説明

バナナの追熟加工方法および追熟加工用制御システム

【課題】バナナの熟成を内部から促進することで果皮を傷めることなく果肉の糖度不足を防止でき、栽培地が高地であっても果肉の芯にゴリがなく、果皮にシュガースポットがない状態でも果肉の糖度が高いバナナを、商品として販売できる期間を短くすることなく、短い追熟加工期間で得ることができるバナナの追熟加工方法を提供する。
【解決手段】ムロ内の温度制御によりバナナの果肉温度を上昇させることで未成熟のバナナの呼吸を活性化させる。バナナの呼吸の活性化を引き出した後に、ムロ内の温度制御により果肉温度を降下させる。果肉温度を降下させた後に、ムロ内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる。果肉温度を上昇させた後に、ムロ内の温度制御の再開により果肉温度を再度降下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバナナの追熟加工方法と、その方法を実施するための追熟加工用制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バナナは植物防疫法により成熟した状態での輸入が規制されていることから、低温で輸入された未成熟バナナを追熟加工により成熟させる必要がある。バナナはクライマクテリック型果実であることから、追熟加工により未成熟のバナナの呼吸の活性化(クライマクテリック・ライズ)を引き出すことで、果皮を黄化させ、果肉を軟化させている。その追熟加工は、外気温度の影響を殆ど受けない略密閉された温度制御可能な追熟加工用ムロ内で行なわれる。
【0003】
従来、ムロ内の温度制御により未成熟バナナの果肉温度を例えば20℃〜23℃程度まで昇温させ、未成熟バナナの呼吸が活性化されたならば、ムロ内の温度制御により果肉温度を徐々に13℃〜14℃程度まで低下させた後にムロから出庫している。すなわち追熟加工方法においては、未成熟のバナナの呼吸を活性化させるため、ムロ内の温度制御によりバナナの果肉温度を上昇させる呼吸活性化工程が行なわれている。また、呼吸の活性化を促進するため、ムロ内にエチレンガス等を注入したり、活性化の開始後に呼吸を促進させるためにムロ内を換気することも一般的に行なわれている。このようなバナナの追熟加工方法においては、果皮に変色等の劣化を生じさせずに果肉を熟成させることが要望されている(特許文献1〜4参照)。従来の追熟加工方法においては、呼吸活性化後におけるムロの温度が高過ぎると果皮の劣化が生じたり、ムロから取り出されたバナナを商品として販売できる期間が短くなり、低過ぎると果肉の糖度を十分に向上させることができない。そのため、例えば特許文献2に開示されているように、果肉温度が理想温度を表す曲線に沿って変化するように、クーラーやヒーターのオン、オフによりムロの温度を制御することが行われている。
【特許文献1】特開2002−171901号公報
【特許文献2】特開平4−356158号公報
【特許文献3】特開昭60−217859号公報
【特許文献4】特開平2−299541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の追熟加工方法においては、バナナの呼吸活性化後におけるムロの温度は、クーラーのオン、オフにより多少変動するとしても常に果肉温度以下に制御されることから、呼吸活性化後は果肉温度の実質的な上昇が規制され、果肉の熟成が抑制されていた。そのため従来のバナナの追熟加工方法では果肉の芯を充分に軟化させることができない場合がある。すなわち、果皮は黄化しているにも拘らず、果肉の澱粉質の糖化が不十分で糖度が想定値まで上昇しなかったり、ひどい場合はゴリと呼ばれる硬い部分が生じる時がある。特に、輸入された未成熟バナナが寒気の影響を受ける冬季に追熟加工を行う場合、バナナの栽培地が高地である程にゴリは生じ易い傾向がある。換言すれば、従来技術にあっては、呼吸活性化後に果皮の劣化を防止しようとすれば果肉の熟成が抑制され、呼吸活性化後の果肉の熟成を進行させようとすれば果皮の劣化が進行するという問題を解決できなかった。
【0005】
そのため、例えば現在の市場に流通している高地栽培系バナナは、販売当初の果皮は黄色く熟成されているが果肉の糖度は低くされている。これにより販売当初は見栄えを良くし、一方、果皮全体が黄色く熟成した段階からさらに熟成が進み、シュガースポットと呼ばれる褐色の斑点が果皮全体に生じる時点が食べ頃であると喧伝することで、追熟加工段階での果肉の熟成不足を補っている。これは、果肉の澱粉質の糖化速度が果皮の熟成速度よりも遅いことによる。また、ゴリが生じていると思われる場合には、ムロから出庫した後も成熟を進行させることで結果的にゴリをなくしている。しかし、果皮に生じるシュガースポットは見た目が悪いことから、追熟加工の段階で、果皮を傷めることなく果肉の澱粉質の糖度を上げ、また、ゴリをなくすことが望まれている。
【0006】
また、追熟加工によりバナナを成熟させるのに要する期間を短縮するため、呼吸活性化工程の後に果肉温度を一旦低下させてから、ムロ内の温度制御により果肉温度を人為的に再上昇させることが試行されている。しかし、ムロ内の温度制御により果肉温度を外部から人為的に再上昇させた場合、果皮は黄化されるがゴリ発生を充分に防止できず、また、バナナのネックと呼ばれる端部近傍部分が折れることがある。さらに、果肉温度を外部から人為的に再上昇させた場合、果皮表面の過剰な温度上昇により出庫後の果皮の変色が早くなり、商品として販売できる期間が短くなるという問題がある。
本発明は、上記のような問題を解決することのできるバナナの追熟加工方法および追熟加工用制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、温度制御可能な追熟加工用ムロ内で未成熟のバナナの呼吸を活性化させるため、前記ムロ内の温度制御によりバナナの果肉温度を上昇させる呼吸活性化工程を有するバナナの追熟加工方法に適用される。この呼吸活性化工程は従来と同様に行なうことができる。呼吸の活性化を促進するためのムロ内へのエチレンガス等の注入や、呼吸の活性化が引き出された後におけるムロ内の換気等も、従来と同様に行なうことができる。呼吸活性化工程における果肉温度の最大値は、未成熟のバナナの呼吸の活性化を引き出すことができる値になるように、例えば20℃〜23℃程度となるようにムロ内の温度が制御され、高地栽培バナナでは低地栽培バナナよりも高くするのが好ましい。
【0008】
本発明によるバナナの追熟加工方法は、前記呼吸活性化工程によりバナナの呼吸の活性化を引き出した後に、前記ムロ内の温度制御により果肉温度を降下させる降温工程と、前記降温工程により果肉温度を降下させた後に、前記ムロ内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる昇温工程と、果肉温度を前記昇温工程により上昇させた後に、前記ムロ内の温度制御の再開により果肉温度を再度降下させる再降温工程とを有し、前記昇温工程における果肉温度の最大値を、前記昇温工程の開始時における果肉温度よりも2℃以上高くすることを特徴とする。
本発明によれば、呼吸活性化工程においてムロ内の温度制御により昇温されて呼吸の活性化が引き出されたバナナは、降温工程において果肉温度が降下された後に、ムロ内の温度制御が解除されることで果肉温度がバナナ自身の発熱により上昇する。この昇温工程における果肉温度の上昇は、ムロ内の温度制御による外部からの人為的なものではなく、熟成の進行に伴うバナナ自身の内部からの発熱に拠る自然なものである。すなわち、従来はバナナの呼吸活性化後におけるムロの温度が果肉温度以下に制御されていたのに対して、本願発明ではムロの温度制御を解除することで、呼吸活性化後の果肉温度の実質的な上昇すなわち果肉の熟成に伴う温度上昇を可能にした。この昇温工程における果肉温度の最大値は、この昇温工程の開始時における果肉温度よりも2℃以上高くされる。これにより、果皮の熟成を進行させることなくバナナの熟成を内部から促進できるので、果皮を傷めることなく果肉の糖度を上げ、果肉の芯にゴリが生じるのを防止でき、しかも、果肉の糖度を早く高めて追熟加工に要する期間を短縮できる。また、果肉温度を昇温工程において上昇させる前に降温工程において人為的に降下させているので、昇温工程における果肉温度の最大値を過剰に高くすることなく熟成を促進でき、ネックの折れや商品として販売できる期間が短くなるのを防止できる。このような本発明の作用は、特に高地栽培バナナを寒冷期に追熟加工する場合に顕著に奏することができる。
【0009】
前記降温工程における果肉温度の最小値を、前記呼吸活性化工程における果肉温度の最大値よりも2℃以上低くするのが好ましい。これにより、昇温工程における果肉温度を過剰に高くすることなくバナナの成熟をより促進できる。また、前記降温工程における果肉温度の最小値と前記呼吸活性化工程における果肉温度の最大値との差を5℃以内とするのが好ましい。これにより、バナナの熟成が過度に抑制されるのを防止できる。
【0010】
前記呼吸活性化工程における果肉温度の最大値と前記昇温工程における果肉温度の最大値との差を3℃以内とするのが好ましい。これにより、昇温工程における果肉温度の最大値が高過ぎることによりバナナが過剰に成熟するのを防止でき、また、その最大値が低過ぎてバナナの成熟が不十分になるのを防止できる。昇温工程における果肉温度の最大値は、19℃〜24℃とするのが好ましく、高地栽培バナナでは低地栽培バナナよりも高くするのが好ましい。
【0011】
呼吸活性化工程における果肉温度の最大値は昇温工程における果肉温度の最大値よりも高くても、低くても、同一でもよいが、昇温工程においては温度制御が解除されていて果皮は傷み難いので、昇温工程における果肉温度の最大値を呼吸活性化工程における果肉温度の最大値よりも高くするのが好ましい。これによりバナナ自身の内部からの発熱に拠る成熟を促進できる。
【0012】
前記降温工程と前記昇温工程との間に、前記ムロ内の温度を制御して果肉温度よりも上昇させる予熱工程を有するのが好ましい。これにより、昇温工程において迅速に果肉温度を上昇させることができる。
【0013】
追熟加工完了時点の果肉温度の最終値は、バナナの種類、果肉の固さ、鮮度、ムロの外部環境、商品として販売する期間等に応じて、果皮が低温により変色しない程度の温度に実験的に適宜定めればよい。例えば、果肉温度の最終値を通常は13℃〜14℃程度とするが、果皮が充分に黄化する前に追熟加工を完了するような場合は果肉温度の最終値を15℃〜16℃程度としてもよい。
【0014】
本発明においては、前記昇温工程により上昇された果肉温度を降下させるために前記ムロ内の温度制御を再開した後であって、果肉温度を追熟加工の完了時点の最終値まで降下させる迄の間において、前記ムロ内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる付加昇温工程を、少なくとも1回以上有し、果肉温度を前記付加昇温工程により上昇させた後に、前記再降温工程を再開することで前記ムロ内の温度制御により果肉温度を再度降下させるようにしてもよい。
【0015】
本発明のバナナの追熟加工用制御システムは、本発明のバナナの追熟加工方法を実施するために用いられるものであって、前記ムロ内の温度を検出可能な第1温度センサと、バナナの果肉温度を検出可能な第2温度センサと、設定時間および設定温度を入力可能な入力装置と、前記第1温度センサの検出値、前記第2温度センサの検出値、前記入力装置から入力される設定時間および設定温度を含む設定条件に基づき、前記ムロ内の冷房および暖房が可能な空調装置を制御可能な制御装置とを備え、前記制御装置は、予め定めた条件の充足時に前記空調装置の制御を解除し、この制御の解除から設定時間経過するか前記第2温度センサの検出値が設定温度になった場合に前記空調装置の制御を再開する制御プログラムを記憶することを特徴とする。
本発明のバナナの追熟加工用制御システムによれば、本発明のバナナの追熟加工方法を実施する際に、温度制御の解除と再開を制御装置による空調装置の制御の解除と再開により自動的に行なうことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バナナの熟成を内部から促進することで果皮を傷めることなく果肉の糖度不足を防止でき、栽培地が高地であっても果肉の芯にゴリがなく、果皮にシュガースポットがない状態でも果肉の糖度が高いバナナを、商品として販売できる期間を短くすることなく短い追熟加工期間で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1、図2は、本発明のバナナの追熟加工方法を実施するための追熟加工装置1を示す。追熟加工装置1は公知のものを用いることができる。本実施形態の追熟加工装置1はいわゆる差圧加工タイプであって、追熟加工用ムロ2を構成するハウジング3と、ムロ2の冷房、暖房、換気、空気循環を行なうための空調装置4と、ハウジング3の天井部に吊り下げ状に取り付けられた一対のエアバッグ5を有する。ハウジング3の前部に、バナナを収納したカートン6を出し入れするための扉7が設けられ、扉7を閉じることでムロ2内は外気の温度の影響を殆ど受けない略密閉された空間となる。
【0018】
上記ムロ2内の両エアバッグ5の下方それぞれにおいて、複数のカートン6がパレット8を介してフロア上の複数位置で積層されることで複数の積層体とされ、各積層体は互いに略隙間なく並列配置される。各エアバッグ5は空気供給により膨張し、カートン6の積層体とハウジング3の天井との間の隙間を詰める。これにより、カートン6とエアバッグ5によりムロ2内は中央空間と左右空間の3つの空間に仕切られる。各カートン6には空気流通用の孔6aが形成される。空調装置4はムロ2の天井近傍に配置された循環ファン4aを有し、ファン4aはムロ2内の中央空間の空気を吸引して左右空間に排出する。これにより、ムロ2内の中央空間は左右空間よりも圧力が低下し、その差圧により図1において矢印で示すようにカートン6の内部を通って循環する空気の流れが生じる。
なお、追熟加工装置の構成は本実施形態のものに限定されるものではなく、ムロ内の温度制御および温度制御の解除が可能なものであれば特に限定されない。例えば、上記のようなエアバックを用いることなくカートンをムロの内面に設けたシールに押し付けることでムロ内の空間を仕切る構成としてもよいし、差圧加工タイプでなく送風機によりムロ内の空気を流動させる構成としてもよい。
【0019】
図3に示すように、空調装置4はコンピュータにより主構成される制御装置10に接続されている。制御装置10に、キーボード等により構成される入力装置11、ムロ2内の温度を検出する第1温度センサ12、ムロ2内におるバナナの果肉温度を検出する第2温度センサ13、ムロ2内の二酸化炭素濃度を検出するCO2 センサ14、ムロ2内にエチレンガスを投入するエチレンガス投入装置16、表示装置やプリンタ等により構成される出力装置17が接続されている。制御装置10は、入力装置11から入力される設定温度、二酸化炭素の設定濃度、設定時間等の設定条件、各センサ12、13、14からの検出値に基づき、制御装置10が空調装置4、エチレン投入装置16、出力装置17を制御する制御プログラムを記憶する。これにより、ムロ2内の温度、二酸化炭素濃度を制御し、ムロ2内へのエチレンガスの投入、排出を行い、出力装置17によりムロ2内の温度、果肉温度、二酸化炭素濃度等の所定事項の出力を行う追熟加工用制御システムが構成されている。
なお、制御システムの構成は本実施形態のものに限定されるものではなく、例えば、ムロ内の湿度を高める加湿装置とムロ内の湿度を検出する湿度センサを制御装置に接続し、検出湿度が入力装置から入力される設定湿度以下にならないように加湿装置を制御する構成を付加してもよい。
【0020】
図4は、本発明によるバナナの追熟加工方法を上記追熟加工装置1を用いて実施する場合における時間、バナナの果肉温度、および制御装置10に入力されるムロ2の設定温度との関係の一例を示している。図において、横軸は時刻、縦軸は温度、破線Aは果肉温度を、実線Bは入力装置11から制御装置10に入力される設定温度を示す。
【0021】
まず、温度制御可能なムロ2内で未成熟のバナナの呼吸を活性化させるため、ムロ2の温度制御によりバナナの果肉温度を上昇させる呼吸活性化工程を行なう。この呼吸活性化工程は従来と同様に行なうことができる。
本実施形態では、ムロ2内を設定温度にするための温度制御を時刻t0 において開始することで呼吸活性化工程を開始する。その設定温度は、バナナの呼吸を活性化させる上で適正な値を実験や経験則に基づき適宜定めればよく、本実施形態では21℃とされる。制御装置10は、第1温度センサ12によるムロ2内の検出温度が設定温度になるように空調装置4を制御する。これにより、差圧による空気循環によってカートン6内のバナナは温度制御された空気の流れに接し、果肉温度は次第に上昇する。この工程において、バナナの呼吸の活性化を促進するためのエチレンガスを、制御装置10によりエチレン投入装置16を制御することで投入する。そのエチレン投入装置16の制御は従来同様に行なえばよく、例えば温度制御開始から設定時間経過後に一定量のエチレンガスを投入するように行なう。
制御装置10はバナナの呼吸の活性化を引き出したか否かを判断する。例えば、第2温度センサ13による果肉温度の検出値が設定温度になるか、CO2 センサ14により検出される二酸化炭素濃度が設定濃度になるか、呼吸活性化工程の開始から設定時間経過した場合に、バナナの呼吸の活性化を引き出したと判断する。この判断基準は特に限定されるものではなく、実験や経験則に基づき適宜定めればよい。本実施形態では、呼吸活性化工程の開始から30時間経過した時刻t1 において、バナナの呼吸の活性化を引き出したと判断している。バナナの呼吸の活性化を引き出したならば呼吸活性化工程を終了する。
【0022】
呼吸活性化工程の終了後に、制御装置10は空調装置4を制御してムロ2内の換気を行い、エチレンガスをムロ2外に排出する。このエチレンガスの排出タイミングは実験や経験則に基づき適宜定めればよい。また、ムロ2内の二酸化炭素濃度が設定濃度以上にならないように、制御装置10は空調装置4をCO2 センサ14の検出濃度と設定濃度に基づき制御してムロ2内の換気を行う。その設定濃度や換気タイミングは実験や経験則に基づき適宜定めればよい。
【0023】
呼吸活性化工程によりバナナの呼吸の活性化を引き出した後に、ムロ2内の温度制御により果肉温度を降下させる降温工程を行なう。
本実施形態では、ムロ2内を設定温度にするための温度制御を時刻t1 において開始することで降温工程を開始する。その設定温度は、果肉温度を降下させる上で適正な値を実験や経験則に基づき適宜定めればよく、本実施形態では17℃とされる。制御装置10は、第1温度センサ12によるムロ2内の検出温度が設定温度になるように空調装置4を制御する。これにより、差圧による空気循環によってカートン6内のバナナは温度制御された空気の流れに接し、果肉温度は次第に降下する。
制御装置10は降温工程を終了するか否かを判断する。例えば、第2温度センサ13による果肉温度の検出値が設定温度以下になるか、降温工程の開始から設定時間経過した場合に、降温工程を終了する。この判断基準は特に限定されるものではなく、実験や経験則に基づき適宜定めればよい。本実施形態では降温工程の開始から8時間経過した時刻t2 において降温工程が終了する。
この降温工程における果肉温度の最小値Tbは、呼吸活性化工程における果肉温度の最大値Taよりも2℃以上低くするのが好ましい。これにより、昇温工程における果肉温度を過剰に高くすることなくバナナの成熟を促進できる。また、その最小値Tbと最大値Taとの差を5℃以内とするのが好ましい。これにより、バナナの熟成が過度に抑制されるのを防止できる。降温工程における果肉温度の最小値Tbは、活性化されたバナナの呼吸が不活性化されない範囲で、バナナの種類、果肉の固さ、鮮度等に応じて実験的に適宜定めればよく、例えば17℃〜19℃程度とされる。
【0024】
前記降温工程と昇温工程との間に、ムロ2内の温度を制御して果肉温度よりも上昇させる予熱工程を行なう。
本実施形態では、ムロ2内を設定温度にするための温度制御を時刻t2 において開始することで予熱工程を開始する。これにより、昇温工程において迅速に果肉温度を上昇させることができる。その設定温度は、昇温工程において果肉温度を迅速に上昇させる上で適正な値を実験や経験則に基づき適宜定めればよく、本実施形態では19℃とされる。制御装置10は、第1温度センサ12によるムロ2内の検出温度が設定温度になるように空調装置4を制御する。これにより、差圧による空気循環によってカートン6内のバナナは温度制御された空気の流れに接し、果肉温度は次第に上昇する。
制御装置10は予熱工程を終了するか否かを判断する。例えば、予熱工程の開始から設定時間(例えば2時間)経過するか、第2温度センサ13による果肉温度の検出値が設定温度になった場合に予熱工程を終了する。この判断基準は特に限定されるものではなく、実験や経験則に基づき適宜定めればよい。本実施形態では予熱工程の開始から2時間経過した時刻t3 において予熱工程が終了する。
【0025】
降温工程により果肉温度を降下させた後に、予熱工程を経て、ムロ2内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる昇温工程を行なう。
制御装置10は、制御プログラムに従い、予め定めた条件の充足時に空調装置4の制御を解除する。本実施形態では、制御装置10による空調装置4の制御を予熱工程が終了する時刻t3 において解除することで空調装置4を停止させ、ムロ2内の温度制御を解除する昇温工程を開始する。なお、空調装置4の制御を解除する条件は降温工程の後に昇温工程を開始できるものであればよく、例えば予熱工程をなくして降温工程の終了時に空調装置4の制御を解除してもよい。これにより、差圧による空気循環もなくなる。カートン6内のバナナは温度制御されていない空気に接することで、外部から加熱も冷却もされない状態になる。この昇温工程においてバナナは熟成の進行に伴い自ら発熱し、外部から加熱も冷却もされない状態において果肉温度が上昇する自然熟成状態になる。また、本実施形態では温度制御を解除する際に空調装置4を停止させているが、ムロ2内の冷暖房を停止させれば足りるので、温度制御を解除する際に冷暖房は停止させても空気循環は停止させないようにしてもよい。
制御装置10は制御プログラムに従い昇温工程を終了するか否かを判断する。すなわち、昇温工程の開始のための空調装置4の制御の解除から設定時間経過するか、第2温度センサ13による果肉温度の検出値が設定温度になった場合に空調装置4の制御を再開して昇温工程を終了する。
昇温工程における果肉温度の最大値は、昇温工程の開始時における果肉温度よりも2℃以上高くされ、好ましくは3℃以上高くされる。
呼吸活性化工程における果肉温度の最大値Taと昇温工程における果肉温度の最大値Tcとの差を3℃以内とするのが好ましい。これにより、昇温工程における果肉温度の最大値Tcが高過ぎることによりバナナが過剰に成熟するのを防止でき、また、その最大値Tcが低過ぎてバナナの成熟が不十分になるのを防止できる。
さらに、昇温工程においては温度制御が解除されていて果皮は傷み難いので、昇温工程における果肉温度の最大値Tcを呼吸活性化工程における果肉温度の最大値Taよりも高くするのが好ましい。これにより、バナナ自身の内部からの発熱に拠る成熟をより促進できる。なお、バナナの鮮度が低い等の事情があれば、昇温工程における果肉温度の最大値Tcを呼吸活性化工程における果肉温度の最大値Taより低くしてもよい。
本実施形態では、昇温工程の開始から8時間経過した時刻t4 において昇温工程が終了するものとされ、昇温工程における果肉温度の最大値は、昇温工程の開始時における果肉温度よりも約4.5℃高く、呼吸活性化工程における果肉温度の最大値Taよりも約1.5℃高く設定されるが、これに限定されるものではなく、例えば寒冷期では温暖期よりも高く設定したり、バナナの栽培地が高地である場合は低地である場合よりも高く設定するのが好ましい。
【0026】
果肉温度を昇温工程により上昇させた後に、ムロ2内の温度制御の再開により果肉温度を再度降下させる再降温工程を行なう。
本実施形態では、ムロ2内を設定温度(本実施形態では18℃)にするための温度制御を時刻t4 において開始することで再降温工程を開始し、再降温工程の開始から設定時間(本実施形態では12時間)経過後の時刻t5 にムロ2内をさらに低温の設定温度(本実施形態では14℃)にするための温度制御を行い、その時刻t5 から設定時間(本実施形態では8時間)経過後の時刻t6 に再降温工程を終了する。制御装置10は、第1温度センサ12によるムロ2内の検出温度が設定温度になるように空調装置4を制御する。これにより、差圧による空気循環によってカートン6内のバナナは温度制御された空気の流れに接し、果肉温度は最終値まで次第に降下されて追熟加工が完了する。再降温工程における設定温度や設定時間は特に限定されず、熟成が過度に抑制されたり果皮が傷まないように実験や経験則に基づき適宜定めればよい。
【0027】
上記実施形態によれば、バナナの果肉温度は呼吸活性化工程における最大値Taであるピーク値と、昇温工程における最大値Tcであるピーク値とを有し、その昇温工程におけるピーク値は、外部からの人為的な温度制御ではなく、バナナ自身の内部からの発熱に拠る果肉温度の上昇により得られるものである。これにより、果皮の傷みなくバナナの熟成が内部から促進され、果肉の芯にゴリが生じるのを防止でき、しかも、果肉の糖度を早く高めて追熟加工に要する期間を短縮できる。また、果肉温度を昇温工程において上昇させる前に降温工程において人為的に降下させているので、昇温工程における果肉温度の最大値Tcを過剰に高くすることなく熟成を促進でき、ネックの折れや商品として販売できる期間が短くなるのを防止できる。
【0028】
図5は上記実施形態の変形例に係り、本発明によるバナナの追熟加工方法を上記追熟加工装置1を用いて実施する場合の時間、バナナの果肉温度、および制御装置10に入力されるムロ2の設定温度との関係の一例を示している。本変形例においては、上記実施形態と同様部分は同一符号で示して説明を省略し、相違点を説明する。
【0029】
本変形例においては、昇温工程により上昇された果肉温度を降下させるためにムロ2内の温度制御を再開した後であって、果肉温度を追熟加工の完了時点の最終値まで降下させる迄の間において、ムロ2内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる付加昇温工程を1回有する。この付加昇温工程により果肉温度を上昇させた後に、再降温工程を再開することでムロ2内の温度制御により果肉温度を再度降下させる。
【0030】
本変形例では、再降温工程を開始する時刻t4 から設定時間経過した後に、制御装置10による空調装置4の制御を解除することでムロ2内の温度制御を解除する付加昇温工程を開始する。その設定時間は、付加昇温工程において果肉温度を迅速に上昇させる上で適正な値を実験や経験則に基づき適宜定めればよく、本変形例では、時刻t4 から4時間経過した時刻t7 において付加昇温工程が開始される。これにより、差圧による空気循環もなくなる。カートン6内のバナナは温度制御されていない空気に接することで、外部から加熱も冷却もされない状態になる。バナナは熟成の進行に伴い自ら発熱するため、外部から加熱も冷却もされない状態においては果肉温度が上昇する。
制御装置10は付加昇温工程を終了するか否かを判断する。例えば、付加昇温工程の開始から設定時間経過するか、第2温度センサ13による果肉温度の検出値が設定温度になった場合に付加昇温工程を終了する。この判断基準は特に限定されるものではなく、実験や経験則に基づき適宜定めればよい。本変形例では付加昇温工程の開始から3時間経過した時刻t8 において付加昇温工程が終了する。
【0031】
果肉温度を付加昇温工程により上昇させた後に、再降温工程を再開することでムロ2内の温度制御により果肉温度を再度降下させる。
本変形例では、ムロ2内を設定温度(本変形例では17℃)にするための温度制御を時刻t9 において開始することで再降温工程を再開し、再降温工程の再開から設定時間(本変形例では6時間)経過後の時刻t9 にムロ2内をさらに低温の設定温度(本変形例では14℃)にするための温度制御を行い、その時刻t9 から設定時間(本変形例では6時間)経過後の時刻t6 に再降温工程を終了する。制御装置10は、第1温度センサ12によるムロ2内の検出温度が設定温度になるように空調装置4を制御する。これにより、差圧による空気循環によってカートン6内のバナナは温度制御された空気の流れに接し、果肉温度は最終値まで次第に降下されて追熟加工が完了する。他は上記実施形態と同様とされる。
【0032】
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば予熱工程は必須ではなく、降温工程の後に連続して昇温工程を行なってもよい。また、付加予熱工程は行なわなくてもよいし2回以上行なってもよい。さらに、再降温工程の開始後であって付加昇温工程の前に、ムロ内の温度を制御して上昇させる付加予熱工程を行なってもよい。空調装置を、制御装置ではなく人間が操作することでムロ内の温度制御および温度制御の解除を行なってもよい。
【0033】
図6は、上記実施形態の追熟加工装置1を用い、高地栽培バナナの追熟加工を実施した場合におけるバナナの果肉糖度と、ムロ2から取り出した後の時間との関係を示す。図6における縦軸はバナナの果肉糖度、横軸は追熟加工開始からの経過日数を示す。ここでは、5時間の昇温工程を含む方法により追熟加工した70本のバナナの果肉糖度を、ムロ2から取り出した直後から24時間毎に測定し、その24時間毎の測定値の平均を求め、図6において○印と数値で示した。また、昇温工程を含まない従来方法により追熟加工した180本のバナナの果肉糖度を、ムロ2から取り出した直後から24時間毎に測定し、その24時間毎の測定値の平均を求め、図6において×印と数値で示した。果肉糖度はATAGO社製糖度計(PR−101α)を用いて測定した。なお、昇温工程を含む追熟加工期間は5日、昇温工程を含まない従来の追熟加工期間は6日としたことから、昇温工程を含む場合は含まない場合よりも果肉糖度の測定回数が1回多くされている。
【0034】
図7は、上記実施形態の追熟加工装置1を用い、5時間の昇温工程を含む方法により高地栽培バナナの追熟加工を実施した場合におけるムロ2の設定温度、バナナの果肉温度の測定値、およびムロ2の温度の測定値と時間との関係を示している。各図において、横軸は時刻、縦軸は温度、実線Aは果肉温度の測定値、破線Bは制御装置10に入力される設定温度、二点鎖線Cはムロ2の温度の測定値を示す。ここでは、呼吸活性化工程によりバナナの呼吸の活性化を引き出した後に、時刻t1 においてムロ2の設定温度を21℃から16℃にすることで降温工程を開始し、降温工程における設定温度を時刻t2 において16℃から18℃に変更し、この降温工程では設定温度を維持するためにクーラーのオン、オフ制御がなされ、時刻t3 においてムロ2内の温度制御を解除することで昇温工程を開始し、時刻t3 から5時間経過した時刻t4 においてムロ2の設定温度を18℃にすることで再降温工程を開始している。なお、以後は図示省略するが実施形態と同様にムロ2の設定温度が時間経過と共に低下される。
【0035】
図6から、5時間の昇温工程を含む方法により追熟加工した場合、昇温工程を含まない方法により追熟加工した場合に比べ糖度が高いことを確認でき、また、追熟加工開始から9日目において、昇温工程を含む場合は糖度が低下しないのに昇温工程を含まない場合は糖度が低下することを確認できる。図7から、5時間の昇温工程において、昇温工程における果肉温度の最大値は、昇温工程の開始時における果肉温度よりも2°弱高いことを確認でき、また、降温工程においてはクーラーのオフにより室温が上昇しても果肉温度の変動は最大でも0.5℃程度という僅かなものであって実質的な果肉温度上昇は規制されていることを確認できる。よって、昇温工程を含む方法により追熟加工し、昇温工程における果肉温度の最大値を昇温工程の開始時における果肉温度よりも2℃以上高くすることで、追熟加工期間を短縮し、果皮にシュガースポットが生じる前に果肉の糖度を高くすることができ、栽培地が高地であっても果肉の芯にゴリが生じるのを防止でき、さらに、糖分のアルコール発酵による糖度低下を遅らせることで商品として販売できる期間を長くできることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るバナナの追熟加工方法を実施するための追熟加工装置の正断面図
【図2】本発明の実施形態に係るバナナの追熟加工方法を実施するための追熟加工装置の側断面図
【図3】本発明の実施形態に係るバナナの追熟加工方法を実施するための追熟加工装置の制御構成を示す図
【図4】本発明の実施形態に係るバナナの追熟加工方法を実施する場合の時間と、バナナの果肉温度と、ムロの設定温度との関係の一例を示す図
【図5】本発明の変形例に係るバナナの追熟加工方法を実施する場合の時間と、バナナの果肉温度と、ムロの設定温度との関係の一例を示す図
【図6】バナナの果肉糖度と、ムロから取り出した後の時間との関係を示す図
【図7】ムロの設定温度、バナナの果肉温度の測定値、およびムロの温度の測定値と時間との関係を示す図
【符号の説明】
【0037】
2…ムロ、10…制御装置、4…空調装置、11…入力装置、12…第1温度センサ、13…第2温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御可能な追熟加工用ムロ内で未成熟のバナナの呼吸を活性化させるため、前記ムロ内の温度制御によりバナナの果肉温度を上昇させる呼吸活性化工程を有するバナナの追熟加工方法において、
前記呼吸活性化工程によりバナナの呼吸の活性化を引き出した後に、前記ムロ内の温度制御により果肉温度を降下させる降温工程と、
前記降温工程により果肉温度を降下させた後に、前記ムロ内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる昇温工程と、
果肉温度を前記昇温工程により上昇させた後に、前記ムロ内の温度制御の再開により果肉温度を再度降下させる再降温工程とを有し、
前記昇温工程における果肉温度の最大値を、前記昇温工程の開始時における果肉温度よりも2℃以上高くするバナナの追熟加工方法。
【請求項2】
前記降温工程における果肉温度の最小値を、前記呼吸活性化工程における果肉温度の最大値よりも2℃以上低くする請求項1に記載のバナナの追熟加工方法。
【請求項3】
前記呼吸活性化工程における果肉温度の最大値と前記昇温工程における果肉温度の最大値との差を3℃以内とする請求項1または2に記載のバナナの追熟加工方法。
【請求項4】
前記昇温工程における果肉温度の最大値を、前記呼吸活性化工程における果肉温度の最大値よりも高くする請求項1〜3の中の何れか1項に記載のバナナの追熟加工方法。
【請求項5】
前記降温工程と前記昇温工程との間に、前記ムロ内の温度を制御して果肉温度よりも上昇させる予熱工程を有する請求項1〜4の中の何れか1項に記載のバナナの追熟加工方法。
【請求項6】
前記昇温工程により上昇された果肉温度を降下させるために前記ムロ内の温度制御を再開した後であって、果肉温度を追熟加工の完了時点の最終値まで降下させる迄の間において、前記ムロ内の温度制御を解除した状態で果肉温度をバナナ自身の発熱により上昇させる付加昇温工程を、少なくとも1回以上有し、
果肉温度を前記付加昇温工程により上昇させた後に、前記再降温工程を再開することで前記ムロ内の温度制御により果肉温度を再度降下させる請求項1〜5の中の何れか1項に記載のバナナの追熟加工方法。
【請求項7】
請求項1〜6の中の何れか1項に記載のバナナの追熟加工方法を実施するための制御システムであって、
前記ムロ内の温度を検出可能な第1温度センサと、
バナナの果肉温度を検出可能な第2温度センサと、
設定時間および設定温度を入力可能な入力装置と、
前記第1温度センサの検出値、前記第2温度センサの検出値、前記入力装置から入力される設定時間および設定温度を含む設定条件に基づき、前記ムロ内の冷房および暖房が可能な空調装置を制御可能な制御装置とを備え、
前記制御装置は、予め定めた条件の充足時に前記空調装置の制御を解除し、この制御の解除から設定時間経過するか前記第2温度センサの検出値が設定温度になった場合に前記空調装置の制御を再開する制御プログラムを記憶することを特徴とするバナナの追熟加工用制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−112306(P2009−112306A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267453(P2008−267453)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(507233589)株式会社サミット神戸合同物産 (2)
【出願人】(504175165)住商フルーツ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】