説明

バクテリオファージ治療の有益な効果

本発明は、細菌細胞において化学的抗生物質に対する感受性を誘導するための、ヒト又は動物におけるインビボでの1又は複数のバクテリオファージの使用であって、そのような感受性が遺伝性であり、細菌細胞内での持続するバクテリオファージ代謝に非依存的であり、そのような感受性を誘導するバイオフィルムの破壊と関連がない、使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージ治療に続く、抗生物質に対して以前は耐性を有していた細菌の感作に関する。特に、本発明は、その好ましい側面において、病原性細菌によって引き起こされる動物及びヒトの感染症に使用される、バクテリオファージと従来の抗生物質による連続治療を使用した治療薬物の調製及び投与を提供する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質耐性は、今や現代医薬が直面する大きな課題の1つであると見なされている。新規抗生物質が不足していることを考慮すると、治療薬としてバクテリオファージを使用することを含む、いくつかの代替的アプローチが検討されつつある(Barrow & Soothill, Trends in Microbiology (1997), 5, 268-271; Dixon B, The Lancet Infectious Diseases (2004), 4, 186; Hausler T, Viruses vs. Superbugs: A Solution to the Antibiotics Crisis? (2006) MacMillan, New York; Matsuzaki et al, Journal of Infection and Chemotherapy (2005), 11, 211-219)。
【0003】
バクテリオファージ(単に「ファージ」として知られていることも多い)は、細菌内で増殖するウイルスである。その名称は、「細菌を食べるもの」と翻訳され、バクテリオファージが増殖するに従って、次世代のバクテリオファージが放出されるときにバクテリオファージの大半が細菌宿主を死滅させるという事実を反映している。バクテリオファージに関する初期の研究は、多くの要因により妨げられ、その要因の1つは、バクテリオファージには、すべての細菌を死滅させる非特異的ウイルスの1種類しか存在しないと広く考えられていたことであった。実際には、バクテリオファージの宿主域(バクテリオファージが感染させることができる細菌の範囲)は、多くの場合、非常に特異的である。この特異性は、標的細菌種のみを特定して除去するバクテリオファージの集団を選択することができるために、治療上の強みと見なすことができる。
【0004】
バクテリオファージの宿主特異性により治療上の利点が与えられるが、この特徴には、標的系統の適用範囲の幅を獲得することが困難になることがあるという不利な点がある。この理由のために、特定種類の細菌感染に関して、広いターゲティング能力を有するバクテリオファージの組合せを見つけることに関心がもたれてきた(たとえば、Pirsi, The Lancet (2000) 355, 1418を参照されたい)。これは、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を標的する6つのバクテリオファージの混合物の開発ですでに達成されており、この混合物は獣医学分野での試験を完了し、今やヒト臨床試験にかけられている(Soothill et al, Lancet Infectious Diseases (2004) 4, 544-545)。現在の課題は、そのような治療薬の送達を最適化する投与計画を開発することである。
【0005】
バクテリオファージと抗生物質療法は、以前東ヨーロッパで併用されたことがある(たとえば、Bradbury, The Lancet (February 2004) 363, 624-625を参照されたい)が、相乗効果についての特定の報告はなかった。実際には、バクテリオファージは細菌の代謝を利用して複製するが、これが抗生物質により阻害されるために、抗生物質はバクテリオファージ療法の使用に悪影響を及ぼすおそれがあると示唆されてきた(Payne and Janssen, Clinical Pharmacokinetics (2002) 42, 315-325)。
【0006】
より最近になって、バクテリオファージは、混合病原性細菌がバイオフィルムで増殖する場合には、利益を生じることが明らかにされた(Soothill et al, 2005, 国際特許出願公開第2005/009451号パンフレット)。この出願においては、明らかにバクテリオファージ治療に続くバイオフィルムの破壊により、異種細菌感染症に対する引き続く抗生物質治療に関して利益があることが明らかにされた。
【0007】
バイオフィルム形成は今や、抗生物質に対する耐性が増大する一因である、多くの重要な病原性細菌の一特徴であることが知られている。そのようなバイオフィルムは、排泄された細胞外マトリックスにより支持され取り囲まれた複数種類の細菌を含み、細菌が海礁から歯のエナメル質までの表面にコロニーを形成するのを支援することがある。バイオフィルムにより、細菌は表面に付着し、他の方法では支えられないと考えられる個体群密度に到達することができる。バイオフィルムは、抗生物質に対してだけではなく、重金属、漂白剤及び他の洗浄剤などの毒素を含む多くの環境ストレスに対しても増大した耐性を付与する。抗生物質耐性に対するバイオフィルム形成の寄与は、主として拡散の制限から生じる物理的プロセスであると以前は考えられていたが、より最近の証拠によれば、一部のバイオフィルムは抗生物質を捕捉する特異的な能力を有すると思われることが明らかにされた(Mah et al., Nature (2003) 426, 306-310)。バイオフィルム内部の細菌は、単細胞(「プランクトン様」)の形で増殖する同一系統の細菌の100〜1000倍、抗生物質に対する耐性を有することが知られている。このような耐性の増大は、室内試験では抗生物質に対して明らかに感受性を有する細菌が、臨床場面では療法に抵抗性を有する可能性があることを意味する。バイオフィルムは、たとえそのいくつかが取り除かれても、抗生物質がもはや存在しなくなると、急速なコロニー形成を可能にする耐性の蓄積を提供する可能性がある。したがって、バイオフィルムが多くのヒト疾患の主要因であることは明らかである。
【0008】
上記のように、緑膿菌に対する治療バクテリオファージ調製物の使用に続いて混合感染症に対して引き続き抗生物質を使用すると、さらに有益な効果が観察されており、これは、バイオフィルムを維持する主要種としての緑膿菌が破壊され(Soothill et al, 2005, 国際特許出願公開第2005/009451号パンフレット)、その結果バイオフィルムの完全性が失われ、したがって細菌が従来の抗生物質に曝露されることがすでに提唱されている。
【0009】
国際特許出願公開第2005/009451号パンフレットによる教示では、バクテリオファージの標的となっている細菌種と同じ細菌種に対して特異的に活性な抗生物質の使用に反対している。引用されている例は、Synulox(アモキシシリン及びクラブラン酸)及び/又は(ジエタノールアミンフシジン酸、フラマイセチン硫酸、ニスタチン及びプレドニゾロンを含有する)Canaural ear dropsの使用に言及している。これらの調製物は、両方とも緑膿菌に対して効果的でない抗生物質のみを含有している(Krogh et al, Nordisk Veterinaer Medicin (1975) 27, 285-295; Kucers A, in Kucers et al (eds), The Use of Antibiotics: A Clinical Review of Antibacterial, Antifungal and Antiviral Drugs, Fifth edition (1997), Butterworth-Heinemann, Oxford; Rawal, Journal of Antimicrobial Chemotherapy (1987) 20, 537-540)。特に、クラスとしてのアミノグリコシド系抗生物質は緑膿菌に対して効果的であるが、フラマイセチンは有効性が非常に限定されている。Kucersは「緑膿菌を除いて」、「ほぼすべての医学的に重要なグラム陰性好気性菌は(ネオマイシン、フラマイセチン及びパロモマイシンに)感受性を有する」ことに注目しているが、同じ筆者が、Comber et al, in Rolinson & Watson Augmentin (eds) (1980), Excerpta Medica, Amsterdam, p.19の研究を引用して、「緑膿菌はコアモキシクラブ(co-amoxiclav)耐性である」と述べている。コアモキシクラブは、the online 52nd edition of the British National Formulary (www.bnf.org)に「アモキシシリン(三水和物として又はナトリウム塩として)及びクラブラン酸(クラブラン酸カリウムとして)の混合物」として定義されており、獣医用医薬品Synuloxと同等である。したがって、国際特許出願公開第2005/009451号パンフレットは、バクテリオファージとのいかなる組合せでも緑膿菌を標的する抗生物質の使用を示してはおらず、むしろ同時感染する細菌を特異的に標的する抗生物質の使用を示していると考えられる。
【0010】
細菌が耐性の抗生物質に対する細菌の感受性をバクテリオファージが増大させることができる別の機構が最近同定された(Hagens et al, Microbial Drug Resistance (2006), 12, 164-168)。この機構には、活発なバクテリオファージ代謝が伴い、細菌膜中での細孔の形成を伴うことが示唆されている。しかしながら、これは、「抗生物質と繊維状ファージを使用する併用療法」の使用に基づいて、「特定の抗生物質に対して耐性を有する病原菌の再感作は、インビボでのファージの存在下で実現することができる」ことを教示する。したがって、この機構は、バクテリオファージの存在下でのみ発揮され、バクテリオファージと抗生物質の両方を同時に使用することに依存し、細菌膜に細孔を形成する繊維状バクテリオファージに特異的であると思われる非遺伝性の特徴に関連している。したがって、この機構は、活発に複製しているバクテリオファージが存在しないときでも持続する遺伝性の変化を誘導する、本請求項にて請求する本発明とは、明確に異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】Soothill et al, 2005, PCT特許出願 国際公開第2005/009451号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Barrow & Soothill, Trends in Microbiology (1997), 5, 268-271
【非特許文献2】Dixon B, The Lancet Infectious Diseases (2004), 4, 186
【非特許文献3】Hausler T, Viruses vs. Superbugs: A Solution to the Antibiotics Crisis? (2006) MacMillan, New York
【非特許文献4】Matsuzaki et al, Journal of Infection and Chemotherapy (2005), 11, 211-219
【非特許文献5】Pirsi, The Lancet (2000) 355, 1418
【非特許文献6】Soothill et al, Lancet Infectious Diseases (2004) 4, 544-545
【非特許文献7】Bradbury, The Lancet (February 2004) 363, 624-625
【非特許文献8】Payne and Janssen, Clinical Pharmacokinetics (2002) 42, 315-325
【非特許文献9】Mah et al., Nature (2003) 426, 306-310
【非特許文献10】Krogh et al, Nordisk Veterinaer Medicin (1975) 27, 285-295
【非特許文献11】Kucers A, in Kucers et al (eds), The Use of Antibiotics: A Clinical Review of Antibacterial, Antifungal and Antiviral Drugs, Fifth edition (1997), Butterworth-Heinemann, Oxford
【非特許文献12】Rawal, Journal of Antimicrobial Chemotherapy (1987) 20, 537-540
【非特許文献13】Comber et al, in Rolinson & Watson Augmentin (eds) (1980), Excerpta Medica, Amsterdam, p.19
【非特許文献14】the online 52ndedition of the British National Formulary (www.bnf.org)
【非特許文献15】Hagens et al, Microbial Drug Resistance (2006), 12, 164-168
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ヒト又は動物におけるインビボでのバクテリオファージ治療の使用による、化学的抗生物質に対する感受性の誘導であって、そのような感受性が遺伝性であり、活発なバクテリオファージ代謝に依存せず、そのような感受性を誘導するバイオフィルムの破壊と関連がなく、細菌性疾患、特にたとえば緑膿菌感染症の抑制において感受性のそのような誘導を利用することができるように、バクテリオファージと抗生物質の連続使用を可能にする薬剤の調製を伴う。この文脈における感受性の誘導は、感受性の改善を含むと理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、一の側面では、ヒト又は動物における細菌感染症を治療するためのバクテリオファージと抗生物質の併用療法に使用される、1又は複数のバクテリオファージを含むバクテリオファージ調製物であって、前記抗生物質に対する前記感染症の細菌細胞の感受性がバクテリオファージ治療により誘導又は改善される時期での前記バクテリオファージ治療の開始に続いて少なくとも1つの抗生物質が投与され、そのような感受性が遺伝性であり、細菌細胞内での持続するバクテリオファージ代謝と独立であり、そのような感受性を誘導するバイオフィルムの破壊と関連がない、バクテリオファージ調製物が提供される。抗生物質感受性は、確立したインビトロ手法によりモニターしてよい。感受性の誘導は、個々の患者由来の1又は複数の細菌系統に対して確認してもよいし、類似の細菌感染症に罹った他の患者において、バクテリオファージ治療に続いて同定してもよい。
【0015】
さらなる側面では、ヒト又は動物において連続使用される2段階薬剤であって、第1段階がバクテリオファージベースの療法を含み、第2段階が1又は複数の化学的抗生物質で構成され、上記の感受性の誘導により有益な効果を発揮するように設計されている、2段階薬剤が提供される。
【0016】
バクテリオファージ療法と1又は複数の化学的抗生物質は、たとえば、1〜2日〜2カ月の間隔、好ましくは1〜4週間の間隔、最も好ましくは2週間の間隔で投与してよい。
【0017】
上記のように、本発明に従ったファージ/抗生物質併用療法は、たとえば、緑膿菌を含む又はからなる細菌感染を標的するのに特に有用である可能性がある。そのような感染は、たとえば、皮膚火傷又は他の皮膚創傷の部位でよい。そのような感染は、肺でも、眼感染症又は耳感染症でもよい。この文脈では、緑膿菌を含むそのような感染症は、緑膿菌からなる感染症を本質的に含むことが理解されるであろう。したがって、本発明に従ったファージ療法は、完全に、大部分、又は、かなりの部分、緑膿菌で構成された感染症に適用してよい。
[実施例]
【0018】
獣医学分野試験における抗生物質感受性の誘導
緑膿菌によって引き起こされるイヌ耳感染症(外耳炎及び中耳炎)は、身体表面のバイオフィルムベースコロニー形成に付随する臨床疾患の例である。そのような感染の臨床的兆候には、痛み、刺激(紅斑)、潰瘍及び耳からの増大する量の物質の分泌が挙げられる。これは自然な化膿である場合も多く、特有の臭気を伴う。
【0019】
6つのバクテリオファージの併用調製物は、BioVet-PAと名付けられ、2003年11月英国獣医学研究局により、そのような感染に罹ったイヌでの試験を認可された。
【0020】
試験の実施
BioVet-PAは−80℃で保存された。投与直前に、製品は解凍され、手で暖められた。0.2ml(6バクテリオファージのそれぞれの1×10感染単位を含有している)を無菌1ml容量注射器を使って耳の中に液滴で投与した。耳の状態及び微生物学は投与後2日目に評価された。
【0021】
手順は以下の通りであった。
【0022】
特徴付け(治療の2〜14日前に)
0日目 スワブを獣医によりそれぞれの耳から採取した。
緑膿菌の存在を確かめるためにこれらのスワブを使って室内試験を実施した。
緑膿菌が検出されない場合は、そのイヌは試験から除外した。
【0023】
1日目 緑膿菌が検出された場合は、単離物についてBioVet-PAに対する感受性を試験した。
イヌに感染させた緑膿菌系統(複数可)がBioVet-PAに感受性でなかった場合は、そのイヌは試験から除外した。
【0024】
治療
0日目 耳を内視鏡的に検査してその状態を評価した。
微生物学的分析のために各耳からスワブを採取した。
イヌの中核体温を測定した。
イヌの耳に0.2mlBioVet-PAの投与量を与えた(治療は、無菌1ml容量注射器を使って液滴で投与し、次に外耳道をマッサージして深部への浸透を促進した)。
【0025】
2日目 耳を検査してその状態を評価した。
微生物学的分析のために各耳からスワブを採取した。
イヌの中核体温を測定した。
両方の耳が感染した場合のみ:
イヌの第2の耳に0.2mlBioVet-PAの投与量を与えた(治療は、無菌1ml容量注射器を使って液滴で投与し、次に外耳道をマッサージして深部への浸透を促進した)。
【0026】
4日目 両方の耳が感染した場合のみ:
耳を検査してその状態を評価した。
微生物学的分析のために各耳からスワブを採取した。
イヌの中核体温を測定した。
【0027】
結果
重度の抗生物質耐性緑膿菌耳感染症に罹り、BioVet-PAで治療した10頭のイヌに関する調査によって、治療2日以内に臨床症状が改善し、同一時間尺度にわたり細菌数が減少することが明らかになった。バクテリオファージの複製はすべてのイヌで観察された。臨床症状の改善を分析することにより、t検定によってもウィルコクソン符号順位和検定によっても、これが95%レベルの信頼度で有意であることが明らかになった。
【0028】
3頭のイヌは試験から除外した。試験することになっていた最初のイヌは、採点法がその後変わったために(耳分泌化膿を考慮するために)排除し、2頭の治療したイヌは、(侵入前スクリーニングに続く細菌叢の変化が原因で)治療時に標的細菌が優勢ではない感染症に罹っていることが判明した。
【0029】
抗生物質耐性
治療前に集められた13頭すべてのイヌ由来の緑膿菌の単離物すべてが、抗生物質に対するその感受性をスクリーニングされた。各緑膿菌系統の抗生物質感受性プロファイルは、緑膿菌感染症を治療するために獣医が臨床的に使用してもよい一定範囲の10の抗生物質で評価された。その結果は、適当なデータ収集シートに記録された。
【0030】
異なったコロニー型が同一のイヌで観察されることが多く、4頭のイヌにおいて両方の耳が感染していたので、総数で83の緑膿菌の個別の単離物が試験された。したがって、830の試験が実施され、そのうちの340の試験が治療の直前に採取されたスワブに関して実施され、340の試験が治療の2日後に、及び150の試験が治療の4日後に実施された。
【0031】
試験された任意の抗生物質に対する感受性の変化を同定するために、感受性アッセイすべてが比較された。個々の単離物は、2つ以上の変化を示したものはなく、完全な感受性から完全な耐性まで変化した、又は完全な耐性から完全な感受性まで変化した単離物もなかった。しかしながら、感受性から部分的耐性へ、部分的耐性から耐性へ、耐性から部分的耐性へ、又は部分的耐性から感受性への変化は16の単離物で見られた。下の表1に示す事象が観察された。
【0032】
【表1】

【0033】
総数で30の抗生物質感受性の変動が見られ、28の変動が感受性への変化、2の変動が耐性への変化であった。したがって、感受性への変化のほうが耐性への変化よりも14:1の因数で数が勝っており、バクテリオファージ治療に続くそのような「有益な」変化が優勢であることが例証された。
【0034】
ヒト臨床試験への抗生物質感受性の誘導
試験は、BioPhage-PA中に存在する1又は複数のバクテリオファージに感受性を有することが示された緑膿菌によって引き起こされる慢性耳感染症に罹った患者においてプラセボと比べた、BioPhage-PA(緑膿菌に特異的な6つのバクテリオファージの混合物)の単回投与の安全性及び有効性についての単一施設、二重盲検、無作為化、パラレルグループ研究であった。
【0035】
この研究は、本研究のための臨床前研究の一部を形成した、獣医学分野試験においてBioVet-PAとして試験したバクテリオファージと同じ種類の6つの緑膿菌バクテリオファージの混合物である、BioPhage-PAの有効性及び安全性を調査した。
【0036】
6つのバクテリオファージ系統(英国NCIMB研究所、the National Collection of Industrial and Marine Bacteria, 23 St Machar Drive, Aberdeen, AB24 3RY, Scotland, UK に2003年6月24日に寄託されている)は以下の通りである。
【0037】
【表2】

【0038】
これらのバクテリオファージは、広い範囲の緑膿菌単離物を死滅させるのに効果的である。
【0039】
本研究は、緑膿菌によって引き起こされた耳感染症に罹った患者の2つのパラレルグループで実施した。患者は無作為に割り振りされ、BioPhage-PAとプラセボのうちいずれかの単回投与を受け、投与後6週間の期間にわたり二重盲検式でモニターされた。有効性評価には、有害事象についての質問、視覚的アナログ尺度を使用した疾病重症度についての患者と調査員両者の評価、緑膿菌及びバクテリオファージ耳スワブカウント、聴力図、耳の写真、及び耳腔体温解析が含まれた。有効グループとプラセボグループにおけるベースライン(投与前評価)からの変化を統計的に比較した。安全性データも2グループにおいて比較した。
【0040】
研究設計
これは、耳の慢性緑膿菌感染症に罹った患者における単一施設、二重盲検、無作為化、パラレルグループ研究であった。患者は無作為に2つのグループのうちの1つに分けられた。
グループ1:
患者はBioPhage-PA(6の治療バクテリオファージそれぞれの初回滴定により1×10pfuを含有する)の単回0.2mL投与を受けた。
グループ2:
患者はプラセボ(PBS中10%v/vグリセロール)の単回0.2mL投与を受けた。
【0041】
設計要約
研究前来診
患者は、試験のことを口頭で知らされた後、治療0日目までの2週間以内に病院を訪れた。この来診時、患者は書面情報シートを与えられ、研究の詳細についても口頭で知らされた。患者は、参加適格性に関する質問を受け、適格であれば、試験0日目に先立って、同意書に署名した。
【0042】
治療期間(0日目から42日目まで)
患者は、臨床検査のために0日目の朝に病院を訪れ、有害事象及び研究順守について質問を受けた。適格性が確認されると、患者は無作為に2つの治療グループのうちの1つに分けられ、感染症の重症度を判定するためにベースライン評価を実施された。その後、臨床医により治療を施され、耳に治療液滴を滴下して注入された。患者は投与後6時間病院に残った。患者は、ユニットを離れている間、毎日あらゆる有害事象又は耳の状態に関する意見を記録するための日誌カードを支給された。患者は、さらなる安全性及び有効性試験のために7日目、21日目、及び42日目に戻ってきた。
【0043】
患者は、以下の判定基準がすべてあてはまる場合にのみ、本研究に参加するのに適格となった。すなわち、18歳以上であること;本研究に参加するために書面でのインフォームドコンセントを与えることができ、かつ、その意思があること;大部分又は唯一緑膿菌により引き起こされたことが明らかにされた耳の感染症であること;緑膿菌が感染症から単離され、BioPhage-PA中に存在する1又は複数のバクテリオファージに対して脆弱であることが明らかにされていること;感染が少なくとも6週間定着しており、従来の抗菌療法に無応答性であることが証明されていること;すべての病院来診が可能であり、すべての研究測定を完了することが可能であること;女性患者は更年期後であり、外科的に不妊であり、又は許容される形の避妊を使用する意思があることであった。
【0044】
患者は、以下の判定基準のいずれかにあてはまる場合は、本研究に参加するには不適格となった。すなわち、本研究前来診までの3カ月以内の局所的外科手術;急性又は全身性の敗血症;本研究前来診までの1週間以内又は本研究中の全身性又は局所的抗生物質の使用;本研究前来診までの1週間以内又は本研究中の局所的消毒薬又は抗炎症薬の使用;本研究前来診の6カ月前までのバクテリオファージ療法;本研究前来診時の耳スワブ培養物上の溶連菌のグループA、B、C及びG又は異常な細菌性又は真菌性細菌叢;妊娠している又は妊娠予定の女性;調査員の判断により、本研究の結果に影響を与える可能性のある過去の又は現在の疾病に罹っている患者;本研究の結果を害する可能性があると調査員が感じる他の任意の状態;前の4カ月以内の新規化合物を含む別の臨床試験への又は前の1カ月以内の任意の試験への参加であった。
【0045】
研究評価及び手順
各患者は以下の来診のためにユニットを訪れた。
すなわち、本研究の正式な開始に先立って、スワブ(輸送媒体で)を潜在的試験対象者の耳から採取した。耳中の緑膿菌のレベルを判定するために全般的な微生物学的分析を実施した。この後に診断用の耳スワブ試験が続いた。試験は患者と口頭で話し合われ、患者は情報シート/コンセント書類を与えられた;病歴が聴取されて症例報告書に記録された;診断用スワブが採取されて、そのスワブは微生物学的分析に送られ、そこでは緑膿菌を調べるため及びBioPhage-PA中のバクテリオファージに対する存在する緑膿菌の感受性を調べるため、スワブが分析された。
【0046】
患者は、適していれば、診断用スワブの採取時から2週間以内に試験に名前を登録された。
【0047】
調査0日目:患者は、その耳の状態の、不快、掻痒、湿気、及び臭いを評価した。前もって秤量した乾燥スワブを使用して、微生物学的分析のための試料を採取した。口腔及び耳腔体温を記録し、耳を洗浄し、担当医が耳の、紅斑/炎症、潰瘍/肉芽形成/ポリープ、分泌物種類(透明な/粘液性の/粘膿性の)、分泌量、及び匂い(研究手順の直前)を評価した。聴力検査(聴力図)と共に、デジタル式耳鏡写真撮影を実施した。次に、BioPhage-PA(0.2ml)を、ほぼ30秒間の時間をかけ、1ml注射器とソフト無菌管を使って外耳道に直接投与した。患者は観察のために治療後6時間病院に残り、その後、患者が自分の状態と関連があると感じる任意の情報を記録する日誌カードとともに帰宅させられた。
【0048】
調査7日目:これは、有害事象と順守質問、患者による耳の評価、微生物学的分析を伴うスワブ試料採取、耳腔及び口腔体温の記録、医師による耳の評価、並びに耳洗浄を含んでいた。
【0049】
調査21日目:これは、調査7日目で記載した手順を含んでいた。
【0050】
調査42日目:これは、聴力検査も実施し耳の写真を撮影したこと以外は、調査7日目と21日目で記載した手順を含んでいた。
【0051】
微生物学的評価
微生物学的評価は、スワブ上の全バクテリオファージ(外来性も治療用も)の集計と共に、スワブ上に存在する緑膿菌の集計を含んでいた。
【0052】
10の抗生物質(獣医学分野試験に関して)に対する感受性もすべての単離物でモニターされた。抗生物質感受性試験は、単離された緑膿菌の各系統で行われた。英国抗微生物薬化学療法学会(BSAC、the British Society for Antimicrobial Chemotherapy)の抗菌薬感受性試験のためのディスク拡散法(2003年5月)の標準方法に従って試験を行った。使用する抗生物質は以下の通りであった。
アミカシン−30μg/ml
セフタジジム−30μg/ml
シプロフロキサシン−5μg/ml
ゲンタマイシン−10μg/ml
メロペネム−10μg/ml
ピペラシリン+タゾバクタム(7.5:1)−85μg/ml
コリスチン−25μg/ml
アズトレオナム−30μg/ml
イミペネム−10μg/ml
トブラマイシン−10μg/ml
試験はアイソセンシテスト寒天を使用して行われた。
【0053】
バクテリオファージ複製が見られた最初の患者では、モニターされた10の抗生物質のうちの3つに感受性に向かって移動している証拠が存在することが見い出された(表2を参照されたい)。
【0054】
【表3】

【0055】
上記例証の要約
獣医学分野試験では、2〜4日モニタリング期間にかけて、緑膿菌単離物の(耐性に向かう移動が見られた0.59%に対して)8.24%において抗生物質感受性へ向かって移動している証拠が見い出された。
【0056】
ヒト試験では、バクテリオファージ複製が観察された最初の患者におけるバクテリオファージ治療の使用に続いて化学的抗生物質に対する感受性に向かう移動の証拠が見られた。そのような移動は、本試験のより長期のモニタリング期間にわたり、モニターされた10の抗生物質のうち3つ(30%)に見られた。
【0057】
さらなるヒト試験結果
ヒト試験における24人の参加者全員のその後の分析により、下記の表3及び4を参照して、上記の知見が確認された。抗生物質治療(試験参加のために求められた)自体を休止すると抗生物質感受性に向かうドリフトを生じたが、これは、患者数でも、試験においてアッセイされた個々の抗生物質(バクテリオファージ治療された)グループでもより顕著であり、患者の大多数(7/12)は、モニタリング期間中感受性に向かう少なくとも1つの変化を示していることが見られる。感受性への変化は、たとえば、12人のバクテリオファージ治療を受けた患者のうちの5人がゲンタマイシンに対する感受性の増加を示したアミノグリコシド系抗生物質で特に顕著だと思われる。総合すれば、上記のデータは本発明を例証している。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌細胞において化学的抗生物質に対する感受性を誘導するための、ヒト又は動物におけるインビボでの1又は複数のバクテリオファージの使用であって、前記感受性が遺伝性であり、前記細胞内での持続的なバクテリオファージ代謝に非依存的であり、前記感受性を誘導するバイオフィルムの破壊と関連しない、使用。
【請求項2】
インビトロでの抗生物質感受性試験によりモニターされる、請求項1に記載の抗生物質感受性の誘導。
【請求項3】
試験が、患者における将来の治療的使用のための化学的抗生物質を選択するのに使用される、請求項2に記載の抗生物質感受性の誘導。
【請求項4】
標的細菌が緑膿菌である、請求項1〜3のいずれかに記載の抗生物質感受性の誘導。
【請求項5】
アミノグリコシド系抗生物質に対して感受性の誘導がある、請求項4に記載の感受性の誘導。
【請求項6】
ヒト又は動物における細菌感染症を治療するためのバクテリオファージと抗生物質の併用療法に使用される1又は複数のバクテリオファージを含むバクテリオファージ調製物であって、バクテリオファージ治療の開始後、前記感染症の細菌細胞の前記抗生物質に対する感受性が前記バクテリオファージ治療により誘導又は改善される時期に少なくとも1つの抗生物質が投与され、前記感受性が遺伝性であり、細菌細胞内での持続するバクテリオファージ代謝に非依存的であり、前記感受性を誘導するバイオフィルムの破壊と関連がない、バクテリオファージ調製物。
【請求項7】
ヒト又は動物において連続使用される2段階薬剤であって、第1段階がバクテリオファージベースの療法を含み、第2段階が1又は複数の化学的抗生物質で構成され、請求項1又は4に記載の感受性の誘導により有益な効果を発揮するように設計されている、2段階薬剤。
【請求項8】
感受性の誘導が、個々の患者由来の1又は複数の菌種に対して確認されている、請求項6又は7に記載の調製物又は薬剤。
【請求項9】
感受性の誘導が、バクテリオファージ治療に続いて、類似の細菌感染症に罹った他の患者において同定されている、請求項6又は7に記載の調製物又は薬剤。
【請求項10】
標的細菌が緑膿菌である、請求項6〜9のいずれかに記載の調製物又は薬剤。
【請求項11】
少なくとも1つの抗生物質がアミノグリコシド系抗生物質を含む、又はからなる、請求項10に記載の調製物又は薬剤。
【請求項12】
(i)バクテリオファージ、及び(ii)1又は複数の化学的抗生物質
を含む個々の薬剤を、1日〜2カ月、好ましくは1〜4週間、最も好ましくは2週間の間隔で投与することを目的とする、請求項6〜11のいずれかに記載の調製物又は薬剤。
【請求項13】
細菌感染症に罹ったヒト又は動物における、前記感染症の細菌細胞において抗生物質に対する感受性を誘導又は改善する1又は複数のバクテリオファージを含むバクテリオファージ調製物の使用であって、前記抗生物質に対する前記細胞の感受性を増加させる前記調製物の能力が、前記感染症由来の細菌細胞の、又は前記バクテリオファージ調製物への同一曝露に付された同一種における同一の若しくは匹敵する菌種による別の感染症由来の細菌細胞の試料を用いるバクテリオファージ不在下におけるインビトロでの抗生物質感受性試験により判定される、使用。
【請求項14】
感染症が緑膿菌感染症である、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
1又は複数のバクテリオファージがアミノグリコシド系抗生物質に対する感受性を誘導又は改善する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
6つのバクテリオファージ、すなわちNCIMB41174、NCIMB41175、NCIMB41176、NCIMB41177、NCIMB41178及びNCIMB41179(英国NCIMB研究所the National Collection of Industrial And Marine Bacteria, UKに2003年6月24日に寄託されている)の併用調製物が用いられる、請求項4、5、14又は15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
6つのバクテリオファージ、すなわちNCIMB41174、NCIMB41175、NCIMB41176、NCIMB41177、NCIMB41178及びNCIMB41179の併用調製物を含む、請求項10又は11に記載の調製物又は薬剤。
【請求項18】
ヒト又は動物における細菌感染症を治療するためのバクテリオファージと抗生物質の併用療法に使用される1又は複数のバクテリオファージを含むバクテリオファージ調製物であって、バクテリオファージ治療の開始後、前記感染症の細菌細胞の前記抗生物質に対する感受性が前記バクテリオファージ治療により誘導又は改善される期間に少なくとも1つの抗生物質が投与され、前記期間が、前記感染症由来の細菌細胞の、又は前記バクテリオファージ調製物への同一曝露に付された同一種における同一の若しくは匹敵する菌種による別の感染症由来の細菌細胞の試料を用いるバクテリオファージ不在下におけるインビトロでの抗生物質感受性試験により決定される、バクテリオファージ調製物。
【請求項19】
ヒト又は動物における細菌感染症を治療するためのバクテリオファージと抗生物質の併用療法に使用される、製品の調製において1又は複数のバクテリオファージ及び少なくとも1つの抗生物質を含むバクテリオファージ調製物の使用であって、バクテリオファージ治療の開始後、前記感染症の細菌細胞の前記抗生物質に対する感受性が前記バクテリオファージ治療により誘導又は改善される期間に前記少なくとも1つの抗生物質が投与され、前記期間が、前記感染症由来の細菌細胞の、又は前記バクテリオファージ調製物への同一曝露に付された同一種における同一の若しくは匹敵する菌種による別の感染症由来の細菌細胞の試料を用いるバクテリオファージ不在下におけるインビトロでの抗生物質感受性試験により決定される、使用。
【請求項20】
期間が少なくとも1〜2日である、請求項18又は19に記載のバクテリオファージ調製物又は使用。
【請求項21】
ヒト又は動物における細菌感染症を治療するためのバクテリオファージと抗生物質の併用療法に使用される、1又は複数のバクテリオファージを含むバクテリオファージ調製物であって、前記療法のための少なくとも1つの抗生物質が請求項13に記載の使用に従って選択される、バクテリオファージ調製物。
【請求項22】
ヒト又は動物における細菌感染症を治療するための併用療法において使用される製品の調製における、1又は複数のバクテリオファージ、及び抗生物質を含むバクテリオファージ調製物の使用であって、前記抗生物質が請求項13に記載の使用に従って選択される、使用。
【請求項23】
治療される細菌感染症が緑膿菌感染症である、請求項18〜22のいずれかに記載のバクテリオファージ調製物又は使用。
【請求項24】
少なくとも1つの抗生物質がアミノグリコシド系抗生物質を含む、又はからなる、請求項23に記載のバクテリオファージ調製物又は使用。
【請求項25】
バクテリオファージ調製物が、6つのバクテリオファージ、すなわちNCIMB41174、NCIMB41175、NCIMB41176、NCIMB41177、NCIMB41178及びNCIMB41179の併用調製物である、請求項23又は24に記載のバクテリオファージ調製物又は使用。

【公表番号】特表2010−521428(P2010−521428A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552283(P2009−552283)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050162
【国際公開番号】WO2008/110840
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(509246839)バイオコントロール リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】BIOCONTROL LIMITED
【Fターム(参考)】