説明

バルク凝固アモルファス合金製の電流集電板

【課題】燃料電池おいて、反応物質を移送するための表面に形成された複数の機能表面を有するカソード集電面及びアノード集電面を有する導電体を、高強度で高硬度、かつ高弾性歪み限界を有した材料にすることで、燃料電池の性能、信頼性、寿命などを向上させる。
【解決手段】分子式:(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)cで表され、ここで、原子パーセントで、aは30〜75、bは5〜60,cは0〜50の範囲であるバルク凝固アモルファス合金の原料薄板を準備し、ガラス転位温度近傍まで加熱し、所望の形状に成形し、冷却することで集電板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク凝固アモルファス合金で作られた電流集電板および、バルク凝固アモルファス合金から電流集電板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素ガスまたは他の適切な炭化水素の化学反応により電気を発生させるのに使用される装置である。燃料電池は、通常、二つの電極に挟まれた電解質で構成される。作動中、水素または他の形態の燃料が一方の電極(アノード)に達し、酸素または空気が他の電極(カソード)に達して、電気と副産物としての水と熱が作り出される。分子レベルでは、触媒がアノードにおいて接触した燃料を正電荷のイオンと電子に分割し、それぞれカソードへ異なった経路を採る。燃料が水素の場合、水素原子は陽子と電子に分かれる。陽子は、電解液中をカソードに通り抜け、一方、電子は、外部手段を経てカソードに戻る前に電力として利用可能な電流を形成するために集められる。カソードにおいて、陽子と電子と酸素が、触媒の助けにより結合して水となる。熱と水はこの化学反応の副産物に過ぎず、燃料電池から取り除かれる必要がある。
【0003】
一般的な燃料電池の型式は、リン酸燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)、アルカリ燃料電池(AFC)、陽子交換薄膜燃料電池(PEMFC)、直接メタノール燃料電池(DMFC)および固体酸化物燃料電池(SOFC)である。燃料電池は、それぞれの型式により、低めの温度(約250℃以下)、あるいは高めの温度(約500℃以上)でも作動する。低作動温度の燃料電池には、PAFC,AFCおよびPEMFCがある。
【0004】
一般に、各個々の燃料電池ユニットは、電気伝導性の電流集電板の間に挿入された薄膜(電解質)体と触媒を備えているが、実際の作動形式では、電圧及び/または電力の要求に合わせるために多数の電池ユニットが直列に配列され、燃料電池積層体が形成される。個々の電池が燃料電池積層体を形成するために直列に配列される際には、通常、電流集電板は、バイポーラー集電板、フロー−フィールド板あるいはコレクター−セパレーター板を意味する。そのような配列においては、バイポーラー板は、一般的にカソードとして作用する一側と、アノードとして作用する他側を備えた一枚の板であり、各側は、二つの隣り合うユニットの集電板として(アノードまたはカソードとして)個別に作用する。ある場合には、バイポーラー板は、隣り合う電池ユニットのカソードとアノード側との間に挟まれているセパレーター板を含む別の部材を有するものと考えることもできる。そのような装置の場合、セパレーター板は、一つの電池から次の電池への境界として作用する。集電板は他の変形例がある。例えば、カソードまたはアノードとして作用する電流集電体が一枚の板でありうる。他の例は、カソードまたはアノードとして作用する電流集電体とセパレーターが一枚の板でありうる。端的にいえば、そのような板が本発明でいう集電板であり、電流移送器(current transferor)、セパレーター、カソード、アノード、端板、或いはそれらを組み合わせたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
集電板の最終的な形態にかかわらず、そのような板は燃料電池の全体的な作動に対して多重の機能を発揮する。第一に、この集電板は、電池ユニット間を構造的に支持し、電気的に接続する。単一の電池ユニットの場合、集電板(端板でもある)は、電気負荷に電気的に接続される。第二に、集電板は、燃料及び/または酸化反応物質、及び/または冷却物質を、電池ユニットに、電池ユニットから、そして電池ユニット内に導き、分配する。第三に、集電板は、電池ユニットから生成物を取り除き、電気的に接続された電池間の燃料および酸化ガスの流れを分離する。集電板は、電気伝導性を有すると共に、良好な機械的な強度、化学的浸食及び/または加水分解による劣化に対する抵抗性、および水素ガスに対する低透過性を備えなければならない。
【0006】
代表的には、集電板は、その表面積の大部分に形成された複雑に込み入った機能性のパターンを有している。例えば、様々なパターン、大きさ、形を持った複雑な流路が燃料、酸化物質、冷却物質、および副産物が燃料電池を通り抜けるように導くために必要である。その複雑なパターンのデザインは、所望の圧力損失、滞留時間、流量などに大きく依存する。単一の流路デザインは、圧力損失および滞留時間を増やすが、流量を減らす。多数の流路デザインは、圧力損失および滞留時間を減らすが、流量を増やす。そのような表面の特徴(パターン、形状、性状)の代表的な寸法、深さおよび幅は、1mmのオーダーであるが、特殊な燃料電池では、これらの特徴が実質的には1.0mmより小さいかあるいは、実質的に1.0より大きい場合がある。しかしながら、そのような表面の複雑さは、集電板に一般に使用される材料にとって製造上の重大な問題となる。
【0007】
例えば、黒鉛構造体は、従来から、黒鉛複合体から所望の形状に機械加工されてきたが、そのような機械加工の性質上、極めて高価であり時間を要するものである。ポリマー基の材料は製造の容易さに関しては有利であるが、ポリマー基材料で製作された集電板は、電気伝導性が低く、かつ材料強度が低いため、特に、積層使用において多数の燃料電池を保持するのに必要な圧縮力に耐える点に関して、概して不充分である。通常の金属や合金も燃料電池に使用されてきたが、どれも重大な欠陥がある。例えば、必要とする詳細な表面の特徴を製作するために通常の機械加工した合金を使用すると、極めて高価になることが判っている。さらに、低価格の通常の合金は、耐食層を被覆して腐食問題を一次的に解決しているが、そのような被覆は、燃料電池構造を長期間安定させるのに満足のいく解決とならない。
【0008】
通常の合金を使用する場合は、他の問題もある。例えば、ガスや液体状態の燃料や副産物の輸送に効率的なシールを行うために、集電板は、板の平坦度と表面仕上げに厳しい公差を持たなければならない。ガスや液体のいかなる漏洩も、特に積層されたユニットでは許されないし、燃料電池の長期間の安定性を決定する重大な要因である。例えば、代表的な合金は、製作や組立て中に切り欠いたり、窪んだりというような永久変形をすぐにしがちであり、一方、黒鉛板はいかなる柔軟性も示さず、極めて壊れやすい。大半の集電板への使用において必要とされる表面積の大きいこと、平坦性の高いことおよび板厚の小さいことを考えると、金属合金における永久的な曲がりや窪みの問題、および黒鉛基材料の壊れ易さは、満足に機能する集電板を製造する上での厳しい欠陥となる。
【0009】
従って、集電板用の優れた材料およびそのような材料から製造された集電板が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<発明の要約>
本発明は、バルク凝固アモルファス合金製の集電板にある。
【0011】
本発明の他の態様では、この集電板は燃料電池体の一部である。本発明のさらに他の態様では、この集電板は、他の板または燃料電池材料の少なくとも一部をなしている。
【0012】
本発明のさらに他の態様では、この集電板は、液体および気体の浸透を防止する密着したシールとして機能する。
【0013】
また、本発明の他の態様では、この集電板は、燃料、反応物質および副産物を輸送するための多数の流路を備えたカソードに面する面とアノードに面する面を有する。
【0014】
また、本発明の他の態様では、この集電板は、カソードに面する面とアノードに面する面との間に熱交換のための多数の流路を備えてもよい。
【0015】
また、本発明の他の態様では、この集電板は、燃料、反応物質および副産物を輸送するための多数の流路を備えたカソードに面する板とアノードに面する板の2枚の板を有する。この態様では、隣り合う燃料電池ユニットのカソードとアノード板との境界面が熱交換用の多数の流路を備えても良い。
【0016】
また、本発明の他の態様では、ガスが一方の板から他方に越えるのを防ぐために、カソードとアノード板との間にガスを通さない層が置かれてもよい。
【0017】
また、本発明の他の態様では、この集電板の表面の特徴(パターン、形状、性状)が、アスペクト比(深さ/幅)0.1〜5を有する。
【0018】
また、本発明の他の態様では、この集電板の流路の幅が100(マイクロメーター)から2000(マイクロメーター)の間である。
【0019】
また、本発明のさらに他の態様では、この集電板が弾性歪み限界が約1.8%以上を有するバルク凝固アモルファス合金で作られている。
【0020】
また、本発明のさらに他の態様では、このアモルファス合金が以下の分子式:(Zr,Ti)(Ni,Cu,Fe)(Be,Al,Si,B)で表される。ただし、原子パーセントで、"a"は30〜75、"b"は5〜60,"c"は0〜50の範囲にある

【0021】
また、本発明のさらに他の態様では、このアモルファス合金が以下の分子式:(Zr,Ti)(Ni,Cu)(Be)で表される。ただし、原子パーセントで、"a"は40〜75、"b"は5〜50,"c"は5〜50の範囲にある。
【0022】
また、本発明のさらに他の態様では、このアモルファス合金は、永久変形あるいは破断することなく、1.5%以下または超の歪みに耐えることができる。
【0023】
また、本発明のさらに他の態様では、このバルク凝固アモルファス合金は、695Mpa−mm0.5(20Ksi-in0.5)以上の高い破壊靱性を有している。
【0024】
また、本発明のさらに他の態様では、このバルク凝固アモルファス合金は、60℃以上のΔTを有している。
【0025】
また、本発明のさらに他の態様では、このバルク凝固アモルファス合金は、アモルファス合金の弾性限界が約1.2%以上であり、かつアモルファス合金の硬さが7.5Gpa以上である鉄基金属である。
【0026】
また、本発明のさらに他の態様では、本発明はバルク凝固アモルファス合金から集電板を製造する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】本発明の集電板の実施例の概要図である。
【図1B】本発明の集電板の他の実施例の概要図である。
【図2】本発明の集電板の製造方法の実施例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のこれらおよび他の特徴および利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と結びつけて考慮し、参照することにより、よりよく理解される。
【0029】
<発明の詳細な説明>
本発明は、バルク凝固アモルファス合金から製造された集電板を志向するものであり、このバルク凝固アモルファス合金は、頑丈さと、軽量構造と、化学的および環境的な影響に対する優れた抵抗性と、そして低コストの製造性を備えている。本発明の他の目的は、そのようなバルク凝固アモルファス合金から集電板を製造する方法である。
【0030】
図1aおよび図1bは、入り組んだ流路パターンを有するバルク凝固アモルファス合金で作られた代表的な集電板の模式図である。図から判るように、入り組んだ流路パターンの実際のデザインは、所望の圧力損失、反応持続期間、最適な流量などに依って如何なる形状でもとることができる。例えば、図1aは、物質移動のための一本の流路デザインを示しているのに対し、図1bは、2本の流路デザインを示している。
【0031】
バルク凝固アモルファス合金は、近年発見されたアモルファス合金の群であり、実質的に、約500K/sec以下のより低い冷却速度で冷却され、実質的にアモルファス原子構造を維持することができる。従って、これらは、典型的には厚さ0.020mmまでに限定され、10K/sec以上の冷却速度が必要である通常のアモルファス合金よりも実質的に厚い、1.0mm以上の厚さに製造される。米国特許第5,288,344号、第5,368,659号、第5,618,359号、および第5,735,975号は、このようなバルク凝固アモルファス合金を開示しており、その開示はそれら全体を引用することによって本明細書に合体される。
【0032】
バルク凝固アモルファス合金群は、(Zr,Ti)(Ni,Cu,Fe)(Be,Al,Si,B)、として記述され、ただし、原子パーセントで、aは30〜75、bは5〜60,cは0〜50の範囲にある。さらにこれらの基本合金は、実質的な量(20原子%以下、および超)のNb、Cr、V、Coのような遷移金属を含むことができる。好ましい合金群は、(Zr,Ti)(Ni,Cu)(Be)で表される。ただし、原子パーセントで、aは40〜75、bは5〜50,cは5〜50の範囲である。さらに好ましい組成は、(Zr,Ti)(Ni,Cu)(Be)であり、原子パーセントで、aは45〜65、bは7.5〜35,cは10〜37.5の範囲である。他の好ましい合金群は、(Zr)(Nb,Ti)(Ni,Cu)(Al)であり、原子パーセントで、aは45〜65、bは0〜10,cは20〜40、dは7.5〜15の範囲である。
【0033】
他のバルク凝固アモルファス合金の組は、鉄金属(Fe,Ni,Co)基の組成である。そのような組成の例は、米国特許第6,325,898号および(A. Inoue et. al., Appl. Phys. Lett., Volume 71,p 464(1997))、(Shen et.al., Mater. Trans., JIM, Volume 42, p 2136(2001))などの刊行物、および日本特許出願2000126277(公開番号2001303218A)に開示されており、これら全ては、引用することによって本明細書に合体される。そのような合金の組成例の一つは、Fe72Al5Ga21164である。そのような合金の他の組成例は、Fe72Al7Zr10Mo5215である。これらの合金組成はZr基の合金系ほど加工し易いものではないが、これらはなお、厚さ1.0mm以上に加工でき、本発明で使用するに十分である。
【0034】
バルク凝固アモルファス合金は、特に高い強度と高い硬さを有する。例えば、ZrとTi基アモルファス合金は、特に250Ksi以上の降伏強さと450ビッカース以上の硬さ値を有している。これらの合金の鉄基型は、3447Mpa(500Ksi)以下または超の降伏強さと1000ビッカース以上の硬さ値を有している。このように、これらの合金、特にTi基および鉄基合金の場合、は優れた重量に対する強度比を示す。さらに、バルク凝固アモルファス合金、特にZrとTi基合金は、良好な耐食性および環境耐久性を備えている。アモルファス合金は、一般に、どの他の金属合金よりも遙かに高い2.0%に迫る高い弾性歪み限界を有している。
【0035】
一般に、バルクアモルファス合金中の結晶析出物は、アモルファス合金の特性、特にこれらの合金の靱性や強度にとって極めて有害であり、従って、これらの析出物の体積比率を最小にすることが好ましい。しかしながら、バルクアモルファス合金の加工中にその場で、バルクアモルファス合金の特性、特に合金の靱性および延性、にとって実に有益な延性のある結晶相が析出する場合がある。そのような有益な析出物を含むバルクアモルファス合金も本発明に包含される。一例の場合が、(C.C. Hays et. al., Physical Review Letters, Vol. 84,p 2901,2000)に開示されており、引用することによって本明細書に合体される。
【0036】
これらのバルク凝固アモルファス合金を使用する結果として、本発明の集電板は、通常の金属材料で製作された従来の集電板を凌ぐ大きく改良された特徴を備えている。集電板の製造においてバルク凝固アモルファス合金を用いたことによる驚くべき、かつ新規な利点を、様々な態様において以下に記述する。
【0037】
先ず、バルク凝固アモルファス合金の高強度と高い重量に対する強度比との組合わせで、本発明の集電板の全体の重量と嵩を大きく低減し、これにより、これらの集電板が組み込まれる燃料電池の構造の完全性や作動性を危うくすることなく、集電板の厚さを低減することができる。薄い壁の集電板を製作できることは、燃料電池の嵩の低減し、かつ料電池の体積当たりの効率を増やす場合にも重要である。燃料電池の効率は、許容流量がより高いこと、及び、より大きな触媒表面積が使用されることでも増加する。自動車などのような移動装置や設備で燃料電池を使用するのに、燃料電池の嵩が小さいほどそのような移動装置に装置を収蔵しやすくなるので、この効率の増加は特に有用である。
【0038】
集電板に使用するのに、高強度で高い重量に対する強度比の他の材料が考えられるが、そのような材料の殆どに製作および組立上の大きな欠陥がある。例えば、高強度で高い重量に対する強度比を備えた一つの材料は黒鉛であるが、黒鉛は幾らの柔軟性もなく、それゆえ、実際には全く壊れやすい。他の例は従来の金属合金であるが、殆どの従来の金属合金は、永久の変形や窪みがちである。集電板は、表面積が非常に大きくかつ厚さが非常に小さいため、そのような問題がさらに一層重大なものとなる。しかしながら、バルク凝固アモルファス合金は、695Mpa−mm0.5(20ksi−in0.5)オーダーの妥当な破壊靱性、及び、2%に迫る高い弾性歪み限界を有している。従って、集電板に永久的な変形や窪みのない高い柔軟性が達成される。このように、バルク凝固アモルファス合金で作られた集電板は、製作や組立の際に容易に取り扱え、そのコストを低減し、燃料電池の性能を向上させる。
【0039】
論じたように、バルク凝固アモルファス合金は、代表的には約1.8%以上というような非常に高い弾性歪み限界を備えている。これは、燃料電池の集電板に使用し、適用するための重要な特徴である。具体的には、高い弾性歪み限界は、移動装置、あるいは機械的な荷重又は振動を受ける他の用途に搭載される装置に好適である。高い弾性歪み限界により、集電板をさらに一層複雑な形状にしたり、より薄く且つより軽くすることができる。高い弾性歪み限界により、集電板が、永久的な変形や装置が破壊することなく、荷重や曲げに耐えることが可能となる。
【0040】
さらに、高強度で高硬度、且つ高弾性歪み限界であるというバルクアモルファス合金の特徴が、長寿命と維持の容易さを備える集電板のシール接合に、より良好な性能と耐久性を与えている。バルクアモルファス合金の1397Mpa(200ksi)より高い強度と、400ビッカースより大きな硬さ、および1.5%より高い弾性歪み限界の組合せが、シール接合のみならず集電板全体一般に対して、取扱い、組立及び使用中の耐久性を与えている。
【0041】
バルクアモルファス合金は、適度に良好な電気伝導性、Zr/Ti基合金の場合で約5000S/cm、を有しており、この比較的高い電気伝導性が、数100S/cmの平均電気電導性しか有していない複合プラスチック材に比べて、燃料電池の効率を改善することが出来る。
【0042】
電気伝導性があることに加えて、バルク凝固アモルファス合金で作られた集電板は、良好な耐食性、高い不活性及び水素ガスに対する低透過性も有している。これらの材料の高い耐食性および不活性は、燃料電池の集電板と移動相との間での望ましくない化学反応により集電板が腐食されるのを防止するのに有用である。バルク凝固アモルファス合金の不活性は、それが触媒を害し、あるいは燃料電池内の燃料や他の化学物質と反応し難いので、燃料電池の寿命にとって非常に重要である。
【0043】
本発明の他の態様は、等方的な性質を備えた集電板とすることが可能なことである。一般に金属品における非等方性は、形成された集電板のシールや入り組んだ流路、および接触表面などの場合のように正確な一致が必要な金属品のそれらの部分の性能を、その物品が受ける温度の変化、機械的な力および振動などにより、劣化させる原因となる。さらに、バイポーラー板の応答が種々の方向で不均一であると、補償するための広範囲なデザイン余裕代が必要となり、その結果、重く嵩張る構造となる。従って、本発明において集電板の応答が等方的であることは、集電板の入り組んだ複雑なパターンおよびこれに関連する大きな表面積、および非常に薄い厚さを与えられた少なくとも一定のデザインにおいては、高い強度の構造材料を利用する必要があるのと同様、極めて重要である。そのように大きな表面積で厚さの小さい通常の合金製の板にそのような入り組んだ流路を設けるのは、そのような合金が多結晶粒組織であるため困難である。例えば、通常の合金の鋳物は機械的強度が著しく乏しく、大表面積で非常に薄い厚さの場合は曲がる。従って、そのような平坦度の公差が厳しく、大表面積の鋳物に金属合金を用いることは通常出来ない。さらに、通常の金属合金では、所望の平坦度で所望の高強度を備えた集電板薄板を製造するために広範囲な圧延作業が必要とされる。しかしながらこの場合、通常の高強度合金の圧延製品は強い方向性を生じ、そのようにして望ましい等方性がなくなる。そのような圧延作業は、金属合金を高度に配向されかつ、延伸された結晶粒組織にし、著しく等方性のない材料にする。これに対して、バルク凝固アモルファス合金は、独特な原子構造により、結晶性で粒状の金属に見られたようなどのミクロ組織もなく、その結果、そのような合金から形成された物品は、本来の等方性を有している。
【0044】
集電板の他の機能は、構造的な剛性と、燃料、酸化反応物、冷却剤及び生成物の通路の複雑なパターン、及びこれらを収納するための適切なシールを提供することである。複雑なパターンを持つことによって、所望の流量、圧力損失、滞留時間を容易に達成することができる。バルクアモルファス合金が高強度、高弾性歪み限界及び高表面仕上げを有することで、金属製を含め種々のガスケットを使用して比較的高い完全なシールを備えた集電板を迅速に製造することが可能となる。
【0045】
本発明の他の目的は、バルク凝固アモルファス合金からネットシェイプ成形で集電板を製造する方法を提供することである。集電板をネットシェイプ成形で製造することにより、良好な平坦度、複雑な流路を有する入り組んだ表面の特徴、およびシール領域での高い表面仕上げを備えた集電板を形成しても、製造コストを大きく低減することができる。
【0046】
そのような集電板を製造する一例の方法は、図2のフローチャートに示されているように、以下の工程を有している:
1)実質的にアモルファスであり、約1.5%以上の弾性歪み限界と30℃以上のΔTを有するアモルファス合金の薄板原料を準備する工程;
2)この原料をガラス転位温度の近傍に加熱する工程;
3)加熱したこの原料を所望の形状に成形する工程;
4)この成形した薄板をガラス転位温度よりかなり低い温度に冷却する工程。
【0047】
但し、ΔTは、代表的な冷却速度(例えば、20℃/分)で標準DSC測定(示差走査熱量測定)から決定された結晶化開始温度Txとガラス転位開始温度Tgとの差で与えられる。
【0048】
好ましくは、準備されたアモルファス合金のΔTは、60℃より大きく、最も好ましくは90℃より大きい。準備された薄板原料は、好ましくは、最終の集電板の平均厚さとほぼ同じ厚さである。さらに、加熱及び成形作業の時間と温度は、アモルファス合金の弾性歪み限界が実質的に1.0%以上、好ましくは1.5%以上に維持されるように選択する。本発明においてガラス転位近傍の温度とは、成形温度が、ガラス転位未満、ガラス転位又は近傍、および、ガラス転位温度を超えるが常に結晶化温度Tx未満、であることを意味する。冷却工程は、加熱工程での加熱速度と同様の速度で、好ましくは、加熱工程での加熱速度より大きな速度で、実施される。冷却工程は、好ましくは、形成及び成形の荷重がまだ維持されている間に行われても良い。
【0049】
上述の製作方法が終了した後、成形された集電板には、必要により、表面の酸化物を除去するというような表面処理作業が施される。軽いバフ研磨や光沢研磨作業と同様に、化学的エッチングも(マスク付き又はなしで)、高い密閉性や他の構成部品との表面整合が達成されるように表面仕上げの向上のために、利用することができる。
【0050】
本発明の集電板を製造する他の例の方法は、以下の工程を有している:
1)アモルファス合金(必ずしもアモルファスではない)の均質な合金原料を準備する工程;
2)原料を溶融温度を超える鋳造温度に加熱する工程;
3)この溶融合金を形状成形鋳型に導入する工程;
4)この溶融合金をガラス転位未満の温度に急冷する工程。
【0051】
バルクアモルファス合金は、溶融温度より上から、ガラス転位温度に下がるまで、一次オーダーの相転移がないため流動性を保持する。このことは、通常の金属や合金に対して直接的な際立つ相違である。バルクアモルファス合金が流動性を保持しているので、鋳造温度からガラス転位温度未満に下がるまでの大きな応力を蓄積することがなく、従って、熱応力勾配による寸法的な歪みを最小限にすることができる。従って、大表面積で厚さの薄い集電板を費用効率よく製造できる。
【0052】
上述のネットシェイプ成形方法は、1.0mmオーダーで、好ましくは1.0mmよりずっと小さく、入り組んだ細部(例えば、流路)を有する機能表面の特徴を備えた低コストの集電板を提供する。さらに、これらの表面の特徴は、大きな表面積(例えば、609.4mm×609.4mm(24"×24")以上)にわたって高い平坦度公差と薄い厚さと断面(例えば、1.0mm以下)が達成される。バルクアモルファス合金および上述の方法の利点は、これらの機能表面の特徴(例えば、流路とシール接合)が全板面積の20%超、好ましくは全板面積の50%超に及ぶ場合は、ますます決定的なものとなる。これらの機能表面の特徴が全板面積の80%超に及ぶと、これらの表面の特徴を製造する経済性が最も主要な因子となり、本発明で述べたバルク凝固アモルファス合金及び方法の利点がより決定的になる。
【0053】
具体的な実施態様がここに開示されているが、この技術に通暁する者は、文言通りあるいは均等論のいずれかで、以下の請求項の範囲内にある代替のアモルファス合金の集電板及びそのアモルファス合金の集電板の製造方法を考案しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード集電面及びアノード集電面と、その間に反応物質を移送する少なくとも1つの流路とを有する導電体を備えた集電板であって、前記導電体は少なくとも部分的にバルク凝固アモルファス合金で構成されていることを特徴とする集電板。
【請求項2】
前記集電板が、導電体のカソード集電面に隣接して配置されたカソードと導電体のアノード集電面に隣接するアノードとを備えた燃料電池体の一部であることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項3】
前記集電板が、アノードとカソードとの間の液体や気体の浸透を防止するために、燃料電池内に密着したシールを形成することを特徴とする請求項2に記載の集電板。
【請求項4】
さらに、カソード集電面とアノード集電面との間に多数の熱交換流路を備えることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項5】
前記燃料電池が、さらに、燃料電池ユニットのカソードとアノードとの間に境界面を備え、前記境界面が複数の熱交換流路を有することを特徴とする請求項2に記載の集電板。
【請求項6】
前記集電板の表面の特徴が、0.1〜5のアスペクト比(深さ/幅)を有することを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項7】
前記機能表面が、集電板全体の面積の50%超に及ぶことを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項8】
前記少なくとも1つの流路の幅が、100μmから2000μmの間にあることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項9】
前記バルク凝固アモルファス合金が、約1.8%以上の弾性ひずみ限界を有することを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項10】
前記バルク凝固アモルファス合金が、下記の分子式:(Zr,Ti)(Ni,Cu,Fe)(Be,Al,Si,B)で表され、但し、原子パーセントで、aは30〜75、bは5〜60,cは0〜50の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項11】
前記バルク凝固アモルファス合金が、分子式:(Zr,Ti)(Ni,Cu)(Be)で表され、但し、原子パーセントで、aは40〜75、bは5〜50,cは5〜50の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項12】
前記バルク凝固アモルファス合金が、永久変形または破断することなく1.5%以下または超の歪みに耐えうることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項13】
前記バルク凝固アモルファス合金が、695Mpa−mm0.5以上の高い破壊靱性を有することを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項14】
前記バルク凝固アモルファス合金が、60℃以上のΔTを有することを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項15】
前記バルク凝固アモルファス合金が、鉄基金属であり、アモルファス合金の弾性限界が約1.2%以上であり、かつアモルファス合金の硬さが約7.5Gpa以上であることを特徴とする請求項1に記載の集電板。
【請求項16】
バルク凝固アモルファス合金から集電板を製造する方法であって以下の工程:
バルク凝固アモルファス合金の実質的にアモルファス原料を準備する工程;
この原料をガラス転移温度近傍に加熱する工程;
加熱したこの原料から集電板に成形する工程;および、
この成形した集電板をガラス転移温度よりずっと低い温度に冷却する工程;
を有すること特徴とするバルク凝固アモルファス合金から集電板を製造する方法。
【請求項17】
前記バルク凝固アモルファス合金が、約1.5%以上の弾性ひずみ限界および、30℃以上のΔTを有することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記バルク凝固アモルファス合金が、60℃より大きいΔTを有することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記バルク凝固アモルファス合金が、90℃より大きいΔTを有することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
さらに、表面の酸化物を除去するための集電板の表面処理工程を有することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項21】
バルク凝固アモルファス合金から集電板を製造する方法であって以下の工程:
バルク凝固アモルファス合金の均質な合金原料を準備する工程;
この原料をバルク凝固アモルファス合金の溶融温度を超える鋳造温度に加熱する工程;
この溶融合金を集電板形状成形鋳型に導入する工程;および、
この溶融合金を、バルク凝固アモルファス合金が実質的にアモルファス相を有することを確実にする十分な冷却速度で、ガラス転移より低い温度に急冷する工程;
を有することを特徴とするバルク凝固アモルファス合金から集電板を製造する方法。
【請求項22】
前記バルク凝固アモルファス合金が、約1.5%以上の弾性ひずみ限界および、30℃以上のΔTを有することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記バルク凝固アモルファス合金が、100℃/sec未満、好ましくは10℃/sec未満の臨界冷却速度を有することを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記バルク凝固アモルファス合金が、90℃より大きいΔTを有することを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
さらに、表面の酸化物を除去するための集電板の表面処理工程を有することを特徴とする請求項21に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−228304(P2011−228304A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−92445(P2011−92445)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【分割の表示】特願2006−507442(P2006−507442)の分割
【原出願日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(503326823)リキッドメタル テクノロジーズ,インコーポレイティド (7)
【Fターム(参考)】