説明

バッチ式焼成炉の焼成方法

【目的】処理品を1000℃以上の高温に急速加熱し且つ均一に焼成するためのバッチ式焼成炉の焼成方法を提供する。
【構成】炉内に、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターを並設してなる棚構造を上下方向に複数段配置し、炉の内壁面または内壁面近傍に補助ヒーターを配設したバッチ式焼成炉で、前記棚構造上に処理品を積載したセッターを載置して処理品を加熱、焼成する方法において、補助ヒーターとして中央部に発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部を設けたヒーターを使用し、補助ヒーターとセッターとを3d〜10d(但し、dは補助ヒーターの直径)の距離離間して加熱、焼成を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッチ式焼成炉において、処理品を1000℃以上の高温に急速加熱し且つ均一に焼成するためのバッチ式焼成炉の焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1000℃以上の温度に加熱する高温バッチ式焼成炉においては、焼成炉の炉壁面に沿って加熱用ヒーターを配置し、セッター(またはトレー)に積載した処理品を上下方向、左右方向または前後方向から加熱する手法が行われていた。
【0003】
この手法は、加熱用ヒーターと処理品の距離を出来るだけ離して均熱化しようとするものであるが、加熱用ヒーターに近い場所(例えばセッターの端部)では早く温度が上がり、加熱用ヒーターから遠い場所(例えばセッターの中央部)では温度の上がりが遅くなり、また、処理品を積載するセッターの位置(セッターを載置する棚の上段、中段、下段)により温度の上がり方が異なるという難点があり、温度が均一にならず処理品の品質に悪影響を与えていた。
【0004】
この難点を解決するために、本出願人は、処理品を1000℃以上の高温に急速加熱し且つ均一に焼成するためのバッチ式焼成炉の焼成方法として、図3に示すように、炉内(炉の図示は省略)に、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーター1を並設してなる棚構造8を上下方向に複数段(図3の場合は10段)配置し、炉の内壁面近傍に補助ヒーター2を配設し、棚構造8上に処理品(図示せず)を積載したセッター7を載置して処理品を加熱、焼成する方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−133591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記提案の焼成方法においても、バッチ式焼成炉を実機として経済的な炉内寸法とした場合、処理品を積載したセッター内の温度が均一とならず、処理品の品質にばらつきが生じることがあることがわかった。
【0007】
本発明は、この問題点を解消するために、バッチ式焼成炉の焼成方法における種々の要因と温度分布の関係について試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、加熱用ヒーターを並設してなる棚構造上に載置したセッター内の温度分布を均一にして、品質の優れた処理品を得ることを可能とするバッチ式焼成炉の焼成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための請求項1によるバッチ式焼成炉の焼成方法は、炉内に、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターを並設してなる棚構造を上下方向に複数段配置し、炉の内壁面または内壁面近傍に補助ヒーターを配設したバッチ式焼成炉で、前記棚構造上に処理品を積載したセッターを載置して処理品を加熱、焼成する方法において、補助ヒーターとして中央部に発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部を設けたヒーターを使用し、補助ヒーターとセッターとを3d〜10d(但し、dは補助ヒーターの直径)の距離離間して加熱、焼成を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項2によるバッチ式焼成炉の焼成方法は、請求項1において、前記棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターとして、中央部に発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部を設けたヒーターを使用することを特徴とする。
【0010】
請求項3によるバッチ式焼成炉の焼成方法は、請求項1または2において、前記バッチ式焼成炉内で、セッターに積載した処理品を所定の加熱温度に加熱して焼成するに際し、所定の加熱温度へ昇温後、該所定の加熱温度の保持は、前記加熱用ヒーターの出力を最大出力の10%以下に維持して、前記補助ヒーターの出力を制御することにより行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1000℃以上の高温に急速且つ均一に処理品を加熱することができる量産可能なバッチ式焼成炉の焼成方法が提供され、当該バッチ式焼成炉の焼成方法は、とくに、0.5ミクロン以下の薄い誘電体層とニッケル内部電極などの高積層を有するコンデンサーなど、MLCC成型品の焼成に効果的に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に適用されるバッチ式焼成炉内において、各段の棚構造を構成する並設された加熱用ヒーター、炉の内壁面に配設された補助ヒーター、棚構造上に載置された処理品を積載したセッターを示す平面図である。
【図2】図1において、さらに、雰囲気ガス供給管、雰囲気ガスを予熱するための予熱ヒーターの配置を示す平面図である。
【図3】本発明の前提となるバッチ式焼成炉の焼成方法を示すものであり、加熱用ヒーターを並設してなる棚構造を上下方向に複数段配置し、炉の内壁面近傍に補助ヒーターを配設し、棚構造上に処理品を積載したセッターを載置して処理品を焼成する炉内構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、バッチ式焼成炉内に、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターを並設してなる棚構造を上下方向に複数段配置し、炉の内壁面または内壁面近傍に補助ヒーターを配設し、棚構造上に処理品を積載したセッターを載置して処理品を加熱、焼成する。図1は、各段の棚構造を示すもので、例えば加熱用ヒーター1を8本並設して棚構造8を構成し、炉の内壁面Wに補助ヒーター2を配設し、棚構造8上に処理品を積載したセッター7を載置して処理品の加熱、焼成を行う。
【0014】
本発明においては、この場合、補助ヒーター2として、中央部に補助ヒーター2の発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部4を設けたヒーターを使用し、補助ヒーター2とセッター7とを3d〜10d(但し、dは補助ヒーター5の直径)の距離離間(図1では5d)して加熱、焼成を行うことを特徴とする。図1において、3は補助ヒーターの発熱部、5および6はそれぞれ加熱用ヒーター1の端子および補助ヒーター2の端子である。
【0015】
補助ヒーター2として、発熱部長の全てが発熱部のヒーターを使用した場合には、加熱、焼成時、補助ヒーター2からの輻射熱により処理品を積載するセッター7の両端部の温度が高くなり、処理品の品質を低下させる。補助ヒーター2として、中央部に非発熱部4を設けたヒーターを使用することにより、セッター7の温度分布を均一にすることができ、中央部に発熱部長の10〜25%、さらに好ましくは発熱部長の20〜25%の長さの非発熱部4を設けるのが効果的である。
【0016】
補助ヒーター2とセッター7とを3d〜10d(dは補助ヒーター5の直径)、さらに好ましくは5d〜7dの距離離間して加熱、焼成を行うことが望ましく、補助ヒーター2とセッター7との距離が3d未満では、補助ヒーター2の輻射熱により加熱、焼成時にセッター7の両端部の温度が高くなり易い。炉内寸法の関係で上限を10dとする。
【0017】
加熱、焼成時に処理品を積載するセッター7内の温度差が大きくなることに起因して、処理品の品質が低下するのをさらに効果的に防止するためには、補助ヒーター2のみでなく、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーター1としても、中央部に加熱用ヒーター1の発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部を設けたヒーターを使用するのが好ましい。
【0018】
加熱、焼成時においてセッター7の温度分布をさらに均一にするためには、バッチ式焼成炉内で、セッター7に積載した処理品を所定の加熱温度(炉内設定温度)に加熱して焼成するに際し、所定の加熱温度へ昇温後、所定の加熱温度の保持は、加熱用ヒーター1の出力を最大出力の10%以下に維持して、補助ヒーター2のみの出力を制御することにより行うことが望ましい。昇温時は、加熱用ヒーター1および補助ヒーター2の出力を最大として加熱し、すなわち、加熱用ヒーター1を主ヒーターとして温度制御を行い、昇温後の所定温度の保持においては、加熱用ヒーター1の出力を最大出力の10%以下に維持し、補助ヒーター2を主ヒーターに切り替えて温度制御を行う。このために、加熱用ヒーター1と補助ヒーター2とは別々に制御できるよう構成する。
【0019】
図2は、図1において、さらに、バッチ式焼成炉の雰囲気制御のために炉壁の近傍に配置された雰囲気ガス供給管9、炉の内壁面Wと雰囲気ガス供給管9との間に配置された雰囲気ガスを予熱するための予熱ヒーター11を示す。とくに、雰囲気ガスの吹き付け量が増加すると、雰囲気ガスの吹き付け位置のセッター7の温度が低下し易くなるから、処理品に対して均一な加熱を行うために、予熱ヒーター11により、雰囲気ガスを処理品の加熱温度(炉内設定温度)T℃より50℃〜20℃低い温度、すなわち(T−50〜20)℃の温度に予熱してからセッター(処理品)に吹き付けるのが好ましい。図2において、10はセッター7を挟んで雰囲気ガス供給管9の対面側に配設された雰囲気ガス排出管であり、矢印Aは雰囲気ガスの流れを示す。
【0020】
図2は、雰囲気ガス供給管9および予熱ヒーター11を棚構造の各段に配置した形態を示したが、雰囲気ガス供給管を、並設した加熱用ヒーターからなる棚構造と直交するように炉の上下方向に好ましくは複数本配置して、雰囲気ガス供給管の吹き出し口を回動させて雰囲気ガスをセッターに積載された処理品に向けて吹き付けるようにしてもよい。この場合も、予熱ヒーター11は棚構造の各段に配置される。
【0021】
本発明は、バッチ式焼成炉内に、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターを並設してなる棚構造を上下方向に複数段配置し、炉の内壁面または内壁面近傍に補助ヒーターを配設し、棚構造上に処理品を積載したセッターを載置して処理品を加熱、焼成するものであるが、炉内の上下方向の温度分布を改善するために、各段に配置される加熱用ヒーターと補助ヒーターの制御回路、さらに雰囲気ガスの予熱ヒーターの制御回路を、上下方向に複数グループ(例えば、3グループ)に分割し、それぞれのグループで独立した温度制御を行うことが望ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について説明する。この実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれに限定されない。
【0023】
実施例1
炉内寸法が幅300mm、高さ310mm、長さ425mm(炉内容積39.5L)の焼成炉内に、直径12mmの加熱用ヒーター(発熱部長:300mm)を並設して、棚構造を構成し、この棚構造を炉の上下方向に5段配置した。セッターは150mm角で厚さ3mmのアルミナ製のものとし、各段の棚構造に載置した。
【0024】
図1に示すように、棚構造の各段の炉内壁面に補助ヒーター(中央部に発熱部長の20%の非発熱部を有するもの)を配置し、補助ヒーターとセッターとの間隔は5d(d:補助ヒーターの直径)とした。また、図2に示すように、棚構造の各段に雰囲気ガス供給管と予熱ヒーターを配置した。
【0025】
上記の構成の焼成炉を用いて、加熱用ヒーターと補助ヒーターの出力を最大として、1190℃までを80℃/分(4800℃/h)の加熱速度で昇温し、昇温後、加熱用ヒーターの出力を5%に維持しながら、1190℃の温度を保持するよう補助ヒーターのみの出力を制御した。
【0026】
5段に配置した棚構造の各段について、4隅部および中央部の温度を測定したところ、温度差は、最上段の1段目および2段目では1℃以内、3段目では3℃以内、4段目では2℃以内、最下段の5段目では4℃以内、5段全体では5℃以内に収まり、優れた温度分布を示した。
【符号の説明】
【0027】
1 加熱用ヒーター
2 補助ヒーター
3 補助ヒーターの発熱部
4 補助ヒーターの非発熱部
5 加熱用ヒーターの端子
6 補助ヒーターの端子
7 セッター
8 棚構造
9 雰囲気ガス供給管
10 雰囲気ガス排出管
11 予熱ヒーター
W 炉の内壁面
A 雰囲気ガスの流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に、棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターを並設してなる棚構造を上下方向に複数段配置し、炉の内壁面または内壁面近傍に補助ヒーターを配設したバッチ式焼成炉で、前記棚構造上に処理品を積載したセッターを載置して処理品を加熱、焼成する方法において、補助ヒーターとして中央部に発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部を設けたヒーターを使用し、補助ヒーターとセッターとを3d〜10d(但し、dは補助ヒーターの直径)の距離離間して加熱、焼成を行うことを特徴とするバッチ式焼成炉の焼成方法。
【請求項2】
前記棒状またはパイプ状の加熱用ヒーターとして、中央部に発熱部長の10〜25%の長さの非発熱部を設けたヒーターを使用することを特徴とする請求項1記載のバッチ式焼成炉の焼成方法。
【請求項3】
前記バッチ式焼成炉内で、セッターに積載した処理品を所定の加熱温度に加熱して焼成するに際し、所定の加熱温度へ昇温後、該所定の加熱温度の保持は、前記加熱用ヒーターの出力を最大出力の10%以下に維持して、前記補助ヒーターの出力を制御することにより行うことを特徴とする請求項1または2記載のバッチ式焼成炉の焼成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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