説明

パッチアンテナ

【課題】給電ピンの確実な半田付けを可能にしたアンテナ特性の良好なパッチアンテナを提供する。
【解決手段】パッチアンテナ10は、貫通孔11hを有する誘電体ブロック11と、誘電体ブロック11の上面に形成された放射電極12と、誘電体ブロック11の底面に形成された接地電極13と、接地電極の給電点から貫通孔を介して下方に引き出された給電ピン14とを備えている。貫通孔11hの上端側の開口部の周縁には、断面が矩形状の切り欠き部11xが形成されている。給電ピン14の半田付けの際に、溶融して貫通孔11h内に流れ込もうとする不要な半田15はこの切り欠き部11x内に留まり込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッチアンテナに関し、特に、誘電体ブロックに設けられた貫通孔に給電ピンを挿入するタイプのパッチアンテナの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、GPS(Global Positioning System)を利用した携帯無線端末が広く利用されるようになり、また人工衛星からのラジオ放送を受信するデジタルサテライトラジオシステムが注目されていることから、その受信用パッチアンテナの需要も莫大な増加が見込まれている。
【0003】
図8は、従来のパッチアンテナの構造の一例を示す外観斜視図である。また、図9はその断面図である。
【0004】
図8及び図9に示すように、このパッチアンテナ90は、貫通孔11hを有する誘電体ブロック11と、誘電体ブロック11の上面に形成された放射電極12と、誘電体ブロック11の底面に形成された接地電極13と、放射電極12の給電点Pから貫通孔11hを介して下方に引き出された給電ピン14とを備えている。
【0005】
貫通孔11hは誘電体ブロック11の略中央に設けられ、その上面から底面までを貫いている。接地電極13の貫通孔11hに対応した位置には、開口部13hが形成されており、これによって接地電極13と給電ピン14との接触が防止されている。
【0006】
給電ピン14の後端部には貫通孔11hよりも径の大きな頭部14bが形成されている。給電ピン14は、誘電体ブロック11の上面側から貫通孔11h内に挿入され、その頭部14bを放射電極12に接触させた状態で半田付けを行うことによって固定され、放射電極12と電気的に接続される。この状態において、給電ピン14の先端部14aは誘電体ブロック11の底面よりも所定の長さだけ突出している。
【0007】
配線基板1上にパッチアンテナ90を実装する場合には、図示のように、配線基板1上に形成された給電ピン挿入用の貫通孔2にパッチアンテナ90の底面より突出した給電ピンの先端部14aを挿入し、配線基板1上の配線(図示せず)と半田付けするにより接続される。これにより、アンテナ輻射器である放射電極12は給電ピン14を介して高周波回路に接続される。
【0008】
パッチアンテナの製造では、誘電体ブロック11の貫通孔11hに給電ピン14を挿入した後、給電ピン14の頭部14bの周囲に半田を予め載置しておき、リフロー工程により半田を溶融させて固定するか、あるいは、給電ピン14の頭部14bに半田ごてを当てて半田付けすることで、給電ピン14の上端部を放射電極12と電気的かつ機械的に接続する。
【0009】
上述した従来のパッチアンテナ90は次のような問題を有している。まず、放射電極12と給電ピン14との接続は半田によって行われるが、半田を溶融させる際、図10に示すように、溶融した半田15の表面張力によって給電ピン14が上方に引っ張られて、給電ピン14の平板部14bが放射電極12と密着せずに浮き上がって通常よりも高い位置で固定されてしまうことにより、アンテナインピーダンス(反射特性)に変化が生じてしまい、アンテナとしての所望の利得を得ることができないという問題があった。また、溶融した半田15が毛細管現象によって貫通孔11hと給電ピン14との間に存在するわずかに隙間に流れ込み、給電ピン14の径が太くなってしまうことにより、アンテナインピーダンスに変化が生じてしまい、やはり所望の利得を得ることができなかった。
【0010】
さらに、パッチアンテナ90を配線基板1上に実装する際、正常な状態では図11(a)に示すように接地電極13と配線基板1とが密着しているが、貫通孔11h内に流れ込んだ不要な半田15が接地電極13側まで回り込んだ場合には、図11(b)に示すように、パッチアンテナ90が配線基板1から浮き上がった状態となることにより、配線基板1との接続不良を引き起こし、アンテナ特性の低下を生じていた。
【0011】
このような問題を解決するため、誘電体ブロックの貫通孔の上端部周縁を覆うように放射電極を形成するとともに、上端部がテーパー状に緩やかに太くなる給電ピンを用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法によれば、貫通孔の開口端の内壁と給電ピンとの間の隙間に放射電極が介在し、放射電極の押圧によって給電ピンは半田加熱時の表面張力に抗するだけの固着力をもつことから、半田付けの際に半田の表面張力によって給電ピンが引っ張られることがない。また、給電ピンの上端部を放射電極に密着させて装着することができるとともに、隙間内への半田の流入を防止することができる。よってアンテナインピーダンスの変化を生ずることがなく、所望のアンテナ特性を得ることができる。
【0012】
また、給電ピンの軸部分に凸部を設ける方法も提案されている(特許文献2参照)。この方法によれば、溶融して貫通孔に流れ込んできた半田が給電ピンの凸部によって堰き止められるので、接地電極側へ半田が盛り出てしまう現象を防止することができ、貫通孔内における給電ピンの偏心を抑えることもできる。
【特許文献1】特開平9−260933号公報
【特許文献2】特開平2002−353730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した従来の二つの方法ではいずれも、給電ピンの寸法に対して非常に高い精度が要求されるため、製造コストがかさんでしまうという問題がある。一方、毛細管現象による半田の伝わりを防ぐため、貫通孔の径をより大きくし、給電ピンと貫通孔との隙間(遊び)をより大きくする方法も考えられるが、このようにすると貫通孔内において給電ピンの偏心が大きくなるため、アンテナ特性にばらつきが生じてしまう。逆に、給電ピンの径と貫通孔の径とを等しくして遊びをできるだけ少なくする方法も考えられるが、このようにすると給電ピンの挿入時に誘電体ブロックが破損してしまう恐れがある。
【0014】
したがって、本発明の目的は、給電ピンの確実な半田付けを可能にしたアンテナ特性の良好なパッチアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、上面及び底面において開口する貫通孔を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの前記上面に形成された放射電極と、前記誘電体ブロックの前記底面に形成された接地電極と、前記貫通孔に挿入されるとともに、前記放射電極に半田接続された給電ピンとを備え、前記誘電体ブロックは、前記上面側における前記貫通孔の開口部近傍に切り欠き部を有することを特徴とするパッチアンテナによって達成される。
【0016】
本発明によれば、誘電体ブロックのピン給電点の位置に半田の逃げ部となる切り欠き部を設け、不要な半田が貫通孔内に流れ込まないようにしたので、アンテナ特性の劣化を防止することができる。
【0017】
本発明において、前記切り欠き部は、前記上面側における前記貫通孔の開口部の一部を構成していることが好ましい。これによれば、切り欠き部を貫通孔と一体的に形成することができ、切り欠き部の形成が容易となる。また、貫通孔への給電ピンの差し込みも容易となる。
【0018】
本発明において、前記切り欠き部の外径は、前記上面側に近づくにつれて広がるか又は一定していることが好ましい。これによれば、型枠の段階から誘電体ブロック上に切り欠き部を形成したとしても、誘電体ブロック11を型枠から外す際、切り欠き部に対応する部分の型枠も問題なく外すことができる。つまり、困難なく切り欠き部11xを形成することが可能となる。
【0019】
本発明において、前記切り欠き部の断面が矩形状であることが好ましい。これによれば、切り欠き部の形成が容易であるとともに、切り欠き部内へ溜り込む半田の量を多くすることができる。
【0020】
本発明においては、前記きり欠き部の断面がテーパー状であることが好ましい。これによれば、給電ピンの差し込みがテーパーによって貫通孔の中心軸方向にガイドされるので、給電ピンの貫通孔への挿入を容易にすることができる。
【0021】
前記切り欠き部は、前記誘電体ブロックの前記上面に形成されていることが好ましい。これによれば、溶融して貫通孔内に流れ込もうとする半田がその途中の切り欠き部に溜まり込んで、切り欠き部の位置に留まるので、アンテナ特性の低下を防止することができる。
【0022】
本発明において、前記切り欠き部は、前記給電ピンの後端部に形成された頭部を収容可能な凹部を構成していることが好ましい。ここで、前記凹部の径は、前記給電ピンの頭部の径と略等しく設定され、かつ、前記凹部の深さは、前記給電ピンの頭部の高さよりも深く設定されていることが好ましい。また、前記凹部内の底面及び側面が前記放射電極によって覆われていることが好ましい。これによれば、給電ピンを半田付けにより固定するとき、半田量さえ適切に調整されていれば、半田が凹部の径よりも大きく広がることはなくなる。したがって、アンテナインピーダンスのばらつきを抑えることができ、アンテナ特性の良好なパッチアンテナを提供することができる。また、給電ピンの固定がよりいっそう強固になり、固着強度が一段と向上するという効果を得ることもできる。
【0023】
本発明において、前記誘電体ブロックは、前記給電ピンの頭部を収容可能な凹部を構成する第1の切り欠き部と、前記凹部内の底面における前記貫通孔の開口部近傍に第2の切り欠き部を有していてもよい。これによれば、半田が凹部の径よりも大きく広がることがないため、アンテナインピーダンスのばらつきを抑えることができると共に、溶融して貫通孔内に流れ込もうとする半田がその途中の切り欠き部に溜まり込んで、切り欠き部の位置に留まるので、アンテナ特性の低下をさらに防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、誘電体ブロックの貫通孔の上端側の開口部の周囲に半田の逃げ部となる切り欠き部を設けたので、給電ピンが浮き上がることによる給電ピンと放射電極との接続不良、不要な半田が貫通孔内に流れ込むことによる給電ピンの見かけ上の径の拡大、貫通孔内に流れ込んだ半田が接地導体側まで回り込むことによる給電ピンと配線基板との接続不良等を防止することができる。これにより、特性の良好なパッチアンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るパッチアンテナの構造を示す斜視図である。また、図2は、図1のA−A線に沿った断面図である。
【0027】
図1及び図2に示すように、このパッチアンテナ10は、貫通孔11hを有する誘電体ブロック11と、誘電体ブロック11の上面に形成された放射電極12と、誘電体ブロック11の底面に形成された接地電極13と、接地電極の給電点から貫通孔11hを介して下方に引き出された給電ピン14とを備えている。
【0028】
誘電体ブロック11の材料としては、特に限定されるものではないが、Ba−Nd−Ti系材料(比誘電率80〜120)、Nd−Al−Ca−Ti系材料(比誘電率43〜46)、Li−Al−Sr−Ti(比誘電率38〜41)、Ba−Ti系材料(比誘電率34〜36)、Ba−Mg−W系材料(比誘電率20〜22)、Mg−Ca−Ti系材料(比誘電率19〜21)、サファイヤ(比誘電率9〜10)、アルミナセラミックス(比誘電率9〜10)、コージライトセラミックス(比誘電率4〜6)などを用いることができ、型枠を用いて焼成することによって作製される。
【0029】
誘電体ブロック11の具体的な材料は、目的とする周波数に応じて適宜選択すればよいが、目的とする周波数が例えば2.33GHzである場合、比誘電率εが大きくなるに従って利得が低下し、比誘電率εが小さくなるに従って波長短縮率が低下する結果、放射電極12の一辺の長さを長くする必要が生じる。したがって、十分な利得を確保しつつ放射電極12の大型化を回避するためには、比誘電率εが20〜25程度の材料を用いて誘電体ブロック11を形成することが好ましい。比誘電率εが20〜25程度である材料としては、Mg−Ca−Ti系誘電体セラミックを好ましく挙げることができる。Mg−Ca−Ti系誘電体セラミックとしては、TiO、MgO、CaO、MnO、SiOを含有するMg−Ca−Ti系誘電体セラミックを用いることが特に好ましい。
【0030】
この誘電体ブロック11の上面及び底面に、電極用ペースト材をスクリーン印刷や転写などの方法によって塗布した後、所定の温度条件で焼付けを行うことで放射電極12及び接地電極13が形成される。電極用ペースト材としては、銀、銀−パラジウム、銀−白金、銅などを用いることができる。
【0031】
給電点Pは接地電極12の略中央に設けられていることから、貫通孔11hもこれに対応する略中央位置に設けられ、誘電体ブロック11の上面から底面までを貫いている。接地電極13の貫通孔11hに対応した位置には、貫通孔11hよりもわずかに広径の開口13hが形成されており、これによって接地電極13と給電ピン14との接触が防止されている。なお、誘電体ブロック11の角部のひとつには位置決め用のテーパー11tが設けられており、パッチアンテナ10の向きはこれを基準にして判別され、誘電体ブロック11の上面及び底面もこのテーパー11tを基準にして定められる。
【0032】
放射電極12の形状及び面積は概ね使用周波数との関係で定まり、ここでは図示のように、矩形状の電極が誘電体ブロック11の上面の周縁から一定のマージンをもって形成される。これに対し、接地電極13は、接地効果をできるだけ高めるため、貫通孔11h及びその周囲を除いた誘電体ブロック11の底面全体に形成される。
【0033】
図2に示すように、貫通孔11hの上端側の開口部の周縁には、断面が矩形状の切り欠き部11xが貫通孔11hと一体的に形成されている。つまり、切り欠き部11xは誘電体ブロック11の上面側における貫通孔11hの開口部の一部を構成している。ここで、放射電極12は誘電体ブロック11の上面にのみ形成されており、切り欠き部11xの表面には形成されていない。また、断面が矩形状であることから、切り欠き部11xの外径は上下方向のどの点でも一定となっている。この切り欠き部11xは、溶融して貫通孔11h内に流れ込んだ半田が溜まり込む空間としての役割を果たす。この切り欠き部11xの存在により、給電ピン14の半田付けの際に溶融した半田15が貫通孔11h内に流れ込んだとしても、切り欠き部11x内に溜まり混み、それ以上先まで半田15が流れ込むことがなくなる。このため、給電ピン14の浮き上がりや給電ピン14の径が太くなってしまうことでアンテナインピーダンスに変化が生じたり、貫通孔11h内に流れ込んだ半田15がさらに接地電極13側まで回り込んで配線基板との接続不良を引き起こしたりする事態を防止することができる。
【0034】
給電ピン14の後端部には貫通孔11h及び切り欠き部11xよりも径の大きな略円板状の頭部14bが形成されている。すなわち、給電ピン14は略釘状の導電体である。通常、給電ピン14のピン径はこれと結合される高周波部品との関係から一義的に決定される。貫通孔11hの径は給電ピン14のピン径と略等しければよいが、実際には誘電体ブロック11の寸法ばらつきにより貫通孔11hの径が設計値よりも小さくなってしまうことがあるため、寸法ばらつきを考慮して貫通孔11hの径を決定する必要がある。
【0035】
給電ピン14は、誘電体ブロック11の上面側から貫通孔11h内に挿入され、その頭部14bを放射電極12に接触させた状態で半田付けを行うことによって固定され、放射電極12と電気的に接続される。この状態において、給電ピン14の先端部14aは誘電体ブロック11の底面よりも所定の長さだけ突出している。
【0036】
配線基板上にパッチアンテナ10を実装する場合には、図6を用いて説明したように、配線基板1上に形成された給電ピン挿入用の貫通孔2にパッチアンテナ10の底面より突出した給電ピン14の先端部14aが挿入され、配線基板1上の配線と半田付けすることにより接続される。半田付けは通常、リフロー工程により行うが、半田ごてを用いて行ってもよい。これにより、アンテナ輻射器である放射電極12は給電ピン14を介して配線基板1上の高周波回路に接続される。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、誘電体ブロック11の貫通孔11hの上端側の開口部の周縁に半田の逃げ部となる切り欠き部11xを設けたので、給電ピン14が浮き上がることによる給電ピン14と放射電極12との接続不良を防止することができる。また、不要な半田が貫通孔11h内に流れ込んで給電ピン14の見かけ上の径が太くなることによるアンテナインピーダンスの変化を防止することができる。また、貫通孔11h内に流れ込んだ半田がさらに接地電極13側まで回り込んで配線基板との接続不良を引き起こす事態を防止することができる。すなわち、特性の良好なパッチアンテナを提供することができる。また、本実施形態によれば、切り欠き部11xが貫通孔11hの開口部の一部を構成しており、且つ、切り欠き部11xの外径が上下方向において一定していることから、型枠の段階から誘電体ブロック11上に切り欠き部11xを形成したとしても、誘電体ブロック11を型枠から外す際、切り欠き部11xに対応する部分も問題なく外すことができる。つまり、困難なく切り欠き部11xを形成することが可能となる。
【0038】
上記実施形態においては、切り欠き部11xの断面が矩形状である場合について説明したが、切り欠き部の形状としては種々のものが考えられる。以下、切り欠き部の他の例について説明する。
【0039】
図3(a)乃至(e)は、本発明の他の実施形態に係るパッチアンテナの構造を示す部分断面図である。なお、図3は給電ピンを半田付けする前の状態を示している。
【0040】
図3(a)及び(b)に示すパッチアンテナ20及び30は、切り欠き部が貫通孔11hの上端側の開口部の周縁に設けられており、貫通孔11hと一体的である点で上述したパッチアンテナ10と共通しているが、図3(a)に示すパッチアンテナ20の切り欠き部11aは、断面が階段状であり、図3(b)に示すパッチアンテナ30の切り欠き部11bは、断面がテーパー状である点が上述したパッチアンテナ10と異なっている。ここで、テーパー状の切り欠き部11bは、図3(a)に示した階段状の切り欠き部11aの段数が無限大の場合であると考えることができる。切り欠き部に溜め込むことが可能な半田の量は、矩形状の場合に最も多く、テーパー状に近づくにつれて少なくなるが、反対に、給電ピン14の貫通孔11hへの挿入はテーパー状に近づくほどより容易となる。また、図3(c)のパッチアンテナ40では、断面が矩形状の切り欠き部11cが貫通孔よりもわずかに外側の周囲に独立して形成されている。このような形状の切り欠き部でも半田の溜まり込みに寄与することができ、給電ピン14の浮き上がりや貫通孔11h内への半田の流れ込みを防止することができる。
【0041】
また、図3(a),(b)に示すパッチアンテナ20,30においても、切り欠き部11a,11bが貫通孔11hの開口部の一部を構成し、且つ、切り欠き部11a,11bの外径が誘電体ブロック11の上面に近づくにつれて広くなっていることから、型枠の段階から誘電体ブロック11上に切り欠き部11a,11bを形成したとしても、誘電体ブロック11を型枠から外す際、切り欠き部11xに対応する部分も問題なく外すことができる。図3(c)に示すパッチアンテナ40については、切り欠き部11cが貫通孔11hの開口部の一部を構成していないが、切り欠き部11xの外径及び内径が上下方向において一定していることから、やはり、誘電体ブロック11を型枠から外す際、切り欠き部11xに対応する部分も問題なく外すことができる。
【0042】
また、図3(d)及び(e)に示すパッチアンテナ50及び60は、切り欠き部が貫通孔11hの上端側の開口部の周囲に設けられている点で上述したパッチアンテナ10と共通しているが、切り欠き部が貫通孔11hの内壁面に形成されている点が上述したパッチアンテナ10と異なっている。そのうち、図3(d)の切り欠き部11dは三角形状の断面、図3(e)の切り欠き部11eは矩形状の断面となっている。すなわち、図3(a)乃至(c)に示した切り欠き部は、誘電体ブロック11の上面側に開口を有しており、上面側から貫通孔11h内に流れ込もうとする半田を溜め込むのに対し、図3(d)及び(e)の切り欠き部は、貫通孔11hの内壁面に開口を有しており、貫通孔11h内に流れ込んでしまった半田を溜め込む構造となっている。このように、貫通孔11h内に流れ込んだ半田がその途中で溜まり込んで切り欠き部の位置に留まるので、給電ピンの浮き上がり、給電ピンの径の拡大、配線基板との接続不良等を防止することができる。
【0043】
尚、図3(d),(e)に示すパッチアンテナ50,60では、切り欠き部11d,11eの外径が誘電体ブロック11の上面の上面に近づくにつれて狭まる部分があることから、このような切り欠き部11d,11eを型枠によって形成することは困難である。したがって、この場合、まず型枠を用いて通常の真っ直ぐな貫通孔を持った誘電体ブロックを成型し、その後の加工により、貫通孔内に切り欠き11d,11eを形成すればよい。
【0044】
次に、図4及び図5を参照しながら、本発明のさらに他の実施形態について詳細に説明する。
【0045】
図4は、本発明の他の好ましい実施形態に係るパッチアンテナ70の構造を示す略断面図である。
【0046】
図4に示すように、パッチアンテナ70の特徴は、誘電体ブロック11に形成された給電ピンを通すための貫通孔11hの上面側に切り欠き部11fを形成し、給電ピン14の頭部14bが切り欠き部11f内に収容されるようにし、このとき給電ピンの頭部14bが誘電体ブロックの上面から突出しないように構成している点にある。つまり、誘電体ブロックに形成された切り欠き部11fは、給電ピンの頭部14bを収容可能な凹部を構成している(以下、凹部11fとする)。ここで、凹部11fの径は、給電ピンの頭部14bの径と略等しく設定され、かつ、凹部11fの深さは、給電ピンの頭部14bの高さよりも深く設定されている。また、凹部11fの内側の底面及び側面は、誘電体ブロック11の種面(上面)と同様、放射電極12で覆われている。このような構成によって、給電ピンを半田付けにより固定するとき、半田量さえ適切に調整されていれば、半田が凹部11fの径よりも大きく広がることはなくなる。
【0047】
このように、本実施形態のパッチアンテナ70によれば、半田の広がりを抑えることによってアンテナインピーダンスのばらつきも抑えられるので、アンテナ特性の良好なパッチアンテナを提供することができる。また、アンテナ設計時に所望の特性を得たい場合、予め貫通孔の径を算出しておけば、インピーダンス調整手段として利用することもできる。さらには、貫通孔が2段となっているため、給電ピンの固定がよりいっそう強固になり、固着強度が一段と向上するという効果も得られる。これにより、半田の亀裂により生じる導通不良などを避けることもでき、アンテナとしての信頼性の向上を図ることもできる。
【0048】
図5は、本発明のさらに他の好ましい実施形態に係るパッチアンテナ80の構造を示す略断面図である。
【0049】
図5に示すように、パッチアンテナ80の特徴は、給電ピンの頭部14bを収容可能に形成された凹部11fの内側の底面における前記貫通孔の開口部近傍に切り欠き部11gを設けた点にある。この切り欠き部11gは、図2に示した切り欠き部11xに相当するものであり、溶融して貫通孔11h内に流れ込んだ半田が溜まり込む空間としての役割を果たす。この切り欠き部11gの存在により、給電ピン14の半田付けの際に溶融した半田15が貫通孔11h内に流れ込んだとしても、切り欠き部11g内に溜まり混み、それ以上先まで半田15が流れ込むことがなくなる。このため、給電ピン14の浮き上がりや給電ピン14の径が太くなってしまうことでアンテナインピーダンスに変化が生じたり、貫通孔11h内に流れ込んだ半田15がさらに接地電極13側まで回り込んで配線基板との接続不良を引き起こしたりする事態を防止することができる。
【0050】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能であり、これらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0051】
たとえば、上記各実施形態においては、放射電極12が誘電体ブロック11上に形成されている場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、より厚みの少ない平板状の誘電体上に放射電極13が形成されてもよい。
【0052】
また、上記実施形態においては、誘電体ブロック11の底面に接地電極13が形成されている場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、パッチアンテナが実装される配線基板1側にこの接地電極に相当するものを設け、誘電体ブロック11側の接地電極を省略することも可能である。
【0053】
また、上記実施形態においては、給電ピンの頭部14bの形状が略円板状である場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、略矩形平板状のものであってもよい。
【実施例1】
【0054】
まず、図1及び図2に示すパッチアンテナ10と同じ構造を有する実施例のパッチアンテナを10個作製した。ここで、誘電体ブロックには、(TiO:MgO:CaO:MnO:SiO)がそれぞれ(60.5±0.35:37.05±0.35:2.45±0.10:0.17±0.02:0.20±0.05)の比率で混合された比誘電率が21の誘電体材料を用いた。誘電体ブロックの寸法は、縦×横×高さをそれぞれ17.2[mm]×17.2[mm]×5[mm]とした。また、誘電体ブロックの中央よりもわずかに偏った所定の位置に貫通孔を設け、その直径を3.0[mm]とした。切り欠き部については、断面を矩形状とし、その径方向の幅を0.5[mm]、深さを0.5[mm]とした。また、放射電極については、面積を12.7[mm]×12.7[mm]とした。また、給電ピンについては、直径を1.2[mm]とし、その平板部の直径及び厚みをそれぞれ3.0[mm]及び0.5[mm]とした。
【0055】
一方、比較例として、切り欠き部が設けられていない点以外は実施例と同様の構成を有するパッチアンテナを10個作製した。
【0056】
そして、実施例及び比較例に係るパッチアンテナの各サンプルについて反射特性を測定した。実施例によるパッチアンテナの測定結果を図6(a)に示し、比較例によるパッチアンテナの測定結果を図6(b)に示す。また、測定結果の主要なパラメータを図7にまとめて示す。図7において、fは反射損失(return loss)が−10dBとなる低域側の周波数(f)と高域側の周波数(f)の中心周波数(f+f)/2を示している。また、"average","R"及び"σ"は、中心周波数fの「平均値」、「最大値と最小値との差」及び「標準偏差」をそれぞれ示している。
【0057】
図6及び図7から明らかなように、切り欠き部を持たない比較例のパッチアンテナでは、反射損失のばらつきが大きいのに対し、切り欠き部を有する実施例のパッチアンテナでは、反射損失のばらつきが小さいことが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るパッチアンテナの構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したパッチアンテナ10の側面断面図である。
【図3】図3(a)乃至(e)は、本発明の他の実施形態に係るパッチアンテナの構造を示す部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態に係るパッチアンテナ70の構造を示す略断面図である。
【図5】図5は、本発明の第3の実施形態に係るパッチアンテナ80の構造を示す略断面図である。
【図6】図6は、パッチアンテナの反射特性の測定結果を示すグラフであり、図6(a)は実施例、図6(b)は比較例を示すものである。
【図7】図7は、実施例及び比較例に係るパッチアンテナの測定結果をその主要なパラメータとともに示す表である。
【図8】図8は、従来のパッチアンテナ90の構造の一例を示す外観斜視図である。
【図9】図9は図6に示した従来のパッチアンテナ90の側面断面図である。
【図10】図10は、従来のパッチアンテナ90の問題点を説明するための側面図断面図である。
【図11】図11は、従来のパッチアンテナ90の他の問題点を説明するための側面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 配線基板
2 給電ピン挿入用貫通孔
10 パッチアンテナ
11 誘電体ブロック
11a 切り欠き部
11b 切り欠き部
11c 切り欠き部
11d 切り欠き部
11e 切り欠き部
11f 切り欠き部(凹部)
11g 切り欠き部
11h 貫通孔
11x 切り欠き部
12 接地電極
12h 放射電極の開口
13 接地電極
13h 接地電極の開口
14 給電ピン
14a 給電ピンの先端部
14b 頭部
20 パッチアンテナ
30 パッチアンテナ
40 パッチアンテナ
50 パッチアンテナ
60 パッチアンテナ
70 パッチアンテナ
80 パッチアンテナ
90 パッチアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面及び底面において開口する貫通孔を有する誘電体ブロックと、前記誘電体ブロックの前記上面に形成された放射電極と、前記貫通孔に挿入されるとともに、前記放射電極に半田接続された給電ピンとを備え、
前記誘電体ブロックは、前記上面側における前記貫通孔の開口部近傍に切り欠き部を有することを特徴とするパッチアンテナ。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記上面側における前記貫通孔の開口部の一部を構成していることを特徴とする請求項1に記載のパッチアンテナ。
【請求項3】
前記切り欠き部の外径は、前記上面側に近づくにつれて広がるか又は一定していることを特徴とする請求項2に記載のパッチアンテナ。
【請求項4】
前記切り欠き部の断面が矩形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパッチアンテナ。
【請求項5】
前記切り欠き部の断面がテーパー状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパッチアンテナ。
【請求項6】
前記切り欠き部は、前記誘電体ブロックの前記上面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパッチアンテナ。
【請求項7】
前記切り欠き部は、前記給電ピンの後端部に形成された頭部を収容可能な凹部を構成している特徴とする請求項2に記載のパッチアンテナ。
【請求項8】
前記凹部の径は、前記給電ピンの頭部の径と略等しく設定され、かつ、前記凹部の深さは、前記給電ピンの頭部の高さよりも深く設定されていることを特徴とする請求項7に記載のパッチアンテナ。
【請求項9】
前記凹部内の底面及び側面が前記放射電極によって覆われていることを特徴とする請求項7又は8に記載のパッチアンテナ。
【請求項10】
前記誘電体ブロックは、前記給電ピンの頭部を収容可能な凹部を構成する第1の切り欠き部と、前記凹部内の底面における前記貫通孔の開口部近傍に第2の切り欠き部を有することを特徴とする請求項2に記載のパッチアンテナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−238430(P2006−238430A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16901(P2006−16901)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】