説明

バルーンカテーテル

【課題】ダイヤモンド様薄膜を備え且つスリップしにくく正確に病変部位を拡張することが可能なバルーンカテーテルを実現できるようにする。
【解決手段】バルーンカテーテルは、バルーン本体11と、バルーン本体11の外側面に形成されたダイヤモンド様薄膜12とを備えている。ダイヤモンド様薄膜12は、シリコンの含有量が5原子%以上且つ35原子%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルに関し、特に、経皮的冠動脈形成術又は動脈内バルーンパンピング等に用いる耐摩耗性に優れたバルーン部分を有するバルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の狭窄を治療する方法として、先端にバルーンが設けられたカテーテルを血管内に挿入し、バルーンをふくらませることにより狭窄部位を押し広げるカテーテル治療がある。
【0003】
例えば、経皮経管的血管形成術(PTA)又は経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)においては、カテーテルを大腿、肘、手首付近の血管から挿入して、病変部位まで導き、病変部位においてバルーンを膨張させることにより狭窄部位を押し広げる。
【0004】
また、大動脈バルーンパンピング(IABP)法は、心筋梗塞による心不全などの治療に広く用いられている。IABPにおいてバルーンカテーテルは大腿動脈から挿入され、その先端が左鎖骨下動脈分枝部直下の胸部下行大動脈に置かれる。胸部下行大動脈に置かれたバルーンカテーテルのバルーン内にポンプ装置により流体を導入又は導出することにより、バルーンの膨張及び収縮を行う。バルーンの拡張と収縮とは心電図に同期させ、心室の収縮期にバルーンを収縮させ、寝室の拡張期にバルーンを膨張させる。これにより、拡張期には冠動脈血流を増加させて虚血を軽くすることにより不全心臓を改善し、収縮期には後負荷を下げることにより左心室の負担を軽くする。なお、導入される流体は特に限定されないが、ポンプ装置の駆動に応じて素早くバルーンが拡張又は収縮するように、質量の小さいヘリウムガス等が用いられる。
【0005】
バルーンの材質には、通常、ポリウレタン又はポリウレタンウレア等の各種ポリマー材料からなるフィルム(膜)が使用されている。一方、バルーンを挿入する大動脈には、血管内面にカルシウム等が沈着して石灰化した石灰化部分が存在するおそれがある。石灰化部分においてバルーンが削られると、最悪の場合には、バルーンが破損し、ヘリウムガスが漏出してしまう。このため、バルーンに耐摩耗性を付与することは非常に重要である。
【0006】
バルーンの耐摩耗性を向上させる方法として、バルーンをダイヤモンド様薄膜(DLC膜)により被覆する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2005−40277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ダイヤモンド様薄膜は平滑で摩擦係数が低い材料である。このため、前記従来のDLC膜により被覆されたバルーンは、膨張させた際に治療すべき病巣又は血管壁に対して長手方向に移動又はスリップする傾向を有する。このため、正確に病変部位を拡張させることが困難であるという問題を有している。
【0008】
また、ダイヤモンド様薄膜とバルーン本体との密着性が悪く、ダイヤモンドコーティングがバルーン本体から剥離してしまうという問題がある。特に、バルーンは体内において拡張及び収縮を行う必要があるため、その形状が大きく変化する。このため、バルーン本体の表面に被覆したダイヤモンド様薄膜に大きな応力が加わり、ダイヤモンド様薄膜が剥離したり、クラックが生じたりするという問題がある。
【0009】
本発明は、前記従来の問題を解決し、ダイヤモンド様薄膜を備え且つスリップしにくく正確に病変部位を拡張することが可能なバルーンカテーテルを実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明はバルーンカテーテルを、バルーンの外側表面を覆うシリコンを含むダイヤモンド様薄膜を備えた構成とする。
【0011】
具体的に、本発明に係るバルーンカテーテルは、バルーン本体と、バルーン本体の外側面に形成されたダイヤモンド様薄膜とを備え、ダイヤモンド様薄膜は、シリコンの含有量が5原子%以上且つ35原子%以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のバルーンカテーテルによれば、バルーン本体の外側を覆うダイヤモンド様薄膜はシリコンの含有量が5原子%以上且つ35原子%以下であるため、ダイヤモンド様薄膜の接触角及び摩擦係数が大きくなる。従って、血管内においてバルーンを膨張させた際に、バルーンが血管内においてスリップしにくく、病変部位を正確に拡張することができる。また、シリコンを含むことにより、バルーン本体とダイヤモンド様薄膜との密着性が向上しダイヤモンド様薄膜がバルーン本体から剥離することを防止できる。さらに、シリコンを含むことによるDLC膜の硬度の低下はほとんど生じない。
【0013】
本発明のバルーンカテーテルにおいて、ダイヤモンド様薄膜は、水の接触角が70度以上且つ80度以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のバルーンカテーテルにおいて、ダイヤモンド様薄膜は、その表面における摩擦係数が、0.38以上であることが好ましい。
【0015】
本発明のバルーンカテーテルにおいて、ダイヤモンド様薄膜は、その表面における弾性係数が150GPa以下で且つ表面硬度が20GPa以上であることが好ましい。
【0016】
本発明のバルーンカテーテルにおいて、ダイヤモンド様薄膜は、グラファイト結合及びダイヤモンド結合を有し、ダイヤモンド様薄膜におけるグラファイト結合のダイヤモンド結合に対する割合は1以上であることが好ましい。
【0017】
本発明のバルーンカテーテルにおいて、ダイヤモンド様薄膜は、膜厚が5nm以上且つ100nm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るバルーンカテーテルによれば、ダイヤモンド様薄膜を備え且つスリップしにくく正確に病変部位を拡張することが可能なバルーンカテーテルを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係るバルーンカテーテルのバルーン10を示している。図1に示すように本実施形態のバルーンは、経皮経管的血管形成術(PTA)、経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)及び大動脈バルーンパンピング(IABP)等に用いるバルーンカテーテルのバルーンである。バルーン10は、バルーン本体11と、バルーン本体11の外側表面を覆う表面層12とを有している。
【0020】
バルーン本体11は、樹脂からなる一般的なバルーンである。材質は特に限定されないが、例えば、エーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン等のポリウレタン、ポリアミド系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド又はポリエステル系エラストマー等であればよい。
【0021】
表面層12は、珪素(Si)を含むダイヤモンド様薄膜(DLC膜)である。本実施形態のDLC膜はSiを含んでいる。このため、Siの添加により摩擦係数が大きくなるので、血管内でバルーンを膨張させた際にスリップしにくく、病変部位を正確に拡張することが可能となる。また、Siの添加によりDLC膜とバルーン本体との密着性を向上させることができる。一方、Siを添加することによる硬度の低下は後で説明するように小さいため、耐摩耗性も確保することができる。
【0022】
以下に、本実施形態のバルーンの製造方法の一例について説明する。図2は、本実施形態において用いた高周波プラズマCVD装置を模式的に示したものである。真空チャンバー21の内部に設けられた誘導結合型電極23に、イオン源及び炭素源となるガスをそれぞれ導入することにより発生させたプラズマを、ターゲット22の上に膜としてを固体化して成膜する通常の高周波プラズマCVD装置である。イオン源には、アルゴンを用い、炭素源にはアセチレン(C22)等を用いることができる。また、炭素源と共にシリコン源となるガスを導入することによりシリコンを含むDLC膜が形成できる。
【0023】
具体的には、まず、ポリウレタンからなるバルーン本体をプラズマCVD装置のチャンバ内にセットし、チャンバーにアルゴンガス(Ar)を圧力が1×10-1Pa(7.5×10-4Torr)となるように導入した後、放電を行うことによりArイオン発生させ、発生したArイオンをバルーン本体の表面に衝突させるボンバードクリーニングを約3分間行った。
【0024】
次に、チャンバ内にArガスに加えて炭素源及びシリコン源となるテトラメチルシラン(Si(CH34)を20分間導入した。これにより、珪素(Si)及び炭素(C)を主成分とする膜厚が40nmのアモルファス状のDLC膜によりバルーン本体をコーティングした。また、テトラメチルシランに加えてアセチレンを種々の割合で導入することにより、Si含有量が異なるDLC膜を形成した。さらに、比較対象として、アセチレンのみを導入してSiを含まないDLC膜を形成した。DLC膜を形成する際のチャンバ内の圧力は1×10-1Paとなるように調整した。また、形成時におけるバルーン本体の温度は約75℃であった。
【0025】
なお、DLC膜を形成する際にCF4等のフッ素を含むガスを添加することにより、Siとフッ素とを含むDLC膜を形成することも可能である。
【0026】
このようにして得られたDLC膜をコーティングしたバルーンについて、表面の摩擦係数とスリップとの相関を測定した。摩擦は互いに接触しあう表面の複雑な現象であり、摩擦力を再現性よく測定するためには、外乱要因を排除しなければならない。このため、垂直抗力に相当する加重を与えた静止試料に対して、摩擦面を水平運動させ且つ試料を拘束する外力が摩擦力そのものであるよう摩擦系を組み立てた。今回、摩擦力の測定に用いた装置は、荷重ブロックに試料を固定し、資料を固定した荷重ブロックを水平な摩擦面に置き、摩擦面を水平に往復運動させ、荷重ブロックをルーズに接触させたロードセルで拘束する機構を採用しており、摩擦力を直接測定できる。本装置を使用して、DLC膜を形成したバルーンを水中でステンレス板と接触した状態で一分間に11回摺動させ、3時間放置した後、バルーンの摩擦係数を測定した。Siを添加してないDLC膜の摩擦係数は0.28であった。一方Siを30%含むDLC膜の場合には、摩擦係数が0.38であった。
【0027】
次に、摩擦係数を測定した各バルーンカテーテルを外形が2.9mm、内径が2.3mmのポリエチレンパイプ内に挿入し、バルーンに8kg/cm2の内圧をかけて膨張させ、パイプ内の所定の位置に固定した。パイプ内に固定したバルーンの下部に10gの錘をつけて20分間放置し、バルーンの下降距離を測定した。図3に示すようにSiを含まないDLC膜及びSiを3%含有するDLC膜を被覆したバルーンは10mm〜13mm下降した。一方、Siを5%及び40%含有するDLC膜を被覆したバルーンはほとんど下降せず、Siを30%含有するDLC膜を被覆したバルーンは全く下降しなかった。このことからバルーン膜の表面に形成されたDLC膜の摩擦係数を高くすることにより、血管内の所定の位置でバルーン膜を膨張させる際に、バルーンのスリップが防止され、所定位置に確実に固定することができる。
【0028】
以上説明したように、バルーンのスリップのしやすさと、摩擦係数の大きさとは相関を有しており、摩擦係数が大きいほどスリップをしにくくなると考えられる。摩擦係数及び接触角の値が大きくスリップしにくいDLCを得るためには、DLC膜に添加するSiの量を少なくとも5%以上とすることが好ましい。
【0029】
なお、DLC膜のSi含有量は、PHISICAL ELECTRONICS社製のPHI−660型走査型オージェ電子分光装置を用いて測定した。測定の際には、電子銃の加速電圧を10kVとし、試料電流は500nAとした。また、Arイオン銃の加速電圧は2kVとし、スパッタリングレートは8.2nm/minに設定した。
【0030】
また、Siの添加はDLC膜のぬれ性を改善するという効果を有している。図4はSiの含有量とDLC膜表面における水の接触角との関係を示している。なお、接触角は、協和界面化学株式会社製の自動接触角計(型式 DM-300)を用いて測定した。測定の際には蒸留水を測定面に5μL滴下した。着滴の形状をCCDカメラにより画像として取り込み、画像処理することにより自動的に接触角を測定した。
【0031】
図4に示すようにSiの含有量が5%程度のところで接触角がピークとなり、含有量が15%から35%の範囲では、接触角が70度から80度の範囲で安定した。さらにSiの含有量が増えると、接触角は上昇し疎水性が増大する。
【0032】
次に、バルーン本体とDLC膜との密着性について検討した。図5(a)及び(b)はDLC膜中の炭素−炭素結合の状態を測定した結果であり、(a)はSiを含まないDLC膜を示し、(b)はSiを27原子%(at%)添加した場合を示している。なお、測定には、日本分光株式会社製のNRS―3200型顕微レーザーラマン分光光度計を用い、励起波長は532nm、レーザーパワーは10mW、回折格子は600本/mm、対物レンズは20倍、スリットは0.1×6mm、露光時間は60秒、積算は2回とした。
【0033】
図5(a)に示すようにSiを含まないDLC膜は、ダイヤモンド結合(SP3結合)を示すピークの面積がグラファイト結合(SP2結合)を示すピーク面積よりも大きい。一方、図5(b)に示すようにSiを添加した場合には、SP2結合を示すピークの面積がSP3結合を示すピークよりも大きくなっている。
【0034】
各ピークの面積をカーブフィッティング処理(バンド分解)により求め、得られたピーク面積の比を求めることによりSP2結合とSP3結合との存在比率を求めたところ、Siを含まないDLC膜においてはSP2結合のSP3結合に対する存在比が0.46となり、Siを27at%含むDLC膜においてはSP2結合のSP3結合に対する存在比は1.17となった。
【0035】
図6はSiの添加量に対して、SP2結合とSP3結合との存在比をプロットした結果を示している。図6に示すようにSiの添加量が5at%を超えると、SP2/SP3の値が大きく上昇する。SP2/SP3の値の上昇に伴い、DLC膜のヤング率が小さくなり、DLC膜とバルーン本体との密着性が向上することが期待される。
【0036】
図7はSiの添加量に対して、DLC膜のヤング率を測定した結果を示している。図7に示すようにDLC膜のヤング率は、Siの添加量が5at%を越えると大きく低下している。このように、DLC膜にSiを添加することによりヤング率が小さくなり、DLC膜とバルーン本体との密着性が向上するため、バルーン本体からDLC膜が剥離することを抑えることができる。
【0037】
一方、Siの添加によりSP2結合が増加すると、DLC膜の硬度の低下を生じるおそれがある。図8は、Siの添加量とDLC膜の硬度との相関を示している。図8に示すように、Siの添加により硬度が低下し、Si添加量が5at%〜10at%程度となったところで硬度が最低となった。しかし、硬度の低下は大きくなく、耐摩耗性が大きく低下することはない。さらにSiの添加量を増やすと硬度が上昇した。これは、Siの添加によりSi−C結合が生成されるためであると考えられる。Si−C結合は強固な結合であり、SP3結合の減少による硬度の低下をSi−C結合の増加が補うため、硬度の大きな低下が生じないと考えられる。
【0038】
なお、硬度及びヤング率の測定にはHysitron社製の高感度(0.0004nm、3nN)センサーを搭載した90度三角錐のダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法により行った。圧痕状態の測定には試料表面を微小な探針で走査することによって三次元形状を高倍率で観察できる顕微鏡である株式会社島津製作所製の走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)を用いた。ナノインデンテーションによる測定条件は100μNの精度でダイヤモンド圧子を制御しながら試料に押し込み、荷重-変位曲線の解析から硬度や弾性率等の力学的性質を定量した。圧子の押し込み時間は5秒間とし、また引き抜き時間も5秒間に設定して測定を行った。
【0039】
以上説明したように、DLC膜とバルーン本体との密着性を向上させ、DLC膜の剥離を防止するためには、Siの含有量を5at%以上、好ましくは10at%以上、さらに好ましくは15at%以上とすればよい。一方、Siを添加することによりDLC膜の硬度が低下する場合があるが、DLC膜の耐摩耗性の低下は許容範囲内である。一方、Siを25at%以上添加すれば、DLC膜の硬度の低下はほとんどない。
【0040】
従って、耐剥離性、耐摩耗性に優れ且つスリップしにくいDLC膜を得るためには、Siの含有量を5at%以上、好ましくは10at%以上、さらに好ましくは15at%以上とすればよい。一方、Siの含有量が50at%を超えるとDLC膜の形成が困難となる。このため、Siの含有量は50at%以下とすることが好ましい。また、ぬれ性の観点からはSiの含有量を35at%以下とすることが好ましい。
【0041】
本実施形態においては、DLC膜の膜厚は40nmとしたが、膜厚は任意に変更してかまわない。特に、生体成分による医療器具本体の劣化を防止するという観点からは、DLC膜の膜厚が厚い方が好ましい。しかし、バルーン等の使用時に大きな変形が加えられる器具の場合には、DLC膜の膜厚をあまり厚くすると、変形の際にクラックが発生するおそれがある。このため、DLC膜の膜厚は5nm以上且つ100nm以下とすることが好ましく、10nm以上且つ70nm以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
本実施形態において、Siを含むDLC膜をテトラメチルシランにより形成したが、他のガスを用いて形成してもよい。また、Si源とC源とを別々のガスにより供給してもよい。例えばモノシラン若しくはジシランとアセチレン若しくはベンゼンとの組み合わせ又はテトラメチルシラン若しくはジメチルシラン等が好ましい。
【0043】
また、プラズマCVD法に代えて、スパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、CVD法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法等の公知の方法によりDLC膜を形成してもよい。
【0044】
また、DLC膜はバルーン本体の表面に直接形成することができるが、バルーン本体とDLC膜とをより強固に密着させるために、バルーン本体とDLC膜との間に中間層を設けてもよい。中間層を設ける場合には、バルーン本体の材質に応じて種々のものを用いることができるが、シリコンと炭素、チタン(Ti)と炭素又はクロム(Cr)と炭素からなるアモルファス膜等の公知のものを用いることができる。
【0045】
また、中間層は、バルーン本体の表面に均一に形成する必要があるため、ある程度の膜厚が必要である。しかし、膜厚があまりに厚くなると成膜時間が長くなり生産性が低下する。従って、中間層の膜厚は5nm以上且つ100nm以下とすればよく、好ましくは10nm以上且つ40nm以下とする。
【0046】
また、中間層は、公知の方法を用いて形成することができ、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法又はアークイオンプレーティング法等を用いればよい。
【0047】
本実施形態においては、経皮経管的血管形成術(PTA)、経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)及び大動脈バルーンパンピング(IABP)等に用いるバルーンカテーテルについて説明したが、他のバルーンカテーテルにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るバルーンカテーテル及びその製造方法は、ダイヤモンド様薄膜を備え且つスリップしにくく正確に病変部位を拡張することが可能なバルーンカテーテルを実現でき、特に経皮的冠動脈形成術又は動脈内バルーンパンピング等に用いる耐摩耗性に優れたバルーン部分を有するバルーンカテーテル等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルのバルーンを示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの製造に用いたプラズマCVD装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルに用いたDLC膜におけるSi含有量とバルーンのスリップとの相関を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルに用いたDLC膜におけるSi含有量と接触角との相関を示すグラフである。
【図5】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルに用いたDLC膜における炭素−炭素結合の状態を示し、(a)はSiを含まないDLC膜のラマンスペクトルであり、(b)はSiを27at%含むDLC膜のラマンスペクトルである。
【図6】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルに用いたDLC膜におけるSi添加量とSP2結合のSP3結合に対する割合との相関を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルに用いたDLC膜におけるSi添加量とヤング率との相関を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルに用いたDLC膜におけるSi添加量と表面硬度との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 バルーン
11 バルーン本体
12 表面層
21 真空チャンバー
22 ターゲット
23 誘導結合型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン本体と、
前記バルーン本体の外側面に形成されたダイヤモンド様薄膜とを備え、
前記ダイヤモンド様薄膜は、シリコンの含有量が5原子%以上且つ35原子%以下であることを特徴とするバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記ダイヤモンド様薄膜は、水の接触角が70度以上且つ80度以下であることを特徴とする請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記ダイヤモンド様薄膜は、その表面における摩擦係数が、0.38以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
前記ダイヤモンド様薄膜は、その表面における弾性係数が150GPa以下で且つ表面硬度が20GPa以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記ダイヤモンド様薄膜は、グラファイト結合及びダイヤモンド結合を有し、
前記ダイヤモンド様薄膜におけるグラファイト結合のダイヤモンド結合に対する割合は1以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
前記ダイヤモンド様薄膜は、膜厚が5nm以上且つ100nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のバルーンカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−245883(P2008−245883A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90232(P2007−90232)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【Fターム(参考)】