説明

バイオフィルム生成抑制方法

【課題】バイオフィルムの生成を抑制する新たな方法の提供。
【解決手段】一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物から選ばれる1種以上を含有する組成物を、当該一般式(1)の化合物濃度として1〜10,000ppmを微生物に接触させることを特徴とするバイオフィルム生成抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム生成抑制方法に関するものである。より詳細には、微生物が関与するさまざまな分野において、微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルムの生成を抑制し、これに起因する危害を防止するためのバイオフィルム生成抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち、製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
【0003】
更に、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物に対する場合と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の十分な効果が出ないことも多い。例えば医療の面では近年、医療器具の狭い隙間や空孔内に微生物が残存してバイオフィルムを形成し、殺菌が不完全になることによる院内感染例が数多く報告されている。ヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう食や歯周病の原因となることは良く知られており、これらの問題について長い間検討されている。
【0004】
これまでバイオフィルムを抑制するためには、原因となる微生物、特に細菌に対して殺菌作用又は静菌作用を与えることによって菌を増殖させないという考え方に基づいて、殺菌・抗菌剤を用いることが主に検討されてきた。殺菌剤として、特許文献1には有機酸や過酢酸、過酸化水素を用い、特許文献2には脂肪酸や脂肪族アルコールなどを用いて細菌数を低減させ、結果として細菌の対象物質への付着を防止しバイオフィルムの生成を抑制すること、更に、特許文献3ではいくつかの微生物発酵物を用いて菌数を低減させバイオフィルムの生成を抑制することが開示されている。その他、特に菌を殺菌することなくバイオフィルムを抑制する技術としては、特許文献4に菌体内のバイオフィルム産生メカニズムに関わる物質の類似体を用いたバイオフィルムコントロール手法が開示されており、更に特許文献5では香料や精油を用いたバイオフィルム抑制剤が開示されている。
【特許文献1】特表平10−511999公報
【特許文献2】特表2002−524257公報
【特許文献3】特表2007−518400公報
【特許文献4】特表2002−514092公報
【特許文献5】特開2007−91706公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2は、微生物を60分以内の比較的短時間殺菌又は抗菌性組成物と接触させた場合の殺菌性(菌数を約4乗低減)の評価を記載している。しかしながらバイオフィルム問題は数日〜数ヶ月の長時間単位で起きるものであり、短時間の殺菌評価でバイオフィルムの生成抑制制御に結びつけることは事実上困難である。抗菌性油相として挙げられる脂肪酸や脂肪族アルコールは全ての微生物(細菌)に対して十分な殺菌効果を有しているとは言えず、特にバイオフィルムを形成して問題をしばしば引き起こすグラム陰性菌に対して、長期間にわたる殺菌効果の指標である最少生育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration、MIC)を有してはいない(防腐・殺菌剤の科学;ジョン・J・カバラ編、フレグランスジャーナル社、1990)。更に発明者らの実験よれば、グラム陰性菌の中でも緑膿菌やセラチア菌に対して、特許文献2記載の組成物は記述の通り短期的な(3時間くらいまで)殺菌効果を示すものの、長期的(1日以上)には殺菌性はおろか菌増殖を抑制する静菌効果さえも示すことがなく、結果としてバイオフィルムの形成を抑制できないことが確認された。
【0006】
その他、殺菌性の高いカチオン性界面活性剤や次亜塩素酸塩など即効性の特徴を持つ殺菌性の高い殺菌薬剤もあるが、系内に有機物が存在すると殺菌性は速やかに失われるため、前述の通り長期間にわたって菌数低減効果を維持することは難しい。
これらの理由から、細菌を殺菌や静菌の観点から根本的にバイオフィルムの生成を抑制することは困難である。
【0007】
更に、近年、薬剤耐性菌の蔓延が社会問題になっているが、薬剤耐性菌が生じる理由の一つに殺菌剤の乱用が指摘されている。すなわち、不適切な使用法による殺菌剤を用いた菌の制御は、むしろ菌自身の防御機能を増大させる方向へ進めることとなり、結果として薬剤耐性を持つより強固なバイオフィルムをつくることになりかねない。
従って、本発明の目的は殺菌することなく、長期的にバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、長期的にバイオフィルム生成抑制効果を有する物質に関して種々検討したところ、後記式(1)で表される化合物を一定量微生物に接触させることで、微生物を殺菌することなく長期的なバイオフィルム生成抑制効果が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物から選ばれる1種以上を含有する組成物を、一般式(1)の化合物濃度として1〜10,000ppmを微生物に接触させることを特徴とするバイオフィルム生成抑制方法を提供するものである。
また本発明は、前記一般式(1)の化合物を含有し、当該一般式(1)の化合物濃度として1〜10,000ppmを微生物に接触させて使用するためのバイオフィルム生成抑制組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期的にバイオフィルムの生成を抑制することができ、菌を積極的に殺菌することがないため薬剤耐性獲得の恐れが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法の有効成分は、一般式(1):
RO−(EO)n−H (1)
で表される化合物から成り、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、EOはエチレンオキシ基、そしてnは0〜5の整数である。
【0012】
Rで示されるアルキル基又はアルケニル基は、直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルム生成抑制効果の点から炭素数10〜12であるのが好ましい。EOで示されるエチレンオキシ基の数nは0又は1〜4がより好ましく、0又は1〜3が更に好ましい。
【0013】
本発明において化合物(1)は、長期的なバイオフィルムの生成抑制効果を発揮できる濃度として、系内に1ppm以上存在すればよいが、経済性と効果の観点から微生物に対して1〜10,000ppmの濃度接触させるのが好ましく、5〜10,000ppmがより好ましく、更に5〜2,000ppmが好ましく、より更に10〜1,000ppmが好ましい。
【0014】
化合物(1)はEOの数により水に対する溶解性が相違する。EOが0である化合物(1)は水に対する溶解性が低いので、界面活性剤を併用して乳化系とするか、又は有機溶剤溶液として用いることができるが、有機溶剤溶液として用いるのが使用性の点で特に好ましい。ここで、EOが0である化合物(1)を溶解するための有機溶剤としては、例えば、アルコール類としてはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(重量平均分子量100〜1000)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(重量平均分子量100〜1000)、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどが挙げられ、中でもエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ポリエチレングリコール(重量平均分子量100〜1000)、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。炭化水素類としてはヘキサン、オクタン、流動パラフィン、シクロヘキサン、ベンゼン等が挙げられる。エステル類としては酢酸メチル、酢酸エチル、オクタン酸メチル、動植物由来油脂などが挙げられる。更に極性非プロトン溶剤としてジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドが挙げられ、中でもジメチルスルホキシドが好ましい。
【0015】
また、EOが1〜5である化合物(1)は、水に可溶性であるため水溶液として用いることができ、特に乳化系とする必要がない。ただし、乳化系で用いても、また有機溶剤溶液として用いてもよい。有機溶剤としては、上記EOが0である化合物(1)の場合と同様のものが用いられる。乳化系、すなわち乳化組成物として用いる場合には、乳化剤として界面活性剤が併用される。乳化組成物に使用できる界面活性剤の種類は特に限定されないが、化合物(1)を水系中に安定に存在させることができる界面活性剤が望ましい。更に乳化・分散・可溶化性能の観点から、界面活性剤の中でも陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0016】
乳化系とする場合の陰イオン性界面活性剤としては、リグニンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン(以下、POEと記す)アルキルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、POEアルキル硫酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、POEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルリン酸塩、POEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩(石けん)、POEアルキルエーテル酢酸塩等が挙げられ、中でもアルキル硫酸エステル塩やPOEアルキル硫酸エステル塩、POEアルキルエーテル酢酸塩を用いることがより好ましい。これらの陰イオン性界面活性剤のアルキル炭素数は10〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は0〜10が好ましく、0〜5がより好ましい。
【0017】
非イオン性界面活性剤としては、POEアルキルエーテル(但し、成分(A)を除く)、POEアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン・POE(ブロック又はランダム)アルキルエーテル、POEアリールフェニルエーテル、POEスチレン化フェニルエーテル、POEトリベンジルフェニルエーテル等の1価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド等の多価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤等が挙げられ、中でもPOEアルキルエーテル(但し、成分(A)を除く)、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、更に、POEアルキルエーテル[但し、成分(A)を除く]が好ましい。なかでもPOEアルキルエーテルのHLBは10以上がより更に好ましい。また、POEアルキルエーテルのアルキル炭素数は12〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は6以上が更に好ましい。
【0018】
界面活性剤は単独で、あるいはより乳化・分散・可溶化性能を高めるために2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
乳化組成物中の化合物(1)(A)と界面活性剤(B)の重量比率(A)/(B)は、長期的なバイオフィルム生成抑制効果の点から2以下であり、2/1〜1/100が好ましく、2/1〜1/50がより好ましく、2/1〜1/20が更に好ましく、より更に1/1〜1/10が好ましい。
【0020】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法に用いる組成物は、前記の如く、使用時の濃度として化合物(1)が1〜10,000ppm存在すればよいので、組成物中の化合物(1)の濃度は特に限定されないが、使用性、取扱性の点から、組成物中に化合物(1)を0.01〜50重量%、更に0.1〜10重量%、より更に0.5〜5重量%含有するのが好ましい。また、組成物が乳化物の場合、界面活性剤の濃度は0.1〜30重量%、更に1〜20重量%が好ましい。
【0021】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法には必要に応じて、適量の殺菌剤や抗菌剤を併用することも可能である。一般にバイオフィルムが形成すると殺菌剤が効きにくい状況が起こるが、本発明のバイオフィルム生成抑制剤によってバイオフィルムの形成が抑制されるため、殺菌剤の効力を十分に引き出すことが可能になる。
【0022】
上記の殺菌剤や抗菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン等の四級塩、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、トリクロロカルバニリド、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0023】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法では、その粘度を上昇させて対象物への付着性を向上させるために、増粘剤を用いることも可能である。
【0024】
更に、本発明のバイオフィルム生成抑制方法にはキレート剤を加えてもよい。該キレート剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロ3酢酸(NTA)、コハク酸、サリチル酸、シュウ酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、トリポリリン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物及びそれらの塩が挙げられる。
【0025】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法は前記の如く、水溶液系、有機溶剤溶液系、乳化系のいずれでもよいが、水溶液系で行うのがより効果的である。化合物(1)を含有する水溶液を一定量溜めて対象物を浸漬して使用する。対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。又、化合物(1)を含有する水溶液を流したり、はけ等により塗布したりしてもよい。その他、タオルなどに化合物(1)を含有する水溶液を含浸させて、対象物を拭いても良い。微生物と接触させる条件が満足されるならば、微生物が存在しうる表面に化合物(1)を含有する水溶液を付着させたり、塗り付けたりすることも可能である。ここで対象物とは、微生物が付着してバイオフィルムを形成する対象物をいう。
また、対象物によっては水溶液系にせず、クリーム状や軟膏にして塗り広げることも可能である。この場合、化合物(1)は適切な媒体に溶解、分散、乳化された形状で提供される。尚、以上において、化合物(1)を含有する組成物と微生物との接触は連続して行うのが好ましい。
【0026】
ここで連続して行うとは、上記のように対象物上に化合物(1)を含有する組成物が残存するように適用し、化合物(1)を含有する組成物と微生物とが長期間接触するようにすることをいう。すなわち、組成物を対象物に適用後洗い流さないのが好ましい。
【0027】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法は、バイオフィルムの危害が懸念される広い分野に使用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品又は飲料製造プラント用洗浄方法に応用することができる。また、バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡や人工透析機等、の洗浄方法にも応用できる。更に、高い安全性を有することから、ヒト対象の洗浄剤、歯磨き剤、口腔ケア剤、入れ歯ケア剤などの応用利用に使用することも可能である。
【実施例】
【0028】
実施例1:バイオフィルム生成抑制能の検定
成分(A) RO−(EO)n−H
(A−1)C8アルコール〔カルコール0898、花王(株)製、R=C8アルキル、n=0〕
(A−2)C10アルコール〔カルコール1098、花王(株)製、R=C10アルキル、n=0〕
(A−3)C10アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BD−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
(A−4)C10アルコールエチレンオキサイド5モル付加物〔NIKKOL BD−5SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=5〕
(A−5)C12アルコール〔カルコール2098、花王(株)製、R=C12アルキル、n=0〕
(A−6)C12アルコールエチレンオキサイド1モル付加物〔NIKKOL BL−1SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=1〕
(A−7)C12アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BL−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
(A−8)C12アルコールエチレンオキサイド5モル付加物〔NIKKOL BL−5SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=5〕
(A−9)C14アルコール〔カルコール4098、花王(株)製、R=C14アルキル、n=0〕
(A−10)C14アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BM−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
(A−11)C14アルコールエチレンオキサイド5モル付加物〔NIKKOL BM−5SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=5〕
【0029】
成分(A') R'O−(EO)n−H
(A'−1)C4アルコール〔1−ブタノール、和光純薬工業(株)製、R=C4アルキル、n=0〕
(A'−2)C10アルコールエチレンオキサイド8モル付加物〔NIKKOL BD−8SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C10アルキル、n=8〕
(A'−3)C12アルコールエチレンオキサイド6モル付加物〔NIKKOL BL−6SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=6〕
(A'−4)C12アルコールエチレンオキサイド8モル付加物〔NIKKOL BL−8SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=8〕
(A'−5)C14アルコールエチレンオキサイド8モル付加物〔NIKKOL BM−8SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C14アルキル、n=8〕
(A'−6)C16アルコール〔カルコール6098、花王(株)製、R=C16アルキル、n=0〕
【0030】
溶剤(B)
(B−1)エタノール〔エタノール99.5、和光純薬工業(株)〕
(B−2)ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル〔特級、和光純薬工業(株)〕
(B−3)プロピレングリコール〔特級、和光純薬工業(株)〕
(B−4)ポリエチレングリコール〔ポリエチレングリコール400、和光純薬工業(株)製〕
(B−5)ジメチルスルホキシド〔生化学用、和光純薬工業(株)〕
【0031】
成分(A)もしくは(A')を5g、又は成分(A)もしくは(A')5gを溶剤(B)25gに溶解させたものを滅菌済みのミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を用いて全量を100gにして(A)又は(A')として5重量%のコンク溶液を調製した。本コンク溶液を更に滅菌済みミューラーヒントン培地を用いて表1に示す濃度に希釈調製し、それぞれ24穴マイクロプレート〔旭テクノグラス(株)製〕に2mL量りとった。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、クレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)をそれぞれLB培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を用いて、37℃、18時間前培養して増殖した菌液を、ピペットマンを用いて当該マイクロプレート内の試験溶液に100μL接種した。これを37℃、48時間培養後に培養液を廃棄し、滅菌精製水2mLで各ウェル内を5回洗浄した。マイクロプレート壁に付着したバイオフィルムを0.1%クリスタルバイオレット液で染色し、滅菌水でリンス後、バイオフィルムの形成状態を目視によって観察した。バイオフィルムの状態は、バイオフィルムがプレート壁面の0〜20%未満を覆う状態を◎、20%以上40%未満を覆う状態を○、40%以上60%未満を覆ったものを△、60%以上を覆ったものを×とした。
結果を表1〜4に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
実施例2:シリコンチューブ内へのバイオフィルム生成抑制試験
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)及びクレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)を、それぞれLB培地〔日本ベクトン・ディッキンソン(株)製〕を用いて、37℃、18時間前培養して供試菌液を調製した。実施例1における本発明品4、本発明品12、本発明品18、本発明品26及び本発明品32、並びに比較品22及び比較品25を1L、それぞれ三角フラスコへ注いだ。この薬剤入り培地中に前記の供試菌液を1mL接種し、コールパーマー インスツルメント社(Cole-Parmer Instrument Company)製のマスターフレックス(Masterflex)定量ポンプシステム(システムモデルNo.7553−80、ヘッドNo.7016−21)を用い、アラム(株)製シリコンチューブ(内径5mm、外径7mm)中を30℃条件で循環させた。尚、培養液循環は流量50〜60mL/分で行った。更にコントロールとして、薬剤未添加のミューラーヒントン培地に細菌を接種した試験区を同時に設けた。
シリコンチューブ内へのバイオフィルム生成を経時に目視で観察すると共に、培養液中の菌数を測定した。バイオフィルム生成状態は、全く生成しないものを○、バイオフィルムが生成開始してシリコンチューブ表面がやや色づいたものを△、明らかにバイオフィルムが生成したものを×とした。
結果を表5及び6に示す。表5は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)についての結果であり、表6はクレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)についての結果である。
【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
本発明品を用いた場合、シリコンチューブ内へのバイオフィルム生成は著しく抑制できることが確認された。同時に行った培養液中の菌数測定からは、コントロール、本発明品、比較品共に増殖しており、殺菌や抗菌作用によってバイオフィルム生成を抑制しているのではないことが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物から選ばれる1種以上を含有する組成物を、当該一般式(1)の化合物濃度として1〜10,000ppmを微生物に接触させることを特徴とするバイオフィルム生成抑制方法。
【請求項2】
前記組成物が、水溶液又は有機溶剤溶液である請求項1記載のバイオフィルム生成抑制方法。
【請求項3】
前記組成物と微生物との接触が、連続して行われる請求項1又は2記載のバイオフィルム生成抑制方法。
【請求項4】
一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)で表される化合物から選ばれる1種以上を含有し、当該一般式(1)の化合物濃度として1〜10,000ppmを微生物に接触させて使用するためのバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項5】
前記組成物が、水溶液又は有機溶剤溶液である請求項4記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項6】
前記組成物と微生物との接触が、連続して行われる請求項4又は5記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物。

【公開番号】特開2009−78987(P2009−78987A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247722(P2007−247722)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】