説明

パッキン

【課題】装着相手部材の組み付けの仕方のいかんにかかわらず、装着性に優れたリップパッキンを提供する。
【解決手段】ハウジング2と挿入部材3との隙間を密封するパッキン1であって、環状溝21の溝底22に密着する環状シール部10と、該環状シール部10との間に高圧側に開く環状凹部12が形成されるように環状シール部10から挿入部材3に向かって延出されるとともに挿入部材3の表面30に対してつぶし代を有して密着するシールリップ11と、を備えるパッキン1において、シールリップ11の先端から高圧側に向かって軸方向に突出するとともに、2部材が組み付けられた状態において高圧側となる側から挿入部材3がハウジング2に対して組み付けられる場合に、挿入部材3に対してシールリップ11よりも少ないつぶし代を有して最初に接触する角部13dを有する突出部13を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと該ハウジングに設けられた穴部に挿入される挿入部品との間の隙間を密封するパッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2部材間の隙間を密封する密封装置としては、いわゆるUパッキン等のようなシールリップを備えたリップパッキンと呼ばれるものがある。このリップパッキンは、いわゆるOリング等のようなスクィーズパッキンと比べてフリクションの低減を図ることができ、また、装着相手部材の寸法のバラツキを吸収し易いといった特徴を有している。このようなパッキンの形状としては、従来から種々のものが提案されている(特許文献1〜5参照)。
【0003】
ここで、図5を参照して、従来技術に係るパッキン(リップパッキン)について説明する。図5は、従来技術に係るパッキンの模式的断面図であり、(a)は、挿入部材の挿入時においてパッキンのシールリップと挿入部材とが接触する前の状態、(b)は、シールリップと挿入部材とが接触した後の状態をそれぞれ示している。
【0004】
パッキン100は、ハウジング200と、該ハウジング200に設けられた穴部201に挿入される挿入部材300との間の隙間を密封するために用いられるものであり、穴部201の内周面に設けられた環状溝202に装着されて使用される。パッキン100は、環状溝202の溝底に密着する環状シール部101と、挿入部材300の表面301に密着するシールリップ102と、を備えている。
【0005】
また、環状シール部101とシールリップ102との間には、高圧側に開口する環状凹部103が形成されており、この環状凹部103により使用時においては高圧側からの圧力が、環状シール部101に対しては外径方向に作用し、シールリップ102に対しては内径方向に作用し、環状シール部101と環状溝202の溝底との密着性、シールリップ102と挿入部材300の表面301との密着性が高められる。
【0006】
図5(a)に示すように、シールリップ102は、挿入部材300の表面301に対してつぶし代を有している、すなわち、挿入部材300の表面301の径寸法に対してシールリップ102の先端の内径寸法が小さく設定されている。これにより、挿入部材300が装着された状態においてシールリップ102と挿入部材300の表面301との密着性が確保されるように構成されている。
【0007】
このような構成においては、使用時において高圧側(H)となる側から挿入部材300がハウジング200に対して組み付けられる場合には、挿入部材300の挿入時に挿入部材300の端部とパッキン100のシールリップ102との干渉によって、図5(b)に示すように、シールリップ102の先端が挿入部材300の端部に引っかかってしまう場合がある。このように引っかかりを生じてしまうと、パッキン100を正常な装着状態とすることができなくなり、また、パッキン100に破損等を生じることになる。
【0008】
シールリップ102の先端部や挿入部材の先端部は、通常、ある程度の面取り処理が施されており、この面取り量を増やすことで上述の引っかかりを防止することが考えられるが、形成可能な面取り量は寸法上限界があり、また、面取りの量を増やしただけでは面同士の接触によって挿入部材の押し込みにより引きずられてしまい、十分に引っかかりを防止することができない。
【0009】
また、引っかかりを防止するためにシールリップ102のつぶし代の量を少なくした場合には、相手部材の寸法バラツキ等に十分に追随することができなくなってしまい、リップパッキンとしての特質を発揮できなくなってしまう。
【0010】
したがって、ハウジング200と挿入部材300とが上述のように組み付けられる構成においては、低フリクション・寸法バラツキの吸収に優れたパッキン100を使用することができない場合が生じてくる。
【特許文献1】特開2000−283296号公報
【特許文献2】実開昭62−4679号公報
【特許文献3】特開平10−318464号公報
【特許文献4】特開2001−82650号公報
【特許文献5】特開2001−295928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、装着相手部材の組み付けの仕方のいかんにかかわらず、装着性に優れたパッキンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明におけるパッキンは、
ハウジングと該ハウジングに設けられた穴部に挿入される挿入部材のうち一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の隙間を密封するパッキンであって、
前記環状溝の溝底に密着する環状シール部と、
該環状シール部との間に高圧側に開く環状凹部が形成されるように前記環状シール部から前記2部材のうち他方の部材に向かって延出されるとともに該他方の部材の表面に対してつぶし代を有して密着するシールリップと、
を備えるパッキンにおいて、
前記シールリップの先端から高圧側に向かって軸方向に突出するとともに、前記2部材が組み付けられた状態において高圧側となる側から前記他方の部材が前記一方の部材に対して組み付けられる場合に、前記他方の部材に対して前記シールリップよりも少ないつぶし代を有して最初に接触する角部を有する突出部を備えたことを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、シールリップよりも少ないつぶし代を有する突出部の角部が他方の部材に接触することで、突起部が他方の部材に押し退けられるようにして一方の部材側に倒れるような変形を生じる。この突起部の変形につられてシールリップの先端側が環状凹部を閉じるように一方の部材側に変形する。これにより、シールリップは当初のつぶし代よりも少ないつぶし代で他方の部材に接触することになる。したがって、シールリップが他方の部材に引っかかってしまうのが抑制され、パッキンを正常な装着状態とすることができる。
【0014】
前記突出部は、前記他方の部材側の側面に階段状の段差が設けられていてもよい。
【0015】
これにより、環状溝や挿入部材の外周面等の加工精度にバラツキがあるような場合でも、突出部の段差部分に形成される複数の角部のうちいずれか又は幾つかの角部が、他方の部材に最初に接触することになり、シールリップの引っかかりの抑制を図ることできる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明により、装着相手部材の組み付けの仕方のいかんにかかわ
らず、装着性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
(実施例1)
図1〜図3を参照して、本発明の実施例1に係るパッキンについて説明する。図1は本実施例に係るパッキンの構成を示す模式図であり、(a)は軸方向からみた様子を示しており、(b)は(a)のAA断面図である。図2は、本実施例に係るパッキンの装着状態(加圧時)を示す模式的断面図である。図3は、挿入部材の組付け時の様子を示す模式的断面図であり、(a)は挿入部材がシールリップに接触する前の状態、(b)は挿入部材がシールリップに接触した後の状態、(c)は挿入部材がさらに挿入された状態をそれぞれ示している。
【0019】
<パッキンの構成及び概要>
図1に示すように、パッキン1は、環状のシール部材であり、断面略矩形の円筒状に構成された環状シール部10と、該環状シール部10の一端から内径側に延出して設けられたシールリップ11と、を備えた、いわゆるリップパッキンである。また、環状シール部10とシールリップ11との間には、軸方向に開口した環状凹部12が形成されている。ここで、本実施例に係るパッキン1は、シールリップ11の高さbと厚さaとの比b/aが1.5を越えるものとなっている。
【0020】
パッキン1の材料としては、例えば、ニトリルゴムやポリウレタンゴム等を挙げることができるが、これらに限られず使用条件等に応じて種々の材料を選択できるのはいうまでもない。
【0021】
図2に示すように、本実施例に係るパッキン1は、ハウジング2の穴部20と該穴部20に挿入される挿入部材3との間の環状隙間4を密封するものである。ここで、本実施例に係るパッキン1の具体的な用途としては、例えば、水配管部用の密封装置としての用途を挙げることができる。しかしながら、本実施例の用途範囲としてはこれに限られるものではなく、いわゆるOリング等のようなスクィーズパッキンでは成立しないような、例えば、昨今のハウジング材質の樹脂化に伴って低フリクション化及び径方向寸法のバラツキ吸収の要求が高い部位において好適に使用することができる。
【0022】
パッキン1は、ハウジング2の穴部20に形成された環状溝21に装着され、環状シール部10の外周面が環状溝21の溝底面22に密着し、シールリップ11が挿入部材3の外周面30に密着することで、環状隙間4を密封する。
【0023】
環状凹部12は、高圧側(H)に開口しており、使用時においては、高圧側から作用する圧力を受けて、環状シール部10に対しては外径方向に作用する分力を発生させ、シールリップ11に対しては内径方向に作用する分力を発生させる。これにより、環状シール部10と環状溝21の溝底面22との間の密着性及びシールリップ11と挿入部材3の外周面30との間の密着性が高められる。
【0024】
また、シールリップ11は、先端側の領域における内径寸法が挿入部材3の外周面30の径寸法よりも小さく設定されている、すなわち、挿入部材3の外周面30に対してつぶし代を有している。したがって、挿入部材3が穴部20に挿入された状態においては、シ
ールリップ11は、挿入部材3の外周面30によって外径方向に押されて拡張変形した状態となり、挿入部材3の外周面30に密着することになる。
【0025】
このように、シールリップ11が挿入部材3に対してつぶし代を有していることにより、挿入部材3が穴部20に対して偏心を生じて環状溝21の溝底面22と挿入部材3の外周面30との間の距離が変化したり、環状溝21や外周面30の加工寸法の誤差が大きいような場合でも、シールリップ11が外周面30に追随して各々の寸法のバラツキを吸収し、挿入部材3との密着状態を維持することができる。
【0026】
また、本実施例に係るパッキン1は、シールリップ11の先端に突出部13が設けられている。
【0027】
<突出部の詳細>
突出部13は、図3(a)に示すように、挿入部材3の組み付け時において挿入部材3に接触する前の状態においてはシールリップ11の先端から軸方向に向かって突出している。突出部13は、軸方向に平行な内周面13a及び外周面13bと、径方向に平行な環状先端面13cと、を有する略筒形状を有している。
【0028】
突出部13は、シールリップ11の先端部における外径側であって、内周面13aが挿入部材3の外周面30に対してつぶし代を有する位置に配置される。突出部13のつぶし代の量は、内周面13aがシールリップ11先端において内径方向に最も突出した内径方向先端部11aよりも外径側に後退しており、シールリップ11の内径方向先端部11aにおけるつぶし代よりも少ない。
【0029】
挿入部材3が、使用時(図2)において高圧側(H)となる側から低圧側(L)となる側に向かって穴部20内を軸方向に進入してくると、挿入部材3の外周面30の縁部に形成されたテーパ面(面取り部)31に、突出部13先端の内周側(内周面13aと環状先端面13cとの境目)の角部13dが接触する。
【0030】
角部13dは、C0.2以下の小さい面取り量となっており、挿入部材3のテーパ面31に対して線接触(断面図で見た場合には線接触)に近い接触状態となる。したがって、従来のように面取りによって形成されたテーパ面同士の面接触による接触状態と比べて摺動抵抗が小さく、図3(b)に示すように、挿入部材3の押し込みに対して角部13dがテーパ面31上を滑るように移動して、突出部13全体が外径側に倒れるような拡径変形を生じる。
【0031】
この突出部13の変形につられてシールリップ11の先端側が環状凹部12を閉じるように環状溝21の溝底側に変形する。これにより、シールリップ11の先端側は、本来のつぶし代よりも少ないつぶし代で挿入部材3に接触することになる。したがって、シールリップ11が挿入部材3に引っかかってしまうのが抑制され、挿入部材3の押し込みに引きずられてリップパッキン1が破損してしまうことが抑制される。
【0032】
すなわち、本実施例によれば、挿入部材3がハウジング2に組み付けられた状態において高圧側(H)となる側から挿入部材3が穴部20に挿入される組み付け構成を採用した場合には、突出部13の変形によってシールリップ11が挿入部材3に接触する際のつぶし代が減少することになり、シールリップ11の引っかかりが抑制され、パッキン1を正常な装着状態とすることができる。これにより、装着相手部材の組み付けの仕方のいかんにかかわらず、リップパッキンの装着性を優れたものとすることができる。
【0033】
(実施例2)
次に、図4を参照して、本発明の実施例2に係るパッキンについて説明する。図4は、本実施例に係るパッキンの構成を示す模式的断面図である。なお、ここでは、実施例1と共通する構成については同じ符号を付してその説明を省略する。特に説明しない構成及びその作用効果等については実施例1と同様である。
【0034】
図4に示すように、本実施例に係るパッキン1´は、シールリップ11の先端に設けられる突出部13´の内周側の側面が、階段状に段差を設けられた構成となっており、該段差部分によって複数の角部13d´が形成されている。
【0035】
かかる構成によれば、環状溝21や挿入部材3の外周面30等の加工精度のバラツキによって寸法誤差が大きいような場合でも、複数の角部13d´のうちのいずれか又は幾つかの角部13d´が挿入部材3のテーパ面31に当接し、上記実施例1と同様に、突出部13´が倒れ変形を生じるようにすることができる。
【0036】
<その他>
上記実施例では、ハウジングと挿入部材が上述の組み付け構成とは異なる組み付け構成、すなわち、挿入部材が使用時において低圧側(L)となる側からハウジングに組み付けられる場合については説明しなかったが、そのような組み付け構成の場合には、シールリップの引っかかりが生じることはなく、従来のリップパッキンと同じように使用することができることはいうまでもない。
【0037】
また、上記実施例では、突出部が略円筒状の環状のものとなっているが、突出部の構成としてはこれに限られず、突起状のものが環状先端面上を周方向に複数点在するような構成であってもよい。また、突出部の高さは、装着状態において環状凹部を塞いでしまうことがない範囲で適宜設定される。
【0038】
また、上記実施例では、パッキンがハウジングの穴部に設けられた環状溝に装着される構成について説明したが、パッキンが挿入部材の外周面に設けられた環状溝に装着される構成であっても、本発明は好適に適用することができる。
【0039】
この場合、パッキンの断面形状は、図1〜図4に示す断面形状において内周側と外周側とが反転したような構成となり、シールリップが環状シール部の外周面から外径側に延出する形状となる。そして、挿入部材がハウジングの穴部に対して使用時において低圧側となる側(図面における下方)から挿入される組み付け構成において、シールリップの先端に設けられた突出部によるパッキンの破損抑制効果を得ることができる。また、このときの突出部の変形は内径側に倒れるような縮径変形となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1に係るパッキンの構成を示す模式図である。
【図2】実施例1に係るパッキンの装着状態(加圧時)を示す模式的断面図である。
【図3】実施例1に係るパッキンの模式的断面図である。
【図4】実施例2に係るパッキンの模式的断面図である。
【図5】従来技術に係るパッキンの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 パッキン
10 環状シール部
11 シールリップ
12 環状凹部
13 突出部
13a 内周面
13b 外周面
13c 環状先端面
13d 角部
2 ハウジング
20 穴部
21 環状溝
22 溝底面
3 挿入部材
30 外周面
31 テーパ面(面取り部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと該ハウジングに設けられた穴部に挿入される挿入部材のうち一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の隙間を密封するパッキンであって、
前記環状溝の溝底に密着する環状シール部と、
該環状シール部との間に高圧側に開く環状凹部が形成されるように前記環状シール部から前記2部材のうち他方の部材に向かって延出されるとともに該他方の部材の表面に対してつぶし代を有して密着するシールリップと、
を備えるパッキンにおいて、
前記シールリップの先端から高圧側に向かって軸方向に突出するとともに、前記2部材が組み付けられた状態において高圧側となる側から前記他方の部材が前記一方の部材に対して組み付けられる場合に、前記他方の部材に対して前記シールリップよりも少ないつぶし代を有して最初に接触する角部を有する突出部を備えたことを特徴とするパッキン。
【請求項2】
前記突出部は、前記他方の部材側の側面に階段状の段差が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のパッキン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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