説明

パウチ詰め流動性食品の殺菌方法

【課題】摺動式殺菌方法による殺菌時間の短縮効果を維持しつつ、流動性食品の泡立ちを抑制し、流動性食品のコゲ発生を有効に防止することができる殺菌方法を提供する。
【解決手段】摺動殺菌をパウチを間欠的に摺動することにより行い、この間欠的摺動は、選択された摺動時間における摺動によって流動性食品に発生する泡が該流動性食品とヘッドスペースの界面にコゲを生じない程度に消失するために充分な時間だけ摺動を停止し、この摺動と停止を繰返すことによって行うパウチ詰め流動性食品の殺菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経腸栄養剤等の乳タンパク質などを含む流動性食品を可撓性パウチに充填、密封し摺動式殺菌を行う場合の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パウチ詰め流動性食品を殺菌する場合、一般には静置式殺菌機と呼ばれる殺菌機が用いられる。しかし、パウチのヘッドスペースガス量が多いとガスが熱伝達を妨げるために殺菌時間が長くなり生産効率が悪くなるので、ヘッドスペースガスをなるべく少なくして殺菌を行っている。また反対に、回転式殺菌や揺動式殺菌においては、特許文献1に示すように、回転や揺動によってパウチ内のヘッドスペースガスが移動して内容物を強制的に攪拌することにより、内容物の熱伝達を促進し殺菌時間の短縮が図られている。
【0003】
しかしながら、回転式殺菌や揺動式殺菌を行う場合には殺菌機内でパウチが移動することを防止するため、治具などを用いてパウチを拘束したり専用の載置棚を用いたりするが、これらの方法では載置できる数量が少なくなり生産効率が低下したり、専用載置棚を用いるためにコスト高となり経済性を欠くこととなる。
【0004】
摺動式殺菌は、可撓性パウチに流動性食品を充填密封し、このパウチを摺動式レトルト殺菌機内の殺菌棚に載置して殺菌棚を前後または左右に往復運動させながら殺菌する方法である。摺動式殺菌の一例を特許文献2に示す。この殺菌方法によれば、殺菌棚とともにパウチが水平運動することにより、パウチ内の流動性食品が移動してパウチが波立つ現象が生じ、パウチ内のヘッドスペースガスが移動して内容物を強制的に攪拌することにより、内容物の熱伝達を促進し殺菌時間の短縮が図られる上に、パウチを非拘束状態で棚上に載置して殺菌できるので、治具を用いてパウチを拘束する回転式殺菌や揺動式殺菌に比べて棚上に載置できるパウチ数が多く生産効率を向上させることができる。
【0005】
ところで、この摺動式殺菌において流動性食品が乳タンパク質を含む高脂肪、高たんぱく食品(経腸栄養剤、流動食、スープ、牛乳、ミルク入りコーヒー飲料等)の場合は、一定量以上のヘッドスペースを設けると摺動による攪拌効果により泡立ちが生じ、その泡が凝集してしまうという問題が生じる。
【0006】
すなわち、このような流動性食品が、その成分や配合比(処方)により泡立ちやすいものである場合は、摺動による攪拌により細かい泡が発生し、摺動を続けると、この泡がヘッドスペースを満たし、凝集して移動しなくなり、このため摺動しても泡が動かなくなり、ヘッドスペースが動かなくなるので、静置式殺菌と実質的に同じ状態となり、ヘッドスペースと流動性食品の界面における流動性食品の移動が妨げられ、その結果該界面において流動性食品の凝集が生じ、この凝集部分においてレトルト殺菌時の熱とヘッドスペース中の酸素の作用によりコゲを生じてしまうことが判った。そしてこのコゲの発生を防止するため、泡が発生しなくなるまで摺動速度を低下させると、ヘッドスペースの攪拌効果が低下する結果コゲ発生の防止につながらないことも判った。
【0007】
流動性食品の表面にコゲが生じると、食品の外観と味覚を悪くすることにより商品価値を損ねるばかりでなく、流動性食品が経腸栄養剤等である場合は、医療や介護の現場で経鼻・経瘻孔等のチューブを使用して投与される場合もあるので、このチューブにコゲが詰まると重大な事態を生じるおそれがあるので、コゲの発生は防止しなければならない問題である。
【特許文献1】特開平9−215732号公報
【特許文献2】特開昭57−5678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来のパウチ詰め流動性食品の摺動式殺菌方法における問題点にかんがみなされたものであって、摺動式殺菌方法による殺菌時間の短縮効果を維持しつつ、流動性食品の泡立ちを抑制し、流動性食品のコゲ発生を有効に防止することができる殺菌方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記本発明の目的を達成するため種々実験と研究を重ねた結果、摺動式殺菌機による摺動を継続する過程において、パウチのヘッドスペースにおいて流動性食品から泡が発生してから凝集する過程を観察すると、摺動開始直後の数秒間に発生した泡は比較的大きな泡であるが、摺動を継続するにつれてこれらの泡は次第に細かい多数の泡に変化し、これらの細かい泡の数が増えて密集すると凝集状態が生じることがわかった。そして摺動開始直後の数秒間に発生した大きな泡は比較的に破裂しやすいため、大きな泡の状態の時に静置すれば比較的短時間で消失することに着目し、摺動工程において数秒間摺動を行ったのち比較的短時間の所定時間摺動を停止すれば、泡はすべて消失するので、細かい多数の泡が密集する状態が発生することがなく、流動性食品の攪拌がヘッドスペース中の泡の凝集によって妨げられることがないことを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、上記本発明の目的を達成する本発明の第1の構成は、可撓性パウチに流動性食品を充填密封し、レトルト殺菌機内で摺動殺菌する殺菌方法において、該摺動殺菌はパウチを間欠的に摺動することにより行い、この間欠的摺動は、選択された摺動時間における摺動によって流動性食品に発生する泡が該流動性食品とヘッドスペースの界面にコゲを生じない程度に消失するために充分な時間だけ摺動を停止し、この摺動と停止を繰返すことによって行うことを特徴とするパウチ詰め流動性食品の殺菌方法である。
【0011】
本発明の第2の構成は、第1の構成において、該間欠的摺動は摺動時間を3〜5秒とし、停止時間を10〜25秒とする13〜30秒の摺動サイクルで行うことを特徴とする殺菌方法である。
【0012】
本発明の第3の構成は、第1〜第2の構成において、該流動性食品は経腸栄養剤または濃厚流動食であることを特徴とする殺菌方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の構成によれば、摺動殺菌をパウチを間欠的に摺動することにより行い、この間欠的摺動は、選択された摺動時間における摺動によって流動性食品に発生する泡が流動性食品とヘッドスペースの界面にコゲを生じない程度に消失するために充分な時間だけ摺動を停止し、この摺動と停止を繰返すことによって行うことにより、この間欠的摺動を継続しても、ヘッドスペースに細かい多数の泡が密集する状態が発生することがなく、流動性食品の攪拌がヘッドスペース中の泡の凝集によって妨げられることがないので、殺菌時間の短縮効果を維持しつつ、流動性食品とヘッドスペースの界面に流動性食品のコゲが発生することを防止することができる。
【0014】
本発明の第2の構成によれば、間欠的摺動は摺動時間を3〜5秒とし、停止時間を10〜25秒とする13〜30秒の摺動サイクルで行うことにより、短時間の摺動サイクルで殺菌時間の短縮効果を維持しつつ、流動性食品とヘッドスペースの界面に流動性食品のコゲが発生することを防止することができる。
【0015】
本発明の第3の構成によれば、本発明をパウチ詰め経腸栄養剤や濃厚流動食に適用することにより、チューブを使用して経腸栄養剤や濃厚流動食を消費者に与える場合においても、このチューブにコゲが詰まるおそれかなく、安全に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本発明の殺菌方法は可撓性材料からなるパウチに流動性食品を充填し密封して摺動式殺菌を行う場合に好適である。
【0017】
パウチとしては可撓性の材料からなるものであれば特に限定はないが、通常大型パウチとして使用される外面側からPET(ポリエチレンテレフタレート)層、ナイロン層、アルミ箔層、ポリプロピレン層からなる4層構造のパウチが適用される。
【0018】
流動性食品としては、成分としてカゼインや乳タンパク質を含む食品が、泡立ちやすい食品として挙げられる。例えば経腸栄養剤、流動食、スープ、牛乳、ミルク入りコーヒー飲料等など乳タンパク質を含む高脂肪、高たんぱくな流動性食品等を含むが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明に好適に用いられる流動性食品の粘度としては、殺菌温度において、B型粘度計を用いて50rpmの条件で測定または算出して0.2〜4500mPa・sが殺菌時間短縮の面から好ましく、10〜2500mPa・s、さらには10〜1500mP・aがより好ましい。なお殺菌温度が100℃を超えており、殺菌中の内容物粘度を測定することが困難な場合、andradeの粘度式(η∝exp(E/RT)、η:粘性率、E:流動の活性化エネルギー、R:気体定数、T:絶対温度(゜K))を用いて殺菌中の内容物の粘度を算出することができる。
【0020】
パウチに内容物を充填密封した際に形成されるヘッドスペースは大気であってもよく、内容物の酸化劣化を防止する場合には、例えば、窒素ガスの他、炭酸ガスやアルゴンガスまたはこれらの混合ガスを用いて適宜ガス置換充填することができる。
【0021】
摺動式殺菌を行う装置としては、従来から使用されているクランク式または偏心カム式の摺動レトルト装置を使用することができる。
【0022】
図1は本発明の方法を実施するための装置の一例を示す断面図であり、クランク方式による殺菌棚摺動機構を示す。A1はレトルト本体、A2はレール等の支持台である。この支持台A2の上には車輪A3を介して可動台A4が装架され、この可動台A4上に流動性食品詰め大型パウチを多数並べて収容した殺菌棚(トレー)A5が多段に積載されている。A6は覗き窓であり、レトルト本体A1に装備されている。A10はモーター、A11はモーターA10で駆動されるクランク機構であり、クランク機構A11の他端はレトルト本体A1のシール機構A9を介して可動棚A4から突出させた駆動軸A8に連結されている。
【0023】
駆動時にモーターA10を駆動すればクランク機構A11によって可動台A4に収容された殺菌棚とともに水平方向にパウチが移動往復して、パウチ内の流動性食品が移動してパウチ上面が波打ち、攪拌が行われる。この流動性食品詰めパウチの波打ち現象は、覗き窓A6から目視で確認することが出来る。
【0024】
摺動式レトルトは加速度が攪拌効果の要因の1つである。しかし、その加速度にも包材の耐久性や実生産を考慮すれば適正な範囲があると考えられる。
【0025】
そのため、適正な加速度を導きだすため実験を行ったところ、加速度を上げていくと、包材の波打ちは大きくなり、比例して内容物の攪拌効果が得られた。しかし、加速度が0.3Gを超えると包材が殺菌棚上を大きく動き、整列乱れを起こす、または包材と殺菌棚との摩擦から擦り傷が発生したり、包材の屈曲によるアルミ箔層のクラック(擬似ピンホール)の発生が起こることが判った。
【0026】
したがって、十分な攪拌効果を発揮され、しかも製品の種類を問わず包材の乱れや擦り傷を生じるおそれのない加速度の範囲は0.1G〜0.3Gである。
【0027】
なお、摺動殺菌中のパウチに充分な波打ちが起こり内容物に所望の攪拌効果を得ることができるのであれば、例えばパウチの周縁シール部のみを治具を用いて殺菌棚上に固定したり、載置する棚板(トレー)を区画壁で1つのパウチのみを収容する区画に分けて、パウチが棚板上を水平方向に移動しないようにするなどしてもかまわない。
【0028】
レトルト殺菌中のレトルト釜内の圧力は、ゲージ圧で−0.07MPaから+1.0MPaの範囲で調整することが好ましい。特に、0Mpaから+0.5MPaの範囲が好ましい。この圧力が0MPa未満であると、バキューム装置を必要とし、一方この圧力が+0.5MPaを超えると安全性を確保するために装置コストが高くなることから好ましくない。
【0029】
本発明においては、摺動式殺菌は連続的摺動ではなく、間欠的摺動により行う。間欠的摺動は、摺動時間を3〜5秒とし、停止時間を10〜20秒とする13〜30秒の摺動サイクルで行う。具体的な摺動サイクルは、この範囲内において流動性食品の種類や配合等に応じ最適な摺動サイクルを決定する。摺動時間は、摺動効果を挙げるためには少なくとも3秒は必要であり、またモーターの性能上、立ち上げ1秒、摺動1秒、摺動抑え1秒の合計3秒を必要とする。一方実験の結果摺動時間が5秒を超えると、流動性食品の攪拌による泡立ち、細分化が促進され、摺動停止時間を長くしても細かい泡が消え難くなることが判った。したがって、1回の摺動時間の上限は5秒である。また、停止時間は、10秒未満では摺動によって発生した泡が消え難く、残った泡が次の摺動により発生する泡に追加されて次第に泡の量が増えていってコゲの発生に至るので、停止時間の下限は10秒である。一方停止時間は長いほど泡消失効果は増大する反面静置式殺菌に近くなってしまい、ヘッドスペースと流動性食品の界面でコゲが発生する可能性が増大するので、コゲが発生しない上限値は25秒である。間欠的摺動の特に好ましい範囲は、摺動時間を5秒とし、停止時間を10〜15秒とする15〜20秒の摺動サイクルで行うことである。
【実施例】
【0030】
市販の経腸栄養剤(デキストリン11重量%、カゼインNa2.6重量%、乳タンパク質2.0重量%、配合油脂2.0重量%)をパウチ内容物とし、図1の摺動レトルト殺菌気を使用して表1に示す実施例、比較例の摺動サイクルで摺動式レトルト殺菌を行った。
【0031】
摺動レトルト条件は次のとおりである。
【0032】
モーター回転数: 60rpm
ストローク: 75mm
加速度: 0.18G
レトルト温度・時間: 122℃−6分
パウチサイズ: スパウト付きスタンディングパウチ、
400ml容量(150×230×29mm)
スパウト付き平パウチ、
400ml容量(160×275mm)
充填量: 425g
実験の結果を表1に示す。
【0033】

【0034】
表1から判るように、連続摺動(比較例3)、摺動停止時間が長い場合(比較例1)、摺動時間に比べ停止時間の短い場合(比較例2)は、ヘッドスペース界面にコゲが発生したのに対し、実施例1〜4の摺動時間3〜5秒、停止時間10〜25秒の場合には、コゲが発生しなかった。また、この現象はパウチ形状の違うスタンディングパウチでも平パウチでも同様に起こった。
【0035】
また上記実験において所定の殺菌値を得られる殺菌時間は5.3分であり、経腸栄養剤の連続式の摺動レトルト殺菌による通常の殺菌時間(6分)と大差はなく、充分な殺菌時間短縮効果を維持できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の方法を実施するための装置の1例を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性パウチに流動性食品を充填密封し、レトルト殺菌機内で摺動殺菌する殺菌方法において、該摺動殺菌はパウチを間欠的に摺動することにより行い、この間欠的摺動は、選択された摺動時間における摺動によって流動性食品に発生する泡が該流動性食品とヘッドスペースの界面にコゲを生じない程度に消失するために充分な時間だけ摺動を停止し、この摺動と停止を繰返すことによって行うことを特徴とするパウチ詰め流動性食品の殺菌方法。
【請求項2】
該間欠的摺動は摺動時間を3〜5秒とし、停止時間を10〜25秒とする13〜30秒の摺動サイクルで行うことを特徴とする請求項1記載の殺菌方法。
【請求項3】
該流動性食品は経腸栄養剤または濃厚流動食であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の殺菌方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−57463(P2010−57463A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229594(P2008−229594)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】