説明

バイオフィルム除去剤組成物

【課題】バイオフィルムを効果的に除去することができる組成物を提供する。
【解決手段】分子内に、1若しくは2のグアニジル基と炭素数8〜18の炭化水素基とを有する化合物又はその塩を含有するバイオフィルム除去剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤組成物に関するものであり、より詳細には、微生物が関与するさまざまな分野において、バイオフィルムに起因する危害を防止するためのバイオフィルム除去剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して、様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。さらに、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
更に、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物と比較して、殺菌剤・静菌剤のような微生物制御薬剤の十分な効果が出せないことも多い。例えば医療の面では近年、医療器具の狭い隙間や空孔内に微生物が残存してバイオフィルムを形成し、これを原因とする院内感染例が数多く報告されている。ヒト口腔内においては歯に形成するバイオフィルム、いわゆるデンタルプラーク(歯垢)がう食や歯周病の原因となることは良く知られており、これらの問題について長い間検討されている。
【0003】
これまでバイオフィルムの危害を防止するためには、微生物、特に細菌に対して殺菌作用もしくは静菌作用を与えることによって菌を増殖させない考え方が一般的に検討されてきた。特許文献1には、アルギニンの塩酸塩、アルギニンエチルエステル、アルギニングルタミン酸などのアルギニンまたはその誘導体と抗菌活性を示す化合物を配合した抗菌製剤が記載されているが、その効果はまだ満足できるものではない。
さらに、特許文献2に開示されているように、酵素を利用してバイオフィルムを除去することによる危害の低減化方法も検討されているが完全な除去には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−151324号公報
【特許文献2】特開平6−262165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、様々な領域において微生物ならびに微生物産生物質からなるバイオフィルムを効果的に除去し得るバイオフィルム除去剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、バイオフィルムを効果的に除去することができるバイオフィルム除去剤組成物を得るべく鋭意研究を行ったところ、特定のグアニジン化合物又はその塩がバイオフィルムを効果的に除去し得ることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、分子内に、1若しくは2のグアニジル基と炭素数8〜18の炭化水素基とを有する化合物又はその塩を含有するバイオフィルム除去剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、様々な領域において微生物及び微生物産生物質からなるバイオフィルムを効果的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、分子内に、1若しくは2のグアニジル基と炭素数8〜18の炭化水素基とを有する化合物又はその塩(以下、「化合物A」という)を含有する。化合物Aは、バイオフィルム除去効果の点から、分子内に有するグアニジル基は一つであることが好ましく、また、分子内に有する炭化水素基の炭素数は、8〜14が好ましく、10〜12がさらに好ましい。
1つのグアニジル基有する好ましい化合物Aとしては、下記一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数8〜18の炭化水素基を示す。)
で表わされる化合物又はその塩が挙げられる。
【0012】
一般式(1)中、Rで示される炭化水素基としては、アルキル基及びアルケニル基が挙げられ、アルキル基が好ましく、これらは直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルム除去効果の点から炭素数8〜18のものであり、炭素数8〜14のものが好ましく、炭素数10〜12のものがさらに好ましい。また、アルキル基、アルケニル基は、単一あるいは混合であってもよい。また、天然由来、例えばヤシ油やパーム核油由来の混合アルキル組成であってもよい。また、Rで示される炭化水素基は、エーテル、カルボニル、アミノ、アミド、カルボキシル、フェニル、ナフチルなどの置換基、連結基、官能基が含まれていてもよい。Rで示される炭化水素基の具体例としては、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、デシル基、ドデシル基、ミリスチル基、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピル基、フェネチル基、ナフタレンメチル基等が挙げられ、好ましくは、デシル基、ドデシル基、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピル基、フェネチル基である。
【0013】
化合物(1)は、一般的にはアルキルアミンの塩にシアナミドを反応させることにより得られるが、製造方法は特に限定されるものではない。また、これら化合物はバイオフィルム除去性を阻害しない範囲で未反応物、副生成物を含んでいてもよい。
【0014】
分子内に、2つのグアニジル基と炭素数8〜18の炭化水素基とを有する化合物Aとしては、下記一般式(2)で表わされる化合物又はその塩が挙げられる。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数8〜18の炭化水素基を示す。)
【0017】
一般式(2)中、Xで示される炭化水素基としては、アルキレン基及びアルケニレン基が挙げられ、アルキレン基が好ましく、これらは直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルム除去効果の点から炭素数8〜18のものであり、炭素数8〜14のものが好ましい。またアルキレン基及びアルケニレン基は、単一あるいは混合であってもよい。また、天然由来、例えばヤシ油やパーム核油由来の混合アルキル組成であってもよい。また、Xで示される炭化水素基は、エーテル、カルボニル、アミノ、アミド、カルボキシルなどの置換基、連結基、官能基が含まれていてもよい。具体的には、好ましくは、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基などが挙げられ、より好ましくは、オクチレン基である。
【0018】
化合物(2)は、一般的にはアルキレンジアミンの塩にシアナミドを反応させることにより得られるが、製造方法は特に限定されるものではない。また、これら化合物はバイオフィルム除去性を阻害しない範囲で未反応物、副生成物を含んでいてもよい。
【0019】
化合物Aにおける塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸の塩、酢酸塩、乳酸塩、炭酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酸性アミノ酸塩などの有機酸の塩が挙げられ、好ましいものとしては、塩酸塩、酢酸塩、乳酸塩、炭酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩が挙げられる。
【0020】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物中の化合物Aの濃度は、用途、剤型により適宜決定することができるが、バイオフィルムへ作用させる場面においては、通常、水溶液の状態で用いられ、その濃度としてはコストと取り扱い性の面から0.001〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.002〜7重量%、さらに好ましくは0.005〜5重量%の範囲であり、さらにより好ましくは0.01〜2重量%の範囲である。
【0021】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、化合物Aの溶解性を高める、あるいはバイオフィルム除去性能を向上させる、さらには洗浄効果を高める目的で、さらに界面活性剤を併用することができる。当該界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン界面活性剤から選ばれる1種以上を用いることができ、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤が好ましい。
【0022】
陰イオン性界面活性剤としては、リグニンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩(好ましくは炭素数10〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩)、アルキルスルホン酸塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキルスルホン酸塩)、ポリオキシエチレン(以下、POEと記す)アルキルスルホン酸塩(好ましくは炭素数10〜16のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均1〜4モル付加したPOEアルキルスルホン酸塩)、POEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩(好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均1〜4モル付加したPOEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩)、POEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩(好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均1〜4モル付加したPOEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩)、POEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩(好ましくはオキシエチレン基が平均1〜5モル付加したPOEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩)、アルキル硫酸エステル塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸エステル塩)、POEアルキルエーテル硫酸エステル塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均1〜4モル付加したPOEアルキルエーテル硫酸エステル塩)、POEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩(好ましくはオキシエチレン基が平均1〜5モル付加したPOEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩)、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、POEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩(好ましくはオキシエチレン基が平均1〜5モル付加したPOEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩)、アルキルリン酸塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキルリン酸塩)、POEアルキルリン酸塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均1〜5モル付加したPOEアルキルリン酸塩)、POEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩(好ましくはオキシエチレン基が平均1〜5モル付加したPOEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩)、ジアルキルスルホコハク酸塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルスルホコハク酸塩)、脂肪酸塩(石けん)、POEアルキルエーテル酢酸塩(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均1〜15モル付加したPOEアルキルエーテル酢酸塩)等が挙げられ、中でもアルキル硫酸エステル塩やPOEアルキルエーテル硫酸エステル塩又はPOEアルキルエーテル酢酸塩を用いることがより好ましい。
【0023】
非イオン性界面活性剤としては、POEアルキルエーテル(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均3〜30モル付加したPOEアルキルエーテル)、POEアルキルフェニルエーテル(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有し、オキシエチレン基が平均3〜30モル付加したPOEアルキルフェニルエーテル)、POEアリールフェニルエーテル(好ましくはオキシエチレン基が平均3〜30モル付加したPOEアリールフェニルエーテル)、POEスチレン化フェニルエーテル(好ましくはオキシエチレン基が平均3〜30モル付加したPOEスチレン化フェニルエーテル)、POEトリベンジルフェニルエーテル(好ましくはオキシエチレン基が平均3〜30モル付加したPOEトリベンジルフェニルエーテル)等の1価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤;(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル(好ましくは炭素数8〜18の脂肪酸残基を有する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル)、ショ糖脂肪酸エステル(好ましくは炭素数8〜18の脂肪酸残基を有するショ糖脂肪酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル(好ましくは炭素数8〜18の脂肪酸残基を有するソルビタン糖脂肪酸エステル)、POEソルビタン脂肪酸エステル(好ましくはオキシエチレン基が平均3〜30モル付加したPOEソルビタン脂肪酸エステル)、アルキルポリグリコシド(好ましくは炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキルポリグリコシド)、脂肪酸アルカノールアミド(好ましくは炭素数8〜18の脂肪酸アルカノールアミド)等の多価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
また、上記POE系非イオン界面活性剤におけるエチレンオキサイドの平均付加モル数は、3〜30モルが好ましく、3〜20モルがより好ましい。
これらの中では、POEアルキルエーテル、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル又はPOEソルビタン脂肪酸エステルを用いることが好ましく、POEアルキルエーテル、アルキルポリグリコシドがより好ましく、POEアルキルエーテルがさらに好ましい。
POEアルキルエーテルは、アルキル基の炭素数10〜18(好ましくは炭素数10〜14)のアルコールにエチレンオキサイドを付加させたものがより好ましい。かかるアルコールは1級又は2級のものが好ましく、そのアルキル基としては直鎖でも分岐鎖でも良い。また、アルキレンオキサイドの付加の程度は、平均付加モル数として3〜30モルが好ましく、3〜20モルがより好ましく、5〜20モルがさらに好ましい。
【0024】
両性界面活性剤としては、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、脂肪酸アミドベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド等が挙げられ、中でもアルキルジメチルアミンオキサイドを用いることが好ましい。これらのアルキル基の炭素数は、8〜18が好ましく、10〜14がより好ましい。
【0025】
陽イオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、中でもアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。これらのアルキル基の炭素数は、8〜18が好ましい。また、前記塩としては、ハロゲン化物が好ましく、塩化物、臭化物がより好ましい。
【0026】
これらの界面活性剤は化合物Aと目的に応じて任意の割合で併用することができるが、化合物Aと界面活性剤の含有質量比は、10/1〜1/50、より5/1〜1/20、さらに1/5〜1/15が好ましい。
【0027】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物の剤型としては、用途、目的に応じて、水、エタノール、イソプロパノールなどの溶剤に溶かした溶液、あるいは固体、ゲル状、乳化・分散状、粉末状、エアゾールなどが挙げられ、これらから適宜選択することができ、作用濃度に合わせた製品形態はもちろんのこと、高濃度の製品形態にしておき、使用場面において希釈する、あるいは使用場面において界面活性剤を配合し使用することも可能である。
【0028】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、増粘剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶剤、香料、着色剤、酸化防止剤、防腐剤、蛍光剤、賦形剤、ソイルリリース剤、漂白剤、漂白活性化剤、粉末化剤、造粒剤、コーティング剤などを配合することができる。
【0029】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物はバイオフィルムの危害が懸念される広い分野に使用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品製造又は飲料製造プラント用洗浄剤、台所、厨房、浴室、便器、台所又は厨房などの排水溝、排水管に応用できる。また、産業用の冷却タワーなどの冷却水系、脱塩装置、パルプ及び紙製造系や浴槽、プール、人工池などの循環水系路に応用できる。バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡やカテーテル、人工透析機等の洗浄剤にも応用できる。更に、入れ歯ケア剤、コンタクトレンズ洗浄剤などに使用することも可能である。
【0030】
本発明のバイオフィルムの除去方法としては、バイオフィルムを形成した面にバイオフィルム除去剤組成物を接触させることにより行うことができる。接触させる方法としては、浸漬、塗布あるいは散布するなどがある。さらに、スポンジ、タオル、ブラシ、水流などの物理力を加えてもよい。また、バイオフィルム除去剤組成物を作用させておく時間は、付着しているバイオフィルムの量、バイオフィルム除去剤組成物を作用させる濃度、作用温度、物理力の有無により異なるが、通常は数秒から数時間の範囲であり、作業性も考慮すると、好ましくは10秒以上、より好ましくは10秒〜1時間であり、さらに好ましくは10秒〜30分であり、さらにより好ましくは20秒〜20分である。作用後は流水などにより、除去されたバイオフィルムを速やかにすすぎ流すことが望ましい。
また、バイオフィルム除去剤組成物を作用させておく温度は、0〜98℃で使用できるが、作業環境、作業性等の観点より0〜60℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は水希釈系で用いてもよく、該組成物の水希釈物を一定量溜めて対象物を浸漬して使用したり、対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。又、該組成物の水希釈液を流したり、はけ等により塗布してもよい。
その他、タオルなどに該水希釈液を含浸させて、対象物を拭き取っても良い。該組成物の水希釈液は、その使用時の成分(A)の重量濃度が0.005〜5重量%となるのが好ましく、0.01〜3重量%となるのがより好ましく、0.02〜2重量%となるのが好ましい。
【実施例】
【0031】
製造例1:化合物(1)の製造方法
1-オクチルグアニジン乳酸塩の合成
還流冷却管、滴下ロート、温度計及び撹拌羽根を備えた1Lの四つ口フラスコに、乳酸90.1g(1.0mol)、イソプロパノール40.0gを仕込んだ。その中に、窒素雰囲気下、撹拌を行いながらオクチルアミン155.1g(1.2mol)を20分かけて滴下した。反応溶液を90〜93℃に昇温し、50%シアナミド水溶液84.1g(1.0mol)を4時間かけて滴下した。その後、92℃で4時間熟成を行った。冷却後、溶媒を除去し、アセトンを加えて2時間撹拌し、結晶が析出するまで静置した。ろ過によりアセトンを除去し、更に減圧で完全にアセトンを留去した。得られた結晶に、イソプロパノール/ヘキサン混合溶液を加え、60℃で加熱溶解後、室温更には氷冷下で結晶を析出させた。ろ過により溶媒を除去し、更に60℃/減圧で完全に溶媒を留去し、1-オクチルグアニジン・乳酸塩の白色粉末118gを得た。
同様にRがC10(直鎖)〔化合物(1−2)〕、C12(直鎖)〔化合物(1−3)〕のものを合成した。
【0032】
製造例2:化合物(1−4)の製造方法
デシルグアニジンこはく酸塩の合成
こはく酸11.8g(0.1mol)、デシルアミン37.75g(0.24mol)、50%シアナミド水溶液16.8g(0.2mol)を用いて、製造例1と同様の方法で合成した。
【0033】
製造例3:化合物(1−5)の製造方法
ドデシルグアニジン炭酸塩の合成
炭酸6.2g(0.1mol)、ドデシルアミン44.47g(0.24mol)、50%シアナミド水溶液16.8g(0.2mol)を用いて、製造例1と同様の方法で合成した。
【0034】
同様に化合物(1−6)、化合物(1−7)及び化合物(2−1)のものについて、下記に示すように合成した。
【0035】
製造例4:化合物(1−6)の製造方法
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルグアニジンこはく酸塩の合成
こはく酸17.7g(0.15mol)、2−エチルヘキシルオキシプロピルアミン67.44g(0.36mol)、50%シアナミド水溶液25.22g(0.3mol)を用いて、製造例1と同様の方法で合成した。
【0036】
製造例5:化合物(1−7)の製造方法
フェネチルグアニジンこはく酸塩の合成
こはく酸17.7g(0.15mol)、フェネチルアミン43.62g(0.36mol)、50%シアナミド水溶液25.22g(0.3mol)を用いて、製造例1と同様の方法で合成した。
【0037】
製造例6:化合物(2−1)の製造方法
1,8−オクチレンジグアニジン乳酸塩の合成
乳酸18.02g(0.2mol)、1,8−オクチレンジアミン17.3g(0.12mol)、50%シアナミド水溶液16.8g(0.2mol)を用いて、製造例1と同様の方法で合成した。
【0038】
製造例7:比較化合物(1)の製造方法
ヘキシルグアニジン乳酸塩の合成
還流冷却管、滴下ロート、温度計及び撹拌羽根を備えた1Lの四つ口フラスコに、乳酸22.52g(0.25mol)、イソプロパノール10.0gを仕込んだ。その中に、窒素雰囲気下、撹拌を行いながらヘキシルアミン30.35g(0.3mol)を20分かけて滴下した。反応溶液を90〜93℃に昇温し、50%シアナミド水溶液21.02g(0.25mol)を4時間かけて滴下した。その後、92℃で4時間熟成を行った。冷却後、溶媒を除去し、アセトンを加えて2時間撹拌し、結晶が析出するまで静置した。ろ過によりアセトンを除去し、更に減圧で完全にアセトンを留去した。得られた結晶に、アセトンを加え、50℃で加熱溶解後、室温更には氷冷下で結晶を析出させた。ろ過により溶媒を除去し、更に50℃/減圧で完全に溶媒を留去し、ヘキシルグアニジン乳酸塩の白色粉末28gを得た。
【0039】
<バイオフィルム除去能の検定>
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、セラチア菌(Serratia marcescens NBRC12648)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis NBRC12773)をそれぞれ大豆−カゼインダイジェストアガー(Soybean-Casein Digest Agar)〔SCD寒天培地:日本製薬(株)製〕を用いて、37℃、24時間の前培養してコロニー形成したものから極少量の菌塊を、滅菌済みの竹串を用いて、ミューラーヒントン培地を各1.5mL注加した24ウェルマイクロプレート内に接種した。これを37℃、24時間培養後に培養液を廃棄し、精製水2mLで各ウェルを5回リンスし、マイクロプレート壁にバイオフィルムを形成、付着させた。ただちに、表1に示す調製したバイオフィルム除去剤組成物を2mL注加し、室温(20℃)で10分間作用させた後、各ウェル中のバイオフィルム除去剤組成物を廃棄した。精製水2mLで各ウェルを2回リンスした後、0.1%クリスタルバイオレット2mLを注加し、マイクロプレート壁に残存するバイオフィルムを染色した。余分な染色液を水でリンス後に80%エタノール2mLを注加し、バイオフィルムを染色したクリスタルバイオレットを均一に溶解後、570nmで吸光度を測定し測定値とした。同様にバイオフィルム除去剤組成物を作用させていないウェルについて0.1%クリスタルバイオレットで処理後、吸光度を測定し初期値とした。また、24ウェル中にミューラーヒントン培地を各1.5mL注入するが菌塊を接種しないものを同様に行い、吸光度を測定してブランク値とした。各試験は5回行い平均した値を用いた。除去率は下記の式にて算出した。表中の濃度は全量に対する有効分濃度(重量%)で示し、また、pHは必要に応じて水酸化カリウムあるいは塩酸を用いて調整した。
【0040】
除去率(%)=100×[{(初期値−ブランク値)−(測定値−ブランク値)}/(初期値−ブランク値)]
【0041】
得られた結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
以上の結果より、本発明のバイオフィルム除去剤組成物を用いることによりバイオフィルムを効果的に除去できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、1若しくは2のグアニジル基と炭素数8〜18の炭化水素基とを有する化合物又はその塩を含有するバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項2】
前記化合物又はその塩が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数8〜18の炭化水素基を示す。)
で表わされる化合物又はその塩である請求項1記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項3】
前記化合物又はその塩が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数8〜18の炭化水素基を示す。)
で表わされる化合物又はその塩である請求項1記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項4】
更に、1種以上の界面活性剤を含有する請求項1〜3の何れか1項記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載のバイオフィルム除去剤組成物をバイオフィルムに接触させる、バイオフィルムの除去方法。

【公開番号】特開2010−155963(P2010−155963A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128187(P2009−128187)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】