説明

パラキシレンの製造方法

【課題】本発明は、バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールを原料として、化石資源の枯渇や温室効果ガスである二酸化炭素の増加を抑制でき、従来の化石資源由来の原料に替わる樹脂原料として使え得るバイオマス由来のパラキシレンを提供することである。
【解決手段】modern reference standardに対する14Cの濃度が50.0pMc以上であるパラキシレンの製造方法であって、バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールをゼオライトに接触させることを特徴とするパラキシレンの製造方法により、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14Cの濃度比がmodern reference standardに対して50.0pMC(percent Modern Carbon)以上であることを特徴とするバイオマス資源から作られた脂肪族アルコールを原料とするパラキシレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラキシレンは、そのほとんどが石油、天然ガス及び石炭などの化石資源を原料として製造されている。近年、化石資源の枯渇懸念といった資源問題や二酸化炭素濃度の増加による地球温暖化への懸念から、化学原料をバイオマス資源から変換する方法に対して注目が集まっている。化石資源を原料とせず、バイオマス資源を原料とした化学物質としては、トウモロコシ、サトウキビやサツマイモなどから得られる澱粉や糖分を微生物で発酵させて得られたバイオエタノールなどが知られている。パラキシレンを製造する方法としてはエタノールをゼオライトで処理することによりパラキシレンが得られることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、パラキシレンを合成するバイオマス原料としては上記のようにエタノールがほとんどであり、その他バイオマス資源から作られた化学物質を原料とする例は知られていない。またバイオマスを原料としてエタノールを製造するにはトウモロコシ等の農作物を原料とする方法が一般的であり、大量に製造する上では農地が広大に必要である点が問題となっている。このためエタノールだけでなく、バイオマス資源から作られた様々な化学物質を原料としたパラキシレンの製造方法の探索が課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Molecular Catalysis 62巻3号289ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールを原料として、化石資源の枯渇や温室効果ガスである二酸化炭素の増加を抑制でき、従来の化石資源由来の原料に替わる樹脂原料として使え得るバイオマス由来のパラキシレンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記従来技術に鑑み、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、modern reference standardに対する14Cの濃度が50.0pMc以上であるパラキシレンの製造方法であって、バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールをゼオライトに接触させることを特徴とするパラキシレンの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、化石資源の枯渇問題や地球温暖化問題等の解決に貢献し、かつ実用的な物性を有する樹脂原料であるパラキシレンを提供することが出来、その工業的な意義は大きい。パラキシレンを化石資源から製造する場合、パラキシレン1トンあたり、原料として44,725MJの熱量分の化石資源が必要であるが、パラキシレンをバイオマス資源から製造する場合は原料として化石資源を用いる必要がない。さらに、バイオマス由来のパラキシレンはカーボンニュートラルであるため、化石資源由来のパラキシレンと比較して、焼却処理した際にはパラキシレン1トンあたり、3.32トンの二酸化炭素を削減することが出来ることになる。また、このバイオマス由来のパラキシレンを原料としてテレフタル酸あるいはテレフタル酸ジメチルへと酸化し、次いでエチレングリコールと重合することによりポリエチレンテレフタレート(以降、PETと略す事がある)を合成した場合、PET中のパラキシレン由来の炭素重量分(約70重量%)の化石資源使用量や二酸化炭素を削減できることになる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、バイオマス資源とは植物の光合成作用により太陽エネルギーを使い、水と二酸化炭素から生成される再生可能な生物由来のカーボンニュートラルな有機性資源を指し、具体的には澱粉やセルロースなどの形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体や、植物体や動物体を加工してできる製品等が含まれ、そして化石資源を除く資源である。バイオマス資源はその発生形態から廃棄物系、未利用系、資源作物系の3種に分類される。バイオマス資源は具体的には、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、木材、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、おから、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油、ヒマシ油など)、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、キャッサバ、サゴヤシなど)、バガス、そば、大豆、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油など)、パルプ黒液、生ごみ、植物油カス、水産物残渣、家畜排泄物、食品廃棄物、排水汚泥などが挙げられる。これらのバイオマス資源は、一般に、窒素元素やNa、K、Mg、Ca等の多くのアルカリ金属、アルカリ土類金属を含有する。
【0009】
そしてこれらのバイオマス資源は、特に限定はされないが、例えば酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導される。その工程には、例えば、通常、特に限定はされないが、バイオマス資源をチップ化する、削る、擦り潰す等の前処理による微細化工程が含まれる。必要に応じて、更にグラインダーやミルで粉砕工程が含まれる。こうして微細化されたバイオマス資源は、更に前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導されるが、その具体的な方法としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸等の強酸で酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、超臨界流体処理、酸化剤処理等の化学的方法や、微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的方法、微生物や酵素処理による加水分解等生物学的処理が挙げられる。
【0010】
ここで、本発明におけるバイオマス由来成分の含有割合を特定するにあたって、放射性炭素14Cの測定を行うことの意味について、以下に説明する。14Cの濃度測定は、タンデム加速器と質量分析計を組合せた加速器質量分析法(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)によって、分析する試料に含まれる炭素の同位体(具体的には12C、13C、14Cが挙げられる。)を加速器により原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体の原子一つ一つの存在量を計測する方法である。
【0011】
炭素原子1モル(6.02×1023個)中には、通常の炭素原子の約一兆分の一である約6.02×1011個の14Cが存在する。14Cは放射性同位体と呼ばれ、その半減期は5730年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。従って大気中の二酸化炭素等が植物等に取り込まれて固定化された後、22.6万年以上が経過したと考えられる石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては、固定化当初はこれらの中にも含まれていた14C元素は全てが崩壊しており、21世紀である現在は全く含まれていない。故にこれらの化石燃料を原料として生産された化学物質にも14C元素は全く含まれていない。一方、14Cは宇宙線が大気中で原子核反応を行い、絶え間なく生成され、放射壊変による減少とがバランスし、地球の大気環境中では、14Cの量は一定量となっている。
【0012】
一方、大気中の二酸化炭素が植物やそれを食する動物などに取り込まれて固定化された場合には、その取り込まれた状態では、14Cは新たに補充されることなく、14Cの半減期に従って、時間の経過とともに14C濃度は一定の割合で低下する。このため、得られたパラキシレン中の14C濃度を分析することにより、化石資源を原料としたものか、或いはバイオマス資源を原料にしたパラキシレンか簡易に判別することが可能となる。またこの14C濃度は1950年時点の自然界における循環炭素中の14C濃度をmodern standard referenceとし、この14C濃度を100%とする基準を用いる事が通常行われる。現在のこのようにして測定される14C濃度は約110pMC(percent Modern Carbon)前後の値であり、仮に試料として用いられている物質が100%天然系(生物系)由来の物質で製造されたものであれば、110pMC程度の値を示すことが知られている。一方石油系(化石系)由来の物質を用いてこの14C濃度を測定した場合、ほぼ0pMCを示す。これらの値を利用して天然由来系−化石由来系の混合比を算出する事が出来る様になる。更にこの14C濃度の基準となるmodern standard referenceとしてはNIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)が発行した蓚酸標準体を用いる事が好ましく採用する事が出来る。この蓚酸中の炭素の比放射能(炭素1g当たりの14Cの放射能強度)を炭素同位体毎に分別し、13Cについて一定値に補正して、西暦1950年から測定日までの減衰補正を施した値を標準の14C濃度濃度の値として用いている。本発明のパラキシレンにおいては、この14C濃度比率が50.0pMC以上であることが必要である。好ましくは52.0pMC以上である。
【0013】
パラキシレン中の14C濃度の分析方法は、まずパラキシレンの前処理が必要となる。具体的にはパラキシレンに含まれる炭素を酸化処理し、すべて二酸化炭素へと変換する。更に、得られた二酸化炭素を水や窒素と分離し、二酸化炭素を還元処理し、固形炭素であるグラファイトへと変換する。この得られたグラファイトにCsなどの陽イオンを照射して炭素の負イオンを生成させ、タンデム加速器を用いて炭素イオンを加速し、負イオンから陽イオンへ荷電変換させ、質量分析電磁石により123+133+143+の進行する軌道を分離し、143+は静電分析器により測定を行う。同位体原子ひとつひとつを測定する事ができるので、従来の1/1000以下の少量の試料量で高精度の測定をすることができるのが特徴である。
【0014】
本発明の製造方法の実施において、パラキシレンの原料となるバイオマス資源から作られた脂肪族アルコールとしては、具体的にはメタノールやエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(テトラメチレングリコール)、グリセロール、ジグリセロール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、などのアルコール類、リナロールなどのテルペン系化合物などが挙げられる。好ましくはエタノール以外の脂肪族アルコールであり、特に好ましくはメタノール、プロパノールまたはブタノールである。
【0015】
原料であるバイオマス資源から作成された脂肪族アルコールから、パラキシレンを製造する方法として、バイオマス資源から作成された脂肪族アルコールをゼオライトと接触させてパラキシレンを製造する。用いられるゼオライトとしては特に指定はなく、例えばZSM5型、モルデナイト型、フォージャサイト型などが上げられ、特に好ましくはZSM5型の中のH−ZSM5型である。ゼオライトの細孔径を調整するために白金、亜鉛といった単体金属をゼオライト内に担持させることも生成するパラキシレンの量を上げるために有効である。使用するゼオライトの量としては原料の脂肪族アルコール10重量部に対し1重量部以上である。より好ましくは脂肪族アルコール10重量部に対し2重量部以上6重量部以下である。使用するゼオライト量が1重量部未満であると生成するパラキシレンの量が少なくなるため好ましくない。10重量部を超えると副反応が起こりやすく、キシレンの収率が低下する。ゼオライトと脂肪族アルコールが接触するときの圧力は加圧、常圧何れでもよいが、ゼオライトと脂肪族アルコールを接触させる際の反応温度は300℃以上500℃以下である。好ましくは350〜450℃である。反応温度が300℃以上でないと生成するパラキシレンの量が少なくなる。一方で反応温度が500℃を超えるとなると熱エネルギーを多量に使用するため非効率である。また副反応が起こりやすくなり、キシレンの収率が低下する。
【0016】
また、上記に記載のH−ZSM5型ゼオライトとは、対カチオンをナトリウムイオンから水素イオンにイオン交換したZSM5型ゼオライトのことをいう。水素イオンへの置換率は何れであってもよいが、好ましくは10%以上、より好ましくは40%以上がよい。ゼオライトの性質はその細孔構造に依存しており、細孔構造によって分類できる。国際ゼオライト学会のゼオライト構造の分類によると、例えばY型ゼオライトは構造コードがFAUであり、酸素12員環の大細孔を有するホージャサイト型ゼオライトと同一構造を有する合成ゼオライトである。一方、本発明で使用するZSM5型ゼオライトは構造コードがMFIであり、酸素10環構造の中細孔を有するミューテアナイト型ゼオライトと同一の構造を有する合成ゼオライトである。このようなゼオライトの細孔構造は粉末X線構造解析によって確認できることが知られている。本発明では、ホージャサイト型ゼオライトやモルデナイト型ゼオライトより細孔径の小さいH−ZSM5型ゼオライトを固体酸触媒として使用することにより、ゼオライトの触媒活性点への有機物の付着を減らし、反応初期の高い触媒活性を長期間維持させている。本発明で使用するH−ZSM5型ゼオライトに含まれるSiとAlのモル比はいずれであってもよいが、Alの比率が高いほど、酸強度が高くなるため好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。なお実施例及び比較例において「部」と称しているものは重量部を表す。また化石資源から製造したパラキシレンとは、通常工業的に製造されている石油、天然ガス又は石炭などの化石資源を原料として製造されたパラキシレンを指す。
【0018】
生成物の分析は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析装置で行った。14C濃度比較(pMC:percent Modern Carbon)は、1950年時点の循環炭素中の14Cを基準(100%)として、上記の加速器質量分析法(AMS)による測定で行った。
【0019】
[実施例1]
稲わらや木材を原料として作ったバイオマス由来のメタノール300重量部を窒素ガスとともに温度400℃、常圧の反応装置に充填された150重量部の0.1wt%白金担持H−ZSM5型ゼオライトに流通させた。その結果、58重量部のパラキシレンを含む液体混合物を得た。得られた混合物を精製することにより、パラキシレンを単離し、グラファイトに変換し加速器質量分析法により分析を行ったところ、14C濃度は106.9pMCであった。またその14C濃度比はmodern reference standardに対するものであり、そのmodern reference standardは米国国立標準・技術研究所が発行した蓚酸を用いた。
【0020】
[実施例2]
実施例1において、サトウキビを原料として作ったバイオマス由来のブタノール300重量部を窒素ガスとともに温度400℃、常圧の反応装置に充填された130重量部の0.1wt%白金担持H−ZSM5型ゼオライトに流通させた。その結果、41重量部のパラキシレンを含む液体混合物を得た。得られた混合物を精製することにより、パラキシレンを単離し、グラファイトに変換し加速器質量分析法により分析を行ったところ、14C濃度は106.9pMCであった。またその14C濃度比はmodern reference standardに対するものであり、そのmodern reference standardは米国国立標準・技術研究所が発行した蓚酸を用いた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によりバイオマス資源から作られた脂肪族アルコールを原料として得られるパラキシレンを従来の化石資源由来のパラキシレンに替えて用いることで、化石資源の枯渇や温室効果ガスである二酸化炭素の増加を抑制でき、その工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
modern reference standardに対する14Cの濃度が50.0pMc以上であるパラキシレンの製造方法であって、バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールをゼオライトに接触させることを特徴とするパラキシレンの製造方法。
【請求項2】
バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールが、エタノール以外の脂肪族アルコールであることを特徴とする請求項1記載のパラキシレンの製造方法。
【請求項3】
バイオマス資源から作られた脂肪族アルコールが、メタノール、プロパノールまたはブタノールであることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項記載のパラキシレンの製造方法。
【請求項4】
脂肪族アルコール10重量部に対し、1重量部以上のゼオライトに接触させることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のパラキシレンの製造方法。
【請求項5】
脂肪族アルコールをゼオライトに接触させるときの温度が300℃以上500℃未満であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のパラキシレンの製造方法。

【公開番号】特開2011−162451(P2011−162451A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24316(P2010−24316)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】