説明

バラスト水中の微生物検出方法および装置

【課題】船舶に注入したバラスト水に対して水中の微生物を死滅させるための処理をした後のバラスト水中の残存微生物を効果的に検出することができる方法および装置を得る。また、バラスト水に対する死滅処理条件を決定するために処理前の海水中の微生物の数を効果的に検出することができる方法および装置を得る。
【解決手段】生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を目開きの異なる3種のフィルタを直列に配置してなるフィルタユニットに通水する工程と、前記フィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる工程と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に注入したバラスト水に対して水中の微生物(プランクトン、バクテリア等)を死滅させるための処理をした後のバラスト水中の残存微生物を検出するための方法および装置に関する。
また、バラスト水に対する死滅処理条件を決定するために処理前の海水中の微生物の数を検出するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は船内に大量のバラスト水を注入して航行するが、このバラスト水は貨物を搭載する際に海洋投棄される。このため、バラスト水を注入した船舶出港海域の水生生物が貨物搭載地の海域に拡散し、これらが異常繁殖して生態系が変化したり、海洋汚染を引き起こしたりする可能性がある。
このような事態を防止するために、国際海事機構(IMO(International Maritime Organization))によって、バラスト水及び沈殿物の排出規制及び管理に関する条約が採択されるに至っている。このバラスト水及び沈殿物の排出規制及び管理に関する条約においては、バラスト水中の生物の死滅処理を行って、バラスト水排出前には以下に示すバラスト水排出基準を満足していることを確認することが要請される。
(バラスト水排出基準)
・生きている生物(50μm以上)・・・・・・・10個体/m以下
・生きている生物(10μm〜50μm以上)・・・ 10個体/ml以下
・大腸菌(約1μm)・・・・・・・・・・・ 250cfu/100ml以下
・腸球菌(約1μm)・・・・・・・・・・・ 100cfu/100ml以下
・コレラ菌(約1μm)・・・・・・・・・・・ 1cfu/100ml以下
【0003】
ところで、プランクトンや細菌などの微生物の検出方法としては以下に示すようなものが知られている。
(1)プランクトンの計数
プランクトンの計数は、通常プランクトンネットで捕集・濃縮した後、顕微鏡観察で計数する方法が取られている。
また、自動計測装置としては、浮遊するプランクトンの画像を解析するオプティカルプランクトンカウンターやビジュアルプランクトンレコーダーが開発されているが、懸濁粒子とプランクトンの判別が困難であったり、粒子の重なりにより過小評価になったり、死骸を計数して過大評価になるという問題点がある。
【0004】
(2)微生物検出
微生物検査は、臨床検査や食品検査において、試料中の微生物を正確かつ迅速に検出することを目的に開発されてきた。微生物検査で一般的に行なわれているのは培養検査法であるが、時間短縮ならびに簡易化のために以下に示すような高感度な迅速検査法が開発されてきた。
ATP分解酵素液に浸漬した後乾燥したろ過膜で微生物を含む検体液をろ過し、その検体中に含まれている微生物をろ過膜上に捕捉し、その上から微生物中の発光成分を抽出するための液体抽出試薬と発光試薬を霧状に噴霧して発光させ、その発光点数を、計数測定装置を用いて測定する方法(特許文献1参照)。
試料に存在する目的微生物を特異的に捕捉する物質を結合した基板材を備え、該基板材上に捕捉された目的微生物を光学的に検出する装置からなる微生物の迅速検出装置(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−137293
【特許文献2】特開2005−172680
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バラスト水の微生物検査では、プランクトンや細菌が混在するバラスト水試料に対して、50μm以上の主に動物プランクトン、10〜50μmの主に植物プランクトン、1μm程度の細菌という3段階の大きさの微生物に対して、それぞれ異なる許容残存数基準が適用される。
つまり、50μm以上のプランクトンの場合には1m当りの個体数を問題とするのに対して、10〜50μmのプランクトンでは1ml当りの個体数を、細菌類では100ml当りのcfu数を問題としており、その基準となる水量が10〜10倍の差がある。
また、バラスト水の供給時に生物死滅処理を行う場合において、その処理条件を決定するために海水中の微生物数を検出する場合には短時間で検出する必要がある。
このように、バラスト水の微生物検査には上記のように、大きさの異なる複数種類の検出対象に対して異なる許容残存数基準が適用されること、および迅速処理が要求されること、という2つの大きな特殊性がある。
このような特殊性を有するバラスト水の微生物検査に対して前述した従来の検査方法または装置を適用した場合には以下のような問題がある。
【0006】
プランクトンの計数に通常使われているプランクトンネットで捕集したプランクトンを顕微鏡観察で計数する方法は、目視観察を人手に頼るため熟練した技術を要する上、莫大な時間がかかる。したがって、細菌類の計数ができず、また迅速処理を要求されるバラスト水検査には適用できない。
また、微生物検査で一般的に行なわれているバクテリアの培養検査法は、検査に熟練を要する上に、培養時間を必要とするために、検体入手後検査結果が判明するまでに膨大な時間を必要とする。したがって、プランクトン計数方法と同様にバラスト水検査には適用できない。
【0007】
また、特許文献1に開示された微生物の迅速検査法では、細菌の検出は行えるが、プランクトンの検出は細胞の大きさの違いや細胞膜の構造の違いから困難である。
また、特許文献2に開示された微生物の迅速検出装置を用いる臨床検査や食品検査の対象は主に病原性バクテリアであり、バラスト水規制対象であるプランクトンの迅速検査には適用が困難である。
以上のように、従来のいずれの方法でも、上記のような特殊性のあるバラスト水中の生物の検出を効果的に行うことができなかった。
【0008】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、船舶に注水したバラスト水に対して水中の微生物を死滅させるための処理をした後のバラスト水中の生存微生物を効果的に検出することができる方法および装置を得ることを目的としている。
また、バラスト水に対する死滅処理条件を決定するために処理前の海水中の微生物の数を効果的に検出することができる方法および装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るバラスト水中の微生物検出方法は、生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を目開きの異なる3種のフィルタを直列に配置してなるフィルタユニットに通水させる工程と、前記フィルタに捕集され生存している微生物の活性による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる工程と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
目開きの異なる3種のフィルタを直列に配置してなるフィルタユニットに通水して海水中の微生物を捕捉するようにしているので、段階的なサイズごとの微生物の捕捉を実現でき、その結果、サイズごとの基準で規制された許容残存基準を満たしているかどうかを迅速に測定できる。
また、フィルタに捕捉され生存している微生物の活性による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させ検出するようにしているので、生存している微生物を迅速に計数することができる。
【0011】
上記目開きの異なる3種のフィルタの目開きは、例えば通水の上流側から50μm、10μm、0.5μmとする。このような3種のフィルタの目開きとすることにより、50μm以上の大きさの主に動物プランクトン、10μm〜50μmの大きさの主に植物プランクトン、約1μmの大きさの細菌をそれぞれ捕集することができ、またバラスト水の許容残存数基準に合わせた適切な水量をそれぞれのフィルタに通水することができる。
生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させることは、詳しくは微生物の生体成分を染色し発色させること、微生物の生体成分を染色し蛍光を発生させること、微生物の生体成分との反応により蛍光を発生する色素で染色し蛍光を発生させること、微生物が保有する電子還元力により分解され蛍光を発生する色素で染色し蛍光を発生させることおよび微生物が保有するATP(アデノシン3リン酸)により発光する試薬を添加し発光させることのうちいずれかを行えばよく、対象とする微生物に適合した手法を選択する。
【0012】
(2)また、生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水をろ過して濃縮する工程と、濃縮されたバラスト水または海水を目開きが25〜100μmのフィルタに通水する工程と、前記濃縮工程でろ過されたバラスト水または海水、または生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタに通水する工程と、前記目開きが25〜100μmのフィルタ及び目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる工程と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する工程と、を備えたものである。
【0013】
バラスト水中の微生物の許容残存数基準は、50μm以上のプランクトン、10〜50μmのプランクトン、1μm程度の細菌という3段階の大きさの微生物に対して、それぞれ異なる水量に対する許容残存数が定められており、50μm以上のプランクトンの場合には1m当りの個体数を問題とするのに対して、10〜50μmのプランクトンでは1ml当りの個体数を、細菌類では100ml当りのcfu数を問題としている。
生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水をろ過して濃縮して、濃縮されたバラスト水または海水を目開きが25〜100μmのフィルタ、より好ましくは50μmのフィルタに通水し50μm以上のプランクトンを捕捉することにより、10〜50μmのプランクトンや細菌類の検出にくらべて大量の水を通水しなければならない50μm以上のプランクトンの検出を効率的に行うことができる。目開きが50μmより大きいフィルタを用いる場合には、フィルタを通過した50μm以上のプランクトンを目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタにより捕捉するようにする。
【0014】
(3)また、本発明に係るバラスト水中の微生物検出装置は、目開きの異なる3種のフィルタを直列に配置してなるフィルタユニットと、該フィルタユニットに対して目開きの大きいフィルタ側から所定量の生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を流す手段と、各フィルタに対して当該フィルタごとに決められた所定量の水量が流されたときに当該フィルタを取り出すフィルタ取出し機構と、取り出されたフィルタに捕集され生存している微生物の活性による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる手段と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によって海水中の微生物数を計数する手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
上記目開きの異なる3種のフィルタの目開きは、例えば通水の上流側から50μm、10μm、0.5μmとする。このような3種のフィルタの目開きとすることにより、50μm以上の大きさの主に動物プランクトン、10μm〜50μmの大きさの主に植物プランクトン、約1μmの大きさの細菌をそれぞれ捕集することができ、またバラスト水の許容残存数基準に合わせた適切な水量をそれぞれのフィルタに通水することができる。
【0016】
(4)また、生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水をろ過して濃縮する手段と、濃縮されたバラスト水または海水を通水する目開きが25〜100μmのフィルタと、前記濃縮手段でろ過されたバラスト水または海水、または生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を通水する目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタと、各フィルタに対して当該フィルタごとに決められた所定量の水量が流されたときに当該フィルタを取り出すフィルタ取出し機構と、取り出されたフィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる手段と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0017】
(5)また、上記(3)または(4)に記載のものにおいて、計数した微生物数を予め設定された基準値と比較して判定する判定手段を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、目開きの異なる3種のフィルタに通水して海水中の微生物を捕捉するようにしているので、段階的なサイズごとの微生物の捕捉を実現でき、その結果、サイズごとの基準で規制された許容残存基準を満たしているかどうかを迅速に測定できる。
また、フィルタに捕捉され生存している微生物の活性による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させ検出するようにしているので、生存している微生物を迅速に計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施の形態に係るバラスト水中の微生物検出装置の説明図であり、バラスト水に対して生物死滅処理を行った後のバラスト水を対象試料としている。
本実施の形態に係るバラスト水中の微生物検出装置は、目開きが50μm、10μm、0.5μmの各フィルタ1,3,5を直列に配置してなるフィルタユニット7と、該フィルタユニット7に対して50μmのフィルタ側から所定量のバラスト水を流す送水手段9と、各フィルタ1,3,5に対して当該フィルタごとに決められた所定量の水量が流されたときに当該フィルタを取出すフィルタ取出し機構11と、取出されたフィルタに捕集され生存している微生物の活性による蛍光を発生させるために微生物を染色する染色手段13と、染色された微生物に蛍光を発生させるために光を照射する光照射手段15と、光照射によって発する蛍光を検出して画像解析する光検出・画像解析手段17と、光検出・画像解析手段17によって解析された結果を予め設定した許容残存数基準に照らして基準を満たしているかどうかを判断する判定手段19と、を備えている。以下、各構成をさらに詳細に説明する。
【0020】
1.フィルタユニット
フィルタユニット7は目開きが50μm、10μm、0.5μmの各フィルタ1,3,5を直列に配置してなる。目開き50μmのフィルタ1は大きさが50μm以上の主として動物プランクトンを捕捉し、目開き10μmのフィルタ3は大きさが10μm 〜50μmの主として植物プランクトンを捕捉し、目開き0.5μmのフィルタ5は大きさが約1μmの主として細菌を捕捉する。
各フィルタは目開きが50μm、10μm、0.5μmの順でバラスト水の流れ方向上流側から配置されており、バラスト水に含まれる微生物のうち大きいものから順に捕捉されるようになっている。このように配置することで、目の細かいフィルタの目詰まりを防止でき、バラスト水及び沈殿物の排出規制及び管理に関する条約によって微生物の段階的なサイズごとの許容残存数基準により規制された微生物のサイズ毎の捕捉を効果的に実現できる。
【0021】
なお、前述したように、バラスト水及び沈殿物の排出規制及び管理に関する条約においては、50μm以上の微生物は1m当りの個体数を基準とし、また10μm〜50μmの微生物は1ml当りの個体数を基準とし、さらに約1μmの細菌は100ml当りのcfuを基準としている。
このように、各フィルタで捕捉される微生物はその許容残存数基準となる水量が異なっているので、目開きが50μm、10μm、0.5μmというように下流側に行くにしたがってフィルタを通過する水量が少なくなるように調整するのが望ましい。
このようにフィルタを通過する水量を調整することで、通過水量の少ないフィルタを極端に早く取り出す必要がなくなる。
【0022】
なお、各フィルタとしては、微生物が捕捉できればよく、親水性ろ過膜(たとえば親水性ポリテトラフルオロエチレンなど)や疎水性ろ過膜(たとえばPVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)など)などが挙げられる。ろ過膜を枠体に固定したものや、補強ネットで固定したものも用いることができる。
【0023】
2.送水手段
送水手段9はバラストタンク8に貯留されている生物死滅処理済みのバラスト水を汲み上げ、フィルタユニット7に所定の流量のバラスト水を送水するものであり、本例では送水ポンプによって実現されている。フィルタユニット7に送水する流量を計測する流量計、送水流量を調整する調整弁を設けることによりフィルタユニット7に送水する流量を調整し設定することができる。
また、バラストタンクに注水する前に、あるいはバラストタンクからバラスト水を汲み上げて生物死滅処理を行う生物死滅処理装置の下流側から生物死滅処理済みのバラスト水をフィルタユニット7に送水するようにしてもよい。
【0024】
3.フィルタ取出し機構
フィルタ取出し機構11は、フィルタユニット7の目開きが50μm、10μm、0.5μmの各フィルタ1,3,5のそれぞれに当該フィルタごとに決められた所定量のバラスト水が送水された時にフィルタ1,3,5をフィルタユニット7から取出し、染色を行う区画と微生物による蛍光を検出する区画に移動させるものである。フィルタ取出し機構11は、上記の機能を有する機構であれば形態を問わず、手動または自動いずれでもよい。
【0025】
4.染色手段
染色手段13はフィルタに捕捉したバラスト水中の生存している微生物の活性による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させるために染色液によって微生物を染色する。
染色液による微生物の染色方法としては、フィルタに染色液を滴下してもよいし、超音波式噴霧器などで染色液をフィルタに噴霧してもよいし、染色液中にフィルタを浸漬してもよいし、あるいはろ紙や寒天に染色液を染み込ませた上にフィルタを載せてもよい。
【0026】
生存している微生物の活性による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させることは、詳しくは微生物の生体成分を染色し発色させること、微生物の生体成分を染色し蛍光を発生させること、微生物の生体成分との反応により蛍光を発生する色素で染色し蛍光を発生させること、微生物が保有する電子還元力により分解され蛍光を発生する色素で染色し蛍光を発生させることおよび微生物が保有するATP(アデノシン3リン酸)により発光する試薬を添加し発光させることのうちいずれかを行う。対象とする微生物に適合した手法を選択し、対応する染色液を用いる。以下各手法と染色液について説明する。
【0027】
1)微生物の生体成分を染色するもの
(1)可視光で検出する色素による染色
例えば、アミドブラック、ギムザなどの色素で染色し、染色された微生物を可視光にて検出する。
(2)蛍光色素による染色
例えば、アクリジンオレンジ、DAPI、ローダミンなどの蛍光色素で染色し、レーザの照射で発した蛍光を検出する。
このとき、細胞膜透過性の優れた蛍光色素(SYTO9など)で染色することにより、細胞膜の強固な生存している細胞のみに蛍光発色させ、同時に細胞膜透過性の劣る蛍光色素(PIなど)で染色することにより、生細胞と死細胞を染色し分けることもできる。
【0028】
2)生きている(活性のある)微生物の生体成分の反応により蛍光または発光させるもの
(1)微生物が細胞内に保有するエステラーゼにより分解され蛍光を発する色素(たとえばFDA(Fluorescein diacetate)など)で染色する。エステラーゼ活性を有する生細胞のみがレーザ照射により緑色蛍光を発色する。
(2)微生物が細胞内に保有する電子還元力で分解され蛍光を発する色素(CTC(Cyanoditoyl tetrazolium chloride)など)で染色する。呼吸還元力を有する生細胞のみがレーザ照射により赤色蛍光を発色する。
(3)微生物が細胞内に保有する内ATP(アデノシン3リン酸)に発光試薬(たとえばルシフェリンとルシフェラーゼ)を添加することで生物発光させる。生きている生物のみを生物発光させることができる。
【0029】
なお、フィルタに捕捉された微生物と染色液との反応前に、適当な抽出剤を用いて微生物の生体成分を抽出することにより、検出感度を向上させることもできる。抽出剤としては、エタノール、界面活性剤、トリクロロ酢酸などが使用できる。
【0030】
以上のようにバラスト水中の生存している微生物の染色には種々のものが考えられる。しかし、前述のように、バラスト水排出基準は、動物プランクトン、植物プランクトン、細菌を対象としており、大きさや生態が大きく異なるため、これまで細菌に適用されていた染色方法をそのまま適用することはできない。例えば、膜構造が強固で膜透過性の低い生存動物プランクトンの検出には植物プランクトンや細菌とは異なる染色方法が必要となる。
しかし、大きさや生態が異なる生物に対して各生物に対応した染色方法を複雑に組み合わせて用いることは煩雑である。
【0031】
そこで、発明者は鋭意研究を重ね、大きさや生態が大きく異なる生物に対するバラスト水排出基準の判定にはエステラーゼ活性を利用した染色が最も好適であることを見出した。その理由は以下の通りである。
生物が生成する酵素エステラーゼに反応する染色剤は、生細胞内に取り込まれるとエステラーゼによって蛍光性物質に分解される。そして、その蛍光性物質は生細胞では膜構造が強固で透過性が低いので細胞膜から透過して外に流出することなく細胞内に保持され、レーザの照射により蛍光を検出できるのである。
以下、より具体的に説明する。
【0032】
エステラーゼ活性の基質となる染色剤としてはFDA(Fluorescein
diacetate)が挙げられる。この染色剤を膜構造が強固で膜透過性の低い生存動物プランクトンの細胞内に取り込まれるようにするためには、染色剤のカルボキシル基のエステル化により膜透過性を向上させればよい。
膜透過性を向上させた染色剤は、細菌の細胞内はもとより、膜構造が強固な生細胞を有する動物プランクトンや植物プランクトンにも浸透する。したがって、生物の生死を問わず動物プランクトン、植物プランクトン、細菌の細胞内に浸透する。
そして、染色剤が生細胞に浸透した場合には、細胞内でエステラーゼによって蛍光性物質であるFluoresceinに分解される。生細胞は膜構造が強固なため透過性が低く、生じた蛍光性物質Fluoresceinは細胞外に流出せず、Fluoresceinの極性により生細胞内に蓄積される。
一方、死滅した細胞にもFDAが透過するが、エステラーゼ活性が失われている死滅細胞では蛍光性物質であるFluoresceinに分解されることはない。
したがって、FDA染色を生物に施して波長488nmの青色光で励起した場合、生細胞ではFluorescein由来の波長530nmの緑色蛍光を発し、死細胞では蛍光性物質が生成されず、かつ、染色剤のFDA自身は非蛍光性であるため蛍光発色が認められないため、生死判別が行なえる。
さらに、生細胞では前述したように、膜構造が強固なため透過性がなく生じた蛍光性物質Fluoresceinは生細胞内に蓄積されるので、蛍光検出の精度が高くなる。
なお、FDAの染色条件は10μM濃度溶液を用い、常温で2分間保持する処理で十分で、さらに濃度を下げることも可能である。
【0033】
FDA以外のエステラーゼ活性を測定する染色剤としては、カルセインAM、Carboxyfluoresceindiacetate(CFDA)、BCECF/AM、
CFSE、CytoRedなどが挙げられる。カルセインAM、CFDA、BCECF/AM、CFSE、CytoRedの蛍光特性は、励起波長/蛍光波長がそれぞれ490/515、495/520、590/526、496/516、535/590nmである。
【0034】
細菌の生死判別に用いられている従来の染色剤では、動物プランクトンのように細胞膜の厚い生物には染色剤が膜を透過しないという問題点があったが、上記のように適した染色剤を選択することにより、動物プランクトンの生死判別が可能となる。さらに、動物プランクトンをフィルターで捕集して濃縮した試料とすることにより、高濃度の染色剤を少量使用して染色性を高めることができ、生死判別がより精度よく可能となる。また、染色剤の使用量を過大にせずに透過、染色することができる。
【0035】
次に細菌の染色に関して、従来方法では染色が困難であったことについて説明する。
微生物の染色において留意すべき点は、細菌の生活環それぞれのステージにおいて染色のされ方が異なる点である。通常の細菌の生活環は、対数増殖期、定常期、死滅期であり、対数増殖期と定常期にある細菌は染色されやすく、またエステラーゼ活性を有するため蛍光を発するが、死滅期の細胞は染色されない。したがって、このような通常の細菌は生死判別が比較的容易である。
【0036】
一方、一部の細菌の生活環は対数増殖期、定常期、芽胞形成期、死滅期に分けられる。対数増殖期、定常期にある栄養型細胞は芽胞を形成しない細菌と同様に強く染色される。死滅期の細胞はエステラーゼ活性を失っているため染色されない。したがって、このような一部の細菌については、対数増殖期、定常期、死滅期にある場合には、生死判別が比較的容易である。問題は芽胞形成期にある細菌である。
【0037】
芽胞とは一部の細菌が形づくる極めて耐久性の高い細胞構造である。芽胞を作る能力を持った細菌が栄養や温度などの環境が悪い状態に置かれたりその細菌に対して毒性を示す化合物と接触したりすると、細菌細胞内部に休眠芽胞が形成される。発芽期の芽胞はエステラーゼ活性を有しFDA染色で緑色蛍光を発するが、休眠芽胞では染色剤が休眠芽胞に浸透しにくいため蛍光が弱い。
このため、従来の方法では、休眠芽胞に対する生死判定が困難であった。
【0038】
そこで、このような休眠芽胞に対しても、前述した膜透過性の優れた染色剤を使用することにより、前述した動物性プランクトンの場合と同様に、生死判定が可能になる。なお、膜透過性の優れた染色剤を用いることに代えて、前処理で膜の透過性を増加させる、バラスト水殺菌処理でキャビテーションなどにより細胞膜の構造を緩くしてから染色する、ことなどによっても休眠芽胞細胞に対しても生死判別染色が可能になる。もっとも、膜透過性の優れた染色剤を用いることに加えてこのような処理を行うようにしてもよい。
【0039】
以上のように、膜透過性を向上させたエステラーゼ活性に反応する染色剤を用いることにより、動物プランクトン、植物プランクトン、細菌ともに生きている細胞を染色・検出することが可能である。従来の方法では、海水のように多種の微生物が異なる濃度で存在する場合、一つの染色方法で生きている生物を検出することは困難であったが、本染色方法によると、膜透過性に優れた染色剤の選定により、一種類の染色剤による染色で生死判別検出が可能になった。
【0040】
5.光照射手段
光照射手段15は染色液を塗布したフィルタに蛍光を発生させるために光、例えばレーザ光を照射する。また励起光を照射して蛍光を発生させるための光を照射することもある。
もっとも、上記染色手段13の説明における2)(3)で述べたATP(アデノシン3リン酸)に発光試薬(たとえばルシフェリンとルシフェラーゼ)を添加する方法の場合には生物発光のため蛍光を発生させるための光の照射は必要ない。
【0041】
6.光検出・画像解析手段
光検出・画像解析手段17は、フィルタ上の微生物による発色、発光または蛍光をCCDイメージセンサ等の撮像器18により撮像して、光学的に画像情報として検出し、画像解析して微生物数を計数する。
夾雑物が存在する場合は、画像解析の過程で微生物の大きさや形を識別し、それ以外の形状を持つ夾雑物を排除するようにする。
なお、画像解析手段17は既存の生物発光画像解析システムを用いることができる。
【0042】
7.判定手段
判定手段19は光検出・画像解析手段17によって解析された生存微生物の数と、予め設定された許容残存数基準値とを比較して、生存微生物数が基準値以下の場合には合格と判定し、生存微生物数が基準値よりも多い場合には不合格と判定する。そして、合格または不合格の場合にその旨を図示しない表示手段に表示する。表示手段としてはパーソナルコンピュータの画面に合格、不合格の文字で表示してもよいし、あるいは合格の場合には緑色のランプを点灯し、不合格の場合には赤色のランプを点灯させるようにしてもよい。
【0043】
以上のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
まず、バラストタンク8に注水する海水に対して微生物の死滅処理を行う。死滅処理方法としては、殺菌剤を添加する方法、フィルタろ過と殺菌剤添加とキャビテーション処理を組合せる方法でもよい。
【0044】
微生物の死滅処理を行った後バラストタンクに貯留されたバラスト水を、送水ポンプ9を稼動してフィルタユニット7に送水する。フィルタユニット7には前述したように目開きが50μm、10μm、0.5μmの3種類のフィルタが設置されており、これらに所定の水量が通水された時点でそれぞれのフィルタを取り出すようにする。
フィルタの取出しは、フィルタ取出し機構11によって行う。
フィルタ取出し機構11が手動の場合には、フィルタユニット7への送水量を確認して人力によって各フィルタを取り出す。
また、フィルタ取出し機構11が自動の場合には、各フィルタに所定の水量が通水された時点で各フィルタを自動的に取り出す。
【0045】
取り出されたフィルタに、例えば超音波式噴霧器などの染色手段13によって染色液を噴霧する。そして、染色液が噴霧されたフィルタを光検出・画像解析手段17の撮像器18の視野内に設置し、レーザ光線を照射して微生物の活性により蛍光を発生させ、蛍光を撮像して画像情報として取り込み、画像解析によって微生物数を計数する。
【0046】
以上のように、本実施の形態においては、目開きが50μm、10μm、0.5μmのフィルタを直列に配置してなるフィルタユニット7を用いているので、バラスト水及び沈殿物の排出規制及び管理に関する条約で段階的なサイズごとの許容残存数基準により規制された微生物のサイズ毎の捕捉を実現でき、その結果、上記の条約で規制された許容残存数基準を満たしているかどうかを迅速に測定できる。
また、フィルタに捕捉された微生物からの発色、発光または蛍光をCCDイメージセンサ等で光学的に検出し、画像解析するようにしているので、生存している微生物を迅速に計数することができる。
【0047】
なお、上記の実施の形態においては、微生物の死滅処理を行ったバラスト水を試料としてバラスト水中の残存微生物の検出を行う例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、微生物の死滅処理前の海水を試料として海水中に生存する微生物をそのサイズごとに測定する場合にも用いることができる。この場合には、海水中に生存する微生物のサイズごとの生存数に適合させて微生物死滅処理の方法や条件を最適なものに選択することが可能になる。
【0048】
採取海水と死滅処理後の海水を、目開きが50,10,0.5μmの3種類のフィルタを有するフィルタユニットに通水し、各フィルタ上に捕集された微生物にFDA溶液を添加して30℃で30分間染色し、励起光として460nm、蛍光のため530nmの波長光を照射し、発生した蛍光をCCDイメージセンサで画像情報として取り込み、微生物数を計数した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示されるように、処理前の海水と死滅処理後の海水中の微生物を短時間で検出できることを確認した。そして、死滅処理により、バラスト水排出基準を充足する程度にまで死滅処理されていることを確認できた。
【0051】
図2はフィルタユニットとフィルタ取出し機構を具体化した一例の説明図であり、図2(a)が全体構成の説明図、図2(b)が図2(a)の矢視A―A断面図である。なお、図1に示したものと同一機能を有する部分の一部には同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
図2に示した例では、一つのフィルタごとにフィルタ取出し機構71を設けたものであり、図2においては目開き50μmのフィルタ1についてのみ示しているが、他のフィルタ3、5(図1参照)についても同様の機構である。
フィルタ取出し機構71は、中心部に回転軸73を有し、該回転軸73を中心として回転可能に設置された円板75と、円板75をギア77を介して回転駆動するモータ79とを備え、円板75はフィルタ1が着脱可能に設置できる設置部を備えている。
【0053】
また、この例ではバラストタンク8(図1参照)のバラスト水を直接フィルタ1に送るのではなく、所定量のバラスト水をバラスト水補助タンク81に貯留し、バラスト水補助タンク81のバラスト水をフィルタ1に送水するようにしている。
バラスト水補助タンク81の下流側の送水ラインについて説明すると、バラスト水補助タンク81に接続された主送水管83に送水ポンプ85が設置され、送水ポンプ85の下流側に逆U字状のバイパス管87が接続され、このバイパス管87の途中にフィルタ1を着脱できるようにしている。つまり、円板75に設置されたフィルタ1と接合されるバイパス管87はその一部が上下動可能な移動管89になっており、移動管89を上下動することでフィルタ1とバイパス管87とを接続したり接続を切り離したりできるようになっている。
バイパス管87の両端部には入り側バルブ91と、出側バルブ93が設けられ、主送水管83におけるバイパス管87との2つの接続部の中間にもバルブ95が設けられている。
【0054】
上記のように構成された装置において、バイパス管87に送水を行う時は移動管89を押し上げることにより、フィルタ1とバイパス管87との隙間を閉じた状態にし、入り側バルブ91、出側バルブ93を開にしてフィルタ1に通水する。フィルタ1に所定量のバラスト水を通水した後、生存生物の検出を行なう際には、送水ポンプ85を停止し、入り側バルブ91を閉じる。この状態で移動管89を下げてバイパス管87とフィルタ1の接続を切り離す。そして、モータ79を駆動させ、染色試薬注入位置に移動する(図2(b)参照)。ここでは前述した染色が行われ、その後さらに回転板73を回転させて、撮像位置にて蛍光検出・画像解析が行われる。その後、さらにフィルタ交換位置まで回転板を回転させてフィルタ1を交換し、さらに回転板73を回転させてフィルタリング位置で必要に応じて生物の捕集を行う。
【0055】
[実施の形態2]
図3は本発明の他の実施の形態の説明図である。本実施の形態においては、目開きが50μmのフィルタ1に海水を送水するラインに海水をろ過して濃縮する濃縮装置21を設置し、この濃縮装置21によって海水を濃縮してからフィルタ1に送水するようにしたものである。
なお、フィルタ3、5の2本のフィルタはフィルタユニット8内に設置され、濃縮装置21を通過した海水が通水されるようになっている。
【0056】
濃縮装置21の形態としては種々のものを適用できる。
図4は濃縮装置21の一例として単筒式濃縮装置22の説明図である。この例に示される単筒式濃縮装置22は、円筒状の本体容器23と、本体容器内を2室に区切る目開きが50μmのプランクトンネット25と、を備えている。そして、プランクトンネット25によって区切られた容器本体内の内側が濃縮水室27となり、外側がろ過水室29となっている。
本体容器23の一端側には、検出対象となる生物死滅処理されたバラスト水または海水(以下、単に「検出対象水」という。)を濃縮水室27に流入させるための流入管31が接続され、流入管31には流入弁(V1)が設けられている。
さらに、流入管31に隣接して、洗浄水を濃縮室27に流入させるための洗浄水管33が本体容器23の一端側に接続され、洗浄水管33には洗浄弁(V5)が設けられている。
また、本体容器23の他端側には濃縮室27の濃縮水を取り出すための濃縮水取出し管35が接続され、濃縮水取出し管35には濃縮水取出し弁(V3)が設けられている。なお、濃縮水取出し管35はフィルタ1側に接続されている。
さらに、本体容器23の側面下部には流入管31から流入してプランクトンネット25でろ過されたろ過水を排出するための排水管37が接続され、排水管37には排水弁(V2)が設けられている。
また、本体容器23の側面上部にはプランクトンネット25を逆洗浄する洗浄水を流入させための洗浄水管39が接続され、洗浄水管39には洗浄弁(V4)が設けられている。
また、洗浄水管33と洗浄水管39には、洗浄効率を高めるための装置、例えばスプレーノズルを取り付けることが出来る。また洗浄水管39は、本体容器23内にリング状の配管を接続し、プランクトンネット25の全面を逆洗浄するようにすることも可能である。
【0057】
図5は図4に示した単筒式濃縮装置22の動作を説明する説明図である。図5に示されるように流入管31は容量が1m3の補助タンク96に接続され、補助タンク96にはバラストタンク8のバラスト水が流入できるようになっている。また。洗浄水管33には洗浄用清浄水タンク97が接続されている。また、排水管37の下流側には分岐管98が設けられ、この分岐管98に目開き10μmのフィルタ3、目開き0.5μmのフィルタ5が直列に設置されている。分岐管98にはフィルタ3の手前に開閉弁(V6)が設けられ、フィルタ5の手前に開閉弁(V7)が設けられ、さらに排水管37における分岐管98との接合部の下流側に開閉弁(V8)が設けられている。これら開閉弁(V6)(V7)(V8)の開度を調整することにより、フィルタ3、5に通水する水量を調整できるようになっている。
【0058】
以下、図5に基づいて単筒式濃縮装置22の動作を説明する。先ず流入弁(V1)を開き、目開きが50μmのプランクトンネット内側の濃縮水室27に補助タンク96に貯留された検出対象水を流入させる。この時、排水弁(V2)は「開」、洗浄弁(V4およびV5)および濃縮水取り出し弁(V3)は「閉」、にしておく。また、開閉弁(V6)(V7)(V8)はフィルタ3、5に対して適量の通水ができる開度に調整しておく。
【0059】
プランクトンネット内側に供給された検出対象水は、50μm以下の微生物および水がプランクトンネット外側のろ過水室29に移動し排水管37に流入し、その一部が分岐管98に流入し、その他はバラストタンク8へ戻される。
所定量の検出対象水を供給した後、洗浄弁(V4、V5)を「開」にして洗浄水管33、39から洗浄水を供給し、プランクトンネット25を洗浄してプランクトンネット25に付着した微生物を洗い落とす。これによって、濃縮室27には50μm以上の微生物が濃縮された濃縮水が残留する。その後、濃縮水取り出し弁(V3)を開け、濃縮水をフィルタ1側に排出し、フィルタ1で50μm以上の微生物を捕集する。一方、フィルタ3では10〜50μmの微生物を、フィルタ5では0.5〜10μmの微生物をそれぞれ捕集する。
その後の微生物の計数処理等については実施の形態1と同様に行う。
【0060】
図6は濃縮装置21の他の例として二筒式濃縮装置41の説明図である。この例に示される二筒式濃縮装置41は、濃縮水室43を形成する円筒状の第1容器45と、ろ過水室47を形成する円筒状の第2容器49とを備えている。第1容器45と第2容器49はその側部で連通しており、連通部には目開きが50μmのプランクトンネット51が設置されている。
第1容器45の上端部には第1容器45内に検出対象水を流入させるための検出対象水流入管53aが接続され、検出対象水流入管53aには流入弁(V1-a)が設けられている。
また、第1容器45の下端部には第1容器45内の濃縮水を取り出すための濃縮水取出し管55aが接続され、濃縮水取出し管55aには濃縮水取出し弁(V4-a)が設けられている。
さらに、第1容器45の側面上部には排水管56aの一端が接続され、排水管56aには排水弁上(V2-a)が設置されている。排水管56aの他端側には排水ポンプ57が設けられ、フィルタユニット8側に接続されている。
また第1容器45の側面下部には排水管59aに一端が接続され、排水管59aの他端は排水管56aに接続されている。排水管59aには排水弁下(V3-a)が設けられている。
さらに、第1容器45の側面中部には洗浄水を供給する洗浄水管61aが接続され、洗浄水管61aには洗浄弁(V5-a)が設けられている。
【0061】
また、第2容器49には、第1容器45に設けられているのと同様の配管及び弁類が設けられており、図6中においてこれらの配管及び弁類には第1容器45側の配管及び弁類に対応する符号(番号が同じで添字bを付した符号)を付してある。
【0062】
以上のように構成された二筒式濃縮装置41の動作を説明する。
まず、第1容器45側の流入弁(V1-a)および第2容器49側の排水弁上(V2-b)を「開」にすると共に、他の弁類を「閉」にする。
この状態で検出対象水流入管53aから検出対象水を第1容器45側に供給する。第1容器45の濃縮水室43に供給された検出対象水は、50μm以下の微生物および水がプランクトンネット51を通じてろ過水室47に移動し、排水管56bから排出される。他方、50μm以上の微生物は濃縮水室43内に残留する。
必要により濃縮水室43およびろ過水室47の洗浄水弁(V5-aおよびV5-b)を開け、プランクトンネット51に付着した微生物を洗浄する。
所定流量の検出対象水を濃縮水室43に供給した後、ろ過水室47の排水弁下(V3-b)を開け、水を排出する。これにより濃縮水室43に50μm以上の微生物が濃縮された水が残留する。
濃縮水は濃縮水取出し弁(V4-a)を開き、取り出してフィルタ1側に供給する。
その後の微生物の計数処理等については実施の形態1と同様に行う。
【0063】
以上のように、本実施の形態においては、目開きが50μmのフィルタ1に海水を送水するラインに海水をろ過して濃縮する濃縮装置21を設置し、この濃縮装置21によって海水を濃縮してからフィルタ1に送水するようにしたことにより、10〜50μmのプランクトンや細菌類の検出にくらべて大量の水を通水しなければならない50μm以上のプランクトンの検出を効率的に行うことができると共に大量の海水の通水によるフィルタ1の損傷を防止できる。
【0064】
なお、上記の実施の形態2の説明では、目開きが10,0.5μmの2種類のフィルタを有するフィルタユニット8に対して濃縮装置21を通過した検出対象水を通水する例を示したが、フィルタユニット8への通水する水は濃縮装置21を経由することは必須ではなく、別途検出対象水を直接フィルタユニット8へ通水するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施の形態に係るバラスト水中の微生物検出装置の説明図である。
【図2】図1に示したフィルタユニットとフィルタ取出し機構を具体化した一例の説明図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係るバラスト水中の微生物検出装置の説明図である。
【図4】本発明の他の実施の形態における濃縮装置の一つの態様の説明図である。
【図5】図4に示した濃縮装置の動作説明図である。
【図6】本発明の他の実施の形態における濃縮装置の他の態様の説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 50μmフィルタ、3 10μmフィルタ、5 0.5μmフィルタ、7 フィルタユニット、9 送水手段、11 フィルタ取出し機構、13 染色手段、15 光照射手段、17 光検出・画像解析手段、19 判定手段、21 濃縮装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を目開きの異なる3種のフィルタを直列に配置してなるフィルタユニットに通水する工程と、
前記フィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる工程と、
発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する工程と、を備えたことを特徴とするバラスト水中の微生物検出方法。
【請求項2】
生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水をろ過して濃縮する工程と、
濃縮されたバラスト水または海水を目開きが25〜100μmのフィルタに通水する工程と、
前記濃縮工程でろ過されたバラスト水または海水、または生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタに通水する工程と、
前記目開きが25〜100μmのフィルタ及び目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる工程と、
発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する工程と、を備えたことを特徴とするバラスト水中の微生物検出方法。
【請求項3】
目開きの異なる3種のフィルタを直列に配置してなるフィルタユニットと、該フィルタユニットに対して目開きの大きいフィルタ側から所定量の生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を流す手段と、各フィルタに対して当該フィルタごとに決められた所定量の水量が流されたときに当該フィルタを取り出すフィルタ取出し機構と、取り出されたフィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる手段と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する手段と、を備えたことを特徴とするバラスト水中の微生物検出装置。
【請求項4】
生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水をろ過して濃縮する手段と、濃縮されたバラスト水または海水を通水する目開きが25〜100μmのフィルタと、前記濃縮手段でろ過されたバラスト水または海水、または生物死滅処理を行ったバラスト水または船舶にバラスト水として注水する海水を通水する目開きが50μmより小さくかつ異なる2種のフィルタと、各フィルタに対して当該フィルタごとに決められた所定量の水量が流されたときに当該フィルタを取り出すフィルタ取出し機構と、取り出されたフィルタに捕集され生存している微生物による発色、発光および蛍光のうちいずれかを発生させる手段と、発色、発光および蛍光のうちいずれかを検出して画像解析によってバラスト水または海水中の微生物数を計数する手段と、を備えたことを特徴とするバラスト水中の微生物検出装置。
【請求項5】
計数した微生物数を予め設定された基準値と比較して判定する判定手段を備えたことを特徴とする請求項3または4に記載のバラスト水中の微生物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−135582(P2007−135582A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276332(P2006−276332)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】