説明

バスにおけるシートの配置構造及びその配置方法

【課題】長時間の乗車であっても隣席者等に気遣いすることなく、リラックスした姿勢で、安全快適に乗車することのできるバスにおけるシートの配置構造及びその配置方法を提供する。
【解決手段】バスBのシート設置床面2に、車体3の一方の内壁面4aに当接するように第1の一人掛け用シート1aを進行方向Fに直交するように配置し、他方の内壁面4bに当接するように第2の一人掛け用シート1bを進行方向Fに直交するように配置し、第1の一人掛け用シート1aと第2の一人掛け用シート1b間に第3の一人掛け用シート1cを配置し、第1の一人掛け用シート1aと第3の一人掛け用シート1cの間又は第2の一人掛け用シート1bと第3の一人掛け用シート1cの間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路6を形成するとともに、他方に通路6として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路7を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバスにおけるシートの配置構造及びその配置方法に関し、特には長時間の乗車であっても隣席者等に気遣いすることなく、リラックスした姿勢で、安全快適に乗車することのできるものである。
【背景技術】
【0002】
バスは公共交通の一翼を担う重要な交通機関であり、日常生活の足として広く利用されている。従前は通勤・通学・買い物その他の日常生活を営むための短時間の乗車が殆どを占めており、同一の市町村内における頻繁な乗降や隣接市町村への乗車に留まっていた。しかしながら、前記した利用形態に加えて、近時は高速道路の全国的な整備拡充と相俟って、都市間交通の旗頭として長距離・長時間の乗車が飛躍的に増加してきた。そのため、昼間のみならず、夜間を利用した夜行長距離バスも移動手段として定着している。平成17年時点で2000系統を超える都市間交通が高速道路を利用して運行されているといわれている。また、移動手段のみに留まらず、観光バスや貸し切りバス等の他の用途においても長距離・長時間の乗車が増加している。
【0003】
これら都市間交通や観光バス等の長距離・長時間の移動に使用されるバスとしては、全長9m以上12m未満、幅2.5m未満の大型バス、中でも全長11mを超える大型バスが使用されている。図5は高速道路網を利用した都市間交通に使用される全長11.99mの高速バスBの外観図であり、図6は従来の高速バスBのシートの配置構造を示す平面図、図7は図6の部分拡大図である。図に示すように二人掛け用シート21aが高速バスBのシート設置床面22上に、車体23の一方の内壁面24aに当接して進行方向Fに直交するように所定数(図示例では11席)だけ列状に配置され、同様に他方の内壁面24bにも二人掛け用シート21bが当接して進行方向Fに直交するように所定数(図示例では11席)だけ列状に配置されている。
【0004】
よって、図6,図7に示すシートの配置構造は、車体23の幅方向に2席の二人掛け用シートをそれぞれ列状に配置した2+2シートの2列シートであって、車体23の幅方向において二人掛け用シート21aと21bの間は所定の間隔D1が形成され、この間隔D1が連続して通路25を形成している。また、より多くの乗客を乗車させるため、二人掛け用シート21aの通路25側の側部に折り畳み自在な補助シート26を装備し、通路25を利用して補助シート26を展開できるようにしてある配置例もある。なお、最後尾は通路25が必要ないため、二人掛け用シート21aと21bの間にも一人掛け用シート27を配置して、幅方向に5席配置している。
【0005】
図9は従来の高速バスBのシートの配置構造の他例を示す平面図、図10は図9の部分拡大図である。図に示すように第1の一人掛け用シート28aが高速バスBのシート設置床面22に、車体23の一方の内壁面24aに当接して進行方向Fに直交するように所定数(図示例では8席)だけ列状に配置され、同様に他方の内壁面24bにも第2の一人掛け用シート28bが当接して進行方向Fに直交するように所定数(図示例では10席)だけ列状に配置されている。さらに、第1の一人掛け用シート28aと第2の一人掛け用シート28bの間にも、第3の一人掛け用シート28cが進行方向Fに直交するように所定数だけ列状(図示例では9列)に配置されている。
【0006】
よって、図9,図10に示すシートの配置構造は、車体23の幅方向に3席の一人掛け用シートをそれぞれ列状に配置した1+1+1シートの3列シートであって、車体23の幅方向において第1の一人掛け用シート28aと第3の一人掛け用シート28cとの間に間隔D2が形成され、同様に第2の一人掛け用シート28bと第3の一人掛け用シート28cとの間に間隔D3が形成され、この間隔D2,D3がそれぞれ進行方向に連続して乗客が通行可能な2本の通路29,30を形成している。なお、一人掛け用シート28aの列の中央部にはトイレ31が形成されているため、一人掛け用シート28aの個数は8席となっている。また、最後尾は通路29,30が必要ないため、一人掛け用シート28aと28cを密着して配置するとともに、一人掛け用シート28cと28bの間にもう一つの一人掛け用シート32を配置している。
【0007】
さらに、シートにリクライニング機構を付与したり、読書灯やテーブルを設ける等して乗車環境を快適とするための細部における工夫が種々行われており、例えばバスシートにおいて、コップ立てが常に安定した状態を保つ位置に設けられ、しかもコップ立てが使用されない時には、通常のシートと変わりないように使用できるようにするために、バスシートの肘掛けを延長してコップなどを立てる凹部を備えた手部を回転自在に設けるとともに、該手部を固定手段によって、少なくともその凹部が上向きに設定された状態を保持できるように構成したバスシートも提供されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従前のような短時間の乗車や頻繁な乗降を繰り返す乗車形態では、シートの形状や乗り心地等が問題となることは少なく、又隣席者に気遣いすることも少ない。しかしながら、近時のように長時間の乗車や深夜の乗車をすることの多い都市間交通や観光バスにおける乗車形態では、シートの形状や乗り心地、リラックスした姿勢を取ることができるか、更には隣席者との関係等は直接的に疲労度や到着地での活動に影響する重要な問題であり、バスの利用度に直接影響する。
【0009】
図8は、図6,図7に示す従来の二人掛け用シート21aを示す正面図である。バスの道路運送車両の保安基準によれば、通路25の幅寸法、即ち二人掛け用シート21aと21bの間隔D1の寸法は300mm以上必要と規定されており、図示例では通路25の幅寸法(間隔D1)を325mmとしている。この通路25の幅寸法を先に確保した上で、幅方向に4席配置するためには、取付のための種々必要寸法を除くと、二人掛け用シート21a及び21bの座面の幅寸法W1は880mm程度しか確保できない。1席当たり略440mmであり、決して充分なスペースとはいえない。そのため、図8に示すように二人掛け用シート21aのシート33とシート34の間には肘掛けを装備していない。或いは肘掛けを装備したとしても名ばかりの幅の狭い肘掛けしか装備することができない。二人掛け用シート21bについても同様である。
【0010】
そのため、隣席者がいる場合には、隣席者と身体が触れあったりして不快な思いや不要な気遣いをすることが多々あり、長時間の乗車や深夜の乗車ではセクシャルハラスメントの問題もあり、女性の乗客は不快な思いをしたり、利用を控えることがある。また、肘掛けがないため、或いはあったとしても幅が狭く隣席者の双方が肘をかけることができず、窮屈な思いをすることが多かった。よって、従来の2+2シートの配置構造ではシート幅及び肘掛けの双方の寸法が不十分であり、長時間の乗車や深夜の乗車においてリラックスした姿勢を保つことができず、高速バスによる都市間交通を敬遠したり、便利ではあるが疲れると言われる所以となっている。
【0011】
そのため、図9,図10に示す第1の一人掛け用シート28a,第2の一人掛け用シート28b,第3の一人掛け用シート28cを幅方向に間隔を空けて3席配置する3列シートの配置構造が採用されている。これにより、隣席者との身体の接触等は解消された。しかしながら、このシートの配置構造では通路29,30の2本の通路を必要とし、その内1本は道路運送車両の保安基準第23条の通路の規定により、最低通路幅として300mm以上を確保する必要がある。また、他の1本も前記保安基準を充足する必要はないが、少なくとも乗客が物理的に通行可能な最低限の通路幅寸法を確保する必要があるとの既成概念にとらわれていた。図示例では通路29の幅寸法(間隔D2)を395mmとし、通路30も乗客が通行可能なように幅寸法(間隔D3)を200mmとしている。
【0012】
そのため、従来の高速バスB用として普及している1+1+1シートの3列配置構造では、それぞれ独立した第1の一人掛け用シート28a,第2の一人掛け用シート28b,第3の一人掛け用シート28cを実現しており、一見するとプライバシーを確保して、快適な乗車環境を実現しているように思える。しかしながら、図9,図10に示す3列配置構造のシートを採用している高速バスBにおいても、便利ではあるが疲れるとの声は一向に静まらず、3列配置構造なのに意外とシートが狭いという声が多く聞かれ、高速バスによる都市間交通が敬遠される理由を改善するに至っていない。
【0013】
これは、従来の3列配置構造のシートは、室内有効全幅寸法が2365mm程度の高速バスBのシート設置床面において、通路29,30の幅寸法を先に確保した上で、幅方向に3席配置とするため、取付のための種々必要寸法を除くとシートの形状的な制約もあって、実体としては第1の一人掛け用シート28a,第2の一人掛け用シート28b,第3の一人掛け用シート28cの座面の幅寸法W2は略470mm程度であり、更に座面の両側に幅寸法が略50mm程度の肘掛け部分が張り出しており、全体の幅寸法W3は略570mm程度しか確保できないことに起因している。即ち、従来の3列配置構造のシートは、乗客が長時間に亘って直接座り、高速バスB内における殆ど全ての時間を過ごすためのシートの寸法よりも、乗降時のみに使用する通路29,30を優先して決定されて、4席から3席にシートを減らした余裕寸法は専ら通路30を形成するために使用されおり、更に肘掛け部分も座面の両側から張り出しているためである。このように従来の3列配置構造のシートの乗り心地や使い勝手は、一見すると相互に独立したシートであり、リラックスした姿勢で、快適に乗車できるように思えるが、実質的には4列配置構造のシートと差異がなく、到底乗客が希望するリラックスした姿勢で、安全快適に乗車するシートとはなっていないのが実情である。
【0014】
よって、一人掛け用シートとして一見すると快適なようであるが、座面としては略440mmから略470mm程度の僅かの拡大であり、到底リラックスした姿勢を保てるとは言い難く、座り心地や使い勝手は大きくは改善されていない。むしろ、従来の二人掛け用シート21a,21bを1人で利用する場合と比較すれば、一人掛け用シートを採用したが故に却って使い勝手が悪くなっているとも考えられ、長時間の乗車や深夜の乗車においてリラックスした姿勢を保つことができない。また、肘掛けを装備するにはしているが、肘掛けが座面の外側に張り出す構造であるため、座面そのものを広くすることができない原因ともなっている。更に、第1の一人掛け用シート28a,第2の一人掛け用シート28bの内壁面24a,24bに当接している側には肘掛けを装備することが困難である。
【0015】
更には上記した限られたシート配置構造において、少しでも快適な乗車を実現すべく、特許文献1に示すようなシートの備品類の改良や快適設備の提供が行われているが、シート本体の改良ではないため、何ら抜本的な解決に至っていない。
【0016】
一方、大型バスの耐用年数は10年を超えて使用されることが多く、一度装備されたバスのシート構造を上記した不便や問題がそのまま残ったままで、長期間使い続けているのが現状である。よって、上記したバスシートの問題点は1+1+1の3列配置のシート構造を採用したバスにおいても、2+2の2列配置のシート構造を採用したバスにおいても今後長期間の問題としてそのまま残るものである。これを解決しようとする試みは何らなされていない。
【0017】
よって、本発明は上記従来のバスにおけるシートの配置構造が有している課題を抜本的に解決し、シートと通路のどちらが乗客にとって大切であるかの観点から発想を転換し、長時間の乗車であっても隣席者等に気遣いすることなく、リラックスした姿勢で、安全快適に乗車することのできる新規なバスにおけるシートの配置構造及びその配置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するために、バスのシート設置床面に、一人掛け用シートを幅方向に間隔を空け、かつ、進行方向に複数個を列状に3列設置し、各シート間に形成された連続した2つの間隔の内、一方の間隔を道路運送車両の保安基準を満たす幅寸法の通路として形成するとともに、他方の間隔を狭小な幅寸法の緩衝路として形成したバスにおけるシートの配置構造を基本として提供する。そして、バスのシート設置床面に、3席の一人掛け用シートを、各シート間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路を介在させるとともに、各シート間の他方を通路として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路として車体の幅方向に配置する。
【0019】
また、バスのシート設置床面に、車体の一方の内壁面に当接するように第1の一人掛け用シートを進行方向に直交するように配置し、他方の内壁面に当接するように第2の一人掛け用シートを進行方向に直交するように配置し、第1の一人掛け用シートと第2の一人掛け用シート間に第3の一人掛け用シートを配置し、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路を形成するとともに、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の他方に通路として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路を形成する。
【0020】
更に、バスのシート設置床面に、車体の一方の内壁面に当接するように第1の一人掛け用シートを進行方向に直交するように列状に複数個設置し、他方の内壁面に当接するように第2の一人掛け用シートを進行方向に直交するように列状に複数個設置し、第1の一人掛け用シートの列と第2の一人掛け用シートの列の間に第3の一人掛け用シートを進行方向に直交するように列状に複数個設置し、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路を形成するとともに、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の他方に通路として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路を形成し、緩衝路によって、隣接する乗客間のプライバシーを確保し、狭小な幅寸法の緩衝路とすることによって幅方向に余裕寸法を創出し、該余裕寸法によって一人掛け用シートの幅寸法を拡大する。そして、通路の幅寸法を300mm以上とし、緩衝路の幅寸法を140mm以下とし、一人掛け用シートの両端部に幅略50mm以上の肘掛けを装備し、一人掛け用シートの座面の幅寸法を幅略600mm以上として、全長9m以上の大型バスに採用する。
【0021】
また、全長9m以上の大型バスにおいて、既存のバスのシートを撤去した後、上記したバスにおけるシートの配置構造を採用したシートを設置するバスにおけるシートの配置方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
上記構成の本発明にかかるバスにおけるシートの配置構造は、全長9m以上の大型バスにおける1+1+1シートの3列配置構造のシートにおいて、一人掛け用シートに形成される間隔の一方を道路運送車両の保安基準を満たす幅寸法の通路として形成するとともに、他方の間隔を乗客が通路として利用することを放棄し、専ら隣接する乗客間のプライバシー確保のための狭小な幅寸法の緩衝路として形成することに特徴を有する。この構成によって、プライバシーの確保という3列配置構造による利点を活かすとともに、乗客が殆どの時間を過ごすシートの幅寸法を従来の3列配置構造の一人掛け用シートの座面の幅寸法である略470mmから、略600mm以上のサイズに大幅に拡大することができる。これによって、乗客はリラックスした姿勢で、かつ、プライバシーが確保された状態をバス内で実現することができる。
【0023】
即ち、従来のように通路としては使いにくい幅200mmという中途半端な2本目の通路を形成することを止め、通路としては利用できないが、プライバシーを確保するための狭小な幅寸法の緩衝路としてのみ利用することにより、相互に独立しているという一人掛け用シートの利点を活かしつつ、最も重要なシート幅の寸法を拡大できる。なお、通路としては、道路運送車両の保安基準を満たす幅寸法の通路が1本形成されているため、乗降時における乗客の移動には何ら支障がない。むしろ、通路を1本とすることによって、該通路の幅寸法を道路運送車両の保安基準よりも余裕を持って形成することができるため、乗客の移動もスムーズとなる。
【0024】
また、一人掛け用シートにおいても、座面の幅寸法に影響を大きく与えることなく、充分に余裕のある実用性の高い肘掛けを付設することができる。そのため、長時間の乗車であっても隣席者等に気遣いすることなく、リラックスした姿勢で、安全快適に乗車することができる。
【0025】
更に、既存のバスのシートを撤去し、本発明にかかるバスにおけるシートの配置構造を採用することにより、10年以上の耐用年数を有する既存のバスにおいても、シートの配置構造が有する問題を解決して新たなシートを設置するバスにおけるシートを配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面に基づいて本発明にかかるバスにおけるシートの配置構造及びその配置方法の最良の実施形態を説明する。図5は高速道路網を利用した都市間交通に使用される全長11.99mの高速バスBの一例を示す外観図であり、概観は従来と同様である。図1は本発明にかかる高速バスBのシートの配置構造を示す平面図、図2は図1の部分拡大図である。図に示すように、第1の一人掛け用シート1aが高速バスBのシート設置床面2上に、車体3の一方の内壁面4aに当接して進行方向Fに直交するように所定数(図示例では8席)だけ列状に配置され、他方の内壁面4bには第2の一人掛け用シート1bが当接して進行方向Fに直交するように所定数(図示例では8席)だけ列状に配置されている。また、第1の一人掛け用シート1aと第2の一人掛け用シート1bの間に第3の一人掛け用シート1cが進行方向Fに直交するように所定数(図示例では8席)だけ列状に配置されている。高速バスBにはトイレが付設されているが、本実施形態では省略している。
【0027】
よって、図1に示す本発明にかかるバスのシートの配置構造は、車体3の幅方向に3席の一人掛け用シートをそれぞれ列状に配置した1+1+1シートの3列シートであって、車体3の幅方向において第2の一人掛け用シート1bと第3の一人掛け用シート1cの間には所定の間隔Dが形成され、この間隔Dが連続して通路6を形成している。また、第1の一人掛け用シート1aと第3の一人掛け用シート1cの間には所定の間隔Pが形成され、この間隔Pが連続して緩衝路7を形成している。なお、図示例とは異なり、車体3の幅方向において第1の一人掛け用シート1aと第3の一人掛け用シート1cの間に通路6となる所定の間隔Dを形成し、又第2の一人掛け用シート1bと第3の一人掛け用シート1cの間に緩衝路7となる所定の間隔Pを形成してもよい。即ち、この間隔Pが連続して緩衝路7を形成している。また、最後尾は通路6が必要ないため、図4に示す二人掛け用シート5を密接して2席配置して、幅方向に4席配置している。
【0028】
バスの道路運送車両の保安基準(以下、保安基準という)によれば、通路6の幅寸法、即ち第2の一人掛け用シート1bと第3の一人掛け用シート1cの間隔Dの寸法は300mm以上必要と規定されており、図示例では通路6の幅寸法(間隔D)を305mmとしている。保安基準を満たしていれば適宜の幅寸法を選択することができる。また、保安基準によれば通路は1本あればよいため、本発明では第1の一人掛け用シート1aと第3の一人掛け用シート1cの間の緩衝路7の幅寸法(間隔P)を保安基準上は勿論、実質的にも通路として利用できない狭小な140mmとしている。なお、この緩衝路7の幅寸法はプライバシーを確保するための観点から適宜定めればよく、具体的には60mmから140mmの範囲が適当である。即ち、この緩衝路7は物理的に乗客が通行できない。よって、この緩衝路7は乗降時に通路として利用するものではなく、隣接する第1の一人掛け用シート1aと第3の一人掛け用シート1cの乗客間のプライバシーを確保するための緩衝スペースとしてのみ利用するものである。図9,図10に示す従来の3列配置のシートにおける間隔D3が200mmの幅を有することにより、保安基準は充足しないが、実質的に通路30として機能するように構成されている点と大きく相違する。本発明では、この通路6及び緩衝路7の幅寸法を先に確保した上で、各一人掛け用シート1a,1b,1cの寸法・形状を設計した。
【0029】
図2は本発明にかかるバスのシートの配置構造の部分拡大図、図3は図1,図2に示す本発明にかかる各一人掛け用シート1a,1b,1cを示す正面図である。図において、8は座面、9は背もたれ、10はヘッドレスト、11はレッグレストである。バス用のシートとしての背もたれ9の角度調節やリクライニング機構、ヘッドレスト10の上下調節機構、レッグレスト11の回動機構等は従来と同様である。12a,12bは各一人掛け用シート1a,1b,1cの両端部に所定高さで設置された肘掛けである。
【0030】
図2に示すように高速バスBのシート設置床面2の内壁間の幅寸法Sは2365mmであり、通路6(間隔D)を305mm、緩衝路7(間隔P)を140mmに設定した場合、各一人掛け用シート1a,1b,1cの全体の幅寸法Wは、それぞれ640mmであり、図3に示すように座面8の幅寸法eは600mm、肘掛け12a,12bの幅寸法fは、肘掛け12a,12bの形状を工夫し、一部が肘部の高さにおける座面8の上方空間に張り出す構成とすることにより、50mmとすることができた。この座面8の幅寸法eの600mmは図10に示す従来の一人掛け用シート28a,28b,28cの座面の幅寸法470mmから130mmの拡大となっており、後述のように座り心地や使い勝手が大きく改善されている。このように、各一人掛け用シート1a,1b,1cの座面8の幅寸法eは少なくとも600mm以上とすることが好ましい。一人掛け用シートも肘掛けがあると快適であるが、隣席者がいないため、本発明にかかる各一人掛け用シート1a,1b,1cの肘掛け12a,12bのように略50mm程度の幅寸法があれば長距離・長時間の乗車でも充分に快適に過ごすことができる。
【0031】
なお、最後尾は通路6が必要ないため、図4に示す二人掛け用シート5を密接して2席配置して、幅方向に4席配置している。図において、13a,13bは座面、14a,14bは背もたれ、15a,15bはヘッドレスト、16a,16bはレッグレストである。バス用のシートとしての背もたれ14a,14bの角度調節やリクライニング機構、ヘッドレスト15a,15bの上下調節機構、レッグレスト16a,16bの回動機構等は従来と同様である。17a,17bは二人掛け用シート5の両端部に所定高さで設置された肘掛けであり、18は座面13a,13bの間に所定高さで設置された肘掛けである。
【0032】
また、上記したバスにおけるシートの配置構造は新車製造時において設置できることは勿論、バスシートの配置構造のみにかかるものであるため、既存のバスのシートを撤去した後、本発明にかかるバスにおけるシートの配置構造を採用したシートを設置することにより、現在の都市間交通に使用するバスの欠点を解消することができるとともに、新たにバスを購入するのに比較して、その設置費用を大幅に低減することができる。
【0033】
上記構成のバスにおけるシートの配置構造及びその配置方法は都市間交通や観光バス等の長距離・長時間の移動に使用されている全長9m以上12m未満、幅2.5m未満の大型バス、中でも全長11mを超える大型バスに使用して特に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、1+1+1シートの配置構造において、一人掛け用シート間に形成される間隔の一方を道路運送車両の保安基準を満たす幅寸法の通路として形成するとともに、他方の間隔を乗客が通路として利用することを放棄し、専ら隣接する乗客間のプライバシー確保のための狭小な幅寸法の緩衝路として形成することにより、プライバシーの確保という3列配置構造による利点を活かすとともに、乗客が殆どの時間を過ごすシートの幅寸法を従来の3列配置構造の一人掛け用シートの座面の幅寸法である略470mm程度から、略600mm以上のサイズに大幅に拡大することができる。これによって、乗客はリラックスした姿勢で、かつ、プライバシーが確保された状態をバス内で実現することができる。そのため、長時間の乗車であっても隣席者等に気遣いすることなく、リラックスした姿勢で、安全快適に乗車することができる。
【0035】
即ち、従来のように通路としては使いにくい幅200mmという中途半端な2本目の通路を形成することを止め、通路としては利用できないが、プライバシーを確保するための狭小な幅寸法の緩衝路としてのみ利用することにより、相互に独立しているという一人掛け用シートの利点を活かしつつ、最も重要なシート幅の寸法を拡大できる。なお、通路としては、道路運送車両の保安基準を満たす幅寸法の通路が1本形成されているため、乗降時における乗客の移動には何ら支障がない。
【0036】
また、一人掛け用シートにおいても、幅寸法50mm程度の実用性の高い肘掛けを付設することができる。そのため、長時間の乗車であっても隣席者等に気遣いすることなく、リラックスした姿勢で、安全快適に乗車することができる。
【0037】
更に、既存のバスのシートを撤去し、本発明にかかるバスにおけるシートの配置構造を採用することにより、10年以上の耐用年数を有する既存のバスにおいても、シートの配置構造が有する問題を解決して新たなシートを設置するバスにおけるシートを配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかる高速バスのシートの配置構造を示す平面図。
【図2】図1の部分拡大図。
【図3】本発明にかかる一人掛け用シートを示す正面図。
【図4】本発明にかかる二人掛け用シートを示す正面図。
【図5】都市間交通に使用される高速バスの外観図。
【図6】従来の高速バスのシートの配置構造を示す平面図。
【図7】図6の部分拡大図。
【図8】従来の二人掛け用シートを示す正面図。
【図9】従来の高速バスのシートの配置構造の他例を示す平面図。
【図10】図9の部分拡大図。
【符号の説明】
【0039】
1a,1b,1c…一人掛け用シート
2…シート設置床面
3…車体
4a,4b…内壁面
5…二人掛け用シート
27,28a,28b,28c,32…一人掛け用シート
6,29,30…通路
7…緩衝路
8,13a,13b…座面
9,14a,14b…背もたれ
10,15a,15b…ヘッドレスト
11,16a,16b…レッグレスト
12a,12b,17a,17b,18…肘掛け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バスのシート設置床面に、一人掛け用シートを幅方向に間隔を空け、かつ、進行方向に複数個を列状に3列設置し、各シート間に形成された連続した2つの間隔の内、一方の間隔を道路運送車両の保安基準を満たす幅寸法の通路として形成するとともに、他方の間隔を狭小な幅寸法の緩衝路として形成したことを特徴とするバスにおけるシートの配置構造。
【請求項2】
バスのシート設置床面に、3席の一人掛け用シートを、各シート間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路を介在させるとともに、各シート間の他方を通路として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路として車体の幅方向に配置したことを特徴とするバスにおけるシートの配置構造。
【請求項3】
バスのシート設置床面に、車体の一方の内壁面に当接するように第1の一人掛け用シートを進行方向に直交するように配置し、他方の内壁面に当接するように第2の一人掛け用シートを進行方向に直交するように配置し、第1の一人掛け用シートと第2の一人掛け用シート間に第3の一人掛け用シートを配置し、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路を形成するとともに、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の他方に通路として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路を形成したことを特徴とするバスにおけるシートの配置構造。
【請求項4】
バスのシート設置床面に、車体の一方の内壁面に当接するように第1の一人掛け用シートを進行方向に直交するように列状に複数個設置し、他方の内壁面に当接するように第2の一人掛け用シートを進行方向に直交するように列状に複数個設置し、第1の一人掛け用シートの列と第2の一人掛け用シートの列の間に第3の一人掛け用シートを進行方向に直交するように列状に複数個設置し、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の一方に道路運送車両の保安基準以上の幅寸法の通路を形成するとともに、第1の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間又は第2の一人掛け用シートと第3の一人掛け用シートの間の他方に通路として利用できない狭小な幅寸法の緩衝路を形成したことを特徴とするバスにおけるシートの配置構造。
【請求項5】
緩衝路によって、隣接する乗客間のプライバシーを確保する請求項1,2,3又は4記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項6】
狭小な幅寸法の緩衝路とすることによって幅方向に余裕寸法を創出し、該余裕寸法によって一人掛け用シートの幅寸法を拡大する請求項1,2,3,4又は5記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項7】
通路の幅寸法を300mm以上とした請求項1,2,3,4,5又は6記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項8】
緩衝路の幅寸法を140mm以下とした請求項1,2,3,4,5,6又は7記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項9】
一人掛け用シートの両端部に幅略50mm以上の肘掛けを装備した請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項10】
一人掛け用シートの座面の幅寸法を幅略600mm以上とした請求項1,2,3,4,5,6,7,8又は9記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項11】
バスが全長9m以上の大型バスである請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9又は10記載のバスにおけるシートの配置構造。
【請求項12】
既存のバスのシートを撤去した後、請求項1〜10のいずれかに記載のバスにおけるシートの配置構造を採用したシートを設置することを特徴とするバスにおけるシートの配置方法。
【請求項13】
全長9m以上の大型バスにおいて、既存のバスのシートを撤去した後、請求項1〜10のいずれかに記載のバスにおけるシートの配置構造を採用したシートを設置することを特徴とするバスにおけるシートの配置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−12996(P2010−12996A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175920(P2008−175920)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(508069187)有限会社タカギ (3)
【Fターム(参考)】