複数のマイクロレンズの位置が移動し、これに伴ない複数のマイクロレンズで集光される励起光がバイオチップ3の表面を走査することになる。
【0014】
例えば、図19はマイクロレンズ板1の一例を示す平面図であり、図19に示すようにマイクロレンズ板1には図19中”ML21”に示すように螺旋状にマイクロレンズが配列されており、このような複数のマイクロレンズが形成されたマイクロレンズ板1を中心軸を中心に回転させることにより、複数のマイクロレンズで集光される励起光がバイオチップ3の表面を走査することになる。(パターンの例としては、例えば、特許第2663766号や特許第2692416号の記載されている。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、図18に示す従来例では、マイクロレンズ板1の正確位置にマイクロレンズを形成し中心軸を正確に設けると共に、駆動手段7であるモータの偏心や撮影手段6であるカメラとの回転同期等が必要であるためコストアップになってしまうといった問題点があった。
【0016】
また、励起光としてレーザ光源の出射光を用いた場合には、当該レーザ光源の出射光の光分布ムラといった性能のバラツキ、或いは、レンズやダイクロイックミラー等の光学系の汚れや経年変化が、撮影手段6で撮影される映像に直接影響を及ぼしてS/Nが悪化してしまうといった問題点があった。
【0017】
例えば、図20及び図21はバイオチップ3の代わりに励起光に対して一様に蛍光を発する蛍光板を用いた場合の撮影画像及び任意の軸方向の光量の分布特性の一例を示す説明図である。
【0018】
図20に示すように撮影された画像には、本来、光量が均一な画像であるはずにもかかわらず、レーザ光源の出射光の光分布ムラといった性能のバラツキ、或いは、光学系の汚れや経年変化に起因してムラや干渉縞のような模様が映し出されており、図20中”LN31”に示すライン上の光量分布を示す図21中”CH41”においては、光量の特性曲線は均一な光量ではなくS/Nが悪化していることが容易に分かる。
これは、光源にレーザ等のコヒーレント光を用いているため、スペックルノイズ等の干渉ノイズが発生し易くなるためである。
従って本発明が解決しようとする課題は、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能なバイオチップ読取装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
バイオチップ読取装置において、
発散若しくは集光による出射角が狭い角度に制限された任意の大きさの複数のマイクロレンズが任意位置に形成されたマイクロレンズ板と、コヒーレント光を励起光として前記マイクロレンズ板に照射する光源と、前記マイクロレンズ板からの出射光を透過若しくは反射させ、バイオチップで生じた蛍光を反射若しくは透過させるダイクロイックミラーと、撮影手段と、このダイクロイックミラーで反射若しくは透過された光を前記撮影手段に集光するレンズと、前記ダイクロイックミラーと前記撮影手段との間に設けられたバリアフィルタと、前記マイクロレンズ板を駆動して前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光を前記バイオチップの表面に対して走査する駆動手段とを備えたことにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0020】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記マイクロレンズ板が、
基板上に凹凸を設けて前記複数のマイクロレンズを形成したことにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0021】
請求項3記載の発明は、
請求項1記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記マイクロレンズ板が、
前記基板に前記基板の屈折率とは異なる屈折率の領域を分布させて前記複数のマイクロレンズを形成したことにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0022】
請求項4記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記マイクロレンズ板が、
ガラス若しくは樹脂であることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0023】
請求項5記載の発明は、
請求項1記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記駆動手段が、
前記マイクロレンズ板を回転させることにより前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光で前記バイオチップの表面を走査させることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0024】
請求項6記載の発明は、
請求項1記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記駆動手段が、
前記マイクロレンズ板を1次元方向、2次元方向或いは3次元方向に移動させることにより前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光で前記バイオチップの表面を走査させることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0025】
請求項7記載の発明は、
請求項1記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記駆動手段が、
前記マイクロレンズ板を振動させることにより前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光で前記バイオチップの表面を走査させることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0026】
請求項8記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記複数のマイクロレンズが、
円形であることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0027】
請求項9記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記複数のマイクロレンズが、
網目状であることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0028】
請求項10記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記複数のマイクロレンズが、
任意の形状であることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0029】
請求項11記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記複数のマイクロレンズの出射光の出射角が、
±20度以内であることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0030】
請求項12記載の発明は、
請求項8記載の発明であるバイオチップ読取装置において、
前記複数のマイクロレンズの曲率(R)と直径(d)の比率(R/d)が0.1以下であることにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば次のような効果がある。
請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11及び請求項12の発明によれば、複数種類の大きさのマイクロレンズが任意の複数位置にランダムに形成され、全てのマイクロレンズの発散等による出射角が狭い角度に制限されているランダムマイクロレンズ板を駆動させて複数のマイクロレンズにより集光される励起光でバイオチップの表面を走査することにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係るバイオチップ読取装置の一実施例を示す構成ブロック図である。図1において8は円形の基板上に任意の大きさの複数のマイクロレンズが任意位置に形成されたマイクロレンズ板(以下、説明の簡単のためにランダムマイクロレンズ板8と呼ぶ。)、9及び12はレンズ、10は波長に応じて光を透過或いは反射させるダイクロイックミラー、11は複数個のサイトがアレイ状に配置されたバイオチップ、13は特定の波長領域の光の透過を遮断するバリアフィルタ、14はカメラ等の撮影手段、15はランダムマイクロレンズ板8を回転させるモータ等の駆動手段である。
【0033】
コヒーレント光を出射するレーザ光源等の光源(図示せず。)からの出射光である図1中”EL51”に示す励起光はランダムマイクロレンズ板8に照射され、ランダムマイクロレンズ板8に形成されている複数のマイクロレンズで発散されレンズ9に入射される。
【0034】
レンズ9は発散された励起光を集光し、集光された励起光はダイクロイックミラー10を透過してバイオチップ11に集光される。
【0035】
そして、励起光によりバイオチップ11で生じた蛍光(具体的には、同一種類のDNAの断片が複数個配置されているセルで生じた蛍光)はダイクロイックミラー10で反射され、レンズ12によって当該反射光はバリアフィルタ13を透過して撮影手段14に集光される。
【0036】
一方、駆動手段15はランダムマイクロレンズ板8を円板の中心軸を中心に回転させることにより、ランダムマイクロレンズ板8に形成された複数のマイクロレンズの位置が移動し、これに伴ない複数のマイクロレンズで発散されレンズ9によって集光される励起光がバイオチップ11の表面を走査することになる。
【0037】
例えば、図2はランダムマイクロレンズ板8の一例を示す平面図であり、図2に示すようにランダムマイクロレンズ板8には図2中”ML61”、”ML62”及び”ML63”に示すような大中小の3種類の大きさの円形のマイクロレンズが任意の位置にランダムに形成されている。
【0038】
なお、図2において作図の都合上、各マイクロレンズは間隔をおいて配置されているが、実際には、各マイクロレンズは互いに接触する状態で配置される。
【0039】
但し、ランダムマイクロレンズ板8に形成された図2中”ML61”、”ML62”及び”ML63”に示すような大中小の3種類の大きさの円形のマイクロレンズの全ては、発散による出射角が集光用のレンズ9に入射される光量を確保するために狭い角度に制限されている。
【0040】
例えば、図3はマイクロレンズの出射角の制限を説明する説明図であり、図3中”EL51”に示すようランダムマイクロレンズ板8に照射された励起光は、図3中”θ”に示す出射角に制限するように形成される。
【0041】
このため、図3中”OL71”及び”OL72”に示すような出射角の出射光が集光用のレンズ9に入射され、図3中”OL73”及び”OL74”に示すような出射角の光は出射されないように制限される。
【0042】
また、図4及び図5は実際のランダムマイクロレンズ板8の一例を示す2次元画像及び3次元画像、図6はこのようなランダムマイクロレンズ板に平行なレーザ光を入射して測定された出射角の分布特性の一例を示す特性曲線図である。
【0043】
例えば、図6中”CH81”に示すように測定された出射角の分布特性は回帰分析により図6中”CH82”に示すような出射角の分布特性となる。図6中”CH82”に示す特性曲線から”1/e ”で”10度”であり、出射角が狭い角度に制限されていることが分かる。
【0044】
さらに、具体的に出射角を制限する方法を図7、図8及び図9を用いて詳細に説明する。図7は形成されるマイクロレンズが円錐状の場合の出射角制限方法を説明する説明図、図8は形成されるマイクロレンズが球面で凸状の場合の出射角制限方法を説明する説明図、図9は形成されるマイクロレンズが球面で凹状の場合の出射角制限方法を説明する説明図である。
【0045】
マイクロレンズが円錐状の場合には、図7においてマイクロレンズからの出射角を”θ”、円錐状のマイクロレンズの傾斜角を”φ”、空気の屈折率を”no”、マイクロレンズ板8の屈折率を”n”とした場合、スネルの法則から、
i’=φ+θ (1)
sini’=(n/no)sinφ (2)
∴φ=sin−1((no/n)・sini’) (3)
となる。
【0046】
ここで、例えば、”i’=15°”、”n=1.5”及び”no=1.0”とし、円錐状のマイクロレンズの傾斜角”φ”を、
φ=sin−1((1/1.5)・sin15°)
≒9.9° (4)
とすることにより、
θ=i’−φ=5.0° (5)
となり、出射角”θ”を狭い角度に制限することができる。
【0047】
一方、マイクロレンズが球面で凸状若しくは凹状の場合には、図8及び図9においてイクロレンズからの出射角を”θ”、球面のマイクロレンズの直径を”d”、球面のマイクロレンズの焦点距離を”f”、球面のマイクロレンズの曲率半径を”R”、球面のマイクロレンズの開口数を”NA”、空気の屈折率を”no”、マイクロレンズ板8の屈折率を”n”とした場合、
f=R/(n−no) (6)
NA≒f/(d/2)=2R/(d・(n−no)) (7)
となる。
【0048】
ここで、例えば、”n=1.5”及び”no=1.0”とすると、
NA≒4R/d (8)
R/d≒NA/4 (9)
であるので、”R/d”を制限することにより、出射角”θ”を狭い角度に制限することができる。
【0049】
また、球面のマイクロレンズのサグ(でっぱり量)を”S”とした場合、
S=R−(R−(d/2))1/2 (10)
となる。
【0050】
さらに、平均的な傾斜角を”φ’”を”S/(d/2)”とすると、
φ’=S/(d/2)
=R/(d/2)−(R/(d/2)−1)1/2 (11)
となり、やはり、”R/d”を制限することにより平均傾斜角”φ’”が一意的に決定される。
【0051】
例えば、”NA”を”0.4”(θ≒24度)程度以内ならば、集光用のレンズ9は入手し易い。このとき、
R/d≒NA/4=0.1 (12)
程度になる。
【0052】
このように、複数種類の大きさの円形のマイクロレンズが任意の複数位置にランダムに形成され、全てのマイクロレンズの発散による出射角が狭い角度に制限されているランダムマイクロレンズ板8を回転させて複数のマイクロレンズで集光される励起光でバイオチップ11の表面を走査することにより照度が平滑化されて光量にムラの無い画像が得られる。
【0053】
例えば、図10及び図11はランダムマイクロレンズ板8を回転させ、バイオチップ11の代わりに励起光に対して一様に蛍光を発する蛍光板を用いた場合の撮影画像及び任意の軸方向の光量の分布特性の一例を示す説明図である。
【0054】
図10に示すように撮影された画像は光量が均一な画像となり、従来例における図20に示す画像のように、レーザ光源の出射光の光分布ムラといった性能のバラツキ、或いは、光学系の汚れや経年変化に起因してムラや干渉縞のような模様が映し出されてはいないことが分かる。
【0055】
また、図10中”LN91”に示すライン上の光量分布を示す図11中”CH101”においては、光量の特性曲線は均一であり、光源の光分布ムラといった性能のバラツキや光学系の汚れや経年変化に対して柔軟に対応していることが分かる。
【0056】
さらに、複数種類の大きさの円形のマイクロレンズが任意の複数位置にランダムに形成され、全てのマイクロレンズの発散による出射角が狭い角度に制限されているランダムマイクロレンズ板8を回転させる場合には、マイクロレンズの形成位置の正確な位置合わせや回転同期が不要になるのでローコスト化を図ることができる。
【0057】
この結果、複数種類の大きさのマイクロレンズが任意の複数位置にランダムに形成され、全てのマイクロレンズの発散による出射角が狭い角度に制限されているランダムマイクロレンズ板8を回転させて複数のマイクロレンズにより集光される励起光でバイオチップ11の表面を走査することにより、光学系の性能のバラツキや光学系の経年変化に対して柔軟に対応可能でコストダウンが可能になる。
【0058】
なお、バイオチップの測定に白色光の用は非コヒーレント光を用いれば、レーザのようなノイズはでにくいものの、以下に示すようなバックグラウンドノイズが悪化する。図1に示す実施例では撮影手段14の前にバリアフィルタ13を設けている。例えば、図12及び図13は光源が白色光源及びレーザ光源の場合の撮影手段14で受光される光量を説明する説明図である。
【0059】
バリアフィルタ13の透過特性が図12中”CH111”に示すような特性であり、励起光として白色光をバイオチップに照射した場合、励起光は、図12中”CH112”に示すように裾の広がった波長分布を有することになるので、図12中”BN111”に示す部分が十分に遮蔽できずバックグラウンドノイズとなってしまう。
【0060】
これに対して、バリアフィルタ13の透過特性が図13中”CH121”に示すような特性であり、励起光としてレーザ光をバイオチップに照射した場合、励起光は、図13中”CH122”に示すように極めて裾の狭い波長分布を有することになるので、バリアフィルタ13で図12中”BN111”に示す部分が十分に遮蔽できてバックグラウンドノイズを低減することが可能になる。
【0061】
また、図1に示す実施例では、ダイクロイックミラーは励起光を透過させ、バイオチップで発生した蛍光を反射させているが、勿論、その逆で、ダイクロイックミラーは励起光を反射させ、バイオチップで発生した蛍光を透過させるものであっても構わない。
【0062】
また、図1に示す実施例、具体的には図2に示すランダムマイクロレンズ板8に形成するマイクロレンズの形状に関しては、説明の簡単のため、円形のマイクロレンズを例示しているが、勿論、この形状に何ら限定されるものではない。
【0063】
図14及び図15はランダムマイクロレンズ板8に形成するマイクロレンズの形状の他の例を示す説明図であり、図14中”ML131”に示す円形のマイクロレンズのみならず、マイクロレンズの形状は、図14中”ML132”に示すようなシリンドリカル状の形状、多角形の形状、図14中”ML133”に示すような閉じた自由曲線による形状、図14中”ML134”に示すような網目状の形状等であっても構わない。言い換えれば、任意の形状で構わない。
【0064】
さらに、図15中”ML141”に示すような多数の島を配列したような形状のマイクロレンズであっても構わない。但し、どのような形状にしても、全てのマイクロレンズの発散による出射角が狭い角度に制限されている必要性はある。また、マイクロレンズの形状も球形だけではなく、プリズム状やランプ状であっても構わない。
【0065】
また、複数種類の大きさのマイクロレンズが任意の位置にランダムに形成され、全てのマイクロレンズの発散による出射角が狭い角度に制限されているランダムマイクロレンズ板8の材質としてガラスや樹脂等を用いることが可能である。
【0066】
また、ランダムマイクロレンズ板8に入射される励起光としては、出射光の出射角が狭い角度に制限されている範囲であれば、平行光のみならず、収束光或いは発散光の何れであっても構わない。
【0067】
また、図1等に示す実施例においては、ランダムマイクロレンズ板8(基板)上に凹凸を設けてマイクロレンズを形成しているが、ランダムマイクロレンズ板8(基板)にランダムマイクロレンズ板8(基板)の本来の屈折率とは異なる屈折率の領域を分布させてマイクロレンズを形成しても構わない。
【0068】
この場合にも、ランダムマイクロレンズ板8(基板)の本来の屈折率とは異なる屈折率の領域の形状に関しては円形に限定されるものではなく、図14及び図15等に示すような任意の形状を用いることが可能である。
【0069】
また、集光用のレンズ9の焦点位置と、バイオチップ11までの距離をずらすことにより、言い換えれば、ピントをずらすことにより、ランダムマイクロレンズ板8のランダマイズ効果を向上させても構わない。
【0070】
また、図1に示す実施例ではランダムマイクロレンズ板8を回転させて複数のマイクロレンズにより集光される励起光でバイオチップ11の表面を走査させているが、駆動方法としては回転に限定されるものではく、駆動手段によってランダムマイクロレンズ板8をバイオチップ11に平行な平面上を平行移動させたり等の移動によってバイオチップ11の表面を走査させても構わない。
【0071】
さらに、ランダムマイクロレンズ板8の移動方向としてもバイオチップ11に平行な平面上のみならず、ランダムマイクロレンズ板8とバイオチップ11との位置合わせは厳密ではないので、ランダムマイクロレンズ板8は任意の移動方向に移動させても構わない。また、ランダムマイクロレンズ板8を振動させても構わない。
【0072】
また、図1に示す実施例ではランダムマイクロレンズ板8に形成されたマイクロレンズによって励起光を発散させていたが、励起光を一旦集光させた光を用いても構わない。
【0073】
図16は励起光を一旦集光させた光を用いる場合を示す説明図である。ランダムマイクロレンズ板8に図16中”RM151”に示すようなランプ形状の突起物を多数形成して、図16中”EL151”に示す励起光を集光し、図16中”BW151”に示すようなビームウェストを形成させた後の励起光をバイオチップに照射させても構わない。この場合、集光用のレンズ9は不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るバイオチップ読取装置の一実施例を示す構成ブロック図である。
【図2】ランダムマイクロレンズ板の一例を示す平面図である。
【図3】マイクロレンズの出射角の制限を説明する説明図である。
【図4】実際のランダムマイクロレンズ板の一例を示す2次元画像である。
【図5】実際のランダムマイクロレンズ板の一例を示す3次元画像である。
【図6】ランダムマイクロレンズ板の測定された出射角の分布特性を示す特性曲線図である。
【図7】形成されるマイクロレンズが円錐状の場合の出射角制限方法を説明する説明図である。
【図8】形成されるマイクロレンズが球面で凸状の場合の出射角制限方法を説明する説明図である。
【図9】形成されるマイクロレンズが球面で凹状の場合の出射角制限方法を説明する説明図である。
【図10】ランダムマイクロレンズ板を回転させ、バイオチップに代わりに励起光に対して一様に蛍光を発する蛍光板を用いた場合の撮影画像の一例を示す説明図である。
【図11】ランダムマイクロレンズ板を回転させ、バイオチップに代わりに励起光に対して一様に蛍光を発する蛍光板を用いた場合の任意の軸方向の光量の分布特性の一例を示す説明図である。
【図12】光源が白色光源の場合の撮影手段で受光される光量を説明する説明図である。
【図13】光源がレーザ光源の場合の撮影手段で受光される光量を説明する説明図である。
【図14】ランダムマイクロレンズ板に形成するマイクロレンズの形状の他の例を示す説明図である。
【図15】ランダムマイクロレンズ板に形成するマイクロレンズの形状の他の例を示す説明図である。
【図16】励起光を一旦集光させた光を用いる場合を示す説明図である。
【図17】バイオチップにおけるハイブリダイゼーションの一例を示す説明図である。
【図18】従来のバイオチップ読取装置の一例を示す構成ブロック図である。
【図19】マイクロレンズ板の一例を示す平面図である。
【図20】バイオチップに代わりに励起光に対して一様に蛍光を発する蛍光板を用いた場合の撮影画像の一例を示す説明図である。
【図21】バイオチップに代わりに励起光に対して一様に蛍光を発する蛍光板を用いた場合の任意の軸方向の光量の分布特性の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0075】
1 マイクロレンズ板
2,10 ダイクロイックミラー
3,11 バイオチップ
4,9,12 レンズ
5,13 バリアフィルタ
6,14 撮影手段
7,15 駆動手段
8 ランダムマイクロレンズ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオチップ読取装置において、
発散若しくは集光による出射角が狭い角度に制限された任意の大きさの複数のマイクロレンズが任意位置に形成されたマイクロレンズ板と、
コヒーレント光を励起光として前記マイクロレンズ板に照射する光源と、
前記マイクロレンズ板からの出射光を透過若しくは反射させ、バイオチップで生じた蛍光を反射若しくは透過させるダイクロイックミラーと、
撮影手段と、
このダイクロイックミラーで反射若しくは透過された光を前記撮影手段に集光するレンズと、
前記ダイクロイックミラーと前記撮影手段との間に設けられたバリアフィルタと、
前記マイクロレンズ板を駆動して前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光を前記バイオチップの表面に対して走査する駆動手段と
を備えたことを特徴とするバイオチップ読取装置。
【請求項2】
前記マイクロレンズ板が、
基板上に凹凸を設けて前記複数のマイクロレンズを形成したことを特徴とする
請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項3】
前記マイクロレンズ板が、
前記基板に前記基板の屈折率とは異なる屈折率の領域を分布させて前記複数のマイクロレンズを形成したことを特徴とする
請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項4】
前記マイクロレンズ板が、
ガラス若しくは樹脂であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイオチップ読取装置。
【請求項5】
前記駆動手段が、
前記マイクロレンズ板を回転させることにより前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光で前記バイオチップの表面を走査させることを特徴とする
請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項6】
前記駆動手段が、
前記マイクロレンズ板を1次元方向、2次元方向或いは3次元方向に移動させることにより前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光で前記バイオチップの表面を走査させることを特徴とする
請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項7】
前記駆動手段が、
前記マイクロレンズ板を振動させることにより前記複数のマイクロレンズにより発散若しくは集光される励起光で前記バイオチップの表面を走査させることを特徴とする
請求項1記載のバイオチップ読取装置。
【請求項8】
前記複数のマイクロレンズが、
円形であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイオチップ読取装置。
【請求項9】
前記複数のマイクロレンズが、
網目状であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイオチップ読取装置。
【請求項10】
前記複数のマイクロレンズが、
任意の形状であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイオチップ読取装置。
【請求項11】
前記複数のマイクロレンズの出射光の出射角が、
±20度以内であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のバイオチップ読取装置。
【請求項12】
前記複数のマイクロレンズの曲率(R)と直径(d)の比率(R/d)が0.1以下であることを特徴とする
請求項8記載のバイオチップ読取装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図21】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図10】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2006−23213(P2006−23213A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202547(P2004−202547)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】