説明

バラスト水の処理方法及び装置

【課題】バラスト水中の微生物を簡単かつ短時間に死滅処理でき、如何なる港にも環境汚染することなく寄港することができるバラスト水の処理方法の提供。
【解決手段】船舶のバラスト水を導出管を介して取り出し、その導出管内のバラスト水に超音波(28〜200KHzが好ましい)を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在ずる微生物を破壊せしめて死滅する。
バラスト水の処理方法において、予めバラスト水に過酸化水素、塩素等を添加混合し、その水中に超音波を照射することも好ましい。
角型又は丸型のバラスト水導出管の管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付け、その導出管中に微生物を含むバラスト水を導入し、導出管の管内のバラスト水中に超音波を照射することにより、大量のバラスト水を短時間で処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水の処理方法に係り、特にバラスト水中に存在する微生物を死滅させて海水等の環境汚染を防止するためのバラスト水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貨物船やタンカーなどが空荷で航行する際、船体を安定させるため、タンクにバラスト水(海水)を積み込むが、寄港先で荷物を積む際、外部に捨てられるので、その水に入っていた生物が本来の生息地でない環境中に広がり、世界各地で移入生物である貝や魚、海草類が繁殖し大きな問題となっている。
従来一般的に水中の微生物を死滅させようとしてとられている技術は、以下のごときものである。
[1]細菌類への対策として塩素滅菌処理がとられているが、滅菌対策としては有効であるが塩素と有機物が結びついて新たにトリハロメタンが生成されることが研究の結果わかってきた。トリハロメタンは発ガン性物質とされているので、この方法はベストの方法ではない。
[2]微生物には水中に浮遊しているSS分(固形分)に付着していることが多いので、凝集剤を用いて沈殿させ脱水処理する方法。
[3]多数の連通細孔を有する膜を使用し、微生物を濾過・除去する方法。
[4]オゾンによる酸化分解、紫外線による酸化分解。
【0003】
これらの方法については、上記[1]は塩素の使用に対する拒否反応は、ますます高まっており、トリハロメタン生成は避けられない。
[2]、[3]、[4]についてはいずれも大量処理には向かない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この船舶の目的地への航行中、海水中には微生物が生息しており、それにより船舶が航行中に繁殖を繰り返し、バラスト水は汚染される。
こうして汚染されたバラスト水を目的地で、そのまま海域等へ廃棄すると寄港地の海水、土壌等を汚染し、生態系を破壊することになる。
そのため、国際海事機関(IMO)は生態系の破壊防止のため国際条約を採択したが、この条約に基づく処理規準は発表され、それによれば動物プランクトン、植物プランクトン、コレラ菌、大腸菌、腸球菌他あらゆる微生物が処理の対象とされている。
すなわち、IMOによるバラスト水処理装置の処理能力基準は、(1)50μm以上の生物(動物プランクトン):10個/m3未満、(2)10〜50μm未満の生物(植物プランクトン):10個/ml未満、(3)コレラ菌:1cfu/100ml未満、大腸菌:250cfu/100ml未満、(4)腸球菌:100cfu/100ml未満、である。
(cfu:colony forming unitの略称:細菌検査の結果に使用される単位で、培地で培養した菌がつくる集団(コロニー)の数。例えば「200cfu/ml以下」とは、「1ml中に200コロニー以下」という意味)
上記基準を達成するバラスト水の処理としては、バラスト水の廃棄処分が寄港地で短時間(1日以内位)にて大量(10万t程度)行われることから、短時間にて大量の処理ができる処理システムを採用しなければならないし、また確実に微生物を死滅させる処理システムでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するものであって、下記方法によりバラスト水の微生物を死滅させるバラスト水の処理方法である。
(1)船舶のバラスト水を導出管を介して取り出し、その導出管内のバラスト水に超音波を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在する微生物を破壊せしめて死滅することを特徴とするバラスト水の処理方法。
(2)船舶のバラスト水を導出管を介して取り出し、その導出管内のバラスト水に超音波を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在する微生物を破壊せしめて死滅する前項(1)記載のバラスト水の処理方法において、予めバラスト水に過酸化水素を添加混合し、その水中に超音波を照射することを特徴とする方法。
【0006】
(3)船舶のバラスト水に10ppm〜1,000ppmの次亜塩素酸ソーダ又は/及び塩素を添加し、その水中に超音波を照射することを特徴とする前記(1)記載のバラスト水の処理方法。
(4)角型又は丸型のバラスト水導出管の管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付け、その導出管中に微生物を含むバラスト水を導入し、導出管の管内のバラスト水中に超音波を照射することにより、水中で生じる超音波の衝撃波により微生物を破壊せしめて死滅することを特徴とするバラスト水の処理方法。
(5)28〜200KHzの範囲から選ばれる各種周波数の複数種を同時にバラスト水中に照射することを特徴とすることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
(6)28〜200KHzの範囲から選ばれる各種周波数を経時的に切り替えて複数種の周波数の超音波を水中に照射することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
(7)28〜200KHzの周波数に代えて1〜10MHzの周波数の超音波をバラスト水中に照射することを特徴とすることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
(8)前記(1)〜(6)いずれか1項に記載の処理されたバラスト水に、1〜10MHzの周波数の超音波を照射することを特徴とするバラスト水の処理方法。
(9)振動子から発生した振動エネルギーをホーンによって収束させ、振動変位を大きくさせた後、微生物を含むバラスト水に超音波を照射することを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
(10)バラスト水を多数の導出管を束ねて構成したハニカム構造の導出管に導き、その中でバラスト水に超音波を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在ずる微生物を破壊せしめて死滅することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
【0007】
(11)管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付けてなる角型又は丸型の管体であって、一端に被処理バラスト水の導入口を有し、他端に処理済みバラスト水の取り出し口を有してなることを特徴とするバラスト水の微生物死滅処理装置。
(12)管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付けてなる角型又は丸型の管体であって、一端に被処理バラスト水の導入口を有し、他端に処理済みバラスト水の取り出し口を有してなるバラスト水の微生物死滅処理装置の多数本を束ねてハニカム構造状に配置してなることを特徴とするバラスト水の微生物死滅処理装置。
【発明の効果】
【0008】
バラスト水を簡単かつ短時間に微生物死滅処理ができるので、如何なる港にも寄港することができ、環境汚染することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について説明する。
まず、超音波について説明すると、(1)超音波は水中や金属などによく伝わる音波などである。音波は波動であり、周波数と振幅によって決まる。振幅は音の強さに関係し、音圧で表される。
(2)超音波の大きな特長の一つにキャビテーション効果がある。50KHzの超音波を水中に照射したとき即1気圧(10万パスカル)以上になり、圧力が小さくなる負圧の時は真空(ゼロ気圧の空洞)になり、媒質が気化し、気泡が発生し、このような激しい正圧と負圧のはげしい繰り返しにより、媒質が引きちぎられ空洞が発生し、空洞がつぶれる時、衝撃波が発生し、その圧力は数百〜数千気圧になり、温度も4000℃以上といわれているが、気泡発生からつぶれる迄の時間は0.1マイクロ秒(1000万分の1秒)程度である。この時50キロヘルツの場合1秒間に50,000回上下の方向に振動し、その振動の距離は0.02mm(20μm)となり、上側に10μm、下側に10μm動き、この時の最大速度は、3.14m/秒となる。
振幅は、数十ミクロン(μm)と小さいが、加速度が大きくエネルギー密度は非常に大きい。圧電振動子が往復運動折り返し地点での加速度は重力加速度Gの約10万倍となる。
振幅は数10ミクロンと小さくても加速度が大きいので、音響エネルギー密度は非常に高いものになる。
(3)超音波を水中に照射する場合、水中でのエネルギーの減衰は空気に比べてはるかに小さいが、それでも水中にて減衰するので減衰を小さくし音響エネルギー密度を一定以上保持するためには径が30cm以下の角又は円状のパイプに多くの振動子を取り付け、そのパイプの中に微生物を含む水を通し、水が超音波の照射を受けている時間を10秒以上とすれば、キャビテーションが十分に働き、水に含まれる微生物のプランクトン、原虫、真菌、細菌、ウィルスは、破壊され分解・殺菌されて死滅する。
このパイプに取り付ける振動子の周波数は、例えば28KHz、50KHz、100KHz、200KHzの4種類とし、周波数によりその効果がおよぶ定在波を移動させるには、これらの異なる周波数のものを高速で切り替える方法が必要になる。
なお、微生物の種類によりエネルギーが大きい28KHzのみで超音波照射を行うこともある。また、必要により振動エネルギーをホーンによって収束させ、振幅を大きくさせ強力なエネルギーを照射する方法がある。
(4)過酸化水素水・次亜塩素酸ソーダ・塩素等はいずれも、酸化剤としての力をもっているが、超音波との併用により、僅かの添加量にて高い効果が可能となる。
【実施例】
【0010】
本発明の実施例のバラスト水超音波処理装置の一例を図1により説明する。
すなわち、図1の断面図に示すごとく、ステンレス製の角パイプ1の壁面に超音波振動子2a、2b、2c・・を上下に、かつ間隔を置いて多数個取り付ける。
なお、超音波振動子2aは28KHz発振のもの、2bは50KHz発振のもの、2cは100KHz発振のものを示す。
この超音波照射処理パイプ100の入口10からバラスト水を導入し、超音波照射を行った後、出口20から微生物が死滅処理されたバラスト水が放出される。
本装置では、種々の周波数の超音波が照射されるので、大小各種微生物を効率的に死滅させることができる。
【0011】
図2に示すものは、限られた時間内に大量の処理を行うためのもので、その仕様をハニカム構造型としたものである。
図2(正面図)におけるハニカム構造のバラスト水超音波処理装置Aは、超音波照射処理パイプ100a、100b、100c・・が支持フレーム3に挿入されて上下左右に隣接・集束されてなるものである。
振動子2a、2b、2c・・を取り付けた角又は丸パイプにおいて、微生物を含む水が本パイプの中を通過する場合、10秒以上の時間を保持することとする。
図1に示す装置を用いるバラスト水の処理においては、その仕様を下記により算定設計した。
〈バラスト水処理能力50,000t/8h〉とすると、
・50,000t/8h→1.736t/秒の処理となる。
・ステンレス製角パイプ径を300mmとすると
0.3m×0.3m=0.09m2 (断面積)
角パイプの長さを6mとすると
0.09m2×6m=0.54m3 (容積)
・水の容量は1.736t/秒であり10秒間保持する場合は17.36tとなる。
17.36t÷0.54m3=32本/パイプの数
図2のパイプの数は36本であるので、この図の装置の容量で処理は可となる。
・よって、1秒間に1.736tの水をこのパイプに流せば10秒後には処理が終わり、このパイプから同じ量の処理後の水が排出されることとなる。
・振動子は28KHz〜200KHz迄を長さ6mの角パイプに12個取り付け、高周波電流により振動させるセラミック製のものを使用する。
上記図2のハニカム構造のバラスト水超音波処理装置によるバラスト水の処理結果によれば、前記国際海事機関(IMO)基準を十分に満たす微生物が死滅処理されたバラスト水が得られた。
なお、バラスト水への過酸化水素、塩素等の添加は、本装置に入る前に事前に添加し、攪拌した後本装置に導入して、超音波を照射する。
【産業上の利用可能性】
【0012】
バラスト水の廃棄による環境汚染が防止できるので、寄港地を選ばず何処へでも自由に寄港できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】バラスト水超音波照射処理装置の一例の断面図。
【図2】ハニカム構造型としたバラスト水超音波処理装置の正面図。
【符号の説明】
【0014】
1:ステンレス製の角パイプ、
2(2a、2b、2c・・):超音波振動子、
3:支持フレーム、
10:バラスト水の入口、
20:超音波照射処理されたバラスト水の出口、
100(100a、100b、100c・・):超音波照射処理パイプ、
A:ハニカム構造のバラスト水超音波処理装置、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラスト水を導出管を介して取り出し、その導出管内のバラスト水に超音波を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在する微生物を破壊せしめて死滅することを特徴とするバラスト水の処理方法。
【請求項2】
船舶のバラスト水を導出管を介して取り出し、その導出管内のバラスト水に超音波を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在する微生物を破壊せしめて死滅する請求項1記載のバラスト水の処理方法において、予めバラスト水に過酸化水素を添加混合し、その水中に超音波を照射することを特徴とする方法。
【請求項3】
船舶のバラスト水に10ppm〜1,000ppmの次亜塩素酸ソーダ又は/及び塩素を添加し、その水中に超音波を照射することを特徴とする請求項1記載のバラスト水の処理方法。
【請求項4】
角型又は丸型のバラスト水導出管の管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付け、その導出管中に微生物を含むバラスト水を導入し、導出管の管内のバラスト水中に超音波を照射することにより、水中で生じる超音波の衝撃波により微生物を破壊せしめて死滅することを特徴とするバラスト水の処理方法。
【請求項5】
28〜200KHzの範囲から選ばれる各種周波数の複数種を同時にバラスト水中に照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項6】
28〜200KHzの範囲から選ばれる各種周波数を経時的に切り替えて複数種の周波数の超音波を水中に照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項7】
28〜200KHzの周波数に代えて1〜10MHzの周波数の超音波をバラスト水中に照射することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1項に記載の処理されたバラスト水に、1〜10MHzの周波数の超音波を照射することを特徴とするバラスト水の処理方法。
【請求項9】
振動子から発生した振動エネルギーをホーンによって収束させ、振動変位を大きくさせた後、微生物を含むバラスト水に超音波を照射することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項10】
バラスト水を多数の導出管を束ねて構成したハニカム構造の導出管に導き、その中でバラスト水に超音波を照射し、水中で生じる超音波の衝撃波によりバラスト水中に存在ずる微生物を破壊せしめて死滅することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項11】
管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付けてなる角型又は丸型の管体であって、一端に被処理バラスト水の導入口を有し、他端に処理済みバラスト水の取り出し口を有してなることを特徴とするバラスト水の微生物死滅処理装置。
【請求項12】
管壁に多数個の超音波振動子を線状配置又は面状配置に取り付けてなる角型又は丸型の管体であって、一端に被処理バラスト水の導入口を有し、他端に処理済みバラスト水の取り出し口を有してなるバラスト水の微生物死滅処理装置の多数本を束ねてハニカム構造状に配置してなることを特徴とするバラスト水の微生物死滅処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−7184(P2006−7184A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192116(P2004−192116)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(502191365)株式会社 ケイ・アイシステム (4)
【Fターム(参考)】