説明

バイオマーカーとしての線維芽細胞成長因子7(Fgf7)及び受容体Fgfr2bの使用

ZK230211又はZK−PRAの名称でも知られる、式(I)のプロゲステロン受容体アンタゴニスト、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)エストラ4,9−ジエン−3−オンのための、及び抗エストロゲンのためのバイオマーカー候補としての線維芽細胞成長因子Fgf7及び対応する受容体Fgfr2bの使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロゲステロン受容体アンタゴニスト、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン及び抗エストロゲンのためのバイオマーカーとしての線維芽細胞成長因子Fgf7及び対応する受容体Fgfr2bの使用に関する。
【0002】
プロゲステロン受容体アンタゴニスト、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンは、ZK230211又はZK−PRAの名称でも知られており、以下の式:
【化1】

を有し、他の内分泌学的効果をほとんど伴わずに、あるいは全く伴わずに、高い抗プロゲステロン活性を示す (Fuhrmann, U. et al., J. Med. Chem. 2000, 43, 5010-5016)。
【0003】
線維芽細胞成長因子7(Fgf7)又は他のケラチノサイト成長因子(kgf)は、22のメンバーを含む分泌性糖タンパク質ファミリーに属する (Grose and Dickson 2005)。Fgf7は、間葉に由来する細胞により産生され、そして上皮細胞により発現されるFgfr2bに特異的に結合する。したがって、Fgf7は、間葉−上皮シグナルを媒介する傍分泌因子である。異種移植実験において、Fgf7を過剰発現するMCF−7腫瘍は、Fgf7過剰発現を伴わないMCF−7細胞の腫瘍よりも明らかに大きかった (Zang, Bullen et al. 2006)。Fgf7はDNA合成、ならびに腫瘍細胞の増殖及び遊走を刺激する。Fgf7を投与した雌ラットは、巨大な管過形成を発生し、そしてFgf7を過剰発現するマウスは、まず、乳癌に発達する過形成を発生した。ER及びPRを伴わない高度に脱分化した乳癌は、極めて低レベルのFgfr2bを示したが、よく脱分化した腫瘍はFgfr2bの強い発現を示したことから、Fgf7媒介刺激及び増殖は、進行や転移に導く分子カスケードにおいて極めて初期の事象であるものと推測される。ER−陽性細胞株、例えばMCF−7、T47−D及びZR75−1は、Fgf7による刺激において増大した増殖及び遊走を示す一方、ER−陰性細胞株、例えばMDA−MB−231はこれらを示さないことが判明している (Zang and Pento 2000)。Fgf7、Fgfr2bの発現及びER−αの発現において相関関係を示す可能性がある。同時に、強いFgf7発現を伴う腫瘍のアポトーシス率は明らかに低かった(Tamaru, Hishikawa et al. 2004)。
【0004】
間質細胞におけるFgf7の発現は多数の因子によって制御される。マクロファージや他のいくつかの細胞により産生される前炎症性サイトカインのインターロイキン1及びインターロイキン6での刺激によって線維芽細胞におけるFgf7発現を増大することができた。他の成長因子、例えば血小板由来成長因子BB(pdgfBB)及び形質転換成長因子αも同様に、間葉細胞におけるFgf7の発現を増大した(Finch and Rubin 2006)。
【0005】
Fgf7はタモキシフェンによる治療に対してMCF−7細胞の耐性を誘発することが示されている。培養培地への組換えFgf7の添加は、mRNA及びタンパク質レベルにおいてER−α及びPRの両方を明らかに下方制御し、タモキシフェンは増殖試験において活性を示さなかった。正のフィードバックメカニズムが仮定される:
Fgf7は内因性アロマターゼの産生を刺激し、これによりアンドロゲンのE2への転化を増大する(Chang, Sugimoto et al. 2006)。
【0006】
線維芽細胞成長因子受容体(Fgfr)は、構造的に関係がある4つの遺伝子(Fgfr1〜Fgfr4)によってコードされる膜貫通チロシンキナーゼである。オルタナティブ・スプライシングは、該受容体の更なるアイソフォームをもたらす。Fgfr2のスプライス変異はFgfr2bとFgfr2cである。Fgfr2bは、上皮起源の細胞でのみ産生され、そしてFgfr2cは間葉細胞でのみ産生される。Fgfr2bは成長因子Fgf7に特異的な受容体であり、乳癌の約5%において発現され(Finch and Rubin 2006)、そしてマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)及びホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(Pl3K)を介してシグナル伝達カスケードを媒介する (Moffa, Tannheimer et al. 2004)。免疫組織学的研究において、FGFR2bは乳房組織の上皮細胞において検出された。この場合、正常な組織と悪性組織における定量的な相違は検出されず、そして間質細胞においてFGFR2bは検出できなかった(Palmieri, Roberts-Clark et al. 2003)。
【0007】
腫瘍や癌の進行及びそれに関係する制御における細胞過程の複雑な関係を考慮すれば、活性成分による治療を目的としたバイオマーカーの使用は極めて必要とされる。
【発明の概要】
【0008】
このたび、驚くべきことに、Fgfr2b遺伝子発現における11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる治療の影響が、細胞株において示されることが発見された。Fgfr2bはFgf7の特異的な受容体である。このたび、驚くべきことに、Fgf7による刺激が、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる治療に対する耐性の発達に相関することが発見された(T47D/T47D−耐性を参照のこと)。同時に、高度なFgfr2発現を伴う細胞は、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)エストラ4,9−ジエン−3−オンによる治療に対してあまりよく応答しないか、あるいは全く応答しないことから、Fgfr2は、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)エストラ4,9−ジエン−3−オンの使用のための潜在的な分類マーカー(stratifying marker)として考えられる。
【0009】
したがって、例えば、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンに耐性であるT47−D細胞においては、感受性細胞よりも発現が高いことが発見された。
【0010】
11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる治療は、該細胞においてFgfr2bの下方制御に導き、該受容体Fgfr2bの応答マーカーとしての用途が示唆される。
【0011】
siRNAノックダウン手段による、耐性T47D細胞におけるFGFR2b発現の減少は、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)エストラ4,9−ジエン−3−オンに対する感受性を回復することを示すことができた。これは、FGFR2bが、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの耐性に打ち勝ち、その効果を強化するための、FGFR2bキナーゼを阻害する小分子、FGFR2bに対する抗体又は遺伝子治療のいずれかによる併用治療の標的であることを示す。
【0012】
したがって、本発明は、癌及び腫瘍に関する細胞増殖の治療のための医薬の製造のためのプロゲステロン受容体アンタゴニスト11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン
【化2】

のためのバイオマーカーとしての線維芽細胞成長因子Fgf7の使用に関する。
【0013】
本発明はさらに、癌及び腫瘍に関する細胞増殖の治療のための医薬の製造のためのプロゲステロン受容体アンタゴニスト11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンのためのバイオマーカーとしての受容体Fgfr2bの使用に関し、ここで線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bは、腫瘍又は腫瘍細胞におけるFgf7の上方制御のための分類マーカーとして使用され、そして血清中の高濃度のFGF7は、該腫瘍及び腫瘍細胞における11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる治療に対する内因性抵抗及び高いFgfr2b発現に関係する。
【0014】
本発明は更に、細胞培養液及び血清中のプロゲステロン受容体アンタゴニスト11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの活性を測定するためのインビトロ方法であって、ここで線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bが該測定のためのバイオマーカーとして使用される方法に関する。
【0015】
これに関して、線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bは、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる治療に対して耐性を伴う腫瘍又は腫瘍細胞において、あるいは高いFgfr2発現を伴う細胞において、Fgf7の上方制御のための分類マーカーとして用いられる。
【0016】
分類マーカーとしてのこれらの特性において、線維芽細胞成長因子Fgf7及び受容体Fgfr2bはまた、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの使用における耐性調節のための標的としても用いられる。
【0017】
本発明は更に、抗エストロゲンによる治療に対して耐性を伴う腫瘍細胞におけるFgf7の上方制御のための分類マーカーとしての線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bの使用、及び線維芽細胞成長因子又は受容体Fgfr2bが、抗エストロゲンによる治療に対して耐性を伴う腫瘍細胞におけるFgf7の上方制御のための分類マーカーとして用いられるインビトロ方法に関する。
【0018】
線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bと一緒に利用される適当な抗エストロゲンは、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、ラソフォキシフェン、アルゾキシフェン、GW5638*)、EM−800**)、イドキシフェン及びバセドキシフェンである。
【0019】
*)該化学構造は、Wilson et al., Endocrinology 138, 3901 , (1997) 及びWu et al., Mol. Cell, 18, 413, (2005)に開示されている。
**)該化学構造は、Labrie et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 79, 213, (2001)に開示されている。
【0020】
本発明はまた、腫瘍組織及び腫瘍細胞におけるFGF7及びFGFR2の非侵襲的な測定のためのインビトロ造影(imaging)方法であって、造影を許容する標識を含むこれらのタンパク質に対する抗体を使用する方法に関する。造影を許容する標識は、例えば蛍光標識又は他の放射性標識である。
【0021】
使用することができる適当な蛍光マーカーや適当な放射性マーカーは、一般に知られており、かつ十分に記載されている。
【0022】
本発明は更に、アンチセンス、siRNA、shRNA及びリボザイムのFGF7発現を低下するため、ならびにFGF7−遮断抗体及び可溶性受容体の循環を不活性化するためのインビトロ方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理におけるMXT腫瘍モデルにおける腫瘍面積の変化を示す。
【図2】11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理におけるMXT腫瘍モデルにおける腫瘍面積の変化を示す(試験再現)。
【図3】培養培地にFgf7(20ng/ml及び50ng/ml)添加して、24時間及び72時間培養し、その後ウェスタンブロットにおいてPRの量が測定されたT47−D細胞を示す。
【図4】Fgf7の影響下における11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによるT47−D細胞の増殖アッセイを示す。
【図5】6つのモデル細胞株におけるFgfr2対18S rRNAの相対発現を示す。
【0024】
以下の実施例は、これらの例に限定することなく本発明の実施可能性を実証するものである。
【実施例】
【0025】
例1
11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理に対して良好に応答する腫瘍(レスポンダー)、及び11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理において良好な成長を示し続け、かつ耐性メカニズムの可能性を示す腫瘍(ノンレスポンダー)の同定
該試験のために、すでに厳密なホルモン依存性ではないMXT−M3腫瘍をマウスに移植した。
【0026】
ウレタン溶液の腹腔内投与により、C57BLxDBA2F1マウスにおいてMXT(+)腫瘍モデルを誘発させた。進行中の乳房腫瘍は同じ遺伝的背景を有するマウス(同系)に更に移植することができ、そしてこれはすでに確立されたモデルである。MXT(+)モデルは、生理学的濃度において該腫瘍がERとPRの両方を発現するという事実によって特に区別される。他のホルモン受容体陽性腫瘍モデルも存在するが、しばしばこれらのER及びPRは機能的ではなく、刺激後に細胞質から核への転座を示さない。そしてまた、ホルモン消失(ablation)による成長阻害を示すこともできない。このようなモデルは、抗ホルモン物質の研究のためには不適当である(Watson, Medina et al. 1977)。
腫瘍成長の結果は図1に示される。
【0027】
試験の終了時に動物を犠牲にし、そして腫瘍を除去し、その後該腫瘍の重量を測定した。該腫瘍重量の変動は各々のグループにおいて高い。溶媒対照グループにおける平均腫瘍重量(427mg)は、卵巣切除グループ(155mg)よりも2.8倍高く、そして11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンで処理したグループ(192mg)よりも2.2倍高かった。
【0028】
更なる遺伝子発現実験のために、選択した腫瘍のRNAを単離し、そしてGeneChip分析及びリアルタイムPCRでさらに分析した。
【0029】
溶媒対照グループから最も大きな5つの腫瘍を選択した。処理グループにおける11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンに対するノンレスポンダーにより上方制御されることが発見された遺伝子が、各々の腫瘍サイズにおける排他的な成長に起因せず、該物質への暴露における腫瘍成長に特異的に上方制御されることを保証することを目的とした。
【0030】
卵巣切除グループ及び11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンで処理したグループにおいて制限を設定した:100mg以上の重量を有する腫瘍をノンレスポンダーとして評価し、そして100mg以下の重量を有する腫瘍をレスポンダーとして分類した。
【0031】
【表1】

【0032】
ノンレスポンダー腫瘍において、Fgf7は溶媒対照よりも3.12倍強く発現し、そしてレスポンダー腫瘍においては、対照と比較して70%に小さく下方制御した。
【0033】
処理において、Fgfr2は、30%(レスポンダー腫瘍対対照)及び55%(ノンレスポンダー対対照)に明確に下方制御される。しかしながら、一般的に、発現はノンレスポンダーでより高い。
【0034】
例2
インビボ確認実験
例1からのインビボ実験の腫瘍RNAの研究において、バイオマーカー候補を同定することができた。これらの可能性のある候補を確認するために、グループあたり動物数を10〜20増やして、同じ研究デザインにより独立した動物実験を行った。
【0035】
試験の終了時に、腫瘍を除去し、該腫瘍重量を測定し、そしてRNAが単離されるまで−80℃で腫瘍を保存した。該結果は図2に示される。
【0036】
確認実験において、腫瘍重量は、グループ内で高い変動を示した。溶媒対照グループにおける平均腫瘍重量は577mgであり、そして卵巣切除グループ(180mg)よりも3.2倍高く、そして11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンで処理したグループ(215mg)よりも2.7倍高かった。例1の実験と同様に、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンで処理したグループの平均腫瘍重量は、卵巣切除グループよりも僅かに高かったが、対照グループよりも明らかに低かった。
【0037】
先の実験において、溶媒対照動物の平均腫瘍重量は、卵巣切除グループ及び11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンで処理したグループよりも極めて高いといえるほどではなく、この実験においては、僅かに優れた腫瘍のホルモン依存性を示唆する。
【0038】
試験1と同様に、治療の応答(レスポンス)及び非応答(ノンレスポンス)についての制限を、100mgの腫瘍重量に設定した。対照グループから最も大きな5つの腫瘍を選択した。該腫瘍からRNAを単離し、そしてバイオマーカー候補の遺伝子発現を測定した。結果を以下の表に挙げる:
【0039】
【表2】

【0040】
例3
FGF7の影響下におけるプロゲステロン受容体のウェスタンブロット分析
FGF7がERとPRの両方を下方制御することは文献中に報告されている。この効果を検証するために、様々な量のFGF7を有する培地において、細胞を24時間及び72時間インキュベートし、その後PR含有量を測定した。
【0041】
PRの量におけるFgf7の影響は極めて明確である。濃度の減少とともに、PRの明らかな減少が見られる。PR−AとPR−Bの両方のアイソフォームは、顕著に減少する。24時間及び72時間のFgf7でのインキュベーション後、該効果は明白であった。
該結果は図3に示される。
【0042】
例4
FGF7の影響下における細胞成長
11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの活性におけるFGF7の影響を、T47−D細胞において調査した。該細胞は、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理に対して感受性応答を示した。50ng/mlのFGF7を培地に添加し、そして増殖アッセイにおいてZK−PRAの活性を測定した。
【0043】
該増殖アッセイにおいて、感受性のT47−D細胞で11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンは良好な活性を示した。最大の成長対照(全ての添加及びE2を伴う培地)は、同様に100%で設定し、そして最小対照(全ての添加を伴うが、E2がなく、血清を奪われている)は42%の成長を示した。したがって、E2の退薬を介して58%成長を阻害することができた。
【0044】
最も高い物質濃度(10-5mol/l)において、成長は42%阻害され、10-6mol/lにおいて47%阻害され、そして10-7mol/lにおいて50%阻害された。より低い濃度において、成長はさらに増大する。最も低い濃度(10-11mol/l)における成長は114%であった。
【0045】
FGF7(50ng/ml)の培地への添加において、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンは、感受性T47−D細胞の増殖において、より小さな阻害を示した。最小対照(E2消失)においては、細胞増殖を29%だけ減少でき、これは依然最大対照の71%であった。最も高い濃度(10-5mol/l)において、成長は24%阻害され、そして次に低い濃度においては18%阻害された。最も低い濃度(10-11mol/l)において、成長は最大対照の114%に達した。
該結果は図4に示される。
【0046】
例5
インビボにおける6つのモデル細胞株におけるFgfr2対18S rRNAの相対発現
インビボ実験(上記を参照のこと)において、ノンレスポンダー腫瘍及びレスポンダー腫瘍におけるFgfr2の発現は、未処理対照グループよりも2分の1〜4分の1弱かった。
【0047】
線維芽細胞成長因子7(Fgf7)の受容体の発現は、ZK−PRAの処理における感受性T47−D細胞において制御されなかった(ZK−PRAでの処理において1.1倍高い)。未処理のZK−PRA−耐性T47−Dにおける発現は、感受性T47−D細胞の場合よりも2倍高く、そしてZK−PRA処理により、未処理の感受性T47−D細胞の1.3倍の値まで僅かに減少した。他の全ての細胞における発現は、通常の培地及びZK−PRAによる処理の両方において顕著に少なかった:
【0048】
未処理BT−474細胞におけるmRNAの量は、未処理T47−D細胞よりも21倍少なく、そしてZK−PRAによる処理においては、37倍低い値まで低下した。MCF−7について見られた初期値は64倍低く、そしてZK−PRA処理では、未処理の感受性T47−D細胞と比較して、実際に153倍低かった。ZR75−1における発現は、未処理のT47−D細胞よりも3.7倍低く、そして処理により通常の条件下のT47−Dと比較して、9.4倍低い発現まで低下した。MDA−MB231における発現は、実際に10000倍低く、検出限界を僅かに超えるものであった。
該結果は図5に示される。
【0049】
例えば、ノンレスポンダー腫瘍においてFgf7が、溶媒対照と比較して、レスポンダー腫瘍の場合よりも3倍強いことは、例1から明らかであり、これは確認実験において再現可能であった。
【0050】
インビトロ実験において、ヒト乳癌細胞中ではFgf7mRNAは検出できなかった。Fgf7は間葉細胞中で産生される成長因子であるため、上皮発現は、乳房腫瘍細胞中のFgf7については予測されなかった。インビボ発現が見出されたという事実は、動物の腫瘍の成長における自然な状態に関係し、ここで該細胞は、腫瘍中でも成長する通常の間質細胞により包囲されている。間質細胞は、線維芽細胞、内皮細胞、マクロファージ、マスト細胞及び含脂肪細胞を含む。(レスポンダー腫瘍に対して)より大きなノンレスポンダー腫瘍におけるFgf7の高い発現は、間質のより高い割合のために排除できる。これは、溶媒対照の分析された腫瘍がいくつかのケースにおいて3倍大きく、そしてこれらの腫瘍におけるFgf7発現が3倍低いことから、特異的な効果が推定できるためである。
【0051】
11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン−感受性細胞株T47−Dにおける間葉因子Fgf7の影響をインビトロで調査した。組換えFgf7が添加された培地中の細胞は、PRを顕著に下方制御することが示された。該受容体のPR−Aアイソフォームは顕著に下方制御されたため、ウェスタンブロットにおいて極めて弱いバンドが見えただけであり、したがってPR特性は、おおよそPR陽性であるが、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン−耐性細胞株であるBT−474とZR75−1に対応した。これは、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの効果がPR−Aアイソフォームによって媒介されることを示唆している。
【0052】
続いて、Fgf7の影響下における11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理に対する感受性T47−D細胞の応答を調査した。培地にFgf7を伴わない増殖アッセイは、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン−成長阻害の明確な用量−応答関係が、濃度上昇に従い大きくなることを明らかにし、50%成長阻害を達することができた。非用量−応答関係は、培養培地へのFgf7(50ng/ml)の添加においては見られなかった。最大成長阻害は約20%であったが、用量と応答の相関は存在しなかった。この効果はおそらく、高濃度のFgf7によって強化されたものと考えられる;文献中、いくつかのケースで500ng/mlが利用されているが、予備実験は、50ng/mlの濃度がPRの顕著な下方制御をもたらすため、これは100ng/mlの場合よりも強くないが、この濃度が選択された。
【0053】
Fgf7の影響下において細胞が完全にホルモン−独立性の成長を示したことは特に興味深い。これは、結局、標的としてERを必要とする抗エストロゲンに対する耐性についてのマーカーとしてFGF7の重要性を実証することに寄与する。T47−D細胞は、E2の存在においてのみ増殖し、E2消失は最大成長阻害のチェックとして寄与する。Fgf7を伴わない増殖試験において、60%程度の最大阻害を達成することができた。Fgf7の培地への添加において、該効果は実質的に小さく、阻害は僅か29%であった。したがって、Fgf7はERやPRのみを下方制御するだけでなく、抗エストロゲンやプロゲスターゲンの標的が喪失しても、成長ホルモンとしてそれ自体が更に作用し、抗ホルモン効果又はホルモン消去が補償される。
【0054】
Fgf7はタンパク質バイオマーカー候補である。11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理におけるノンレスポンダー腫瘍において、Fgf7はレスポンダー腫瘍と対比して、対照腫瘍と比較して3倍上方制御した。これは、2回目のインビボ実験において独立に確認された。Fgf7は、局所効果を有するが、分泌される一方向傍分泌因子であるため、上昇したFgf7血清レベルが11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンによる処理に対する非応答との関連性の調査が必要となる。更に、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの効果は、Fgf7の影響下において顕著に減少され、そしてT47−D細胞のホルモン依存性もまた取り除かれたことが示された。
【0055】
参考文献
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌及び腫瘍に関する細胞増殖の治療のための医薬の製造のためのプロゲステロン受容体アンタゴニストである11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン
【化1】

のためのバイオマーカーとしての線維芽細胞成長因子Fgf7の使用。
【請求項2】
癌及び腫瘍に関する細胞増殖の治療のための医薬の製造のためのプロゲステロン受容体アンタゴニストである11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンのためのバイオマーカーとしての受容体Fgfr2bの使用。
【請求項3】
癌及び腫瘍に関連する細胞増殖の治療のための医薬の製造のための、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンでの治療に対して内因性抵抗を伴う腫瘍細胞におけるFgf7の上方制御のため、又は腫瘍細胞における高いFgfr2発現の上方制御のための分類マーカーとしての線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bの使用。
【請求項4】
細胞培養液及び血清中のプロゲステロン受容体アンタゴニストである11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの活性を測定するためのインビトロ方法であって、線維芽細胞成長因子Fgf7が測定のためのバイオマーカーとして使用されることを特徴とする方法。
【請求項5】
細胞培養液中のプロゲステロン受容体アンタゴニストである11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの活性を測定するためのインビトロ方法であって、受容体Fgfr2bが測定のためのバイオマーカーとして使用されることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bが、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンでの治療に対して耐性を伴う腫瘍細胞において、又は高いFgfr2発現を伴う細胞において、Fgf7の上方制御のための分類マーカーとして用いられることを特徴とする、請求項4及び5のいずれか1項に記載のインビトロ方法。
【請求項7】
線維芽細胞成長因子Fgf7及び受容体Fgfr2bが、11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オンの使用における耐性調節のための標的として用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
腫瘍細胞におけるFGF7及びFGFR2の非侵襲的な測定のための造影方法であって、造影を許容する標識を含むこれらのタンパク質に対する抗体が用いられる方法。
【請求項9】
蛍光標識又は放射性標識が造影のための標識として存在することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
線維芽細胞成長因子Fgf7又は受容体Fgfr2bが、抗エストロゲンによる治療に対して耐性を伴う腫瘍細胞におけるFgf7の上方制御のための分類マーカーとして用いられることを特徴とする、インビトロ方法。
【請求項11】
抗エストロゲンとして、タモキシフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、トレミフェン、ラソフォキシフェン、アルゾキシフェン、GW5638*)、EM−800**)、イドキシフェン又はバセドキシフェンが使用されることを特徴とする、請求項10に記載のインビトロ方法。
【請求項12】
FGF7発現を減少させ、かつFGF7遮断抗体及び可溶性受容体の循環を不活性化するためのインビトロ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−530523(P2010−530523A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510702(P2010−510702)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004675
【国際公開番号】WO2008/148582
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】