バイオチップ
【課題】チップ内に気泡が存在する場合でも、試料に対して安定したサーマルサイクルを施すことができるバイオチップを提供する。
【解決手段】本発明のバイオチップ100は、オイルが充填された第1キャビティー10と、第1キャビティー10に隣り合い、前記オイルが充填された第2キャビティー20と、重力に基づいて動作し、第1キャビティー10および第2キャビティー20を連通させ、または遮断する開閉機構30と、を有する。
【解決手段】本発明のバイオチップ100は、オイルが充填された第1キャビティー10と、第1キャビティー10に隣り合い、前記オイルが充填された第2キャビティー20と、重力に基づいて動作し、第1キャビティー10および第2キャビティー20を連通させ、または遮断する開閉機構30と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、極めて少ない量のDNAを短時間で増幅するPCR(Polymerase Chain Reaction)法が、遺伝子診断や遺伝子治療などの医療分野、品種判別や品種改良などの農畜産分野、食品分野、さらには犯罪捜査などの分野において発展してきた。PCR法は、一般的に、検体となるDNAと、DNAポリメラーゼ、鋳型DNA、プライマーDNA、およびdNTPなどの試薬とを混合して被検液(PCR反応液)を調製し、この被検液の温度を上昇および下降(サーマルサイクル)させることによって行われる。
【0003】
一方、PCR法の発展には、サーマルサイクルを効率的に行うための装置が必要となる。従来は、異なる温度に設定された複数のインキュベータを用意し、それらのインキュベータ間で被検液の入った反応容器(チューブ)を移動させてサーマルサイクルを行う方法や、1つのサーマルブロックの温度を複数の異なる温度に調節してサーマルサイクルを行う方法などが採られていた。しかしこれらの方法では、サーマルサイクルに要する時間を短縮することには限度があった。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1には、反応液と混和しないオイルを充填した容器中で、微量な反応液を重力によって移動させる方法で試料のサーマルサイクルを効率良く行うチップ、およびサーマルサイクラーが提案されている。そして、特許文献1に開示されたチップは、その内部に、オイルおよび反応液を充填して、オイル中で反応液の液滴を重力の作用に基づいて、サーマルサイクラーの温度制御領域間を移動させることによって、所望のサーマルサイクルを行うことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−136250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたチップは、オイルおよび反応液を密閉空間に充填されている。そのため、これらを充填する操作をおこなう際に、気泡も一緒に充填されてしまう場合があった。また、気泡を混入させずに充填することができても、充填された反応液やオイルに含まれる溶存気体などが原因となり、容器内に気泡を生じてしまう場合があった。
【0007】
チップ中で反応液を重力によって移動させる方式(以下、本明細書において、これを「昇降型」と称する場合がある。)のサーマルサイクラーによって、反応液のサーマルサイクルを行う場合、チップ内に気泡が存在すると、反応液のみならず気泡も重力の作用に基づいてチップ内を移動することになる。そのため、気泡が反応液の液滴の移動を妨げたり、気泡の移動によりチップ内にオイルの不要な流れを生じて、チップ内の温度制御が乱される場合があった。すなわち、昇降型の装置でサーマルサイクルを行う場合には、気泡がチップ内に存在すると、反応液に所望のサーマルサイクルを施すことができなくなることがあった。
【0008】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、チップ内に気泡が存在する場合でもサーマルサイクラーを用いて、試料に対して安定したサーマルサイクルを施すことができるバイオチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明にかかるバイオチップの一態様は、
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに隣り合い、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
重力に基づいて動作し、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを連通させ、または遮断する開閉機構と、
を有する。
【0011】
このようなバイオチップによれば、バイオチップ内に液体が存在する場合に、第1キャビティーまたは第2キャビティーのいずれか一方の内部に該気泡を回収することができる。そのため、他方のキャビティー内に気泡が存在しないようにすることができる。これにより、例えば、バイオチップ内に、オイルおよびPCR反応液を充填した場合に、前記他方のキャビティー内において、PCR反応液に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【0012】
[適用例2]
適用例1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーの間を開放または閉塞する可動栓を有することができる。
【0013】
本適用例のバイオチップによれば、バイオチップ内に気泡が存在する場合に、第1キャビティーおよび第2キャビティーのいずれかに、該気泡を確実に回収することができる。
【0014】
[適用例3]
適用例1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーの間を開放または閉塞する可動栓を有することができる。
【0015】
本適用例のバイオチップは、バイオチップ内に気泡が存在する場合に、該気泡を確実に第2キャビティー内に回収することができる。
【0016】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記第1キャビティーは、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを結ぶ方向を長手とする形状を有することができる。
【0017】
本適用例のバイオチップによれば、上記適用例のバイオチップの特徴を有するとともに、チップ内に異なる温度の領域を設けることが容易となる。
【0018】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記第1キャビティー内には、仕切り部材が形成され、
前記第1キャビティー内に、前記オイルが前記仕切り部材を周回できる経路を有することができる。
【0019】
本適用例のバイオチップによれば、バイオチップ内に気泡が存在する場合に、第1キャビティー内において気泡が移動する通路を規定することができる。これにより、例えば、バイオチップ内にオイルおよびPCR反応液の液滴を充填した場合であって、気泡が存在する場合に、気泡の通路と液滴の通路とを分離することができ、第1キャビティー内において、気泡によって液滴の移動が妨げられることを抑制することができる。
【0020】
[適用例6]
本発明にかかるバイオチップの一態様は、
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに連通路を介して連通し、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
前記第1キャビティーおよび前記連通路の間に形成され、前記第1キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から突出して形成された第1障壁と、
前記第2キャビティーおよび前記連通路の間に、前記第1障壁と平行に形成され、前記第2キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から、前記第1障壁の突出する方向とは反対の方向に突出して形成された第2障壁と、
を有し、
前記第1キャビティー、前記連通路、および前記第2キャビティーは連続する閉鎖空間となっており、
前記第1キャビティー側から前記連通路を通して、前記第1障壁および前記第2障壁に垂直な方向から、前記第2キャビティーを見たときに、前記第2キャビティーは、前記第1障壁および前記第2障壁によって遮蔽される。
【0021】
このようなバイオチップによれば、バイオチップ内に気泡が存在する場合においても、第1障壁および第2障壁の作用により、第2キャビティーの内部に気泡を回収し、当該気泡が第1キャビティー内に戻らないようにすることができる。これにより、例えば、バイオチップ内にオイルおよびPCR反応液の液滴を充填した場合であって、気泡が存在する場合に、第1キャビティー内において、液滴に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態のバイオチップ100の断面の模式図。
【図2】実施形態のサーマルサイクラー200を模式的に示す分解斜視図。
【図3】実施形態のサーマルサイクラー200を模式的に示す斜視図。
【図4】実施形態のバイオチップ100をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図5】実施形態のバイオチップ110を模式的に示す部分断面斜視図。
【図6】実施形態のバイオチップ110の断面の模式図。
【図7】実施形態のバイオチップ120の断面の模式図。
【図8】実施形態のバイオチップ130の断面の模式図。
【図9】実施形態のバイオチップ130をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図10】実施形態のバイオチップ140の断面の模式図。
【図11】実施形態のバイオチップ140をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図12】実施形態のバイオチップ150の断面の模式図。
【図13】実施形態のバイオチップの主要部が回転する様子を模式的に示す図。
【図14】実施形態のバイオチップの主要部を模式的に示す図。
【図15】実施形態のバイオチップ150をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図16】実施形態のバイオチップ150をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図17】実施形態のバイオチップ150をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。そのため、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で実施される各種の変形例も含む。なお、下記の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
1.第1実施形態
1.1.バイオチップ
図1は、本実施形態のバイオチップ100の断面の模式図である。本実施形態のバイオチップ100は、第1キャビティー10と、第2キャビティー20と、開閉機構30と、を有する。
【0025】
バイオチップ100は、サーマルサイクラー200(後述)に用いるバイオチップであって、サーマルサイクラー200の回転部210に形成された装着孔220に装填できる外形形状を有する。したがって、バイオチップ100の外形形状は、回転部210の装着孔220の形状に従って任意の形状を有することができる。バイオチップ100の大きさは、特に限定されないが、充填されるオイル等の液体の量、熱伝導率、内部に形成されるキャビティーの形状、および取り扱いの容易さの少なくとも1種を考慮して選択される。
【0026】
バイオチップ100の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えば単結晶シリコン、パイレックスガラス(パイレックスは登録商標))、および有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。バイオチップ100を、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)の反応容器(反応チップ)として使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、バイオチップ100は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、バイオチップ100をPCRの反応容器として用いる場合、バイオチップ100はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0027】
さらに、バイオチップ100の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。バイオチップ100の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、バイオチップ100の外部から、内部のキャビティー内を観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にバイオチップ100を用いる場合には、必要に応じて、バイオチップ100の材質を透明なものとすることができる。またなお、バイオチップ100をPCRの反応チップとして使用する場合には、バイオチップ100の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0028】
第1キャビティー10は、バイオチップ100の内部に形成された空洞である。第1キャビティー10の形状は、特に限定されない。第1キャビティー10の形状は、例えば、図1に示すような細長い形状とすることができる。第1キャビティー10が、細長い形状であると、例えば、第1キャビティー10内に温度の異なる領域が設けられるようにバイオチップ100を温度制御する際に、異なる温度の領域の間の距離を離間させやすくなる。また、第1キャビティー10が細長い形状を有すると、容器の体積に対して、容器の表面積の割合が大きくなるので、例えば、第1キャビティー10内にオイル等の液体が充填された場合に、熱の伝導の効率がよくなり、液体の温度調節を容易化することができる。本実施形態では、バイオチップ100において、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向が、長手となるように、第1キャビティー10の形状が細長くなっている。これによりバイオチップ100を、長手の方向がサーマルサイクラー200の中心からの放射方向と一致するように回転部210に装着した場合に、第1キャビティー10に、異なる温度の領域を設けることが容易となる。バイオチップ100において、第1キャビティー10が設けられる位置は、第2キャビティー20を設けうる限り限定されない。
【0029】
第1キャビティー10には、オイル等の液体を充填することができる。第1キャビティー10を形成するバイオチップ100の部位には、第1キャビティー10に液体を注入できるような機構が備えられていてもよい。このような機構としては、例えば、第1キャビティー10と外部とを連絡する孔およびこれを塞ぐ部材で構成されることができる。
【0030】
第1キャビティー10の機能の一つとしては、液体が充填されたときに、当該液体の反応室となることが挙げられる。例えば、第1キャビティー10は、オイルとPCR反応液とが充填された場合には、PCR反応液を反応させる空間となることができる。そして特に第1キャビティー10が細長い場合には、第1キャビティー10の中でPCR反応液を移動させることにより、PCR反応液にサーマルサイクルを施すことが容易となる。
【0031】
第2キャビティー20は、バイオチップ100の内部に形成された空洞である。第2キャビティー20は、第1キャビティー10に隣り合って設けられる。第2キャビティー20の形状は、特に限定されず、球状、円柱状などとすることができる。図示の例では、第2キャビティー20の形状は、直方体状の形状となっている。
【0032】
第2キャビティー20には、オイル等の液体を充填することができる。第2キャビティー20を形成するバイオチップ100の部位には、第2キャビティー20に液体を注入できるような機構が備えられていてもよい。このような機構としては、例えば、第2キャビティー20と外部とを連絡する孔およびこれを塞ぐ部材で構成されることができる。
【0033】
第2キャビティー20の機能の一つとしては、オイル等の液体が充填されたときに、第1キャビティー10または第2キャビティー20に存在する気泡を、第2キャビティー20内に回収することが挙げられる。例えば、第1キャビティー10内および第2キャビティー20内にオイルとPCR反応液の液滴とが充填され、かつ、気泡が混入している場合に、気泡を第2キャビティー20内に回収し、回収された気泡が第1キャビティー10に戻らないようにすることができる。換言すると、第2キャビティー20に充填された液体(オイル)が、気泡と入れ替わりに第1キャビティー10に移動することで、PCR反応液の移動の妨げとなる気泡を第1キャビティー10から除去し、PCR反応液の液滴に良好なサーマルサイクルを施すことができる。
【0034】
開閉機構30は、第1キャビティー10および第2キャビティー20を連通させ、または遮断することができる。開閉機構30は、重力に基づいて動作する。ここで「重力に基づいて動作する」とは、例えば、重力加速度によって直接に開閉の動作が生じることを含み、さらに、重力加速度に起因して生じる液体中の気泡の浮力や、開閉機構30を構成する部材の浮力または質量によって開閉の動作が生じることを含む表現である。バイオチップ100に対して重力加速度が加わる方向は、バイオチップ100の姿勢(重力加速度の方向に対する配置方向)によって変化させることができるため、例えば、バイオチップ100の姿勢を変化させることによって、開閉機構30を動作させることができる。
【0035】
バイオチップ100(図1)の例では、開閉機構30は、可動栓32を有し、当該可動栓32が、バイオチップ100に対して重力が作用する方向に応じて移動することによって、第1キャビティー10および第2キャビティー20の隣接部分が開放または閉塞される構造を有している。
【0036】
バイオチップ100の例では、開閉機構30は、可動栓32が、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向に沿って移動しうる態様を示しているが、可動栓32の動作の方向は、これに限定されない。可動栓32は、例えば、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向に対して交差する方向に沿って動作してもよい。このような可動栓32の移動方向や配置は、適宜選択されることができる。
【0037】
バイオチップ100においては、可動栓32は、可動栓32を支持する支持部34とともに、第2キャビティー20内に設けられている(図5参照)。可動栓32が、第1キャビティー10側に移動すると、第1キャビティー10と第2キャビティー20をつなぐ部分を閉塞することができる。これにより、第1キャビティー10および第2キャビティー20は、それぞれ独立した閉鎖空間となることができる。一方、可動栓32が、第2キャビティー20側に移動すると、第1キャビティー10と第2キャビティー20をつなぐ部分を開放することができる。これにより、第1キャビティー10および第2キャビティー20は、連通され、連続した閉鎖空間となることができる。
【0038】
そして、バイオチップ100においては、可動栓32は、充填されるオイル等の液体に対して浮力を有するような材質または構造を有している。このような可動栓32としては、例えば、樹脂の発泡体で形成されることや、中空の構造を有するものが挙げられる。したがって、バイオチップ100においては、内部に液体が充填された場合には、可動栓32は、重力に基づく浮力によって動作するものとなっている。
【0039】
1.2.サーマルサイクラー
図2は、本実施形態のサーマルサイクラーの回転部210を模式的に示す分解斜視図である。図3は、本実施形態のサーマルサイクラーの回転部210を模式的に示す斜視図である。
【0040】
本実施形態のバイオチップは、PCR反応容器として使用される場合には、サーマルサイクラーに装填されて使用されることにより、PCR反応液に対して、極めて良好なサーマルサイクルを行うことができる。
【0041】
サーマルサイクラーは、バイオチップの姿勢を変化させ、かつ、第1キャビティー10に対して熱を供給できる回転部210を有する。以下に説明するサーマルサイクラーは、このような機構を有するサーマルサイクラーの一例である。なお、このようなサーマルサイクラーを、本明細書では、「昇降型」のサーマルサイクラーという場合がある。
【0042】
サーマルサイクラーは、図2および図3に示すように、中心軸Rを有する円筒状の形状の回転部210を有し、図示しない駆動機構(モーター等)によって、回転部210が中心軸Rの周りを回転する構造を有している。また、図4に示すように、回転部210は、中心軸R付近、および円筒状の周辺部にそれぞれ温度調節部211を有している。温度調節部211の設けられる数は、特に限定されない。温度調節部211は、適宜円環状に形成されることができる。すなわち、温度調節部211の数を調節することにより、所望のサーマルサイクルを実現することができ、例えば、温度調節部211の数に応じて2水準の温度でのサーマルサイクルや、3水準の温度でのサーマルサイクルを実現することができる。温度調節部211としては、発熱体(ヒーター等)や、吸熱体(ペルチェ素子など)とすることができる。また、各温度調節部211に設定される温度についても適宜設定されることができる。
【0043】
回転部210は、バイオチップを装填することができる装着孔220を有する。図示の例では、装着孔220は、回転部210の円筒形状の外周面に複数形成されている。なお装着孔220が形成される数は限定されない。
【0044】
バイオチップは、サーマルサイクラーの回転部210の装着孔220に装填されることにより、バイオチップの部分ごとに異なる温度となるように温度調節されることができる。また、バイオチップが装着孔220に装填され、サーマルサイクラーの回転部210が回転されることによって、バイオチップの重力加速度の方向に対する姿勢を変化させることができる。なお、この場合、回転部210の回転の速度は、バイオチップに印加される遠心力が大きくなりすぎない程度であることが好ましく、例えば、1rpm以上10rpm以下が好ましい。しかし、バイオチップに遠心力を印加させたい場合は、回転部210の回転の速度はこの限りでない。
【0045】
そして、バイオチップ内にオイルおよびPCR反応液の液滴が充填された状態で、サーマルサイクラーの回転部210に装填して、回転部210を回転させると、オイル内に形成されたPCR反応液の液滴が、重力に基づいて、バイオチップ内を移動することとなる。なお、この場合、バイオチップの重力加速度の方向に対する姿勢を変化させるために、中心軸Rは、重力加速度の方向と平行とならないように設置される。
【0046】
1.3.気泡回収の手法
図4は、本実施形態のバイオチップ100をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。図示の例では、中心軸Rは、重力の方向に対して直交しており、図において上側が位置エネルギーの高い位置となるように描かれている。また、回転部210の回転の方向は中心軸Rの周りに時計回りに回転するものとする。そして、以下、回転部210が回転しているときにバイオチップ100が存在する位置について述べる場合には、図における鉛直方向上向きを角度0°とし、0°から時計回り方向に一回転で360°として角度を用いて表現するものとする。以下の説明における上下は、図における上下方向と一致するものとする。
【0047】
以下では、バイオチップ100にオイルおよびPCR反応液wが充填され、第1キャビティー10内に気泡vが存在する場合について述べる。オイルの種類としては、PCR反応液wよりも比重が小さく、PCR反応液wと相溶しないものが用いられる。PCR反応液wは、例えば、標的核酸(増幅させたい核酸)、標的核酸を増幅するためのプライマー(核酸)、核酸増幅反応を行う酵素、増幅産物量を測定するための蛍光試薬(例えばSYBR GREEN(商標))、および、必要な場合には他の核酸などを含む液体である。そして、バイオチップ100内では、オイル中にPCR反応液wが液滴となる形態で液液相分離し、さらに、液体(オイルおよびPCR反応液w)と、気泡vとが気液相分離しているものとする。
【0048】
まず、回転部210の0°の位置にバイオチップ100が存在する状態から説明する。なお図4において、PCR反応液は、符号wで表され、気泡は、符号vで表されている。
【0049】
バイオチップ100が0°の位置にある場合、可動栓32および気泡vは、ともに浮力を有している。そのため、可動栓32は、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間を開放し、両者は連通する空間となっている。そのため、気泡vは、浮力によって第1キャビティー10から第2キャビティー20に移動する。また、気泡vが第2キャビティー20に存在する場合には、そのまま第2キャビティー20に留まる。一方、このとき、PCR反応液wは、オイルよりも比重が大きいため第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端に移動する。そして、回転部210が時計回りに回転し、バイオチップ100が90°の位置に達するまでは、可動栓32は動作せず、気泡vは、第2キャビティー20内の上壁面に沿う位置に存在し、PCR反応液wは、第1キャビティー10の下壁面に沿う位置に存在することになる。なお、バイオチップ100が0°から90°の間の位置であって、第1キャビティー10から第2キャビティー20に気泡が移動できない状態(例えば図4の60°の位置)にあるときに、第1キャビティー10内に気泡が発生した場合には、当該気泡は、回転部210がさらに時計回りに回転して、バイオチップ100が270°から0°(360°)の位置に来たときに第2キャビティー20に移動される。
【0050】
回転部210の回転により、バイオチップ100の位置が90°を過ぎると、可動栓32は、第1キャビティー10側に移動される方向の浮力を受けることになる。そして、少なくとも180°の位置に達するまでに、可動栓32が移動して、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間を閉塞する。可動栓32が移動するタイミングは、90°から180°の間であればよく、どの位置で移動するようにするかは、適宜設計されることができる。また、この場合、第1キャビティー10および第2キャビティー20の内壁面の曲率等を調節することによって、可動栓32が開放している間に、気泡vが連通部に到達しないように設計することもできる。
【0051】
バイオチップ100が、180°の位置まで来ると、第1キャビティー10と第2キャビティー20の間が閉塞しているため、第2キャビティー20にある気泡vは、浮力によって第1キャビティー10に移動することができず、第2キャビティー20に留まり、他方、第1キャビティー10にあるPCR反応液wは、第2キャビティー20に落下することなく、第1キャビティー10に留まる。
【0052】
そしてさらに回転部210が時計回りに回転し、バイオチップ100が、180°から270°の位置に達するまでは、可動栓32は動作せず、気泡vは、第2キャビティー20内の上壁面に沿う位置に存在し、PCR反応液は、第1キャビティー10の下壁面に沿う位置に存在することになる。なお、バイオチップ100が180°から270°の間の位置にあるときに、第1キャビティー10内に気泡が発生した場合には、当該気泡は、回転部210がさらに時計回りに回転して、バイオチップ100が270°から0°(360°)の位置に来たときに第2キャビティー20に移動される。
【0053】
続いて、バイオチップ100の位置が、270°を過ぎると、可動栓32は、第2キャビティー20側に移動される方向の浮力を受けることになる。そして、少なくとも0°の位置に達するまでに、可動栓32が移動して、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間を開放する。可動栓32が移動するタイミングは、270°から0°(360°)の間であればよく、どの位置で移動するようにするかは、適宜設計されることができる。
【0054】
以上のようにバイオチップ100では、回転部210が回転して、0°の位置に達するごとに、気泡vが第2キャビティー20に移動し、当該気泡vは、その後第1キャビティー10に移動することがないものとなっている。すなわち、バイオチップ100は、バイオチップ100内に存在する気泡vを、第2キャビティー20内に回収して第1キャビティー10内に戻さないようにすることができる。
【0055】
以上ではバイオチップ100がサーマルサイクラーの回転部210に装填され、回転部210の回転によって、第1キャビティー10内の気泡vが除去されるという効果を例示したが、この効果は、例示したサーマルサイクラーによるバイオチップ100の姿勢の変化によって生じるだけではなく、他の方法によってバイオチップ100の重力加速度の方向に対する姿勢を変化させることができれば達成されることは容易に理解されよう。
【0056】
また、上記の例では、バイオチップ100は、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向が、第1キャビティー10の細長い形状の長手の方向となっている。そしてサーマルサイクラーの回転部210には、外周に沿う円環状の温度調節部211および中心部の温度調節部211を備えている。そのため、バイオチップ100の第1キャビティー10の各位置における温度が異なるように設定することができる。そして、上記例では、PCR反応液wをバイオチップ100内に導入しており、PCR反応液wも第1キャビティー10内で移動することができる。そのため、このような態様を採れば、PCR反応液wに対するサーマルサイクルを実現することができる。すなわち、バイオチップ100によれば、気泡vを回収しつつPCR反応液wに対してサーマルサイクルを施すことができる。そのため、PCR反応液wの第1キャビティー10内における移動が、気泡vによって妨害されることが軽減され、より安定したサーマルサイクルをPCR反応液wに施すことができる。
【0057】
1.4.バイオチップの変形
以下に変形例を述べるが、上述の実施形態で述べたと同様の構成については同じ符号を付して詳しい説明は省略する。また、以下の変形例で述べる構成において、上述の実施形態と同じ符号で示された構成は、同様の作用機能を有することができる。
【0058】
1.4.1.第1キャビティーの変形
図5は、第1キャビティー10を変形したバイオチップ110を模式的に示す部分断面斜視図である。図6は、バイオチップ110の断面の模式図である。図7は、第1キャビティー10を変形したバイオチップ120の断面の模式図である。
【0059】
本実施形態のバイオチップは、第1キャビティー10内に仕切り部材12を有することができる。図5および図6に示すように、バイオチップ110は、第1キャビティー10内に、仕切り部材12が形成されている。
【0060】
仕切り部材12は、第1キャビティー10の内壁の離間した2箇所を接続するように形成される。すなわち、仕切り部材12は、第1キャビティー10の内壁の一部と、当該内壁の一部と離間した他の一部とを繋ぐように形成される。したがって、第1キャビティー10は、仕切り部材12によって、ループ状の空洞となることができる。すなわち、仕切り部材12が形成された第1キャビティー10には、仕切り部材12を周回する経路が形成される。このような周回する経路は、複数形成されてもよい。すなわち、図7に示すように、複数の仕切り部材12によって、ループ状となる経路を複数有する空洞となることができる。仕切り部材12は、バイオチップ110と同一の材質で形成されることができる。
【0061】
バイオチップ110およびバイオチップ120は、第1キャビティー10に仕切り部材12が形成されている。そのため、第1キャビティー10内に、オイル、PCR反応液w、および気泡v(気相)が存在する場合であって、かつ、前述のサーマルサイクラーの回転部210の90°または270°の位置において気泡vが移動する経路およびPCR反応液wの移動する経路の位置関係が、重力の方向に対して互いに上下となるように回転部210に装填された場合に、気泡vが移動する経路とPCR反応液wの移動する経路とを分離することができる(図9および図11参照)。これにより、気泡vおよびPCR反応液wを移動させる際に、気泡vおよびPCR反応液wとが直接すれ違うことなく移動させることができる。そのため、PCR反応液wの第1キャビティー10内における移動が、気泡vによって妨害されることがさらに軽減され、より安定したサーマルサイクルをPCR反応液wに施すことができる。また、気泡vおよびPCR反応液wとが直接すれ違うことがなくなるため、気泡vが移動する経路およびPCR反応液wの移動する経路をいずれも細くすることができる。これにより、気泡vまたはPCR反応液wの移動にともなうオイルの移動(流れ)を小さくすることができ、第1キャビティー10において設定した温度分布を乱すことが抑制され、PCR反応液wに対するサーマルサイクルの精度をより向上することができる。
【0062】
バイオチップが仕切り部材12を有する場合には、さらに、次のような変形が可能である。図8は、第1キャビティー10を変形したバイオチップ130の断面の模式図である。バイオチップ130は、第1キャビティー10に、上述の仕切り部材12を有し、形成されたループ状の経路にクランク部14が形成されている。クランク部14は、図示の例では、第1キャビティー10の第2キャビティー20側と、第1キャビティー10の長手の方向の中央付近の2箇所に形成されている。第1キャビティー10にクランク部14が形成されることにより、以下のような効果が得られる。
【0063】
図9は、バイオチップ130をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。図9に示すように、回転部210にバイオチップ130を装填して、サーマルサイクラー200の回転部210を回転させる場合、PCR反応液wが第1キャビティー10内において滞在する位置および該位置に滞在する時間を制御することができる。すなわちクランク部14の形状およびクランク部14が設けられる位置を調節することによって、PCR反応液wを、回転部210の中心軸Rからの距離の異なる位置に一定の時間滞在させることができる。図9に示す例では、バイオチップ130が330°の位置から0°を経由して60°の位置に回転移動する間は、中心軸Rに近接する位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端)に滞在し、90°から210°の位置では、第1キャビティー10の中央付近のクランク部14に滞在する。そして、210°から300°までの位置では、中心軸Rから遠い位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20側の端)に滞在する。なお、この場合でも、第1キャビティー10に気泡が発生した場合には、上述の実施形態同様、開閉機構によって、気泡は第2キャビティー20に回収される。図示の例では、60°の位置で、第1キャビティー10に気泡vが発生した場合を示しており、当該気泡vは、0°(360°)付近の位置で第2キャビティー20に回収される例を示している。
【0064】
この場合において、図示のように、サーマルサイクラー200の温度調節部211が、中心軸Rに近接する位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端)、第1キャビティー10の中央付近、および中心軸Rから遠い位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20側の端)に設けられていると、PCR反応液wに、回転部210が一回転する間に3水準の温度制御をより正確な時間配分で行うことができる。なお、この場合、各温度調節部211に設定される温度は、PCRが行える範囲で任意であるが、例えば、94℃、55℃、および73℃とすることができる。PCR反応液wが、この順で温度制御されるように、温度調節部211や第1キャビティー10におけるクランク部14の配置を選択すれば、PCR反応の熱変性、アニーリング、および伸張反応をさらに好適に行うことができる。
【0065】
1.4.2.開閉機構の変形
図10は、開閉機構30を変形したバイオチップ140を模式的に示す断面図である。図11は、バイオチップ140をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。
【0066】
変形例のバイオチップ140が有する開閉機構30は、弁36である。弁36は、第1キャビティー10側から第2キャビティー20側に向かって開放され得、第2キャビティー20側から第1キャビティー10側に向かって閉塞されるように設けられている。弁36は、重力に基づいて動作する。詳しくは、弁36は、バイオチップ140に気泡が存在する場合に、気泡の浮力によって動作する。なお、バイオチップ140の第1キャビティー10には、仕切り部材14が形成されている。弁36は、適度な弾性を有する材質で形成される。
【0067】
以下では、バイオチップ140にオイルおよびPCR反応液wが充填され、第1キャビティー10内に気泡vが存在する場合について述べる。オイル、PCR反応液w、および気泡vは、「1.3.気泡回収の手法」で述べたと同様である。
【0068】
図11を用いて、まず、回転部210の0°の位置にバイオチップ140が存在する状態から説明する。なお図12においても、PCR反応液は、符号wで表され、気泡は、符号vで表されている。
【0069】
バイオチップ140が0°の位置にある場合、弁36は、気泡vの浮力によって押し上げられて開放され、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間が連通するとともに、気泡vが浮力によって第1キャビティー10から第2キャビティー20に移動する。また、気泡vが第2キャビティー20に存在する場合には、そのまま第2キャビティー20に留まる。一方、このとき、PCR反応液wは、オイルよりも比重が大きいため第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端に移動する。そして、回転部210が時計回りに回転するか、気泡vが第2キャビティー20に移動して第1キャビティー10内に存在しなくなったときに、弁36は閉塞する(図11の30°および60°の位置を参照)。このとき、0°の位置で回収された気泡vは、第2キャビティー20内の上壁面に沿う位置に存在し、PCR反応液は、第1キャビティー10の下壁面に沿う位置に存在することになる。なお、図示に例において、バイオチップ140が0°付近以外の位置であって、第1キャビティー10から第2キャビティー20に気泡が移動できない状態にあるときに、第1キャビティー10内に気泡が発生した場合には、当該気泡は回転部210がさらに時計回りに回転して、バイオチップ100が0°(360°)付近の位置に来たときに第2キャビティー20に移動される。図示の例では、60°の位置で、第1キャビティー10に気泡vが発生した場合を示しており、当該気泡vは、0°(360°)付近の位置で第2キャビティー20に回収される例を示している。
【0070】
また、バイオチップ140の第1キャビティー10には、仕切り部材14が設けられているため、第1キャビティー10に、気泡vおよびPCR反応液wの両者が存在する場合には、ループ状の流路において互いに反対側の経路を通って移動する。これにより、PCR反応液wの第1キャビティー10内における移動が、気泡vによって妨害されることがさらに軽減され、より安定したサーマルサイクルをPCR反応液wに施すことができる点等は上記「1.4.1.第1キャビティーの変形」で述べたと同様である。
【0071】
回転部210がさらに回転して、バイオチップ100の位置が180°に達すると、PCR反応液wは、弁36を第2キャビティー20に向かって開放する方向に重力加速度を受ける。しかし、オイルとPCR反応液wとの比重差は、オイルと気泡vの比重差よりも小さいため、この位置では、弁36は開放されず、PCR反応液wは、第1キャビティー10内に留まる。弁36が開放されるために必要な力は、オイルおよびPCR反応液wの種類、弁36の材質の弾性、弁36大きさ等を適宜選択することによって設計されることができる。
【0072】
そして回転部210がさらに時計回りに回転し、バイオチップ100が、再度0°(360°)の位置に達し、それまでの一回転のうちに気泡が生じていた場合には、弁36が動作して、新たに気泡が第2キャビティー20に回収される。
【0073】
以上のようにバイオチップ140では、回転部210が回転して、0°の位置に達するごとに、気泡vが第2キャビティー20に移動し、移動した気泡vは、その後第1キャビティー10に移動することがないものとなっている。すなわち、バイオチップ140は、バイオチップ140内に存在する気泡vを、第2キャビティー20内に回収して第1キャビティー10内に戻さないようにすることができる。
【0074】
本実施形態のバイオチップは、昇降型のサーマルサイクラー200を使用するときに、バイオチップ10内に気泡が存在する場合でも、重力に基づいて開閉機構30が動作することによって、第2キャビティー20の内部に気泡を回収することができる。そのため、第1キャビティー10内に気泡が存在しないようにすることができる。これにより、例えば、オイルおよびPCR反応液を充填した場合に、第1キャビティー10内において、PCR反応液に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【0075】
2.第2実施形態
以下に第2実施形態を述べるが、上述の第1実施形態で述べたと同様の構成については同じ符号を付して詳しい説明は省略する。また、第2実施形態で述べる構成において、第1実施形態と同じ符号で示された構成は、同様の作用機能を有することができる。
【0076】
図12は、本実施形態のバイオチップ150の断面の模式図である。図13および図14は、バイオチップの主要部を模式的に示す図である。図15、図16および図17は、バイオチップ150をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。
【0077】
本実施形態のバイオチップ150は、昇降型のサーマルサイクラーに用いるバイオチップであって、第1キャビティー10と、第2キャビティー20と、第1障壁41と、第2障壁42と、を有し、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間に連通路40が形成されている。
【0078】
第1キャビティー10および第2キャビティー20は、「1.第1実施形態」で述べたと同様である。連通路40は、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間に形成されている。連通路40は、第1キャビティー10および第2キャビティー20を連通させている。連通路40の形状は特に限定されない。
【0079】
第1障壁41は、第1キャビティー10および連通路40の間に設けられ、第1キャビティー10および連通路40を規定する内壁面から突出して形成された壁である。第1障壁41は、第1キャビティー10および連通路40を遮断することなく、両者の連通を保つように形成される。第1障壁41は、バイオチップ150と同一の材質で形成されることができる。
【0080】
第2障壁42は、第2キャビティー20および連通路40の間に設けられ、第2キャビティー20および連通路40を規定する内壁面から、第1障壁41の突出する方向とは反対の方向に突出して形成された壁である。第2障壁42は、第2キャビティー20および連通路40を遮断することなく、両者の連通を保つように形成される。第2障壁42は、バイオチップ150と同一の材質で形成されることができる。
【0081】
第1障壁41および第2障壁42は、第1キャビティー10側から連通路40を通して、第1障壁41および第2障壁42に垂直な方向から、第2キャビティー20を見たときに、第2キャビティー20が、第1障壁41および第2障壁42によって遮蔽される位置関係となるように設けられる。換言すると、第1キャビティー10および第2キャビティー20は、連通路40を通して見通せないようになっており、第1障壁41および第2障壁42が互いに反対方向に突出した衝立のようになっている。
【0082】
第1障壁41および第2障壁42の作用についてより詳細に説明するために、図13および図14を参照する。図13および図14は、バイオチップの主要部(連通路40、第1障壁41および第2障壁42付近)が回転する様子を示す図であり、第1キャビティー10および第2キャビティー20を単純化して描いた図である。図13および図14においても、バイオチップ内には、オイルおよびPCR反応液wが充填されている。そして、バイオチップ内に気泡v1およびv2が存在するものとする。オイル、PCR反応液wおよび気泡v1、v2は、「1.3.気泡回収の手法」で述べたと同様とする。
【0083】
まず図13に基づいて、気泡v1、気泡v2、およびPCR反応液wの動きを説明する。0°の位置において、図示のように、気泡v1は、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2およびPCR反応液wは、連通路40に存在している。この状態から、少しでも0°の位置から時計回りに回転すると、気泡およびPCR反応液はバイオチップ内で移動して、45°の位置の(b)で示すように、気泡v1およびPCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2は、連通路40に存在するようになる。その後、気泡およびPCR反応液は、90°の位置までは移動せず、90°を過ぎると移動することになる。
【0084】
図13の(d)は、バイオチップが90°の位置を過ぎた直後付近の様子を示している。このとき、気泡v2およびPCR反応液wは、それぞれ、第2キャビティー20の内壁および第1キャビティー10の内壁に沿って移動するが、気泡v1は、第1障壁41に沿って移動し、第1障壁41が途切れるところで、浮力によって第2障壁42の連通路40側の壁面に浮上して、その後第2障壁42に沿って移動する(図13の(d)中破線で示した。)。そうすると、135°の位置の(e)で示すように、気泡v1は、連通路40に存在し、PCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2は、第2キャビティー20に存在するようになる。その後270°の位置まで、バイオチップが回転すると、図13(h)に示すように、気泡v1およびPCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2は、第2キャビティー20に存在するようになる。
【0085】
図13の(i)は、バイオチップが270°の位置を過ぎた直後付近の様子を示している。このとき、気泡v1は、第1キャビティー10の内壁に沿って移動する。それとともに、気泡v2は、第2障壁42に沿って移動し、第2障壁42が途切れるところで、浮力によって、第1障壁41の連通路40側の壁面に浮上し、その後第1障壁41に沿って移動する。またそれとともにPCR反応液wは、第1障壁41に沿って移動し、第1障壁41が途切れるところで、重力によって第2障壁42の連通路40側の壁面に落下して、その後第2障壁42に沿って移動する。そうすると、315°の位置の(j)で示すように、気泡v1は、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2およびPCR反応液wは、連通路40に存在するようになり、もとの0°の位置における状態となる。
【0086】
以上のように、気泡およびPCR反応液は、いずれも、自身が最初に存在したキャビティー内を移動することが理解されよう。そして、次に、気泡v2のみを第2キャビティー20に移動させる方法について、図14を用いて説明する。
【0087】
図14の(e)は、図13の(e)に対応し、図13における時計回りの回転によって90°を超え、180°までの間の位置における状態を示している。ここで、バイオチップを逆方向(反時計方向)に回転させ、90°の位置を跨いで、90°よりも小さい角度まで回転させた状態が、図14の(k)である。この位置において、気泡v2およびPCR反応液wは、それぞれ、第2キャビティー20の内壁および第1キャビティー10の内壁に沿って移動するが、気泡v1は、第2障壁42に沿って移動し、第2障壁42が途切れるところで、浮力によって第2キャビティー20の内壁に向かって浮上する。これにより、気泡v1および気泡v2は、第2キャビティー20に存在するようになり、PCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在するようになる。バイオチップの回転方向を時計回りから反時計回りに反転させて、当該現象が発生した後は、再び回転方向を反転させてバイオチップの回転方向を時計回りとして回転させる。そうすると、90°の位置を超え、180°までの間の位置で、図14の(m)に示すような状態になる。そして、その後は、気泡v1および気泡v2は、いずれも、上述した気泡v2が移動する経路と同様の経路を通って、第2キャビティー20内で移動し、第1キャビティー10には戻らないように移動することとなる。
【0088】
このように、回転方向を特定の位置で反転させることによって、第1キャビティー10内の気泡v1を第2キャビティー20内に回収することができる。そして、回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。なお、一つのサーマルサイクラーの回転部210に、複数のバイオチップを搭載できる場合であって、2つのバイオチップが中心軸Rに対して対称に設けられる場合は、一方のバイオチップに対して、気泡の回収を施すために、90°の位置を跨ぐ上記の逆転操作を行うと、他方のバイオチップにおいては、270°の位置を跨ぐ逆転操作が行われることになる。しかし、この場合は、オイルとPCR反応液の比重差のほうが、オイルと気泡の比重差よりも小さいため、PCR反応液の移動速度のほうが気泡の移動速度よりも小さく、当該他方のバイオチップにおいて、PCR反応液が第2キャビティー20に移動することを避けることができる。
【0089】
ここで、上記のような気泡およびPCR反応液のバイオチップ内における移動を行うことができるための条件は、図13の(d)および(i)に現れている。図13の(d)および(i)における気泡およびPCR反応液の移動において、一方の障壁が途切れた後、移動する先に、他方の障壁があればよいことが分かる。すなわち、第1障壁41および第2障壁42が、第1キャビティー10側から連通路40を通して、第1障壁41および第2障壁42に垂直な方向から、第2キャビティー20を見たときに、第2キャビティー20が、第1障壁41および第2障壁42によって遮蔽される位置関係となるように設けられることが条件となる。また逆に、第2障壁42および第1障壁41が、第2キャビティー20側から連通路40を通して、第2障壁42および第1障壁41に垂直な方向から、第1キャビティー10を見たときに、第1キャビティー10が、第2障壁42および第1障壁41によって遮蔽される位置関係となるように設けられることとしてもよい。
【0090】
バイオチップの主要部の構造が、このような構造を有することにより、バイオチップの反転操作を含む回転方法によって、開閉機構などを要することなく、第1キャビティー10内の気泡v1を第2キャビティー20内に回収することができる。そして、回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。
【0091】
図15は、上述のバイオチップ150をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。図15に示すように、バイオチップ150が上述した主要部の構造を有するため、時計回りの回転によって、開閉機構などを要することなく、第2キャビティー20内に回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。それとともに、時計回りの回転によって、第1キャビティー10内のPCR反応液wに対して所望のサーマルサイクルを施すことができる。
【0092】
図16は、回転部210を90°の位置を跨いで反転させる様子を示している。図16に示すように、バイオチップ150は、90°の位置を跨いで反時計回りに回転させることにより、開閉機構などを要することなく、第1キャビティー10内の気泡を第2キャビティー20内に回収することができる。そして、図17に示すように、再度回転方向を反転させ、時計回りの回転を行うと、回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。
【0093】
なお、複数のバイオチップ150を装填できるサーマルサイクラー200によって、バイオチップ150を回転させる場合において、時計回りの回転の途中で、いずれかのバイオチップ150の第1キャビティー10に気泡が発生した場合には、当該気泡が発生したバイオチップ150が、90°付近の位置に来た際に、90°の位置を跨ぐ反転操作を行うことにより、当該気泡は回収することができる。
【0094】
本実施形態のバイオチップ150は、昇降型のサーマルサイクラー200を使用するときに、バイオチップ150内に気泡が存在する場合でも、第1障壁41および第2障壁42の構成および回転方向の逆転操作の作用により、第2キャビティー20の内部に気泡を回収し、当該気泡が第1キャビティー10内に戻らないようにすることができる。そのため、第1キャビティー10内に気泡が存在しないようにすることができる。これにより、例えば、オイルおよびPCR反応液を充填した場合に、第1キャビティー10内において、PCR反応液に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【0095】
以上に述べた実施形態および各変形実施形態は、任意の複数の形態を適宜組み合わせることが可能である。これにより、組み合わされた実施形態は、それぞれの実施形態が有する効果または相乗的な効果を奏することができる。
【0096】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0097】
10…第1キャビティー、12…仕切り部材、14…クランク部、20…第2キャビティー、30…開閉機構、32…可動栓、34…支持部、36…弁、40…連通路、41…第1障壁、42…第2障壁、100,110,120,130,140,150…バイオチップ、200…サーマルサイクラー、210…回転部、211…温度調節部、220…装着孔、R…中心軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、極めて少ない量のDNAを短時間で増幅するPCR(Polymerase Chain Reaction)法が、遺伝子診断や遺伝子治療などの医療分野、品種判別や品種改良などの農畜産分野、食品分野、さらには犯罪捜査などの分野において発展してきた。PCR法は、一般的に、検体となるDNAと、DNAポリメラーゼ、鋳型DNA、プライマーDNA、およびdNTPなどの試薬とを混合して被検液(PCR反応液)を調製し、この被検液の温度を上昇および下降(サーマルサイクル)させることによって行われる。
【0003】
一方、PCR法の発展には、サーマルサイクルを効率的に行うための装置が必要となる。従来は、異なる温度に設定された複数のインキュベータを用意し、それらのインキュベータ間で被検液の入った反応容器(チューブ)を移動させてサーマルサイクルを行う方法や、1つのサーマルブロックの温度を複数の異なる温度に調節してサーマルサイクルを行う方法などが採られていた。しかしこれらの方法では、サーマルサイクルに要する時間を短縮することには限度があった。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1には、反応液と混和しないオイルを充填した容器中で、微量な反応液を重力によって移動させる方法で試料のサーマルサイクルを効率良く行うチップ、およびサーマルサイクラーが提案されている。そして、特許文献1に開示されたチップは、その内部に、オイルおよび反応液を充填して、オイル中で反応液の液滴を重力の作用に基づいて、サーマルサイクラーの温度制御領域間を移動させることによって、所望のサーマルサイクルを行うことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−136250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたチップは、オイルおよび反応液を密閉空間に充填されている。そのため、これらを充填する操作をおこなう際に、気泡も一緒に充填されてしまう場合があった。また、気泡を混入させずに充填することができても、充填された反応液やオイルに含まれる溶存気体などが原因となり、容器内に気泡を生じてしまう場合があった。
【0007】
チップ中で反応液を重力によって移動させる方式(以下、本明細書において、これを「昇降型」と称する場合がある。)のサーマルサイクラーによって、反応液のサーマルサイクルを行う場合、チップ内に気泡が存在すると、反応液のみならず気泡も重力の作用に基づいてチップ内を移動することになる。そのため、気泡が反応液の液滴の移動を妨げたり、気泡の移動によりチップ内にオイルの不要な流れを生じて、チップ内の温度制御が乱される場合があった。すなわち、昇降型の装置でサーマルサイクルを行う場合には、気泡がチップ内に存在すると、反応液に所望のサーマルサイクルを施すことができなくなることがあった。
【0008】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、チップ内に気泡が存在する場合でもサーマルサイクラーを用いて、試料に対して安定したサーマルサイクルを施すことができるバイオチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明にかかるバイオチップの一態様は、
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに隣り合い、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
重力に基づいて動作し、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを連通させ、または遮断する開閉機構と、
を有する。
【0011】
このようなバイオチップによれば、バイオチップ内に液体が存在する場合に、第1キャビティーまたは第2キャビティーのいずれか一方の内部に該気泡を回収することができる。そのため、他方のキャビティー内に気泡が存在しないようにすることができる。これにより、例えば、バイオチップ内に、オイルおよびPCR反応液を充填した場合に、前記他方のキャビティー内において、PCR反応液に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【0012】
[適用例2]
適用例1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーの間を開放または閉塞する可動栓を有することができる。
【0013】
本適用例のバイオチップによれば、バイオチップ内に気泡が存在する場合に、第1キャビティーおよび第2キャビティーのいずれかに、該気泡を確実に回収することができる。
【0014】
[適用例3]
適用例1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーの間を開放または閉塞する可動栓を有することができる。
【0015】
本適用例のバイオチップは、バイオチップ内に気泡が存在する場合に、該気泡を確実に第2キャビティー内に回収することができる。
【0016】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記第1キャビティーは、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを結ぶ方向を長手とする形状を有することができる。
【0017】
本適用例のバイオチップによれば、上記適用例のバイオチップの特徴を有するとともに、チップ内に異なる温度の領域を設けることが容易となる。
【0018】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記第1キャビティー内には、仕切り部材が形成され、
前記第1キャビティー内に、前記オイルが前記仕切り部材を周回できる経路を有することができる。
【0019】
本適用例のバイオチップによれば、バイオチップ内に気泡が存在する場合に、第1キャビティー内において気泡が移動する通路を規定することができる。これにより、例えば、バイオチップ内にオイルおよびPCR反応液の液滴を充填した場合であって、気泡が存在する場合に、気泡の通路と液滴の通路とを分離することができ、第1キャビティー内において、気泡によって液滴の移動が妨げられることを抑制することができる。
【0020】
[適用例6]
本発明にかかるバイオチップの一態様は、
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに連通路を介して連通し、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
前記第1キャビティーおよび前記連通路の間に形成され、前記第1キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から突出して形成された第1障壁と、
前記第2キャビティーおよび前記連通路の間に、前記第1障壁と平行に形成され、前記第2キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から、前記第1障壁の突出する方向とは反対の方向に突出して形成された第2障壁と、
を有し、
前記第1キャビティー、前記連通路、および前記第2キャビティーは連続する閉鎖空間となっており、
前記第1キャビティー側から前記連通路を通して、前記第1障壁および前記第2障壁に垂直な方向から、前記第2キャビティーを見たときに、前記第2キャビティーは、前記第1障壁および前記第2障壁によって遮蔽される。
【0021】
このようなバイオチップによれば、バイオチップ内に気泡が存在する場合においても、第1障壁および第2障壁の作用により、第2キャビティーの内部に気泡を回収し、当該気泡が第1キャビティー内に戻らないようにすることができる。これにより、例えば、バイオチップ内にオイルおよびPCR反応液の液滴を充填した場合であって、気泡が存在する場合に、第1キャビティー内において、液滴に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態のバイオチップ100の断面の模式図。
【図2】実施形態のサーマルサイクラー200を模式的に示す分解斜視図。
【図3】実施形態のサーマルサイクラー200を模式的に示す斜視図。
【図4】実施形態のバイオチップ100をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図5】実施形態のバイオチップ110を模式的に示す部分断面斜視図。
【図6】実施形態のバイオチップ110の断面の模式図。
【図7】実施形態のバイオチップ120の断面の模式図。
【図8】実施形態のバイオチップ130の断面の模式図。
【図9】実施形態のバイオチップ130をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図10】実施形態のバイオチップ140の断面の模式図。
【図11】実施形態のバイオチップ140をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図12】実施形態のバイオチップ150の断面の模式図。
【図13】実施形態のバイオチップの主要部が回転する様子を模式的に示す図。
【図14】実施形態のバイオチップの主要部を模式的に示す図。
【図15】実施形態のバイオチップ150をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図16】実施形態のバイオチップ150をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【図17】実施形態のバイオチップ150をサーマルサイクラー200に装填し、回転する様子を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。そのため、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で実施される各種の変形例も含む。なお、下記の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
1.第1実施形態
1.1.バイオチップ
図1は、本実施形態のバイオチップ100の断面の模式図である。本実施形態のバイオチップ100は、第1キャビティー10と、第2キャビティー20と、開閉機構30と、を有する。
【0025】
バイオチップ100は、サーマルサイクラー200(後述)に用いるバイオチップであって、サーマルサイクラー200の回転部210に形成された装着孔220に装填できる外形形状を有する。したがって、バイオチップ100の外形形状は、回転部210の装着孔220の形状に従って任意の形状を有することができる。バイオチップ100の大きさは、特に限定されないが、充填されるオイル等の液体の量、熱伝導率、内部に形成されるキャビティーの形状、および取り扱いの容易さの少なくとも1種を考慮して選択される。
【0026】
バイオチップ100の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えば単結晶シリコン、パイレックスガラス(パイレックスは登録商標))、および有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。バイオチップ100を、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)の反応容器(反応チップ)として使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、バイオチップ100は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、バイオチップ100をPCRの反応容器として用いる場合、バイオチップ100はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0027】
さらに、バイオチップ100の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。バイオチップ100の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、バイオチップ100の外部から、内部のキャビティー内を観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にバイオチップ100を用いる場合には、必要に応じて、バイオチップ100の材質を透明なものとすることができる。またなお、バイオチップ100をPCRの反応チップとして使用する場合には、バイオチップ100の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0028】
第1キャビティー10は、バイオチップ100の内部に形成された空洞である。第1キャビティー10の形状は、特に限定されない。第1キャビティー10の形状は、例えば、図1に示すような細長い形状とすることができる。第1キャビティー10が、細長い形状であると、例えば、第1キャビティー10内に温度の異なる領域が設けられるようにバイオチップ100を温度制御する際に、異なる温度の領域の間の距離を離間させやすくなる。また、第1キャビティー10が細長い形状を有すると、容器の体積に対して、容器の表面積の割合が大きくなるので、例えば、第1キャビティー10内にオイル等の液体が充填された場合に、熱の伝導の効率がよくなり、液体の温度調節を容易化することができる。本実施形態では、バイオチップ100において、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向が、長手となるように、第1キャビティー10の形状が細長くなっている。これによりバイオチップ100を、長手の方向がサーマルサイクラー200の中心からの放射方向と一致するように回転部210に装着した場合に、第1キャビティー10に、異なる温度の領域を設けることが容易となる。バイオチップ100において、第1キャビティー10が設けられる位置は、第2キャビティー20を設けうる限り限定されない。
【0029】
第1キャビティー10には、オイル等の液体を充填することができる。第1キャビティー10を形成するバイオチップ100の部位には、第1キャビティー10に液体を注入できるような機構が備えられていてもよい。このような機構としては、例えば、第1キャビティー10と外部とを連絡する孔およびこれを塞ぐ部材で構成されることができる。
【0030】
第1キャビティー10の機能の一つとしては、液体が充填されたときに、当該液体の反応室となることが挙げられる。例えば、第1キャビティー10は、オイルとPCR反応液とが充填された場合には、PCR反応液を反応させる空間となることができる。そして特に第1キャビティー10が細長い場合には、第1キャビティー10の中でPCR反応液を移動させることにより、PCR反応液にサーマルサイクルを施すことが容易となる。
【0031】
第2キャビティー20は、バイオチップ100の内部に形成された空洞である。第2キャビティー20は、第1キャビティー10に隣り合って設けられる。第2キャビティー20の形状は、特に限定されず、球状、円柱状などとすることができる。図示の例では、第2キャビティー20の形状は、直方体状の形状となっている。
【0032】
第2キャビティー20には、オイル等の液体を充填することができる。第2キャビティー20を形成するバイオチップ100の部位には、第2キャビティー20に液体を注入できるような機構が備えられていてもよい。このような機構としては、例えば、第2キャビティー20と外部とを連絡する孔およびこれを塞ぐ部材で構成されることができる。
【0033】
第2キャビティー20の機能の一つとしては、オイル等の液体が充填されたときに、第1キャビティー10または第2キャビティー20に存在する気泡を、第2キャビティー20内に回収することが挙げられる。例えば、第1キャビティー10内および第2キャビティー20内にオイルとPCR反応液の液滴とが充填され、かつ、気泡が混入している場合に、気泡を第2キャビティー20内に回収し、回収された気泡が第1キャビティー10に戻らないようにすることができる。換言すると、第2キャビティー20に充填された液体(オイル)が、気泡と入れ替わりに第1キャビティー10に移動することで、PCR反応液の移動の妨げとなる気泡を第1キャビティー10から除去し、PCR反応液の液滴に良好なサーマルサイクルを施すことができる。
【0034】
開閉機構30は、第1キャビティー10および第2キャビティー20を連通させ、または遮断することができる。開閉機構30は、重力に基づいて動作する。ここで「重力に基づいて動作する」とは、例えば、重力加速度によって直接に開閉の動作が生じることを含み、さらに、重力加速度に起因して生じる液体中の気泡の浮力や、開閉機構30を構成する部材の浮力または質量によって開閉の動作が生じることを含む表現である。バイオチップ100に対して重力加速度が加わる方向は、バイオチップ100の姿勢(重力加速度の方向に対する配置方向)によって変化させることができるため、例えば、バイオチップ100の姿勢を変化させることによって、開閉機構30を動作させることができる。
【0035】
バイオチップ100(図1)の例では、開閉機構30は、可動栓32を有し、当該可動栓32が、バイオチップ100に対して重力が作用する方向に応じて移動することによって、第1キャビティー10および第2キャビティー20の隣接部分が開放または閉塞される構造を有している。
【0036】
バイオチップ100の例では、開閉機構30は、可動栓32が、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向に沿って移動しうる態様を示しているが、可動栓32の動作の方向は、これに限定されない。可動栓32は、例えば、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向に対して交差する方向に沿って動作してもよい。このような可動栓32の移動方向や配置は、適宜選択されることができる。
【0037】
バイオチップ100においては、可動栓32は、可動栓32を支持する支持部34とともに、第2キャビティー20内に設けられている(図5参照)。可動栓32が、第1キャビティー10側に移動すると、第1キャビティー10と第2キャビティー20をつなぐ部分を閉塞することができる。これにより、第1キャビティー10および第2キャビティー20は、それぞれ独立した閉鎖空間となることができる。一方、可動栓32が、第2キャビティー20側に移動すると、第1キャビティー10と第2キャビティー20をつなぐ部分を開放することができる。これにより、第1キャビティー10および第2キャビティー20は、連通され、連続した閉鎖空間となることができる。
【0038】
そして、バイオチップ100においては、可動栓32は、充填されるオイル等の液体に対して浮力を有するような材質または構造を有している。このような可動栓32としては、例えば、樹脂の発泡体で形成されることや、中空の構造を有するものが挙げられる。したがって、バイオチップ100においては、内部に液体が充填された場合には、可動栓32は、重力に基づく浮力によって動作するものとなっている。
【0039】
1.2.サーマルサイクラー
図2は、本実施形態のサーマルサイクラーの回転部210を模式的に示す分解斜視図である。図3は、本実施形態のサーマルサイクラーの回転部210を模式的に示す斜視図である。
【0040】
本実施形態のバイオチップは、PCR反応容器として使用される場合には、サーマルサイクラーに装填されて使用されることにより、PCR反応液に対して、極めて良好なサーマルサイクルを行うことができる。
【0041】
サーマルサイクラーは、バイオチップの姿勢を変化させ、かつ、第1キャビティー10に対して熱を供給できる回転部210を有する。以下に説明するサーマルサイクラーは、このような機構を有するサーマルサイクラーの一例である。なお、このようなサーマルサイクラーを、本明細書では、「昇降型」のサーマルサイクラーという場合がある。
【0042】
サーマルサイクラーは、図2および図3に示すように、中心軸Rを有する円筒状の形状の回転部210を有し、図示しない駆動機構(モーター等)によって、回転部210が中心軸Rの周りを回転する構造を有している。また、図4に示すように、回転部210は、中心軸R付近、および円筒状の周辺部にそれぞれ温度調節部211を有している。温度調節部211の設けられる数は、特に限定されない。温度調節部211は、適宜円環状に形成されることができる。すなわち、温度調節部211の数を調節することにより、所望のサーマルサイクルを実現することができ、例えば、温度調節部211の数に応じて2水準の温度でのサーマルサイクルや、3水準の温度でのサーマルサイクルを実現することができる。温度調節部211としては、発熱体(ヒーター等)や、吸熱体(ペルチェ素子など)とすることができる。また、各温度調節部211に設定される温度についても適宜設定されることができる。
【0043】
回転部210は、バイオチップを装填することができる装着孔220を有する。図示の例では、装着孔220は、回転部210の円筒形状の外周面に複数形成されている。なお装着孔220が形成される数は限定されない。
【0044】
バイオチップは、サーマルサイクラーの回転部210の装着孔220に装填されることにより、バイオチップの部分ごとに異なる温度となるように温度調節されることができる。また、バイオチップが装着孔220に装填され、サーマルサイクラーの回転部210が回転されることによって、バイオチップの重力加速度の方向に対する姿勢を変化させることができる。なお、この場合、回転部210の回転の速度は、バイオチップに印加される遠心力が大きくなりすぎない程度であることが好ましく、例えば、1rpm以上10rpm以下が好ましい。しかし、バイオチップに遠心力を印加させたい場合は、回転部210の回転の速度はこの限りでない。
【0045】
そして、バイオチップ内にオイルおよびPCR反応液の液滴が充填された状態で、サーマルサイクラーの回転部210に装填して、回転部210を回転させると、オイル内に形成されたPCR反応液の液滴が、重力に基づいて、バイオチップ内を移動することとなる。なお、この場合、バイオチップの重力加速度の方向に対する姿勢を変化させるために、中心軸Rは、重力加速度の方向と平行とならないように設置される。
【0046】
1.3.気泡回収の手法
図4は、本実施形態のバイオチップ100をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。図示の例では、中心軸Rは、重力の方向に対して直交しており、図において上側が位置エネルギーの高い位置となるように描かれている。また、回転部210の回転の方向は中心軸Rの周りに時計回りに回転するものとする。そして、以下、回転部210が回転しているときにバイオチップ100が存在する位置について述べる場合には、図における鉛直方向上向きを角度0°とし、0°から時計回り方向に一回転で360°として角度を用いて表現するものとする。以下の説明における上下は、図における上下方向と一致するものとする。
【0047】
以下では、バイオチップ100にオイルおよびPCR反応液wが充填され、第1キャビティー10内に気泡vが存在する場合について述べる。オイルの種類としては、PCR反応液wよりも比重が小さく、PCR反応液wと相溶しないものが用いられる。PCR反応液wは、例えば、標的核酸(増幅させたい核酸)、標的核酸を増幅するためのプライマー(核酸)、核酸増幅反応を行う酵素、増幅産物量を測定するための蛍光試薬(例えばSYBR GREEN(商標))、および、必要な場合には他の核酸などを含む液体である。そして、バイオチップ100内では、オイル中にPCR反応液wが液滴となる形態で液液相分離し、さらに、液体(オイルおよびPCR反応液w)と、気泡vとが気液相分離しているものとする。
【0048】
まず、回転部210の0°の位置にバイオチップ100が存在する状態から説明する。なお図4において、PCR反応液は、符号wで表され、気泡は、符号vで表されている。
【0049】
バイオチップ100が0°の位置にある場合、可動栓32および気泡vは、ともに浮力を有している。そのため、可動栓32は、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間を開放し、両者は連通する空間となっている。そのため、気泡vは、浮力によって第1キャビティー10から第2キャビティー20に移動する。また、気泡vが第2キャビティー20に存在する場合には、そのまま第2キャビティー20に留まる。一方、このとき、PCR反応液wは、オイルよりも比重が大きいため第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端に移動する。そして、回転部210が時計回りに回転し、バイオチップ100が90°の位置に達するまでは、可動栓32は動作せず、気泡vは、第2キャビティー20内の上壁面に沿う位置に存在し、PCR反応液wは、第1キャビティー10の下壁面に沿う位置に存在することになる。なお、バイオチップ100が0°から90°の間の位置であって、第1キャビティー10から第2キャビティー20に気泡が移動できない状態(例えば図4の60°の位置)にあるときに、第1キャビティー10内に気泡が発生した場合には、当該気泡は、回転部210がさらに時計回りに回転して、バイオチップ100が270°から0°(360°)の位置に来たときに第2キャビティー20に移動される。
【0050】
回転部210の回転により、バイオチップ100の位置が90°を過ぎると、可動栓32は、第1キャビティー10側に移動される方向の浮力を受けることになる。そして、少なくとも180°の位置に達するまでに、可動栓32が移動して、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間を閉塞する。可動栓32が移動するタイミングは、90°から180°の間であればよく、どの位置で移動するようにするかは、適宜設計されることができる。また、この場合、第1キャビティー10および第2キャビティー20の内壁面の曲率等を調節することによって、可動栓32が開放している間に、気泡vが連通部に到達しないように設計することもできる。
【0051】
バイオチップ100が、180°の位置まで来ると、第1キャビティー10と第2キャビティー20の間が閉塞しているため、第2キャビティー20にある気泡vは、浮力によって第1キャビティー10に移動することができず、第2キャビティー20に留まり、他方、第1キャビティー10にあるPCR反応液wは、第2キャビティー20に落下することなく、第1キャビティー10に留まる。
【0052】
そしてさらに回転部210が時計回りに回転し、バイオチップ100が、180°から270°の位置に達するまでは、可動栓32は動作せず、気泡vは、第2キャビティー20内の上壁面に沿う位置に存在し、PCR反応液は、第1キャビティー10の下壁面に沿う位置に存在することになる。なお、バイオチップ100が180°から270°の間の位置にあるときに、第1キャビティー10内に気泡が発生した場合には、当該気泡は、回転部210がさらに時計回りに回転して、バイオチップ100が270°から0°(360°)の位置に来たときに第2キャビティー20に移動される。
【0053】
続いて、バイオチップ100の位置が、270°を過ぎると、可動栓32は、第2キャビティー20側に移動される方向の浮力を受けることになる。そして、少なくとも0°の位置に達するまでに、可動栓32が移動して、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間を開放する。可動栓32が移動するタイミングは、270°から0°(360°)の間であればよく、どの位置で移動するようにするかは、適宜設計されることができる。
【0054】
以上のようにバイオチップ100では、回転部210が回転して、0°の位置に達するごとに、気泡vが第2キャビティー20に移動し、当該気泡vは、その後第1キャビティー10に移動することがないものとなっている。すなわち、バイオチップ100は、バイオチップ100内に存在する気泡vを、第2キャビティー20内に回収して第1キャビティー10内に戻さないようにすることができる。
【0055】
以上ではバイオチップ100がサーマルサイクラーの回転部210に装填され、回転部210の回転によって、第1キャビティー10内の気泡vが除去されるという効果を例示したが、この効果は、例示したサーマルサイクラーによるバイオチップ100の姿勢の変化によって生じるだけではなく、他の方法によってバイオチップ100の重力加速度の方向に対する姿勢を変化させることができれば達成されることは容易に理解されよう。
【0056】
また、上記の例では、バイオチップ100は、第1キャビティー10の中心部および第2キャビティー20の中心部を結ぶ直線の方向が、第1キャビティー10の細長い形状の長手の方向となっている。そしてサーマルサイクラーの回転部210には、外周に沿う円環状の温度調節部211および中心部の温度調節部211を備えている。そのため、バイオチップ100の第1キャビティー10の各位置における温度が異なるように設定することができる。そして、上記例では、PCR反応液wをバイオチップ100内に導入しており、PCR反応液wも第1キャビティー10内で移動することができる。そのため、このような態様を採れば、PCR反応液wに対するサーマルサイクルを実現することができる。すなわち、バイオチップ100によれば、気泡vを回収しつつPCR反応液wに対してサーマルサイクルを施すことができる。そのため、PCR反応液wの第1キャビティー10内における移動が、気泡vによって妨害されることが軽減され、より安定したサーマルサイクルをPCR反応液wに施すことができる。
【0057】
1.4.バイオチップの変形
以下に変形例を述べるが、上述の実施形態で述べたと同様の構成については同じ符号を付して詳しい説明は省略する。また、以下の変形例で述べる構成において、上述の実施形態と同じ符号で示された構成は、同様の作用機能を有することができる。
【0058】
1.4.1.第1キャビティーの変形
図5は、第1キャビティー10を変形したバイオチップ110を模式的に示す部分断面斜視図である。図6は、バイオチップ110の断面の模式図である。図7は、第1キャビティー10を変形したバイオチップ120の断面の模式図である。
【0059】
本実施形態のバイオチップは、第1キャビティー10内に仕切り部材12を有することができる。図5および図6に示すように、バイオチップ110は、第1キャビティー10内に、仕切り部材12が形成されている。
【0060】
仕切り部材12は、第1キャビティー10の内壁の離間した2箇所を接続するように形成される。すなわち、仕切り部材12は、第1キャビティー10の内壁の一部と、当該内壁の一部と離間した他の一部とを繋ぐように形成される。したがって、第1キャビティー10は、仕切り部材12によって、ループ状の空洞となることができる。すなわち、仕切り部材12が形成された第1キャビティー10には、仕切り部材12を周回する経路が形成される。このような周回する経路は、複数形成されてもよい。すなわち、図7に示すように、複数の仕切り部材12によって、ループ状となる経路を複数有する空洞となることができる。仕切り部材12は、バイオチップ110と同一の材質で形成されることができる。
【0061】
バイオチップ110およびバイオチップ120は、第1キャビティー10に仕切り部材12が形成されている。そのため、第1キャビティー10内に、オイル、PCR反応液w、および気泡v(気相)が存在する場合であって、かつ、前述のサーマルサイクラーの回転部210の90°または270°の位置において気泡vが移動する経路およびPCR反応液wの移動する経路の位置関係が、重力の方向に対して互いに上下となるように回転部210に装填された場合に、気泡vが移動する経路とPCR反応液wの移動する経路とを分離することができる(図9および図11参照)。これにより、気泡vおよびPCR反応液wを移動させる際に、気泡vおよびPCR反応液wとが直接すれ違うことなく移動させることができる。そのため、PCR反応液wの第1キャビティー10内における移動が、気泡vによって妨害されることがさらに軽減され、より安定したサーマルサイクルをPCR反応液wに施すことができる。また、気泡vおよびPCR反応液wとが直接すれ違うことがなくなるため、気泡vが移動する経路およびPCR反応液wの移動する経路をいずれも細くすることができる。これにより、気泡vまたはPCR反応液wの移動にともなうオイルの移動(流れ)を小さくすることができ、第1キャビティー10において設定した温度分布を乱すことが抑制され、PCR反応液wに対するサーマルサイクルの精度をより向上することができる。
【0062】
バイオチップが仕切り部材12を有する場合には、さらに、次のような変形が可能である。図8は、第1キャビティー10を変形したバイオチップ130の断面の模式図である。バイオチップ130は、第1キャビティー10に、上述の仕切り部材12を有し、形成されたループ状の経路にクランク部14が形成されている。クランク部14は、図示の例では、第1キャビティー10の第2キャビティー20側と、第1キャビティー10の長手の方向の中央付近の2箇所に形成されている。第1キャビティー10にクランク部14が形成されることにより、以下のような効果が得られる。
【0063】
図9は、バイオチップ130をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。図9に示すように、回転部210にバイオチップ130を装填して、サーマルサイクラー200の回転部210を回転させる場合、PCR反応液wが第1キャビティー10内において滞在する位置および該位置に滞在する時間を制御することができる。すなわちクランク部14の形状およびクランク部14が設けられる位置を調節することによって、PCR反応液wを、回転部210の中心軸Rからの距離の異なる位置に一定の時間滞在させることができる。図9に示す例では、バイオチップ130が330°の位置から0°を経由して60°の位置に回転移動する間は、中心軸Rに近接する位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端)に滞在し、90°から210°の位置では、第1キャビティー10の中央付近のクランク部14に滞在する。そして、210°から300°までの位置では、中心軸Rから遠い位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20側の端)に滞在する。なお、この場合でも、第1キャビティー10に気泡が発生した場合には、上述の実施形態同様、開閉機構によって、気泡は第2キャビティー20に回収される。図示の例では、60°の位置で、第1キャビティー10に気泡vが発生した場合を示しており、当該気泡vは、0°(360°)付近の位置で第2キャビティー20に回収される例を示している。
【0064】
この場合において、図示のように、サーマルサイクラー200の温度調節部211が、中心軸Rに近接する位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端)、第1キャビティー10の中央付近、および中心軸Rから遠い位置(第1キャビティー10の第2キャビティー20側の端)に設けられていると、PCR反応液wに、回転部210が一回転する間に3水準の温度制御をより正確な時間配分で行うことができる。なお、この場合、各温度調節部211に設定される温度は、PCRが行える範囲で任意であるが、例えば、94℃、55℃、および73℃とすることができる。PCR反応液wが、この順で温度制御されるように、温度調節部211や第1キャビティー10におけるクランク部14の配置を選択すれば、PCR反応の熱変性、アニーリング、および伸張反応をさらに好適に行うことができる。
【0065】
1.4.2.開閉機構の変形
図10は、開閉機構30を変形したバイオチップ140を模式的に示す断面図である。図11は、バイオチップ140をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。
【0066】
変形例のバイオチップ140が有する開閉機構30は、弁36である。弁36は、第1キャビティー10側から第2キャビティー20側に向かって開放され得、第2キャビティー20側から第1キャビティー10側に向かって閉塞されるように設けられている。弁36は、重力に基づいて動作する。詳しくは、弁36は、バイオチップ140に気泡が存在する場合に、気泡の浮力によって動作する。なお、バイオチップ140の第1キャビティー10には、仕切り部材14が形成されている。弁36は、適度な弾性を有する材質で形成される。
【0067】
以下では、バイオチップ140にオイルおよびPCR反応液wが充填され、第1キャビティー10内に気泡vが存在する場合について述べる。オイル、PCR反応液w、および気泡vは、「1.3.気泡回収の手法」で述べたと同様である。
【0068】
図11を用いて、まず、回転部210の0°の位置にバイオチップ140が存在する状態から説明する。なお図12においても、PCR反応液は、符号wで表され、気泡は、符号vで表されている。
【0069】
バイオチップ140が0°の位置にある場合、弁36は、気泡vの浮力によって押し上げられて開放され、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間が連通するとともに、気泡vが浮力によって第1キャビティー10から第2キャビティー20に移動する。また、気泡vが第2キャビティー20に存在する場合には、そのまま第2キャビティー20に留まる。一方、このとき、PCR反応液wは、オイルよりも比重が大きいため第1キャビティー10の第2キャビティー20とは反対側の端に移動する。そして、回転部210が時計回りに回転するか、気泡vが第2キャビティー20に移動して第1キャビティー10内に存在しなくなったときに、弁36は閉塞する(図11の30°および60°の位置を参照)。このとき、0°の位置で回収された気泡vは、第2キャビティー20内の上壁面に沿う位置に存在し、PCR反応液は、第1キャビティー10の下壁面に沿う位置に存在することになる。なお、図示に例において、バイオチップ140が0°付近以外の位置であって、第1キャビティー10から第2キャビティー20に気泡が移動できない状態にあるときに、第1キャビティー10内に気泡が発生した場合には、当該気泡は回転部210がさらに時計回りに回転して、バイオチップ100が0°(360°)付近の位置に来たときに第2キャビティー20に移動される。図示の例では、60°の位置で、第1キャビティー10に気泡vが発生した場合を示しており、当該気泡vは、0°(360°)付近の位置で第2キャビティー20に回収される例を示している。
【0070】
また、バイオチップ140の第1キャビティー10には、仕切り部材14が設けられているため、第1キャビティー10に、気泡vおよびPCR反応液wの両者が存在する場合には、ループ状の流路において互いに反対側の経路を通って移動する。これにより、PCR反応液wの第1キャビティー10内における移動が、気泡vによって妨害されることがさらに軽減され、より安定したサーマルサイクルをPCR反応液wに施すことができる点等は上記「1.4.1.第1キャビティーの変形」で述べたと同様である。
【0071】
回転部210がさらに回転して、バイオチップ100の位置が180°に達すると、PCR反応液wは、弁36を第2キャビティー20に向かって開放する方向に重力加速度を受ける。しかし、オイルとPCR反応液wとの比重差は、オイルと気泡vの比重差よりも小さいため、この位置では、弁36は開放されず、PCR反応液wは、第1キャビティー10内に留まる。弁36が開放されるために必要な力は、オイルおよびPCR反応液wの種類、弁36の材質の弾性、弁36大きさ等を適宜選択することによって設計されることができる。
【0072】
そして回転部210がさらに時計回りに回転し、バイオチップ100が、再度0°(360°)の位置に達し、それまでの一回転のうちに気泡が生じていた場合には、弁36が動作して、新たに気泡が第2キャビティー20に回収される。
【0073】
以上のようにバイオチップ140では、回転部210が回転して、0°の位置に達するごとに、気泡vが第2キャビティー20に移動し、移動した気泡vは、その後第1キャビティー10に移動することがないものとなっている。すなわち、バイオチップ140は、バイオチップ140内に存在する気泡vを、第2キャビティー20内に回収して第1キャビティー10内に戻さないようにすることができる。
【0074】
本実施形態のバイオチップは、昇降型のサーマルサイクラー200を使用するときに、バイオチップ10内に気泡が存在する場合でも、重力に基づいて開閉機構30が動作することによって、第2キャビティー20の内部に気泡を回収することができる。そのため、第1キャビティー10内に気泡が存在しないようにすることができる。これにより、例えば、オイルおよびPCR反応液を充填した場合に、第1キャビティー10内において、PCR反応液に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【0075】
2.第2実施形態
以下に第2実施形態を述べるが、上述の第1実施形態で述べたと同様の構成については同じ符号を付して詳しい説明は省略する。また、第2実施形態で述べる構成において、第1実施形態と同じ符号で示された構成は、同様の作用機能を有することができる。
【0076】
図12は、本実施形態のバイオチップ150の断面の模式図である。図13および図14は、バイオチップの主要部を模式的に示す図である。図15、図16および図17は、バイオチップ150をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。
【0077】
本実施形態のバイオチップ150は、昇降型のサーマルサイクラーに用いるバイオチップであって、第1キャビティー10と、第2キャビティー20と、第1障壁41と、第2障壁42と、を有し、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間に連通路40が形成されている。
【0078】
第1キャビティー10および第2キャビティー20は、「1.第1実施形態」で述べたと同様である。連通路40は、第1キャビティー10および第2キャビティー20の間に形成されている。連通路40は、第1キャビティー10および第2キャビティー20を連通させている。連通路40の形状は特に限定されない。
【0079】
第1障壁41は、第1キャビティー10および連通路40の間に設けられ、第1キャビティー10および連通路40を規定する内壁面から突出して形成された壁である。第1障壁41は、第1キャビティー10および連通路40を遮断することなく、両者の連通を保つように形成される。第1障壁41は、バイオチップ150と同一の材質で形成されることができる。
【0080】
第2障壁42は、第2キャビティー20および連通路40の間に設けられ、第2キャビティー20および連通路40を規定する内壁面から、第1障壁41の突出する方向とは反対の方向に突出して形成された壁である。第2障壁42は、第2キャビティー20および連通路40を遮断することなく、両者の連通を保つように形成される。第2障壁42は、バイオチップ150と同一の材質で形成されることができる。
【0081】
第1障壁41および第2障壁42は、第1キャビティー10側から連通路40を通して、第1障壁41および第2障壁42に垂直な方向から、第2キャビティー20を見たときに、第2キャビティー20が、第1障壁41および第2障壁42によって遮蔽される位置関係となるように設けられる。換言すると、第1キャビティー10および第2キャビティー20は、連通路40を通して見通せないようになっており、第1障壁41および第2障壁42が互いに反対方向に突出した衝立のようになっている。
【0082】
第1障壁41および第2障壁42の作用についてより詳細に説明するために、図13および図14を参照する。図13および図14は、バイオチップの主要部(連通路40、第1障壁41および第2障壁42付近)が回転する様子を示す図であり、第1キャビティー10および第2キャビティー20を単純化して描いた図である。図13および図14においても、バイオチップ内には、オイルおよびPCR反応液wが充填されている。そして、バイオチップ内に気泡v1およびv2が存在するものとする。オイル、PCR反応液wおよび気泡v1、v2は、「1.3.気泡回収の手法」で述べたと同様とする。
【0083】
まず図13に基づいて、気泡v1、気泡v2、およびPCR反応液wの動きを説明する。0°の位置において、図示のように、気泡v1は、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2およびPCR反応液wは、連通路40に存在している。この状態から、少しでも0°の位置から時計回りに回転すると、気泡およびPCR反応液はバイオチップ内で移動して、45°の位置の(b)で示すように、気泡v1およびPCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2は、連通路40に存在するようになる。その後、気泡およびPCR反応液は、90°の位置までは移動せず、90°を過ぎると移動することになる。
【0084】
図13の(d)は、バイオチップが90°の位置を過ぎた直後付近の様子を示している。このとき、気泡v2およびPCR反応液wは、それぞれ、第2キャビティー20の内壁および第1キャビティー10の内壁に沿って移動するが、気泡v1は、第1障壁41に沿って移動し、第1障壁41が途切れるところで、浮力によって第2障壁42の連通路40側の壁面に浮上して、その後第2障壁42に沿って移動する(図13の(d)中破線で示した。)。そうすると、135°の位置の(e)で示すように、気泡v1は、連通路40に存在し、PCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2は、第2キャビティー20に存在するようになる。その後270°の位置まで、バイオチップが回転すると、図13(h)に示すように、気泡v1およびPCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2は、第2キャビティー20に存在するようになる。
【0085】
図13の(i)は、バイオチップが270°の位置を過ぎた直後付近の様子を示している。このとき、気泡v1は、第1キャビティー10の内壁に沿って移動する。それとともに、気泡v2は、第2障壁42に沿って移動し、第2障壁42が途切れるところで、浮力によって、第1障壁41の連通路40側の壁面に浮上し、その後第1障壁41に沿って移動する。またそれとともにPCR反応液wは、第1障壁41に沿って移動し、第1障壁41が途切れるところで、重力によって第2障壁42の連通路40側の壁面に落下して、その後第2障壁42に沿って移動する。そうすると、315°の位置の(j)で示すように、気泡v1は、第1キャビティー10内に存在し、気泡v2およびPCR反応液wは、連通路40に存在するようになり、もとの0°の位置における状態となる。
【0086】
以上のように、気泡およびPCR反応液は、いずれも、自身が最初に存在したキャビティー内を移動することが理解されよう。そして、次に、気泡v2のみを第2キャビティー20に移動させる方法について、図14を用いて説明する。
【0087】
図14の(e)は、図13の(e)に対応し、図13における時計回りの回転によって90°を超え、180°までの間の位置における状態を示している。ここで、バイオチップを逆方向(反時計方向)に回転させ、90°の位置を跨いで、90°よりも小さい角度まで回転させた状態が、図14の(k)である。この位置において、気泡v2およびPCR反応液wは、それぞれ、第2キャビティー20の内壁および第1キャビティー10の内壁に沿って移動するが、気泡v1は、第2障壁42に沿って移動し、第2障壁42が途切れるところで、浮力によって第2キャビティー20の内壁に向かって浮上する。これにより、気泡v1および気泡v2は、第2キャビティー20に存在するようになり、PCR反応液wは、第1キャビティー10内に存在するようになる。バイオチップの回転方向を時計回りから反時計回りに反転させて、当該現象が発生した後は、再び回転方向を反転させてバイオチップの回転方向を時計回りとして回転させる。そうすると、90°の位置を超え、180°までの間の位置で、図14の(m)に示すような状態になる。そして、その後は、気泡v1および気泡v2は、いずれも、上述した気泡v2が移動する経路と同様の経路を通って、第2キャビティー20内で移動し、第1キャビティー10には戻らないように移動することとなる。
【0088】
このように、回転方向を特定の位置で反転させることによって、第1キャビティー10内の気泡v1を第2キャビティー20内に回収することができる。そして、回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。なお、一つのサーマルサイクラーの回転部210に、複数のバイオチップを搭載できる場合であって、2つのバイオチップが中心軸Rに対して対称に設けられる場合は、一方のバイオチップに対して、気泡の回収を施すために、90°の位置を跨ぐ上記の逆転操作を行うと、他方のバイオチップにおいては、270°の位置を跨ぐ逆転操作が行われることになる。しかし、この場合は、オイルとPCR反応液の比重差のほうが、オイルと気泡の比重差よりも小さいため、PCR反応液の移動速度のほうが気泡の移動速度よりも小さく、当該他方のバイオチップにおいて、PCR反応液が第2キャビティー20に移動することを避けることができる。
【0089】
ここで、上記のような気泡およびPCR反応液のバイオチップ内における移動を行うことができるための条件は、図13の(d)および(i)に現れている。図13の(d)および(i)における気泡およびPCR反応液の移動において、一方の障壁が途切れた後、移動する先に、他方の障壁があればよいことが分かる。すなわち、第1障壁41および第2障壁42が、第1キャビティー10側から連通路40を通して、第1障壁41および第2障壁42に垂直な方向から、第2キャビティー20を見たときに、第2キャビティー20が、第1障壁41および第2障壁42によって遮蔽される位置関係となるように設けられることが条件となる。また逆に、第2障壁42および第1障壁41が、第2キャビティー20側から連通路40を通して、第2障壁42および第1障壁41に垂直な方向から、第1キャビティー10を見たときに、第1キャビティー10が、第2障壁42および第1障壁41によって遮蔽される位置関係となるように設けられることとしてもよい。
【0090】
バイオチップの主要部の構造が、このような構造を有することにより、バイオチップの反転操作を含む回転方法によって、開閉機構などを要することなく、第1キャビティー10内の気泡v1を第2キャビティー20内に回収することができる。そして、回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。
【0091】
図15は、上述のバイオチップ150をサーマルサイクラーの回転部210に装填し、回転する様子を模式的に示す図である。図15に示すように、バイオチップ150が上述した主要部の構造を有するため、時計回りの回転によって、開閉機構などを要することなく、第2キャビティー20内に回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。それとともに、時計回りの回転によって、第1キャビティー10内のPCR反応液wに対して所望のサーマルサイクルを施すことができる。
【0092】
図16は、回転部210を90°の位置を跨いで反転させる様子を示している。図16に示すように、バイオチップ150は、90°の位置を跨いで反時計回りに回転させることにより、開閉機構などを要することなく、第1キャビティー10内の気泡を第2キャビティー20内に回収することができる。そして、図17に示すように、再度回転方向を反転させ、時計回りの回転を行うと、回収された気泡を、第2キャビティー20から第1キャビティー10に戻すことなく、第2キャビティー20内に留めておくことができる。
【0093】
なお、複数のバイオチップ150を装填できるサーマルサイクラー200によって、バイオチップ150を回転させる場合において、時計回りの回転の途中で、いずれかのバイオチップ150の第1キャビティー10に気泡が発生した場合には、当該気泡が発生したバイオチップ150が、90°付近の位置に来た際に、90°の位置を跨ぐ反転操作を行うことにより、当該気泡は回収することができる。
【0094】
本実施形態のバイオチップ150は、昇降型のサーマルサイクラー200を使用するときに、バイオチップ150内に気泡が存在する場合でも、第1障壁41および第2障壁42の構成および回転方向の逆転操作の作用により、第2キャビティー20の内部に気泡を回収し、当該気泡が第1キャビティー10内に戻らないようにすることができる。そのため、第1キャビティー10内に気泡が存在しないようにすることができる。これにより、例えば、オイルおよびPCR反応液を充填した場合に、第1キャビティー10内において、PCR反応液に対して安定したサーマルサイクルを施すことができる。
【0095】
以上に述べた実施形態および各変形実施形態は、任意の複数の形態を適宜組み合わせることが可能である。これにより、組み合わされた実施形態は、それぞれの実施形態が有する効果または相乗的な効果を奏することができる。
【0096】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0097】
10…第1キャビティー、12…仕切り部材、14…クランク部、20…第2キャビティー、30…開閉機構、32…可動栓、34…支持部、36…弁、40…連通路、41…第1障壁、42…第2障壁、100,110,120,130,140,150…バイオチップ、200…サーマルサイクラー、210…回転部、211…温度調節部、220…装着孔、R…中心軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに隣り合い、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
重力に基づいて動作し、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを連通させ、または遮断する開閉機構と、
を有する、バイオチップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーの間を開放または閉塞する可動栓を有する、バイオチップ。
【請求項3】
請求項1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティー側から前記第2キャビティー側に向かって開放され、前記第2キャビティー側から前記第1キャビティー側に向かって閉塞される弁を有する、バイオチップ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記第1キャビティーは、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを結ぶ方向を長手とする形状を有する、バイオチップ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記第1キャビティー内には、仕切り部材が形成され、
前記第1キャビティー内に、前記オイルが前記仕切り部材を周回できる経路を有する、バイオチップ。
【請求項6】
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに連通路を介して連通し、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
前記第1キャビティーおよび前記連通路の間に形成され、前記第1キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から突出して形成された第1障壁と、
前記第2キャビティーおよび前記連通路の間に、前記第1障壁と平行に形成され、前記第2キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から、前記第1障壁の突出する方向とは反対の方向に突出して形成された第2障壁と、
を有し、
前記第1キャビティー、前記連通路、および前記第2キャビティーは連続する閉鎖空間となっており、
前記第1キャビティー側から前記連通路を通して、前記第1障壁および前記第2障壁に垂直な方向から、前記第2キャビティーを見たときに、前記第2キャビティーは、前記第1障壁および前記第2障壁によって遮蔽される、バイオチップ。
【請求項1】
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに隣り合い、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
重力に基づいて動作し、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを連通させ、または遮断する開閉機構と、
を有する、バイオチップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーの間を開放または閉塞する可動栓を有する、バイオチップ。
【請求項3】
請求項1において、
前記開閉機構は、前記第1キャビティー側から前記第2キャビティー側に向かって開放され、前記第2キャビティー側から前記第1キャビティー側に向かって閉塞される弁を有する、バイオチップ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記第1キャビティーは、前記第1キャビティーおよび前記第2キャビティーを結ぶ方向を長手とする形状を有する、バイオチップ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記第1キャビティー内には、仕切り部材が形成され、
前記第1キャビティー内に、前記オイルが前記仕切り部材を周回できる経路を有する、バイオチップ。
【請求項6】
オイルが充填された第1キャビティーと、
前記第1キャビティーに連通路を介して連通し、前記オイルが充填された第2キャビティーと、
前記第1キャビティーおよび前記連通路の間に形成され、前記第1キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から突出して形成された第1障壁と、
前記第2キャビティーおよび前記連通路の間に、前記第1障壁と平行に形成され、前記第2キャビティーおよび前記連通路を規定する内壁面から、前記第1障壁の突出する方向とは反対の方向に突出して形成された第2障壁と、
を有し、
前記第1キャビティー、前記連通路、および前記第2キャビティーは連続する閉鎖空間となっており、
前記第1キャビティー側から前記連通路を通して、前記第1障壁および前記第2障壁に垂直な方向から、前記第2キャビティーを見たときに、前記第2キャビティーは、前記第1障壁および前記第2障壁によって遮蔽される、バイオチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−152052(P2011−152052A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13768(P2010−13768)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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