説明

バイオディーゼル燃料の検出方法及び検知管

【課題】バイオディーゼル燃料の検査を簡易迅速に行なう。
【解決手段】検知管10は測定管11と、測定管11内部に配置された検知剤25とを有する。検知剤25は、フロログルシノールと酸が吸着された担体粒子であり、検知剤25にFAME(脂肪酸メチルエステル)を含む試料が接触すると、検知剤25が白から桃〜赤色に呈色する。バイオディーゼル燃料は軽油にFAMEが添加されたものであるから、検知剤25が呈色するか否かで、試料にバイオディーゼル燃料が含まれるか否かを判断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオディーゼル燃料を簡易迅速に検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物油由来の燃料(バイオ燃料)として、植物油をメチルエステル化したもの(脂肪酸メチルエステル、以下FAMEと略す)を、軽油に混合したバイオディーゼル燃料が注目を集めている。
【0003】
経済産業省は、2007年4月、「揮発油等の品質確保に関する法律」の軽油規格の中に新たにFAME関係の規格を追加し、FAME非混合の軽油に対し、FAMEの割合が0.1質量%以下であること、FAME混合の軽油については、FAMEの割合が5.0質量%以下であることとした。これにより、従来のFAME非混合の軽油についても、FAMEの割合を把握することとなった。
【0004】
放火事件の現場においては、ガソリン、灯油、軽油が使用されることが多いが、バイオディーゼルの普及に伴い、今後は、バイオディーゼル燃料も使用されると考えられる。
【0005】
軽油中のFAME及び油脂の検出手段として、GC法(ガスクロマトグラフ)、IR法(赤外線分光法)、HPLC法(高速液体クロマトグラフ)等の分析手法がある。これらの分析手法によれば、FAME及び油脂の定量結果が得られる他、FAMEの組成などから原料由来解明に利用できる可能性がある。
【0006】
しかし、これらの手法は試料を分析機器のある実験室に持ち帰り分析操作を行なうため、運搬時間等を含めた場合、分析に長時間を要する。また、設備導入のための初期費用が非常に高額である。
【0007】
放火事件等の初期捜査では、使用された油成分の判定が短時間で要求される。そのため、放火事件等の現場における油の一次判定には石油検知管等が使用されるが、これらの検知管はFAMEには反応しないため、使用された油が軽油なのかバイオディーゼル燃料なのか判別できない。
【特許文献1】特開平09−145706号公報
【非特許文献1】石澤不二雄、「ガソリン、灯油等低沸点鉱物油の検知管開発について」科警研報告、第36巻、pp.244−246、1983
【非特許文献2】石澤不二雄、平野治夫、「新型石油検知管の開発」、火災学会論文集、Vol.55、pp.29−32、2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、試料にFAMEが含まれるか否かを短時間で簡易に検出する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討を行なった結果、フロログルシノールを酸の存在下でFAMEと反応させると、呈色することが分かった。フロログルシノールは、酸性条件で繊維や木材に含まれる成分であるリグニンと反応して呈色することから、リグニンの検出に利用されている。
この呈色反応は、フロログルシノールがリグニン中のアリル位と反応することで起こる。アリル基を有する化合物とフロログルシノールの酸性条件での反応を下記反応式(1)に示す。
【0010】
【化1】

【0011】
FAMEの化学構造中にもアリル位が存在するから、FAMEのアリル位がフロログルシノールと反応すると思われた。しかし、更に検討を重ねた結果、FAMEであっても、飽和脂肪酸に対して呈色反応が起こらず、不飽和脂肪酸のみに呈色反応が起こることから、フロログルシノールが不飽和脂肪酸の二重結合部分に反応することにより呈色すると推測される。
【0012】
係る知見に基づいてなされた本発明は、バイオディーゼル燃料の検出方法であって、粒子状の担体にフロログルシノールと酸とが吸着された検知剤を、液体試料に接触させ、前記検知剤の色変化を観察し、前記検知剤が呈色した場合に、前記液体試料にバイオディーゼル燃料が含有されたと判断するバイオディーゼル燃料の検出方法である。
本発明はバイオディーゼル燃料の検出方法であって、前記検知剤を透明な測定管に充填させておき、前記測定管の一端を前記液体試料に接触させた状態で、前記測定管の他端を吸引し、前記液体試料を前記測定管の内部に引き込んで前記検知剤に接触させるバイオディーゼル燃料の検出方法である。
本発明はバイオディーゼル燃料の検出方法であって、残燃物を溶剤に浸漬して油成分を抽出し、前記油成分が抽出された溶剤を、不飽和脂肪酸メチルエステルを吸着しない吸着材粒子の層を通して精製したものを前記液体試料とするバイオディーゼル燃料の検出方法である。
本発明はバイオディーゼル燃料検出用の検知管であって、測定管と、測定管内に配置された検知剤とを有し、前記検知剤は、フロログルシノールと酸とが吸着された粒子状の担体からなるバイオディーゼル燃料検出用の検知管である。
本発明は上記のように構成されており、軽油や灯油等の化石燃料は主成分が二重結合を持たない直鎖の炭化水素であるため、FAMEが添加されていないと、フロログルシノールは呈色しない。
従って、燃料やその残渣物に検知剤を接触させることで、燃料にFAMEが含まれているかを迅速に判断することができる。
【発明の効果】
【0013】
高価な分析機器を用いなくても簡易にFAMEの有無を検査し、試料にバイオディーゼル燃料が含まれるか否かを判断できる。検査に要する時間が1〜5分の短時間な上、試料の必要量も50μL〜400μL程度の小量で済む。検知管は持ち運びが容易だから、放火事件等の現場での検査が可能である。また、放火事件の現場だけでなく、実験室において未知試料を分析機器に導入する前に検査を行なえば、分析機器のカラムの選定等分析条件の決定にも役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1の符号10は本発明に用いる検知管の一例を示している。検知管10は、ガラス管等の細長で透明な測定管11を有している。
【0015】
測定管11の両端のうち、一方を入口側12他方を出口側13とすると、測定管11は、入口側12端部を溶封した状態で、溶封前の出口側13端部から、第一の栓21と、検知剤25と、第二の栓27とが記載した順番に充填された後、出口側13端部が溶融され、測定管11の内部空間が大気から遮断されている。
【0016】
尚、第一、第二の栓21、27は、測定管11を切断した時に、切断箇所から検知剤25が零れるのを防ぐためのものであり、綿等を用いる。第一、第二の栓21、27に検知剤25が直接接触するのを防止するために、検知剤25と第一、第二の栓21、27の間に保護材23、28を配置してもよい。保護材23、28は検知剤25と反応しない材料(例えば珪砂)を用いる。
【0017】
検知剤25は、粒子状の担体に試薬が吸着された物であり、試薬はフロログルシノールと、酸を有し、必要に応じてアルコール等が添加されている。検知剤25は白色又は薄黄色であるが、検知剤25がFAMEと接触すると、FAMEが酸とフロログルシノールと反応し、桃色〜赤色に呈色する。
【0018】
測定管11には吸引の目安となる指示部材29が設けられている。指示部材29は呈色前及び呈色後の検知剤25とは異なる色(例えば青色)に着色され、検知剤25と指示部材29との区別が目視で容易に可能になっている。ここでは指示部材29は測定管11内部の検知剤25と第二の栓27の間に配置したが、検知剤25の途中に設けてもよいし、測定管11の外壁に設けてもよい。
【0019】
次に、この検知管10に用いる液体試料の作成方法について説明する。
放火事件等の現場から採取した残焼物を、n−ペンタン等の有機溶剤に浸して油分を抽出する。油分を抽出した有機溶剤を濾過し、固形分を取り除いて液体試料とする。
【0020】
液体試料の色が濃く、呈色の判断が難しい場合には、検知管10での検出作業の前に、液体試料を精製する。精製法は特に限定されないが、一例を述べると、FAMEを吸着しない吸着材粒子(例えばシリカゲル、MgO3Si粒子)を、カラムやカートリッジ等の容器に充填しておき、液体試料を、充填された吸着剤粒子の層を通過させて不純物を除去する(液体クロマトグラフィー)。
【0021】
次に、検知管10で液体試料の検査を行なう工程について説明する。
測定管11の両端を切断し、出口側13の端部を吸引装置に接続し、入口側12の端部を液体試料に浸漬し、吸引装置で測定管11の内部を吸引して、液体試料を指示部材29の位置まで吸引する。
【0022】
この時、液体試料にFAMEが含まれていれば、検知剤25が白から桃〜赤色に呈色する。このように、本発明によれば放火事件にバイオディーゼル燃料が使用されたか否かを判別できる。
【0023】
液体試料の検査には、FAME用の検知管10と併用して、石油用検知管を用いてもよい。FAME用の検知管10が呈色せず、石油用検知管が呈色すれば、液体試料が、バイオディーゼル燃料以外の燃料を含むことが分かる。
【実施例】
【0024】
<検知剤の検討>
1.検知管
フロログルシノール2gを50%エタノールに溶解し、硫酸1mlを静かに加え混合して試薬を作製する。この試薬に、担体(シリカゲル、40〜60メッシュ)60gを添加、吸着させ、減圧乾燥を行う。減圧乾燥後、放冷し、エタノールを18ml添加して十分に攪拌を行ない、検知剤25とした。この検知剤25を、内径2.55mmの測定管11(ガラス管)に約20mmの長さで充填し、検知管10を作製した。
検知剤25の試薬濃度や担体粒度の異なる検知管10を数種類作製し、下記試料を用いた下記検知操作により、最適な試薬組成と担体粒度を求めた。
【0025】
2.試料
標準試料としてパルミチン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチルの混合溶液を調整した。尚、これらの標準試料は全て東京化成工業(株)が販売するものである。混合比はオレイン酸メチル:リノール酸メチル:リノレン酸メチルを容量比55:40:5で混ぜ、この3種混合溶液とパルミチン酸メチルを95:5で混合した。
【0026】
この混合比は、バイオディーゼル燃料を製造している民間会社(関東バイオエナジー(株)及びサンケァフューエルス(株))から提供を受けたFAMEの組成のおよそ平均となるように定めたものである。更に、上記2企業から提供を受けたFAMEを軽油と一定の割合で混合したものを数種類調整し、検出限界確認のための試料とした。
【0027】
3.検知操作
両端をカットした検知管10の、一端をガス採取器に取り付け、他端を液体試料に漬け、検知剤25全体に溶液が行き渡る程度に、ガス採取器のポンプのハンドルを少し引く、もしくは先端を溶液に漬け、溶液が浸透して指示部材29に達するまで待つ(およそ1分間)。検知剤25に溶液が浸漬したところで、呈色を確認する。
【0028】
4.結果
上記試料を用いた検知操作により、検知剤25に用いる酸の種類、フロログルシノールの濃度、担体(シリカゲル)の粒度を検討したところ、先ず、酸は発色のしやすさから硫酸が最適であることが分かった。
【0029】
試薬の混合比は、発色の効率、試薬の劣化、色判定のしやすさから、最適な組成は、シリカゲル:フロログルシノール:硫酸=240:8:1であった。
【0030】
また、シリカゲルの粒度は発色領域が長く、かつ、色が分散しないという点で40メッシュ以上60メッシュ以下が最適であった。また、検知管10での検査に必要な液体試料は50μL程度であった。
【0031】
<その他の油との反応>
FAME以外の試料として、バラ油、ベルガモット油、オレンジ油およびラベンダー油(和光純薬工業(株)から購入)と、紅花油、ごま油及びひまわり油(市販の食用油)について、検知剤25が呈色するか否かを調べたところ、検知剤25は、オレンジ油以外の植物油には目視にて呈色を確認できた。
【0032】
これらの植物油は不飽和脂肪酸を含有することから、検知剤25が二重結合を持つ化合物に反応することが分かる。尚、オレンジ油は不飽和脂肪酸を含有するが、オレンジ油自体が橙色であるため、検知剤25が橙色に着色され、呈色反応が起こったか否かの判断ができなかった。
【0033】
放火等で多く用いられるのはガソリン、灯油、又は軽油であり、これらの化石燃料についても、検知剤25が呈色するか否かを調べたところ、検知剤25は灯油、軽油には呈色しなかったが、ガソリンには呈色した。
【0034】
軽油や灯油は直鎖炭化水素を主成分とするためフロログルシノールは呈色しないが、ガソリンは二重結合を有する化合物(オレフィン)を含有するため、フロログルシノールと反応して呈色したと考えられる。しかし、ガソリンはFAMEとは異なる独特の臭気を持つ上、従来の石油検知管の色調で判別できる。
【0035】
<FAMEとの反応>
パルミチン酸メチル(炭素数16、二重結合数0)、オレイン酸メチル(炭素数18、二重結合数1)、リノール酸メチル(炭素数18、二重結合数2)、リノレン酸メチル(炭素数18、二重結合数3)を用い、FAMEに対し検知管10がどのように反応するのかを調べた。
【0036】
その結果、検知剤25は、化学構造中に二重結合を有するもの(オレイン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル)には呈色したが、二重結合を持たないもの(パルミチン酸メチル)には呈色しなかった。
【0037】
食用に使用される植物油の代表である菜種油、オリーブ油にはオレイン酸(炭素数18、二重結合数1)やリノール酸(炭素数18、二重結合数2)が多く含まれており、植物油や植物油由来のFAMEを検知管10に使用した時には、植物油中のこれらの脂肪酸が反応し、呈色すると考えられる。
【0038】
この反応原理では、二重結合を持つFAMEが多く含まれる場合に検知管が濃く反応するが、二重結合を持たないFAMEが多い場合には反応が鈍くなると考えられる。また、植物の種類により脂肪酸の組成は異なり、例えばココナッツ油のように、飽和脂肪酸が約8割を占める場合もある。
【0039】
バイオディーゼル燃料の原料として使用する植物油は、菜種油、ひまわり油、大豆油、パーム油など各国で異なり、日本ではひまわり油や廃食油等、二重結合を持つ油が多く使用されるが、二重結合を持つFAMEの含有が少ないバイオディーゼル燃料の場合は、検出に注意が必要である。
【0040】
実用化されるバイオディーゼル燃料は、前述のように軽油と任意の比でFAMEが混合されているため、軽油中のFAME濃度を変えたバイオディーゼル燃料を作製して検知管の反応を観察し、検出限界を求めた。
【0041】
その結果、バイオディーゼルの濃度が薄くなるほど検知管の着色も薄くなり、検出限界のFAMEの混合率は0.5%であった。ただし、飽和脂肪酸を多く含む植物油を原料としたバイオディーゼル燃料では、これらの感度が低くなる可能性もある。
【0042】
また、市販のFAMEに対して反応を調べたところ、FAMEの色が薄い黄色の場合には検知剤は明るい桃色に呈色し、黄緑色に着色されたFAMEの場合には検知剤は濃い桃色に呈色した。従って、検知剤の色調は、元のFAMEの色の影響を受けると考えれる。
【0043】
<石油検知管との比較>
油の検査用の検知管として開発された二種類の「鑑識用石油検知管」を用いて、バイオディーゼル燃料の検出を行なった。
【0044】
鑑識用石油検知管(軽鉱物油用)は、担体に吸着させた試薬が異なる以外は、図1の検知管10と同じ構造であり、試薬としては、1:パラフォルムアルデヒドと硫酸の混合液、2:五酸化ヨウ素と硫酸の混合液の二種類を用いた。
【0045】
石油検知管と本願の検知管10の測定結果を下記表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1から明らかなように、石油検知管は軽油(ガス油)にもバイオディーゼル燃料にも呈色するが、FAMEには呈色しない。石油検知管はバイオディーゼル燃料中の軽油に反応して呈色すると考えられるから、試料が軽油かバイオディーゼル燃料かの識別はできない。
【0048】
これに対し、本願の検知管10は、軽油には呈色しないが、バイオディーゼル燃料とFAMEには呈色することから、試料が軽油かバイオディーゼル燃料かの識別が可能である。
【0049】
従って、石油検知管と本願の検知管10の両方が呈色する試料はバイオディーゼル燃料であり、石油検知管のみが呈色する試料は軽油である。また、本願検知管10のみが反応すれば、試料はFAME100%のバイオディーゼル燃料、あるいは、植物油である。
【0050】
<模擬試験>
1.燃焼模擬試験
放火現場での鑑定を想定して、燃焼模擬試験を行なった。
【0051】
燃焼模擬試験は、5cm×5cmの布にFAMEを10%の割合で混合した軽油(B10と称す)を1ml染み込ませ、1分間燃焼させた後、水で消火した。その残燃物をn−ペンタンで抽出、フロリジルカラムで精製して透明の液体試料を得た。その液体についてGC分析と、本願検知管10による検出とを行なった。
【0052】
2.GC(ガスクロマトグラフ)分析
装置はShimazu GC−17Aを用い、カラムはGL Science Inc.CP SELECT FOR FAME(内径0.25mm×50m、膜厚0.25μm)を用いた。
【0053】
インジェクション温度は250℃とし、カラム温度は50℃で1分間保持した後、5℃/分で250℃まで昇温させた。試料注入量は0.1μlとし、スプリット法(10:1)により分析した。
【0054】
3.結果
GC分析の結果を図2のグラフに示す。図2の符号Aは、フロリジルカラムで精製前の液体試料の測定結果であり、同図の符号Bはフロリジルカラムで精製後の液体試料の測定結果である。精製前の液体試料はFAMEのピークが現れたが、精製後はFAMEのピークが見られず、軽油の場合と略等しいパターンとなった。精製後はFAMEの含有量が少なく、そのような微量なFAMEはGC分析では検出できないことがわかる。
【0055】
これに対し、本願の検知管10は、精製後の液体試料でも検知剤25が薄く桃色に呈色した。従って、本発明はGC分析でも検出不可能な程微量なバイオディーゼル燃料を検知可能なことが分かる。
【0056】
精製前の液体試料は茶色であったため、その色に妨害され、本願の検知管10では検知剤25の呈色の有無が確認できなかった。しかし、上述した残燃物の抽出、精製は、実際の現場で実施可能な程簡易であるから、実際の現場での使用に問題は無い。
【0057】
以上は、検知管10の出口側13端部から液体試料を吸引する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、両端を切断した検知管10を液体試料に浸漬させてもよい。しかし、吸引する方が短時間で検査を行なえる。
【0058】
検知剤や、担体に吸着させる前の試薬を、直接液体試料に接触させて検出試験を行なってもよいが、検知剤をガラス管に封入し、試料を吸引して反応させる検知管方式が、利便性、保存性の点から最適である。
【0059】
また、本発明はFAMEの定性試験に限定されない。例えば、図1に示すように、測定管11の検知剤25上の位置に目盛19を設け、検知剤の色の公開の目盛19に対応する位置によって、FAMEの濃度が分かるようにし、定量試験を行なうこともできる。
【0060】
FAMEはガソリン、灯油、軽油に比べて揮発性が低く、石油検知管のように揮発成分を対象とすると検出に必要な感度を得るのが困難なため、本願発明では検出試料を液体とするのが望ましい。
【0061】
酸は硫酸、塩酸、硝酸等種々の物を用いることができるが、発色のしやすさから硫酸が最も好ましい。試薬を吸着させる担体はシリカゲルに限定されず、珪藻土やアルミナ等を用いることもできる。また、測定管11の内部には、検知剤25や第一、第二の栓21、27以外にも、水分吸収剤(例えばゼオライト)等を配置することもできる。
【0062】
本発明は放火現場等の残焼物の検査の他、燃焼前の燃料検査にも用いることができる。着色されていない液体燃料について、本発明の検出方法で、FAMEが含有されているか否か(即ちバイオディーゼル燃料か否か)を検査する場合は、抽出や精製の工程は不要であり、液体燃料をそのまま、又は必要に応じて溶剤で希釈した物を、検知管10に吸引させる。
【0063】
測定管11はガラス管に限定されず、透明であり、かつ、試薬や液体試料と反応しないものであればプラスチックチューブを用いることもできる。測定管11は発色領域を長くするため、径の細いものが好ましい。フロログルシノールは光に曝露すると徐々に黄色く変色するため、検知管10は冷暗所保存する。
【0064】
精製に用いる溶剤は特に限定されないが、FAMEが溶解可能な有機溶剤であれば、n−ペンタンの他、イソペンタン、ヘキサン等種々のものを用いることができる。
【0065】
液体試料の精製に用いる吸着材粒子も特に限定されず、FAMEの吸着量の少ないものであれば、シリカゲル、アルミナ粒子、けいそう土等も用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】検知管の一例を説明する断面図
【図2】GC分析の測定結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0067】
10……検知管 11……測定管 25……検知剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の担体にフロログルシノールと酸とが吸着された検知剤を、液体試料に接触させ、前記検知剤の色変化を観察し、
前記検知剤が呈色した場合に、前記液体試料にバイオディーゼル燃料が含有されたと判断するバイオディーゼル燃料の検出方法。
【請求項2】
前記検知剤を透明な測定管に充填させておき、
前記測定管の一端を前記液体試料に接触させた状態で、前記測定管の他端を吸引し、前記液体試料を前記測定管の内部に引き込んで前記検知剤に接触させる請求項1記載のバイオディーゼル燃料の検出方法。
【請求項3】
残燃物を溶剤に浸漬して油成分を抽出し、
前記油成分が抽出された溶剤を、不飽和脂肪酸メチルエステルを吸着しない吸着材粒子の層を通して精製したものを前記液体試料とする請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のバイオディーゼル燃料の検出方法。
【請求項4】
測定管と、測定管内に配置された検知剤とを有し、
前記検知剤は、フロログルシノールと酸とが吸着された粒子状の担体からなるバイオディーゼル燃料検出用の検知管。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate