説明

パネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法

【課題】止水性及び耐久性が低下するのを抑制することができるパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法を得る。
【解決手段】シーリング剤塗布工程で、接合部30に湿気硬化型シーリング剤32を塗布する。圧力付与工程で、湿気硬化型シーリング剤32の表面が硬化したときに、パネル水槽10に水を満たす。パネル水槽10に水が満たされると、パネル部材16が外側に向けて変形して接合部30の目地34が開き、この開いた目地34に、内部が硬化していない湿気硬化型シーリング剤32が入り込む。シーリング剤硬化工程で、パネル水槽10に水を満たした状態で、湿気硬化型シーリング剤32を完全硬化させる。開いた目地34に湿気硬化型シーリング剤32が入り込んだ状態で湿気硬化型シーリング剤32を完全硬化させるため、止水性及び耐久性が低下するのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のパネル部材から構成されるパネル水槽の接合部におけるシーリング剤の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の貯水タンク(パネル水槽)の漏水防止方法では、パネル水槽の接合部の目地に湿気硬化型シーリング剤を充填させることで漏水が防止されている。
湿気硬化型シーリング剤は加水分解することなく良好に施工することができ、さらに、硬化時間が短いため施工時間を短縮することができる。このように、湿気硬化型シーリング剤を用いることで、作業環境を改善して施工性を向上させている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−105083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パネル水槽の水を抜いた状態で接合部にシーリング剤を塗布し、シーリング剤が硬化した後に水を張ると、パネル水槽を構成するパネル部材に水圧が付与され、接合部の目地が開き、シーリング剤に引張り方向の応力が付与される場合がある。
【0005】
このようにシーリング剤に引張方向の応力が付与されると、引張応力が付与される部分のシーリング剤が薄くなり止水性及び耐久性が低下してしまうことが考えられる。
本発明は、上記事実を考慮し、止水性及び耐久性が低下するのを抑制することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法は、端部が外側に折り曲げられて合わせ面が形成されたパネル部材の合わせ面を隣接するパネル部材の合わせ面と接合させて形成されるパネル水槽の接合部に、湿気硬化型シーリング剤をパネル水槽の内側から塗布するシーリング剤塗布工程と、前記湿気硬化型シーリング剤の表面が硬化した後に、パネル水槽に水が満たされたときに前記パネル部材に作用する圧力と同等の圧力を前記パネル部材に付与する圧力付与工程と、前記圧力付与工程で前記パネル部材に圧力を付与した状態で、前記湿気硬化型シーリング剤を完全硬化させるシーリング剤硬化工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、シーリング剤塗布工程で、パネル水槽の接合部に湿気硬化型シーリング剤をパネル水槽の内側から塗布する。さらに、圧力付与工程で、湿気硬化型シーリング剤の表面が硬化した後に、パネル水槽に水が満たされたときにパネル部材に作用される圧力と同等の圧力をパネル部材に付与する。そして、シーリング剤硬化工程で、パネル部材に圧力を付与した状態で、湿気硬化型シーリング剤を完全硬化させる。
【0008】
ここで、パネル水槽は複数個のパネル部材の合わせ面を接合することで形成されており、この合わせ面はパネル部材の端部を折り曲げることで形成されている。
そうすると、パネル水槽に水が満たされると、水圧により隣接するパネル部材が変形して接合部の目地が開いてしまう。目地が開くと、接合部に塗布された湿気硬化型シーリング剤に引張応力が付与され、止水性及び耐久性が低下することが考えられる。
【0009】
しかし、前述したように、接合部に塗布した湿気硬化型シーリング剤の表面が硬化した後に、パネル部材に圧力を付与してパネル部材を変形させ目地が開いた状態で湿気硬化型シーリング剤を完全硬化させる。このため、開いた目地にまだ硬化していない湿気硬化型シーリング剤が入り込み、湿気硬化型シーリング剤が目地に入り込んだ状態で湿気硬化型シーリング剤が完全硬化される。
【0010】
このように、開いた目地に湿気硬化型シーリング剤が入り込んだ状態で湿気硬化型シーリング剤を完全硬化させるため、目地が開いたときに湿気硬化型シーリング剤が薄くなるのを防止し、止水性及び耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0011】
本発明の請求項2に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法は、請求項1に記載において、前記圧力付与工程で、前記湿気硬化型シーリング剤の表面が硬化した後に、前記パネル水槽に水を満たして前記パネル部材に圧力を付与することを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、圧力付与工程で、パネル水槽に水を充填してパネル部材に圧力を付与する。
このため、パネル水槽に水が満たされたときにパネル部材に作用する圧力を容易にパネル部材に付与することができ、さらに、水圧により湿気硬化型シーリング剤を目地の奥へ入れ込むことができる。
【0013】
本発明の請求項3に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法は、請求項1又は2に記載において、前記湿気硬化型シーリング剤は、前記接合部の目地に対応する部位が他の部位と比較して厚く塗布されることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、湿気硬化型シーリング剤は、接合部の目地に対応する部位が他の部位と比較して厚く塗布されるようになっている。
このように、接合部の目地に対応する部位を厚くすることで、圧力付与工程において開いた目地に湿気硬化型シーリング剤を充分入れ込むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、止水性及び耐久性が低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法の一例について図1〜図4に従って説明する。
【0017】
(全体構成)
図3、図4に示されるように、パネル水槽10は、屋外に配置されて飲料水等の貯水に用いられるものであって、地面に接地して水槽を支持する台座部12を備えている。
【0018】
さらに、台座部12には、複数個のパネル部材16が組み付けられて形成された側壁14が載置されている。そして、隣接するパネル部材16の接合部30(図1参照)には、湿気硬化型シーリング剤32(図1参照)が塗布され、隣接するパネル部材16の目地34(図1参照)から水が漏れるのを防止している。なお、パネル部材16及び湿気硬化型シーリング剤32については、詳細を後述する。
【0019】
また、側壁14の上部には、側壁14に囲まれた貯水領域を覆うように複数個の平面視矩形状の天井部材18が設けられ、天井部材18には、注入口18Aが形成されている。この注入口18Aからパネル水槽10へ水を注入し、パネル水槽10に水を満たすようになっている。
【0020】
(要部構成)
側壁14を構成するパネル部材16は、板状のガラス繊維入り強化プラスチックを熱プレスで形成したシートモールディングコンパウンド(SMC)製であって、正方形又は長方形とされている。
【0021】
詳細には、図2に示されるように、パネル部材16の端部には、外側(水が溜まる側の反対側)に折り曲げられてパネル部材16の面剛性を確保するフランジ部20が設けられている。
【0022】
フランジ部20には、隣接するパネル部材16のフランジ部20と当接する合わせ面20Aが設けられており、合わせ面20Aには、複数個の円孔20Bがフランジ部20の表裏を貫通するように形成されている。
【0023】
円孔20Bは、略等間隔で形成され、パネル部材16が組み立てられた状態で、隣接するパネル部材16におけるフランジ部20の円孔20Bと重なるようになっている。さらに、円孔20Bに挿通されたボルト22がナット24と螺合して重なりあうフランジ部20を挟持している。
【0024】
さらに、図1(A)に示されるように、一の合わせ面20Aと他の合わせ面20Aの間には、防水用のパッキン部材26が上下に渡って配置されており、ボルト22とフランジ部20の間、及びナット24とフランジ部20の間には、板状のプレート部材28が設けられている。なお、ボルト22は、フランジ部20が座屈しないように、決められた締め付けトルクでナット24へ締め付けられている。
【0025】
(作用・効果)
図4に示されるように、パネル水槽10を組み付ける際は、台座部12の縁部にパネル部材16を立設させ、台座部12とパネル部材16を図示せぬ固定金具で固定して、合わせ目をシーリングする。
【0026】
さらに、台座部12に立設されたパネル部材16を隣接するパネル部材16と接合する。詳細には、図1(A)、図2に示されるように、パネル部材16のフランジ部20に設けられた合わせ面20Aを隣接するパネル部材16の合わせ面20Aとパッキン部材26を挟むように重ね、プレート部材28及びフランジ部20の円孔20Bにボルト22を挿通させる。
【0027】
そして、挿通したボルト22をナット24と螺合させ、所定の締め付けトルクでボルト22を締め込む。これにより、パネル水槽10の側壁14が形成され、貯水領域が完成する。
この状態で、作業者は貯水領域に入り、図1(A)に示されるように、内側(水が溜まる側)から隣接するパネル部材16の接合部30に湿気硬化型シーリング剤32を塗布する。
【0028】
つまり、シーリング剤塗布工程で、作業者は、板状のヘラを使用して接合部30に沿って上から下へ湿気硬化型シーリング剤32を塗布する。ここで、湿気硬化型シーリング剤32は、接合部30の目地34に対応する部位が他の部位と比較して厚く塗布される。
【0029】
次に、圧力付与工程で、シーリング剤塗布工程で塗布した湿気硬化型シーリング剤32の表面が硬化したときに、パネル水槽10に水を満たす。湿気硬化型シーリング剤32の表面は硬化しているため、湿気硬化型シーリング剤32が水に溶け出すことはない。
【0030】
図1(B)で示されるように、パネル水槽10に水が満たされると、パネル水槽10に満たされた水の圧力Pにより、パネル部材16が外側に向けて変形しようとする。パネル部材16が外側に向けて変形すると、接合部30の目地34が開き、この開いた目地34に、まだ内部が硬化していない湿気硬化型シーリング剤32が水圧により入り込む。
【0031】
次に、シーリング剤硬化工程で、パネル水槽10に水を満たした状態(目地34が開いた状態)で、湿気硬化型シーリング剤32を完全硬化させる。
【0032】
このように、開いた目地34に湿気硬化型シーリング剤32が入り込んだ状態で湿気硬化型シーリング剤32を完全硬化させるため、目地が開いたときに湿気硬化型シーリング剤が薄くなるのを防止し、止水性及び耐久性が低下するのを抑制することができる。
【0033】
また、湿気硬化型シーリング剤32において接合部30の目地34に対応する部位を厚くすることで、圧力付与工程において開いた目地34に湿気硬化型シーリング剤32を充分奥まで入れ込むことができる。
【0034】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、圧力付与工程で、パネル水槽10に水を満たしてパネル部材16を変形させたが、特にこれに限定されず、パネル水槽に水が満たされたときにパネル部材に作用する圧力と同等の圧力であればよく、詳細には、パネル部材を変形させて目地を同等に開く圧力であればよい。
【0035】
また、上記実施形態では、パネル水槽10の組み立て時におけるシーリング剤塗布工程、圧力付与工程、シーリング剤硬化工程について説明したが、特に組み立て時に限定されず、目地の補修時等であってもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、シーリング剤塗布工程で湿気硬化型シーリング剤を塗布した後に圧力付与工程で目地を開かせたが、圧力付与工程で水を使用しない場合には、圧力付与工程で目地を開いた状態で、湿気硬化型シーリング剤を塗布してもよい。
【0037】
次に本発明の第2実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法の一例について図5に従って説明する。
なお、第1実施形態と同一部材については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図5(A)に示されるように、第2実施形態では、第1実施形態と違い接合部30に塗布される湿気硬化型シーリング剤50の断面には凸部52が設けられている。
【0039】
詳細には、接合部30の目地34に対応する部位に凸部52が設けられており、図5(B)に示されるように、パネル部材16に圧力が付与され目地34が開いたときに、凸部52が平らになって、湿気硬化型シーリング剤50が目地34の奥まで入り込むようになっている。
【0040】
このように、湿気硬化型シーリング剤50を目地34の奥まで入り込むことで、効果的に止水性及び耐久性が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)(B)本発明の第1実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法を説明するために使用されるパネル水槽の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法を説明するために使用されるパネル部材の斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法を説明するために使用されるパネル水槽の側面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法を説明するために使用されるパネル水槽の側面図である。
【図5】(A)(B)本発明の第1実施形態に係るパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法を説明するために使用されるパネル水槽の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10 パネル水槽
16 パネル部材
20A 合わせ面
30 接合部
32 湿気硬化型シーリング剤
34 目地
50 湿気硬化型シーリング剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部が外側に折り曲げられて合わせ面が形成されたパネル部材の合わせ面を隣接するパネル部材の合わせ面と接合させて形成されるパネル水槽の接合部に、湿気硬化型シーリング剤をパネル水槽の内側から塗布するシーリング剤塗布工程と、
前記湿気硬化型シーリング剤の表面が硬化した後に、パネル水槽に水が満たされたときに前記パネル部材に作用する圧力と同等の圧力を前記パネル部材に付与する圧力付与工程と、
前記圧力付与工程で前記パネル部材に圧力を付与した状態で、前記湿気硬化型シーリング剤を完全硬化させるシーリング剤硬化工程と、
を備えるパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法。
【請求項2】
前記圧力付与工程で、前記湿気硬化型シーリング剤の表面が硬化した後に、前記パネル水槽に水を満たして前記パネル部材に圧力を付与する請求項1に記載のパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法。
【請求項3】
前記湿気硬化型シーリング剤は、前記接合部の目地に対応する部位が他の部位と比較して厚く塗布される請求項1又は2に記載のパネル水槽における接合部のシーリング剤施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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