説明

バルブプレート、及びそれを備えるピストンポンプ又はモータ

【課題】 簡単な構造でキャビテーションエロージョンの発生を抑えることができるバルブプレート及びピストンポンプ又はモータを提供する。
【解決手段】 ピストンポンプ20は、複数のピストン室31が形成され、各ピストン室31にてピストン24が夫々往復運動している。ピストンポンプ20は、バルブプレート21を備えている。バルブプレート21は、各ピストン室31が交互に接続される吸入ポート41及び吐出ポート42と、前記吐出ポート42の端部に繋がり、前記端部から前記吸入ポート41の方へと延びるノッチ43と、ノッチ43の先端に繋がり、各ピストン室31に接続可能な開口部44とが形成されている。開口部44は、ノッチ43の先端部よりも大きな開口面積を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンポンプ及びモータに備わるバルブプレート、並びにそれを備えるピストンポンプ又はモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から斜板式及び斜軸式等のアキシャルピストンポンプがよく知られている。斜板式のアキシャルピストンポンプは、図1に示すように、シリンダブロックと、複数のピストンと、斜板と、バルブプレートとを有する。シリンダブロックは、回転可能に構成されており、複数のピストン室が形成されている。各ピストン室には、各ピストンが往復運動可能に嵌まり込んでおり、ピストンは、回転軸の軸心回りに回転しながらハウジング内に傾斜させて設けられた斜板上を移動することで、シリンダブロックの回転に合わせて往復運動する。バルブプレートには、低圧側の吸入ポートと高圧側の吐出ポートとが形成されている。吸入ポート及び吐出ポートには、幾つかのピストン室がシリンダポートを介して夫々接続され、シリンダブロックが回転することにより前記ピストン室の接続先が吸入ポート及び吐出ポート交互に入れ替わる。アキシャルピストンポンプでは、吸入ポートを介して流体が幾つかのピストン室に順次吸入され、同時に幾つかのピストン室から吐出ポートを介して流体が排出される。
【0003】
ピストン室の接続先が吸入ポートから吐出ポートに切替わる際、吸入ポートがシリンダポートに開口する開口面積が減少することで流体を十分にピストン室に供給することができなくなる。それ故、ピストンとピストン室とにより規定される油圧室の圧力が負圧となり、吐出ポートとピストン室とが連通する時に吐出ポートから油圧室の方へと作動油が逆流する。これにより、油圧室で急激な圧力変動及び吐出流量の変動が生じてしまう。急激な圧力変動及び吐出流量の変動は、ピストンポンプ表面の放射音及び圧力脈動の原因となっている。このような問題を解決すべく、以下のようなバルブプレートがある。
【0004】
図13は、ピストンポンプの第1の従来技術のバルブプレート1及びシリンダブロック2を一部拡大して概略的に示した拡大断面図である。図14は、バルブプレート1のノッチ3付近を周方向に延びる切断面を展開して示した拡大平面図である。バルブプレート1には、吸入ポート4及び吐出ポート5に加えてノッチ3が形成されている。ノッチ3は、吐出ポート5に繋がり平面視でV字状に形成される溝であり、吐出ポート5からシリンダブロック2の回転方向と逆の方向へと延びている。更に、ノッチ3は、逆方向に進むにつれて浅くなっている。
【0005】
第1の従来技術では、吐出ポート5より先にノッチ3がシリンダポート8を介してピストン室7に接続される。即ち、ノッチ3がピストン6による吸入動作が完了してピストン室7の接続先が吸入ポート4から吐出ポート5に完全に切替わる直前、即ち下死点の直前に当該ピストン室7に接続されるシリンダポート8に開口する。これにより、当該ピストン室7が負圧になることを防ぐことができる。
【0006】
またノッチ3とシリンダポート8とが接続し始めた時の開口面積を小さくし、シリンダブロック2の回転に伴ってシリンダポート8へのノッチ3の開口面積が徐々に大きくなるようにしている。そのため、吐出ポート5からピストン室7に逆流する作動油の流量の変動を滑らかにすることができる。これにより、ピストン室7の圧力変化も滑らかになり、ピストンポンプの騒音及び急激な流量変動を抑制することができる。
【0007】
図15は、第2の従来技術のバルブプレート11及びシリンダブロック2を一部拡大して概略的に示した断面図である。図16は、バルブプレート11のノッチ3付近を周方向に延びる切断面を展開して示した拡大平面図である。バルブプレート11は、第1のバルブプレート1の構成に加えて、更にコンディット孔12が形成されている。コンディット孔12は、バルブプレートの厚み方向に延びる孔である。コンディット孔12は、周方向においてノッチ3と吸入ポート4との間に配置され、ノッチ3より先にシリンダポート8を介してピストン室7に接続される。
【0008】
また、コンディット孔12の下端部は、通路13により吐出ポート5と繋がっている。そのため、コンディット孔12がシリンダポート8に接続されることで、ノッチ3がシリンダポート8に開口する前にピストン室7に作動油が供給される。それ故、ノッチ3とシリンダポート8とが接続される際のピストン室7の負圧が軽減され、ノッチ3が開口したときに生じる噴流を低減している。
【0009】
更に、コンディット孔12がシリンダポート8に接続されると、ピストン6に向う噴流14が生じる。この噴流14に、ノッチ3がシリンダポート8に接続された時に生じる噴流15を衝突させることにより、ノッチ3からの噴流15の向きをピストン室7の側面の方へと向けている(図16の符号16参照)。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭61−45073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第1の従来技術のバルブプレート1では、ノッチ3がシリンダポート8に接続し始めた時、シリンダポート8が負圧状態になっており、ノッチ3からシリンダポート8に高速の噴流9が流入する。噴流9の流入速度が速いため、噴流9内でキャビテーション現象が起こり、噴流9内に気泡が発生する。噴流9がシリンダポート8へと流れ込む際、シリンダブロック2及びバルブプレート1の摺動面、及びシリンダポート8の内壁に気泡が当たり、気泡が破壊される。気泡が破壊される時の衝撃波により、前記摺動面及び内壁が壊食される、即ち、キャビテーションエロージョンが発生する。キャビテーションエロージョンによってバルブプレート1及びシリンダブロック2等の部品が損傷することで、吐出ポートへの漏れ量が増加したり騒音が増加したりして、不都合が発生する。
【0012】
このような第1の従来技術の不具合を解決すべく、第2の従来技術のバルブプレート11では、ノッチ3からの噴流をピストン室の側面の方へと向けて、前記摺動面及び内壁でのキャビテーションエロージョンの発生を防いでいる。
【0013】
しかしながら、コンディット孔12は、周方向においてノッチ3と吸入ポート4との間において、下死点よりも十分手前の位置から開口を開始するように配置されており、高圧油の漏れが無視できない程あり、この漏れによる容積損失が大きい。また、コンディット孔12を形成する場合、高圧油をコンディット孔12に供給するための通路13を形成する必要があり、第1の従来技術のバルブプレート1と比較して、バルブプレート21の加工時間が著しく増加する。
【0014】
そこで、本発明は、コンディット孔より簡単な構造でキャビテーションエロージョンの発生を抑えることができるバルブプレート及びピストンポンプ又はモータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のバルブプレートは、ピストン室でピストンが往復運動するピストンポンプ又はモータのバルブプレートであって、前記ピストン室に交互に接続される低圧側ポート及び高圧側ポートと、前記高圧側ポートの端部に繋がり、前記端部から前記低圧側ポートの方へと延びるノッチと、前記ノッチの先端部に繋がり、前記ピストン室に接続可能に開口する開口部とが形成され、前記開口部は、前記ノッチの先端部よりも大きな開口面積を有するものである。
【0016】
本発明に従えば、高圧側ポートからノッチ及び開口部を介してピストン室へと流れる液体の量がノッチによって規制されると共に、流速が開口部によって減速される。これにより、開口部からピストン室に流入する噴流の流入速度を抑えることができる。流入速度を抑えることにより、噴流内での気泡の発生を抑えることができ、キャビテーションエロージョンの発生を抑えることができる。これにより、従来のようにコンディット孔を設ける必要がなくなり、第2の従来技術のものよりバルブプレートの加工時間が短くなり、製造が容易である。
【0017】
上記発明において、前記開口部は、前記ノッチの先端部だけに繋がるように形成されていることが好ましい。上記構成に従えば、開口部からピストン室に流れる液体は、全てノッチを通過するので、開口部からの噴流の流入速度を確実に抑えることができる。
【0018】
上記発明において、前記開口部は、前記シリンダブロックとの摺動面に円錐状に形成され、前記開口部の側面と前記摺動面とのなす角は、鈍角となっていることが好ましい。
【0019】
上記構成に従えば、開口部の側面に沿って流れ出る噴流の噴射角度を小さくすることができ、開口部からの噴流で渦が発生しない。それ故、バルブプレート表面部における負圧の発生を防止することができ、バルブプレートの壊食によるピストンポンプ又はモータの機能低下を抑制できる。
【0020】
また、上記発明において、前記開口部は、前記ピストン室に接続した時に生じる噴流が放射状に拡散するように形成されていることが好ましい。
【0021】
上記構成に従えば、仮にキャビテーション現象が起こって噴流内に気泡が発生しても、噴流が拡散するので、キャビテーションエロージョンによる壊食エネルギーを分散させて低減させることができる。これにより、バルブプレート及びシリンダブロックの局所的な損傷を抑えることができ、前記損傷によるピストンポンプ又はモータの機能低下を抑制できる。
【0022】
更に、上記発明において、前記開口部は、平面視で円形状に形成されていることが好ましい。上記構成に従えば、噴流が扇状に略均一に拡散し、バルブプレート及びシリンダブロックの局所的な損傷を防ぐことができる。
【0023】
本発明のピストンポンプ又はモータは、上記記載の何れかのバルブプレートを備えるものである。上記構成に従えば、前述のような機能を有するピストンポンプ又はモータを得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コンディット孔と異なる構造でキャビテーションエロージョンの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態のバルブプレート21が適用されたピストンポンプ20を示す断面図である。
【図2】バルブプレート21を拡大して示す平面図である。
【図3】シリンダブロック23及びバルブプレート21の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図4】図2のバルブプレート21の一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図5】図3の開口部44付近を更に拡大して示す拡大断面図である。
【図6】シリンダポート32の回転角に対する吐出ポート42側の開口面積の変化を示すグラフである。
【図7】シリンダポート32の回転角に対するシリンダポート32から流出する作動油の流量の変化を示すグラフである。
【図8】シリンダポート32の回転角に対する油圧室37の内圧力の変化を示すグラフである。
【図9】シリンダポート32の回転角に対する吐出ポート42からピストン室31への作動油の流入速度の変化を示すグラフである。
【図10】第2実施形態のバルブプレート21Aの一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図11】第3実施形態のバルブプレート21Bの一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図12】第4実施形態のバルブプレート21Cの一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図13】ピストンポンプの第1の従来技術のバルブプレート1及びシリンダブロック2を一部拡大して概略的に示した拡大断面図である。
【図14】バルブプレート1のノッチ3付近を周方向に延びる切断面を展開して示した拡大平面図である。
【図15】第2の従来技術のバルブプレート11及びシリンダブロック2を一部拡大して概略的に示した断面図である。
【図16】バルブプレート11のノッチ3付近を周方向に延びる切断面を展開して示した拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、第1実施形態のバルブプレート21が適用されたピストンポンプ20を示す断面図である。ピストンポンプ20は、可変流量形の斜板式油圧ポンプであって、例えば産業機械及び建設機械に設けられる。ピストンポンプ20は、原動機からの駆動力によって駆動し、作動液体である作動油を産業機械及び建設機械の各アクチュエータへと供給して作動油により各アクチュエータを駆動するものである。
【0027】
ピストンポンプ20は、回転軸22と、シリンダブロック23と、複数のピストン24と、複数のシュー25と、斜板26と、バルブプレート21を備え、これらが本体ケーシング27aとバルブカバー27bとを有するケーシング27に収容されている。回転軸22は、一端部が突き出た状態でケーシング27内に配置され、回転軸22の一端部側の部分と他端部とがベアリング28,29を介して本体ケーシング27aとバルブカバー27bとに回転可能に夫々支持されている。また回転軸22には、その他端部側にシリンダブロック23が挿通されている。
【0028】
シリンダブロック23は、大略的に円筒状に形成され、回転軸22とスプライン結合などによって相対回転不能に結合されている。また、シリンダブロック23は、複数のピストン室31が形成されている。複数のピストン室31は、周方向に等間隔を空けて形成されている。各ピストン室31は、一端側がシリンダブロック23の一端にて開口し、他端側がシリンダポート32を介してシリンダブロック23の他端にて開口している。各ピストン室31には、一端側からピストン24が挿入されている。
【0029】
ピストン24は、ピストン室31に往復運動可能に嵌まり込んでおり、少なくとも一端部がピストン室31から突出している。ピストン24の一端部は、外表面が球面状に形成され、シュー25が取り付けられている。シュー25は、大略的に有底円筒状に形成され、内表面が部分球面状になっており、この部分にピストン24の一端部が中心点を中心に3軸まわりに回動可能に嵌まり込んでいる。またシュー25の底部側の外周面には、外方に突出するフランジ25aが形成されている。
【0030】
斜板26は、大略的に円板状に形成されている。斜板26は、回転軸22に挿通され、シリンダブロック23よりも回転軸22の軸線方向一端部側にて配置されており、回転軸22の軸線L1に垂直な軸線L2を中心に傾倒可能にケーシング27に設けられている。斜板26は、ケーシング27上部に設けられるサーボ機構である傾転ピストン36に連結されており、傾転ピストン36を駆動することで軸線L2まわりに傾倒する。また、斜板26は、シリンダブロック23に対向する面に支持面33を有しており、この支持面33に複数のシュー25が配置されている。そして、支持面33に配置された複数のシュー25は、押さえ板34により支持面33に押付けられている。
【0031】
押さえ板34は、大略的に円環状に形成されている。押さえ板34は、斜板26の支持面33に対向しており、押さえ板34と支持面33とでシュー25のフランジ25aを挟んでシュー25を支持面33上で保持している。押さえ板34には、回転軸22が挿通されており、押さえ板34の内周部が球面ブッシュ35の外周面にて支持されている。押さえ板34は、球面ブッシュ35の外周面上を移動可能に構成され、移動することで球面ブッシュ35の中心点を通る軸線L2を中心に傾倒する。球面ブッシュ35は、回転軸22にスプライン結合等により相対回転不能に結合され、シリンダブロック23と押さえ板34との間に配置されている。球面ブッシュ35は、図示しないシリンダスプリングに付勢されており、付勢されることでシュー25が支持面33上から離れないように押さえ板34を押圧して保持している。
【0032】
斜板26及び押さえ板34が傾倒することで、回転軸22を回転させてシリンダブロック23を回転させると、シリンダブロック23と共にピストン24も回転する。そのため、シリンダブロック23の回転に伴ってピストン24がピストン室31で往復運動する。
【0033】
ところで、バルブカバー27bには、バルブプレート21が固定されている。バルブプレート21は、大略的に円板状に形成され、その内周面に回転軸22が相対回転可能に挿通されている。バルブプレート21は、厚み方向一表面であるプレート摺動面21aがシリンダブロック23の他端に対向し、且つシールを達成した状態で当接している。
【0034】
図2は、バルブプレート21を拡大して示す平面図である。図3は、シリンダブロック23及びバルブプレート21の一部を拡大して示す拡大断面図である。図4は、図2のバルブプレート21の一部を拡大して示す拡大平面図である。図5は、図3の開口部44付近を更に拡大して示す拡大断面図である。なお、図3は、周方向に延びる切断面を展開して示したものであり、図4は、周方向に延びる吸入ポート41及び吐出ポート42を展開して示したものである。以下では、図1も参照しつつ説明する。
【0035】
バルブプレート21には、吸入ポート41及び吐出ポート42が形成されている。吸入ポート41及び吐出ポート42は、低圧側及び高圧側ポートであり、バルブプレート21の周方向に間隔を空けて形成されている。吸入ポート41及び吐出ポート42は、円弧状を成し、バルブプレート21の厚み方向に貫通している。また、吸入ポート41及び吐出ポート42は、バルブカバー27bに形成されている図示しない吸入油通路及び吐出油通路に夫々接続している。
【0036】
バルブプレート21は、吸入ポート41及び吐出ポート42に幾つかのピストン室31が夫々接続され、シリンダブロック23が回転することでピストン室が吸入ポート41及び吐出ポート42に交互に接続されるようにケーシング27内にて位置決めされている。吸入ポート41に接続されたピストン室31ではピストン24がピストン室31から引かれてピストン24の他端とピストン室31で規定される油圧室37が伸長し、吸入ポート41から油圧室37へと作動油が吸入される(吸入工程)。また、吐出ポートに接続されたピストン室31ではピストン24がピストン室31に押し込まれて油圧室37が収縮し、油圧室37から吐出ポートへと作動油が吐出される(吐出工程)。なお、図1では、バルブプレート21の構成の理解を容易にするために、吸入ポート41及び吐出ポート42を形成位置からずらして示している。
【0037】
バルブプレート21は、シリンダブロック23の他端に向って開口するノッチ43が形成されている。ノッチ43は、吐出ポート42に繋がり、吐出ポート42から矢符Aの方向へと延びる溝である。ここで、矢符Aの方向は、シリンダブロック23が回転する方向(矢符Bの方向)と逆方向である。ノッチ43は、吐出ポート42よりもその幅が狭く、矢符Aの方向に進むに連れて幅が狭くなっている。ノッチ43の深さは、吐出ポート42側が最も深く、吐出ポート42から離れるにつれて浅くなっている。ノッチ43の先端部には、開口部44が形成されている。
【0038】
開口部44は、平面視で略円形状に形成され、側面44aが深さ方向に対して円錐面状に形成されている。つまり、開口部44の孔が円錐形状になっている。開口部44の開口端の孔径dは、吐出ポート42の幅wよりも小さくノッチ43の先端部の幅wよりも大きく形成されている。これにより、ノッチ43の先端部が絞り部45を形成することと成る。また開口部44の深さ方向の先端は、その深さがノッチ43の先端部よりも深くなっており、側面44aとプレート摺動面21aとのなす角θが鈍角になっている。
【0039】
図6は、シリンダポート32の回転角に対する吸入ポート41及び吐出ポート42側の開口面積の変化を示すグラフである。図7は、シリンダポート32の回転角に対するシリンダポート32から流出する作動油の流量の変化を示すグラフである。図8は、シリンダポート32の回転角に対する油圧室37の内圧力の変化を示すグラフである。図9は、シリンダポート32の回転角に対する吐出ポート42からピストン室31への作動油の流入速度の変化を示すグラフである。図6乃至9のグラフにおいて、本実施形態に関するものは実線51,52,53,54,55で、第1の従来技術に関するものは二点鎖線61,62,63,64で示している。なお、図6乃至9のグラフは、横軸がシリンダポート32の回転角を示しており、図2の2点鎖線で示す位置、即ちピストン24がピストン室31から最も引かれた下死点(B.D.C)にある位置を中央に示している。また、図7は、油圧室37より吸入ポート41及び吐出ポート42の各々に排出される流量を正、吸入ポート41及び吐出ポート42から油圧室37に流入する流量を負の流量として油圧室37の流量収支を示している。以下では、図1乃至5も参照しつつ説明する。
【0040】
ピストンポンプ20では、ピストン室31の接続先のポートが吸入ポート41から吐出ポート42に切替わる際、吐出ポート42及びノッチ43よりも先にピストン室31に開口部44が接続される(図6乃至図9の角度θ1)。このときピストン室31の圧力が負圧となっているため、開口部44がピストン室31に接続されると、開口部44からピストン室31、具体的にはシリンダポート32に向う噴流が発生し、シリンダポート32から吸入ポート41へと作動油が逆流する(図7参照)。
【0041】
開口部44からの噴流の流量は、ピストン室31に対する開口面積及び吐出ポート42とピストン室21との圧力差により決まる。開口部44の開口面積は、開口部44とピストン室31とが接続した後、図6の実線51で示すように、第1の従来技術より急激に大きくなる。しかし、バルブプレート21の場合、開口部44の開口面積は、噴流の流量を決めるに当っては見かけの面積に過ぎない。というのも、絞り部45があるため、絞り部45の断面積によって実際の流量が決まるからである。
【0042】
即ち、ノッチ43がピストン室31に直接接続されるまで絞り部45の断面積が、噴流の流量を決める有効な面積となる(図6の一点鎖線55参照)。そのため、開口部44の開口端の孔径dをノッチ43の幅wよりも大きく形成しても、開口部44がピストン室31に接続された場合とノッチ43が直接接続される場合とでピストン室31に流れる流量が大きく変化することがない(図7の実線52及び二点鎖線62参照)。また、ピストン室31内の圧力変動(図8の実線53及び二点鎖線63参照)及び振動についても、第1の従来技術のものと略同等に抑えることができる。
【0043】
また、開口部44からの噴流を生じさせる作動油が吐出ポート42から絞り部45を通って開口部44に流れてくるため、開口部44の開口端に達するまでに前記作動油の流速が減速されている(図9の実線54及び二点鎖線64参照)。そのため、開口部44からの噴流の流速が第1の従来技術のバルブプレート11の場合に比べてかなり減速される。これにより、噴流の流入速度がキャビテーション現象を起こすのに足りる速度(図7の速度v)に到達せず、気泡の発生が抑えられ、キャビテーションエロージョンの発生が抑えられる。
【0044】
更に、開口部44が平面視で円形方に形成されているため、開口部44からの噴流が図4の矢符Cで示すように放射状、具体的には扇状に略均一に拡散する。そのため、噴流の流入速度が充分に減速されておらず、仮にキャビテーション現象を起こした場合であっても、キャビテーションエロージョンによる壊食エネルギーを分散させて、各所に与えられる壊食エネルギーを低減させている。これにより、高い壊食エネルギーが局所に与えられて、バルブプレート及びシリンダブロックが損傷することを抑えることができ、前記損傷による漏れ量の増加及び騒音増加等のピストンポンプ20の機能低下を抑制できる。従って、ピストンポンプ20の信頼性が向上する。
【0045】
また、開口部44の深さ方向の先端をノッチ43の先端部よりも深く、且つ側面44aとプレート摺動面21aとのなす角θ(図5参照)を120度以上に形成することで、開口部44からの噴流が開口部44の側面44aからプレート摺動面21aに沿って流れ出ることとなり、噴流がプレート摺動面21aから剥離して開口部44近傍で渦が発生して負圧になることを防ぐことができる。これにより、プレート摺動面21aの壊食を防ぐことができる。従って、ピストンポンプ20の信頼性が向上する。
【0046】
シリンダブロック23が更に回動すると、シリンダポート32は、次にノッチ43に接続される(図6乃至図9の角度θ2)。ノッチ43は、平面視でV字状に形成されており、吐出ポート42に近づくにつれて徐々にその幅及び深さを漸増させているため、ピストン室31に対する開口面積の変化が滑らかである。そのため、ピストン室31と吐出ポート42とが直接接続される場合に比べて、吐出ポート42からピストン室31に逆流する噴流の流量変動及びピストン室31の圧力変動を滑らかになる。
【0047】
シリンダブロック23が更に回動すると、シリンダポート32が、やがて吐出ポート42と接続される(図6乃至図9の角度θ3)。接続された後、しばらくすると、吐出ポート42からの逆流がおさまり、ピストン24により油圧室37の油圧がシリンダポート32を介して吐出ポート42へと押し出される。
【0048】
このようにバルブプレート21では、開口部44を形成することでキャビテーションエロージョンの発生が抑制されるので、バルブプレート21及びシリンダブロック23の壊食による損傷を防ぐために、第2の従来技術のように、開口部44よりも先にピストン室31に接続され、油圧室37の圧力を昇圧させ、且つ噴流の方向をピストンに向うように変えるためのコンディット孔12を形成する必要がない。コンディット孔12がないので、コンディット孔12からピストン室31に作動油が逆流することによる吐出ポート42から吸入ポート41への流量損失をなくすことができる。また、コンディット孔を形成しないことで、バルブプレート21の加工時間を低減することができ、且つバルブプレート21の製造が容易となる。
【0049】
[第2実施形態]
図10は、第2実施形態のバルブプレート21Aの一部を拡大して示す拡大平面図である。図10は、図4と同様に、周方向に延びる吸入ポート41及び吐出ポート42を展開して示したものである。第2実施形態のバルブプレート21Aは、第1実施形態のバルブプレート21と構成が類似している。以下では、第2実施形態のバルブプレート21Aの構成について、第1実施形態のバルブプレート21の構成と異なる点についてだけ説明し、その他の構成について同一の符号を付してその説明を省略する。第3乃至第5実施形態についても同様である。
【0050】
バルブプレート21Aでは、ノッチ43Aが矢符Aの方向に延びており、その幅Wが一定になっている。ノッチ43Aの幅wは、開口部44の開口端の孔径dよりも小さく形成されている。なお、ノッチ43Aの深さは、吐出ポート42側が最も深く、吐出ポート42から離れるにつれて浅くなっている。このように形成されることで、ノッチ43Aを通って開口部44に達する油圧もまた流速が減速されることとなり、開口部44からの噴流の流入速度を抑えることができる。これにより、第1実施形態のバルブプレート21と同様の作用効果を奏する。
【0051】
[第3実施形態]
図11は、第3実施形態のバルブプレート21Bの一部を拡大して示す拡大平面図である。図11は、図4と同様に、周方向に延びる吸入ポート41及び吐出ポート42を展開して示したものである。バルブプレート21Bでは、連通溝43Bと平面視で楕円状の開口部44Bが形成されている。連通溝43Bは、矢符Aの方向に延びており、基端側に吐出ポート42が繋がっており、先端側に開口部44Bが接続されている。
【0052】
連通溝43Bは、吐出ポート42から開口部44に向う途中に幅が狭くなったくびれ部45Bが形成されている。このくびれ部45Bが絞り部の役割を果たしている。そのため、くびれ部45Bを通って開口部44Bに達する油圧もまた流速が減速されることとなり、開口部44Bからの噴流の流入速度を抑えることができる。これにより、第1実施形態のバルブプレート21と同様に、圧力変動、及びキャビテーションエロージョンの発生を抑えることができる。また、楕円状の開口部44によって噴流を放射状に拡散させることができる。
【0053】
[第4実施形態]
図12は、第4実施形態のバルブプレート21Cの一部を拡大して示す拡大平面図である。図12は、図4と同様に、周方向に延びる吸入ポート41及び吐出ポート42を展開して示したものである。バルブプレート21Cでは、開口部44Cが平面視で矩形状に形成されており、開口部44Cの幅Wがノッチ43の先端部の幅Wより大きく形成されている。そのため、第1実施形態と同様に、ノッチ43の先端部が絞り部45を成す。これにより、第1実施形態のバルブプレート21と同様に、圧力変動、及びキャビテーションエロージョンの発生を抑えることができる。また、矩形状に形成される開口部44Cによって、噴流を放射状に拡散することができる。
【0054】
第1乃至第4実施形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において、構成を変更することができる。例えば、各実施形態では、可変流量形の斜板式ピストンポンプについて説明したけれども、固定容量形のピストンポンプに適用しても良く、また斜板式に限らず他型式のピストンポンプについても適用が可能である。また、各実施形態では、バルブプレート21をピストンポンプ20に適用した場合ついて説明したが、バルブプレート21を適用するものがピストンモータであってもよい。ピストンモータに適用した場合、吸入ポート41が高圧側ポートとなり、吐出ポート42が低圧側ポートとなるため、吸入ポート41にノッチ43及び開口部44が形成されることとなる。なお、ピストンモータの場合、回転軸が逆方向にも回転するため、双方のポートにノッチ43及び開口部44を形成しておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
20 ピストンポンプ
21,21A,21B,21C バルブプレート
23 シリンダブロック
24 ピストン
31 ピストン室
32 シリンダポート
36 傾転ピストン
41 吸入ポート
42 吐出ポート
43,43A ノッチ
44,44B,44C 開口部
44a 側面
45,45A,45B 絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン室でピストンが往復運動するピストンポンプ又はモータのバルブプレートであって、
前記ピストン室に交互に接続される低圧側ポート及び高圧側ポートと、
前記高圧側ポートの端部に繋がり、前記端部から前記低圧側ポートの方へと延びるノッチと、
前記ノッチの先端部に繋がり、前記ピストン室に接続可能に開口する開口部とが形成され、
前記開口部は、前記ノッチの先端部よりも大きな開口面積を有することを特徴とするバルブプレート。
【請求項2】
前記開口部は、前記ノッチの先端部だけに繋がるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバルブプレート。
【請求項3】
前記開口部は、シリンダブロックとの摺動面に円錐状に形成され、
前記開口部の側面と前記摺動面とのなす角は、鈍角となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブプレート。
【請求項4】
前記開口部は、前記ピストン室に接続した時に生じる噴流が放射状に拡散するように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載のバルブプレート。
【請求項5】
前記開口部は、平面視で円形状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のバルブプレート。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つに記載のバルブプレートを備えるピストンポンプ又はモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−174690(P2010−174690A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16725(P2009−16725)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(592216188)株式会社カワサキプレシジョンマシナリ (67)
【Fターム(参考)】