説明

バラスト水処理船及び未処理バラスト水の処理方法

【課題】バラスト水の処理設備を持たず、未処理バラスト水を有する受入対象船舶の排水能力に柔軟に対応して、未処理バラスト水を処理可能なバラスト水処理船及び未処理バラスト水の処理方法を提供する。
【解決手段】受入対象船舶200から未処理バラスト水を受け入れる受入手段2と、未処理バラスト水中の水生生物や細菌類を殺滅することにより処理水を生成する処理装置とを備え、受入手段2は、未処理バラスト水を受け入れる少なくとも一つの流入口と、受け入れられた未処理バラスト水の一部を他のバラスト水処理船に供給する少なくとも一つの流出口とを備えるバラスト水処理船1を、受入対象船舶200の排水能力に応じて複数隻用意し、受入対象船舶200から排出される未処理バラスト水を中継ホース102、103を介して他のバラスト水処理船1に順次移送することにより、未処理バラスト水を複数隻のバラスト水処理船1によって処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバラスト水処理船及び未処理バラスト水の処理方法に関し、詳しくは、バラスト水の処理設備を持たず、未処理バラスト水がバラストタンクに貯留されている船舶から未処理バラスト水を受け入れ、水生生物や細菌類が殺滅されたクリーンな処理水として排出することのできるバラスト水処理船及び未処理バラスト水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナ船等の貨物用船舶から排水されるバラスト水中には、それを取水した港湾に生息する水生生物や細菌類が混入しており、船舶の移動に伴い、これら水生生物や細菌類が同時に異国に運ばれることから、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0003】
このような背景のもと、国際海事機関(IMO)の外交会議において、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)が採択され、バラスト水管理の実施義務が2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0004】
このため、船舶からは条約を満たすクリーンなバラスト水を排水できるようにすることが求められており、従来から、バラスト水を処理するための具体的な処理方法が各種提案されている(特許文献1〜3)。
【0005】
船舶から排出されるバラスト水が上記条約の要求を満たすには、バラスト水が上記条約の基準を満たすようにバラスト水を処理するための処理設備を各船舶に搭載する必要がある。しかし、特に既造船舶の場合、船内は元々各種の配管類が張り巡らされているため、処理設備を新たに搭載する余裕はなく、処理設備のための多くの配管や機器を追加配置することは困難である。
【0006】
そこで、本出願人は、上記条約の基準を満たすバラスト処理水を生成でき、これを他の船舶に対して供給することのできるバラスト水供給船を既に提案している。このバラスト水供給船を港に用意しておけば、港に停泊しているバラスト水の処理設備を持たない船舶に対してバラスト処理水を供給することができ、その船舶が他の港において貨物を積載するためにバラスト水を排出しても、上記条約の排出基準を満たすことができる。
【0007】
しかしながら、港によっては、このようなバラスト水供給船を用意できない場合も予想される。この場合、陸上にバラスト水の処理施設を設け、寄港した船舶のバラスト水を受け入れて陸上で処理した後、海に排出することも考えられるが、港に隣接する陸地に処理施設用の敷地を確保することは極めて困難である。また、船舶からのバラスト水の排出は、港の沖合いで行われることも多く、この場合は、船舶が入港する前にバラスト水を処理できるようにすることが必要とされる。
【0008】
このため、従来、バラスト水の処理設備を持たない船舶から未処理バラスト水を受け入れ、それを処理した後に海に排出することのできる処理設備を備えた作業船(バラスト水処理船)も提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2004−160437号公報
【特許文献2】特開2003−200156号公報
【特許文献3】米国特許第6125778号明細書
【特許文献4】特開2005−319975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バラスト水処理船によって船舶から排出される未処理バラスト水を処理する場合、次のような解決すべき新たな問題がある。
【0010】
すなわち、バラスト水の排水能力は船舶の排水ポンプ能力によって決まるが、各港湾では多様な排水能力を有する船舶が往来するため、バラスト水処理船は、これらの多様な排水能力を有する船舶に対応できる必要がある。しかし、多様な排水能力を有する船舶に対応させるために処理能力(受け入れ能力)の異なるバラスト水処理船を用意することは現実的には不可能である。
【0011】
また、想定される最大排水能力の船舶に対応できるだけの処理能力を有する大型のバラスト水処理船を用意した場合、狭い港湾内では停泊スペースを確保することが困難となる問題があり、また、機動性も悪くなる。しかも、常に大型船舶から未処理バラスト水を受け入れるとは限らないため、比較的小型の船舶から未処理バラスト水を受け入れる場合にはかえって効率が悪い問題がある。
【0012】
一方、停泊スペースや機動性を優先させて小型のバラスト水処理船を用意した場合、大型船舶への対応能力が不足するため、大型船舶から排出される未処理バラスト水の処理を完了するまでに時間が掛かる結果、船舶の運航スケジュールに支障をきたしてしまうといった問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、バラスト水の処理設備を持たず、未処理バラスト水がバラストタンクに貯留されている受入対象船舶の排水能力に柔軟に対応して、未処理バラスト水を処理することが可能なバラスト水処理船及び未処理バラスト水の処理方法を提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
(請求項1)
未処理バラスト水を保有する受入対象船舶から供給される未処理バラスト水を受け入れる受入手段と、前記受入手段により受け入れられた未処理バラスト水中の水生生物や細菌類を殺滅することにより処理水を生成する処理装置とを備えたバラスト水処理船であって、
前記受入手段は、未処理バラスト水を受け入れるための少なくとも一つの流入口と、前記流入口から受け入れられた未処理バラスト水の一部を他のバラスト水処理船に供給するための少なくとも一つの流出口とを備えることを特徴とするバラスト水処理船。
【0017】
(請求項2)
前記受入手段は、それぞれ口径が異なる複数の前記流入口及び前記流出口を備えることを特徴とする請求項1記載のバラスト水処理船。
【0018】
(請求項3)
前記受入手段により受け入れられた未処理バラスト水を、前記処理装置に移送する前に一旦貯留するバッファタンクを有することを特徴とする請求項1又は2記載のバラスト水処理船。
【0019】
(請求項4)
前記処理装置により生成された処理水を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンク内の処理水を船外に供給する供給手段とを有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のバラスト水処理船。
【0020】
(請求項5)
前記処理装置は、未処理バラスト水中にオゾンを注入して水生生物や細菌類を殺滅するオゾン注入手段と、前記オゾン注入手段によりオゾンが注入されたバラスト水中の余剰オゾンを脱気する脱気手段とを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバラスト水処理船。
【0021】
(請求項6)
前記処理装置は、未処理バラスト水をスリット状の開口に通過させた際に発生する剪断力によって水生生物や細菌類を殺滅するスリット板を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のバラスト水処理船。
【0022】
(請求項7)
請求項1〜6のいずれかに記載のバラスト水処理船を前記受入対象船舶の未処理バラスト水の排水能力に応じて複数隻用意し、
相互に隣接する一方のバラスト水処理船における前記受入手段の前記流出口と他方のバラスト水処理船における前記受入手段の前記流入口とを中継ホースで接続することにより、一方のバラスト水処理船から他方のバラスト水処理船へと至る未処理バラスト水の移送経路を構成し、
流入口が他のバラスト水処理船の流出口と接続されていないいずれか1隻のバラスト水処理船の該流入口と前記受入対象船舶の未処理バラスト水の排出口とを接続ホースで接続し、該受入対象船舶から排出される未処理バラスト水を受け入れ、そのうちの一部を前記中継ホースを介して他のバラスト水処理船に順次移送することにより、前記受入対象船舶から供給される未処理バラスト水を前記複数隻のバラスト水処理船における前記処理装置によってそれぞれ処理することを特徴とする未処理バラスト水の処理方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、バラスト水の処理設備を持たず、未処理バラスト水がバラストタンクに貯留されている受入対象船舶の排水能力に柔軟に対応して、未処理バラスト水を処理することが可能なバラスト水処理船を提供することができる。
【0024】
また、本発明によれば、バラスト水の処理設備を持たず、未処理バラスト水がバラストタンクに貯留されている受入対象船舶の排水能力に柔軟に対応して、未処理バラスト水を処理することが可能な未処理バラスト水の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、本発明に係るバラスト水処理船の一例を示している。
【0027】
バラスト水処理船1は、デッキ上に、未処理バラスト水を保有する受入対象船舶(図示せず)から供給される未処理バラスト水を受け入れるための受入装置2を備えていると共に、船体内に、該受入装置2から受け入れられた未処理バラスト水を一旦貯留するためのバッファタンク3及び未処理バラスト水を処理するための処理装置4を備えている。
【0028】
バラスト水処理船1としては、自立航行するための機関を持った船に限らず、自立航行するための機関を持たないバージ船であってもよい。また、バッファタンク3及び処理装置4の少なくともいずれかをデッキ上に設ける態様でもよい。
【0029】
ここで、未処理バラスト水とは、船舶のバラストタンクに貯留されているバラスト水であって、上記条約の基準を満たすための処理が何ら施されていないバラスト水のことである。また、バラスト水とは、船舶のバラストタンクに貯留するために取水された水又は船舶のバラストタンク内に貯留されている水である。但し、ここでいう船舶には、本発明に係るバラスト水処理船は含まれない。このようなバラスト水には例えば海水、淡水等が使用されるが、本発明では海水が好ましく使用される。かかるバラスト水には、取水した水域に生息する動物プランクトン、植物プランクトン、微生物等の水生生物や大腸菌等の細菌類が含まれている。
【0030】
受入装置2は、未処理バラスト水を保有する受入対象船舶(図示せず)から供給される未処理バラスト水を受け入れるための受入手段であり、その詳細を図2に示す。
【0031】
図2は、受入装置2の詳細を示す平面図であり、受入装置2は、デッキ上において船首方向(図中の右方向)に向けて延び、一端が船体内のバッファタンク3に繋がる1本の主配管21と、該主配管21と交差して設けられ、船体を横断する方向(図中の上下方向)に延びる複数本(図示例では5本)の副配管22A〜22Eとを有している。
【0032】
各副配管22A〜22Eの先端は、それぞれホース接続口23A〜23Eを有している。各ホース接続口23A〜23Eは、副配管22A〜22Eによって、主配管21への未処理バラスト水の流入及び主配管21からの未処理バラスト水の流出のいずれも可能となっている。すなわち、各ホース接続口23A〜23Eは、未処理バラスト水を受け入れるための流入口であると同時に、その未処理バラスト水を他のバラスト水処理船1に供給するための流出口でもあり得る。
【0033】
各ホース接続口23A〜23Eは、それぞれ開閉弁24A〜24Eによって開閉される。各開閉弁24A〜24Eは、例えば操舵室11内の制御装置12によって個別に開閉制御される。また、主配管21には逆止弁25が設けられており、受け入れ時に、船体内部側からの逆流が阻止される。
【0034】
各副配管22A〜22Eは同一径ではなく径が異なっている。従って、各ホース接続口23A〜23Eも径が異なっている。ここでは、副配管22Aは、流量が3000m3/hr用の配管とされており、以下同様に、副配管22Bは2000m3/hr用、副配管22Cは1000m3/hr用、副配管22Dは800m3/hr用、副配管22Eは600m3/hr用の配管とされている。このため、受け入れられる未処理バラスト水の受入量に応じて、様々な口径を有するホースの接続部と接続可能である。
【0035】
本実施形態では、バラスト水処理船1の未処理バラスト水の処理装置4での処理能力が1000m3/hrの能力を有するものとする。従って、受け入れられる未処理バラスト水の供給量が1000m3/hrである場合は、このうちの副配管22Cが専ら使用されるということになる。この受入装置2の機能を利用した処理方法についての更に詳細な説明は後述する。
【0036】
かかる受入装置2によって受け入れられる未処理バラスト水は、主配管21を通ってバッファタンク3に送られる。バッファタンク3は、受け入れられた未処理バラスト水を一旦貯留することで、処理装置4による未処理バラスト水の処理能力を超える未処理バラスト水でもある程度の受け入れを可能とする。ここではデッキ上に2基のバッファタンク31、32を備えているが、バッファタンク3の数及び容量は適宜設定される。かかるバッファタンク3は本発明において好ましく設けられる。
【0037】
受入装置2によって受け入れられた未処理バラスト水は、バッファタンク3を介して処理装置4に送られる。
【0038】
処理装置4は、受け入れられた未処理バラスト水中の水生生物や細菌類を殺滅して、クリーンな処理水を生成する。この処理装置4としては、未処理バラスト水中の水生生物や細菌類を、条約を満足する程度に殺滅可能であればよく、例えば熱、超音波、紫外線、銀イオン、電気等を用いた物理的処理法、濾過、剪断力、キャビテーション等を用いた機械的処理法、オゾン、酸素除去、塩素等を用いた化学的処理法、これらの2種以上の処理法を複合させた複合処理法等が挙げられる。
【0039】
本発明において好ましい処理装置4の一例について図3を用いて説明するが、処理装置4は何ら図示するものに限定されない。
【0040】
図3は処理装置4の一例を示す構成図であり、41はフィルター、42はポンプ、43は処理ライン、44はオゾン混合装置、45はオゾン発生装置、46はスリット板、47は脱気タンク、48は排オゾン分解装置である。
【0041】
処理装置4では、制御装置12によって制御されるポンプ42の作動により、バッファタンク3から処理装置4内に未処理バラスト水が取り込まれ、処理ライン43内を移送される過程で、水生生物や細菌類を殺滅するための処理がなされる。以下、処理装置4内に導入された未処理バラスト水を処理対象水と称する。
【0042】
フィルター41は、処理装置4に導入された処理対象水から夾雑物を取り除くために設けられている。このフィルター41は、後段のオゾン混合装置44によるオゾン注入やスリット板46によって水生生物や細菌類が殺滅処理されることから、処理対象水中のゴミ等の比較的大きな夾雑物を取り除ければよい。
【0043】
オゾン混合装置44は、処理ライン43中を移送される処理対象水に、オゾン発生装置45によって生成されたオゾンを混入させ、処理対象水中の水生生物や細菌類をオゾンの強酸化作用によって化学的に殺滅する。ここでは、オゾン混合装置44として、処理ライン43中の処理対象水とオゾンとを気液混合する気液混合装置(オゾンインジェクター)を用いた例を示しているが、処理対象水中に所定濃度のオゾンを混入させることができるものであれば特に限定されない。例えば、スタティックミキサー、ラインミキサーなどの静的混合機を使用することもできる。
【0044】
オゾン発生装置45は、例えばコンプレッサー451、酸素発生器452及びオゾン発生器453を有しており、酸素発生器452及びオゾン発生器453を経て生成されたオゾンが、コンプレッサー451によってオゾン供給ライン454を介してオゾン混合装置44に供給され、処理対象水中に所定濃度のオゾンを混入させる。
【0045】
スリット板46は、オゾン混合装置44によってオゾンが混入された後の処理対象水を高圧で通過させることにより、その際に発生する剪断力によって水生生物や細菌類を機械的に破壊して殺滅する。
【0046】
このスリット板46の詳細を図4〜図8に示す。
【0047】
図4は、処理ライン43内のスリット板46を示す断面図、図5は、図4の(v)−(v)線断面図であり、これらに示すように、スリット板46は処理ライン43の内部に、該処理ライン43の流路全体を塞ぐようにして配設されている。
【0048】
スリット板46には複数のスリット状の開口461が形成されている。開口461の開口幅は、処理対象水中の水生生物や細菌類を剪断力によって破壊する効果が充分に発揮され得る幅に設定されるが、好ましくは200μm〜500μmとされる。これにより、処理対象水を通過させる際に発生する剪断現象によって10μm程度の水生生物も殺滅可能である。
【0049】
処理ライン43内を移送される処理対象水は、ポンプ42の作動によってこのスリット板46に向かって高圧で圧送される。圧送された処理対象水は乱流状態のままスリット板46のスリット状の開口461を通過しようとし、この開口461を通過する際に剪断現象が生じることで、処理対象水中の水生生物や細菌類を破壊して殺滅する。
【0050】
かかる剪断力による破壊、殺滅効果をより発揮させるために、スリット板46は処理対象水の流れ方向に対して直交する方向に取り付けることが好ましい。
【0051】
また、スリット板46は、処理ライン43内に密接して取り付けられるが、図示しないが、フランジ等によって処理ライン43に介設することが好ましい。これによって、スリット板46を処理ライン43から容易に取り外し可能とすることができ、必要に応じてスリット板46を洗浄することができる。
【0052】
スリット板46に形成される複数のスリット状の開口461の形状は、図5に例示するように、細長い長方形状からなるものが好ましい態様として挙げられる。開口461の本数は特に限定されず、処理対象水の圧力損失、剪断現象の発生状況に応じて適宜設定される。
【0053】
なお、各開口461は全て同じ長さに形成してもよいが、図6に示すように、処理ライン43の断面形状に合わせて、中央部を長く、端部に行くほど短く形成してもよい。また、各開口461の形状は直線状に限らず、図7に示すように、円弧状等の曲線状に形成してもよい。
【0054】
更に、処理ライン43内に配設されるスリット板46の枚数は1枚に限らず、図8に示すように、複数枚(46A、46B)を間隔をおいて配設するようにしてもよい。枚数は複数枚であれば特に限定されない。
【0055】
複数枚のスリット板46A、46Bを配設する場合は、各スリット板46A、46Bのそれぞれの開口461の幅、大きさ、本数、形状を異ならせることが、剪断現象をより効果的に発揮させることができるようにする上では好ましい。また、隣接するスリット板46A、46Bのそれぞれの開口461の配置を異ならせ、例えば各スリット板46A、46Bのそれぞれの開口461の長さ方向が直交するように配置させるようにすることも、同様の理由から好ましい。これらにより、剪断現象をより一層効果的に発揮させることができ、処理対象水中の水生生物や細菌類の破壊、殺滅効果をより向上させることができる。
【0056】
スリット板46を通過した後の処理対象水は脱気タンク47に送られ、処理対象水中の未溶解の余剰オゾンの脱気が行われる。脱気タンク47内には、タンク底部からタンク天井部の手前に亘って立設された仕切り壁471と、タンク天井部からタンク底部の手前に亘って垂設された仕切り壁472とが交互に並設され、処理対象水の上向流路と下向流路とを交互に形成している。これにより、脱気タンク47内に導入された処理対象水は、上向流路と下向流路とを交互に通過し、その過程で、処理対象水中に気泡状態で混入する余剰オゾンを処理対象水中から除去し、タンク上部の排オゾン室473に溜める。
【0057】
排オゾン室473に溜まった排オゾンは、脱気タンク47から排オゾン分解装置48に送られて分解され、例えばデッキ上から船外に排出される。
【0058】
このようにして、処理対象水は水生生物や細菌類が所定値以下となるように殺滅されたクリーンな処理水となる。
【0059】
なお、図3に示す態様では、オゾン混合装置44により処理対象水中にオゾンを混入させた後にスリット板46を通過させて処理するようにしたが、これに限定されず、スリット板46を通過させた後の処理対象水にオゾン混合装置44によってオゾンを混入させて処理する構成としてもよい。
【0060】
更に、処理装置4の他の態様として、水生生物や細菌類を濾過することにより除去可能な例えばMF膜やUF膜等の膜装置を用いることもできる。膜装置の後段に、更に図3に示すようにオゾン混合装置44、オゾン発生装置45及び脱気タンク47を配置してオゾン注入及び余剰オゾンの脱気を行うようにしてもよい。
【0061】
かかる処理装置4を通過することにより生成された処理水は、上記条約の排出基準を満たすため、制御装置12によって制御される排水ポンプ5によってバラスト水処理船1からそのまま海に排出すればよい。
【0062】
また、図示しないが、バラスト水処理船1のデッキ上又は船体内部に、貯留タンクを設けておき、処理水を貯留タンク内に貯留しておくことも好ましい。この場合、貯留タンク内の処理水を船外に供給するための供給手段を備えることにより、必要に応じて、バラスト水の処理設備を持たない船舶、故障等により処理設備が稼動不能な船舶等に対して処理水を供給することができる。
【0063】
また、このような貯留タンクを有することにより、処理装置4によって生成された処理水が条約を満足する程度に水生生物や細菌類が殺滅されたクリーンな処理水であることを、貯留タンク内の処理水をサンプリングすることにより事前に検査して確認しておくことも可能となる。従って、このように処理水がクリーンな処理水であることを検査するための検査手段を備えることは好ましい。水生生物や細菌類が所定値以下となるように殺滅されたクリーンな処理水であることをサンプリング結果に基づいて供給対象船舶に対して提示することができ、安全で安心な処理水を提供することができる。
【0064】
また、処理水を海に排出する場合でも、一旦貯留タンクを経由させることにより、かかる検査手段によってクリーンな処理水であることが確認された後に海に排出させることができて好ましい。
【0065】
次に、かかるバラスト水処理船1によって、該バラスト水処理船1の処理能力を超える排水能力を有する受入対象船舶から未処理バラスト水を受け入れて処理を行う方法について、図9、図10を用いて説明する。
【0066】
ここでは、未処理バラスト水を保有する受入対象船舶200の未処理バラスト水の排水能力が3000m3/hrであるものとする。本実施形態に示すバラスト水処理船1の処理能力は1000m3/hrであるから、バラスト水処理船1を3隻使用することによって、この受入対象船舶200から排水される未処理バラスト水に対応することができる。
【0067】
まず、未処理バラスト水を排水しようとする受入対象船舶200にバラスト水処理船1を3隻(1A、1B、1C)並列させて横付けする。隣接するバラスト水処理船1A〜1C同士は、係船装置101によって一定の距離を維持するように係留される。
【0068】
その後、受入対象船舶200に最も近い側のバラスト水処理船1Aにおける受入装置2の3000m3/hr用の副配管22Aの一方のホース接続口23Aに、受入対象船舶200側から延びる供給用ホース201を接続する。
【0069】
次に、このバラスト水処理船1Aにおける受入装置2の2000m3/hr用の副配管22Bの一方のホース接続口23Bと、このバラスト水処理船1Aに隣接する隣接するバラスト水処理船1Bにおける受入装置2の同じく2000m3/hr用の副配管22Bの一方のホース接続口23Bとを、中継ホース102によって連結する。
【0070】
また、真ん中のバラスト水処理船1Bにおける受入装置2の1000m3/hr用の副配管22Cの一方のホース接続口23Cと、最も外側のバラスト水処理船1Cにおける受入装置2の1000m3/hr用の副配管22Cの一方のホース接続口23Cとを、中継ホース103によって連結する。
【0071】
バラスト水処理船1の受入装置2は、主配管21の両側にそれぞれ各副配管22A〜22Eの両端の各ホース接続口23A〜23Eが配列されるため、かかるホース102、103及び供給用201との接続作業は、バラスト水処理船1の右舷側左舷側のいずれにおいても可能である。
【0072】
ここで、受入対象船舶200には、船体202に供給用ホース201を有する供給管203が設けられており、船体202の内部に設けられたバラスト水の排水ライン204によって、バラストタンク(図示せず)から排水ポンプ205の作動によって、バラスト水処理船1に向けて未処理バラスト水が供給されるようになっている。
【0073】
このように各バラスト水処理船1A〜1Cと受入対象船舶200とを中継ホース102、103及び供給用ホース201によって連結した後、受入対象船舶200の供給ポンプ205を作動させると、受入対象船舶200からバラスト処理水供給船1Aに、受入対象船舶200の排水能力である3000m3/hrの未処理バラスト水が供給される。バラスト水処理船1Aの処理能力は1000m3/hrであるため、受け入れられた3000m3/hrの未処理バラスト水のうち、その一部(2000m3/hr)が、副配管22B及び中継ホース102を介して、隣接するバラスト水処理船1Bに供給され、1000m3/hrの未処理バラスト水がバラスト水処理船1Aの処理装置4によって処理される。
【0074】
また、バラスト水処理船1Bの処理能力も1000m3/hrであるため、受け入れられた2000m3/hrの未処理バラスト水のうち、その一部(1000m3/hr)が、副配管22C及び中継ホース103を介して、隣接するバラスト水処理船1Cに供給され、1000m3/hrの未処理バラスト水がバラスト水処理船1Bの処理装置4によって処理される。
【0075】
さらに、バラスト水処理船1Cの処理能力も1000m3/hrであるため、受け入れられた1000m3/hrの未処理バラスト水が処理装置4によって処理される。
【0076】
なお、このとき、各バラスト水処理船1A〜1Cにおいて受入装置2の使用されないホース接続口23A〜23Eの開閉弁24A〜24Eは閉じておく。
【0077】
このようにして、受入対象船舶200の排水能力である3000m3/hrの未処理バラスト水を、各々1000m3/hrの処理能力を有する3隻のバラスト水処理船1A〜1Cによって並行処理する。このため、受入対象船舶200は、通常通りバラスト水を排水する場合と何ら遜色なくバラストタンク内からバラスト水(未処理バラスト水)を排水することができる。
【0078】
すなわち、本発明に係るバラスト水処理船1及びこれを用いた未処理バラスト水の処理方法によれば、受入対象船舶200から排水される未処理バラスト水を複数隻で処理することにより、受入対象船舶200の排水能力に対応した未処理バラスト水の処理が可能となる。このため、バラスト水処理船1をわざわざ大型化しなくても、未処理バラスト水の処理設備を持たない受入対象船舶200の排水能力に柔軟に対応して未処理バラスト水を処理することが可能となる。受入対象船舶200は運航スケジュールに支障をきたすおそれはない。
【0079】
要するに、バラスト水処理船1の処理能力をX、受入対象船舶200の排水能力をYとしたとき、Y>Xであれば、バラスト水処理船1はY/X隻用意すればよいことになる。
【0080】
また、受入対象船舶200側は、供給用ホース201を有する供給管203を設け、これを既設の排水ライン204と接続するだけでよく、新たに処理装置を組み込む場合のような大掛かりな改修工事を不要にできるが、もちろん、受入対象船舶200は何ら改修工事をしなくてもよく、通常は船体側面に開口するバラスト水の排水口とバラスト水処理船1とを直接ホースで接続するようにしてもよい。
【0081】
また、供給用ホース201はバラスト水処理船1側が保有する態様とすることもできる。
【0082】
バラスト水処理船1は、受け入れられた未処理バラスト水の水量を計測する計測手段である水量計13が設けられており、その計測結果に基づいて制御装置12によって積算流量や処理完了予想時間等を計算し、その情報を表示したり、受入対象船舶200に対してその情報を提示したりすることができる。また、計測結果に応じて課金することも可能となる。
【0083】
図11は、受入装置の他の態様を示している。図2と同一符号は同一構成を示している。
【0084】
この受入装置20は、デッキ上に設けられた主配管21の先端に、T字状に分岐された副配管26が1本だけ設けられている。副配管26の両端には、それぞれホース接続口27が設けられている。なお、28は開閉弁である。
【0085】
2つのホース接続口27は同一構成であるため、一方のホース接続口27について図12を用いて説明する。
【0086】
ホース接続口27は、口径の異なる複数のホース接続口27a〜27eが、口径の大きいホース接続口27aから口径の小さいホース接続口27eに行くに従って先端に突出するように、同芯状に設けられている。
【0087】
ここでは、例えばホース接続口27aは3000m3/hr用、ホース接続口27bは2000m3/hr用、ホース接続口27cは1000m3/hr用、ホース接続口27dは800m3/hr用、ホース接続口27eは600m3/hr用のホース接続口とされている。このため、上述した受入装置2と全く同様に、対象船舶からの未処理バラスト水の排水量に応じて、複数種の口径を有するホースの接続部と接続可能である。特に、この受入装置20によれば、1本の副配管26だけで、複数種類の口径のホースの接続部と接続することができるため、デッキ上の設置スペースを著しく省スペース化することができることはもちろんであるが、図2に示す受入装置2の場合のように、流入側のホースと流出側のホースの接続箇所がデッキ上の前後方向に大きく異なるようなことがなく、いずれの接続作業もほぼ同一箇所で行うことができるため作業の簡略化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るバラスト水処理船の一例を示す構成図
【図2】受入装置の一例を示す平面図
【図3】処理装置の一例を示す構成図
【図4】処理ライン内のスリット板を示す断面図
【図5】図4の(v)−(v)線断面図
【図6】スリット板の開口の他の例を示す断面図
【図7】スリット板の開口の更に他の例を示す断面図
【図8】処理ライン内のスリット板の他の例を示す断面図
【図9】バラスト水処理船によって対象船舶からの未処理バラスト水を処理する方法を説明する側面図
【図10】バラスト水処理船によって対象船舶からの未処理バラスト水を処理する方法を説明する平面図
【図11】受入装置の他の態様を示す平面図
【図12】図11に示す受入装置のホース接続口の部分を示す拡大図
【符号の説明】
【0089】
1、1A〜1C:バラスト水処理船
11:操舵室
12:制御装置
13:水量計
2、20:受入装置
21:主配管
22A〜22E:副配管
23A〜23E:ホース接続口
24A〜24E:開閉弁
25:逆止弁
26:副配管
27、27a〜27e:ホース接続口
3、31、32:バッファタンク
4:処理装置
41:フィルター
42:取水ポンプ
43:処理ライン
44:オゾン混合装置
45:オゾン発生装置
451:コンプレッサー
452:酸素発生器
453:オゾン発生器
454:オゾン供給ライン
46、46A、46B:スリット板
461:開口
47:脱気タンク
471、472:仕切り壁
473:排オゾン室
48:排オゾン分解装置
5:排水ポンプ
102、103:中継ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理バラスト水を保有する受入対象船舶から供給される未処理バラスト水を受け入れる受入手段と、前記受入手段により受け入れられた未処理バラスト水中の水生生物や細菌類を殺滅することにより処理水を生成する処理装置とを備えたバラスト水処理船であって、
前記受入手段は、未処理バラスト水を受け入れるための少なくとも一つの流入口と、前記流入口から受け入れられた未処理バラスト水の一部を他のバラスト水処理船に供給するための少なくとも一つの流出口とを備えることを特徴とするバラスト水処理船。
【請求項2】
前記受入手段は、それぞれ口径が異なる複数の前記流入口及び前記流出口を備えることを特徴とする請求項1記載のバラスト水処理船。
【請求項3】
前記受入手段により受け入れられた未処理バラスト水を、前記処理装置に移送する前に一旦貯留するバッファタンクを有することを特徴とする請求項1又は2記載のバラスト水処理船。
【請求項4】
前記処理装置により生成された処理水を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンク内の処理水を船外に供給する供給手段とを有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のバラスト水処理船。
【請求項5】
前記処理装置は、未処理バラスト水中にオゾンを注入して水生生物や細菌類を殺滅するオゾン注入手段と、前記オゾン注入手段によりオゾンが注入されたバラスト水中の余剰オゾンを脱気する脱気手段とを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバラスト水処理船。
【請求項6】
前記処理装置は、未処理バラスト水をスリット状の開口に通過させた際に発生する剪断力によって水生生物や細菌類を殺滅するスリット板を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のバラスト水処理船。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のバラスト水処理船を前記受入対象船舶の未処理バラスト水の排水能力に応じて複数隻用意し、
相互に隣接する一方のバラスト水処理船における前記受入手段の前記流出口と他方のバラスト水処理船における前記受入手段の前記流入口とを中継ホースで接続することにより、一方のバラスト水処理船から他方のバラスト水処理船へと至る未処理バラスト水の移送経路を構成し、
流入口が他のバラスト水処理船の流出口と接続されていないいずれか1隻のバラスト水処理船の該流入口と前記受入対象船舶の未処理バラスト水の排出口とを接続ホースで接続し、該受入対象船舶から排出される未処理バラスト水を受け入れ、そのうちの一部を前記中継ホースを介して他のバラスト水処理船に順次移送することにより、前記受入対象船舶から供給される未処理バラスト水を前記複数隻のバラスト水処理船における前記処理装置によってそれぞれ処理することを特徴とする未処理バラスト水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−248854(P2009−248854A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101428(P2008−101428)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】