説明

パイルスペーサ

【課題】 パイルスペーサの引き抜き性を損なうことなく、中空パイル内面とパイルスペーサとの間の隙間の発生を抑制できるようにすると共に、パイルスペーサの取り扱い性、安全性、生産性を高めることができるようにする。
【解決手段】 引き抜き時に牽引手段が接続される部材として、本体2の下側にまわし込まれて取り付けられた牽引ベルト5を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーガマシンなどで掘削(通常は拡底掘削)され、根固め用のコンクリートが注入された掘削孔に中空パイルを埋設するに際し、削孔内に建て込んだ中空パイル内を上昇して中空パイル内を埋めて硬化するコンクリートを、その硬化後、中空パイル上端から所定の長さ分だけ除去するために、中空パイルの上部に予め挿設しておくパイルスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パイルスペーサとしては、合成樹脂発泡板を中空パイル内に挿入可能に丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板を取り付け、中空パイル内に挿設した本体内に下方から上昇して入り込むコンクリートの流入口を狭めて、本体内で硬化するコンクリートと、その下方で硬化するコンクリートとの間を仕切って、両コンクリートを分断しやすくすると共に、本体に、引き抜き時に牽引手段を接続する部材として、鉄板などの強固な材料で構成された引き抜き支持板を、本体の外面側に、径方向に相対向させかつ本体の上端より一端を突出させて、本体を縦断して取り付けたものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−273913号公報
【特許文献2】特開2000−96558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記引き抜き支持板を備えた従来のパイルスペーサには次のような問題がある。
【0005】
(1)引き抜き支持板は、牽引力に耐えるよう、厚くある程度の幅を有する鉄板などで構成されており、中空パイルの内面に沿って湾曲することができない。このため、従来のパイルスペーサは、中空パイル内に挿入した時に、この引き抜き支持板周りに隙間を生じやすく、この隙間に侵入して硬化したコンクリートを、パイルスペーサの引き抜き後に除去するハツリ作業が必要となることがある。
【0006】
(2)引き抜き支持板が重いため、パイルスペーサ全体の重量が大きく、持ち運びにくいと共に、本体の上端より突出した引き抜き支持板の一端が、運搬時に他のパイルスペーサの本体や他の荷物に当たって傷付けやすく、取り扱い性が悪い。
【0007】
(3)本体の上端より突出した引き抜き支持板の一端が、作業者がつまずいたりぶつかって怪我をする原因となりやすい。
【0008】
(4)引き抜き支持板の形成やこれを本体に取り付けるための加工に特別な設備や工具が必要となると共に手間がかかる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、合成樹脂発泡板を中空パイル内に挿入可能に丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板を取り付けたパイルスペーサにおいて、パイルスペーサの引き抜き性を損なうことなく、中空パイル内面とパイルスペーサとの間の隙間の発生を抑制できるようにすると共に、パイルスペーサの取り扱い性、安全性、生産性を高めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的のために、本発明の第1は、合成樹脂発泡板を丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板が取り付けられたパイルスペーサにおいて、少なくとも1本の牽引ベルトが、本体の外面を縦断し、下端で本体を径方向に横断した後、再び本体の外面を縦断して取り付けられていて、両端がそれぞれ本体の上端より外方に延出しており、本体の上端より外方に延出した牽引ベルトの端部に、それぞれ牽引手段が接続可能であることを特徴とするパイルスペーサを提供するものである。
【0011】
また、本発明の第2は、合成樹脂発泡板を丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板が取り付けられたパイルスペーサにおいて、複数本の牽引ベルトが、それぞれ、本体の外面を縦断し、下端で本体の肉厚面を横断した後、本体の内面を縦断して取り付けられていて、それぞれ両端が本体の上端より外方に延出しており、本体の上端より外方に延出した牽引ベルトの端部に、それぞれ牽引手段が接続可能であることを特徴とするパイルスペーサを提供するものである。
【0012】
さらに本発明の第3は、合成樹脂発泡板を丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板が取り付けられたパイルスペーサにおいて、複数本の牽引ベルトが、それぞれ、本体の外面を縦断し、下端が環状支持具に連結されて取り付けられていて、それぞれ上端が本体の上端より外方に延出しており、本体の上端より外方に延出した牽引ベルトの端部に、それぞれ牽引手段が接続可能であることを特徴とするパイルスペーサを提供するものである。
【0013】
上記本発明の第1〜第3は、それぞれ、
牽引ベルトの外面が保護帯で覆われていること、
縦方向に伸びる合成樹脂発泡体製の棒状の補強材が、本体の内面に、周方向に間隔をあけて複数本取り付けられていること、
本体の縦方向中間部に、補強材を横断して形成された保持溝に嵌め込まれて中間リングが取り付けられていること、
本体の下端側外周面に、本体を構成する合成樹脂発泡体より発泡倍率が大きい合成樹脂発泡体製の帯状の下部ストッパが取り付けられていること、
下部ストッパの下端部外周面が、下方に向かって外径を縮径するテーパ面となっていること、
をその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1〜第3のパイルスペーサにおいて、引き抜き時に牽引手段を接続する部材は牽引ベルトであり、例えば合成繊維、天然繊維、金属繊維などで構成した可撓性を有する帯体で構成することができる。従って、本発明のパイルスペーサを中空パイル内に挿入したときに、牽引ベルトの取り付け箇所が中空パイル内面に馴染みやすく、中空パイル内面との間に隙間を生じにくい。また、上記材料は、軽量で加工性がよいため、本発明のパイルスペーサは、取り扱い性、安全性、生産性に優れる。
【0015】
また、本発明の第1のパイルスペーサでは、1本の牽引ベルトが、本体の下端を径方向に横断して、本体全体をU字形に抱き込むように取り付けられている。本発明の第2のパイルスペーサでは、複数本の牽引ベルトが、それぞれ本体の肉厚面を横断して、本体の周壁部をU字形に抱き込むように取り付けられている。本発明の第3のパイルスペーサでは、複数本の牽引ベルトが、仕切り板を保持する環状支持具を介して本体全体をU字形に抱き込むように取り付けられている。つまり、いずれにおける牽引ベルトも、本体の下端にまわし込まれて本体をしっかり掴み込んだ状態で取り付けられており、牽引ベルトに加えられる引き抜き力を確実に本体側へ伝えることができるので、良好な引き抜き性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明を説明する。なお、本明細書において、本体の上下は本体を中空パイルへ挿入する時の状態における上下、縦方向はこの上下方向、横方向は上下方向に対する直交方向を意味する。また、以下で説明する図面において、同じ符号は同様の部材を示す。
【0017】
まず、図1〜図7に基づいて、本発明のパイルスぺーサの第1の例を説明する。
【0018】
本例のパイルスぺーサは、図1に示されるように、中空パイル1(図5〜図7参照)内に挿入可能な大きさに丸められた本体2を備えたものとなっている。この本体2は、合成樹脂発泡板で構成されているもので、平坦な状態に戻ろうとする弾性復帰力により拡径可能な状態で丸められており、通常、紐やテープなど(図示されていない)を巻き付けて仮止めしておくことで拡径が抑えられている。
【0019】
この本体1の内面には、丸めやすくするために、本体2の上下方向に伸びた多数の縦溝3を並列して形成しておくことが好ましい。この縦溝3間の間隔は、本体2を広げた状態において、本体2の左右両側部に比して中央部が広くなっていることが好ましい。具体的には、中央部の縦溝3の間隔が両側部の縦溝3の間隔の1.5〜2倍であることが好ましい。縦溝3の間隔を本体2の中央部で広くしておくことで、本体2の中央部に適度な弾性復帰力を維持させることができ、本パイルスぺーサを俵積みして保管または輸送する際に、その潰れを防止しやすくすることができる。また、縦溝3の間隔が本体2の両側部で狭くするのは、湾曲させにくい本体2の両側部を弧状に湾曲させやすくするためである。
【0020】
上記縦溝3の深さ、幅、間隔は、本体2の厚さ、材質、発泡倍率等に応じて定めればよい。また、縦溝3の断面形状は、方形や半円形でもよいが、丸めやすくなることから、V字形または逆三角形状であることが好ましい。
【0021】
本体2を構成する合成樹脂発泡体としては、ポリスチレン系合成樹脂やポリオレフィン系合成樹脂などの発泡体が挙げられるが、ポリオレフィン系合成樹脂発泡体の場合、例えばポリスチレン発泡体等に比して腰が強くかつ可撓性および弾性に優れ、割れや欠けを生じることなく中空パイル1(図5〜図7参照)の内面に密着させやすいと共に、コンクリートが付着しにくい利点があるので好ましい。ポリオレフィン系合成樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、これらを50重量%以上含む共重合体を挙げることができ、好ましくはポリエチレンである。本体2をポリオレフィン系合成樹脂発泡体製とする場合、その発泡倍率は、必要な強度、弾性等を得る上で、5〜100倍であることが好ましく、さらに好ましくは20〜50倍である。また、このポリオレフィン系合成樹脂発泡体で構成される本体2の厚みは、後述する硬化したコンクリート4(図6および図7参照)の分断除去時に、その弾性を利用して左右に揺すりやすいよう、20〜50mmであることが好ましい。
【0022】
図1および図2に示されるように、本体2には、牽引ベルト5が取り付けられている。本例の牽引ベルト5は、本体2の外面を縦断し、下端で本体2を径方向に横断した後、再び本体2の外面を縦断したU字形をなし、当該牽引ベルト5および本体2を適宜の間隔で貫通するボルト6の締め付けによって本体2に取り付けられている。また、牽引ベルト5の両端は、それぞれ本体2の上端より外方に延出している。
【0023】
本例における牽引ベルト5は、1本を上記のようにU字形に取り付けたものとなっているが、同様にして2本以上取り付けることもできる。この牽引ベルト5の取り付けは、取り付け位置となる本体2の外面に浅い溝を形成しておき、本体2の外面に対して牽引ベルト5の表面ができるだけ平らに納まるように行うことが好ましい。また、ボルト6の締め付けは、本体2の内面との間に当て板7を介在させて行うことが好ましい。当て板7としては、ポリオレフィン系樹脂の低発泡板が好ましい。
【0024】
ボルト6は、牽引ベルト5と本体2を貫通して締め付けられ、両者を接合していると同時に、それぞれ本体2の内面側に設けられたL型金具8の縦片をも貫通し、L型金具8を、その横片を内方に突出させた状態で本体2に固定している。L型金具8は、必須のものではないが、本体2内で硬化したコンクリート4(図6および図7参照)と、本体2および牽引ベルト5との一体性を高めることができるので、設けることが好ましい。また、最下段のL型金具8は、後述する仕切り板9付きの環状支持具10の支持材としての役割も果たすものとなっている。
【0025】
上記牽引ベルト5は、例えば合成繊維、天然繊維、金属繊維などで構成した可撓性を有する帯体で構成されているもので、本体2内で硬化したコンクリート4と共に本体2を中空パイル1から引き抜く際に(図7参照)、パワーショベルやクレーンなどの牽引手段で牽引する部材である。本体2の上端より外方に延出した牽引ベルト5の両端には、そこにワイヤーやフックなどを掛けてパワーショベルやクレーンなどの牽引手段を接続しやすくするためにループ状の掛け部11が形成されている。
【0026】
図2に示されるように、丸められた本体2の下端部の内側には、最下段に取り付けられた前記L型金具8上に支持された状態で、仕切り板9付きの環状支持具10が取り付けられている。
【0027】
図3に示されるように、環状支持具10は、例えば鉄棒などで形成された環状材料で、予め仕切板9が取り付けられている。また、仕切り板9は、対向する位置にベルト通し部12を開けて取り付けられている。本体2の下端を径方向に横断している部分の牽引ベルト5は、環状支持具10の下方側から一方のベルト通し部12を介して仕切り板9の上面側にまわされ、他方のベルト通し部12から環状支持具10の下方へとジグザグに通されており、これによって仕切り板9付きの環状支持具10が本体2に取り付けられている。
【0028】
仕切板11は、中空パイル1内に挿設された本体2内に、その下方から上昇して入り込むコンクリート4(図6参照)の流入口を狭め、本体2内で硬化するコンクリート4と、その下方で硬化するコンクリート4との間を仕切って、両者を分断しやすくするためのものである。仕切板11は、例えばゴムや合成樹脂(ポリオレフィン系合成樹脂が好ましい)などの可撓性を有するシート材料に、牽引ベルト5が横切る部分を避けて、十字形もしくは放射状に切れ目13を入れて複数の舌片14を形成したもので、この舌片14がまくれ上がることでコンクリート4の流入を許容するものとなっている。
【0029】
さらに仕切り板9付きの環状支持具10について説明すると、環状支持具10は、図4に示されるように、ベルト通し部12に隣接して内周に掛け渡された補強バー15を有するものとすることができる。この補強バー15は、丸めた本体2の径が大きくなる場合には、環状支持具10を補強する意味から設けることが好ましい。補強バー15を設けた場合、一方のベルト通し部12を通した牽引ベルト5を補強バー15の上側にまわしてから他方のベルト通し部12へ通すようにすることが好ましい。また、仕切板9は、切れ目12を入れて複数の舌片13を形成したものの他、小孔や細幅の開口を設けたものとすることもできる。
【0030】
本体2の左右いずれか一側には、本体2を丸めた時に他側に重ねられる薄肉の重ね合わせ片16が設けられている。重ね合わせ片16は、本体2と一体に形成もしくは本体2に溶着または接着で設けることができる。この重ね合わせ片16は必須のものではないが、重ね合わせ片16を設けておくと、本体2を丸めた時の両側縁部を、外面側に大きな段差を発生させることなく重ね合わせることができ、本体2の全外周を中空パイル1(図5〜図7参照)の内面に密着させやすくなる。
【0031】
前記重ね合わせ片16も、本体2と同様にポリオレフィン系合成樹脂製であることが好ましい。また、この重ね合わせ片16は、薄く形成されているものの、腰が強いと、本体2を丸めた時の重ね合わせ作業が行いやすいので、非発泡のポリオレフィン系合成樹脂またはは発泡倍率が50倍以下のポリオレフィン系合成樹脂発泡体であることが好ましい。ポリオレフィン系合成樹脂発泡体とする場合、特に発泡倍率が5〜50倍であることが好ましい。
【0032】
本体2の上下端側の外周面には、本体2を構成する合成樹脂発泡体より発泡倍率が大きい合成樹脂発泡体製の帯状の上部ストッパ17と下部ストッパ18が取り付けられている。この上部ストッパ17と下部ストッパ18は、本体2の外面と中空パイル1(図5〜図7参照)の内面がある程度密着できる範囲で両者間に介在されるもので、本体2を構成する合成樹脂発泡体より発泡倍率が大きい合成樹脂発泡体製であることにより、本体2に比して弾性圧縮されやすくなっている。
【0033】
特に下部ストッパ18は、下方から上昇して来るコンクリート4が本体2の外面と中空パイル1の内面間に入り込まないようにする(図6参照)シール部材として機能するもので、本体2の下端側末端に設けられていることが好ましい。また、下部ストッパ18を設けておくと、本体2の外周面全体を強く中空パイル1内面に密着させなくても、本体2と中空パイル1間へのコンクリート4の侵入を防止できることから、本体2が引き抜きやすくなり、本体2の引き抜き時に牽引ベルト5に加わる負荷を軽減することができる。
【0034】
上部ストッパ17は、下部ストッパ18が設けられた下端側の嵌め合わせ状態と上端側の嵌め合わせ状態のバランスをとって、中空パイル1内への本体2の挿設状態を安定させるためのもので、本体2の上端側末端に設けられていることが好ましい。また、上部ストッパ17と下部ストッパ18は、本体2の端部を補強するものでもある。
【0035】
次に、上述のパイルスぺーサの使用方法を説明する。
【0036】
まず、前述した仕切り板9付きの環状支持具10などが取り付けられ、丸められて仮止めされた本体2を、図5に示されるように、中空パイル1内に挿設する。
【0037】
根固め用のコンクリート4(図6および図7参照)を注入した竪杭内に当該中空パイル1を建て込んだ時に、中空パイル1内を上昇するコンクリート4によって本パイルスペーサが浮き上がらないよう、押え棒19(一般にかんざし筋という)を中空パイル1上端の鉄枠20に熔接などで止め、本パイルスぺーサを押えておくことが好ましい。押え棒19の代わりに、紐(図示されていない)を予め牽引ベルト5の掛け部11付近に取り付けておき、この紐を、中空パイル1上端の鉄枠20に設けられている、クレーンなどの吊り下げチャックに掛けられる爪部(図示されていない)に縛り付けることで上記浮き上がりを防止することもできる。この紐を用いると、本パイルスペーサの抜き取り時に、熔接されている押さえ棒19を外す手間を省略することができる。
【0038】
また、上方に延出した牽引ベルト5の端部が内側に垂れ下がってコンクリート4に固められてしまわないように、該端部同士を接続してほぼ水平に張り渡すことができるよう、例えばテープファスナーや結束バンドなどのベルト連結手段(図示されていない)を設けておくことが好ましい。
【0039】
本パイルスぺーサは、仮止めを解除しながら挿設して使用することができる。仮止めを解除すると、本体2が弾性復帰して拡径することで中空パイル1の内面に密着する。このため、中空パイル1内面の凹凸や内径の誤差はもとより、同じ本パイルスぺーサを径の異なる異種類の中空パイル1に対して使用することが可能である。また、中空パイル1の内面に密着しやすく、本体2と中空パイル1の内面との間にほとんど隙間を残さない。従って、中空パイル1内を上昇するコンクリートが、中空パイル1の内面と本体2の間にほとんど侵入しないことに加え、本体2をコンクリートが付着しにくいポリオレフィン系合成樹脂発泡体製とすると、養生後に行われる、本体2を含めた本パイルスぺーサの除去がより容易となる。
【0040】
丸めて仮止めされている本体2を、仮止めを解除することなくそのまま中空パイル1内に挿入して使用することもできる。仮止めを解除しなくても、丸めた本体2は、内部に流入するコンクリートによって、仮止め用の紐やテープを巻き付けた部分がくびれてしまう程に拡径する。従って、中空パイル1の内径に比して丸められて仮止めされた本体2の外径が極端に小さくなければ、仮止めしたままの本パイルスぺーサでも本体2を十分中空パイル1の内面に密着させることが可能で、しかも中空パイル1内への挿入作業性も向上する。
【0041】
本パイルスぺーサを図5に示されるように中空パイル1内にセットした後、中空パイル1を、図6に示されるように、根固め用のコンクリート4を注入した竪杭内に沈設する。沈設は、クレーンなどで中空パイル1を釣り下げて行うが、適当な速度で垂直に中空パイル1を降下させるのは必ずしも容易ではなく、中空パイル1の下端が竪杭の側壁をこすりながら沈設されたり、中空パイルが急速に降下されてしまう場合もある。このようなことから、中空パイル1内を上昇してくるコンクリートと共に大きな石や瓦礫が押し上げられ、これが丸めて挿設した本体2内に嵌り込んでしまうことも生じる。大きな石や瓦礫が本体2内に強固に嵌り込んでしまうと、養生後の本パイルスぺーサの引き抜きが困難になる。図4に示されるような補強バー15付の環状支持具10を用いて仕切板9を取り付けておくと、このような大きな石や瓦礫が本体2内に入り込むのを防止しやすい利点もある。
【0042】
養生の後、図7に示されるように、本体2内の硬化コンクリート4をその下方の硬化コンクリート4から分断して、本パイルスぺーサごと抜き取り除去する。この分断除去は、牽引ベルト5の掛け部11にワイヤーやフックを掛けて、パワーショベルやクレーなどの牽引手段に接続して牽引し、必要ならさらに左右に揺することで行う。本体2の外面側に牽引ベルト5が取り付けられているので、牽引ベルト5を中空パイル1の中心方向に傾けて引っ張ることで、本体2と中空パイル1内面との剥離を促進することができる。特に図7に示されるように、逆Y字形にワイヤーなどを掛けて上方に引くと、牽引ベルト5を中空パイル1の中心方向に引っ張る力が自動的に加わるので、本パイルスぺーサの引き抜きが一層容易となる。
【0043】
本パイルスぺーサは、前述のように本体2と中空パイル1の内面との間にコンクリートが侵入しにくく、しかも本体2はコンクリート4が付着しにくい材質であるので、本体2と中空パイル1が強く接合されにくい。仮に本体2と中空パイル1内面との間に多少コンクリート4が侵入したとしても、上述のように牽引ベルト5を中空パイル1の中心方向へ傾けて引っ張ることで、本体2と中空パイル1内面との剥離を促進できるので、引き抜きが容易である。さらに引き抜きを容易にするためには、本体2の外面に離型剤を塗布しておくことも有効である。
【0044】
ところで、中空パイル1を埋め込む位置の地質や施工状態によっては、中空パイル1の上部までコンクリート4が上昇せず、これに代わって土砂が押し上げられてしまうことがある。この場合、本体2内は土砂で満たされた状態となるが、土砂はコンクリート4のように硬化しないことから、牽引ベルト5に加えられる引き抜き力が分散せず、牽引ベルト部分に集中的に加わりやすくなる。このような状態となると、牽引ベルト5のみが本体2から外れて引き抜かれてしまい、土砂と本体2が残留してしまいやすくなるが、牽引ベルト5が本体2の下端を径方向に横断しているため、確実に引き抜き力を本体2に加えることができ、上記のような状態においても土砂と共に全体を容易に引き抜くことができる。
【0045】
このようにして、本パイルスぺーサおよび本体2内の硬化コンクリート4または土砂を除去した後は、これによって開けられた中空パイル1上部の空間にかご状の鉄筋を挿設し、地中梁の構築が進められることになる。
【0046】
図8〜11図は、本パイルスぺーサの第2の例を示すもので、2本の牽引ベルト5が、それぞれ本体2の外面を縦断し、下端で本体2の肉厚面を横断した後、本体2の内面を縦断したU字形に取り付けられている。また、各牽引ベルト5の両端が、それぞれ本体2の上端より外方に延出しており、ループ状に接続されて、掛け部11を構成している。
【0047】
本例のパイルスペーサの仕切り板9においては、図10に示されるように、前述の第1の例のように仕切り板9上を牽引ベルト5が横切らないので、舌片14を形成する切り込み13を仕切り板の中央部に形成することができる。また、図11に示されるように、環状支持具10を補強バー15付きのものとすることができるのは、前述の第1の例と同様である。
【0048】
本例のパイルスペーサは、上記の点以外は前述の第1の例と同様である。また、本例においては、2本の牽引ベルト5がほぼ相対向する位置に取り付けられているが、3本以上の牽引ベルト5を、丸められた本体2の周方向にほぼ等間隔で設けることもできる。
【0049】
図12は、前記第1の例に係るパイルスペーサに中間リング21を取り付ける場合を示す図、図13は、前記第2の例に係るパイルスペーサに中間リング21を取り付ける場合を示す図である。
【0050】
いずれにおいても、本体2の縦方向中間部に、本体2との間に当て板7を挟んで、ボルト6によってフック部22が取り付けられている。このフック部22は、中間リング21を通して取り付けるためのものである。
【0051】
中間リング21は、丸めた時の本体2の内径とほぼ等しい径(通常は本体2の内径より若干小さな径)の割環状をなすもので、本体2を丸めて仮止めした本パイルスぺーサを俵積みして保管又は輸送する際に、その潰れを防止するためのものである。従って、大径で潰れやすいパイルスぺーサについてはこの中間リング21を設けることが好ましい。また、中間リング21は割環状で弾性的に縮径できることから、丸めた時の本体2の内径よりやや大きな径として、本体2を丸める時に弾性的に縮径させておき、中空パイル1への挿入後に中間リング21の弾性復帰力を利用して、本体2の外面を中空パイル1の内面へ密着させることもできる。
【0052】
図14〜図16は、本パイルスぺーサの第3の例を示すもので、2本の牽引ベルト5が、それぞれ本体2の外面を縦断し、下端がそれぞれ仕切り板9付きの環状支持具10に連結されている。従って、本例の牽引ベルト5は、環状支持具10を介して連結されており、全体として、前記第1の例と同様に、本体2をU字形に抱き込んだものとなっている。このため、第1の例と同様に、牽引ベルト5に加えられる引き抜き力を本体2に伝えやすいものとなっている。また、各牽引ベルト5の上端は、それぞれ本体2の上端より外方に延出しており、ループ状に接続されて、掛け部11を構成している。
【0053】
本例における牽引ベルト5の外面には、保護帯23が重ねて取り付けられており、保護帯23が牽引ベルト5の外面を覆っている。この保護帯23は、第1および第2の例における当て板7と同様の材料で構成された帯体で、ボルト6が直接牽引ベルト5に当たって傷付けるのを防止すると共に、挿設時や引き抜き時に牽引ベルト5が中空パイル1内面と直接擦れ合って傷付くのを防止するためのものである。この保護帯23は、少なくとも、本体の周面に露出する牽引ベルト5を覆って設けることが好ましい。また、前記第1の例および第2の例における牽引ベルト5にも設けることができる。
【0054】
本例における本体2の下端部には、周方向に相対向する位置に、本体2の肉厚部を上記牽引ベルト5および保護帯23と共に挟み込んでボルト6で固定された、略上向きコ字形のエンド金具24が設けられている。このエンド金具24の下部内側は、外方に膨出した保持部25となっており、この保持部25に環状支持具10が通されている。このエンド金具24は、必須のものではないが、これを設けると仕切り板9付きの環状支持具10の取り付け状態を安定させることができる。
【0055】
また、本例における本体2の内面には、縦方向に伸びる合成樹脂発泡体製の棒状の補強材26が、周方向に間隔をあけて複数本取り付けられている。この補強材26は、本体2と同様の合成樹脂発泡体で構成することができる。補強材26を設けておくと、下方から上昇してくるコンクリートの圧力で本体2が縦方向に圧縮されてしまうのを防止しやすくなるので、本体2の薄肉化が可能となる。
【0056】
さらに上記補強材26を設けておくと、この補強材26を利用して前記のような中間リング21を取り付けることができる。つまり、図15および16に示されるように、補強材26の適宜の位置に、補強材26を横断する保持溝27を設けておき、この保持溝27に中間リング21を嵌め込むことで、金具を使用せずに中間リング26を取り付けることが可能となる。
【0057】
なお、本例においては、図15および図16に示されるように、ボルト6で本体2に取り付けられた押えベルト28でも中間リング21を押さえているが、この押さえベルト28は、中間リング21を所定の位置に保持した状態で本体2を丸めやすくするためのもので、必須のものではない。
【0058】
補強材26は、本体2の上端から下端まで伸びたものとすることもできるが、仕切り板9の舌片14(図15参照)をまくり上げて流入するコンクリートの流れを妨げないよう、本体2の下端よりやや上方までに止めておくことが好ましい。
【0059】
本例における下部ストッパ18の下端部外周面は、下方に向かって外径を縮径するテーパ面29となっている。このテーパ面29を設けておくと、本体2を中空パイル1内へ挿入しやすくなる。
【0060】
図17は、本体2の他の例を示すもので、本体2の下端部内縁が、下方に向かって内径を拡大するテーパ面30となっている。このようにすると、根固め用のコンクリート4(図7参照)が注入された竪杭内に中空パイル1を沈設した時に上昇してくるコンクリート4は、図14中矢印で示されるように、テーパ面30に沿って流れ、本体2の下端部を中空パイル1の内面に押し付けることになる。従って、本体2と中空パイル1の内面間にコンクリート4が侵入しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のパイルスペーサの第1の例を示す斜視図である。
【図2】第1の例に係るパイルスペーサの一部を省略した拡大断面図である。
【図3】第1の例に係るパイルスペーサにおける仕切り板付き環状支持具部分の一例を示す斜視図である。
【図4】第1の例に係るパイルスペーサにおける仕切り板付き環状支持具部分の他の例を示す斜視図である。
【図5】第1の例に係るパイルスペーサを中空パイルの上部にセットした状態を示す断面図である。
【図6】第1の例に係るパイルスペーサをセットした中空パイルを、根固めコンクリートを注入した竪杭に沈設した状態を示す断面図である。
【図7】第1の例に係るパイルスペーサ内の硬化コンクリートをその下方の硬化コンクリートから分断して抜き出す途中状態の断面図である。
【図8】本発明のパイルスペーサの第2の例を示す斜視図である。
【図9】第2の例に係るパイルスペーサの一部を省略した拡大断面図である。
【図10】第2の例に係るパイルスペーサにおける仕切り板付き環状支持具部分の一例を示す斜視図である。
【図11】第2の例に係るパイルスペーサにおける仕切り板付き環状支持具部分の他の例を示す斜視図である。
【図12】第1の例に係るパイルスペーサに中間リングを取り付けた状態を示す本体中間部の断面斜視図である。
【図13】第2の例に係るパイルスペーサに中間リングを取り付けた状態を示す本体中間部の断面斜視図である。
【図14】本発明のパイルスペーサの第3の例を示す斜視図である。
【図15】第3の例に係るパイルスペーサの拡大平面図である。
【図16】第3の例に係るパイルスペーサの一部を省略した拡大断面図である。
【図17】本体下部の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 中空パイル
2 本体
3 縦溝
4 コンクリート
5 牽引ベルト
6 ボルト
7 当て板
8 L型金具
9 仕切り板
10 環状支持具
11 掛け部
12 ベルト通し部
13 切れ目
14 舌片
15 補強バー
16 重ね合わせ片
17 上部ストッパ
18 下部ストッパ
19 押え棒
20 鉄枠
21 中間リング
22 フック部
23 保護帯
24 エンド金具
25 保持部
26 補強材
27 保持溝
28 押えベルト
29 テーパ面
30 テーパ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂発泡板を丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板が取り付けられたパイルスペーサにおいて、
少なくとも1本の牽引ベルトが、本体の外面を縦断し、下端で本体を径方向に横断した後、再び本体の外面を縦断して取り付けられていて、両端がそれぞれ本体の上端より外方に延出しており、本体の上端より外方に延出した牽引ベルトの端部に、それぞれ牽引手段が接続可能であることを特徴とするパイルスペーサ。
【請求項2】
合成樹脂発泡板を丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板が取り付けられたパイルスペーサにおいて、
複数本の牽引ベルトが、それぞれ、本体の外面を縦断し、下端で本体の肉厚面を横断した後、本体の内面を縦断して取り付けられていて、それぞれ両端が本体の上端より外方に延出しており、本体の上端より外方に延出した牽引ベルトの端部に、それぞれ牽引手段が接続可能であることを特徴とするパイルスペーサ。
【請求項3】
合成樹脂発泡板を丸めた本体の下部内に、環状支持具に保持された仕切り板が取り付けられたパイルスペーサにおいて、
複数本の牽引ベルトが、それぞれ、本体の外面を縦断し、下端が環状支持具に連結されて取り付けられていて、それぞれ上端が本体の上端より外方に延出しており、本体の上端より外方に延出した牽引ベルトの端部に、それぞれ牽引手段が接続可能であることを特徴とするパイルスペーサ。
【請求項4】
牽引ベルトの外面が保護帯で覆われていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパイルスペーサ。
【請求項5】
縦方向に伸びる合成樹脂発泡体製の棒状の補強材が、本体の内面に、周方向に間隔をあけて複数本取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のパイルスペーサ。
【請求項6】
本体の縦方向中間部に、補強材を横断して形成された保持溝に嵌め込まれて中間リングが取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載のパイルスペーサ。
【請求項7】
本体の下端側外周面に、本体を構成する合成樹脂発泡体より発泡倍率が大きい合成樹脂発泡体製の帯状の下部ストッパが取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のパイルスペーサ。
【請求項8】
下部ストッパの下端部外周面が、下方に向かって外径を縮径するテーパ面となっていることを特徴とする請求項7に記載のパイルスペーサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate