説明

バルーンカテーテル

【課題】プロファイルが増大する設計を伴わず、バルーン内に残存する気泡を簡便に除去可能なバルーンカテーテルを実現する。
【解決手段】バルーンカテーテル1は、インフレーションルーメン3の先端側に膨潤性樹脂4が配備されており、前記膨潤性樹脂にはインフレーションルーメンとカテーテル外部が連通する穴5が備えられている。穴を通じてバルーン内に残存する気泡を簡便に除去することが可能であるとともに、気泡の除去後は膨潤性樹脂の膨潤によって穴がシールされるため、液漏れやシャフト内への血液の進入を防ぐことができる。また、インフレーションルーメンの内側に膨潤性樹脂を配備できるため、プロファイルの増大を伴わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮的経管的に体内に導入され、血管内狭窄部治療や体内管腔閉塞に使用されるバルーンを有するカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管などの脈管内の所定の位置に挿入し、必要に応じてバルーンを拡張させることで治療を行うバルーンを備えたカテーテルが使用されている。
【0003】
血管内にて狭窄あるいは閉塞が生じた場合において、血管の狭窄部位あるいは閉塞部位に対しバルーンを高圧で拡張して血管末梢側の血流を改善する血管形成術(PTA:Percutaneous Transluminal Angioplasty、PTCA: Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)が一般的に多くの医療機関において実施されている。血管形成術用バルーンカテーテルを用いた一般的な術例は以下のとおりである。まずガイドカテーテルを大腿動脈、上腕動脈、橈骨動脈等の穿刺部位から挿通し大動脈を経て冠状動脈の入口に先端を位置させた後、バルーンカテーテルを貫通させたガイドワイヤを血管の狭窄部位あるいは閉塞部位を越えて前進させる。その後バルーンカテーテルをガイドワイヤに沿って前進させ、バルーンを狭窄部位あるいは閉塞部位に位置させた状態で高圧で拡張し、狭窄部位あるいは閉塞部位を内側から広げることにより治療を行う。治療後はバルーンを収縮させて体外に除去することで手技が完了となる。
【0004】
これらの血管形成術を行う場合、血流が一時的に遮断され、末梢側の部位が虚血状態に陥る。特に頸動脈や脳動脈における血管閉塞や血管狭窄の場合は、手技を実施している間、脳への血流が停止してしまうこととなる。治療対象者がこの手技に対しての耐性があるかを事前に調べるために、治療部位より手前側の血管を一定時間閉塞して耐性を調べる方法(BOT:Balloon Oclusion Test)が採用されている。BOTにおいては正常血管内でバルーンを拡張することとなり、血管へのダメージを最小限に抑える必要があるため、低圧での拡張が可能なバルーン(オクルージョンバルーンカテーテル)が広く使用されている。
【0005】
また、オクルージョンバルーンカテーテルはBOT以外にも、病変部位への薬剤投与する際に、正常血管への薬剤の流出を防ぐ目的での正常血管の閉塞や、血流に起因する圧力下で動脈壁が薄くなってできた動脈瘤に対して塞栓物質を送達する際に、血流を減少または遮断させて手技の操作性を向上させる目的での血管閉塞など様々な用途で使用されている。
【0006】
一般的に、これら各種バルーンカテーテルを用いてバルーンを拡張する際には、体内での視認性を確保するために造影剤を混入した生理食塩水が使用される。これによりバルーンのX線造影画像からバルーンの形状や大きさを確認することが可能となり、バルーンカテーテルを安全に使用することができる。しかしながら、バルーン内に気泡が残存すると、X線造影画像が不明瞭になり、バルーンカテーテルを安全に使用することが困難になる恐れがある。また、何らかの原因でバルーンが破裂した場合には、血液中に気泡が混入してしまう危険性も考えられる。このような問題を解決するために、バルーン内に残存する気泡の除去を簡便に行うための種々の技術が開示されている。
【0007】
特許文献1では、カテーテル本体の基端側から先端側に延び、且つバルーンの内部空間とそれぞれ連通するバルーン膨張用液体注入用副通路と、バルーン内および副通路内の空気の排気用副通路を設け、注入用副通路には注射器装着時には開口し、非装着時には閉塞する弁体が設けられており、排気用副通路の基端は外部と連通可能な閉塞端となっていることを特徴とするバルーンカテーテルが開示されている。
【0008】
この先行技術においては、バルーン内に連通する注入用ルーメン以外に、カテーテル先端側で注入用ルーメンと連通する排気用ルーメンを備えることで、バルーン内に残存する気泡を簡便に除去することが可能となっている。ところが、この排気用ルーメンを追加するカテーテル設計ではプロファイル増大の問題が生じる。すなわち、排気用ルーメンを1つ付け加え、プロファイルを増大させることはバルーンカテーテルを狭い体腔や血管の狭窄部位等で使用する際に挿入しにくくなるという不都合を生じる。
【0009】
特許文献2では、先端部近傍の外周上に装着された膨張収縮可能なバルーン、メインルーメン、前記バルーンを膨張させる注入液の通る注入液通路を備え、さらに前記注入液通路からカテーテル外部への流体の流出を許容し、カテーテル外部から前記注入液通路内への流体の流入を阻止する、一方弁を設けたことを特徴とするバルーンカテーテルが開示されている。
【0010】
この先行技術では、アウターチューブに形成されたパージ孔をパージ孔カバーで塞ぐことでシャフト外部に一方弁を設け、バルーン内に残存する気泡を簡便に除去することを可能としている。しかしながら、この構造においてもシャフト外部に一方弁を設けているため、カテーテルプロファイルの増大は避けられない。
【0011】
一方、特許文献3では、バルーン部の後端開口を塞ぐように弾性体よりなる液漏れ防止部材が設けられており、小径通路部材がバルーン内部と連通するように前記液漏れ防止部材にはスリットまたはピンホールが形成されており、小径通路部材を通じてバルーンに液体を充填した後に小径通路部材を離脱させることでスリットまたはピンホールが自発的に閉塞されることを特徴とする液漏れ防止部材付バルーンカテーテルが開示されている。
【0012】
この先行技術では、バルーン部後端部内に弾性体よりなる液漏れ防止部材を設ける構造であるため、プロファイルの増大を防ぐことができるものの、弾性体の弾性力によりスリットまたはピンホールをシールする方法では、完全に液漏れを防止することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭59−177064号公報
【特許文献2】特開2005−103120号公報
【特許文献3】実開昭63−88350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の問題に鑑み本発明が解決しようとするところは、プロファイルが増大する設計を伴わず、バルーン内に残存する気泡を簡便に除去可能なバルーンカテーテルを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、カテーテル先端側の外周上に配置された拡張収縮可能なバルーンと、カテーテル基端部に配置されたハブと、ハブからバルーン内部まで液体を連通させるためのインフレーションルーメンを内部に有する本体シャフトとを少なくとも備えたバルーンカテーテルであって、インフレーションルーメンの先端側には液体に接触することで膨潤する膨潤性樹脂が配備されており、前記膨潤性樹脂にはインフレーションルーメンとカテーテル外部が連通する穴が備えられていることを特徴とする、バルーンカテーテルに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、プロファイルが増大する設計を伴わず、バルーン内に残存する気泡を簡便に除去可能なバルーンカテーテルを提供するものである。本発明によれば、穴を通じてバルーン内に残存する気泡を簡便に除去することが可能であるとともに、気泡の除去後は膨潤性樹脂の膨潤によって穴がシールされるため、液漏れやシャフト内への血液の進入を防ぐことができる。また、インフレーションルーメンの内側に膨潤性樹脂を配備できるため、先行技術のようにプロファイルの増大を伴わない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るバルーンカテーテルの一実施例であり、インフレーションルーメンの先端に穴が2つあいた膨潤性樹脂を配備したバルーンカテーテルの縦断面を示す一部概略側面図(a)、液体注入前のバルーンカテーテルの断面Iの断面端面図(b)、液体注入後、膨潤性樹脂の膨潤によりインフレーションルーメン先端がシールされたバルーンカテーテルの断面Iの断面端面図(c)である。
【図2】本発明に係るバルーンカテーテルの一実施例であり、穴のあいた膨潤性樹脂がバルーン樹脂内に埋め込まれた構造でインフレーションルーメンの先端側に配置されており、ガイドワイヤルーメンを内部に有するインナーシャフトが本体シャフト内部に備えられているバルーンカテーテルの縦断面を示す一部概略側面図(a)、液体注入前のバルーンカテーテルの断面IIの断面端面図(b)、液体注入後、膨潤性樹脂の膨潤によりインフレーションルーメン先端がシールされたバルーンカテーテルの断面IIの断面端面図(c)である。
【図3】本発明に係るバルーンカテーテルを含むシステムの一実施例であり、穴のあいた膨潤性樹脂がインフレーションルーメンの先端側に配置されており、インフレーションルーメンと並行したガイドワイヤルーメンを備えたチューブにより本体シャフトが構成されているバルーンカテーテルの縦断面を示す一部概略側面図と膨潤性樹脂の穴を通るように配置された液体注入器の斜視図である。
【図4】本発明に係るバルーンカテーテルの一実施例であり、穴のあいた膨潤性樹脂がシャフト樹脂内に埋め込まれた構造でインフレーションルーメンの先端側に配置されており、ガイドワイヤルーメンを内部に有するインナーシャフトが本体シャフトのインフレーションルーメン内部に備えられており、さらに本体シャフトに作業用ルーメンが備えられているバルーンカテーテルの縦断面を示す一部概略側面図(a)、断面IIIの断面図(b)である。
【図5】本発明に係るバルーンカテーテルのうち、OTW型の概略斜視図である。
【図6】本発明に係るバルーンカテーテルのうち、RX型の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の具体的な実施形態を説明する。本発明に係るバルーンカテーテルは図1に示すようなバルーン1、本体シャフト2、インフレーションルーメン3、インフレーションルーメン3の先端側に配備され、液体に接触することで膨潤する膨潤性樹脂4、膨潤性樹脂4に備えられたインフレーションルーメンとカテーテル外部が連通する穴5、及び図5、図6に示すようなカテーテル基端部に配置されたハブ9から少なくとも構成されている。
【0019】
図1、図2、図4の実施形態においては、ハブ(図示せず)から液体注入を行うことにより、カテーテル基端側からバルーン内に残存する気泡を除去することが可能である。一方、図3に示した実施形態では、穴5を通るように配置された液体注入器8を使用することで、カテーテル先端側からバルーン内に残存する気泡を除去することが可能である。気泡の除去後は、液体注入器8を穴5から取り除くことにより、体内で使用する準備が完了する。いずれの実施形態においても、気泡の除去後には、注入された液体に膨潤性樹脂4が接触することで膨潤し、穴5がシールされる。
【0020】
特許文献2では、カテーテルに備えられた一方弁により気泡の除去を行っているが、バルーンの注入圧が上がると注入液通路からカテーテル外部へ液漏れが起こるという問題が発生する。特許文献3でも、スリットまたはピンホールが形成された弾性体でバルーン部の後端開口を塞ぐ構造であるため、特許文献2と同様に液漏れの問題が懸念される。本発明においては、液体が膨潤性樹脂4に接触している間は物理的に穴5が存在しない状態となるため、液漏れやシャフト内への血液の進入を確実に防ぐことができる。このことから、バルーン1の注入圧が上がってもバルーン1の液漏れの心配がなく、低圧で拡張するオクルージョンバルーンカテーテルだけでなく、高圧で拡張する血管形成術用バルーンカテーテルへの適応が可能である。
【0021】
膨潤性樹脂4の材質に関しては、カテーテル内を液体で満たした後、膨潤によって穴5をシールできる性能を有してさえいればよい。具体例としてはポリビニルアルコール(PVA)、PVA架橋重合体、PVA吸水ゲル凍結解凍エラストマー、エチレンビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系の重合体、膨潤性を有するポリアミド樹脂、膨潤性を有するポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリグリコール酸、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリヒドロキシエチルフタル酸エステル、ポリジメチロールプロピオン酸エステル、メチルイソプロピルケトンホルムアルデヒド、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルホネート、水溶性ナイロンなどの合成高分子物質、及びカルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン、セルロース類(CMC,MC,HEC,HPC)、タンニン、リグニン、アルギン酸、アラビアゴム、グアーガム、トラガントガム、ゼラチン、カゼイン、にかわ、コラーゲンなどの天然高分子物質を例示することができる。
【0022】
膨潤性樹脂4のカテーテル内での配置に関しては、図1のようにインフレーションルーメン3内部の先端側に配置されていてもよく、図2のようにバルーン樹脂内に埋め込まれた構造でインフレーションルーメン3の先端側に配置されていてもよく、図4のようにシャフト樹脂に埋め込まれた構造でインフレーションルーメン3の先端側に配置されていてもよい。また、これら以外の構造でインフレーションルーメン3の先端側に配置されていても発明の効果を何ら制限するものではない。なお、膨潤性樹脂4のカテーテルからの脱落のリスクを考慮すると、バルーン樹脂並びにシャフト樹脂内に埋め込まれた構造の方が好ましい。特に、高圧で拡張を行う血管形成術用バルーンカテーテルにおいては、カテーテル内の圧力によって脱落のリスクが高くなることから、膨潤性樹脂4はバルーン樹脂並びにシャフト樹脂内に埋め込まれた構造であることが好ましい。膨潤性樹脂4の取付け方法に関しては、バルーン樹脂やシャフト樹脂の溶融などの方法によってこれらの内部に埋め込んでもよく、バルーン樹脂やシャフト樹脂と溶着可能な場合は溶着の方法を採用してもよく、接着剤による接着を行ってもよく、またこれら以外の方法により取付けを行っても発明の効果を何ら制限するものではない。
【0023】
膨潤性樹脂4に備えられたインフレーションルーメン3とカテーテル外部が連通する穴5のサイズ、形状、数などに制限はない。液体注入によって膨潤性樹脂4の膨潤が開始されてから穴5のシールが完了するまでの時間は、膨潤性樹脂4の膨潤性能にもよるが、穴5が30分程度まででシールが完了し、治療が開始できるような穴5の設計が好ましい。緊急で治療を行う必要のある場面で使用されるバルーンカテーテルの場合には、治療開始の遅延による治療対象者の症状悪化を防ぐため、穴5が5分程度でシールされるような設計がさらに好ましい。穴5の配置については、図1〜図4の実施形態では、インフレーションルーメン3先端からカテーテル外部までカテーテルと軸方向に平行に配置されているが、例えばインフレーションルーメン3先端から本体シャフト2側面まで連通するように配置されていてもよく、またこれら以外の配置であってもよく、気泡の除去が簡便にできる設計でさえあればよい。
【0024】
バルーンカテーテルの本体シャフト2のプロファイルは特に制限はされないものの、プロファイルが細いほど、血管形成用バルーンカテーテルの場合には狭窄部位や閉塞部位への通過性が向上し、オクルージョンバルーンの場合には末梢の血管までの到達性が向上する。本体シャフト2のプロファイルはバルーン1の拡張・収縮の応答性に大きな影響を及ぼすインフレーションルーメン3の径方向の断面積や本体シャフト2の耐圧強度などを考慮に入れて選択する必要がある。バルーンカテーテルのプロファイルについて一例を挙げると、心臓用の血管形成用バルーンカテーテルの場合には外径が1.20mm以下、末梢用の血管形成用バルーンカテーテルの場合には外径が1.80mm以下、オクルージョンバルーンカテーテルの場合には外径が1.50mm以下であることが好ましいが、特に制限されるものではない。
【0025】
バルーンカテーテルの操作性を向上させる手段として、ガイドワイヤの使用が一般的であり、ガイドワイヤルーメンを備えた構造が多くのカテーテルで採用されている。しかしながら、特許文献1では、液体注入用副通路とガイドワイヤルーメン(主通路)に加えてさらに排気用副通路を設けた構造であるため、カテーテル全体のプロファイルの増大が予想される。そのため、ガイドワイヤ使用による操作性は向上するものの、プロファイル増大によるカテーテルの通過性、到達性の低下が考えられる。特許文献2では、注入液通路とガイドワイヤルーメン(メインルーメン)に加えて、パージ孔をパージ孔カバーで塞ぐことで形成される一方弁がシャフト外部に備えられた構造のため、一方弁の配置部分のプロファイルが増大するという問題が発生する。そのため、特許文献1と同様に、カテーテルの通過性、到達性が低下する問題が生じてしまう。本発明においては、図2、図3に示すようなインフレーションルーメンとガイドワイヤルーメンを備えた構造であっても、膨潤性樹脂4はインフレーションルーメン内に配置されることからプロファイルの増大を防ぐことができるため、通過性や到達性に優れ、さらにガイドワイヤ使用によって操作性にも優れたカテーテル設計が可能となる。またプロファイル増大を防げることで、例えば図4に示すように、通過性や到達性を維持したまま、さらにガイドワイヤルーメン7とは別の作業用ルーメン(例えば薬剤注入用ルーメンなど)を追加する設計も可能となる。
【0026】
ガイドワイヤルーメンを備えたカテーテル構造については、図2、図4に示すようなガイドワイヤルーメン7を内部に有するインナーシャフト6が本体シャフト2内部に備えられている構造や、図3に示すようなインフレーションルーメン3と並行したガイドワイヤルーメン7を備えたチューブにより本体シャフト1が構成されている構造や、これら以外の構造であっても発明の効果を何ら制限するものではない。また、ガイドワイヤルーメン7については、図5に示すようなガイドワイヤルーメンが、カテーテルの基端部から先端側に渡って延在し、ハブの基端部に基端側開口部7bを有するオーバー・ザ・ワイヤ型(OTW型)に配設しても良いし、図6に示すようなガイドワイヤルーメンの基端側開口部7bが、バルーンカテーテル1の基端部と先端部の途中に設けられている高速交換型(RX型)に配設してもよい。またこれら以外の構造であってもよく、カテーテルの操作性が向上する構造でさえあればよい。
【0027】
バルーン1の製造方法としてはディッピング成形、ブロー成形等があり、使用用途に応じて適当な方法を選択することができる。血管形成用バルーンカテーテルの場合は、十分な耐圧強度を得るためにブロー成形が好ましい。ブロー成形によるバルーン1の製造方法の一例を以下に示す。まず、押出成形等により任意寸法のチューブ状パリソンを成形する。このチューブ状パリソンをバルーン形状に一致する型を有する金型内に配置し、二軸延伸工程により軸方向と径方向に延伸することにより、前記金型と同一形状のバルーン1を成形する。尚、二軸延伸工程は加熱条件下で行われても良いし、複数回行われても良い。また、軸方向の延伸は径方向の延伸と同時に若しくはその前後に行われても良い。さらに、バルーン1の形状や寸法を安定させるために、アニーリング処理を実施しても良い。また、オクルージョンバルーンカテーテルの場合には、ブロー成型以外にもディッピング成型や押出成型したチューブを加工することによりバルーン1を製造することが可能である。
【0028】
バルーン1の製造に使用される樹脂は特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリエチレンテレフタレート、スチレンオレフィンゴムなどが使用可能であり、これらの樹脂の2種類以上を混合したブレンド材料や2種類以上を積層した多層構造を有する材料であっても構わない。
【0029】
本体シャフト2あるいはインナーシャフト6の材質は特に限定されない。つまり、ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等の樹脂や、種々の金属が使用可能である。
【0030】
ハブ9を構成する材質としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリサルホン、ポリアリレート、スチレン−ブタジエンコポリマー、ポリオレフィン等の樹脂が好適に使用できる。
【0031】
図1〜図6には示されていないが、本発明に係るバルーンカテーテルにコアワイヤやX線不透過マーカーが設けられていても良い。コアワイヤの役割はガイドワイヤに沿って体外からバルーンカテーテルを押し進めていく際の操作性を向上させ、バルーンカテーテルのキンク(折れ)を防止することであり、使用される材料種については特に制限を受けない。コアワイヤの寸法や取付け位置についても、本体シャフト2やインナーシャフト6の寸法や材質、バルーンカテーテルの使用目的等を考慮して決定することができる。X線不透過マーカーに関しては、本発明に係るバルーンカテーテルを用いた治療中に、バルーンカテーテルの特定部位の視認性を向上させ、バルーンカテーテルの位置決めを容易に行うことを目的として設けてもよい。X線不透過マーカーはX線不透過性を有する材料であれば良く、金属や樹脂等の材料の種類は問われない。また、設ける位置、個数等も問われず、バルーンカテーテルの使用目的に応じて設定することが可能である。
【0032】
バルーンカテーテルの外面には、血管内あるいはガイドカテーテル内への挿入を容易にする目的で親水性のコーティングを施すことができる。すなわち、バルーン1の外面、本体シャフト2の外面等の血液と接触する部位の少なくとも一部に血液と接触した際に潤滑性を呈する親水性のコーティングを施すことが可能である。なお、親水性のコーティングを施す部位、施す長さについてはバルーンカテーテルの使用目的に応じて決定できる。親水性のコーティングの種類は本発明の効果を制限するものではなく、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタアクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーが好適に使用でき、コーティング方法も限定されない。
【実施例】
【0033】
以下に本発明に係る具体的な実施例について詳説するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
平均重合度2000、ケン化度98%のポリビニルアルコール(PVA)を膨潤性樹脂として使用し、PVAの20重量%の水溶液を内径4mmの円筒状の型内に封入した後、−25℃の冷凍処理と0℃の解凍処理を5回繰り返して行った。PVAを型内から取り出し、長手方向に3倍の長さに延伸、乾燥させることで、円柱状のPVAを作製した。この円柱状のPVAを水で膨潤させ、外径0.40mmの芯材を2本使用して穴あけを行い、再び乾燥させることで、0.40mmの穴を2つ有するPVA成型体(外径0.90mm程度)を作製した。
【0035】
このPVA成形体をポリアミドエラストマー製の本体シャフト(外径1.20mm、内径1.00mm)のインフレーションルーメン先端側に接着した。さらに本体シャフトの先端側にポリウレタン製のバルーンを溶着し、基端部にポリカーボネート製のハブを接着することで、図1に示すようなバルーンカテーテルを作製した。
【0036】
(実施例2)
平均重合度2000、ケン化度98%のポリビニルアルコール(PVA)を膨潤性樹脂として使用し、PVAの20重量%の水溶液を内径3mmの円筒状の型内に封入した後、−25℃の冷凍処理と0℃の解凍処理を5回繰り返して行った。PVAを型内から取り出し、長手方向に3倍の長さに延伸、乾燥させることで、円柱状のPVAを作製した。この円柱状のPVAを水で膨潤させ、外径0.40mmの芯材と外径0.15mmの芯材を2本使用して穴あけを行い、再び乾燥させることで、0.40mmと0.15mmの穴を有するPVA成型体(外径0.65mm程度)を作製した。
【0037】
このPVA成型体の0.15mmの芯材は抜かない状態で、0.40mmの穴を通してポリアミドエラストマー製のインナーシャフト(外径0.38mm、内径0.30mm)を配置した。ポリアミドエラストマー製の本体シャフト(外径0.71mm、内径0.55mm)の先端にポリアミドエラストマー製のバルーンの基端部を溶着し、さらにインナーシャフトを本体シャフト内部に配置した。バルーンの先端部とインナーシャフトのPVA成形体を配置した部分を溶着させることで、PVA形成体をバルーン樹脂内に埋め込んだ。その後、0.15mmの芯材を抜去し、本体シャフト基端部にポリカーボネート製のハブを接着することで、図2に示すようなバルーンカテーテルを作製した。
【0038】
(実施例3)
平均重合度2000、ケン化度98%のポリビニルアルコール(PVA)を膨潤性樹脂として使用し、PVAの20重量%の水溶液を内径2.5mmの円筒状の型内に封入した後、−25℃の冷凍処理と0℃の解凍処理を5回繰り返して行った。PVAを型内から取り出し、長手方向に3倍の長さに延伸、乾燥させることで、円柱状のPVAを作製した。この円柱状のPVAを水で膨潤させ、外径0.30mmの芯材を使用して穴あけを行い、再び乾燥させることで、0.30mmの穴を有するPVA成型体(外径0.45mm程度)を作製した。
【0039】
インフレーションルーメン(直径0.48mm)とガイドワイヤルーメン(直径0.50mm)を備えたポリアミドエラストマー製の本体シャフト(外径1.25mm)を用意し、先端側にポリアミドエラストマー製のバルーンを溶着し、基端部にポリカーボネート製のハブを接着した。0.30mmの芯材を抜いていない状態のPVA成型体をインフレーションルーメンの先端側に配置し、ガイドワイヤルーメン内にルーメン維持用の芯材を通し、本体シャフト先端部を溶着させることで、図4に示すような構造でPVA成形体をシャフト樹脂内に埋め込んだ。その後、0.30mmの芯材とガイドワイヤルーメン維持用芯材を抜去した。
【0040】
30Gの注射針を備えた3ml用シリンジを液体注入器として準備し、PVA成形体の0.30mmの穴を通して配置することで、図3に示すようなバルーンカテーテルシステムを作製した。
【0041】
(評価)
上記、実施例のバルーンカテーテルを用いて、バルーン内に残存する気泡の除去性能と膨潤性樹脂のシール性能の評価を行った。実施例1、2のバルーンカテーテルについて、基端部のハブからインフレーションルーメンに造影剤50%入りの生理食塩水を注入したところ、シャフト内の空気はすべて排除され、バルーン内に残存する気泡は観察されなかった。実施例1のバルーンカテーテルの膨潤性樹脂の断面積に対する穴の断面積の割合は約32%であり、穴がシールされて液漏れがなくなるまでの時間は約20分であった。実施例2のバルーンカテーテルの膨潤性樹脂の断面積に対する穴の断面積の割合は約9%であり、穴がシールされて液漏れがなくなるまでの時間は約5分であった。実施例3のバルーンカテーテルについて、先端に配置した液体注入器からインフレーションルーメンに造影剤50%入りの生理食塩水を注入したところ、シャフト内の空気はすべて排除され、バルーン内に残存する気泡は観察されなかった。実施例3のバルーンカテーテルの膨潤性樹脂の断面積に対する穴の断面積の割合は約44%であり、液体注入器を取り外してから穴がシールされて液漏れがなくなるまでの時間は約30分であった。いずれの実施例においても本発明の効果を発現し、バルーン内に残存する気泡を簡便に取り除くことが可能なバルーンカテーテルとして機能することが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1.バルーン
2.本体シャフト
3.インフレーションルーメン
4.液体に接触することで膨潤する膨潤性樹脂
5.インフレーションルーメンとカテーテル外部が連通する穴
6.インナーシャフト
7.ガイドワイヤルーメン
7a.ガイドワイヤルーメンの先端側開口部
7b.ガイドワイヤルーメンの基端側開口部
8.作業用ルーメン
9.ハブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル先端側の外周上に配置された拡張収縮可能なバルーンと、カテーテル基端部に配置されたハブと、ハブからバルーン内部まで液体を連通させるためのインフレーションルーメンを内部に有する本体シャフトとを少なくとも備えたバルーンカテーテルであって、インフレーションルーメンの先端側には液体に接触することで膨潤する膨潤性樹脂が配備されており、前記膨潤性樹脂にはインフレーションルーメンとカテーテル外部が連通する穴が備えられていることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項2】
請求項1記載のバルーンカテーテルであって、前記膨潤性樹脂がバルーン樹脂内に埋め込まれた構造でインフレーションルーメンの先端側に配置されていることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項3】
請求項1記載のバルーンカテーテルであって、前記膨潤性樹脂がシャフト樹脂内に埋め込まれた構造でインフレーションルーメンの先端側に配置されていることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のバルーンカテーテルであって、ガイドワイヤルーメンを内部に有するインナーシャフトが本体シャフト内部に備えられていることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のバルーンカテーテルであって、インフレーションルーメンと並行したガイドワイヤルーメンを備えたチューブにより本体シャフトが構成されていることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項6】
請求項4〜5のいずれかに記載のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルがOTW型であることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項7】
請求項4〜5のいずれかに記載のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルがRX型であることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルがさらに別の作業用ルーメンを備えることを特徴とする、バルーンカテーテル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のバルーンカテーテルと、前記膨潤性樹脂に備えられた穴を通るように配置された液体注入器から構成されることを特徴とする、バルーンカテーテルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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