説明

パターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法

【課題】 長時間連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法を提供すること。
【解決手段】 空間部1aと塗料接触部1bからなり、塗膜の凹凸模様を作製するパターンが形成されたパターンローラ用成形体であって、最外層1およびこれと接する内層2を含む少なくとも2以上の層からなり、該内層の少なくとも1つの内層が塗料を通過させる機能を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法に関するもので、特に、壁面に塗料を塗装した後、壁面に押し当てて転動させて塗膜表面に凹凸模様を形成するためのパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物の内外壁等に対して、壁面に塗料を塗付した後であって形成された塗膜の表面が完全に硬化する前に、該塗膜の表面に凹凸のパターンを付与して凹凸模様を形成する塗装方法が知られている。このような方法としては、外周面に凹凸を有する円筒状のパターンローラを用いる方法が一般的に採用されている。つまり、パターンローラは、外周面に形成された凹凸パターンを塗膜の上に押し当てながらローラ部を回転させることにより、該塗膜の表面に凹凸パターンを転写して凹凸模様を形成することができる。このような凹凸模様は、ローラ部の外周面に形成された凹凸パターンを繰り返し単位とする連続した凹凸模様となる。従って、パターンローラの外周面の凹凸パターンを適宜選定することにより、様々な凹凸模様を付与することができる。
【0003】
こうしたパターンローラとしては、種々の構成が可能であるが、例えば、図8(A)に示すようなローラ101によって、図8(B)に示すような凹凸模様を形成する塗装用ローラを挙げることができる。これは、高粘度ローラ塗材を前もって1〜5mm程度塗布した未乾燥塗膜に、その塗材をローラ101になじませておいて、塗膜にローラ101をころすと、凸状部106は、塗膜を押え生じた塗膜としては凹部109を形成し、また第1凹部107および第2凹部107’は塗膜をスチップル状に引きあげ、生じた塗膜としては凸部108を形成させることで、図8(B)の凸部108と凹部109を形成させるのである。図8(A)中、110は円柱に形成された空洞、61,63は凸状部106の円周方向に形成された先端を示す(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】実公平4−6854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従前の方法においては、以下の示すようないくつかの課題があった。
(1)大きな壁面に対して、その塗膜に凹凸模様のパターンローラを用いた場合には、徐々にパターンローラの凹部に塗料が入り込み、入り込んだ塗料が凹部を充填し、凸部を相殺してしまい、その結果、連続して一定の凹凸模様を付与することが困難であった。
(2)また、近年では、建築物の内外壁等においては、さりげなく、落ち着いた意匠性が好まれる傾向にあり、微細な凹凸模様を付与する場合が求められている。こうした微細な凹凸模様を形成させるためには、パターンローラの外周面の凹凸パターンを微細な凹凸模様にして、凹凸模様を付与する方法が考えられるが、実際に微細な凹凸模様のパターンローラを用いた場合には、上記(1)以上に、連続して一定の凹凸模様を付与することが困難であった。
(3)このとき、凹凸模様を付与する途中に一旦パターンローラを洗浄したり、別のパターンローラに交換する等の方法が可能であるが、余計な手間がかかり作業性を著しく悪化させるとともに、模様の連続性を損なうことから実際に適用することができない。
(4)本発明者の検証によれば、こうした問題は、特に凹凸の程度が10mm以下のような微細な凹凸模様のパターンローラに対して、顕著に現れることが判った。
【0006】
本発明は、こうした課題に対して、長時間、連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法を提供することを目的とする。特に、微細な凹凸模様を作製するに当り、模様の安定性を保持しつつ、長時間、連続的に凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
つまり、本発明は、空間部と塗料接触部からなり、塗膜の凹凸模様を作製するパターンが最外に形成されたパターンローラ用成形体であって、最外層およびこれと接する内層を含む少なくとも2以上の層からなり、該内層の少なくとも1つの内層が塗料を通過させる機能を有することを特徴とする。
【0009】
塗膜の凹凸模様の作製、特に微細な凹凸模様の作製においては、上記のように、パターンを形成する最外層の空間部への塗料の入り込みおよび残留を排除する必要がある。本発明は、パターンローラ用成形体に対する種々の検証の結果、これを最外層およびこれと接する内層を含む2以上の複数層によって構成するとともに、少なくとも1つの内層が塗料を通過させる機能を有するように構成することによって、塗料の残留を含む上記課題を解消することができることを見出した。従って、こうした構成を適用することによって、長時間連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体を提供することが可能となった。特に、微細な凹凸模様の作製においても、十分な模様の安定性を保持しつつ、長時間、連続的に凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体を提供することが可能となった。
【0010】
本発明は、上記パターンローラ用成形体であって、前記内層が多数の空孔を有し、該空孔が前記最外層の空間部と接することを特徴とする。
【0011】
上記のように、最外層の空間部への塗料の入り込みおよび残留を排除するには、これと接触する直近の内層が塗料を通過させる機能を有することが好ましいことを見出した。また、具体的にこうした通過性を確保する方法の1つとして、内層が多数の空孔を有し、該空孔が最外層の空間部と接することが好ましいことを見出した。つまり、内層に空孔を設け最外層の空間部と接することによって、該空間部への塗料の入り込みを防止することが可能となり、さらに、空間部に入り込んだ塗料を多数の空孔を介して空間部から排除するという、構造的に塗料を通過させる機能を確保するパターンローラ用成形体を構成することが可能となった。従って、こうした構成を適用することによって、長時間連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体を提供することが可能となった。
【0012】
本発明は、上記パターンローラ用成形体であって、前記内層の少なくとも一部が塗料に対する吸収性を有する素材から形成され、該素材部分が前記最外層あるいは他の内層の空間部と接することを特徴とする。
【0013】
パターンローラ用成形体において、内層の塗料を通過させる機能を確保する方法の1つとして、上記では、構造的にその機能を確保する場合について述べた。本発明は、素材の特性としてその機能を確保する方法を見出したもので、具体的には、内層の少なくとも一部が塗料に対する吸収性を有する素材から形成され、該素材部分が最外層あるいは他の内層の空間部と接することによって、空間部に入り込んだ塗料を、吸収性の素材からなる内層を介して空間部から排除することが可能となった。従って、こうした構成を適用することによって、長時間連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体を提供することが可能となった。
【0014】
本発明は、上記パターンローラ用成形体であって、前記塗料接触部が塗料に対して撥性を有することを特徴とする。
【0015】
上記のように、パターンローラ用成形体において、内層の通過性を確保することによって、空間部に入り込んだ塗料を空間部から排除することが可能となった。一方、塗膜と塗料接触部が一定時間接触状態を維持し、その後、両者が離隔したときに、塗料が塗料接触部に残留した場合、その塗料が空間部に入り込む可能性が高い。従って、本発明は、塗料接触部が塗料に対して撥性を有するようにすることによって、こうした塗料接触部への塗料の残留を排除することを図るもので、これによって、空間部に入り込む塗料の量を大幅に低減することが可能となった。特に、微細な凹凸模様の作製においては、凹凸模様を構成する凹部および凸部の一単位は、非常に小さいことから、最外層の一単位を形成する空間部と塗料接触部は小さく、こうした構成によって一層大きな技術的効果を得ることができる。また、塗料接触部の撥性を確保するには、撥性を有する素材を用いる方法あるいは塗料接触部の表面を撥性処理する方法などがある。
【0016】
本発明は、上記のいずれかに記載のパターンローラ用成形体を用いたパターンローラであって、操作用ハンドル部と、前記パターンローラ用成形体の空洞部に接合させるローラ部を有することを特徴とする。
【0017】
上記パターンローラ用成形体は、塗膜の凹凸模様の作製、特に微細な凹凸模様の作製において、最外層の空間部への塗料の入り込みおよび残留を排除し、模様の安定性を保持しつつ、長時間連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能となる。本発明に係るパターンローラは、こうしたパターンローラ用成形体の優れた機能を利用したもので、上記いずれかのパターンローラ用成形体を用い、操作用ハンドル部と、前記パターンローラ用成形体の空洞部に接合させるローラ部を有することによって、十分な模様の安定性を保持しつつ、長時間、連続的に凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体を提供することが可能となった。
【0018】
本発明は、上記のいずれかに記載のパターンローラ用成形体またはパターンローラを用いた塗装方法であって、壁面に塗料を塗装した後該塗料が硬化する前に、前記パターンローラ用成形体またはパターンローラを、塗装面に押し当てて転動させ、凹凸模様を付与することを特徴とする。
【0019】
上記パターンローラ用成形体またはパターンローラは、塗膜の凹凸模様の作製、特に微細な凹凸模様の作製において、最外層の空間部への塗料の入り込みおよび残留を排除し、模様の安定性を保持しつつ、長時間連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能となる。本発明に係る塗装方法は、こうしたパターンローラ用成形体またはパターンローラの優れた機能を利用したもので、壁面に塗料を塗装した後該塗料が硬化する前に、上記パターンローラ用成形体またはパターンローラを、塗装面に押し当てて転動させ、凹凸模様を付与することによって、十分な模様の安定性を保持しつつ、長時間、連続的に凹凸模様を作製することが可能な塗装方法を提供することが可能となった。
【発明の効果】
【0020】
本発明のパターンローラを使用することによって、長時間、連続して、一定の凹凸模様を作製することが可能なパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法を提供することが可能となった。特に、微細な凹凸模様を作製するに当り、模様の安定性を保持しつつ、長時間、連続的に凹凸模様を作製することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
<本発明に係るパターンローラ用成形体>
本発明に係るパターンローラ用成形体(以下「本成形体」)は、(1)空間部と塗料接触部からなり、塗膜の凹凸模様を作製するパターンが形成され、(2)最外層およびこれと接する内層を含む少なくとも2以上の層からなり、(3)該内層の少なくとも1つの内層が塗料を通過させる機能を有することを特徴とする。また、本成形体は、パターンローラへの取り付けが必要な場合には、その中心軸上に回動の中心となる空洞部が形成される
【0022】
(1)本成形体の第1構成例
本成形体の一例(第1構成例)を、図1(a)〜(e)に示す。図1(a)はその正面図、図1(b)はその最外層1を示す図、図1(c)は最外層1に接する内層2を示す図、図1(d)は、その断面図、図1(e)は凹凸模様の最小構成単位を示す。最外層1が横の線状体によって空間部1aおよび塗料接触部1bを有するように形成され、内層2が縦の線状体によって空間部2aおよび塗料接触部2bを有するように形成される。これらを縦横に組み交した構造によって、塗料接触部1bおよび塗料接触部2bによって凹凸形状を作製するとともに、空間部1aおよび空間部2aによって、多数の空孔3を有する内層2を形成することができる。つまり、内層2は、この空孔3によって「塗料を通過させる機能」を有することができる。
【0023】
また、空間部1aと塗料接触部1b、および空間部2aと塗料接触部2bを有する凹凸形状を最小構成単位(図1(e)参照)とし、該最小構成単位が、本成形体の軸方向および周方向に連続して配置された構造(図1(a)参照)となっている。
【0024】
(2)本成形体の第1構成例の変形
次に、本成形体の第1構成例の変形の1つを、図1(f)および(g)に示す。最外層1の塗料接触部1bを、内層2の塗料接触部2bに沿うようにしてこれと接合させることによって、内層2の一部を占める構造となっている。両者を堅固に接合することができる点において優れた機能を有するとともに、塗料接触部1b中に凹凸の極大部と極小部が存在する連続的に凹凸の程度が変化する凹凸形状が形成される。このような凹凸形状が形成されていることにより、よりさりげない、落ち着いた意匠性を付与することができるとともに、最外層1の空間部1aに塗料が、より溜まりにくくなる。同様に、図示はしないが内層2の塗料接触部2bについても、塗料接触部1bに沿うように接合させ、塗料接触部2bも凹凸の極大部と極小部が存在する連続的に凹凸の程度が変化する凹凸形状が形成されていることが好ましい。
【0025】
さらに、本成形体の第1構成例の変形として、図1(b)および(c)のように横の線状体と縦の線状体が層状に配設される場合だけでなく、図1(h)および(i)のように、横の線状体1hと縦の線状体1vを、交互に最外となるように編み込むことも可能である。この場合、1つの線状体によって最外層あるいは内層を形成するのではなく、交互にその形成する層を変えていく構造となっている。これらの横の線状体1hと縦の線状体1vによって、多数の空孔3を形成し、図1(b)および(c)とは異なった特有の凹凸模様を形成することができるとともに、2方向からの線状体1hおよび1vを堅固に固定することができる。
【0026】
また、本成形体の第1構成例の他の変形として、図1(j)〜(m)に示す。最外層1とこれに接する内層2が、各々空間部1a,2aを有するように形成され、最外層1の塗料接触部1b,1c(詳細には、横方向の塗料接触部1bと縦方向の塗料接触部1cからなる)および内層2の内層構成部2c(縦方向の塗料接触部1cと同一線状体によって形成される)が形成される。このとき、縦方向の塗料接触部1cは、横方向の塗料接触部1bよりも低位にあり、空間部1a,2aを有する実質的に3段階の層が形成されることにより、塗装面の上に押し当てながらパターンローラを移動させて凹凸模様を作製する操作において、空間部1a,2aに塗料が入り込みにくく、連続的にパターンローラを使用したとしても、一定の凹凸模様を付与することができる。また、空間部1aに入り込んだ塗料は、これに接する空間部2aに移動し、さらに塗料接触部1bの内面側に移動することによって、最外層1に対する影響を排除することができる。その他の構成あるいは機能は、実質的に第1構成例と同様である。なお、図2(a)〜(e)のように、縦横の線条体の組合せではなく、縦横が一体となった織布で形成された最外層1と、縦横いずれかの線条体あるいは最外層1と同じ織布で形成される内層2からなる本成形体についても、同様の技術的効果を得ることができる。なお、図1(a)〜(m)は、1つの内層2を有する場合を例示するが、内層2の数はこれに限定されるものではなく、空間部の有無を問わず複数の内層を有する場合を含む。
【0027】
このように空間部1a,2aを有する少なくとも2段階の層があることにより、塗装面の上に押し当てながらパターンローラ(後述する図7参照)を移動させて凹凸模様を作製する操作において、空間部1a,2a(つまり空孔3)に塗料が入れ込みにくく、連続的にパターンローラを使用したとしても、一定の凹凸模様を付与することができる。従って、凹凸模様を作製中に一旦パターンローラを洗浄したり、または、別のパターンローラに交換したりする必要はない。
【0028】
このような効果が得られる詳細な理由は明らかではないが、パターンが塗料接触部1bおよび塗料接触部2bという少なくとも凹凸のある2段で構成された形状体および空間部1aによって形成されることにより、パターンローラを移動させた際に、塗料接触部1bと塗料接触部2bでは、壁面を押さえつける圧力が異なり、空間部1aまで塗料が入り込んだとしても、空間部2aまでは、塗料が入り込み難くい構造となっているためと思われる。また、仮に空間部2aに塗料が入り込んだとしても、塗料接触部1bから空間部2aまでの傾斜構造(塗料接触部1bの内側の空間2aおよび塗料接触部2bの外側の空間部1aの存在)により、空間部2a(または空間部1a)に入り込んだ塗料が、パターンローラの回転等により簡単に外部に出て行きやすい構造をとっているためと思われる。従って、本成形体は、空間部を含む外周面全面に塗料が付着しやすく、凹部に塗料が溜まりやすい従前のパターンローラと比べて、パターンローラの空間部1aおよび2a全体に塗料が入り込みにくい。
【0029】
また、こうした本成形体を用いることによって、新規な意匠性をつくりだすこともできる。すなわち、少なくとも塗料接触部1bの表面、塗料接触部2bの表面および塗料接触部2bの裏面という少なくとも3段の面があり、かつ、微細な凹凸形状を有していることにより、得られた塗装面は、微細な凹凸模様を有する、さりげない、落ち着いた、今までにない新規な塗装面を表出することができる。
【0030】
本成形体は、空孔3の一辺が1mm以上30mm以下であることが好ましい。空孔3の一辺が1mm未満の場合には、凹凸模様自体の形成が困難であり、入り込んだ塗料の空孔3からの移動が困難となる。空孔3の一辺が30mmを超えると、微細な凹凸模様を付与しにくい。一方、最外層1の厚みは10mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以上7mm以下、さらに好ましくは1mm以上5mm以下である。このような構成にすることによって、連続的に一定の微細な凹凸模様を付与することができる。最外層1の厚みが10mmを超えると、連続的に一定の凹凸模様を付与することができるが、微細な凹凸模様を付与することが困難である。
【0031】
また、最外層1あるいは内層2について、上記凹凸模様の最小構成単位における空間部1aあるいは空間部2aの面積比は、特に限定されないが、10%〜80%が好ましく、あるいは15%〜70%、さらには20%〜65%程度であることが好ましい。10%未満の場合には、塗料の入り込みや残留の可能性が高くなり、80%を超えると凹凸模様の形成が困難となるためである。
【0032】
ここで、本成形体を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、プラスチック、ゴム、ガラス、金属、繊維等が挙げられる。特に好ましい材料としては、塗料を吸収しにくく、ある程度の弾力性を有していることから、プラスチック、ゴム等が好ましい。
【0033】
また、本成形体においては、塗料接触部1bまたは/および塗料接触部2bが、塗料に対して撥性を有することが好ましい。つまり、本成形体を用いた凹凸模様の作製においては、未硬化状態の塗膜と塗料接触部1bが一定時間接触状態を維持した後両者が離隔したときに、塗料が塗料接触部1bに付着・残留し、その塗料が空間部1aに入り込む可能性が高い。従って、塗料の空間部1aへの入り込みを防止するには、塗料の塗料接触部1bへの付着を防止することが効果的である。つまり、本成形体は、塗料接触部1bを塗料に対して撥性を有するようにすることによって、こうした塗料接触部1bへの塗料の残留を排除することを図るもので、これによって、空間部1aに入り込む塗料の量を大幅に低減することが可能となった。特に、微細な凹凸模様の作製においては、凹凸模様を構成する凹部および凸部の一単位は非常に小さいことから、最外層1の一単位を形成する空間部1aと塗料接触部1bは小さく、こうした塗料の残留の前段階における対策は、高い技術的効果を得ることができる。また、こうした効果は、塗料接触部2bが塗料に対して撥性を有する場合においても同様である。
【0034】
ここで、塗料接触部1b(または/および塗料接触部2b)の撥性を確保するには、撥性を有する素材を用いる方法あるいは塗料接触部1bの表面を撥性処理する方法などがある。具体的に、本成形体に使用可能な撥性を有する素材としては、上記材料のうちプラスチック、ゴムあるいはガラス等を挙げることができる。また、撥性処理する方法としては、素材表面への樹脂などの吹付けやコーティングを挙げることができる。
【0035】
(3)本成形体の第2構成例
本成形体の他の一例(第2構成例)を、図2(a)〜(e)に示す。図2(a)はその正面図、図2(b)はその断面図、図2(c)はその最外層1を示す図、図3(d)は最外層1に接する内層2を示す断面図、図3(e)は凹凸模様の最小構成単位を示す。最外の最外層1が、空間部1a、塗料接触部1bおよび塗料接触部1cを有するように形成され、これと接するように内層2が形成され、内層2の少なくとも一部が塗料に対する吸収性を有する素材から形成される点において、第1,第2構成例と異なる。これによって、縦横に凹凸模様を作製するとともに、塗料を通過させる機能を有する内層2を形成することができる。その他の構成あるいは機能は、実質的に第1,第2構成例と同様である。なお、図2(c)および(d)のように、縦横の線条体の組合せではなく、縦横が一体となった織布で形成された最外層1からなる本成形体についても、同様の技術的効果を得ることができる。
【0036】
本成形体として使用可能な、塗料に対する吸収性を有する素材としては、スポンジ状等のプラスチックやゴム、綿等の繊維などを挙げることができる。
【0037】
図2(d)に示すように、最外層1の裏面全体に付着させ、内層2を形成させることによって、塗装面の上に押し当てながらパターンローラを移動させて凹凸模様を作製する操作において、空間部1aに塗料が入り込んだ場合であっても、これに接する内層2に吸収されることによって、最外層1に対する影響を排除することができる。
【0038】
(4)本成形体の第3構成例
本成形体の他の一例(第3構成例)を、図3(a)〜(d)に示す。図3(a)はその正面図、図3(b)はその断面図、図3(c)は内層4、図3(d)はその断面の拡大図を示す。第1構成例同様、最外層1および内層2が縦横の線状体によって形成されるとともに、さらに内層4が、横の線状体によって空間部4aおよび内層構成部4bを有するように形成される。上記第1構成例における2層の線状体に加え、さらにもう1つの横の線状体を付加し、これらを縦横に組み交した構造によって、パターンローラを移動させた際に、塗料接触部2bに対し内層構成部4bからの圧力が加わり、塗料接触部2bがより明瞭な凹凸模様を形成することができる。また、第1構成例における塗料接触部1bと塗料接触部2bにおける壁面を押さえつける圧力の相違による効果を、さらに増幅させることができる。
【0039】
このように第3構成例では、第1構成例以上に塗料が入り込みにくくなり、連続的にローラを使用したとしても、一定の凹凸模様を付与することができ、よりいっそうさりげない、落ち着いた微細な凹凸模様を有する塗装面を表出することができる。その他の構成あるいは機能は、実質的に第1構成例と同様である。
【0040】
(5)本成形体の第4構成例
本成形体の他の一例(第4構成例)を、図4(a)および(b)に示す。図4(a)はその正面図、図4(b)はそれを構成する線体を示す。上記第1および第3構成例における本成形体を構成する線状体に代え、図4(b)に示すような半螺旋状の線体を用いたもので、上記第1および第3構成例と同様、最外層1が横の線体によって空間部および塗料接触部を有するように形成され、内層2が縦の線体によって空間部および塗料接触部を有するように形成される。これらを縦横に組み交した構造によって、半螺旋状の線体特有の凹凸模様を形成することができるとともに、上記第1および第3構成例と同様、空間部へ塗料が入り込みにくくなり、微細な凹凸模様を有する塗装面を表出することができる。その他の構成あるいは機能は、実質的に第1および第3構成例と同様である。
【0041】
(6)本成形体の第5構成例
本成形体の他の一例(第5構成例)を、図5(a)〜(c)に示す。図5(a)はその正面図、図5(b)は、その断面図、図5(c)はその部分拡大図を示す。第5構成例は、上記第1、第3および第4構成例における本成形体の中心軸に対して平行する線体と直交する線体との組み合わせからなる構成に代え、該中心軸に対して傾斜角を有する複数の線状体を螺旋状にクロスさせて用いたもので、上記第1、第3および第4構成例と同様、最外層1および内層2が空間部および塗料接触部を有するように形成される。これらを縦横に組み交した構造によって、半螺旋状の線状体特有の凹凸模様を形成することができるとともに、上記第1、第3および第4構成例と同様、空間部へ塗料が入り込みにくくなり、微細な凹凸模様を有する塗装面を表出することができる。その他の構成あるいは機能は、実質的に第1、第3および第4構成例と同様である。
【0042】
図5(d)は、第5構成例の変形で、クロスする2方向からの線状体を、交互に最外となるように編み込んだもので、半螺旋状の線状体の編み上げ特有の凹凸模様を形成することができるとともに、2方向からの線状体が堅固に固定することができるため、再現のいい凹凸模様を作製することが可能となる。
【0043】
(7)本成形体の製造方法
以上の構成例1〜5のような本成形体は、公知の方法により製造することができる。例えば、最外層1となる円筒状物と、内層2となる円筒状物を重ね合わせて、接着剤等で接着したり、圧着処理、熱処理を施すことによって、製造することができる。さらに、第3構成例においては、これらと内層4となる円筒状物を重ね合わせて、同様の処理を行い、製造することが可能である。また、最外層1、内層2(第3構成例においては、さらに内層4)となる平板状物を重ね合わせて、接着剤等で接着したり、圧着処理、熱処理を施し、その後円筒状物に加工してもよい。また、凹凸模様を施した金型を、円筒状物や平板状物に押し当てて凹凸模様を形成してもよい。
【0044】
(8)その他
本成形体の内筒部は、後述するパターンローラへ装着できるように、空洞となっている(図2(b)、図3(b)、図5(b)参照)。また、空洞の内面に、必要に応じ、補強材を備えることもできる。補強材としては、例えば、プラスチック、ゴム、ガラス、金属、繊維等が挙げられ、本成形体との密着性を高める役割、パターンローラを塗装面に押し当てる際の力を分散する役割等も担っている。また、補強材表面が本成形体の内層を形成してもよく、あるいは補強材自体が本成形体の内層を形成してもよい。
【0045】
また、補強材としては、空間部1aあるいは内層2の空間部2aまで入り込んだ塗料を吸収できる材料を用いることが好ましい。このような材料を用いることによって、空間部1aに塗料を溜めることなく、連続的にパターンローラを使用したとしても、一定の凹凸模様を付与することができる。このような材料としては、例えば、スポンジ状等のプラスチックやゴム、綿等の繊維等が挙げられる。
【0046】
<本発明に係るパターンローラ>
図6には、軸6を備えた操作用ハンドル部7を有し、本成形体10が装着された状態のパターンローラを示す。本成形体10の空洞部5に接合させるローラ部(図示せず)を有し、本成形体10を装着し、使用することができる。軸6を備えた操作用ハンドル部7としては、特に限定されず、公知のものを使用すればよい。
【0047】
<本発明に係る塗装方法>
本発明に係る塗装方法(以下「本塗装方法」という)は、上記の本成形体またはパターンローラを用い、壁面に塗料を塗装した後該塗料が硬化する前に、本成形体またはパターンローラを、塗装面に押し当てて転動させ、凹凸模様を付与する。つまり、本塗装方法では、本成形体の空洞部にローラ部を装着し、壁面に塗料を塗装した後、該塗料が硬化する前に、該塗装面にパターンローラを押し当てて転動させることにより、凹凸模様を付与させることができる。
【0048】
適用できる部位としては、内外装の壁面、床面、天井面等の建築構造物表面が挙げられる。具体的には、住宅、マンション、学校、病院、店舗、事務所、工場、倉庫、食堂等における建築構造物表面に適用できる。
【0049】
塗料としては、特に限定されず、公知の塗料を適用することができる。例えば、JIS K 5654「アクリル樹脂エナメル」、JIS K 5656「建築用ポリウレタン樹脂塗料」、JIS K 5658「建築用ふっ素樹脂塗料」、JIS K 5660「つや有り合成樹脂エマルションペイント」、JIS K 5663「合成樹脂エマルションペイント」、JIS K 5667「多彩模様塗料」、JIS K 5668「合成樹脂エマルション模様塗料」、JIS A 6909「建築用仕上塗材」、JIS A 6021「建築用塗膜防水材」等に規定されるもの等が挙げられる。
【0050】
このような塗料を壁面に塗装した後、該塗料が硬化する前に、パターンローラを押し当てて、該塗装面を転動させることにより、凹凸模様を付与させることができる。
【0051】
凹凸模様の程度は、本成形体の凹凸模様に加えて、塗料の粘性、パターンローラを押し当てる強度・タイミング等を制御することにより、適宜設計すればよい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。具体的には、下記のように形成された塗膜を用い、本成形体を用いた〔実施例〕と従来品を用いた〔比較例〕によって、本発明の技術的効果を検証した。
【0053】
〔塗膜の形成〕
(1)素地の形成
石膏ボードからなる壁面(縦1800mm×横2700mm)表面に、シーラー(アクリル系下塗剤)をウールローラを用いて、塗付量0.2kg/mで塗付し、温度23℃、相対湿度50%で、2時間養生した。
【0054】
(2)塗膜の形成
さらにその上に、水性エマルション塗料(アクリル樹脂エマルション(Tg12℃、固形分50重量%)200重量部、酸化チタン65重量%水分散液200重量部、重質炭酸カルシウム130重量部、アニオン系分散剤5重量部、ウレタン系増粘剤1.5重量部、シリコーン系消泡剤2重量部)をウールローラを用いて、塗付量0.5kg/mで塗付した。
【0055】
〔実施例〕
(1)凹凸模様の形成(パターン付与)
塗付後5分後、第1構成例と同じ構成を有するパターンローラ(塗料接触部1b間距離:7mm、塗料接触部1から内層2までの高低差:4mm、凹凸模様の最小構成単位における空間部の面積比:最外層1および内層2ともに50%、最外層1の凹凸の程度(高低差):高低差0.3mm)を用いて、図7に示すように操作用ハンドル部7を装着し、塗装面に押し当てて、転動させ、凹凸模様を付与した。
【0056】
(2)実験結果
本形成体を用いた場合、図7(a)に示すように、パターン付与後であっても、本形成体の表面の最外層および空間部においても塗料の残留は殆ど見られなかった。また、塗膜へのパターンの形成においても、図7(b)に示すように、連続してパターン付けしたとしても、塗料が空間部に入り込まず、ローラのパターンが消えず、一定のパターンが連続して付与することができた。特に、過剰に連続してパターン付与をした場合であっても、図7(c)に示すように、一定のパターンを形成することができた。次に、こうした処理を行った約2時間後、形成されたパターンの仕上がりを確認すると、図7(d)に示すような一定のパターンが、壁面全面を連続して付与することができた。また、得られたパターン表面は、さりげない、落ち着いた美観性を有していた。
【0057】
〔比較例〕
(1)凹凸模様の形成(パターン付与)
塗付後5分後、従来品のパターンローラ(塗料接触部間距離:7mm、塗料接触部の高さ:4mm、凹凸模様の最小構成単位における空間部の面積比:50%)を用いて、図6に示すように操作用ハンドル部7を装着し、塗装面に押し当てて、転動させ、凹凸模様を付与した。
【0058】
(2)実験結果
本形成体を用いた場合、図7(e)に示すように、パターン付与後、パターンローラの表面の最外層および空間部において大量の塗料の残留が見られた。また、塗膜へのパターンの形成においても、図7(f)に示すように、連続してパターン付けすると塗料が凹部に入り込んでしまう部分が現れ、ローラのパターンが消えてしまい、大きなパターンムラがでた。特に、過剰に連続してパターン付与をした場合には、図7(g)に示すように、パターンが消えてしまい、大きなパターンムラがでた。さらに、こうした処理を行った約2時間後、形成されたパターンの仕上がりを確認すると、図7(h)に示すような仕上がりにムラがあるパターンが、壁面全面に形成される結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記のような本発明に係るパターンローラ用成形体、これを用いたパターンローラおよびこれらを用いた塗装方法は、建築物の内外壁等に限定されず、塗料によって表面処理を行う他の技術分野、例えば、家具や家庭用品あるいは工業製品などにおいても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るパターンローラ用成形体の一例(第1構成例)を示す説明図。
【図2】本発明に係るパターンローラ用成形体の他の一例(第2構成例)を示す説明図。
【図3】本発明に係るパターンローラ用成形体の他の一例(第3構成例)を示す説明図。
【図4】本発明に係るパターンローラ用成形体の他の一例(第4構成例)を示す説明図。
【図5】本発明に係るパターンローラ用成形体の他の一例(第5構成例)を示す説明図。
【図6】本発明に係るパターンローラ用成形体の他の一例(第6構成例)を示す説明図。
【図7】パターンローラを用いたパターン形成の実施例の結果を示す説明図。
【図8】従来技術に係る測定装置の構成を例示する説明図。
【符号の説明】
【0061】
1 最外層
1a.2a,4a 空間部
1b,1c,2b 塗料接触部
1h 横の線条体
1v 縦の線条体
2,4 内層
2c,4b 内層構成部
3 空孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間部と塗料接触部からなり、塗膜の凹凸模様を作製するパターンが形成されたパターンローラ用成形体であって、最外層およびこれと接する内層を含む少なくとも2以上の層からなり、該内層の少なくとも1つの内層が塗料を通過させる機能を有することを特徴とするパターンローラ用成形体。
【請求項2】
前記内層が多数の空孔を有し、該空孔が前記最外層の空間部と接することを特徴とする請求項1記載のパターンローラ用成形体。
【請求項3】
前記内層の少なくとも一部が塗料に対する吸収性を有する素材から形成され、該素材部分が前記最外層あるいは他の内層の空間部と接することを特徴とする請求項1または2記載のパターンローラ用成形体。
【請求項4】
前記塗料接触部が塗料に対して撥性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパターンローラ用成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のパターンローラ用成形体を用いたパターンローラであって、操作用ハンドル部と、前記パターンローラ用成形体の空洞部に接合させるローラ部を有することを特徴とするパターンローラ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のパターンローラ用成形体または請求項5記載のパターンローラを用いた塗装方法であって、壁面に塗料を塗装した後該塗料が硬化する前に、前記パターンローラ用成形体またはパターンローラを、塗装面に押し当てて転動させ、凹凸模様を付与することを特徴とする塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−272662(P2008−272662A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119181(P2007−119181)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】