説明

バターケーキ類

【課題】 近年、食感的に軽くて口溶けのよいバターケーキ類が好まれる傾向にあるものの、従来のバターケーキの食感は、ソフトな食感や口溶けの部分が経時変化過程で劣化していくのが実情である。本発明は実情に鑑み、従来にないソフトな食感のバターケーキを提供し、且つ少なくとも30日間、焼成直後の良好な食感を維持できるバターケーキを提供することを目的とした。
【解決手段】 小麦粉100重量部に対して、卵170〜230重量部、糖類110〜140重量部、油脂80〜120重量部、製菓用起泡剤10〜20重量部を含む生地を、比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整することで、乳化安定性に優れた含気生地が得られ、該生地を焼成することにより、良好な風味で、かつ焼成後も焼き縮みが発生せずソフトな食感となるとともに、焼成直後の良好な食感を少なくとも30日間維持できるバターケーキ類が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バターケーキ類に関するものであり、さらに詳しくは、製造直後の良好な食感を少なくとも30日間維持するバターケーキ類に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なケーキ用含気生地調製方法として、油脂と砂糖を擦り合わせて徐々に卵を加えて混合し、最後に小麦粉を混合するシュガーバッター法、油脂と小麦粉を擦り合わせて砂糖と卵を徐々に加えて混合するフラワーバッター法があり、また、気泡生地の調製方法として卵と砂糖をホイップして小麦粉を混合する共立て法と、卵を卵黄と卵白に分け、それぞれを砂糖とホイップ後、両者を混合し小麦粉を混ぜ合わせる別立て法がある。
【0003】
一方、オールインミックス法は小麦粉、卵、砂糖あるいは油脂などの主原料やその他副原料を一括してホイップする手法である。このオールインミックス法は、前記のシュガーバッター法やフラワーバッター法よりも簡便且つ大量連続生産に適することから合理的な手法である。しかし、オールインミックス法で調製し焼成されるケーキ類は、安定生産のため製菓用起泡剤が必要不可欠なため、該製菓用起泡剤の影響により重い食感になるという欠点があった。近年では、食感的に軽くまた口ごなれの良いケーキ類が好まれる傾向にあり、この欠点を軽減する具体策として、比重を0.75g/ml以下にすることで改善が図られるが、焼成後焼き縮みが発生しやすい。
【0004】
そこで、見掛け密度0.75以下の生地を焼成してなるバターケーキ類を製造するに際し、大豆蛋白質を含有した生地を起泡させ、その後焼成する方法が提案されている(特許文献1)。一方、オールインミックス法において、製菓用起泡剤を使用せずとも、常温で可塑性を呈する油中水型の製菓用油脂組成物を使用することで、良好な食感や風味のバターケーキ類が得られる方法が提案されている(特許文献2)。他にも、小麦粉と加熱溶解度15重量%以下の膨潤抑制澱粉を併用することで体積が大きく、食感に優れ、食感の劣化が改善された菓子類の製造法も提案されている(特許文献3、4)。しかしながら、製造されたバターケーキ類の経時変化の少ないもの、つまり製造直後の良好な食感を常温流通で30〜60日程度維持されることが強く望まれているという現状がある中で、上述の手法では少なくとも30日間良好な食感を維持できるまでには至っていない。
【0005】
【特許文献1】特開平6−319434号公報
【特許文献2】特開平6−53号公報
【特許文献3】特許第3312225号公報
【特許文献4】特許第3488935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる実情に鑑み、乳化安定性に優れた含気生地を作製し、該生地を焼成することにより、焼成後も焼き縮みが発生せずソフトな食感となるとともに、焼成直後の良好な食感を少なくとも30日間維持できるバターケーキ類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下のようなバターケーキ類が少なくとも30日間、焼成直後の良好な食感を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、小麦粉100重量部に対して、卵170〜230重量部、糖類110〜140重量部、油脂80〜120重量部、製菓用起泡剤10〜20重量部を含む生地を、比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整後、焼成してなるバターケーキ類である。ここで、オールインミックス法で比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整した生地の30℃における粘度が、20〜40dPa・sの範囲であることが好ましい。また、前記小麦粉100重量部に代えて、小麦粉と膨潤抑制澱粉とを合計で100重量部含有し、該小麦粉と該膨潤抑制澱粉との重量比率が50:50〜90:10であるバターケーキ類としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、小麦粉100重量部に対して、卵170〜230重量部、糖類110〜140重量部、油脂80〜120重量部、製菓用起泡剤10〜20重量部を含む生地を比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整することで、乳化安定性に優れた含気生地が得られ、該生地を焼成することにより、良好な風味で、かつ焼成後も焼き縮みが発生せずソフトな食感となるとともに、焼成直後の良好な食感を少なくとも30日間維持できるバターケーキ類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0011】
発明においてバターケーキ類とは、小麦粉、糖類、卵、油脂を主原料とし、副原料及び適量の水を加えて攪拌混合した生地を、焼成機で加熱処理を施し得られる焼き菓子を指し、具体的にはバタースポンジケーキ、ロールケーキ、ショートケーキ、パウンドケーキ、バームクーヘン、ホットケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌなどが例示できる。
【0012】
本発明に用いられる小麦粉は、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉等が挙げられるが、ケーキ類で求められるソフトさや口ごなれのよさなどは蛋白質含量の少ない薄力粉が好ましい。
【0013】
本発明に用いられる卵は、特に限定はないが、液全卵、凍結全卵、生卵黄、生卵白、凍結卵黄、凍結卵白等が挙げられ、中でも液全卵を用いることが好ましい。卵の割合は小麦粉100重量部に対して、170〜230重量部、より好ましくは190〜210重量部の範囲内であればよい。170重量部より少ない場合は生地の粘度が高くなり火ぶくれが発生する場合がある。また230重量部より多い場合は生地の乳化安定性が悪くなるため好ましくない。
【0014】
本発明に用いられる糖類は、上白糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、還元麦芽糖、水飴、還元水飴およびソルビトール等が例示できるが、中でも上白糖が好ましい。糖類の割合は小麦粉100重量部に対して、110〜140重量部、より好ましくは120〜130重量部の範囲であればよい。110重量部より少ない場合は、甘さの足りない、淡白な味になるため好ましくない。140重量部より多い場合は、甘さが強く、濃厚な味になりすぎ、又生地の火抜けが悪くなるため好ましくない。
【0015】
本発明に用いられる油脂の種類は、特に限定はしないが、牛脂、豚脂、バターなどの動物油、ナタネ油、コーン油、パーム油、綿実油などの植物油、それらをエステル交換、分別、硬化したものを、単独或いは2種以上混合したものが挙げられるが、中でも常温で固体の油脂が好ましい。例えば、製菓用マーガリン類が挙げられる。硬化パーム油20部、エステル交換油(ナタネ、パーム、ヤシ油の混合油をランダムエステル交換した)20部、パーム油30部、ナタネ油30部からなる調合油に乳化剤を溶解し、水を乳化したマーガリンである。油脂の割合は小麦粉100重量部に対して、好ましくは80〜120重量部、より好ましくは90〜110重量部の範囲内であればよい。80重量部より少ない場合は、食感が硬くなる傾向にある。120重量部より多い場合は、生地がべたつき油っぽくなる場合があるので好ましくない。
【0016】
本発明に用いられる製菓用起泡剤とは、植物油、乳化剤、液糖、水を含み、その他、香料、エタノール製剤、増粘多糖類等を適宜含む水中油型に乳化した起泡剤である。製菓用起泡剤の割合は、該製菓用起泡剤中の乳化剤含量に左右されるが、概ね製菓用起泡剤中の乳化剤含量が10%程度の場合、小麦粉100重量部に対して、好ましくは10〜20重量部、より好ましくは13〜17重量部の範囲であればよい。10重量部より少ない場合は、起泡性が劣る。20重量部より多い場合は、焼成後の生地の食感がネチャつき、乳化剤臭が発現してくるので好ましくない。
【0017】
本発明においてケーキ用含気生地の調製方法は、一般的な手法を採用することができ、特に限定はしないが、オールインミックス法が簡便且つ大量連続生産に適しているため、好ましい。ここで、含気生地を調製するには、例えば連続含気装置(モンドミキサー)を使用し、含気量は挿入するエア量をコントロールすることで調整することができ、生地の比重を0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整することにより、乳化安定性に優れた含気生地が得られ、該生地を焼成することにより、焼成後も焼き縮みが発生せずソフトな食感となるとともに、焼成直後の良好な食感を少なくとも30日間維持できるバターケーキが得られる。
【0018】
オールインミックス法で含気生地を調製する場合は、生地を比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整し、該生地の30℃における粘度を、20〜40dPa・sの範囲とすることが好ましい。より好ましくは25〜35dPa・sの範囲であればよい。20dPa・sより低い場合は生地のボリュームが出ないので好ましくない。40dPa・sより高い場合は火ぶくれの原因となるので好ましくない。ここで、調製した生地の粘度はビスコテスターVT−04(リヨン社製)を用いて測定した。その際の条件は以下のとおりである。すなわち、調製した生地を予め30℃に加温して所定の容器(鉄製容器、内径53mm、高さ75mm)に充填し、所定のローター(No.1)を用いて行った。
本発明においては、原材料粉末成分として小麦粉を用いているが、前記小麦粉の一部を、膨潤抑制澱粉で代用してもよい。
【0019】
本発明に用いられる膨潤抑制澱粉は、特に限定されるものではないが、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、コーンスターチ等を原料澱粉とし、架橋化とエーテル化あるいはエステル化を複合して施した膨潤抑制澱粉が挙げられ、中でもタピオカ澱粉を原料澱粉とした膨潤抑制澱粉が好ましい。
【0020】
本発明における小麦粉と膨潤抑制澱粉との重量比率は、50:50〜90:10の範囲であることが好ましい。より好ましくは、60:40〜80:20の範囲の重量比率であればよい。小麦粉の重量比率が50より少ない場合は、焼成生地が粉っぽくなる場合がある。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0022】
(実施例1)
縦型ミキサーボールに、上白糖100部、糖アルコール15部、水飴20部、液状ショートニング(商品名:Nスーパーブレンド、(株)カネカ社製)50部、製菓用起泡剤(商品名:メロディーアップ、(株)カネカ社製)15部、殺菌全卵200部、クリーム(商品名:フレッシュホイップ500、(株)カネカ社製)20部、水20部を混合し、分散・溶解させた。次に予め篩いに通しておいた、薄力粉(商品名:バイオレット、日清製粉(株)社製)100部、ベーキングパウダー1.5部を加え混合した。そして、50℃に溶解・保温しておいたマーガリン(商品名:ブローンセーバー、(株)カネカ社製)50部を加え混合した。これをプレミックス生地とした。次に、調製したプレミックス生地を連続含気装置(モンドミキサー、(株)モンドミックス・ジャパン社製)にて比重0.60g/mlに含気調整した。これを焼成用生地とした。この時、30℃における焼成用生地粘度は約30dPa・sであった。ここで、乳化安定性の評価は、得られた焼成用生地を60℃、30分間保温し、その時の排液安定性により判断し、排液率が40%未満のものを○、排液率が40%以上のものを×とした。さらに焼成用生地を焼成機(通常のガスオーブンまたは電気オーブン)にて焼成し、バターケーキを得た。
【0023】
得られたバターケーキの食感を、焼成後翌日(表中、1日後の食感)と30日後(表中、30日後の食感)について、クリープメーターRE2−3305S(商品名:レオナー、山電社製)を用いて評価し、食感がソフトで良好なものを○、食感が硬化して劣るものを×とした。
【0024】
(実施例2)
実施例1において、上白糖85部、液状ショートニング40部、製菓用起泡剤10部、殺菌全卵170部、水50部、マーガリン40部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0025】
(実施例3)
実施例1において、上白糖115部、液状ショートニング60部、製菓用起泡剤20部、殺菌全卵230部、水0部、マーガリン60部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0026】
(実施例4)
実施例1において、薄力粉80部、膨潤抑制澱粉(商品名:パインベークCC、松谷化学工業(株)社製)20部、にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0027】
(実施例5)
実施例1において、薄力粉60部、膨潤抑制澱粉40部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0028】
表1〜3に示すように、実施例1〜実施例5で作製した焼成用生地の乳化安定性は良好であり、得られたバターケーキは、風味が良好(表中、風味「○」として評価)で、しかも焼成後翌日のバターケーキはしっとりソフトで食感良好なものであり、焼成後30日後においても、焼成後翌日とほぼ同等のしっとりソフトで食感良好なものとなった。また、バターケーキの表面には火膨れなどの発生はなく、商品価値は高いものとなった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
(比較例1)
実施例1において、配合中の殺菌全卵を150重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0033】
(比較例2)
実施例1において、配合中の殺菌全卵を250重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0034】
(比較例3)
実施例1において、配合中の上白糖を60重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0035】
(比較例4)
実施例1において、配合中の上白糖を140重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0036】
(比較例5)
実施例1において、配合中の液状ショートニング及びマーガリンを各々30重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0037】
(比較例6)
実施例1において、配合中の液状ショートニング及びマーガリンを各々70重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0038】
(比較例7)
実施例1において、配合中の製菓用起泡剤を5重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0039】
(比較例8)
実施例1において、配合中の製菓用起泡剤を25重量部にした以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0040】
(比較例9)
実施例1において、焼成用生地の比重を0.80g/ml、水0部にし、比重0.80に含気調整した以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0041】
(比較例10)
実施例1において、焼成用生地の比重を0.40g/ml、水40部にし、比重0.40に含気調整した以外は、同様の方法にてバターケーキを作製し、評価した。
【0042】
(比較例11)
実施例1において、水60部に変えて、30℃における焼成用生地粘度を10dPa・sに調整した以外は、同様の方法でバターケーキを作製し、評価した。
【0043】
(比較例12)
実施例1において、水0部に変えて、30℃における焼成用生地粘度を50dPa・sに調整した以外は、同様の方法でバターケーキを作製し、評価した。
【0044】
(比較例13)
実施例1において、薄力粉40部、膨潤抑制澱粉60部に変えた以外は、同様の方法でバターケーキを作製し、評価した。
【0045】
比較例1および比較例12では、表1、表2に示すように焼成用生地粘度が高くなったため、得られたバターケーキの表面には火膨れ発生し、バターケーキの商品価値は低いものとなった。また、比較例2〜11、および比較例13では、それぞれ表1〜3に示すように、「乳化安定性」、「風味」、「1日後の食感」、「30日後の食感」のいずれかにおいて問題が発生(複数該当の場合あり)し、商品価値は低いものとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉100重量部に対して、卵170〜230重量部、糖類110〜140重量部、油脂80〜120重量部、製菓用起泡剤10〜20重量部を含む生地を、比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整後、焼成してなるバターケーキ類。
【請求項2】
オールインミックス法で比重0.50〜0.70g/mlの範囲に含気調整した生地の30℃における粘度が、20〜40dPa・sの範囲である請求項1記載のバターケーキ類。
【請求項3】
前記小麦粉100重量部に代えて、小麦粉と膨潤抑制澱粉とを合計で100重量部含有し、該小麦粉と該膨潤抑制澱粉との重量比率が50:50〜90:10であることを特徴とする請求項1又は2記載のバターケーキ類。



【公開番号】特開2006−271338(P2006−271338A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99791(P2005−99791)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】