パイルド・ラフト工法
【課題】構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づける。
【解決手段】構造物10の地下躯体14を上階から下階へ構築していくときに、杭基礎120のばね定数、地盤20のばね定数、及び杭基礎120が負担する荷重に基づいて、設計時に想定した直接基礎150と杭基礎120とで構造物10の荷重を負担する時期を調整する。よって、杭基礎120と直接基礎150とが分担する構築後の構造物10の荷重の荷重分担率が、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【解決手段】構造物10の地下躯体14を上階から下階へ構築していくときに、杭基礎120のばね定数、地盤20のばね定数、及び杭基礎120が負担する荷重に基づいて、設計時に想定した直接基礎150と杭基礎120とで構造物10の荷重を負担する時期を調整する。よって、杭基礎120と直接基礎150とが分担する構築後の構造物10の荷重の荷重分担率が、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 パイルド・ラフト工法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭基礎(パイル)と直接基礎(ラフト)とで構造物を支持するパイルド・ラフト基礎が知られている。
【0003】
また、堀削終了後に基礎部から順次上階へ躯体を構築していく順打ち工法に対して、掘削の進行に従って1階床から地下1階、更に地下2階へと、下階に向かって躯体を構築していく逆打ち工法が知られている。
【0004】
特許文献1には、杭基礎で支持される構造物を構築する場合において、杭基礎の杭頭部と構造物の基礎部との接合を、構造物の構築が予定した作業工程が終了した時点で行う構造物構築方法が提案されている。
【0005】
ここで、パイルド・ラフト基礎において、設計時に想定した杭基礎(パイル)と直接基礎(ラフト)とが分担する構造物の荷重の荷重分担率と、構造物を構築した後の実際の荷重分担率と、が大きく異なることがある。よって、実際に杭基礎にかかる荷重又は直接基礎にかかる荷重が、設計時の想定よりも大きくなっても、許容応力度を超えないように余裕を持って設計されていることが多い。
【0006】
したがって、構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004―225487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事実を考慮し、構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係から前記杭基礎のばね定数を求める工程と、前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と、地層の変形量と、の関係から前記地盤のばね定数を求める工程と、設計時に想定した前記杭基礎と掘削底面に構築される直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎のばね定数、前記地盤のばね定数、及び前記杭基礎が負担する荷重に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、を備える。
【0010】
請求項1の発明では、杭基礎のばね定数、地盤のばね定数、及び杭基礎が負担する荷重に基づいて、設計時に想定した直接基礎と杭基礎とで構造物の荷重を負担する時期を調整する。よって、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時に想定した荷重分担率に近づく。
【0011】
請求項2の発明は、地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係と、前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と地層の変形量との関係と、から前記杭基礎の鉛直方向の剛性と掘削底面に構築される直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比を求める工程と、設計時に想定した前記杭基礎と掘削底面に構築される直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎の鉛直方向の剛性と前記直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、を備える。
【0012】
請求項2の発明では、杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比に基づいて、直接基礎と杭基礎とで構造物の荷重を負担する時期を調整する。よって、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時に想定した荷重分担率に近づく。
【0013】
請求項3の発明は、前記直接基礎を複数の領域に分割し、分割された領域毎に前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する。
【0014】
請求項3の発明では、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時の荷重分担率に、より正確に近づく。
【0015】
請求項4の発明は、前記杭基礎ごとに、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する。
【0016】
請求項4の発明では、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時の荷重分担率に、より正確に近づく。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎によって支持された構造物の施工工程を(A)〜(D)に順番に示す工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎をばねモデルとした解析モデル図を示し、(A)は構造物が完成した後のモデル図であり、(B)は直接基礎を構築する前のモデル図であり、(C)は直接基礎を構築した後のモデル図である。
【図4】第一変形例のパイルド・ラフト工法の工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【図5】第二変形例のパイルド・ラフト工法の工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎によって支持された他の構造物の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法について説明する。なお、図2に図示されている「ラフトばね155」及び「パイルばね125」については、後述する図3のパイルド・ラフト基礎をばねモデルとした解析モデル図の説明を補足するための図示であり、実線で図示されているが、実際にこのようなばねが存在するものではない。
【0020】
図1(D)と図2とに示すように、本発明が適用されて構築された構造物10は、地上躯体12と地下躯体14とを含んで構成されている。また、構造物10は、地盤20に構築されたパイルド・ラフト基礎100によって支持されている。パイルド・ラフト基礎100は、複数の杭基礎(パイル)120と直接基礎(ラフト)150とを有し、これら杭基礎(パイル)120と直接基礎(ラフト)150とで構造物10の荷重を分担して支持している。
【0021】
直接基礎150は、地下躯体14を構築するために掘削された掘削空間50の掘削底面52に構築されている。また、本実施形態では、杭基礎120の下端部122は、硬い支持層22までは到達していない。しかし、杭基礎120の下端部122が支持層22で到達していてもよい。
【0022】
図1(A)から図1(D)へと順番に示すように、構造物10は、逆打ち工法によって施工されている。本実施形態では、本設の床梁を山留め支保工として利用しながら、地盤20に構築された杭基礎120に構造物10の構真柱60を建て込み、地上躯体12を構築しつつ、地盤20を掘削しながら地下躯体14を構築していく。そして、図1(C)に示すように、所定の時期に直接基礎150を構築する。つまり、構造物10が、所定階まで構築されると直接基礎150を構築する。別の観点から説明すると、構造物10の杭基礎120かかる荷重が所定の大きさなると直接基礎150を構築する。
【0023】
なお、逆打ち工法では、設計時に予め直接基礎150を構築する時期が想定されている。また、設計時に杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率が想定されている。
【0024】
そして、本実施形態では、実際に構造物10が構築された後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけるため、設計時に想定した直接基礎150を構築する時期(図1(D)を参照)を、施工時に調整している。よって、つぎに、直接基礎150を構築する時期の調整方法について説明する。
【0025】
<工法>
図3は、直接基礎150が支持される地盤20と杭基礎120とをばねモデルとした解析モデル図である。また、地盤20のばねモデルをラフトばね155とし、杭基礎120のばねモデルをパイルばね155として、図示されている(図2も参照)。また、構築後の構造物10の荷重をNとし、施工時における直接基礎150を構築する前の構造物10の荷重をN1とし、直接基礎150を構築した後の構造物10の荷重をN2とする。よって、N=N1+N2となる。
【0026】
[設計時]
直接基礎150を構築する時期を想定(決定)する。また、図3(A)に示すように、地盤20によるばね定数(ラフトばね155のばね定数)、杭基礎120のばね定数(パイルばね155のばね定数)とから、杭基礎120の鉛直方向の剛性と直接基礎150の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比を求める。なお、地盤20のばね定数(ラフトばね155のばね定数)は、地盤20の事前の調査や今までのデータ等に基づいて求めることができる。同様に、杭基礎120のばね定数(パイルばね155のばね定数)も設計値や各種データ等に基づいて求めることができる。
【0027】
そして、これらから構造物10の構築後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を想定する。
【0028】
具体的に説明すると、図3(B)に示すように、直接基礎150を構築する前の構造物10の荷重N1は、全て杭基礎120が負担するので、この時点で杭基礎120が負担する荷重はN1である。
【0029】
図3(C)に示すように、直接基礎150を構築する後の構造物10の荷重N2は、杭基礎120と直接基礎150とが分担して負担する。鉛直剛性比から杭基礎120が負担する鉛直荷重分担率をαとすると、これ以降で杭基礎120が負担する荷重は「N2×α」となり、直接基礎150が負担する荷重は「N2×(1−α)」となる。
【0030】
よって、図3(A)に示す構造物10の構築後に杭基礎120が負担する荷重は「N1+(N2×α)」であり、直接基礎150が負担する荷重は「N2×(1−α)」となる。また、設計時に想定される構築後の杭基礎120と直接基礎150が分担する荷重分担率J1は「N1+(N2×α):N2×(1−α)」である。
【0031】
[施工時]
地盤20に構築された杭基礎120に構造物10の構真柱60を建て込み、地上躯体12を構築しつつ、地盤20を掘削しながら地下躯体14を構築していくときに、言い換えると直接基礎150を構築する前の状態(図1(A)又は図1(B)の状態)において、構真柱60の軸力と変位量との関係から杭基礎120のばね定数を求める。
【0032】
また、地盤20の掘削土量と地層の変形量との関係から地盤20のばね定数を求める。また、ディープウエル(深井戸)工法等で地盤20から地下水が抜かれる場合、地下水を抜くことによって浮力が減少し、これによって荷重が増加する。よって、水位低下量と地層の変位量とからも地盤20のばね定数を求めることができる。また、地盤20の掘削土量と水位低下量との両方と、地層の変形量と、から地盤20のばね定数(ラフトばね定数)を求めてもよい。なお、地層の変形量を計測する方法の一例として、層別沈下計の値を用いることができる。
【0033】
設計時と同様に、計測結果によって求められた地盤20によるばね定数(ラフトばね155のばね定数)、杭基礎120のばね定数(パイルばね155のばね定数)とから、杭基礎120の鉛直方向の剛性と直接基礎150の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比を求める。計測結果から求められた鉛直剛性比から構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率J2を求める。
【0034】
そして、施工時の計測結果に基づいて算出された荷重分担率J2を、設計時に想定した荷重分担率J1(N1+(N2×α):N2×(1−α))に近づけるため、設計時に想定(決定)された直接基礎150を構築する時期、言い換えると直接基礎150と杭基礎120とで構造物10の荷重を負担する時期(図1(C))を調整する。すなわち、直接基礎150を構築する時期を設計時の想定よりも早くしたり遅くしたりする)。
【0035】
別の観点から説明すると、図3(B)と図3(C)とで示す杭基礎120のみで負担する荷重N1と、杭基礎120と直接基礎150との両方で負担する荷重N2と、を調整する。
【0036】
なお、地盤20は、工業製品とは違いばらつきが大きく、その挙動は非常に複雑であり、また設計時には限られた情報しかない。このため設計時に想定した杭基礎120のばね定数及び地盤20のばね定数が実際のばね定数と異なることがある。そして、このことが設計時と施工時とで荷重分担率が乖離する主な要因となっている。よって、これらのばね定数を精度よく予測することで、荷重分担率を精度良く予測することができる。
【0037】
<計算例>
つぎに、計算例の一例を示す。
【0038】
[設計時]
設計条件は、以下とする。
構真柱の支配面積;100m2
構真柱の間隔(グリッド);10m×10m
構真柱にかかる荷重;一本当たり30000kN
構真柱にかかる荷重を支配面積で除した値;300kN/m2
杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比;7:3
先行打ちと後打ちとの比;0.5:0.5
杭基礎:杭基礎自身の沈下が1.5cm、直接基礎の影響で0.5cm追加
直接基礎:直接基礎自身の沈下が1.8cm、杭基礎の影響で0.2cm追加
地盤の単位体積重量:17kN/m3
水圧:なし
【0039】
なお、上記、「先行打ちと後打ちとの比」とは、直接基礎を打つ前後の構造物の構築率の比率である。つまり、「0.5:0.5」の場合は、構築物が50%(半分)構築されると直接基礎を構築するということである。図3で説明するとN1=N2である。
【0040】
また、構造物が構築後の荷重分担率(杭基礎:直接基礎)J1は、「0.5+(0.5×0.7):0.5×0.3=0.85:0.15」で設計されている。杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比は杭基礎の杭経、杭長、及び杭種等の設定により変化する。本計算例では、杭設定の結果7:3の比となっている。
【0041】
そして、後打ち後の直接基礎の負担荷重が「300kN/m2×0.5(後打ち割合)×0.3=45kN/m2」であり、また、設計時における地盤から受ける地盤のばね定数は、「22.5(kN/m2)/cm」と予測している。なお、ばね定数の予測値は地盤調査と解析によって算出されるものである。よって、その時の沈下量は、「45kN/m2÷22.5(kN/m2)/cm=2cm」と予測される。
【0042】
また、設計時の杭基礎のばね定数は、5250kN/cmと予測している。なお、杭基礎のばね定数の予測値も地盤調査と解析によって算出されるものである。そして、構真柱の支配面積は100m2であるので、「5250kN/cm/100m2=52.5(kN/m2)/cm」となり、杭基礎(パイルばね)と直接基礎(ラフトばね)の鉛直剛性比は「0.7:0.3」となる。
【0043】
[施工時]
直接基礎を構築する前の施工途中の実測によって、実際の杭基礎のばね定数と地盤のばね定数とを算出する。
【0044】
5m掘削、つまり85kN/m2の地盤の除去によって、地盤が3cmリバウンドした。なお、これは杭基礎の影響を受けていない値とする。また、このリバウンドは設計時には1.8cmと算出されていた(想定していた)。そして、直接基礎の負担荷重が45kN/m2であるとすると、「(3cm×45kN/m2)/85kN/m2=1.59cm」の地盤の沈下がある。
【0045】
よって、地盤のばね定数は、杭基礎の影響で0.2cm沈むとすると、「45kN/m2÷(1.59cm+0.2cm)=25.1(kN/m2)/cm」となる。
【0046】
設計時では地盤のばね定数は22.5(kN/m2)/cmと想定したが、実測では25.1(kN/m2)/cmと算出されたので、実際の地盤は設計時に想定したよりも硬いことになる。
【0047】
また、杭基礎のばね定数は、構真柱の軸力と変位量とから、3765kN/cmと算出された。なお、設計時では杭基礎のばね定数は5250kN/cmと想定されていた。
【0048】
よって、施工途中の実測による杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の剛性との鉛直剛性比は、ばね定数(ばねの剛性)の比から、「3765kN/cm/100m2:25.1(kN/m2)/cm=0.6:0.4」となる。つまり、設計時に想定された鉛直剛性比「0.7:0.3」が「0.6:0.4」と補正された。
【0049】
そして、先行打ちと後打ちとの荷重割合を「X:1−X」とし、杭基礎と直接基礎との負担割合を当初の設計と同じ「0.85:0.15」にするためには、「X+(1−X)×0.6(実測による鉛直剛性比):(1−X)×0.4=0.85:0.15」となり、X=0.625となる。
【0050】
つまり、設計時では、「先行打ち:後打ち=0.5:0.5」であったが、「先行打ち:後打ち=0.625:0.375」となる。よって、構造物を62.5%構築したときに直接基礎を構築する、つまり、直接基礎を構築する時期を設計時に想定した時期よりも遅くすることで、設計時に想定した荷重分担率(杭基礎:直接基礎)である「0.85:0.15」に近づけることができる。
【0051】
なお、設計時に想定した時期に直接基礎を構築する、荷重分担率(杭基礎:直接基礎)J2は、「0.5+(1−0.5)×0.6:(1−0.5)×0.4=0.8:0.2」となり、直接基礎が負担する荷重が設計時に想定した荷重よりも大きくなる。
【0052】
なお、上記、計算は一回のみでなく、直接基礎を構築する前の施工途中の間、数回行ってもよい。
【0053】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
上述したように、地盤20に構築された杭基礎120に構造物10の構真柱60を建て込み、地上躯体12を構築しつつ、地盤20を掘削しながら地下躯体14を構築していくときに、言い換えると直接基礎150を構築する前の状態(図1(A)又は図1(B)の状態)において、構真柱60の軸力と変位量、地盤20の掘削土量及び水位低下量の少なくとも一方と地層の変形量、を測定し、測定結果に基づいて、直接基礎150と杭基礎120とで構造物10の荷重を負担する時期を調整することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【0055】
別の観点から説明すると、図3(B)と図3(C)とで示す杭基礎120のみで負担する荷重N1と、杭基礎120と直接基礎150との両方で負担する荷重N2と、を調整することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【0056】
ここで、仮にこのような調整を行なわないで、設計時に決定された時期に直接基礎150を構築した場合、つまり、本発明を適用しないで構築した場合は、上記計算例では「0.5+(1−0.5)×0.6:(1−0.5)×0.4=0.8:0.2」となり、直接基礎150が負担する荷重が設計時に想定した荷重よりも大きくなる。よって、直接基礎150が負担する荷重が設計時の想定よりも大きくなっても、許容応力度を超えないように余裕を持って設計する必要ある。また、逆に杭基礎120が負担する荷重が設計時に想定した荷重よりも小さくなるので、過剰性能(オーバースペック)となる。
【0057】
これに対して本実施形態では、上述したように、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率J2を、設計時に想定した荷重分担率J1に近づけることができるので、直接基礎150及び杭基礎120に想定する許容応力度の余裕度を小さく見積もることができる。
【0058】
<変形例>
つぎに、本実施形態の変形例について説明する。
【0059】
[第一変形例]
図4(A)と図4(B)に示すように、杭基礎120にかかる構造物10の荷重が第一の荷重(重量)なるまで構築されると、直接基礎150を各杭基礎120の周囲の領域154を構築する。この状態では、直接基礎150の領域154と杭基礎120とで、構造物10の荷重を負担する。そして、この状態で構造物10を構築していく。
【0060】
図4(C)に示すように、構造物10の荷重が第二の荷重(重量)になるまで構築されると、直接基礎150の他の領域156を構築し、直接基礎150全体が構築される。つまり、このとき初めて直接基礎150全体と杭基礎120とで、構造物10の荷重を負担する。
【0061】
このように、複数回に分けて直接基礎150を構築することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に、より近づけることができる。
【0062】
なお、上述した施工時の計測及び調整を、図4(B)と図4(C)との間にも行い、図4(C)の直接基礎150全体を構築する時期を調整することで、設計時に想定した荷重分担率に、更に近づけることができる。
【0063】
[第二変形例]
図5(A)と図5(B)とに示すように、構造物10の荷重が第一の荷重(重量)となるまで構築されると、直接基礎150全体を構築するが、杭基礎120Aとは接続し、杭基礎120Bとは接続しない。よって、直接基礎150と一部の杭基礎120Aとで、構造物10の荷重を負担する。そして、この状態で構造物10を構築していく。
【0064】
図5(C)に示すように、構造物10の荷重が第二の荷重(重量)なるまで構築されると、残りの杭基礎120Bを直接基礎150と接続する。つまり、このとき初めて直接基礎150と全ての杭基礎120とで、構造物10の荷重を負担する。
【0065】
このように、複数回に分けて直接基礎150と杭基礎120とを接続することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に、より近づけることができる。
【0066】
なお、上述した施工時の計測及び調整を、図5(B)と図5(C)との間にも行い、図5(C)の残りの杭基礎120Bを直接基礎150と接続する時期を調整することで、設計時に想定した荷重分担率に、更に近づけることができる。
【0067】
<その他>
図6に示す構造物11のように、側面視において横長の低層階側13と縦長の高層階側15とで構成されていてもよい。
【0068】
このような構成の場合、第一変形例を適用して、低層階側13の直接基礎150Aと高層階側15の直接基礎150Bとを構築する時期を変えてもよい。
【0069】
或いは、第二変形例を適用して、低層階側13の杭基礎120Aの直接基礎150との接続時期と、高層階側15の杭基礎120Bと直接基礎150との接続時期を変えてもよい。
【0070】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0071】
上述の実施形態及び変形例は、適宜、組み合わされて実施可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【符号の説明】
【0072】
10 構造物
11 構造物
12 地上躯体
14 地下躯体
20 地盤
60 構真柱
52 掘削底面
100 パイルド・ラフト基礎
120 杭基礎
150 直接基礎
【技術分野】
【0001】
本発明は、 パイルド・ラフト工法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭基礎(パイル)と直接基礎(ラフト)とで構造物を支持するパイルド・ラフト基礎が知られている。
【0003】
また、堀削終了後に基礎部から順次上階へ躯体を構築していく順打ち工法に対して、掘削の進行に従って1階床から地下1階、更に地下2階へと、下階に向かって躯体を構築していく逆打ち工法が知られている。
【0004】
特許文献1には、杭基礎で支持される構造物を構築する場合において、杭基礎の杭頭部と構造物の基礎部との接合を、構造物の構築が予定した作業工程が終了した時点で行う構造物構築方法が提案されている。
【0005】
ここで、パイルド・ラフト基礎において、設計時に想定した杭基礎(パイル)と直接基礎(ラフト)とが分担する構造物の荷重の荷重分担率と、構造物を構築した後の実際の荷重分担率と、が大きく異なることがある。よって、実際に杭基礎にかかる荷重又は直接基礎にかかる荷重が、設計時の想定よりも大きくなっても、許容応力度を超えないように余裕を持って設計されていることが多い。
【0006】
したがって、構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004―225487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事実を考慮し、構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係から前記杭基礎のばね定数を求める工程と、前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と、地層の変形量と、の関係から前記地盤のばね定数を求める工程と、設計時に想定した前記杭基礎と掘削底面に構築される直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎のばね定数、前記地盤のばね定数、及び前記杭基礎が負担する荷重に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、を備える。
【0010】
請求項1の発明では、杭基礎のばね定数、地盤のばね定数、及び杭基礎が負担する荷重に基づいて、設計時に想定した直接基礎と杭基礎とで構造物の荷重を負担する時期を調整する。よって、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時に想定した荷重分担率に近づく。
【0011】
請求項2の発明は、地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係と、前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と地層の変形量との関係と、から前記杭基礎の鉛直方向の剛性と掘削底面に構築される直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比を求める工程と、設計時に想定した前記杭基礎と掘削底面に構築される直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎の鉛直方向の剛性と前記直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、を備える。
【0012】
請求項2の発明では、杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比に基づいて、直接基礎と杭基礎とで構造物の荷重を負担する時期を調整する。よって、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時に想定した荷重分担率に近づく。
【0013】
請求項3の発明は、前記直接基礎を複数の領域に分割し、分割された領域毎に前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する。
【0014】
請求項3の発明では、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時の荷重分担率に、より正確に近づく。
【0015】
請求項4の発明は、前記杭基礎ごとに、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する。
【0016】
請求項4の発明では、杭基礎と直接基礎とが分担する構築後の構造物の荷重の荷重分担率が、設計時の荷重分担率に、より正確に近づく。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、構造物を構築した後の杭基礎と直接基礎とが分担する構造物の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎によって支持された構造物の施工工程を(A)〜(D)に順番に示す工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎をばねモデルとした解析モデル図を示し、(A)は構造物が完成した後のモデル図であり、(B)は直接基礎を構築する前のモデル図であり、(C)は直接基礎を構築した後のモデル図である。
【図4】第一変形例のパイルド・ラフト工法の工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【図5】第二変形例のパイルド・ラフト工法の工程を(A)〜(C)へと順番に示す工程図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法が適用されて構築されたパイルド・ラフト基礎によって支持された他の構造物の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
図1〜図3を用いて、本発明の一実施形態に係るパイルド・ラフト工法について説明する。なお、図2に図示されている「ラフトばね155」及び「パイルばね125」については、後述する図3のパイルド・ラフト基礎をばねモデルとした解析モデル図の説明を補足するための図示であり、実線で図示されているが、実際にこのようなばねが存在するものではない。
【0020】
図1(D)と図2とに示すように、本発明が適用されて構築された構造物10は、地上躯体12と地下躯体14とを含んで構成されている。また、構造物10は、地盤20に構築されたパイルド・ラフト基礎100によって支持されている。パイルド・ラフト基礎100は、複数の杭基礎(パイル)120と直接基礎(ラフト)150とを有し、これら杭基礎(パイル)120と直接基礎(ラフト)150とで構造物10の荷重を分担して支持している。
【0021】
直接基礎150は、地下躯体14を構築するために掘削された掘削空間50の掘削底面52に構築されている。また、本実施形態では、杭基礎120の下端部122は、硬い支持層22までは到達していない。しかし、杭基礎120の下端部122が支持層22で到達していてもよい。
【0022】
図1(A)から図1(D)へと順番に示すように、構造物10は、逆打ち工法によって施工されている。本実施形態では、本設の床梁を山留め支保工として利用しながら、地盤20に構築された杭基礎120に構造物10の構真柱60を建て込み、地上躯体12を構築しつつ、地盤20を掘削しながら地下躯体14を構築していく。そして、図1(C)に示すように、所定の時期に直接基礎150を構築する。つまり、構造物10が、所定階まで構築されると直接基礎150を構築する。別の観点から説明すると、構造物10の杭基礎120かかる荷重が所定の大きさなると直接基礎150を構築する。
【0023】
なお、逆打ち工法では、設計時に予め直接基礎150を構築する時期が想定されている。また、設計時に杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率が想定されている。
【0024】
そして、本実施形態では、実際に構造物10が構築された後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけるため、設計時に想定した直接基礎150を構築する時期(図1(D)を参照)を、施工時に調整している。よって、つぎに、直接基礎150を構築する時期の調整方法について説明する。
【0025】
<工法>
図3は、直接基礎150が支持される地盤20と杭基礎120とをばねモデルとした解析モデル図である。また、地盤20のばねモデルをラフトばね155とし、杭基礎120のばねモデルをパイルばね155として、図示されている(図2も参照)。また、構築後の構造物10の荷重をNとし、施工時における直接基礎150を構築する前の構造物10の荷重をN1とし、直接基礎150を構築した後の構造物10の荷重をN2とする。よって、N=N1+N2となる。
【0026】
[設計時]
直接基礎150を構築する時期を想定(決定)する。また、図3(A)に示すように、地盤20によるばね定数(ラフトばね155のばね定数)、杭基礎120のばね定数(パイルばね155のばね定数)とから、杭基礎120の鉛直方向の剛性と直接基礎150の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比を求める。なお、地盤20のばね定数(ラフトばね155のばね定数)は、地盤20の事前の調査や今までのデータ等に基づいて求めることができる。同様に、杭基礎120のばね定数(パイルばね155のばね定数)も設計値や各種データ等に基づいて求めることができる。
【0027】
そして、これらから構造物10の構築後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を想定する。
【0028】
具体的に説明すると、図3(B)に示すように、直接基礎150を構築する前の構造物10の荷重N1は、全て杭基礎120が負担するので、この時点で杭基礎120が負担する荷重はN1である。
【0029】
図3(C)に示すように、直接基礎150を構築する後の構造物10の荷重N2は、杭基礎120と直接基礎150とが分担して負担する。鉛直剛性比から杭基礎120が負担する鉛直荷重分担率をαとすると、これ以降で杭基礎120が負担する荷重は「N2×α」となり、直接基礎150が負担する荷重は「N2×(1−α)」となる。
【0030】
よって、図3(A)に示す構造物10の構築後に杭基礎120が負担する荷重は「N1+(N2×α)」であり、直接基礎150が負担する荷重は「N2×(1−α)」となる。また、設計時に想定される構築後の杭基礎120と直接基礎150が分担する荷重分担率J1は「N1+(N2×α):N2×(1−α)」である。
【0031】
[施工時]
地盤20に構築された杭基礎120に構造物10の構真柱60を建て込み、地上躯体12を構築しつつ、地盤20を掘削しながら地下躯体14を構築していくときに、言い換えると直接基礎150を構築する前の状態(図1(A)又は図1(B)の状態)において、構真柱60の軸力と変位量との関係から杭基礎120のばね定数を求める。
【0032】
また、地盤20の掘削土量と地層の変形量との関係から地盤20のばね定数を求める。また、ディープウエル(深井戸)工法等で地盤20から地下水が抜かれる場合、地下水を抜くことによって浮力が減少し、これによって荷重が増加する。よって、水位低下量と地層の変位量とからも地盤20のばね定数を求めることができる。また、地盤20の掘削土量と水位低下量との両方と、地層の変形量と、から地盤20のばね定数(ラフトばね定数)を求めてもよい。なお、地層の変形量を計測する方法の一例として、層別沈下計の値を用いることができる。
【0033】
設計時と同様に、計測結果によって求められた地盤20によるばね定数(ラフトばね155のばね定数)、杭基礎120のばね定数(パイルばね155のばね定数)とから、杭基礎120の鉛直方向の剛性と直接基礎150の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比を求める。計測結果から求められた鉛直剛性比から構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率J2を求める。
【0034】
そして、施工時の計測結果に基づいて算出された荷重分担率J2を、設計時に想定した荷重分担率J1(N1+(N2×α):N2×(1−α))に近づけるため、設計時に想定(決定)された直接基礎150を構築する時期、言い換えると直接基礎150と杭基礎120とで構造物10の荷重を負担する時期(図1(C))を調整する。すなわち、直接基礎150を構築する時期を設計時の想定よりも早くしたり遅くしたりする)。
【0035】
別の観点から説明すると、図3(B)と図3(C)とで示す杭基礎120のみで負担する荷重N1と、杭基礎120と直接基礎150との両方で負担する荷重N2と、を調整する。
【0036】
なお、地盤20は、工業製品とは違いばらつきが大きく、その挙動は非常に複雑であり、また設計時には限られた情報しかない。このため設計時に想定した杭基礎120のばね定数及び地盤20のばね定数が実際のばね定数と異なることがある。そして、このことが設計時と施工時とで荷重分担率が乖離する主な要因となっている。よって、これらのばね定数を精度よく予測することで、荷重分担率を精度良く予測することができる。
【0037】
<計算例>
つぎに、計算例の一例を示す。
【0038】
[設計時]
設計条件は、以下とする。
構真柱の支配面積;100m2
構真柱の間隔(グリッド);10m×10m
構真柱にかかる荷重;一本当たり30000kN
構真柱にかかる荷重を支配面積で除した値;300kN/m2
杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比;7:3
先行打ちと後打ちとの比;0.5:0.5
杭基礎:杭基礎自身の沈下が1.5cm、直接基礎の影響で0.5cm追加
直接基礎:直接基礎自身の沈下が1.8cm、杭基礎の影響で0.2cm追加
地盤の単位体積重量:17kN/m3
水圧:なし
【0039】
なお、上記、「先行打ちと後打ちとの比」とは、直接基礎を打つ前後の構造物の構築率の比率である。つまり、「0.5:0.5」の場合は、構築物が50%(半分)構築されると直接基礎を構築するということである。図3で説明するとN1=N2である。
【0040】
また、構造物が構築後の荷重分担率(杭基礎:直接基礎)J1は、「0.5+(0.5×0.7):0.5×0.3=0.85:0.15」で設計されている。杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の鉛直方向の剛性との鉛直剛性比は杭基礎の杭経、杭長、及び杭種等の設定により変化する。本計算例では、杭設定の結果7:3の比となっている。
【0041】
そして、後打ち後の直接基礎の負担荷重が「300kN/m2×0.5(後打ち割合)×0.3=45kN/m2」であり、また、設計時における地盤から受ける地盤のばね定数は、「22.5(kN/m2)/cm」と予測している。なお、ばね定数の予測値は地盤調査と解析によって算出されるものである。よって、その時の沈下量は、「45kN/m2÷22.5(kN/m2)/cm=2cm」と予測される。
【0042】
また、設計時の杭基礎のばね定数は、5250kN/cmと予測している。なお、杭基礎のばね定数の予測値も地盤調査と解析によって算出されるものである。そして、構真柱の支配面積は100m2であるので、「5250kN/cm/100m2=52.5(kN/m2)/cm」となり、杭基礎(パイルばね)と直接基礎(ラフトばね)の鉛直剛性比は「0.7:0.3」となる。
【0043】
[施工時]
直接基礎を構築する前の施工途中の実測によって、実際の杭基礎のばね定数と地盤のばね定数とを算出する。
【0044】
5m掘削、つまり85kN/m2の地盤の除去によって、地盤が3cmリバウンドした。なお、これは杭基礎の影響を受けていない値とする。また、このリバウンドは設計時には1.8cmと算出されていた(想定していた)。そして、直接基礎の負担荷重が45kN/m2であるとすると、「(3cm×45kN/m2)/85kN/m2=1.59cm」の地盤の沈下がある。
【0045】
よって、地盤のばね定数は、杭基礎の影響で0.2cm沈むとすると、「45kN/m2÷(1.59cm+0.2cm)=25.1(kN/m2)/cm」となる。
【0046】
設計時では地盤のばね定数は22.5(kN/m2)/cmと想定したが、実測では25.1(kN/m2)/cmと算出されたので、実際の地盤は設計時に想定したよりも硬いことになる。
【0047】
また、杭基礎のばね定数は、構真柱の軸力と変位量とから、3765kN/cmと算出された。なお、設計時では杭基礎のばね定数は5250kN/cmと想定されていた。
【0048】
よって、施工途中の実測による杭基礎の鉛直方向の剛性と直接基礎の剛性との鉛直剛性比は、ばね定数(ばねの剛性)の比から、「3765kN/cm/100m2:25.1(kN/m2)/cm=0.6:0.4」となる。つまり、設計時に想定された鉛直剛性比「0.7:0.3」が「0.6:0.4」と補正された。
【0049】
そして、先行打ちと後打ちとの荷重割合を「X:1−X」とし、杭基礎と直接基礎との負担割合を当初の設計と同じ「0.85:0.15」にするためには、「X+(1−X)×0.6(実測による鉛直剛性比):(1−X)×0.4=0.85:0.15」となり、X=0.625となる。
【0050】
つまり、設計時では、「先行打ち:後打ち=0.5:0.5」であったが、「先行打ち:後打ち=0.625:0.375」となる。よって、構造物を62.5%構築したときに直接基礎を構築する、つまり、直接基礎を構築する時期を設計時に想定した時期よりも遅くすることで、設計時に想定した荷重分担率(杭基礎:直接基礎)である「0.85:0.15」に近づけることができる。
【0051】
なお、設計時に想定した時期に直接基礎を構築する、荷重分担率(杭基礎:直接基礎)J2は、「0.5+(1−0.5)×0.6:(1−0.5)×0.4=0.8:0.2」となり、直接基礎が負担する荷重が設計時に想定した荷重よりも大きくなる。
【0052】
なお、上記、計算は一回のみでなく、直接基礎を構築する前の施工途中の間、数回行ってもよい。
【0053】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
上述したように、地盤20に構築された杭基礎120に構造物10の構真柱60を建て込み、地上躯体12を構築しつつ、地盤20を掘削しながら地下躯体14を構築していくときに、言い換えると直接基礎150を構築する前の状態(図1(A)又は図1(B)の状態)において、構真柱60の軸力と変位量、地盤20の掘削土量及び水位低下量の少なくとも一方と地層の変形量、を測定し、測定結果に基づいて、直接基礎150と杭基礎120とで構造物10の荷重を負担する時期を調整することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【0055】
別の観点から説明すると、図3(B)と図3(C)とで示す杭基礎120のみで負担する荷重N1と、杭基礎120と直接基礎150との両方で負担する荷重N2と、を調整することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に近づけることができる。
【0056】
ここで、仮にこのような調整を行なわないで、設計時に決定された時期に直接基礎150を構築した場合、つまり、本発明を適用しないで構築した場合は、上記計算例では「0.5+(1−0.5)×0.6:(1−0.5)×0.4=0.8:0.2」となり、直接基礎150が負担する荷重が設計時に想定した荷重よりも大きくなる。よって、直接基礎150が負担する荷重が設計時の想定よりも大きくなっても、許容応力度を超えないように余裕を持って設計する必要ある。また、逆に杭基礎120が負担する荷重が設計時に想定した荷重よりも小さくなるので、過剰性能(オーバースペック)となる。
【0057】
これに対して本実施形態では、上述したように、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率J2を、設計時に想定した荷重分担率J1に近づけることができるので、直接基礎150及び杭基礎120に想定する許容応力度の余裕度を小さく見積もることができる。
【0058】
<変形例>
つぎに、本実施形態の変形例について説明する。
【0059】
[第一変形例]
図4(A)と図4(B)に示すように、杭基礎120にかかる構造物10の荷重が第一の荷重(重量)なるまで構築されると、直接基礎150を各杭基礎120の周囲の領域154を構築する。この状態では、直接基礎150の領域154と杭基礎120とで、構造物10の荷重を負担する。そして、この状態で構造物10を構築していく。
【0060】
図4(C)に示すように、構造物10の荷重が第二の荷重(重量)になるまで構築されると、直接基礎150の他の領域156を構築し、直接基礎150全体が構築される。つまり、このとき初めて直接基礎150全体と杭基礎120とで、構造物10の荷重を負担する。
【0061】
このように、複数回に分けて直接基礎150を構築することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に、より近づけることができる。
【0062】
なお、上述した施工時の計測及び調整を、図4(B)と図4(C)との間にも行い、図4(C)の直接基礎150全体を構築する時期を調整することで、設計時に想定した荷重分担率に、更に近づけることができる。
【0063】
[第二変形例]
図5(A)と図5(B)とに示すように、構造物10の荷重が第一の荷重(重量)となるまで構築されると、直接基礎150全体を構築するが、杭基礎120Aとは接続し、杭基礎120Bとは接続しない。よって、直接基礎150と一部の杭基礎120Aとで、構造物10の荷重を負担する。そして、この状態で構造物10を構築していく。
【0064】
図5(C)に示すように、構造物10の荷重が第二の荷重(重量)なるまで構築されると、残りの杭基礎120Bを直接基礎150と接続する。つまり、このとき初めて直接基礎150と全ての杭基礎120とで、構造物10の荷重を負担する。
【0065】
このように、複数回に分けて直接基礎150と杭基礎120とを接続することで、構造物10を構築した後の杭基礎120と直接基礎150とが分担する構造物10の荷重の荷重分担率を、設計時に想定した荷重分担率に、より近づけることができる。
【0066】
なお、上述した施工時の計測及び調整を、図5(B)と図5(C)との間にも行い、図5(C)の残りの杭基礎120Bを直接基礎150と接続する時期を調整することで、設計時に想定した荷重分担率に、更に近づけることができる。
【0067】
<その他>
図6に示す構造物11のように、側面視において横長の低層階側13と縦長の高層階側15とで構成されていてもよい。
【0068】
このような構成の場合、第一変形例を適用して、低層階側13の直接基礎150Aと高層階側15の直接基礎150Bとを構築する時期を変えてもよい。
【0069】
或いは、第二変形例を適用して、低層階側13の杭基礎120Aの直接基礎150との接続時期と、高層階側15の杭基礎120Bと直接基礎150との接続時期を変えてもよい。
【0070】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0071】
上述の実施形態及び変形例は、適宜、組み合わされて実施可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【符号の説明】
【0072】
10 構造物
11 構造物
12 地上躯体
14 地下躯体
20 地盤
60 構真柱
52 掘削底面
100 パイルド・ラフト基礎
120 杭基礎
150 直接基礎
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係から前記杭基礎のばね定数を求める工程と、
前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と、地層の変形量と、の関係から前記地盤のばね定数を求める工程と、
設計時に想定した前記杭基礎と掘削底面に構築される直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎のばね定数、前記地盤のばね定数、及び前記杭基礎が負担する荷重に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、
を備えるパイルド・ラフト工法。
【請求項2】
地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係と、前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と地層の変形量との関係と、から前記杭基礎の鉛直方向の剛性と掘削底面に構築される直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比を求める工程と、
設計時に想定した前記杭基礎と前記直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎の鉛直方向の剛性と前記直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、
を備えるパイルド・ラフト工法。
【請求項3】
前記直接基礎を複数の領域に分割し、分割された領域毎に前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する、
請求項1又は請求項2に記載のパイルド・ラフト工法。
【請求項4】
前記杭基礎ごとに、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のパイルド・ラフト工法。
【請求項1】
地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係から前記杭基礎のばね定数を求める工程と、
前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と、地層の変形量と、の関係から前記地盤のばね定数を求める工程と、
設計時に想定した前記杭基礎と掘削底面に構築される直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎のばね定数、前記地盤のばね定数、及び前記杭基礎が負担する荷重に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、
を備えるパイルド・ラフト工法。
【請求項2】
地盤に構築された杭基礎に構造物の構真柱を建て込み、前記構造物の地下躯体を上階から下階へ構築していくときに、前記構真柱の軸力と変位量との関係と、前記地盤の掘削土量及び前記地盤の水位低下量の少なくとも一方と地層の変形量との関係と、から前記杭基礎の鉛直方向の剛性と掘削底面に構築される直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比を求める工程と、
設計時に想定した前記杭基礎と前記直接基礎とが分担する前記構造物の荷重の荷重分担率に近づくように、前記杭基礎の鉛直方向の剛性と前記直接基礎の鉛直方向の剛性との剛性比に基づいて、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する工程と、
を備えるパイルド・ラフト工法。
【請求項3】
前記直接基礎を複数の領域に分割し、分割された領域毎に前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する、
請求項1又は請求項2に記載のパイルド・ラフト工法。
【請求項4】
前記杭基礎ごとに、前記直接基礎と前記杭基礎とで前記構造物の荷重を負担する時期を調整する、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のパイルド・ラフト工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2013−19248(P2013−19248A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155738(P2011−155738)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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