説明

バー塗布ヘッド及びそれを用いたバー塗布装置

【課題】塗布液のフィラーやノロ等の異物により塗工用のバー表面を損傷する心配がなく、広幅であっても薄層塗付が精密に実現できるコンパクトなバー塗布ヘッド及びこれを用いたバー塗布装置を提供する。
【解決手段】ロッドの表面に溝が螺旋状に形成されて成る回転可能な塗工用のバーを用い、給液側マニホールドの幅方向の一端側壁に、塗布液を給液側マニホールド及び排液側マニホールドの内部に供給する塗布液供給孔を設け、かつ、前記バーの回転により生じるスラスト力により前記給液側マニホールドの内部の塗布液を前記幅方向の一端側から他端側に送る方向に前記溝の形成方向を整合させて、前記バーを配置してバー塗布ヘッドを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続走行する広幅のプラスチックフィルムあるいは紙等の可撓性を有する支持体(以下、「ウェブ」という)に塗布液を塗工用のバーにより薄層かつ精密に塗布するバー塗布ヘッド及びそれを用いたバー塗布装置に関する。なお、本発明でいう広幅とは、塗布幅が3500mm程度までのものを、薄層とは、ウエット膜厚が5μm以下のものを、また精密とは、前記薄層の塗膜にムラや異物等による傷が全くないものをいう。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布液を連続走行するウェブに塗布する装置として種々のタイプのものが公知であるが、その一つにバー塗布装置がある。このバー塗布装置として、例えば、特許文献1に開示されているように塗布ヘッドの塗工用のバーに転造バーを用いたもの、あるいは、特許文献2に開示されているように塗布ヘッドの塗工用のバーにワイヤバーを用いたものが知られている。
【0003】
近年、ディスプレイ機器の高機能化が進み、これに伴い、反射防止膜や偏光膜等の薄層かつ精密な塗膜を有する光学機能フィルム、あるいは電子機器の保護膜に使用する薄層フィルム等の、高機能フィルムの需要が増大している。また、この高機能フィルムに対しては大サイズ化(例えば2000〜3000mm幅)に適応できる大面積のものが要求されている。
【0004】
そこで、かかる薄層かつ精密な塗膜を有する高機能フィルムを作るため、最近では上述したバー塗布ヘッドを用いた塗布装置、中でも、ワイヤバー塗布ヘッドを用いた塗布装置が広く使用されるようになってきている。
【0005】
図1は、このワイヤバー塗布装置に用いられるワイヤバー塗布ヘッド100の一般的な構成を示す正面断面図である。すなわち、このワイヤバー塗布ヘッド100は、ワイヤ101がロッド102に螺旋状に密着巻回され、表面にワイヤ101間による溝が螺旋状に形成されて成る塗工用のワイヤバー103と、基台104のウェブ走行方向中央部に立設され、ワイヤバー103を回転自在に支持するバックアップ105と、バックアップ105の上流側及び下流側に設けられ、夫々バックアップ105との間に給液側マニホールド106及び排液側マニホールド107を形成する給液側コータブロック108、排液側109とで構成されている。
【0006】
給液側マニホールド106には塗布液供給孔110(後述するように特許文献2ではこの塗布液供給孔110は給液側マニホールド106の幅方向中央部に設けられている)から塗布液111が矢印で示すように内部に供給されており、ワイヤバー103の矢印N方向への回転によりこの塗布液111が給液側コータブロック108の先端部とワイヤバー103とで形成された間隙t内を通り、ワイヤバー103のワイヤ101間に形成される毛細溝から毛細管現象により引き上げられ、この引き上げられた塗布液111がウェブ112に塗られる両面でビードとなって現れて必要量が塗布され、余剰の塗布液111が排液側マニホールド107に戻され、残りの余剰の塗布液111がワイヤバー塗布ヘッド100の外側に流れるようになっている。
【0007】
ここに、ワイヤバー103によって引き上げられる塗布液111の量は、ワイヤバー103のワイヤ101径により形成された毛細管の大きさ、引き上げられる塗布液111の特性、ワイヤバー103の回転速度、ウェブ113の走行速度等によって決定される。
【0008】
このように構成されたワイヤバー塗布ヘッド100を用いた塗布装置によれば、他の方式の塗布ヘッドを用いた塗布装置に較べ、取扱いが容易で速度ムラに対しても有利であり、また品質のよい塗膜が得られることから、従来、塗布幅が600〜1800mm程度の塗布に使用されてきている。
【0009】
ところで、上述した高機能フィルムは、乾膜厚が0.2〜1μm、ウエット膜厚でも2〜3μmと薄層であるため、必要な塗布液111は2〜3ml/mと少量であり、例えば塗布幅が3000mmとしても必要な塗布液111の量は1m当り6〜9ml、塗布幅が3000mmで塗布速度が100m/分としても0.6〜0.9l/分と非常に少ないのが実体である。
【0010】
このような少量の塗布液111をワイヤバー103、とくに上述した大サイズ化に対応するべく広幅長大化されたワイヤバー103の幅方向全域に均質かつ均等に付与することは、塗布液111自体が有する次のような問題点をも考慮すると、極めて困難であった。
【0011】
溶剤タイプの溶液は、一般の水溶液に較べ、流動性が悪く、流路が狭くなると少量の液では全幅に行き亘り難いことが確認されている。そのため、流路内に淀みができ、また溶剤の部分的な蒸発による濃度変化から凝集が発生してノロができたり、光学機能を上げるために塗布液111中に入れられたシリカ類や炭酸カルシュウム等のフィラーが凝集により大粒子化してワイヤ101の表面を損傷し、これにより精密な塗布ができなくなるという問題がある。
【0012】
元来、このフィラーそのものは大きさが数μm程度のものであり、塗布液111中に均質に分散されている間はワイヤバー103に対し害を与えることは殆どない。従って、塗布液供給孔110から給液側マニホールド106に供給された塗布液111が凝集することなく全て均質のまま均等にワイヤバー103に送り出されるならばかかる問題は解消されるが、上述したように、薄層塗布では塗布液111の流量は極めて少量であるため、塗布液111の淀みが発生し易く、また凝集も起こり易いため、塗布液111を均質のまま均等にワイヤバー103に供給することは極めて困難であった。
【0013】
また、一度、排液側マニホールド107の内部に回収された余剰の塗布液111は排液側マニホールド107内の新液と混じり合うが、ワイヤバー103とバックアップ105の間を通って給液側マニホールド106に移動する以外、殆ど滞留しているため、また、混合液は溶剤が多少蒸発して濃度が高くなっているため、凝集が起こり易く、フィラーの大粒子化も生じ、これがワイヤバー103とバックアップ105の間に入ってワイヤバー103を損傷していた。精密薄層塗布では、密着巻回されたワイヤ101間が2μm程度開くとスジムラ等が現れるが、大粒子化されたフィラーによる傷はこれを上回るものがあり、大きな問題となっていた。
【0014】
なお、塗布液111が給液側マニホールド106の内部で滞留すると、上述したような塗布液111の凝集を生じることのみならず、後述するように、この滞留部分に塗布液111の濃度ムラを生じ、かかる塗布液111がウェブ112に塗布されると塗膜に塗布ムラを生じることが、本発明者によって究明されている。
【0015】
上記実情に鑑み、当分野では凝集し難い塗布液111の研究も進められているようであるが、このような塗布液111、とくに高機能膜用の塗布液111の改良は簡単ではないというのが実情のようである。
【0016】
そこで、従来、ワイヤバー103の損傷に対処するべく次のような種々の方策がとられてきている。
【0017】
例えば、ワイヤ101の表面の損傷を防止する方策として、ワイヤ101の表面にHCr(ハードクロム)メッキ、あるいは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施すことが提案されている。しかし、このような処理を施したワイヤバー103はかなり高価となり、このためワイヤバー塗布ヘッド100自体、強いてはこれを用いたワイヤバー塗布装置全体の製造コストが大幅にアップするという問題があることから、ユーザーにはなかなか受け入れられなかった。
【0018】
また、塗布液111を給液側マニホールド106の内部に均等に行き亘らせる方策として、塗布液供給孔110を、前述した特許文献2のような方式、すなわち図2(A)に平面断面図で示すように、給液側マニホールド106の幅方向中央部の前壁に設ける方式の外、図2(B)に示すように、給液側マニホールド106の幅方向両端部の側壁に設ける方式、また図2(C)に示すように、給液側マニホールド106の幅方向の前壁に複数個設ける方式、さらにまた図3に正面断面図で示すように、塗布液供給孔110を給液側マニホールド106の幅方向の一端部の側壁に設けると共に、塗布液供給孔110付近では給液側マニホールド106では底壁を拡げて大面積とし、他端側に向けて面積が縮小されるように形成する方式等が採られている。
【0019】
しかしながら、図2(A)の方式では、塗布液111が塗布液供給孔110から給液側マニホールド106の内部に供給されると、後述するワイヤバー103の矢印N方向への回転に伴いワイヤ102と塗布液111の粘性抵抗により生じるスラスト力の作用方向Fと逆行する方向の塗布液供給孔110付近に、図示するような塗布液111の淀みPができ易いこと、図2(B)の方式では、塗布液111がぶつかり合う給液側マニホールド106の幅方向の中央部付近に塗布液111の淀みPができ易いこと、図2(C)の方式では、図2(A)の方式と同様に、スラスト力の作用方向Fと逆行する方向の、各塗布液供給孔110付近に塗布液111の淀みPができ易いこと、また、図3の方式では、スラスト力の作用方向Fと逆行する方向の、塗布液供給孔110の出口の下方に塗布液111の淀みPができ易いこと等が、本発明者によって明らかにされている。
【0020】
このような給液側マニホールド106の内部における塗布液111の淀みPすなわち塗布液111の滞留は部分的な濃度ムラとなって現れ、また、この滞留箇所の塗布液111が経時と共に凝集してノロを生じ、さらにまた、上述したようにフィラーが硬度の高い大きな粒子と化すことにより、上述した問題は依然として解決されない状況にあった。
【0021】
さらにまた、ワイヤバー塗布方式における、ウエット膜厚が5μm以下の薄層塗布特有の問題点として、ワイヤバー103と連続走行するウェブ112との接触面に、塗布液111が発泡して泡が付着し、これにより塗膜の品質が損なわれることがあげられる。この泡の発生のメカニズムにつき本発明者が考察した結果、次のような事実が究明されている。
【0022】
すなわち、前述したように、このワイヤバー塗布ヘッド100によれば、ワイヤバー103の矢印N方向への回転によりこの塗布液111が給液側コータブロック108の先端部とワイヤバー103とで形成された間隙tを通り、回転するワイヤバー103のロッド102に密着巻回されたワイヤ101間に形成される毛細溝から毛細管現象で引き上げられ、この引き上げられた塗布液111がウェブ112に塗られる両面でビードとなって現れて必要量が塗布され、余剰の塗布液111が排液側マニホールド107に戻されるが、このとき、排液側マニホールド107の内部ではワイヤバー103の回転により塗布液111が給液側にもっていかれるため、塗布液111が不足がち、すなわち排液側マニホールド107の内部の圧力が給液側マニホールド106の内部の圧力よりも低い状態になっており、余剰の塗布液111の一部が常に給液側マニホールド106の内部に引き込まれ易い状態となっているのが実体である。このため、ウエット膜厚の厚いワイヤバー塗布の場合には、余剰の塗布液111の一部のみが給液側マニホールド106の内部に引き込まれるが、このウエット膜厚が薄い場合には、排液側に流れる塗布液111の量が少なくなり、余剰の塗布液111が給液側マニホールド106の内部に引き込まれる際に余剰液表層部の空気と共に巻き込まれ、この空気層がワイヤバー103とバックアップ105の間を通り、給液側マニホールド106の内部にもっていかれる際に、塗布液111と混合して気泡を生じるものと考えられる。
【0023】
なお、以上は、塗布ヘッドがワイヤバー塗布ヘッドである場合であるが、転造バー塗布ヘッドにおいても、塗工用の転造バーがロッドの表面に螺旋状の溝を有して成るもので、ワイヤバーと構成を共通し、かつ実質的に同一の作用効果を奏するものであることから、ワイヤバー塗布ヘッドと同様な問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2007−061709号公報
【特許文献2】特開2007−326080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上述した実情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、従来のバー塗布ヘッド及びこれを用いたバー塗布装置の有する上記欠点を除去し、塗布液の滞留により生じる塗布液の濃度ムラ、また、凝集ないし沈殿により生じるノロやフィラーの大粒子化等によるバー表面の損傷、さらには、塗布面における気泡の発生を夫々防止し、広幅であっても薄層塗付が精密に実現できるコンパクトなバー塗布ヘッド及びこれを用いたバー塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の上記目的は、ロッドの表面に溝が螺旋状に形成され、連続走行するウェブに塗布液を塗布する塗工用のバーと、基台に立設され、前記バーを回転自在に支持するバックアップと、前記バックアップの上流側及び下流側の前記基台に設けられ、夫々前記バックアップとの間に給液側マニホールド及び排液側マニホールドを形成する給液側コータブロック及び排液側コータブロックを具備して成るバー塗布ヘッドにおいて、前記給液側マニホールドの幅方向の一端側壁に塗布液を前記給液側マニホールド及び前記排液側マニホールドの内部に供給する塗布液供給孔を設け、かつ、前記バーの回転により生じるスラスト力により前記給液側マニホールド内の塗布液を前記幅方向の一端側から他端側に送る方向に前記溝の形成方向を整合させて、前記バーを配置して成ることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより達成される。
【0027】
また、本発明の上記目的は、前記塗布液供給孔と実質的に同一の構成から成る少なくとも一つの第2の塗布液供給孔が、前記塗布液を送る方向に向けて、前記給液側マニホールドの給液側前壁に設けられていることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0028】
また、本発明の上記目的は、前記塗布液供給孔は前記給液側マニホールドの底壁付近に設けられていることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0029】
また、本発明の上記目的は、前記給液側マニホールド又は前記排液側マニホールドの内部に、前記塗工用のバーと実質的に同一の構成から成る第2のバーが回転可能に設けられていることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0030】
また、本発明の上記目的は、前記給液側マニホールド及び前記排液側マニホールドの内部に、夫々前記塗工用のバーと実質的に同一の構成から成る第2のバー及び第3のバーが回転可能に設けられ、かつ、前記排液側マニホールドの内部の圧力が前記給液側マニホールドの内部の圧力より高く設定されていることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0031】
また、本発明の上記目的は、前記第2のバー及び/又は前記第3のバーは塗布時に前記塗工用のバーと連動して回転されることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0032】
また、本発明の上記目的は、前記塗工用のバーは、ワイヤバー、転造バー、D−バー(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社の製品名)の中のいずれかであることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0033】
また、本発明の上記目的は、前記塗布ヘッドはクローズドタイプであり、前記塗布液は溶剤タイプの塗布液であることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0034】
さらにまた、本発明の上記目的は、前記いずれか一つに記載のバー塗布ヘッドを組み込み、当該バー塗布ヘッドにより前記連続走行するウェブに前記塗布液を塗布するようにしたことを特徴とするバー塗布装置を提供することにより達成される。
前記塗布液供給孔と実質的に同一の構成から成る少なくとも一つの第2の塗布液供給孔が、前記塗布液を前記幅方向の一端側から他端側に送る方向に向けて、前記給液側マニホールドの給液側前壁に設けられていることを特徴とするバー塗布ヘッドを提供することにより効果的に達成される。
【0035】
本発明者は、バー塗布において、ロッドの表面に螺旋状に形成された溝の形成方向(すなわち螺旋状の巻回方向)と溶液の挙動との関係につき、後述する実施例1のとおりの実験を行った結果、この塗工用のバーを溶液中で回転させると、ロッド表面に溝が螺旋状に形成されていることから、溶液の粘性抵抗とロッド面によりスラスト力が生じ、溝の形成方向(螺旋状の巻回方向)がロッドに対し時計方向か反時計方向かにより、溶液がこのバーの軸方向の前方又は後方のいずれかに移動されること、また、このバーが回転することにより溶液が攪拌されることを見出した。
【0036】
このように表面に螺旋状の溝が形成された塗工用のバーにより溶液が移動される作用すなわち送液作用は送液ポンプによる作用と類似していることから、本発明では、以下、この作用を「ポンピング作用」といい、この作用による効果を「ポンピング効果」という。
【0037】
また、上記のバーが回転することにより、溶液が粘着性を有するために溶液がこのバーに絡んで攪拌されるが、このようなバーの機能は、丁度、溶液を作る場合の乳化分散工程における拡散板の機能と類似していることから、この作用を「分散作用」といい、この作用による効果を「分散効果」という。
【0038】
なお、後述するように、このポンピング効果は、溶液が単なる水溶液では小さいが、溶液が溶剤タイプの塗布液では非常に高くなり、また、塗工用のバーの回転速度が増大するにつれて大きくなることが明らかにされている。
【0039】
本発明は、上述したポンピング作用とその効果、及び、分散作用とその効果に着目してなされたものであり、本発明によれば下記のとおりの効果が得られる。
【発明の効果】
【0040】
すなわち、本発明は、上記構成を採ることにより、一般のポンプによる流路内のポンピング効果は給液孔直後が最も有効に作用し、それより離れると流路抵抗により効果が薄れるが、本発明ではマニホールドの内部の全長に亘り塗工用のバーによるポンピング効果が現れることから、全体の部分で一定圧となる。このため、塗布液が給液側マニホールドの内部で滞留することがなくなり、さらに塗工用のバーの分散作用との相乗効果により凝集が防止されてフィラーやノロの発生がなくなり、これにより塗工用のバーの表面が損傷することがなくなる。また、均質な塗布液を塗工用のバーの幅方向全域に亘って均等に付与することができるので、広幅であっても薄層塗付を精密に行うことができる。さらにまた、塗布液を貯留するマニホールドの形状をシンプルにでき、かつ、その大きさを小さくできるので、装置全体をコンパクトにすることができ、これにより安価な装置を提供することができる。
【0041】
とくに、給液側マニホールド及び排液側マニホールドの内部に、夫々塗工用のバーと実質的に同一な構成から成る第2のバー及び第3のバーが回転可能に設けられ、かつ、排液側マニホールドの内部の圧力が給液側マニホールドの内部の圧力より高く設定されて成る発明では、排液側マニホールドの塗布液を常に間隙tから少量ずつ押し出されるように設定することができるため、薄層塗布になっても排液側に還流される液と共に空気が巻き込まれることを防ぐことができ、これにより泡の発生を殆どなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ワイヤバー塗布ヘッドの一般的な構成を示す正面断面図である。
【図2】(A)(B)(C)従来のワイヤバー塗布ヘッドの給液側マニホールド内部における塗布液の挙動を示す平面断面図である。
【図3】従来のワイヤバー塗布ヘッドの給液側マニホールド内部における塗布液の挙動を示す正面断面図である。
【図4】本発明の実施例1及び2に係るワイヤバー塗布ヘッドの正面断面図である。
【図5】(A)(B)ワイヤバーにおけるワイヤの巻回方向と塗布液の移動方向との関係を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例3に係るワイヤバー塗布ヘッドの正面断面図である。
【図7】本発明の実施例4に係るワイヤバー塗布ヘッドの平面断面図である。
【図8】本発明の実施例5に係るワイヤバー塗布ヘッドの正面断面図である。
【図9】本発明の実施例6に係るワイヤバー塗布ヘッドの正面断面図である。
【図10】本発明の実施例7に係るワイヤバー塗布ヘッドの正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の内容をワイヤバー塗布ヘッドを例とした実施例に基づき説明する。なお、本発明は必ずしも以下の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、その構成を種々変更できることはいうまでもない。
【実施例1】
【0044】
塗工用のワイヤバーにおけるワイヤの巻回方向と塗布液の挙動との関係につき、実験装置として図4に正面断面図で示すようなオープンタイプのワイヤバー塗布ヘッド200を製作し、これを用いて次のような確認実験を行った。
【0045】
このワイヤバー塗布ヘッド200は、直径が100μmのワイヤ201を直径8mmのロッド202に密着巻回してなる長さ400mmのワイヤバー203を、基台204に立設したバックアップ205の上部に回転自在にセツトし、バックアップ205の上流側及び下流側に、給液側コータブロック208及び排液側コータブロック209を介して夫々給液側マニホールド206及び排液側マニホールド207を形成して成るものである。
【0046】
このワイヤバー塗布ヘッド200を用い、給液側マニホールド206及び排液側マニホールド207にポリエステル系からなる溶剤系の塗布液211を塗布液供給孔210より供給し、回転手段(図示せず)によりワイヤバー203を矢印N方向に回転速度300rpmで回転させて、塗布液211の挙動を当装置の上方から見て確認したところ、ワイヤ201がロッド202に対し螺旋状に巻回されていることから、ワイヤバー203の回転に伴い、ワイヤ201面と塗布液211の粘着抵抗によりスラスト力がワイヤバー203の軸方向に作用し、塗布液211がワイヤバー203の軸方向に移動するようになること、この塗布液211の移動方向、すなわちスラスト力の作用方向は、ワイヤ201の巻回方向により異なり、図5(A)に示すように、矢印N方向(右側面から見て時計方向)に回転するロッド202に対し、ワイヤ201が同方向(図示するW’方向)に巻回されている場合には矢印F’で示す図の右手方向に、(B)で示すように、矢印N方向(右側面から見て時計方向)に回転するロッド202に対し、ワイヤ201が反時計方向(図示するW方向)に巻回されている場合には矢印Fで示す図の左手方向であること、及び、ワイヤバー203が回転することにより塗布液211が攪拌されるようになること、すなわち前述したようにワイヤバー203のポンピング作用によるポンピング効果が得られることが確認された。
【0047】
また、上述した塗布液211の移動は、ワイヤバー203のポンピング作用を給液方向と逆方向に作用させたときは、塗布液供給孔210からのポンピング作用とワイヤバー203によるポンピング作用とにより塗布液211がぶつかり合って、進行方向が給液方向と一致したり逆方向となったりして前後の乱れが不安定となり、これが淀みを作っている原因となることも確認された。
【0048】
さらにまた、上述した塗布液211の移動は、当該塗布液211の粘度が5〜10cps程度のものであっても大きく移動し、さらに当該塗布液211が溶剤タイプのものほど顕著となり、単なる水溶液ではスラスト力による移動は極めて小さいことが判明した。
【0049】
なお、塗布液211は給液側マニホールド206の底壁に近い位置に淀むため、塗布液供給孔210は、極力、この底壁付近に設けることが好ましいことも究明されている。
【実施例2】
【0050】
次に、この塗布ヘッド200を用い、速度20m/分で連続走行する厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)から成るウェブ212に上記塗布液211を塗布したところ、ワイヤ201の巻回方向により、塗布ムラが全く出ないものと多少なりとも出るものとが明確に現れた。そこで、ワイヤ201の巻回方向を、塗布液211がワイヤバー203の回転により生じるスラスト力によって給液側マニホールド206の幅方向の一端側から他端側に送られる方向に整合させてワイヤバー203を配置し、上記同様に塗布をしたところ、塗膜に塗布ムラが全く出ないことが確認された。
【実施例3】
【0051】
上記は、オープンタイプのワイヤバー塗布ヘッド200による塗布幅が400mm程度の狭幅塗布についての実験であったが、上記実験により得たワイヤバー203のポンピング作用及びこの効果の知見から、このワイヤバー塗布ヘッド200はクローズドタイプのものでも当然、また、塗布幅が2000〜3000mmの広幅であっても所望の塗布が期待できるものとの確信を得、図6に正面断面図で示すような実験装置、すなわちクローズドタイプのワイヤバー塗布ヘッド300を想定した仮のマニホールドの流路を製作し、これを用いて次のような実験を行った。
【0052】
この仮の流路は、断面積が6cmで1500mm長の長さをもち、内部に直径10mmのワイヤバー303を設置できるものである。ワイヤバー303の一端は仮の流路の他端側(反給液側)においてクローズド状態で軸受に回転自在に支持され、その他端は仮の流路の他端側(すなわち給液側)から外側に延出し、軸受により回転自在に支持され、その延出端が矢印N方向に回転するモータMに連結されている。なお、ワイヤバー303は、モータMが矢印N方向に回転したときにスラスト力の作用方向Fが前述した他端側(給液側)から一端側(反給液側)に働くように配設されている。
【0053】
この仮の流路には、図示するように、液供給孔310の出口から距離L1の位置に微圧計3(B3)、距離L2を置いて微圧計2(B2)、さらに距離L3を置いて微圧計1(B1)が設置されている。
【0054】
この装置において、液供給孔310の出口から微圧計B3の位置まで(すなわち距離L1)を100mm、液供給孔310の出口から微圧計B2の位置まで(すなわち距離L1+距離L2)を650mm、微圧計B2位置から微圧計B1位置まで(すなわち距離L3)を650mmに設定する一方、長さが1600mm、直径が10mmのロッド302に直径が200μm及び75μmの2種類のワイヤ301を夫々巻き幅1480mmで巻回して2種類のワイヤバー303A、303Bを製作し、さらに溶液として水溶液311Wを用いて次のとおりの実験を行った。
【0055】
先ず、直径が10mmのロッド302に直径が200μmのワイヤ301を巻回して成るワイヤバー303Aを用い、給液側から静圧400mmAqの水溶液311Wを液供給孔310より給液側マニホールド306の内部に供給したところ、給液側マニホールド306の内部の圧力は、L1地点(微圧計B3の設置位置)で350mmAq、L2地点(微圧計B2の設置位置)で400mmAq、L3地点(微圧計B1の設置位置)で380mmAqとなった。この結果につき考察したところ、L1地点ではワイヤバー303Aの延出部からの液漏れがあり、これにより静圧が低くなっていることが判明し、またL3地点ではマニホールド内の壁面との抵抗で静圧が低くなっていることが推定された。このことから、マニホールドが2000mmないし3000mmとなる狭い流路を有するものとなると、液供給孔310から離れた地点ではさらに静圧が低くなることが推定された。
【0056】
そこで、この状態でワイヤバー303Aのポンピング効果をみるために、ワイヤバー303Aを100rpmで回転させたところ、約30秒でL2地点及びL3地点で静圧が460mmAqに上昇したが、L1地点では400mmAqまでしか上がらず、液漏れをカバーすることができなかった。そこで、L2地点では問題がないことから、L1地点を液供給孔310から離し、距離L1を300mmとして同様に実験を行ったところ、表1に示すように、微圧計B1、B2、B3が設置される全ての地点で静圧が460mmAqとなった。このことから、ワイヤバー303Aの延出部から多少の液漏れがあっても、塗布地点から給液位置を多少ずらすことにより、換言すれば、ワイヤバー303Aの延出部を塗布部から離すことにより、全領域に均一な溶液を行き亘らせることができることが実証された。
【0057】
また、直径が10mmのロッド302に直径が75μmのワイヤ301を巻回して成るワイヤバー303Bを用い、上記と同様の実験を行ったところ、表1に示すとおりの結果が得られた。
【0058】
【表1】

表1から明らかなように、このワイヤバー塗布ヘッド300の結果から、前述したポンピング効果により、2000〜3000mm幅の幅方向における静圧を、位置とは無関係に、常に一定とすることができること、換言すれば、長さが2000mmないし3000mmの長大塗布ヘッドであっても全幅に亘り溶液を均一に供給できること、また、ワイヤ301の径が大きくなるとポンピング効果が増大され、送液量が変えられること、また、クローズド系の中では見かけ上の静圧が高められることが実証された。
【0059】
また、回転数を±5%の範囲で変えてみた限りでは、静圧は殆ど変化がなかったのに対し、ワイヤ301の径を200μmのままとし、回転数を100rpmから半分の50rpmに下げてみると、静圧が420mmAq程度までにしか上がらないことも確認された。このことから、ワイヤバー303の回転速度を高くするほど溶液の移動が大きく変化することが判明した。
【0060】
また、(塗布をしていない状態で)ワイヤバー303の回転を続けていても、同じ回転速度では一定以上圧力は上がらず、このことから分散効果のみ持続できることが判った。この効果は、ポンピング効果と並び、本発明の特徴的な効果といえるものである。
【0061】
なお、以上は溶液が水溶液311Wである場合であるが、この溶液が実施例1と同様の溶剤系の塗布液であっても、上述の作用効果には何らの変化がないことも明らかにされている。
【実施例4】
【0062】
本発明者は、前述したポンピング効果に鑑み、上記ワイヤバー塗布ヘッド300を改良することにより、さらに均質な塗布液311をワイヤバー303に均等に付与できる、次のようなワイヤバー塗布ヘッド400を考案した。
【0063】
すなわち、このワイヤバー塗布ヘッド400では、前記ワイヤバー塗布ヘッド300における給液側マニホールド306の幅方向の前壁に、図7に平面断面図で示すように、スラスト力の作用方向F(図7の右から左方向)に供給孔を向けて、塗布液供給孔410と実質的に同一の構成から成る3つの塗布液供給孔410A、410B、410Cが略等間隔に配設されており、塗布液411が給液側マニホールド306の幅方向の一端側壁に設けられた塗布液供給孔410から内部に供給されると共に、これら3つの塗布液供給孔410A、410B、410Cからも塗布液411が供給されるように構成されている。
【0064】
このように構成されたこのワイヤバー塗布ヘッド400を用い、上記同様に装置を作動させて塗布液411の挙動を確認したところ、内部に供給された塗布液411が一層順調に幅方向の一端側から他端側に送られるようになり、塗布液411が給液側マニホールド406の内部に滞留する現象は全く見られなかった。
【0065】
因みに、3つの塗布液供給孔410A、410B、410Cの向きをスラスト力の作用方向Fと反対方向(図7の左から右方向)に設定して塗布液411を給液側マニホールド406の内部に供給したところ、塗布液411が底壁側に淀む現象が見られた。
【0066】
なお、本実施例では3つの塗布液供給孔410A、410B、410Cを設けたが、この数は特に限定されるものではなく、これが1つであっても有効であることが本発明者によって明らかにされている。また、各塗布液供給孔410A、410B、410Cの向きは、塗布液411が送られる矢印F方向と完全に一致させる必要はなく、略近似する方向であっても目的を十分達成することができる。
【実施例5】
【0067】
また、本発明者は、前述したポンピング効果に鑑み、鋭意研究した結果、上記ワイヤバー塗布ヘッド400とは別の改良タイプに係る、次のようなワイヤバー塗布ヘッド500を考案した。
【0068】
すなわち、このワイヤバー塗布ヘッド500は、図8に正面断面図で示すように、直径75μmのワイヤ501を直径8mmのロッド502に密着巻回してなる長さ1500mmの塗工用のワイヤバー(第1のワイヤバー)503が、モータMにより矢印N方向に回転数800rpmで回転するようにし、給液側マニホールド506の幅方向の一端側壁に設けた塗布液供給孔(図示せず)から塗布液511を内部に供給し、ワイヤバー503の回転に伴ってこの塗布液511が上部に引き上げられるように構成する一方、給液側マニホールド506の内部に、塗工用のワイヤバー503と実質的に同一の構成を有する第2のワイヤバー523をバックアップ524により回転自在に支持して成っている。
【0069】
このワイヤバー523は、直径100μmのワイヤ501を直径8mmのロッド502に巻回してなる長さ1500mmのもので、基台504に立設したバックアップ524の上部にセツトされている。図示はしないが、この軸部の両端は軸受により回転自在に軸支され、延出する軸端に塗工用のワイヤバー503とは別の駆動系でスピードコントロールできるモータと連結するようになっており、給液側マニホールド506内でのポンピング効果が最適にできるように、塗布時は塗工用のワイヤバー503と連動して回転するような制御となっている。
【0070】
このように構成されたこのワイヤバー塗布ヘッド500を用い、前記実施例と同様に連続走行するウェブ512に塗布液511を塗布する実験を行ったところ、給液側マニホールド506の内部において、塗工用のワイヤバー503及び第2のワイヤバー523によって塗布液511が積極的に送液方向(矢印F方向)に移動すると共に攪拌されるようになり、これにより長時間の塗布を行っても、塗布液511が給液側マニホールド506の内部に滞留、凝縮してノロを発生したり、フィラーが大粒子化したりすることがなく、ムラや傷等のない良質の塗膜が得られた。
【実施例6】
【0071】
上記実施例5では、第2のワイヤバー523を給液側マニホールド506の内部に設けたが、これを次のワイヤバー塗布ヘッド600のように排液側マニホールド507の内部に設けることも可能である。
【0072】
すなわち、このワイヤバー塗布ヘッド600は、図9に正面断面図で示すように、基台604のウェブ612走行方向における中央部に立設され、塗工用のワイヤバー603を回転自在に支持するバックアップ605と、バックアップ605の上流側及び下流側に夫々給液側マニホールド606及び排液側マニホールド607を形成する給液側コータブロック608及び排液側コータブロック609から成る塗布ヘッドにおいて、排液側マニホールド607の上方の空間部に、前記実施例5と同様に、塗工用のワイヤバー(第1のワイヤバー)603と実質的に同一の構成を有する第2のワイヤバー633をバックアップ634により回転自在に支持して成っている。
【0073】
このように構成された本ワイヤバー塗布ヘッド600においては、塗布された後の余剰の塗布液611はリターンして排液側マニホールド607の内部の塗布液611と混合される。このリターン液は原液に較べ溶剤が蒸発しているため凝集が発生し易くなっているのが実体である。このとき、本ワイヤバー塗布ヘッド600では排液側マニホールド607の内部に設けられた第2のワイヤバー633のポンピング効果と分散効果により塗布液611が均質化され、これによりノロの発生やフィラーの凝集による大粒子化を防止でき、塗布用のワイヤバー603の損傷をより確実に防止することができる。
【0074】
同時に、排液側マニホールド607にも新液は送られてきてはいるが、塗工用のワイヤバー603の回転により新液と余剰液の混合したものが塗布液611として一部供給側マニホールド606へ移動する。そのため、排液側マニホールド607の内部は塗布液611が不足がちになり、見かけ上、供給側マニホールド606の内部の圧力が低くなっている状態になる。ウエット膜厚が5μm以下の薄層塗布では余剰液の大部分が排液側マニホールド607の内部に引き込まれることになり、このとき余剰の塗布液611の表層部に付着する空気層が流入し易くなる。
【0075】
しかし、塗工用のワイヤバー603を設け、これを別のスピードコントロールモータにより適正に回転させることにより、このポンピング効果で塗布液611の不足分を補充し、かつ新液と余剰液を攪拌して均一化し、無害な状態として供給側に供給し、同時に前述した間隙tを通して外部に一部を押し出すことにより、余剰液表層部の空気が流入することを防止できるという、別の効果が期待できることが確認されている。
【実施例7】
【0076】
ところで、ワイヤバー塗布方式においては、とくにウエット膜厚が5μm以下の薄層の塗布の状態で、ワイヤバーと連続走行するウェブとの接触面に、塗布液が発泡して泡が付着し、これにより塗膜の品質が損なわれるという特有の問題があることは前述したとおりである。この点について上述した実施例に係るワイヤバー塗布ヘッドについて考察してみると、上記ポンピング作用及びその効果により泡の発生程度は減少されるものの、懸念が全くないとはいえないのが実情である。
【0077】
前述したように、このような泡の発生原因は、排液側マニホールドの内部の塗布液が不足がちになり、排液側マニホールドの内部の圧力が給液側マニホールドの内部の圧力よりも常に低い状態になっていることにあると考えられることから、本発明者は、排液側マニホールドの内部の圧力を給液側マニホールドの内部の圧力よりも常に高くなるようにするため、塗布液の供給量が多くなるようにして排液側マニホールドから常に一定量の塗布液が押し出されるようにすれば、このような泡の発生は一層防止できるのではと考え、図10に正面断面図で示すようなワイヤバー塗布ヘッド700を考案した。
【0078】
このワイヤバー塗布ヘッド700は、前述したワイヤバー塗布ヘッド500及びワイヤバー塗布ヘッド600の相乗効果を狙ったもので、図示するように、給液側マニホールド706の内部に第2のワイヤバー723がバックアップ724により、また、排液側マニホールド707の内部に第3のワイヤバー733がバックアップ734により、夫々回転自在に支持されている。ここでは、第2のワイヤバー723及び第3のワイヤバー733とも、そのポンピング効果を利用してワイヤバー塗布ヘッド700の全長に均一な塗布液711が行き亘るようにされている。
【0079】
また、排液側マニホールド707内の第3のワイヤバー733は給液側マニホールド706内の第2のワイヤバー723より送液量が多少多くなるように設定されて、薄層塗布時でも排液側マニホールド707内の塗布液711が外部に多少押し出されるようにされ、これにより余剰液の表層における空気層の流入が防止され、塗布時に泡が発生しないように図られている。そのために、第2のワイヤバー723にワイヤ径が100μmのものを、また第3のワイヤバー733にワイヤ径が150μmのものを用い、100rpmで回転したとき、クローズド状態で、排液側マニホールド707内の圧力が給液側マニホールド706内の圧力より約30mmAq程度高くなるようなポンピング効果が企図されている。
【0080】
この状況において、塗工用のワイヤバー(第1のワイヤバー)703に、ウエット膜厚で5μm程度を狙って直径が75μmのワイヤを密着巻回したものを用い、塗布速度を20m/分に設定し、第2のワイヤバー723及び第3のワイヤバー733を100rpmで回転して実験を行った結果、第2のワイヤバー723及び第3のワイヤバー733を回転させた場合、塗布サンプルに殆ど泡が見られなかったが、第3のワイヤバー733を停止させた場合には塗布サンプルにかなりの泡故障が散見された。この結果から、薄層塗布時に塗布液711が余剰液表層部の空気層と共に排液側マニホールド707内に引き込まれないようにすることで発泡問題は大部分が解消されることが立証された。
【0081】
以上、本発明の内容を、連続走行するウェブに塗布液を塗布する塗工用のバーがワイヤバーである実施例1から実施例6に基づき説明したが、本発明は塗工用のバーがこのようなワイヤバーに限定されるものでなく、例えば、転造バー、その典型例であるD−バー(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社の商品名)を適用することができる。これらのバー部材はロッドの外周に螺旋状の溝が形成されて成るもので、ワイヤをロッドに螺旋状に密着巻回して成る上述したワイヤバーと構成を共通にし、このワイヤバーと実質的に同一の作用効果を奏するものである。よって、これらのバー部材は、塗布液を移動、攪拌する目的で、すなわちポンピング効果及び分散効果を意図して使用される前記第2及び第3のワイヤバーの代用となり得ることはいうまでもない。なお、このような第2及び第3のワイヤバーの代用となり得る部材には、シャフト(ロッド)上にスクリューを螺旋状に刻設して成るネジ部材又はこれと類似する部材を適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
100、200、300、400、500、600、700 ワイヤバー塗布ヘッド
101、201、301、401 ワイヤ
102、202、302、402 ロッド
103、203、303、403、503、603、703 ワイヤバー
104、204、504、604、704, 基台
105、205、505、605、705 バックアップ
106、206、306、406、506、606、706 給液側マニホールド
107、207、307、407、507、607、707 排液側マニホールド
108、208、508、608、708 給液側コータブロック
109、209、509、609、709 排液側コータブロック
110、410 塗布液供給孔
111、211、411、511、611、711 塗布液
112、212、512、612 ウェブ
311W 水溶液
523、623、633、733 (第2、3の)ワイヤバー
M モータ
P (塗布液の)淀み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドの表面に溝が螺旋状に形成され、連続走行するウェブに塗布液を塗布する塗工用のバーと、基台に立設され、前記バーを回転自在に支持するバックアップと、前記バックアップの上流側及び下流側の前記基台に設けられ、夫々前記バックアップとの間に給液側マニホールド及び排液側マニホールドを形成する給液側コータブロック及び排液側コータブロックを具備して成るバー塗布ヘッドにおいて、前記給液側マニホールドの幅方向の一端側壁に塗布液を前記給液側マニホールド及び前記排液側マニホールドの内部に供給する塗布液供給孔を設け、かつ、前記バーの回転により生じるスラスト力により前記給液側マニホールド内の塗布液を前記幅方向の一端側から他端側に送る方向に前記溝の形成方向を整合させて、前記バーを配置して成ることを特徴とするバー塗布ヘッド。
【請求項2】
前記塗布液供給孔と実質的に同一の構成から成る少なくとも一つの第2の塗布液供給孔が、前記塗布液を送る方向に向けて、前記給液側マニホールドの給液側前壁に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項3】
前記塗布液供給孔は前記給液側マニホールドの底壁付近に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項4】
前記給液側マニホールド又は前記排液側マニホールドの内部に、前記塗工用のバーと実質的に同一の構成から成る第2のバーが回転可能に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項5】
前記給液側マニホールド及び前記排液側マニホールドの内部に、夫々前記塗工用のバーと実質的に同一の構成から成る第2のバー及び第3のバーが回転可能に設けられ、かつ、前記排液側マニホールドの内部の圧力が前記給液側マニホールドの内部の圧力より高く設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項6】
前記第2のバー及び/又は前記第3のバーは塗布時に前記塗工用のバーと連動して回転されることを特徴とする請求項4又は5に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項7】
前記塗工用のバーは、ワイヤバー、転造バー、D−バー(オーエスジーシステムプロダクツ株式会社の製品名)の中のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項8】
前記塗布ヘッドはクローズドタイプであり、前記塗布液は溶剤タイプの塗布液であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1に記載のバー塗布ヘッド。
【請求項9】
前記請求項1ないし8のいずれか1に記載のバー塗布ヘッドを組み込み、当該バー塗布ヘッドにより前記連続走行するウェブに前記塗布液を塗布するようにしたことを特徴とするバー塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−88098(P2011−88098A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245169(P2009−245169)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【特許番号】特許第4454690号(P4454690)
【特許公報発行日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(506262368)
【Fターム(参考)】