説明

バイオマスからの発酵性糖類の産生のための方法

多酵素の多段階のシステムを用いるバイオマスからの発酵性糖類の産生のためのプロセスが本明細書において提供される。本発明において開示されるプロセスは、短期間に高い収率の糖類を提供する。本発明で開示される多酵素のシステムは、セルロース、ヘミセルロースおよび/またはそれらの混合物を、先行技術で公知のプロセスよりも高い効率および優れた経済性で発酵性糖類に変換する。任意のリグノセルロース系バイオマスなどの天然の供給源由来のセルロースおよびヘミセルロース画分は、短時間で糖化され、ここで多酵素のシステムの改変された酵素組成物/群での中間体の変換速度は、この速度を強化するため、より高く、これによって経済的なセルロースおよびヘミセルロースの糖化プロセスがもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年5月26日出願の仮特許出願番号1299/MUM/2009および2009年5月29日出願の同第1314/MUM/2009から優先権を主張する。
【0002】
本発明は、バイオ燃料および他の副産物の産生のためのバイオマスからの発酵性糖類の産生の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
リグニンおよび2つの多糖類であるヘミセルロースおよびセルロースは、植物生理学の3つの主要な構成要素を形成し、総称してリグノセルロースと呼ばれる。これらの3つのうち、セルロースおよびヘミセルロースは基本的には、グルコース、キシロース、ガラクトース、アラビノースなどのような糖のモノマー類のポリマーである。従って、植物残渣由来のセルロースおよびヘミセルロースは、モノマーの糖まで加水分解されれば、種々の有用な化合物及び生化学物質のための原料の有用かつ豊富な再生可能供給源を形成し得る。この一般には緊密に圧縮された複合リグノセルロース系材料の糖への変換は、加水分解および糖化として公知の複合プロセスによって達成される。リグノセルロースの糖への変換のための糖化プロセスに対する世界的な研究は、3つの主要なアプローチに従う。第一は、化学的加水分解であり、第二は、熱加水分解であり、3番目は、酵素的加水分解である。
【0004】
一般的な化学的加水分解プロセスでは、ヘミセルロースは、酸またはアルカリの作用によってリグノセルロース複合材料から第一工程で分離される。植物材料/塊を、酸またはアルカリの希溶液と混合し、次いで加熱する。このプロセスは、ヘミセルロースを放出しかつ「加水分解する」。ヘミセルロースの加水分解は、五炭糖類(C5糖類)およびいくつかの六炭糖類(C6糖類)を生じる。第二工程は、より高温の酸加水分解のプロセス(過程)であって、これは植物材料のセルロースを加水分解して、ほぼそれだけのC6(六炭糖)の糖類およびリグニンを生じる。C6糖類は、リグニンから実質的に分離された場合、容易に発酵性であり、かつ回収されたリグニンは、プロセス加熱または他の産物を作製するために用いられ得る。
【0005】
二段階の酸加水分解プロセスが長年にわたって用いられてきた。しかし、酸性プロセスは糖類以外の化合物も産生し、プロセス損失を示すだけでなく、乳酸、アルコール、有機酸などの有用な産物への発酵のような下流のプロセスにおける糖類の使用の際に後に問題を生じるということも現在公知である。これらの系(システム)にともなう別の主な問題は、酸が再使用のために回収されなければならないか、または廃液および汚染の問題を緩和するために石灰の使用を通じて中和されなければならないということであった。
【0006】
他方で自己熱プロセスは、なんら化合物を利用せず、従ってより清浄なプロセスである。蒸気爆発(Steam Explosion)プロセスで用いられる高温および短時間曝露などは、リグノセルロースバイオマスの単糖類(monosugars)および加水分解リグニンへの分解を生じる。しかし、このようなプロセスは、糖の収率が低く、下流のプロセスに対して阻害性である望ましくない副産物の形成という欠点があり、エネルギー集約型である。
【0007】
酵素の使用は、一般には、いくつかのまたは他の軽度の前処理工程が先行し、セルロースおよびヘミセルロース加水分解および糖化のためのかなり清浄でかつ低エネルギーのプロセスを提供し、最終的には、より良好な質の最終産物、すなわち糖類を高収率で提供する。
【0008】
いくつかの酵素は、植物細胞壁の多糖類を特異的に、または非特異的に加水分解することが公知である。微生物の培養濾液由来のこのような酵素は、細胞壁成分の加水分解のための大規模適用を見出した(非特許文献1)。微生物は、多数のタンパク質を産生し、かついくつかはまた、セルロースおよび/またはヘミセルロース分割酵素も生じる。ほとんどの報告および技術では、再使用のために回収できない遊離の可溶型でこれらの酵素触媒を利用する。さらに、基質、すなわち、セルロースおよび/またはヘミセルロースのポリマーならびにそれらの加水分解の産物は、‘酵素の作用を阻害する’傾向を有する場合が多い。これらの酵素のこのような使用によって、商業的規模での使用には魅力が薄まるか、またはよく望まれるよりも高価な酵素が利用される。従って、費用という理由で、加水分解されるセルロースおよび/またはヘミセルロースの単位重量あたりに用いられる酵素の量は、最小限で維持される場合が多く、このせいで加水分解反応の速度が低下し、反応時間が長くなる。
【0009】
上述の理由によって、ならびに本明細書を読み、および理解する際に当業者に明白になる、下に言及される他の理由によって、費用効果的な方式で、バイオマスの改良された糖への変換をもたらすシステムおよび方法が当該分野では大いに必要である。酵素プロセスの欠点のせいで、これが新しいプロセス開発のための自明の選択肢となるには弱いかもしれない。
【0010】
セルロースおよびヘミセルロースは、事実上一番目および2番目に豊富な多糖類である。セルロースは、どこでも30〜60%あるが、ヘミセルロースは、トウモロコシ繊維、トウモロコシ茎葉、麦わら、稲わらおよびサトウキビ搾りかすなどのリグノセルロースバイオマス(LBM)のうち約20〜35%に相当する。セルロースは、1,4β−グリコシド結合を通じて連結された数百から数千個のD−グルコース単位から構成されるほぼ均一なポリマーであるが、ヘミセルロースは、五炭糖類(キシロース、アラビノース)、六炭糖類(マンノース、グルコース、ガラクトース)および糖酸類の異種のポリマーである。広葉樹のヘミセルロースは、ほとんどキシラン類を含むが、針葉樹のヘミセルロースはほとんどグルコマンナン類を含む。従って、ほとんどの植物材料のキシラン類は、ヘテロ多糖類であって、1,4−結合β−D−キシロピラノース単位のホモポリマー骨格鎖を有する。キシロース以外に、キシラン類はまた、アラビノース;グルクロン酸またはその4−O−メチルエーテル;ならびに酢酸、フェルラ酸およびp−クマリン酸を含んでもよい。分岐の頻度および組成は、キシランの供給源に依存するが、骨格は、O−アセチル、α−アラビノフラノシル、α−1,2−結合グルクロン酸または4−O−メチルグルクロン酸置換基からなる。
【0011】
セルロースおよびヘミセルロース成分の両方をそれらの単糖(monosugar)成分に効率的に変換するためには、これらは、最初にリグノセルロース複合体から抽出されなければならない。セルラーゼおよびヘミセルラーゼを用いるこれらの2つの成分の酵素的な糖化は、この酵素の迅速な作用、ならびに基質損失および副産物の生成がわずかであることに起因して好ましい方法である。しかし、インタクトなLBMではセルロースおよびヘミセルロースの両方が酵素的な加水分解に利用不能である。従って、これらが酵素作用を受けやすくするためのLBMの前処理は義務的なものである(非特許文献2;非特許文献3)。セルロースはホモポリマーであるが、かなり嵩高く、結晶性であり、かつコンパクトな分子であり、一方ヘミセルロースの構造は、さらに複雑である。なぜならヘミセルロースは、五炭糖類、いくつかの六炭糖類ならびに側鎖基、例えば、アセチルおよびウロン酸から構成されるからである。従って、セルロースおよびヘミセルロースの両方とも酵素的な加水分解作用には、2つ以上の酵素の複合作用を要する。セルロース加水分解のためには、セルロースの結晶構造は、部分的または全体としてアモルファスである必要があり、その後、ポリマーセルロースをかなり小さいオリゴマー分子に変換するために、エキソセルラーゼおよびエンドセルラーゼの混合物が必要である。他方では、ヘミセルロースの場合、側鎖基の存在は、主要な骨格脱重合酵素、すなわち、エキソキシラナーゼおよびエンドキシラナーゼ、ならびにマンナナーゼの作用を妨げる。この問題に取り組むため、補足的な(accessory)酵素、例えば、α−L−アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、フェルラ酸エステラーゼおよびp−クマリン酸エステラーゼ(側鎖を加水分解する能力を有する)が、ヘミセルロースの完全な分解を達成して高収率の単糖類を得るために、主要なヘミセルラーゼとともに存在しなければならない(非特許文献4)。
【0012】
このようなシナリオの結果として、それぞれセルロースおよびヘミセルロースを脱重合または加水分解するために用いられるセルラーゼおよびヘミセルラーゼの調製物は、全てが一緒に作用する無数の主要なおよびマイナーな酵素を含む。
【0013】
しかし、他方では、ポリマー加水分解の順次的だが複雑なプロセスの間に生じる出発基質および中間基質は、用いられる混合調製物中に存在する酵素の部分的または完全なインヒビターとして作用する傾向であることが現在よく認識されている(非特許文献5および非特許文献6)。この事実、および費用の理由で過剰量の酵素を用いることが望まれない場合があるという事実の結果として、セルロースおよびヘミセルロースの両方の酵素糖化プロセスは、長期の反応であって、完了するには24〜48時間、多くの場合さらに長時間を必要とする。酵素が真に効率的な触媒であるということは長らく受け入れられてきた。しかし、生物学的供給源に由来し、かつ少なくとも部分的には精製された、そしてそれらが本質的に複雑で、壊れやすくかつ鋭敏な性質であるという理由で、酵素は高価でかつ不安定である。これは、産業上、酵素の適用のスペクトルおよび規模に厳しい制限をもたらす(非特許文献7)。製造規模の適用のための使用のために酵素を安定にかつ安価にするにはいくつかの方法が考案されている。従って、セルラーゼおよびヘミセルラーゼを含む新規な酵素が、広範な温度、pHおよびインヒビターの存在のような他の厳しい条件に対して安定であるように開発され、かつ製造されている(非特許文献8、非特許文献9)。しかし、これらの労力にかかわらず、これらの酵素は今日、セルロースおよびヘミセルロースを単純な糖に変換する費用に対して大きな原因となっている。
【0014】
酵素の費用を減少する1方法は、この酵素を固定型で、または何サイクルにもまたがって、もしくは長期間にわたって酵素の再使用を可能にする形態もしくは方法で用いることである。従って、再使用可能な形態または方法で、この酵素は、リアクタ中で保持されるが、この基質(単数または複数)および産物(単数または複数)は、バッチ方式または連続方式で、流入および流出する。しかし、固体支持体上の固定型の酵素の使用には、反応物(または基質)および産物が反応を容易にするために可溶性であることを必要とする。さらに、ポリマー反応物および産物(例としては、セルロースおよびヘミセルロース)に関与する反応のための酵素を用いる場合、固定支持体の細孔における酵素の接触性は、律速段階となり、この反応は、実用的用途には遅すぎるものとなる(非特許文献10)。この事実、ならびにセルロースが不溶性の固体であり、同様にヘミセルロースが水中で溶解度の低いポリマーであるという事実によって、リサイクル可能な形態および/または固定型でのセルロースおよびヘミセルロースの使用が妨げられていた。
【0015】
特許文献1は、キシランの酵素的加水分解によるキシロースの産生のためのプロセスを開示しており、ここでは酵素は、別々に固定されているが、一緒にインキュベートされ、キシラン溶液は、キシロビオース、キシロースおよび酸糖(acid sugars)に分解される。4時間後のキシロースおよび4−O−メチルグルクロン酸への全体的加水分解が特許請求されている。特許文献2は、リグノセルロースおよび特にサトウキビ絞りかすから構成される農業上のおよび農工業上の廃棄物を用いることによって燃料エタノールを得るためのプロセスを開示する。ヘミセルロース画分は、硫酸での穏やかな加水分解に供され、この加水分解由来の固体材料は、かなり短い時間、約8〜32時間でのアルコールへの変換の有意な増大を可能にする条件下で同時の迅速なアルコール発酵をともなう、糖化(酵素加水分解)のプロセスに供される。
【0016】
特許文献3は、より高い全体的な発酵性の糖収率を得るための条件下においてリグノセルロース材料中でセルロースおよびヘミセルロースを加水分解するという改良型の希酸方法を開示しており、この方法は:希酸触媒および金属塩触媒のある量の水溶液の混合物でリグノセルロース原料を含浸させ、この含浸されたリグノセルロース原料をリアクタに充填し、十分な期間にわたって加熱して、実質的に全てのヘミセルロースおよび45%を超えるセルロースを水溶性の糖へ加水分解する工程;ならびに水溶性の糖を回収する工程を包含する。
【0017】
特許文献4は、発酵性糖を遊離するために植物材料を処理するための方法を開示する。リグノセルロース材料を、酵素加水分解と共にディスク精錬に供して、糖富化プロセスストリームを生じ、これを次にバイオ燃料および化合物を生じるための発酵に供してもよい。
【0018】
特許文献5は、紙くずのようなセルロース材料を、紙の主要な構成であるセルロースの酵素的加水分解を利用して燃料および化合物に変換するためのプロセスを開示する。紙くずのスラリを、撹拌型加水分解装置中でセルラーゼと接触させる。加水分解装置から産生されるグルコースは、固定化された微生物を利用して、連続の、円柱状の、流動層バイオリアクタ中でエタノールに発酵される。この特許で開示されるプロセスは、「許容できる収率のためには数時間〜数日」を必要とする。
【0019】
特許文献6は、セルロースの酵素的加水分解を利用して、セルロース材料を糖およびエタノールなどの燃料および化合物へ変換するためのバッチプロセスを開示する。紙くずスラリを、撹拌型加水分解装置中でセルラーゼと接触させる。磨砕機およびセロビアーゼリアクタを、撹拌型加水分解装置と連結して、反応の効率を改善する。さらに、精密濾過、限外濾過および逆浸透工程を備えて、反応効率および酵素の再循環をさらに向上させる。得られた糖を、微生物のような生体触媒を利用する流動層バイオリアクタ中で希エタノール産物に変換する。紙のセルロースの加水分解の時間は約24時間である。
【0020】
特許文献7は、イオン性脂質前処理を用いることによって糖産生の収率および速度の改善をともなう、糖へのリグノセルロース変換のための方法を開示する。しかし、完全なバッチ酵素加水分解に必要な時間は、代表液なバイオマスサンプルのうち2つ(トウモロコシ茎葉、ポプラ)について16〜36時間内であり、これは実質的に長期間である。
【0021】
特許文献8は、固定化された酵素を用いて、蒸気爆発植物バイオマスまたは酵素的に部分的に事前加水分解したキシランから得た、キシロ−オリゴマーを含むヘミセルロース基質の加水分解のためのプロセスを開示する。しかし、このプロセスは、部分的に加水分解されたヘミセルロースを産生するという前提条件を有し、このヘミセルロースは同じく、蒸気爆発のような適切なプロセスを通じて植物バイオマスから得られる必要がある。蒸気爆発は、熱水過程であり、フルフラール誘導体を生じることが公知であり、この誘導体は、酵素的な変換および後には発酵効率という両方に影響することが公知である。
【0022】
特許文献9は、前処理された植物バイオマスから糖の相乗的な放出を提供する、酵素または酵素の新規な組み合わせを生じる方法を開示している。しかし、この開示されたプロセスは、24〜72時間の範囲内である糖化期間を短くすることはない。
【0023】
特許文献10は、生のポリマー原料の直接の酵素的処理および得られた可溶性成分の分離のための方法を開示する。しかし、酵素の回収および再使用は言及されておらず、加水分解期間も長期間である。
【0024】
特許文献11は、垂直円柱加水分解リアクタの底に前処理されたセルロース原料の水性スラリを導入する工程を包含する、前処理されたセルロースの酵素的加水分解のための連続処理システムを開示する。リアクタ中の軸方向分散は、混合を回避することおよび1時間あたり約0.1〜約20フィートの平均スラリ流速を維持することによって制限され、その結果この溶解されていない固体は、液体の速度よりも遅い速度で上向きに流れる。セルラーゼ触媒は、導入の工程の前または間に水性スラリに加えられる。加水分解産物および未加水分解固体を含む水性のストリームは、この加水分解リアクタから取り出され、固体分離後に、未加水分解セルロースがリサイクルされる。また、このプロセスでの使用のためのセルラーゼの酵素および綿状物を含む酵素組成物も提供される。さらに、セルラーゼの酵素および綿状物を備えるキットが記載されており、これは基質に対する酵素の暴露を提供すると言われている。セルロース変換は、バッチリアクタよりもこの場合には優れているが、必要な時間は、セルロース1gあたり32単位からセルロース1gあたり5単位というそれぞれの酵素負荷で48時間から200時間である。
【0025】
特許文献12は、単糖および/または水溶性の多糖が、スルホン酸塩含有炭素材料でセルロース含有材料を加水分解することによって高い程度の効率性で産生され得ることを開示している。用いられるスルホン酸塩含有炭素材料は、セルロース含有材料の未反応部分からスルホン酸塩含有炭素材料を分離する必要なく、炭化およびスルホン化によって再活性化および再使用され得る。この方法は、なんら酵素を使用せず、加水分解の費用を低減することが可能であり、廃棄物の量を減量し得、従って、全体的な環境保全に寄与し得る。
【0026】
セルロースおよびヘミセルロースの酵素的加水分解の概念は、長らく公知である。上述したとおり、使用中のまたは報告されているほとんどの酵素的加水分解プロセスは、バッチプロセスであって、糖化を完了するには12〜48時間かかる。さらに頻繁には、酵素的プロセスは、不完全なまま残り、その結果、高い酵素の費用および遅い反応が生じ、これによって処理能力が低くなり、従って大きいリアクタでは設備投資が大きくなる。より高い投与量の酵素を使用すれば、加水分解速度が増大し得るが、費用を考慮すれば、使用量は制限される。さらに、典型的なバッチプロセスでの酵素の使用量は、酵素に対する反応基質および産物の阻害性効果という理由で望まれるよりも高い。この理由で、セルロースおよびヘミセルロースの1キロあたりに必要な酵素使用量が低く、高温および高圧を必要とせず、危険な副産物を生じず、時間の浪費が少なく、かつ必要なエネルギーが少なく、従って、このプロセスをさらに経済的に実行可能なものとする、セルロースおよびヘミセルロースの糖化のための新しい効率的な方法が必要である。
【0027】
バイオマスから糖へ長い反応時間植物を操作することが予想される規模(典型的には1日あたりバイオマス100〜1000トン)とは、過剰な数百KLの容量の均一な標準サイズの酵素リアクタを意味する。従って、反応速度をスピードアップし、それによって容積上の処理量が増大することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許第4200692号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/065433号明細書
【特許文献3】米国特許第6423145号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/098618号明細書
【特許文献5】米国特許第5348871号明細書
【特許文献6】米国特許第5637502号明細書
【特許文献7】米国特許第227162号明細書
【特許文献8】米国特許第5932452号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2008/076159号明細書
【特許文献10】欧州特許第2017349号明細書
【特許文献11】国際公開第2006/063467号
【特許文献12】国際公開第2009/004950号
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】リース・イー・ティー(Reese,E.T.)ら、カナディアン・ジャーナル・オブ・マイクロバイオロジー(Canadian Journal of Microbiology)1973年,第19巻,p.1065−1074
【非特許文献2】ヒンメル・エム・イー(Himmel,M.E.)ら,2007年
【非特許文献3】ボサト(Bothast)およびサハ(Saha),1997年
【非特許文献4】ビエリー(Biely)およびテンカネン(Tenkanen),1998年
【非特許文献5】ベギン・ピー(Beguin P)ら,フェデレーション・オブ・ヨーロピアン・マイクロバイオロジカル・ソサイアティーズ(Federation of European Microbiological Societies)(FEMS)マイクロバイオロジカル・レビュー(Microbiological Review),1994年,第13巻,p.25−58
【非特許文献6】フェン・エイチ・ティルブルフ(Ven H Tilbeurgh)ら、スタディーズ・オブ・ザ・セルライティック・システム・オブ・トリコデルマ・レッセイ・キューエム94014(Studies of the cellulytic system of Trichoderma reesei QM 94014),ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European journal of Biochemistry),1989年,第189巻,p.553−559
【非特許文献7】エフ・ドウラード(F.Dourado)ら、ジャーナル・オブ・バイオテクノロジー(Journal of Biotechnology),2002年,第99巻,p.121−131
【非特許文献8】カーレ(Khare)およびグプタ(Gupta),アプライド・バイオケミストリー・アンド・バイオテクノロジー(Applied Biochemistry and Biotechnology),1988年,第16巻,p.1−15
【非特許文献9】ブスト(Busto)ら、バイオリソース・テクノロジー(Bioresource Technology),1997年,第60巻,p.27−33
【非特許文献10】ウッドワード・ジェイ(Woodward J),ジャーナル・オブ・バイオテクノロジー(Journal of biotechnology),1989年,第11巻,p.299−311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の一つの目的は、これらに限定されるものではないが、農業的な残渣、草本物質、林業の残留物、都市のゴミ、パルプおよび製紙工場の残渣、紙くずまたは任意の他の供給源を含む任意のリグノセルロース材料から得られた、ヘミセルロース、セルロースおよび/またはそれらの混合物の完全な変換のための多酵素多段階のシステムを提供することである。
【0031】
本発明の別の目的は、ヘミセルロースおよびセルロースならびに/またはそれらの任意の混合物の発酵性糖類への酵素触媒性加水分解のための、プロセスの速度および産生された糖の単位量あたりに用いられる酵素の量に関して、効果的なプロセスを開発することであり、ここでこのプロセスは酵素の費用に関して効率的であり、ならびに時間効率的であり、かつ工業規模に順応できる。
【0032】
セルロースおよびヘミセルロースの発酵性糖類への効果的な糖化または脱重合のための2つ以上の工程で、多酵素のシステムを提供することが本発明のなおさらなる目的である。
【0033】
本発明のさらに別の目的は、酵素の少なくとも2つの群を含む多酵素のシステムを提供することであり、ここで、2以上の工程の糖化のために、特定の群からの特定の酵素の選択があり、この群は、酵素の性質によって、および下に記載されるように決定される。
【0034】
本発明の別の目的は、補足的(accessory)酵素および補助的(auxiliary)酵素として機能する酵素のさらなる群(単数または複数)を提供することであり、この酵素は、プロセスの間、または酵素の第一の群もしくは酵素の第二の群とともに添加されてもよいし、および/または多酵素のシステムを用いて多段階プロセスの両方の群で添加されてもよい。
【0035】
本発明のなおさらなる目的は、2〜3時間内で90%または95%または98%を超える変換を達成するために、用いられる温度、圧力、pH、溶媒、接触時間および他のパラメーターに関して、セルロースおよび/またはヘミセルロースの糖化のプロセスの各々の工程を最適化することである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の一態様は、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、30℃〜90℃の範囲の温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いてヘミセルロースおよび/またはセルロースを処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、工程(a)で得られる加水分解産物を、酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得る。
【0037】
本発明の別の態様は、多段階、多酵素のシステムを用いるバイオマスから発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液;およびセルロースを含む残渣を得る工程と;この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;この残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程と;このようにして得られたヘミセルロースおよび/またはセルロースを、30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群の少なくとも1つの酵素で処理して、第一の加水分解産物を得る工程と;得られたこの加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して、発酵性糖類を得る工程と、を包含し;ここで酵素のこの第一の群および第二の群が、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得る。
【発明を実施するための形態】
【0038】
定義:
本明細書で用いる「発酵性糖類」という用語は、水溶性であり、かつ微生物により炭素基質として用いられ得る、全てのこれらの糖、およびそれらの混合物を指す。
【0039】
本明細書で用いられる「水理学的滞留時間(Hydraulic Retention Time(HRT))」という用語は、リアクタシステム中で反応物質が消費され、反応(本明細書ではヘミセルロースおよび/またはセルロースの加水分解である)に利用可能である平均時間を指す。
【0040】
本明細書において用いる場合、「ヘミセルロース(類)」および「セルロース(類)」という用語は、それぞれ、任意のリグノセルロースバイオマス由来で酵素的に加水分解可能なヘミセルロースおよびセルロースを指す。
【0041】
本発明は、時間および酵素利用に関して効率が高く、従って当該分野で公知であるよりも経済的に優れた、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを発酵性糖類に変換するための選択的に選ばれた多酵素での多酵素のシステムを用いる、発酵性糖類の産生のための多段階の方法に関する。任意のリグノセルロースバイオマスなどの天然の供給源由来のセルロースおよびヘミセルロースは、短時間で糖化され、ここでは多酵素のシステムの改良された酵素的組成/群で、中間体の変換速度が速く、その速度が向上され、それによってセルロースおよびヘミセルロースの糖化プロセスの経済性が向上される。
【0042】
本発明の一実施形態では、富化画分であるヘミセルロースおよびセルロースが提供され、この画分は、任意のリグノセルロースバイオマス由来であり、酵素的加水分解を受けやすく、酵素的加水分解の中および間になんら機械的および/または化学的な処理なしに、それぞれの単糖類(monosugars)に対して90%を超える加水分解を生じる。
【0043】
バイオマスの分画および前処理から得られるセルロースおよびヘミセルロースの画分がこのプロセスに関して用いられ得る。類似または他の供給源由来の純粋なセルロースおよびヘミセルロースもまた用いられてもよい。本発明では、セルロースおよび/またはヘミセルロースは、より高い変換またはリアクタの単位容積あたりの反応速度および用いられる酵素の全体的な量に起因して、一般に公知であるよりもかなり短い時間で糖化される。
【0044】
本発明の多段階、多酵素の脱重合または加水分解プロセスのシステムは、ヘミセルロースおよびセルロースを発酵性糖類およびオリゴ糖類(これは有用な産物にさらに変換されてもよい)に分解する酵素の組み合わせの別々の使用および連続した使用を包含する。いくつかの可能な組み合わせでは、多段階のプロセスが、セルロースおよびヘミセルロースのような複雑な炭水化物の発酵性糖類への変換を達成し、これはまとめて本明細書では「糖化」と呼ばれる。
【0045】
ポリマーのヘミセルロースおよびセルロースの複雑な構造のおかげで、それらの酵素的分解または修飾には、いくつかの異なる種類の酵素が必要である。酵素は組み合わせまたは混合物中で、糖ポリマー、すなわちセルロースおよびヘミセルロースを、単純なまたはオリゴマーの糖に分解し得る。このようなプロセスに最も利用可能な酵素は実際には、微生物、植物または他の生物体から得られた酵素の組み合わせまたは混合物;ならびに異なるかもしくは同じ微生物、植物もしくは他の生物体由来の酵素もしくは多酵素産物、または酵素およびその混合物を含む相乗的な酵素混合物であり、生来的に調製されてもよいし、および/または商業的に得られてもよい。
【0046】
本発明の一実施形態は、微生物(この微生物は、限定するものではないが、遺伝子操作されてもよいし、または天然であってもよい)由来である本発明で用いられ得る酵素に関する。これらの酵素は、本開示の目的に関しては、2つのクラスのセルラーゼおよびヘミセルラーゼについてのとおり、広義には2つの群に分類される。
【0047】
酵素の第一の群は、任意の公知の供給源由来のエンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、エンドキシラナーゼ、エキソキシラナーゼ、マンナナーゼおよびガラクタナーゼから構成される。これらの酵素は、外作用性(exo−acting)および内作用性(endo−acting)の加水分解性酵素ファミリーに属しており、このファミリーは、それらが種々の多糖類を分解して短鎖オリゴ糖類を生じる能力によって特徴付けられる。これらの酵素は、真菌、細菌、酵母、海草、原生動物、カタツムリ(snails)、甲殻類、昆虫、種子などによって産生されるが、主な商業的供給源は、糸状真菌、例としては、Aspergillus niger、Trichoderma reeseiなどである。キシラナーゼは、好冷微生物から単離され得る。キシラナーゼ類、β−マンナナーゼ類、アラビナナーゼ類およびペクチナーゼ類の産生は、例えば、好熱性真菌Thermomyces lanuginosusを用いることによって行われてもよい。中温真菌Trichoderma harzianumのT4株は、それぞれ、炭素源としてオートムギ(Avena sativa)スペルト(Spelt)キシランおよびふすま(wheat bran)の存在下で増殖した場合、細胞外キシラナーゼおよびマンナナーゼ活性を生じる。キシラナーゼおよびマンナナーゼは、Streptomyces galbus NRから得てもよい。セルラーゼ、例えば、グルカナーゼの供給源としては、真菌、例えば、Aspergillus niger、Trichoderma reesei、Pharochaete chyrosporium、Fusarium solani、Trichoderma konigii、Sclerotiom rolfsiiなど;細菌、例としては、Sporotrichum pruniosum、Arthrorhizopus sp.、Clostridium thermocellum、Ruminococcus albus、Streptomyces sppなどが挙げられる。
【0048】
酵素の第二の群は、キシロシダーゼ、マンノシダーゼおよびグルコシダーゼから構成される。これらの酵素は、グリコシダーゼ酵素ファミリーに属し、このファミリーは、放出されるオリゴ糖類を外作用性および内作用性の加水分解性酵素によって、モノマーの糖類に分解する。キシロシダーゼおよび/または同じ群由来の酵素、ならびに補足的な(accessory)酵素は一般に、キシラナーゼまたは主要な酵素とともに産生される。同様に、グルコシダーゼおよび/または同じ群由来の酵素ならびに補足的な酵素はまた、一般に、グルカナーゼ(単数または複数)または主な酵素とともに産生される。例えば、一般的な木材腐朽菌であるPiptoporus betulinusは、エンド−1,4−β−グルカナーゼ(EG)、エンド−1,4−β−キシラナーゼ、エンド−1,4−β−マンナナーゼ、1,4−β−グルコシダーゼ(BG)、1,4−β−キシロシダーゼ、1,4−β−マンノシダーゼおよびセロビオヒドロラーゼ活性を生じる。この真菌は、その子実体で主にβ−グルコシダーゼおよびβ−マンノシダーゼ活性を生じるが、より高い活性のエンドグルカナーゼ、エンドキシラナーゼおよびβ−キシロシダーゼが、真菌コロニーが形成した木材で見出される。セロビオースおよびセルロースオリゴマーの加水分解のためのβ−グルコシダーゼは、Piromyces sp、Fusarium oxysporiumなどのような微生物から得ることができる。
【0049】
しかし、キシロシダーゼおよびそのファミリー酵素は、粗抽出物由来のいくつかの特定の微生物から生成され、さらに精製されてもよい。例えば、β−D−キシロシダーゼは、Humicola grisea var.thermoideaから最大収率で産生される。β−グルコシダーゼおよびβ−キシロシダーゼはまた、Aureobasidium sp.のような酵母から産生されてもよい。2〜3の他の例としては、細菌、例えば、Agrobacterium tumefaciens C 58、Bacillus halodurans C−125、Bacillus subtillis 168、bifidobacterium longum NCC2705、Caulobacter crescentus CB15、Clostridium acetobutylicum ATCC 824、Streptomyces coelicolor A3(2)、Thermotoga maritima、Xanthomonas axonopodis pv.Citri str.306、Xanthomonas campestris pv.campestris str.ATCC 33913、Cellulomonas fimi、Cellvibrio japonicas、Geobacillus stearothermophilus T−6、Geobacillus stearothermophilus 21、Penicillium wortmanni.およびBacillus pumilusが挙げられる。
【0050】
異なる供給源由来のセルラーゼおよびヘミセルラーゼの両方の入手可能でかつ市販の調製物は、上記の2つの群由来の酵素を含む種々の酵素の種々の割合での組み合わせである。
【0051】
本発明では、ヘミセルロースおよびセルロース、またはそれらの任意の混合物が、上の2つの群由来の酵素を含む2つ以上の工程で糖化される。第一の工程は、第一の群由来の少なくとも1つの酵素を含む酵素調製物を用い、かつ同じおよび第二の群由来の他の酵素を含んでもよいし、含まなくてもよい。第二の工程では、用いられる酵素調製物は、第二の群由来の少なくとも1つの酵素を含み、かつ第一の群由来の1つ以上の酵素を含んでもよいし、含まなくてもよい。アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、グルクロニダーゼなどのような補助的な(auxiliary)酵素が、加水分解の速度向上のために2つの工程の両方または一方に必要に応じて加えられてもよい。本明細書に開示される補助的な酵素(単数または複数)または補助的な酵素の混合物は、セルロースまたはヘミセルロースの糖化の速度を増大または向上する任意の酵素(単数または複数)として規定される。
【0052】
当業者には、植物、細菌、酵母または真菌などの任意の天然のまたは遺伝子操作された生物体から2つの群の酵素を産生し得ることは自明である。
【0053】
本発明の実施形態の1つでは、2つの群の酵素は一般には、市販されるほとんどの酵素調製物の成分であり、発酵産物として得られるが、これらの酵素は、使用前に分離工程に供されてもよい。
【0054】
一実施形態では、ヘミセルロースおよびセルロースは、1つ以上の技術、例えば、物理的、化学的または生理化学的なプロセス、例としては、熱処理、水温処理、オルガノソルブ(organosolv)処理、蒸気爆発処理、蒸気爆発処理による石灰含浸、過酸化水素処理、過酸化水素&オゾン処理、酸処理、希酸処理、アルカリ処理、熱処理またはアンモニア繊維爆発処理を用いてバイオマスから得てもよい。
【0055】
バイオマスとしてはバージンバイオマスおよび/またはノンバージンバイオマス、例えば、農業上のバイオマス、森林の廃棄物、商業的有機物、構築物および解体廃材、都市ごみ、紙くずおよび庭ごみが挙げられる。バイオマスの一般的な形態としては、樹木、低木および芝草、小麦、麦わら、サトウキビ搾りかす、トウモロコシ、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ穀粒、例としては、トウモロコシ、ライムギ、オーツ麦のふすま、小麦およびオオムギなどの穀物の製粉(湿式粉砕および乾式粉砕を含む)由来の穀粒由来の繊維、生成物および副産物、ならびに都市ごみ、紙くずおよび庭ごみが挙げられる。バイオマスはまた、限定するものではないが、草本材料、農業的残渣、森林の残留物、都市ごみ、紙くず、およびパルプ、ならびに製紙工場および搾油機の残渣であってもよいし、それらも挙げられる。
【0056】
驚くべきことに、本発明では、2段階において多酵素のシステムを用いて行われる、ヘミセルロースおよび/またはセルロースの発酵性糖類への加水分解が、反応の全体的な速度を増大し、従って、発酵性糖類を生じるためのプロセスの時間を短くしたことが見出された。詳細には、酵素の第一の群由来の少なくとも1つの酵素および酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素が、段階的な方式で添加されるならば、糖化時間は、公知のプロセスに比較して5〜8分の1まで短くなる。これに反して、酵素の第一の群(グリカナーゼ類/キシラナーゼ類)由来の少なくとも1つの酵素が、同じ単一の工程で反応培地中で酵素の第二の群(グルコシダーゼ類/キシロシダーゼ類)由来の少なくとも1つの酵素とともに添加される場合、反応の最初の速度は高いことが見出された。しかし、この反応は、ある程度の時間後には遅くなり、総変換は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースの1グラムあたり約10酵素単位という報告された酵素使用量というレベルで24時間より長くかかる。酵素の1単位とは、反応容積1mLあたり1分あたりの1マイクロモル当量のグルコースを解放する酵素の量として規定される。
【0057】
本発明において開示される多酵素の多段階の反応では、利用される酵素は、当該分野で周知の方法によって調製されてもよく、または商業的に得られてもよい。
【0058】
本発明の一実施形態は、少なくとも1つの酵素が第一の群から特異的に選択される、第一の工程である。従って、第一の工程で用いられる酵素調製物は、エンドセルラーゼおよびエキソセルラーゼおよび/またはキシラナーゼ、ならびにそれらの任意の混合物から構成される群に由来するか/それから選択される少なくとも1つの酵素を含む。同様に、第二の工程では、少なくとも1つの酵素は、キシロシダーゼ、マンノシダーゼおよび/またはグルコシダーゼ、ならびにそれらの任意の混合物を含む酵素の第二の群から特異的に選択される。特定の群から特定の酵素のこのような連続的な選択、およびこのような酵素または酵素の群を段階的な方式で用いる理由は、グリカナーゼおよびキシラナーゼの産物が、グルコシダーゼおよびキシロシダーゼの作用を妨害するかまたは阻害し、かつこのような干渉が添加された酵素の活性を低下し、加水分解または脱重合の反応の全体的な速度を低下するということである。
【0059】
本発明のさらなる実施形態は、反応物および反応産物による酵素の妨害(単数または複数)または阻害(単数または複数)を生じ、それによって反応速度を低下する、第一の群および第二の群の酵素の伝統的な併用使用の限界を克服することに関する。本発明は、酵素の2つの群の作用が分けられ、それによってより高い全体的な反応速度が生じるプロセスを開示する。
【0060】
本発明の好ましい実施形態では、上述の酵素の第一の群由来の少なくとも1つの酵素を多段階の各々に連続して添加して、分けられたヘミセルロースまたはセルロースに対して作用するか、またはヘミセルロースおよびセルロースの任意の混合物に対して作用して、それらをエタノールおよび/または他の有用な産物の産生のために発酵性の糖類に変換する。
【0061】
従って、第一の工程では、酵素の第一の群由来の少なくとも1つの酵素を含む酵素混合物(1つ以上の補足的または補助的な酵素は有無)を、ヘミセルロースおよび/またはセルロースと反応させて、可溶性のオリゴ糖類を得る。第一の工程では、第一の群由来の酵素以外に、第二の群由来の酵素が低活性で存在してもよい。
【0062】
第二の工程では、酵素または酵素の混合物は、酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素(第一の群および/または任意の補足的または補助的な酵素由来の酵素の1つ以上が有無)から構成され、かつ同じまたは任意の種類の異なるリアクタ中で、第一の工程から得られた反応混合物に作用して、発酵性の糖類を得る。
【0063】
本発明の一実施形態では、ヘミセルロースおよび/またはセルロースの加水分解のプロセスを提供し、このプロセスは、酵素の段階的な作用を含む。2段階の作用によって、両方の工程で作用する酵素に対する中間産物および最終産物の両方の阻害性効果、すなわち、セロビオース、キシロビオースおよび単糖類(monosugars)のセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼ酵素の1つ以上の成分に対する、および詳細には、エンドグルカナーゼ類およびセロビオヒドロラーゼ類およびキシロビオヒドロラーゼ類に対する阻害性効果が最小化される。本発明の方法では、反応の全工程は、酵素またはその任意の混合物に対して好適なpHの範囲で行われ、さらに適切な結果がpH4〜8の範囲で見出される。2段階での反応pHは、酵素の供給源に依存して示された限界内で変化し、このpHは、全ての当業者によって容易に決定され得る。
【0064】
本発明の別の実施形態では、反応の温度は、30℃〜90℃の範囲であり、酵素の混合物についての動作温度は、酵素の活性および安定性のプロフィールに依存し、かつ全ての当業者によって容易に決定され得る。全体的な酵素加水分解は、全てのヘミセルロースおよび/またはセルロースが発酵性糖類に変換されるまで行われる。
【0065】
本発明によれば一実施形態では、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスが提供され、ここでこのプロセスは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを、30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いて処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、この得られた加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得る。
【0066】
本発明の一実施形態は、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここでこのヘミセルロースおよび/またはセルロースは実質的にリグニンを含まず、詳細には、10(w/w)%を超えるリグニンを含まない。
【0067】
本発明の別の実施形態では、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここで、このプロセスは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いて処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、この得られた加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得、ここで酵素のこの第一の群は、エンド−グルカナーゼ類、エキソ−グルカナーゼ類、エンド−キシラナーゼ類、エキソ−キシラナーゼ類、マンナナーゼ類およびガラクタナーゼ類である。
【0068】
本発明の別の実施形態では、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここで、このプロセスは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いて処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、この得られた加水分解産物を、酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得、ここで酵素のこの第二の群は、キシロシダーゼ類、マンノシダーゼ類およびグルコシダーゼ類である。
【0069】
本発明の別の実施形態では、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここで、このプロセスは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いて処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、この得られた加水分解産物を、酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得、ここで必要に応じてこの酵素は、1つ以上のタンパク質、1つ以上のポリマー、またはそれらの組み合わせと、1つ以上の架橋剤を用いて架橋される。
【0070】
本発明の別の実施形態では、酵素の架橋のためのタンパク質が提供され、ここでこのタンパク質は、酵素の第一の群、酵素の第二の群、トランスフェリン、グロブリン、動物血清アルブミン、大豆タンパク質、乳漿タンパク質およびコムギグルテンまたはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0071】
一実施形態では、本発明は、グルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリエチレンイミンおよび1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群より選択される架橋剤を提供する。
【0072】
本発明のなおさらに別の実施形態では、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここで、このプロセスは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いて処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、この得られた加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得、ここでこのヘミセルロースおよび/またはセルロースは、4〜8時間でバッチプロセスで発酵性糖類に変換する。
【0073】
本発明のなおさらに別の実施形態では、多段階、多酵素のシステムを用いるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここで、このプロセスは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素を用いて処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、この得られた加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して発酵性糖類を得る工程とを包含し;ここでこの酵素の第一の群および第二の群は、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得、ここでこのヘミセルロースおよび/またはセルロースは、1〜4時間という水理学的滞留時間で連続プロセスで発酵性糖類に変換する。
【0074】
本発明の一実施形態は、可溶性のオリゴ糖類、セロビオース、グルコース、キシロビオース、キシロースおよびアラビノースを含む発酵性糖類を提供する。
【0075】
本発明の別の実施形態は、バイオマスからヘミセルロースおよび/またはセルロースを得るためのプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液およびセルロースを含む残渣を得る工程と;この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;セルロースを含むこの残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程とを包含する。
【0076】
本発明のさらに別の実施形態は、バイオマスからヘミセルロースおよび/またはセルロースを得るためのプロセスを提供し、ここでこのバイオマスは、芝草、稲わら、麦わら、綿茎、ヒマ茎(castor stalk)、サトウキビまたはソルガム搾りかす、トウモロコシ穂軸、トウモロコシ茎葉、柄、スイッチグラスおよびエレファントグラスからなる群より選択される。
【0077】
本発明の別の実施形態は、アルカリを用いてバイオマスからヘミセルロースおよび/またはセルロースを得るためのプロセスを提供し、ここでバイオマスに対するアルカリの比は、0.5〜2.0、好ましくは1.4である。
【0078】
本発明の別の実施形態は、バイオマスからヘミセルロースおよび/またはセルロースを得るためのプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、2時間、1.0バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液およびセルロースを含む残渣を得る工程と;この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;このセルロースを含有する残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程とを包含する。
【0079】
本発明の別の実施形態は、バイオマスからヘミセルロースおよび/またはセルロースを得るためのプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液およびセルロースを含む残渣を得る工程と;この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;このセルロースを含有する残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程とを包含し、ここで少なくとも85%のヘミセルロースが回収される。
【0080】
本発明の別の実施形態は、バイオマスからヘミセルロースおよび/またはセルロースを得るプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液およびセルロースを含む残渣を得る工程と;この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;このセルロースを含有する残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程とを包含し、ここで少なくとも90%のヘミセルロースが回収される。
【0081】
本発明の別の実施形態は、多段階、多酵素のシステムを用いるバイオマスからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、
a.5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;
b.このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液;およびセルロースを含む残渣を得る工程と;
c.この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;
d.工程(b)由来の残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;
e.この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程と;
f.工程(e)由来のヘミセルロースおよび/または工程(d)由来のセルロースを、30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群の少なくとも1つの酵素で処理して、加水分解産物を得る工程と;
g.工程(f)の加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して、発酵性糖類を得る工程と、
を包含し、
ここで酵素のこの第一の群および第二の群が、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得る。
【0082】
本発明のさらなる実施形態は、多段階、多酵素のシステムを用いるバイオマスからの発酵性糖類の産生のプロセスを提供し、ここでこのプロセスは、
a.5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;
b.このバイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液;およびセルロースを含む残渣を得る工程と;
c.この濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;
d.工程(b)由来の残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;
e.この沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程と;
f.工程(e)由来のヘミセルロースおよび/または工程(d)由来のセルロースを、30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群の少なくとも1つの酵素で処理して、加水分解産物を得る工程と;
g.工程(f)の加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して、発酵性糖類を得る工程と、
を包含し、
ここで酵素のこの第一の群および第二の群が、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得;ここでこの酵素の第一の群および第二の群が、架橋剤を用いてタンパク質またはポリマーと架橋される。
【0083】
本発明の別の実施形態では、この酵素は、発酵性糖類まで加水分解されるヘミセルロースおよび/またはセルロースの1単位あたりに用いられる酵素の費用に関して費用効果的なプロセスを提供するためにリサイクルされかつ再使用される。例えば、酵素は、充填床リアクタか、攪拌型リアクタかもしくは流動層リアクタ中で、固定型で、または膜リアクタ中で、またはそれらの組み合わせで用いられ得る。
【0084】
固定化された酵素は、不活性、不溶性、多孔性または非多孔性の材料に結合される酵素である。これによって、剪断(shear)、圧力、pHまたは温度などの条件における変化に対する酵素の安定性および耐性の増大が提供され得る。固定化によってまた、酵素を適所で、または反応を通じてリアクタの制限内で保持することが可能になり、その後、それらは、産物から容易に分離され、そして再度用いられてもよい。
【0085】
固定化された酵素は費用効果的であり、同様に2つ以上のサイクルで使用することも容易である。この固定化された酵素は、反応から容易に取り出され、これによって生体触媒をリサイクルすることが容易になる。固定化された酵素は典型的には、可溶型の酵素よりも大きい熱安定性および操作安定性を有する。固定化された酵素は、異なる方法によって調製され得る。広範に用いられる方法は、適切な固体多孔性マトリクスに対する酵素の吸着である。酵素は、単純な吸着から共有結合反応におよぶ種々の方法によってマトリクスの固体表面に結合される。酵素はまた、不溶性のビーズまたはマイクロスフェア、例えば、アルギン酸カルシウムビーズに捕捉されてもよい。しかし、これらの不溶性物質は、特に基質がポリマー分子および嵩高い分子である場合は、基質の到着および産物の出口を妨害する。
【0086】
この酵素はまた、化学反応を通じてマトリクスまたは任意の酵素/タンパク質に共有結合されてもよい。この方法は本明細書に列挙されるものの中で断然に、最も有効な方法である。化学反応は、結合部位が酵素の活性部位をカバーしないことを保証するので、酵素の活性は、浮動性によってのみ影響される。この酵素およびマトリクスは、グルタルアルデヒドまたはカルボジイミドなどの架橋剤を通じて架橋される。
【0087】
本発明の好ましい実施形態の1つによれば、酵素は、適切な固体支持体に固定される。固定のために用いられる担体またはマトリクスは、任意の天然または合成のおよび有機または無機の材料、例えば、親水性の合成ポリマー、例えば、ポリアクリルアミド類、ポリメタクリルアミド類、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリイミド類、ポリビニル親水性ポリマー類、ポリスチレン、ポリスルホンなど、ならびに天然または合成の多糖類、例えば、デンプン、デキストラン、キチン寒天またはアガロース;無機材料、例えば、シリカ材料、例えば、二酸化ケイ素、例としては非晶質シリカおよび石英、制御細孔ガラス(controlled pore glass)、二酸化チタンおよびセラミックまたはそれらの適切な組み合わせから構成され得る。
【0088】
本発明の別の実施形態では、酵素はそれ自体ともしくは任意の他のタンパク質と、または任意の他のモノマーもしくはポリマーと架橋剤によって架橋されて、可溶性または不溶性の凝集物(架橋酵素凝集物(cross−linked enzyme aggregates)(CLEA)と呼ばれる)を形成し得、そして固定化された酵素として、または膜リアクタ中で用いられてもよく、ここでこの膜は、酵素または酵素凝集物ならびにポリマー基質を保持することが可能であり、一方でより小さい反応産物が浸透または通過することを可能にする。
【0089】
本発明の別の実施形態では、固体型のセルロースのような固体基質に作用する酵素を用いる場合、プロセスの費用は、酵素(単数または複数)のリサイクルを通じて費用効果的にされ、この酵素(単数または複数)は、膜リアクタ中で高分子としてその天然型で用いられるか、あるいはそれ自体に対して、または適切なタンパク質/酵素に対して、または任意の他のモノマーもしくはポリマーに対して、適切な架橋剤を用いて架橋されて、100%の膜拒絶係数で活性な架橋された可溶性の酵素調製物が得られる。架橋に用いられるタンパク質は、トランスフェリン、グロブリン、動物血清アルブミン、大豆タンパク質、乳漿タンパク質、およびコムギグルテンである。
【0090】
本発明の好ましい実施形態の1つによれば、セルロースおよびヘミセルロースのための糖化プロセスは、別々でまたは組み合されて、バイオリアクタ中で行われ、第一の工程および/または第二の工程で用いられるバイオリアクタは、精密濾過膜、限外濾過膜および/またはナノ濾過膜を用いて膜濾過システムと組み合されている充填床リアクタもしくは流動層バイオリアクタであっても、または攪拌型タンクバイオリアクタであってもよい。
【0091】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ヘミセルロースを酵素の第一の群の酵素のうちの少なくとも1つで処理し、ここでこの酵素(単数または複数)は、ヘミセルロースのポリマー構造を可溶性のオリゴ糖類まで分解する。さらに、第二工程では、これらのオリゴ糖類は、第二群由来の酵素のうちの少なくとも1つで処理され、ここでこの酵素(単数または複数)は、可溶性のオリゴ糖類を発酵性糖類に変換する。
【0092】
本発明の別の実施形態によれば、ヘミセルロースの糖化の第一工程は、膜濾過システム、例えば、精密濾過膜、限外濾過膜および/またはナノ濾過膜、好ましくは限外濾過膜単独と組み合された攪拌型タンクバイオリアクタで行われ、この膜は、第一の工程の可溶性の酵素(単数または複数)を保持してタンクバイオリアクタにリサイクルし、可溶性のオリゴ糖類がそれを通過する。第二の工程は、さらに別の膜濾過システム、例えば、限外濾過膜またはナノ濾過膜、好ましくはナノ濾過膜と組み合されている第二の攪拌型タンクバイオリアクタで行われ、この膜は、第二の工程の可溶性の酵素(単数または複数)を保持してリサイクルし、より大型の可溶性のオリゴ糖類も同様であるが、発酵性糖類は浸透するにつれて通過する。
【0093】
本発明の別の実施形態によれば、ヘミセルロースの糖化の第一工程は、充填床リアクタで行われ、ここでこの第一の工程で用いられる酵素(単数または複数)は、適切なマトリクス上に固定される。可溶性のオリゴ糖類は、第二工程へ行くリアクタで形成される。第二工程を、酵素の第二の群由来の固定化された酵素を含む第二の充填床リアクタカラムで行って、発酵性糖類を得る。あるいは、この第二のリアクタは、膜濾過システム、例えば、限外濾過またはナノ濾過、好ましくは限外濾過と組み合されている攪拌型タンクバイオリアクタであり、このシステムは、第二の群の可溶性の酵素(単数または複数)を保持してリサイクルし、より大型の可溶性のオリゴ糖類も同様であるが、発酵性糖類が浸透するにつれて得られる。
【0094】
本発明の別の実施形態によれば、ヘミセルロースの糖化の第一工程は、膜濾過、例えば、限外濾過またはナノ濾過、好ましくは限外濾過と組み合されたバイオリアクタで行われ、この濾過は、第一の工程で用いられる可溶性の酵素(単数または複数)を、ならびにまたより大型の可溶性および不溶性のオリゴ糖類も保持する。可溶性のオリゴ糖類は、膜を通過し、第二の工程では、充填床リアクタ中の第二の群の固定化された酵素(単数または複数)と接触して、発酵性糖類に変換される。
【0095】
本発明の別の実施形態によれば、ヘミセルロースの糖化の第一工程は、充填床リアクタで行われ、ここでこの第一の工程で用いられる酵素(単数または複数)は、適切なマトリクス上に固定される。可溶性のオリゴ糖類が形成されて、第二のカラム/バイオリアクタを通過させられ、ここでこの第二の群の酵素(単数または複数)は、適切なマトリクス上に固定される。この第二のカラムリアクタから生じるストリームは、発酵性糖類を含む。
【0096】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、セルロースは、酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素および/または第二の群由来のいくつかの酵素を用いて第一の工程で処理され、ここでこの酵素(単数または複数)がセルロースの基本的なポリマー構造をオリゴ糖類まで分解する。さらに第二の工程では、これらのオリゴ糖類は、第二の群由来の少なくとも1つの酵素および/または他の群由来のいくつかの酵素で処理され、ここでこれらの酵素(単数または複数)が、オリゴ糖類を発酵性糖類に変換する。
【0097】
本発明の実施形態の1つは、セルロース、詳細にはセロビオースの糖化の間に形成されるオリゴ糖類が酵素に対して、詳細には、エンド−グルコナーゼ類およびセロビオヒドロラーゼ類に対して阻害性効果を有するということである。さらにグルコシダーゼ類は、セロビオースをグルコースに変換し、グルコースはまたグルコナーゼを阻害し得る。このような阻害性効果は、酵素の2段階の処理によって最小化され得る。
【0098】
本発明の別の実施形態では、第一の工程の酵素(単数または複数)は、架橋剤によって、高分子量タンパク質、または任意の他のモノマー、またはポリマーと架橋され得る。セルロースは、不溶性の固体であり、従って、酵素の固定がその酵素の作用を補助する可能性は低い。従って、第一工程の酵素のリサイクルを通じて、セルロースの糖化の費用効果のプロセスを行うためには、酵素の第一の群を適切な架橋剤によってタンパク質またはポリマーに架橋する。
【0099】
本発明の別の実施形態では、セルロースの糖化のために用いられる酵素(単数または複数)の第一の群は、同じ酵素(単数または複数)またはタンパク質、例えば、トランスフェリン、グロブリン、動物血清アルブミン、大豆タンパク質、乳漿タンパク質もしくはコムギグルテンと架橋される。
【0100】
本発明の別の実施形態では、用いられる架橋剤は、グルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリエチレンイミンおよび1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群由来である。
【0101】
本発明の好ましい1つの実施形態では、セルロースの糖化の第一工程は、第一の工程で用いられる可溶性/架橋した酵素(単数または複数)を保持しかつリサイクルするための、膜分離アセンブリと組み合されている攪拌型タンクリアクタで行われる。この膜分離アセンブリは、酵素および糖ポリマーを保持するための、精密濾過膜、限外濾過膜またはナノ濾過膜を備えてもよいが、可溶性のオリゴ糖類はこの膜を通過して、第二の群由来の酵素を含む第二のリアクタを通じて送られる。この第二の攪拌型タンクリアクタはまた、限外濾過膜またはナノ濾過膜を備え得る膜分離アセンブリと組み合され、この膜は、酵素および大型のオリゴ糖類を保持するが、より小型の発酵性糖類はこの膜を通過する。
【0102】
本発明の別の実施形態では、セルロースの糖化の第一工程は、第一の群由来の可溶性の天然のまたは架橋された酵素(単数または複数)を保持するため、膜分離アセンブリと組み合されているバイオリアクタ中で行われる。この膜分離アセンブリは、酵素およびより大型のオリゴ糖類を保持しかつリサイクルするための、限外濾過膜またはナノ濾過膜であって、ただしより小型のオリゴ糖類がこれらの膜を通過し、第二のカラムリアクタを通じて送られる、膜を備えてもよい。この第二の工程は、第二のカラムまたはバイオリアクタで行われ、ここでこの第二の工程の酵素(単数または複数)は、適切なマトリクス上に固定される。これらの酵素は、可溶性のオリゴ糖類を発酵性糖類に変換する。
【0103】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ヘミセルロースおよびセルロースの混合物は、第一の工程において、酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素および/または第二の群由来のいくつかの酵素で処理され、ここでこの酵素(単数または複数)は、ヘミセルロースおよびセルロースの基本的なポリマー構造をオリゴ糖類に分解する。さらに、第二の工程では、これらのオリゴ糖類は、第二の群由来の少なくとも1つの酵素および/または他の群由来のいくつかの酵素で処理され、ここでこの酵素(単数または複数)は、オリゴ糖類を発酵性糖類に変換する。
【0104】
引き続く単一工程のための単一の2段階酵素リアクタセンブリにおける混合性の加水分解産物、および得られた糖のエタノールのような所望の産物への混合性の発酵を得るためには、ヘミセルロースおよびセルロースの同時糖化を行うことが必要である場合が多い。このような場合、バイオマスから得られるヘミセルロースおよびセルロースは、加水分解および糖化の工程のための混合物として処理される。しかし、本発明の2段階酵素反応の背景にある基本的な論理は、ヘミセルロースおよびセルロースの混合物に対して、各々の単一の成分に関して適用できることが見出されている。
【0105】
本発明の一実施形態は、ヘミセルロースおよびセルロースの糖化の間に形成されるオリゴ糖類、詳細にはセロビオースおよびキシロビオースが、酵素に対して、詳細にはエンド−グルカナーゼ類およびバイオヒドロラーゼ類(biohydrolases)に対して阻害性効果を有するということである。さらに、グリコシダーゼは、ビオースを単糖類(monosugars)に変換し、これらがまた、グルカナーゼ類を阻害し得る。このような阻害性効果は、酵素の2段階処理によって最小化され得る。
【0106】
本発明の別の実施形態では、第一の工程の酵素(単数または複数)は、架橋剤によって高分子量タンパク質、または任意の他のモノマーもしくはポリマーと架橋されてもよい。セルロースは、不溶性の固体であり、従って、酵素の固定が、酵素作用を補助する可能性は低い。第一の工程の酵素のリサイクルを通じて、ヘミセルロースおよびセルロースの混合物の糖化の費用効果のプロセスを行うために、酵素の第一の群を適切な架橋剤によってタンパク質またはポリマーに架橋する。
【0107】
本発明の別の実施形態では、ヘミセルロースおよびセルロースの混合物の糖化のために用いられる酵素(単数または複数)の第一の群は、同じ酵素(単数または複数)またはタンパク質、例えば、トランスフェリン、グロブリン、動物血清アルブミン、大豆タンパク質、乳漿タンパク質、またはコムギグルテンと架橋される。
【0108】
本発明の別の実施形態では、用いられる架橋剤は、グルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリエチレンイミンおよび1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群由来である。
【0109】
本発明の好ましい1つの実施形態では、ヘミセルロースおよびセルロースの混合物の糖化の第一の工程は、第一の工程で用いられる可溶性または架橋された酵素(単数または複数)を保持しかつリサイクルするための、膜分離アセンブリと組み合される攪拌型タンクリアクタ中で行われる。この膜分離アセンブリは、酵素および糖ポリマーを保持するための精密濾過膜、限外濾過膜またはナノ濾過膜であって、ただし可溶性のオリゴ糖類がこの膜を通過し、第二の群由来の酵素を含む第二の攪拌型タンクリアクタを通して送られる膜を備えてもよい。この第二のリアクタはまた、酵素および大型のオリゴ糖類を保持する限外濾過膜またはナノ濾過膜であって、ただしより小型の発酵性糖類がこの膜を通過する膜を備える、膜分離アセンブリと組み合される。
【0110】
本発明の別の実施形態では、ヘミセルロースおよびセルロースの混合物の糖化の第一工程は、第一の群由来の可溶性の天然または架橋された酵素(単数または複数)を保持するための、膜分離アセンブリと組み合された攪拌型タンクリアクタ中で行われる。この膜分離アセンブリは、酵素およびより大型のオリゴ糖類を保持してリサイクルするための限外濾過膜またはナノ濾過膜であって、ただしより小型のオリゴ糖類がこれらの膜を通過し、第二のカラムリアクタを通して送られる膜を備える。この第二の工程は、第二のカラムリアクタで行われ、ここでこの第二の工程の酵素(単数または複数)は、適切なマトリクス上に固定される。これらの酵素は、可溶性のオリゴ糖類を発酵性の小型の糖類に変換する。
【0111】
本発明によるプロセスを行うための上記で用いられかつ記載されるリアクタセンブリは、任意の特定の要件を満たすために変化される。従って、反応の水力学を維持して、攪拌、膜および充填リアクタ中で、層流によっておよび最小の剪断を保持することによって、産物の溶液の最適変換を保証する。
【0112】
以下の例は、本発明に含まれる本発明の例示によって示されるものであり、従って、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0113】
本明細書に記載される以下の実施例は、例示の目的に過ぎないこと、ならびに本明細書に照らして種々の改変または変化は、当業者に対して示唆的であり、かつ本出願および添付の特許請求の範囲の趣旨および条項内に含まれるべきであることが理解されるべきである。
【実施例1】
【0114】
綿茎からのヘミセルロースの調製
乾燥し、大きさを小さくした綿茎3gを、5%アルカリ100mlを用いて121℃で30分間、オートクレーブまたは圧力リアクタ内で処理する。この処理されたサンプルを濾過して、固体残渣を取り除く。ヘミセルロースを含む濾液を無水エタノール500mlで処理する。得られた沈殿物を濾過して、過剰のエタノールで洗浄し、ヘミセルロースを鈍黄色の粉末として得た。
【実施例2】
【0115】
稲わらからのセルロースおよびヘミセルロース+セルロースの混合物の調製
乾燥し、大きさを小さくした綿茎1gを、5%アルカリ20mlで121℃で15分間、オートクレーブ内で処理する。この処理されたサンプルを濾過して、水で洗浄し、固体残渣をセルロース画分として回収する。ヘミセルロースを含む濾液を無水エタノール50mlで処理し、得られた沈殿物を濾過して、過剰のエタノールで洗浄し、ヘミセルロースを鈍黄色の沈殿物として得る。そのようにして得たセルロース残渣およびヘミセルロースを混合して、さらなる処理のためのヘミセルロースおよびセルロースの混合物を得る。
【実施例3】
【0116】
ヘミセルロースの加水分解
(a)酵素リサイクルなしのバッチ反応
pH5の50mMクエン酸緩衝液1000mL中のヘミセルロース(40g)を4000IUの主にエンド−キシラナーゼの酵素を用いて50℃で2時間処理した。酵素の1単位とは、1分あたり1ミリリットルの酵素によって得られる産物のマイクロモルと定義する。ゲル透過クロマトグラフィーによって、キシロビオースが主な産物であることが示された。第二工程では、2000IUのキシロシダーゼ酵素を、酵素の第二群として用いて、反応培地に添加した。ヘミセルロースのキシロースへの完全な変換は、次の2.0時間内にまたがって得られた。表1は、第1の酵素であるHM1と第二の酵素であるHMIIでの反応プロセスの詳細を示す。
【0117】
(b)酵素リサイクルによる連続ヘミセルロース加水分解
pH5.0の50mMクエン酸緩衝液中のヘミセルロースの3%(w/v)懸濁液を、500mLのジャケット加熱式攪拌型リアクタ中で一定の高さで液体レベルを維持するように、定量ポンプを用いて約10mL/分で添加し、ここで総量1000IUのエンド−キシラナーゼも最初に1ロットで添加した。この攪拌型リアクタを50℃で維持し、膜濾過系と組み合わせた。全体的なリアクタセンブリは、管状の限外濾過膜システム(5KDaおよび0.01平方メートル)を通じて反応塊を循環する蠕動ポンプを装備した攪拌型タンクリアクタ(500mL)から構成された。この膜システムからの残留物は、攪拌型タンクに戻したが、浸透物をビーカー中に収集して、これから別の蠕動ポンプが、固定化されたβキシロシダーゼの充填床(10mm径×500mm高)を通じて反応塊を通過させた。浸透物およびカラムの流速は、10mL/分で維持した。第二のリアクタからの流れを、グルコース含量について分析した。連続定常状態に基づいて、ヘミセルロースの単糖類(monosugars)への95%の変換が生じることが見出された。40〜50分という全体的な平均水理学的滞留時間が維持された。
【実施例4】
【0118】
ヘミセルロースおよびセルロースの混合物の加水分解
(a)酵素リサイクルなしのバッチ反応
ヘミセルロースおよびセルロースの混合物(40g)を、酸性にした水(pH5)に懸濁し、エンド−グルカナーゼ類およびエキソ−グルカナーゼ類の混合物の4000IUを用いて50℃で2.0時間処理した。酵素の1単位とは、1分あたり酵素1ミリリットルによって産生されるグルコース当量の還元糖のマイクロモルとして定義する。2時間後の反応混合物のゲル透過クロマトグラフィーによって、可溶性のオリゴ糖類が形成された主要な生成物であることが示された。第二工程の反応は、第一の工程由来の反応混合物に対して添加したβ−グルコシダーゼおよびβ−キシロシダーゼ(各々1000IU)の混合物を用いて行った。多糖類からグルコースおよびキシロースへの完全な変換が、その後の2時間内に得られた。反応の進行の結果を表2に示す。
【0119】
(b)酵素リサイクルによる連続反応
酸性にした水(pH5)中のヘミセルロースおよびセルロース(3:7の比)の混合物の4%(w/v)懸濁液を、500mLのジャケット加熱式攪拌型リアクタ中で一定の高さで液体レベルを維持するように、定量ポンプを用いて約15mL/分で添加し、そこへエンド−グルカナーゼ類およびエキソ−グルカナーゼ類を1ロットで1000IUの混合物で添加した。この攪拌型タンクの温度は、50℃に維持した。この膜リアクタセンブリは、実施例3(b)で言及したものと同じであった。この攪拌型リアクタを、膜濾過システムと組み合わせた。この膜システム由来の残留物は、攪拌型タンクに戻したが、浸透物をビーカー中に収集して、これから別の蠕動ポンプが、固定化されたβグルコシダーゼおよび固定化されたβ−キシロシダーゼの混合物の充填床(10mm径×500mm高)を通じて反応塊を通過させた。浸透物およびカラムの流速は、15mL/分で維持した。第二のリアクタからの流れを、グルコース含量について分析した。連続定常状態に基づいて、単糖類(monosugars)への90%という平均の混合性の変換が生じることが見出された。40〜50分という全体的な平均水理学的滞留時間が維持された。
【実施例5】
【0120】
セルロースの加水分解
(a)セルロースのバッチ加水分解
pH4.8の50mMクエン酸緩衝液中にセルロース(10g)を懸濁し、エンド−グルカナーゼおよびエキソ−グルカナーゼの混合物の1000IUを用いて攪拌型リアクタ中で50℃で処理した。酵素の1単位とは、1分あたり1ミリリットルの酵素によって得られる産物のマイクロモルとして定義する。GPCによって、オリゴ糖類が2.0時間後の主要な産物であることが示された。次いで、第二工程では、β−グルコシダーゼ(500IU)を反応培地に添加した。セロビオースのグルコースへの完全な変換は、その後の2時間内にわたっている。
【0121】
(b)酵素リサイクルによるセルロースの連続加水分解
pH5.0の50mMクエン酸緩衝液中のセルロースの3%(w/v)懸濁液を、500mLのジャケット加熱式攪拌型リアクタ中で一定の高さで液体レベルを維持するように、定量ポンプを用いて約10mL/分で添加し、ここでエンド−キシラナーゼの総量1000IUも最初に1ロットで添加した。この攪拌型リアクタを、膜濾過システムと組み合わせた。エンド−セルラーゼおよびエキソ−セルラーゼの1000IUの混合物の1ロットの添加物をこの攪拌型タンクに添加して、反応を50℃で行った。このリアクタセンブリは、管状限外濾過膜システム(5kDaおよび0.01平方メートル)を通じて反応塊を循環する蠕動ポンプを装備した攪拌型タンクリアクタから構成された。この膜システム由来の残留物は、攪拌型タンクに戻したが、浸透物をビーカー中に収集して、これから別の蠕動ポンプが、固定化されたβグルコシダーゼの充填床(10mm径×500mm高)を通じて反応塊を通過させた。浸透物およびカラムの流速は、15mL/分で維持した。第二のリアクタからの流れを、グルコース含量について分析した。連続定常状態に基づいて、セルロースのグルコースへの90%という変換が生じることが見出された。40〜50分という全体的な平均水理学的滞留時間が維持された。
【実施例6】
【0122】
架橋されたセルラーゼの調製
10IUという総活性を有するエキソ−グルカナーゼおよび/またはエンド−グルカナーゼの混合物を、アルカリ条件下で架橋剤としてグルタルアルデヒドを用いて実験室で調製した大豆タンパク質単離物(2mg/ml)で架橋した。架橋反応期間を制御して、可溶性調製物酵素凝集物を得た(非変性PAGEで証明された)。この調製物は、架橋されていないタンパク質および過剰の架橋剤を除去するために、30kDaの限外濾過膜でダイアフィルトレーションして濃縮した。50mg/mLタンパク質を含有する液体調製物を酵素調製物として用いた。
【実施例7】
【0123】
架橋セルラーゼを用いるセルロースの連続加水分解
pH5.0の50mMのクエン酸緩衝液中の純粋セルロースの3%(w/v)懸濁液を、500mLのジャケット加熱式攪拌型リアクタ中で一定の高さで液体レベルを維持するように、定量ポンプを用いて約10mL/分で添加し、ここではエンド−キシラナーゼの総量1000IUを最初に1ロットで添加した。この攪拌型リアクタを、膜濾過システムと組み合わせた。1ロットの1000IU当量の架橋されたエキソグルカナーゼおよびエンドグルカナーゼ活性を、この攪拌型タンクに添加して、これを45℃で維持した。この反応混合物は、30kDaの限外濾過膜を通じて連続的に再循環させた。浸透物を、実施例5(b)に用いられたような固定化された酵素を含有する充填床カラムを通過させた。充填カラムリアクタ由来の反応混合物をグルコース含量について分析した。連続定常状態に基づいて、セルロースのグルコースへの平均で約90%変換という変換が生じることが見出された。40〜50分という全体的な平均水理学的滞留時間が維持された。
【0124】
表1:それぞれが第一の群および第二の群由来の酵素を各々主に含んでいる、2つのヘミセルロース酵素調製物HMIおよびHMIIを用いるヘミセルロースの酵素的加水分解の速度および程度の比較。実験1は、2つの酵素調製物が一緒に用いられる伝統的な場合であり、実験2および3は、2つの酵素調製物が本発明に記載されるような2段階で用いられた場合である。
【0125】
【表1】

【0126】
表2:それぞれが第一の群および第二の群由来の酵素を各々主に含んでいる、2つのセルラーゼ酵素調製物であるセルラーゼおよびセルラーゼ+グルコシダーゼを用いる64:20の比でのセルロース+ヘミセルロースの酵素的加水分解の速度および程度の比較。実験1は、2つの酵素調製物が一緒に用いられる伝統的な場合であり、実験2は、2つの酵素調製物が本発明に記載されるような2段階で用いられた場合である。
【0127】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段階の多酵素のシステムによるヘミセルロースおよび/またはセルロースからの発酵性糖類の産生のためのプロセスであって、
a.30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群のうち少なくとも1つの酵素でヘミセルロースおよび/またはセルロースを処理して、第一の加水分解産物を得る工程と、
b.酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で、工程(a)において得られた加水分解産物を処理して、発酵性糖類を得る工程と、
を含み、
ここで、酵素の該第一の群および第二の群がヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得る、プロセス。
【請求項2】
前記ヘミセルロースおよび/またはセルロースは10%(w/w)を超えるリグニンを含まない、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
酵素の前記第一の群は、エンド−グルカナーゼ類、エキソ−グルカナーゼ類、エンド−キシラナーゼ類、エキソ−キシラナーゼ類、マンナナーゼ類およびガラクタナーゼ類である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
酵素の前記第二の群は、キシロシダーゼ類、マンノシダーゼ類およびグルコシダーゼ類である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
必要に応じて前記酵素は、1つ以上の架橋剤を用いて、1つ以上のタンパク質、1つ以上のポリマー、またはそれらの組み合わせで架橋される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記タンパク質は、酵素の第一の群、酵素の第二の群、トランスフェリン、グロブリン類、動物の血清アルブミン、大豆タンパク質、乳漿タンパク質およびコムギグルテンまたはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記架橋剤は、グルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリエチレンイミンおよび1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群より選択される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ヘミセルロースおよび/またはセルロースは、4〜8時間でバッチプロセス中で発酵性糖類に変換する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ヘミセルロースおよび/またはセルロースは、1〜4時間という水理学的滞留時間で連続プロセス中で発酵性糖類に変換する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記発酵性糖類は、可溶性のオリゴ糖類、セロビオース、グルコース、キシロビオース、キシロースおよびアラビノースを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ヘミセルロースおよび/またはセルロースが、
a.5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;
b.該バイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液;およびセルロースを含む残渣を得る工程と;
c.該濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;
d.工程b由来の該残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;
e.該沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程と;
を含むプロセスによって得られる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記バイオマスは、芝草、稲わら、麦わら、綿茎、サトウキビまたはソルガムの搾りかす、トウモロコシ穂軸およびトウモロコシの茎葉、柄からなる群より選択される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記バイオマスは、サトウキビの搾りかす、綿茎、ヒマ茎、トウモロコシ穂軸、トウモロコシの茎葉、稲わらまたは麦わら、スイッチグラスおよびエレファントグラスである、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記バイオマスに対するアルカリの比は0.5〜2.0、好ましくは1.4である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項15】
前記圧力は1.0バールである、請求項11に記載のプロセス。
【請求項16】
前記時間は2時間である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項17】
少なくとも85%のヘミセルロースが回収される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項18】
少なくとも90%のセルロースが回収される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項19】
多段階の多酵素のシステムによるバイオマスからの発酵性糖類の産生のプロセスであって、
a.5分〜2時間、1.0〜20バールの圧力下で50℃〜200℃におよぶ温度でpH12〜14である5%〜10%(w/v)のアルカリとバイオマスとを混合してバイオマススラリを得る工程と;
b.該バイオマススラリを濾過して、ヘミセルロースを含む濾液;およびセルロースを含む残渣を得る工程と;
c.該濾液をアルコールで処理して、ヘミセルロースを含有する沈殿物を得る工程と;
d.工程b由来の該残渣を水で洗浄して、残留のアルカリを除去して、セルロースを得る工程と;
e.該沈殿物を洗浄してヘミセルロースを得る工程と;
f.工程(e)由来の該ヘミセルロースおよび/または工程(d)由来の該セルロースを、30℃〜90℃におよぶ温度で酵素の第一の群の少なくとも1つの酵素で処理して、第一の加水分解産物を得る工程と;
g.工程(f)で得られた該加水分解産物を酵素の第二の群由来の少なくとも1つの酵素で処理して、発酵性糖類を得る工程と、
を含み、
ここで酵素の該第一の群および第二の群が、ヘミセルロースおよび/またはセルロースを加水分解し得る、プロセス。


【公表番号】特表2012−527886(P2012−527886A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512522(P2012−512522)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000355
【国際公開番号】WO2010/137039
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511286436)
【Fターム(参考)】