説明

パラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカおよびそれを用いたパラジウムイオンコレクターおよびパラジウム回収方法

【課題】パラジウム(Pd)を効率よく安価に取り出すPdイオンコレクターを提供する。
【解決手段】有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカ(HOMS)に、目標金属であるPdを選択的に吸着するDDHMP等のPdイオン吸着性化合物を担持させる。Pdイオン吸着性化合物を担持したHOMSを目標金属であるPdが溶解された溶液と接触させ、目標金属であるPdイオンを選択的にHOMSに担持されたPdイオン吸着性化合物に吸着させる。目標金属であるPdイオンを吸着したPdイオン吸着性化合物を担持したHOMSを化学的処理し、目標金属であるPdイオンをHOMSに担持されたPdイオン吸着性化合物から遊離させ、目標金属であるPdを回収する。Pdイオンが遊離されたPdイオン吸着性化合物を担持したHOMSは、再使用できる。このPdイオン吸着性化合物を担持したHOMSはPdコレクター・濃度検出センサーとしても使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標金属としてパラジウムイオンを選択的に吸着可能なパラジウムイオン吸着性化合物を担持した規則的な配列を持って多孔質化されているメソポーラスシリカに関するものであり、メソポーラスシリカに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物を用いて、パラジウムイオンを含む金属溶解溶液に含まれるパラジウムイオンを効率的かつ選択的に回収する方法に関する。さらに、メソポーラスシリカに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物を用いた金属溶解溶液に含まれるパラジウムイオンコレクターおよびパラジウムイオン濃度を検出するコレクターおよびセンサーに関する。
【0002】
パラジウムは工業的には自動車の排気ガス浄化用の触媒やエチレンからのアセトアルデヒドの合成(ワッカー酸化)に用いる触媒など、様々な反応の触媒として使われている。有機合成分野においては接触還元の触媒として、活性炭に担持させたものが常用される。またホスフィン錯体は、クロスカップリング反応やヘック反応など炭素−炭素結合生成反応の触媒として重要である。また、自らの体積の900倍以上の水素(H2)を吸収するため水素吸蔵合金として利用される。また、歯科治療に使われる合金としての利用が挙げられる。
いわゆる銀歯は金銀パラジウム合金で、20%以上のパラジウムを含有する。さらに、貴金属として装飾品にも利用され、ホワイトゴールドの脱色用割り金として利用される。近年、高騰してしまったプラチナ、アレルギーを起こす可能性のあるホワイトゴールドに替わって、パラジウムをメインに使用したジュエリーが出始めている。このようにパラジウムは多くの有用な分野で必要とされる金属であり、その需要は年々増大傾向にある。
【0003】
重金属イオンが人間の健康や環境に有害な影響を与えることは周知であり、環境科学および環境技術においてこれらの微量な有毒検体を完全に改善し純化するプロセスを作ることは特に重要である。それゆえ環境を浄化し重金属イオンを回収する高性能の吸着剤を作製することが注目を浴びている。(非特許文献1、2)様々な環境におけるたいていの有害物質は、普通に使用される大抵の処理方法の検出限界よりはるかに低い濃度で存在する。(非特許文献3)そこで、近年、精度が良く迅速な検出法および有害物質の選択性良好な測定方法として、光化学センサー材料や光学的化学プローブ材料を発展させようとする世界的な要求が強まっている。(非特許文献4)
【0004】
金属の回収に興味がある産業部門と連携することで、選択的分離および回収に関して効率の良い方法を発展させることは研究者にとり非常に興味がある。特に使用済みの触媒としての貴金属である金、白金やパラジウム(Pd)を分離して回収することは、産業上も環境上も非常に重要である。特にパラジウムについては、装飾材料、歯科材料、触媒、電子材料のような広範囲な応用や技術産業を有し、2007年において需要が大きく伸びている。その一方、パラジウムは希少金属であり、天然資源には限りがある。(非特許文献5)
【0005】
貴金属触媒技術は種々の産業に渡って広範囲の生成物を産みだすために広く使われている。医療化学分野において、パラジウム{Pd(II)}はおそらく最も広く使用される貴金属であり、鈴木カップリングやブッフバルト・ハートウィッグ・アミノ化のような反応に使われる。これらの反応は新しい医薬品原料(API)の合成にとってキー変換技術である。(非特許文献6)これらの反応は、かつては多段階合成を通してのみ達成できる錯体分子に対して、容易で高い収率を得られる手段を提供する。この貴金属触媒化学の欠点は、高価でありかつ有害な金属残留物が所望の生成物を経由して必ず存在するということである。医薬品の中間体および生成物から貴金属を除去する方法について幾つかの文献が出ている。(非特許文献7)これらの方法は蒸留、抽出、吸着、および結晶化による技術を含んでいる。
【0006】
貴金属パラジウム{Pd(II)}を安定して供給し、その浪費を最小化するために、パラジウム{Pd(II)}の有効な抽出技術を発展させ、パラジウム{Pd(II)}を抽出するために最も効率的で最良な方法を見つける必要がある。(非特許文献8)一方で汚染物質を検出するために使われる多くの技術も存在する。アニオン交換体を持つ溶媒抽出法は選択性が良く、大規模化することが容易であるが、この溶媒抽出法は、大量の有機溶媒を使用するので、環境や人体に悪影響を与える。(非特許文献9、10)また、抽出剤のマイクロカプセル化が調査され(非特許文献11)、清山によってトリ-n-オクチルアミン(tri-n-octylamine)を含むジビニルベンゼン(divinylbenzene)のマイクロカプセルがパラジウム{Pd(II)}を抽出するための抽出剤として使われた。(非特許文献12)
【0007】
ミセル増強型限外ろ過法は水溶液からのパラジウム(Pd)の除去として使われている。(非特許文献13)官能化材料は生成物の残留金属を除去し、廃液流から触媒残留物を補足する魅力的なオプションである。この重要な利点の一つは、官能化は残留金属に対して非常に高い親和性を持つように設計できることである。これらの基すなわちリガンド(配位子)は貴金属触媒やその残留物質に強く結合することができる。多座硫黄ベースシリカ補足剤をパラジウム{Pd(II)}の除去剤として使い、パラジウム{Pd(II)}は5ppm未満の許容可能な規制レベル以下までうまく迅速に除去された。(非特許文献14)殆どの貴金属は普通に使われる大抵の処理方法の抽出限界よりはるかに低い濃度で存在するので、パラジウム{Pd(II)}等の貴金属を精度良く選択性良好で迅速に抽出する材料を発見していくことが世界的に要求されている。さらに、微量のパラジウム{Pd(II)}イオンの測定および抽出に関して、迅速で、費用効率が高く、使いやすく、信頼性のある技術が求められている。
【0008】
一方、メソポーラスシリカを用いた金属イオン検出方法は種々研究されている。たとえば、特許文献1および2においては、メソポーラスシリカにアミノポルフィリン、ジチゾン、ポルフィリンスルホン等の色素分子を保持して複合センサーを作り、Cdイオン、水銀イオン、Crイオンなどを色素分子に吸着させて、そのスペクトル変化を利用してイオン濃度を検出することが記載されている。しかしながら、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させた金属、特にパラジウム{Pd(II)}の回収について簡便で迅速で精度の良い方法の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−327886
【特許文献2】特開2007−327887
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】L. Mercier, T.J. Pinnavaia, Adv. Mater. 1997, 9, 500.
【非特許文献2】X. Feng, G. E.Fryxell, L.Q. Wang, A. Y. Kim, J. Liu, K. M. Kemner, Science 1997, 276, 92.
【非特許文献3】a) L. Mercier,T. J. Pinnavaia, Adv. Mater. 1997, 9, 500. b) X. Feng, G. E. Fryxell, L.Q.Wang, A. Y. Kim, J. Liu, K. M. Kemner, Science 1997, 276, 92.
【非特許文献4】a)M. Boiocchi,M.Bonizzoni, L. Fabbrizzi,G. Piovani,A.A. Taglietti, Angew. Chem. Int. Ed. 2004,43, 3847. b) B. Lei, B. Li, H. Zhang, S. Lu, Z. Zheng,W. Li, Y.Wang, Adv.Funct. Mater. 2006, 16, 1883.
【非特許文献5】a) P. Young,N.A. Rowson, J.P.G. Farr, I.R. Harris, L.E. Macaskie. Environ. Technol. 24(2003) 289−297. (b) A. Cieszynska,M.Wisniewski. Separation and Purification Technology 73 (2010) 202−207
【非特許文献6】Carey, J. S.;Laffan, D.; Thomson, C.; Williams, M. T. Org. Biomol. Chem. 2006, 4, 2337.
【非特許文献7】a) Garrett, C.E.; Prasad, K. Ad . Synth. Catal. 2004, 346, 889 (b) (c) Bien, J. T.; Lane, G.C.; Oberholzer, M. R. Top. Organomet. Chem. 2004, 6, 263.
【非特許文献8】A. Cieszynska,M.Wisniewski. Separation and Purification Technology 73 (2010) 202−207.
【非特許文献9】a) J.Ortiz-Palacios, J. Cardoso, O. Manero, J. Appl. Polym. Sci. 107 (2008) 2203.(b) D. Jermakowicz-Bartkowiak, B.N. Kolarz. Reactive & Functional Polymers71 (2011) 95−103.
【非特許文献10】a) A.W.Trochimczuk, N. Kabay, M. Arda, M. Streat, React. Funct. Polym. 59 (2004) 1−7.(b) N. Kabay, O. Solak, M. Arda, U. Topal, M. Yuksel, A. Trochimczuk, M.Streat, React. Funct. Polym. 64 (2005) 75−82.
【非特許文献11】a)E. Kamio, M.Matsumoto, K. Kondo, J. Chem. Eng. Jpn. 35 (2002) 178−185. (b H. Yoshizawa, Y. Uemura, K. Izichi,T. Ohtake, Y. Kawano, Y. Hatate, Solv. Extr. Res. Dev. Jpn. 2 (2005) 185−195. (c) H. Yoshizawa, K. Fujikubo, Y.Uemura, Y. Kawano, K. Kondo, Y. Hatate, J. Chem. Eng. Jpn. 28 (1995) 78−84.
【非特許文献12】S. Kiyoyama, S.Yonemura, M. Yoshida, K. Shiomori, H. Yoshizawa, Y. Kawano, Y. Hatate. React.Funct. Polym. 67 (2007) 522−528.
【非特許文献13】L. Ghezzi, B.H.Robinson, F. Secco, M.R. Tine, M. Venturini. Colloids and Surfaces A:Physicochem. Eng.Aspects 329 (2008) 12−17.
【非特許文献14】N. Galaffu,S.P. Man, R.D. Wilkes, J.R.H. Wilson. Organic Process Research &Development 11(2007)406−413.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記説明した様にパラジウムは有用な金属として使用されているが、希少金属であり資源が偏在しているため、都市鉱山等からの回収やリサイクルが必要である。従って微量でも生活用水や廃水等の溶液にどの程度の濃度のパラジウムが含まれているのか知る必要がある。しかし、ppb〜ppmオーダーの微量なパラジウム濃度を迅速に正確に測定するパラジウムコレクターまたは濃度検出センサーは少なく、あっても繰り返し使用することができないという問題がある。またパラジウムを選択的に収集し検出するコレクターまたはセンサーは殆どないため、複数の金属イオンが含まれる溶液ではパラジウム以外の金属に影響されて精度良くパラジウム濃度を測定することができない。さらに、微量でもアレルギー性があるため、生活用水や廃水等の溶液に微量なパラジウムが存在した場合にそのパラジウムを除去することが必要であるが、ppbオーダーレベルまでパラジウムを除去する方法は少ない。また、回収剤でパラジウムを除去した後、そのパラジウムを分離する手段が困難なため、回収したパラジウムを有効に活用することが難しいという問題がある。生活用水や廃水等の溶液のパラジウムを回収しリサイクルするためのコストが高いという問題もある。環境中のパラジウム濃度検出や環境からのパラジウム除去、さらに有用なパラジウムを回収しリサイクルする方法等に関して、簡単でコストが低く選択性良く、かつ精度良好で高速に行なうことができる方法が世界的に要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、高度に秩序化した構造を有するメソポーラスシリカにパラジウムイオンを選択的に吸着することができる化合物(以下、パラジウムイオン吸着性化合物という)を担持させて、担持されたパラジウムイオン吸着性化合物にパラジウムイオンを吸着させ、この吸着されたパラジウムを回収する効率的な方法およびそれに使用されるパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを提供する。さらに、このパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いてパラジウムイオン濃度検出を精度良くしかもppb〜ppmオーダーの微量な測定が可能なパラジウムイオンコレクターおよびセンサーを提供する。
【0013】
シリカ源と界面活性剤を混合した後、酸性水溶液を添加して、これを焼成すると、メソポーラスシリカ(HOM)が生成される。このメソポーラスシリカにパラジウムイオン吸着性化合物(パラジウムイオンはまだ吸着されていない)を担持する。パラジウムイオン吸着性化合物は、パラジウム{Pd(II)}イオンを選択的に吸着することができる化合物である。たとえば、キレート化合物のような金属錯体である。(特定の金属を選択的に吸着しやすい化合物を本出願では金属吸着性化合物と呼ぶ。ここで、金属吸着性化合物が選択的に吸着可能な特定金属を回収するという意味で、この特定金属を目標金属と称する。本発明においては、目標金属はパラジウムである。)パラジウム{Pd(II)}イオンを選択的にかつ優先的に吸着するキレート錯体として、N,N’-ジサリチリデン-4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン{(N,N’-4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)}(略称DDHMP}が挙げられる。このDDHMPをメソポーラスシリカに担持する。(DDHMPを担持したメソポーラスシリカをHOM−DDHMPと称する。)
【0014】
パラジウムを含む種々の金属が溶解された金属溶解溶液に前記パラジウムイオン吸着性化合物を担持(または修飾)したメソポーラスシリカを接触させ、メソポーラスシリカに担持したパラジウムイオン吸着性化合物に目標金属であるパラジウムを吸着させる。このとき、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等の環境要因を調節すれば、効率的に目標金属を吸着させることができる。(たとえば、都市鉱山等を王水等の酸性溶液に溶かして固形物を除去した溶液は、目標金属であるパラジウムを含む種々の金属が溶解された金属溶解溶液となる。)たとえば、前述のHOM−DDHMPの場合は、pH値を2〜5、好適には3〜4に調整したパラジウムを含む金属溶解溶液に接触させることにより、HOM−DDHMPは目標金属であるパラジウムを優先的にかつ選択的にかつ迅速に吸着する。(パラジウムを吸着したHOM−DDHMPをHOM−DDHMP−Pdと称する。)
【0015】
次に、パラジウムイオンが吸着されたパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカをパラジウムイオンが遊離可能な溶液(パラジウムイオン遊離溶液)に接触させて、吸着されたパラジウムイオンをパラジウムイオン遊離溶液に溶解させる。この溶液をろ過して固形物と液体に分離する。分離された液体はパラジウムイオンだけを溶解しているので、目標金属であるパラジウムの回収が可能となる。溶液の濃度、pH、反応温度等をコントロールすることで、パラジウムの回収効率を上げることができる。また、分離された固形物は、パラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカであり、メソポーラスシリカに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物はパラジウムを吸着していない。すなわち、固形物はパラジウムイオン吸着性化合物(パラジウムイオンを吸着していない)を担持したメソポーラスシリカに戻る。しかも本体(パラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)は変化していないので、再度目標金属であるパラジウムイオン吸着材として利用できる。たとえば、前述のHOM−DDHMP−Pdの場合には、たとえば薄いHCl溶液に浸漬することにより吸着されたPdを遊離することができる。パラジウムを分離されたHOM−DDHMPは再びパラジウムイオン吸着材として利用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明において、パラジウムイオン吸着性化合物が広い表面積や高秩序化した構造を持つメソポーラスシリカの表面およびポア(細孔)内壁に担持(修飾)されているので、パラジウムイオン吸着性化合物の反応基にパラジウムイオンが容易にしかも速く吸着する。従って、吸着の応答速度が速いだけでなく、メソポーラスシリカに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物へのパラジウムイオン吸着効率が、単独のパラジウムイオン吸着性化合物へのパラジウムイオン吸着効率よりも非常に大きくなるとともに、パラジウムイオン吸着量も多くなる。また、パラジウムイオン吸着性化合物に吸着されたパラジウムイオンも整然と配列し密に吸着されているので、吸着したパラジウムイオンを容易に速く遊離することができる。従ってパラジウムイオンの遊離効率も非常に大きい。また、パラジウムイオン吸着性化合物はパラジウムイオン溶解溶液のpH値等を調整することによりパラジウムイオンを選択的に多量に吸着することができる。従って、パラジウムだけを効率良く回収できる。またppb〜ppmオーダーの微量なパラジウムイオンも吸着除去することができるので、生活用水や廃水等の溶液や都市鉱山等の金属溶解液に含まれるパラジウムイオンの濃度を極めて微量なレベルまで低減できる。
【0017】
さらに、パラジウムイオン吸着性化合物を担持しているメソポーラスシリカはその骨格が強固であり、パラジウムイオン吸着性化合物の担持やパラジウムイオンの吸着によってもメソポーラスシリカの骨格には変化が殆どない。吸着したパラジウムイオンもほぼ完全に遊離できるので、もとの状態(パラジウムイオンを吸着していないパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)に戻るので、パラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを繰り返し使用することができる。
【0018】
従って、トータル(全体)のパラジウムの回収費用を小さくすることができる。また、本発明のパラジウムイオンが吸着されたパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、比色法または紫外可視分光法(UV−VIS−NIR spectroscopy)を用いてppb〜ppmオーダーの非常に低濃度のパラジウムイオン濃度も検出することができるので、パラジウムイオンコレクターおよび濃度センサーとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明のパラジウム回収システムを示す図である。
【図2】図2は、HOM5の生成方法を示す図である。
【図3】図3は、レセプターDDHMPを生成する化学反応式を示す図である。
【図4】図4は、HOM−DDHMPコレクターの作製方法を示す図である。
【図5】図5は、HOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトル信号強度と溶液のpH値との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、Pd(II)の除去剤としてHOM5に担持したDDHMPプローブ(HOM5−DDHMP)を用いた場合のパラジウム{Pd(II)}抽出方法の手順を示す図である。
【図7】図7は、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度をパラメータとしたHOM5−DDHMP−Pd(II)の室温における紫外線可視分光スペクトルを示す図である。
【図8】図8は、pH=3.5の溶液中のパラジウム{Pd(II)}イオン濃度とHOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトルの吸光度(λ=290nm)との関係を示す図である。
【図9】図9は、パラジウム{Pd(II)}イオンを含む種々の金属イオンをそれぞれ個別に含む溶液にHOM5−DDHMPを浸漬した後に得られた固形物のUV-VIS-NIR分析データおよび色調データを示す図である。
【図10】図10は、パラジウム{Pd(II)}イオン、種々のアニオンまたは界面活性剤を含む溶液にHOM5−DDHMPを浸漬した後に得られた固形物のUV-VIS-NIR分析データおよび色調データを示す図である。
【図11】図11は、77KにおけるHOM5メソポーラスシリカ、DDHMPを担持したHOM5−DDHMPおよびパラジウム{Pd(II)}を吸着したHOM5−DDHMP−Pd(II)のN2吸着/脱着等温線である。
【図12】図12は、図11に示したN2吸着/脱着等温線から得られたHOM5メソポーラスシリカ、DDHMPを担持したHOM5−DDHMPおよびパラジウム{Pd(II)}を吸着したHOM5−DDHMP−Pd(II)の種々の特性を示す表である。
【図13】図13は、立方晶HOM5メソポーラスシリカ、HOM5−DDHMPおよびHOM5−DDHMP−Pd(II)のX線小角散乱(SAXS)の一次元プロファイルを示す図である。
【図14】図14は、[311]方向および [111]方向に記録された均一な形状の立方晶Ia3d構造のHOM5モノリスの透過電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図15】図15は、パラジウム{Pd(II)}イオン吸着性化合物HOM5−DDHMPを用いて、都市鉱山から金属を回収するリサイクルシステムを示す図である。
【図16】図16は、HOM5−DDHMPコレクターを浸漬する前の水溶液における種々の金属イオン濃度を示す表である。
【図17】図17は、HOM5−DDHMPコレクターを浸漬した後のろ過液における種々の金属イオン濃度を示す表である。
【図18】図18は、種々の金属イオンを含む場合におけるろ過後の固形物の色調を示す図である。
【図19】図19は、ろ過液のICP−OES分析から得られた各種金属イオン濃度を示す図である。
【図20】図20は、本発明のHOM5−DDHMPコレクターを用いたパラジウム{Pd(II)}の回収サイクルを示す図である。
【図21】図21は、実施例から得られた本発明のHOM5−DDHMPコレクターの適用範囲を示した表である。
【図22】図22は、本発明のDDHMPを担持したメソポーラスシリカを用いたパラジウムの回収システムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有する種々のキレート等を用いたパラジウムイオン検出技術およびパラジウム回収技術を提供するものである。この技術の特徴は異種原子から構成されるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、活性金属および貴金属を含む廃棄物からパラジウムを抽出する方法として非常に優れている。
【0021】
メソポーラスシリカのナノレベルで配列した内表面は、pHなどの環境条件を制御して固着・解離状態を可変することによってパラジウムイオンコレクターおよびセンサーを作る。隣接原子と電子軌道構造の異なる表面原子とキレートとの結合によって、パラジウムイオンを確実に吸着できる。さらに、メゾポーラス材の内壁表面のナノレベルの高秩序化配列は電荷移動を増大させるので、ppbレベルの非常に微量のパラジウム吸着でも肉眼で観察可能な光学的変化が起こる。
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のパラジウム回収システムを示す図である。まず、第1段階で高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ(HOMS):High Ordered Mesoporous Silica、尚通常、HOMと言った場合、シリカ(Silica)は含まないが、本明細書等においてはHOMと記載した場合も、特に明記しない限りシリカ(Silica)も含むものとする。)を合成する。ここで、メソポーラスシリカとは、多孔質シリカの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2nmから50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスシリカもメソポーラスシリカと呼ぶ。
【0023】
本発明に用いられるHOMの形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系メソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造を言う。これらの構造が広範囲に存在すると、パラジウムイオン吸着性化合物を大量に担持することができ、全体のパラジウムイオン吸着量を大きくすることができる。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、通常450m2/g以上であり、好適には500m2/g以上である。
【0024】
HOMシリカは種々の方法により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋な高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ)が得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、さらに、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMシリカを得る方法が利用される。
【0025】
有機シリコン化合物として、たとえば、テトラメチルオルトケイ酸{C4H12O4Si、TMOS(テトラメトキシシラン)とも言う}やテトラエチルオルトケイ酸{C8H20O4Si、TEOS(テトラエトキシシラン)とも言う}などのシリコンアルコキシドを用いる。(生成物から加熱や真空引き等でエタノールよりメタノールを除去する方が容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。)尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi2O5・3H2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na2Si2O5)、マカタイト(NaHSi4O9・5H2O)、アイラアイト(NaHSi8O17・XH2O)、マガディアイト(Na2HSi14O29・XH2O)、ケニヤアイト(Na2HSi20O41・XH2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。
【0027】
鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0028】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。たとえば、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56:C16H33(OCH2CH2)10OH、C16EO10)、トリブロック共重合体界面活性剤(たとえば、pluronic(登録商標)P123:EO20PO70EO20、Pluronic(登録商標)F108:EO141PO44O141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3nが得られ、P123:TMOS=0.7〜0.8の重量比の混合により、立方晶構造Ia3dが得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3mケージ状シリカ構造が得られる。
【0029】
図2はケージ状或いはシリンダー状の立方晶モノリス(以下、HOM5と記す)の生成方法を示す図である。丸形フラスコに8.0gのテトラメチルオルトケイ酸{Tetramethylorthosilicate (TMOS)}を入れ、その中に5.6gの界面活性剤(EO20PO70EO20)P123を添加し、さらに2.0gのドデカンを付加する。界面活性剤を完全に溶解させるためにフラスコは約60℃の温水に保持される。その後、4gのpH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)が添加され、ロータリーエバポレータにより溶液を10分間蒸発させると、固体材料が形成された。この固体材料は水分を含み塊状なので、さらにオーブン中において40℃で1日保持し、その後さらに450℃で8時間焼成することにより白い粉末状の立方晶Ia3d構造のHOM5が形成される。
【0030】
次に、第2段階で、パラジウムイオン吸着性化合物をHOMに担持させる。この段階では、パラジウムイオン吸着性化合物にはパラジウムイオンは(他の金属イオンも)吸着されていない。(パラジウムイオンを吸着していないことを示す用語として「パラジウムイオン吸着性化合物」と称する。本発明に用いられるパラジウムイオン吸着性化合物として、金属錯体、無機金属化合物や有機金属化合物がある。セルロース、タンパク質などのパラジウムイオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、金属の中でパラジウム(イオン)を吸着できる化合物であって、HOMに担持でき、化学処理により、目標金属であるパラジウム以外の金属イオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標金属であるパラジウムを遊離できる化合物である。パラジウムイオン吸着性化合物は、化学的にはたとえばOH基を介してHOMシリカに強固に結合している。
【0031】
パラジウムイオン吸着性化合物は、回収しようとする目標金属であるパラジウムイオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、パラジウムイオンに対して選択的に結合するキレート化合物が挙げられる。パラジウムを含む各種の金属が溶解した金属溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、パラジウムイオン吸着性化合物に目標金属であるパラジウムイオンを選択的に多量に吸着できる。また、キレート化合物は、非常に微量の(たとえば、ppbオーダー)パラジウムを選択的に吸着することができるので、金属溶解溶液中に含まれるパラジウムイオンの量が少なくても、効率的に選択的にパラジウムイオンを吸着する。
【0032】
たとえば、我々は、N,N’-ジサリチリデン-4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン{(N,N’-4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)(略称DDHMP)}(以下レセプターDDHMPとも称する)のキレート錯体がパラジウム{Pd(II)}イオンを選択的に優先的に吸着することを見出した。(レセプター(receptor)とは本来「受容体」という生物学的用語であるが、本出願では特定金属(パラジウムイオン)を吸着する金属イオン吸着性化合物という意味でレセプターという用語を用いることもある。)
【0033】
このレセプターDDHMPは後述するように、溶液を特定のpH値に調節したパラジウムイオン{Pd(II)イオン}を含有した溶液にレセプターを担持したHOMシリカを浸漬すると、レセプターDDHMPは他のpH値の溶液における場合よりも大量にしかも選択的にPd(II)イオンを吸着する。Pd(II)イオンの吸着量が増していくとレセプターDDHMPを担持したHOMシリカの色が薄い黄色から褐色へと変化していく。色調と吸着されたPd(II)イオン濃度とは相関関係にあるので、色調からPd(II)イオン濃度を知ることができる。すなわち比色分析が可能である。選択的にという意味は、パラジウムイオン{Pd(II)イオン}およびその他の種々の金属イオンを含む溶液にこれらのレセプターDDHMPを担持したHOMシリカ(HOM5−DDHMP)を浸漬すると、パラジウムイオン{Pd(II)イオン}だけを吸着し、他の種々の金属イオンは殆ど吸着しないということを意味している。すなわち、レセプターDDHMPを担持したHOMシリカ(HOM5−DDHMP)は、Pd(II)イオン吸着の選択性が極めて優れている。
【0034】
また、Pd(II)イオン吸着後の光吸収スペクトルからもPd(II)イオン濃度を測定できる。すなわち、レセプターDDHMPを担持したHOMシリカはPd(II)イオン濃度検出センサーでもある。このレセプターDDHMPを担持したメソポーラスシリカ(HOM5−DDHMP)は、パラジウムイオン{Pd(II)}を吸着すると紫外可視分光法において250nm〜500nmの波長を持つ可視光に吸収ピークを示し、この波長域の吸収率とパラジウムイオン濃度とは相関関係があるので、キャリブレーションカーブを事前に作っておくことにより、パラジウムイオン{Pd(II)イオン}を吸着したHOM5−DDHMPの紫外可視分光法における当該波長の吸収率データからこのHOMS−DDHMP−Pd(II)のパラジウムイオン{Pd(II)イオン}濃度を知ることができる。しかもこのHOMS−DDHMP−Pd(II)は溶液中のパラジウムイオンを選択的に吸着するとともに、他の含有金属イオンはほとんど吸着しないので、非常に感度の良いパラジウムイオンコレクターおよび濃度センサーとなる。特にppbレベルの微量なパラジウムでも正確な濃度を検出できる。
【0035】
このようなパラジウムイオン吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべきパラジウムイオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0036】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性パラジウムイオン吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、パラジウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカとパラジウムイオン吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、パラジウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の水溶液とを接触させ、パラジウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめパラジウムイオン吸着性化合物を細孔内および表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、パラジウムイオン吸着性化合物を細孔内および表面に固定する方法、パラジウムイオン吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、パラジウムイオン吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0037】
また、前述のレセプターDDHMPをHOMに担持させるには、レセプターをN,N-ジメチルフォルムアミド{N,N-Dimethylformamide (DMF)}またはエタノールに溶解し、この溶液とHOMを接触させて、HOMへレセプターDDHMPを含浸させる。このようにしてレセプターDDHMPを高密度に整然と担持したHOMシリカが完成する。尚エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりレセプターDDHMPを担持したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く作製できる。
また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMシリカほど、多くのレセプターが規則的にHOMシリカの表面および細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMシリカにレセプターDDHMP{(パラジウムイオン)吸着性化合物}を吸着させる。
【0038】
パラジウムイオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標金属であるパラジウムイオンを吸着できるが、パラジウムイオン吸着性化合物は凝集等するため、パラジウムイオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)パラジウムイオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標金属であるパラジウムイオンが吸着しても、拡散または浸透によりパラジウムイオン吸着性化合物内部のパラジウムイオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にあるパラジウムイオン吸着性化合物の官能基全部にパラジウムイオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にあるパラジウムイオン吸着性化合物の官能基にパラジウムイオンが吸着したとしても、その吸着したパラジウムイオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部にパラジウムイオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけてパラジウムイオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0039】
これに対して、メソポーラスシリカは、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面および細孔内壁にパラジウムイオン吸着性化合物を担持したものは、パラジウムイオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、パラジウムイオン吸着性化合物のパラジウムイオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、パラジウムイオン吸着性化合物の1分子ずつがパラジウムイオン吸着に利用できる。パラジウムイオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、HOMに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、HOMに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物がパラジウムイオン溶解溶液と接触するとパラジウムイオンを速やかに吸着するということを意味する。また、吸着されたパラジウムイオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着されたパラジウムイオンが速やかに遊離されるということも意味するので、生産性が飛躍的に向上する。
【0040】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、原子的には離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独でパラジウムイオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、パラジウムイオン溶解溶液と接触した部分のキレート官能基にはパラジウムイオンが吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、パラジウムイオン溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部ではパラジウムイオンは殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、パラジウムイオン吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着したパラジウムイオンを遊離するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着したパラジウムイオンを取り出すことも困難となる。
【0041】
このキレート樹脂を繰り返し利用するときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、パラジウムイオンの抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返し使用でキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、キレート官能基をHOMの表面上に広範囲に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面および細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基がパラジウムイオンもしくはパラジウムイオンを含む錯体イオンを選択的に捕獲するので、パラジウムイオンの吸着効率が非常に高くなる。また、その捕獲されたパラジウムイオンもしくはパラジウムイオンを含む錯体イオンを逆抽出で取り出すことも容易に可能となる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的および/または化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的および/または化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さく、繰り返して使用すること、すなわち何回でもリユースすることができる。
【0042】
第3段階では、事前に都市鉱石や自然鉱石中のパラジウムを含む各種金属を溶解した酸性溶液またはアルカリ溶液(金属溶解溶液)或いはパラジウムイオンを含む各種金属が溶けた廃液(金属溶解溶液)などを準備しておく。この金属溶解溶液は、たとえば以下のようにして作製する。携帯電話やパソコンなどから得られたPd等の重金属を含む材料を王水溶液中に浸漬すると、Pd、Fe、Cu、Coなどの多数の金属(これらも都市鉱石等に含まれる)が溶解される。この溶液から固形分を除いた溶液が金属溶解溶液である。金属溶解溶液中にパラジウムイオン吸着性化合物(これをMCとする)を高密度に担持したHOM(以下、HOM−MC)に浸漬等して金属溶解溶液とHOM−MCと接触させる。この接触により、HOM−MCに金属イオンが吸着される。(これをHOM−MC−Pd−M(Pd:目標金属であるパラジウム(Pd)、M:Pd以外の吸着された金属とする。)金属吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標金属であるパラジウムを選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下の金属溶解溶液中にパラジウムイオン吸着性化合物を浸漬すれば、目標金属であるパラジウムだけを吸着したHOM(すなわち、HOM−MC−Pd)を得ることができる。
【0043】
たとえば、パラジウムイオンを最も良く吸着するpH値に調整された金属溶解溶液にHOM−MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM-MCにパラジウムイオンを選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他の金属Mが吸着される可能性もあるので、金属溶解溶液中の目標金属であるパラジウム以外の金属をあらかじめ少なくしておくことにより、パラジウム以外の金属Mの吸着量が非常に少ないHOM−MC−Pd−Mが得られる。たとえば、金属溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行いパラジウム以外の金属を析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。上述のレセプターDDHMP の場合、金属溶解溶液をpH=2.0〜5.0、好適にはpH=3.0〜4.0に調節することにより、パラジウム{Pd(II)}イオンをHOM-MC(HOM−DDHMP)に効率的に吸着させることができる。尚、エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりパラジウムイオンを吸着したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く収集できる。
【0044】
第4段階では、目標金属であるパラジウムを含む金属を吸着したHOM−MC−Pd−Mを、目標金属であるパラジウム以外の金属を遊離できる溶液中に浸漬して、目標金属であるパラジウム以外の金属を除去してほぼ目標金属であるパラジウムだけを吸着したHOM−MC−Pdとする。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標金属であるパラジウム以外の金属を除去してHOM−MC−Pdにできる場合もある。尚、目標金属であるパラジウム以外の金属の吸着が非常に少ない場合(このときは、最初からHOM−MC−Pdである)や、目標金属であるパラジウムだけを遊離できる方法があれば、第4段階は省略することもできる。たとえば、上述したレセプターDDHMPを担持したHOM−DDHMPの場合には、Mが殆どないので、すなわち、HOM−DDHMP−Pdの状態になっているので、第4段階は省略することが可能となる。
【0045】
第5段階では、ほぼ目標金属であるパラジウムだけを吸着したHOM−MC−Pdを、目標金属であるパラジウムを溶解可能な溶液に浸漬して、目標金属であるパラジウムイオンを溶解する。(溶出処理)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標金属であるパラジウムイオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標金属であるパラジウムイオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標金属であるパラジウムイオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標金属であるパラジウムイオンだけを吸着したHOM−MC−Pdにする必要がない。この溶解液から目標金属であるパラジウムイオンが遊離されたHOM−MCは固形物であるから、ろ過して取り除く。固形物として取り除かれたHOM−MCは再度使用可能である。たとえば、HOM−(DTDR、DPAR、AMPC)−Pdの場合にはHCl溶液に浸漬することにより、Pdがほぼ完全に溶出する。
【0046】
また、目標金属であるパラジウムの溶解液から種々の方法(たとえば、電気分解法)により、目標金属を分離すると目標金属であるパラジウムを回収できる。すなわち、都市鉱石等から目標金属であるパラジウムを回収できた。たとえば、HOM−DDHMP−Pdを塩酸水溶液に浸漬することにより、Pd(II)イオンを遊離できる。この結果、固形物HOM−DDHMPはろ過して再利用でき、第3段階において再び使用できる。Pd(II)イオンは溶離(溶出)液に溶けているので、メッキ等によりPd単体として回収できる。尚、HOM−MCに目標金属であるパラジウムを吸着してHOM−MC−Pdにすることを目標金属であるパラジウムの抽出と考えた場合に、この工程はHOM−MC−PdからPdを遊離してHOM−MCにするので逆抽出工程と言うこともできる。
【0047】
以上述べた第1段階〜第5段階の工程を経ることにより、都市鉱石等から得られた目標金属であるパラジウムを溶解した金属溶解溶液から、パラジウムイオン吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMシリカ(HOMS)を用いて、目標金属であるパラジウムを回収することができる。
【実施例1】
【0048】
<HOM5(立方晶Ia3d)シリカ・モノリスの合成>
図2は、HOM5(立方晶Ia3d)シリカ・モノリスの作製方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤P123(EO20PO70EO20)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。メソポーラスシリカモノリスは、P123/オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)混合相にドデカンをドデカン:P123:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。すなわち、容器中に8.0gのTMOSおよび5.6gの界面活性剤P123を5.6g入れ、その中に2.0gのドデカンを加え、界面活性剤を完全に溶解させるためにフラスコは約60℃の温水で保持された。この均質溶液の組成物相をロータリーエバポレーターに移し、pH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)を4g添加し蒸発させると、TMOSの発熱加水分解および濃縮が急速に起こる。この発熱加水分解/濃縮反応はロータリーエバポレーターで排気中も継続するので、液体材料の粘性が増大し生成した有色のゲル状物質が反応容器中に形成される。ロータリーエバポレーターで10分排気後に半透明のガラス状モノリスが収集され、オーブン中において40℃で24時間乾燥された。その後450℃で8時間焼成することにより白い粉末状のHOM5(立方晶Ia3d)シリカ・モノリスが作成された。
【実施例2】
【0049】
<レセプターDDHMP [N,N’-ジサリチリデン-4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン(N,N’-4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)]の合成>
図3は、レセプターDDHMPを生成する化学反応式を示す図である。4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン(4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)25mモル(2.372g)が、20mLのDMF {N,N-ジメチルフォルムアミド(N,N-Dimethylformamide)}中に溶解され、3時間攪拌された。その後、50mモル(6.106mL)のサリチルアルデヒドが150mLのエタノールに混合された。50mLのエタノールに混合された50mモル(6.106mL)のサリチルアルデヒドへ4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン溶液を添加し、オーバーヘッドスターラーを使い充分に攪拌した後、反応混合物は2時間還流された。黄色の析出物はろ過され、少量のエタノールを用いて洗浄され、その後60℃で乾燥された。これがDDHMPである。
【実施例3】
【0050】
<HOM−プローブ材料の合成>
図4は、HOM−DDHMPコレクターの作製方法を示す図である。図4において、DDHMPを使ってHOM−プローブ材料を製造する方法が示されている。1.0gのHOM5が、丸形フラスコにおいて30mlのDMF溶液に溶解された30mgのDDHMP染料を含む溶液に添加され、これらの混合液は60℃で2時間回転しながら保持された。ロータリーエバポレーターに連結され、DMFは70℃でゆっくりと真空引きされて取り除かれた。2時間以内に、粘性液体は有色のゲル状物質(固体生成物)へ変化し、丸形フラスコの形状と大きさになった。それから、この物質を60〜65℃で5時間乾燥した。その後、この物質は温水洗浄され、乾燥した状態になるまで再び乾燥された。この物質がHOM−プローブ材料(HOM−DDHMP)であり、色調は薄い黄色で種々の実験条件でパラジウム{Pd(II)抽出に使われた。
【実施例4】
【0051】
<パラジウム{Pd(II)}イオン抽出の最適pH値の調査>
HOM−プローブ材料(HOM−DDHMP)がパラジウム{Pd(II)}イオンをどのpH水溶液で最も吸着するか、8種類のpH水溶液(1.0、2.0、3.5、5.0、7.0、9.5、11.0および12.5)を用いて調査した。pH2.0およびpH 3.5に関して0.01M硫酸か0.2MKCl−HClのどちらかのpH溶液を使い、pH5.2を調整するためにCH3COOH−CH3COONaを使った。3−モルホリノプロパン・スルホン酸{3-morpholinopropane
sulfonic acid(MOPS)}、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパン・スルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropane sulfonic acid (CAPS)}および2−(シクロヘキシルアミノ)エタン・スルホン酸{2-(cyclohexylamino)
ethane sulfonic acid (CHES)}の混合液がpH7.0、9.5および11.0に関して使われ、0.2MNaOHを用いてpH値を調整した。
【0052】
各pH溶液を4ml取って2ppmのPd(II)を加えて、その後で適量の水を付加して20mlの水溶液にした。その後、Pd(II)抽出剤HOM5−DDHMPを添加して1時間攪拌し、ろ過した。ろ過後の固形材料はPd(II)イオンを吸着したHOM−DDHMP、すなわちHOM−DDHMP−Pd(II)である。このろ過後の固形材料について、紫外線可視分光スペクトル測定(UV-VIS-NIR
Spectroscopy)によって調査し、吸光度スペクトルを取った。パラジウム{Pd(II)}吸着を特に良く表す特定波長における吸光度を各固系材料についてプロットした。図5は、HOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトル信号強度(室温測定)と溶液のpH値との関係を示すグラフであり、2ppmのPd(II)イオンを溶解した種々のpH値溶液からHOM5−DDHMPがPd(II)イオンを吸着したHOM−DDHMP−Pd(II)の吸光度のpH値依存性を示す。図5において、HOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトル信号強度(比)を縦軸に、2ppmのPd(II)イオンを溶解した溶液のpH値を横軸にプロットした。参照pH値として最高の信号強度を使った。すなわち、図5の縦軸はpH値が3.5の水溶液の信号強度に対する比を取っている。HOM5−DDHMP中のパラジウム{Pd(II)}量が増えると紫外線可視分光スペクトルの吸光度が増大することが分かっているので、図5から分かるように、信号強度のデータは、パラジウム{Pd(II)}イオンのコレクター(吸着剤)としてHOM5−DDHMPを使用する場合、最も良くパラジウム{Pd(II)}イオンを吸着する最良のpH値は3.5であることを示している。測定誤差やばらつきも考えると最良のpH値は2〜5、好適には3〜4である。
【実施例5】
【0053】
<HOM5−DHMPを使った様々な濃度のPd(II)の高精度抽出法の調査>
図6は、Pd(II)の除去剤としてHOM5に担持したDDHMPプローブ(HOM5−DDHMP)を用いた場合のパラジウム{Pd(II)}抽出方法の手順を示す図である。この手順に従って、pH3.5溶液中に様々な濃度(5ppb〜15ppm)のPd(II)イオンを添加し、適量の純水を加えて容積を20mlにした。その後、HOM5−DDHMPを20mg加えて1時間攪拌し、固形材料が含まれた溶液をろ過した。この固系材料はパラジウム{Pd(II)}を吸着したHOM5−DDHMP−Pd(II)である。固形材料は紫外線可視分光スペクトル測定(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸光度スペクトルを取った。
【0054】
図7は、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度をパラメータとしたHOM5−DDHMP−Pd(II)の室温におけるスペクトルを示す図である。図7において横軸は測定波長、縦軸は吸光度である。図7から分かるように、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度が増えるに従い、スペクトル強度は測定波長域(230nm〜600nm)すべてで増大する。従って、HOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトル測定を行えば、その吸光度から溶液中のパラジウム{Pd(II)}イオン濃度を知ることができる。
【0055】
実際に、吸光度が最も大きくなる波長(λ=290nm)において、吸光度とパラジウム{Pd(II)}イオン(Pd2+)濃度の関係を調べると、図8のようになる。すなわち、図8はpH=3.5の溶液中のパラジウム{Pd(II)}イオン濃度とHOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトルの吸光度(λ=290nm)との関係を示す図であり、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度と吸光度(λ=290nm)のキャリブレーション曲線である。このように、溶液中のパラジウム{Pd(II)}イオン濃度が増えるに従い、HOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトルの吸光度は増大することが明瞭に把握することができ、HOM5−DDHMP−Pd(II)の紫外線可視分光スペクトルの吸光度から溶液中のパラジウム{Pd(II)}イオン濃度を知ることができる。従って、HOMプローブ(HOM5−DDHMP)は、パラジウム{Pd(II)}イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。尚、紫外線可視分光スペクトルの測定は10回の繰り返し測定を行なったがバラツキは殆どなく再現性が非常に良い。また、パラジウムイオン濃度は既知のサンプルを基にして較正されている。
【0056】
また、図7に示すように、ろ過後の固形材料の色調は、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度が増大するに従い、黄色(パラジウム{Pd(II)}イオン濃度0ppb)から薄い褐色(パラジウム{Pd(II)}イオン濃度100ppb)、褐色(パラジウム{Pd(II)}イオン濃度2000ppb)と変化する。この褐色度の変化は連続的なので、逆にろ過後の固形材料{HOM5−DDHMP−Pd(II)}の色調からパラジウム{Pd(II)}イオン濃度を知ることが可能である。このように比色分析の結果からも、HOMプローブ(HOM5−DDHMP)は、パラジウム{Pd(II)}イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例6】
【0057】
<パラジウム{Pd(II)}イオンに関するHOM5−DDHMPコレクターの選択性(カチオンについて)>
パラジウム{Pd(II)}イオンを最も良く吸着するpH=3.5の酸性溶液4mlをビーカーに取り、このビーカーにクエン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムおよび酒石酸ナトリウム溶液の0.3M混合液を4ml付加し、さらに種々の活性金属イオン(K+、Li+、Ca2+、Mg2+、Cr6+、Al3+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Zn2+、Co2+、Cd2+、Pd2+、Hg2+、Fe3+、Bi3+、Sb3+、Mo6+および Se4+)およびパラジウム{Pd(II)}イオンをそれぞれ個別に2ppm添加した溶液を作り、それぞれにさらに水を適量加えて20ml水溶液を作製した。その後、それぞれの水溶液にHOM5−DDHMPを20mg加えて、1時間攪拌した。これらの水溶液をろ過し、固形物についてUV-VIS-NIR分析を行い、ろ過溶液はICP-OES(ICP発光分光分析)によって分析された。すべての操作は25℃で行なわれた。
【0058】
図9は、パラジウム{Pd(II)}イオンを含む種々の金属イオンをそれぞれ個別に含む溶液にHOM5−DDHMPを浸漬した後に得られた固形物のUV-VIS-NIR分析データおよび色調データを示す図である。図中の番号は(1) K+、(2) Li+、(3) Ca2+、(4) Mg2+、(5) Cr6+、(6) Al3+、(7) Cu2+、(8) Ni2+、(9) Mn2+、(10) Zn2+、(11) Co2+、(12) Cd2+、(13) Pd2+、(14) Hg2+、(15) Fe3+、(16) Bi3+、(17) Sb3+、(17) Mo6+および(19) Se4+を表す。「Blank」とは何の金属イオンも添加しない酸性水溶液にHOM5−DDHMPを浸漬した場合を示す。図9から分かるように、パラジウム{Pd(II)}イオン以外の上記の(1)〜(19)の金属イオンを含んでも、紫外線可視分光(UV-VIS-NIR)スペクトルのデータには殆ど変化はなく、また色調データについても色調の変化も殆どない、従って、HOM5−DDHMPはパラジウム{Pd(II)}イオン以外の金属イオンを吸着しない。また、ICP-OES(ICP発光分光分析)のデータから、それぞれのろ過液には、パラジウム{Pd(II)}イオン以外の上記の金属イオンだけが含まれていた。このことからもHOM5−DDHMPはパラジウム{Pd(II)}イオン以外の金属イオンを吸着しないことが分かる。
【実施例7】
【0059】
<パラジウム{Pd(II)}イオンに関するHOM5−DDHMPコレクターの選択性(アニオンについて)>
次に種々のアニオンおよび界面活性剤がHOM5−DDHMPコレクターに影響を及ぼすかを調査した。パラジウム{Pd(II)}イオンを最も良く吸着するpH=3.5の酸性溶液4mlをビーカーに取り、このビーカーにクエン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムおよび酒石酸ナトリウム溶液の0.3M混合液を4ml付加し、次に種々のアニオンおよび界面活性剤{SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、CTAB(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)、Triton X-100(トリトンX−100)、tartrate(酒石酸塩)、citrate(クエン酸塩)、 oxalate(シュウ酸塩)、chloride(塩化物)、acetate(酢酸塩)、nitrite(亜硝酸塩)、nitrate(硝酸塩)、sulfite(亜硫酸塩)、sulfate(硫酸塩)、phosphate(リン酸塩)および carbonate(炭酸塩)}およびパラジウム{Pd(II)}イオンをそれぞれ個別に2ppm添加した溶液を作り、それぞれにさらに水を適量加えて20ml水溶液を作製した。その後、それぞれの水溶液にHOM5−DDHMPを20mg加えて1時間攪拌した。これらの水溶液をろ過し、固形物についてUV-VIS-NIR分析を行なった。すべての操作は25℃で行なわれた。
【0060】
図10は、パラジウム{Pd(II)}イオン、種々のアニオンまたは界面活性剤を含む溶液にHOM5−DDHMPを浸漬した後に得られた固形物のUV-VIS-NIR分析データおよび色調データを示す図である。図中の番号は(1) SDS、(2) CTAB、(3) Triton X-100、(4) tartrate、(5) citrate、(6) oxalate、(7) chloride、(8) acetate、(9) nitrite、(10) nitrate、(11) sulfite、(12) sulfate、(13) phosphate、および(14) carbonateを表す。「Blank」とは何も添加しない酸性水溶液にHOM5−DDHMPを浸漬した場合を示す。図10から分かるように、パラジウム{Pd(II)}イオン以外の上記の(1)〜(14)のアニオンまたは界面活性剤を含んでも、紫外線可視分光スペクトルのデータには全く変化はなく、また色調データについても色調の変化も全くない、従って、HOM5−DDHMPはアニオンや界面活性剤を吸着しないし、それらから全く影響や干渉を与えないことが分かった。
【0061】
廃水や環境中にはパラジウム{Pd(II)}イオン以外の金属イオンが多数存在するが、実施例6から、本発明のHOM5−DDHMPはパラジウム{Pd(II)}イオンを良く吸着するが、パラジウム{Pd(II)}イオン以外の金属イオンは殆ど吸着しないので、HOM5−DDHMPは非常に選択性良好なパラジウム{Pd(II)}イオン吸着剤であり、かつパラジウム{Pd(II)}イオンコレクターおよび検出センサーである。同様に実施例7から、廃水や環境中には多数のアニオン種や界面活性剤が存在するが、本発明のHOM5−DDHMPはそれらの存在によって全く影響や干渉を受けない極めて感度の良いパラジウム{Pd(II)}イオン吸着剤であり、かつパラジウム{Pd(II)}イオンコレクターおよび検出センサーである。
【実施例8】
【0062】
<HOM5−DDHMPコレクターの特性(1):窒素(N2)吸着等温線>
図11は、77KにおけるHOM5メソポーラスシリカ、DDHMPを担持したHOM5−DDHMPおよびパラジウム{Pd(II)}を吸着したHOM5−DDHMP−Pd(II)のN2吸着/脱着等温線である。これらの3種類のN2吸着/脱着等温線は、吸着/脱着(離脱)ブランチの鋭い変曲線を持つ典型的なIUPACのタイプIVの吸着挙動を示している。これらの特徴的挙動および顕著なヒシテリシスループはメソポーラスシリカのN2吸着/脱着等温線に特有のものであり、本発明のHOM5系材料はメソポーラス性が均一でしかも規則性が高いことが分かる。HOM5触媒は、典型的なN2ヒシテリシスループを示し、テンプレート(鋳型)としてコポリマーを使うことにより作製された均一なケージ状メソポーラスの立方晶およびシリンダー構造であることを示唆している。良く特徴づけられた鋭い変曲線は0.55≦P/P0≦0.8で現れた。この急峻さは、約6.7nmの均一なメソポーラス内での毛管凝縮を示している。さらに、N2吸着等温線データに示されるように、HOM−鋳型へのDDHMP有機質部分の固定化(担持)とともに、ヒシテリシスループの幅の減少は、作製されたナノプローブのすべてでナノスケールの細孔サイズの減少を示している。
【0063】
図12は、図11に示したN2吸着/脱着等温線から得られたHOM5メソポーラスシリカ、DDHMPを担持したHOM5−DDHMPおよびパラジウム{Pd(II)}を吸着したHOM5−DDHMP−Pd(II)の種々の特性を示す表である。HOM5メソポーラスシリカ、HOM5−DDHMPおよびHOM5−DDHMP−Pd(II)に関して、全細孔体積はそれぞれ1.01
cm3g-1、0.9 cm3g-1
および 0.85 cm3g-1であり、非常に大きな細孔体積を有する。また、BET比表面積はHOM5メソポーラスシリカ、HOM5−DDHMPおよびHOM5−DDHMP−Pd(II)に関して、それぞれ650 m2g-1、 600 m2g-1および570 m2g-1であり、どれも500 m2g-1よりも大きく非常に大きな比表面積を有する。さらに、細孔サイズはHOM5メソポーラスシリカ、HOM5−DDHMPおよびHOM5−DDHMP−Pd(II)に関して、それぞれ6.7nm、6.5nmおよび6.4nmと非常に小さい。このように、HOM5は、細孔体積が大きく、比表面積も大きく、細孔サイズも小さく、HOM5は良好な吸着サイトを持つことが分かる。
【実施例9】
【0064】
<HOM5−DDHMPコレクターの特性(2):X線小角散乱(SAXS)>
図13は、立方晶HOM5 メソポーラスシリカ、HOM5−DDHMPおよびHOM5−DDHMP−Pd(II)のX線小角散乱(SAXS)の一次元プロファイルを示す図である。集中高フラックス/高透過線およびMo・Kα線(λ=0.07nm)の単色X線ビームを得るために、2次元(2D)共焦点ミラー(リガク製Nanoviewer)およびピンホール・コリメーターが使われた。2D・SAXSパターンは、運動量移行q =(4π/λ) sin(2θ/2)の範囲、0.2〜10 cm−1をカバーする2Dディテクター(Bruker Hi-Star)によって記録された。ここで、λは入射X線ビームの波長で2θは散乱角である。SAXSパターン(a)はd間隔比9.4, 8.1,
6.1および5.7で4つのピークを示した。(dは面間隔)これは、コポリマー界面活性剤P123 (EO20PO70EO20)を使うことによって、立方晶シリカ・メソポーラス・モノリスが形成されたことを示唆している。高強度(211)ピークのd値および立方晶の格子定数{a = 2d/(√3)}は、立方晶Ia3d (HOM5)メソポーラスシリカから始まり、HOM5−DDHMPおよび最終的にHOM5―DDHMP−Pd(II)になるに従い減少する。すなわち、このSAXSデータから、立方晶の格子定数は、立方晶Ia3d 構造のHOM5 メソポーラスシリカ、HOM5−DDHMPおよびHOM5−DDHMP−Pd(II)に対して67.9 nm, 65.8 nmおよび 64.6 nmであることが求められた。
【実施例10】
【0065】
<HOM5−DDHMPコレクターの特性(3):透過電子顕微鏡(TEM)>
図14は、[311]方向および [111]方向に記録された均一な形状の立方晶Ia3d構造のHOM5モノリスの透過電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。TEM像BおよびCはチルト角45°の対応する結晶軸の3次元(3 D)TEM表面を示す。3D画像から、立方晶Ia3d構造の広範囲ドメインに渡ってスムーズで秩序化したネットワーク表面を有していることが分かる。[311] および[111]方向のHOM5のTEM像から、HOM5モノリスはシリンダー状立方晶Ia3d、ケージ状立方晶構造およびワーム状Ia3d構造の広範囲ドメインに結合した高秩序細孔およびワーム状細孔を有していることが分かる。これらのTEM像は、広範囲ドメインにおける長範囲秩序化メソチャネルはHOM5モノリスの特徴である直接的実空間を示している。P123のマイクロエマルジョン系に炭化水素の付加によって作製されるHOM5メソ相において、球状に詰められた高秩序で均一なシリンダー状のHOM5モノリスは、秩序だったチャネル状の細孔アレイにおいて充分に結合して組織化している。
【0066】
特に最も際立った特徴は、特定の方向に沿った均一な配列と連続した秩序化(すなわち、ゆがみがないこと)であり、HOM5モノリスは球状に秩序化した構造の完全性を持つことを示している。HOM5ナノプローブの結晶軸に沿った3DTEM顕微鏡写真は、これらの方向の広い領域に沿って走る規則的アレイおよびワーム状細孔を有していることを明らかにしている。さらに、3DTEMおよびED(電子線回折)パターンは、ゆらぎのないHOM5プローブの規則的で連続したマトリックスを表わし、Pd(II)イオンの固有移動度およびDDHMPプローブ分子と相互作用しながら一様に拡散していることを示している。
【実施例11】
【0067】
<都市鉱山からのパラジウム{Pd (II)}の回収>
パラジウムの収集剤としてHOM5−DDHMPコレクターを使用して、都市鉱山からパラジウム{Pd(II)}を回収するシステムの概要を説明する。図15は、パラジウム{Pd(II)}イオン吸着性化合物HOM5−DDHMPを用いて、都市鉱山から金属を回収するリサイクルシステムを示す図である。このリサイクルシステムは、(1)収集/分離(2)除去(stripping)(3)再使用(可能性)のステップからなる。これまでの我々の発明に関する説明から分かるように、水溶液中のPd(II)イオンは黄色の色調を有するHOM5−DDHMPコレクターによって収集される。数分後HOM5−DDHMPコレクターの色調は黄色から茶色へ変化する。これはPd(II)イオンがHOM5−DDHMPコレクターに収集されたということを示す。次のろ過ステップで茶色の固形物(HOM5−DDHMP−Pd(II))が分離された。0.005MのHClを使った次のステップにより固形物(HOM5−DDHMP−Pd(II)からPd(II)イオンを除去すると、HOM5−DDHMPコレクターの色調は茶色から黄色へ変化し元のHOM5−DDHMPコレクターへ戻る。このようにして、Pd(II)イオンの回収のために何度もHOM5−DDHMPコレクターを使うことができる。
【実施例12】
【0068】
<複数金属イオンを含む溶液からのパラジウムイオン{Pd(II)}の抽出>
pH3.5の酸性水溶液を4mlビーカーに取って、クエン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムおよび酒石酸ナトリウム溶液の0.3M混合液4mlをビーカーに付加し、種々の活性金属イオン、貴金属イオンおよび2ppmのパラジウム{Pd(II)}イオンを添加した。この後、水を適量加えて20ml水溶液を作製した。その後、濃塩酸(HCl)を適量加えてpH3.5に再調整した。
【0069】
この水溶液にHOM5−DDHMPを20mg加えて1時間攪拌した。添加した各種の金属イオン濃度は以下の通りである。Pd(II)濃度は2ppmであり、(1) 4.0ppm K+、(2) 4.5ppm Li+、(3) 5.0ppm Ca2+、(4) 4.5ppm Mg2+、(5) 4.0ppm Cr6+、(6) 4.0ppm Al3+、(7) 5.0ppm Cu2+、(8) 4.5ppm Ni2+、(9) 4.5ppm Mn2+、(10) 4.5 ppm Zn2+、(11) 4.0ppm Co2+、(12) 4.0ppm Cd2+、(13) 4.0ppm Pb2+、(14) 4.0ppm Hg2+、(15) 3.5ppm Fe3+、(16) 4.0ppm Bi3+、(17) 3.5ppm Sb3+、(18) 4.0ppm Mo6+、および(19) 4.0ppm
Se4+である。その後、HOM5−DDHMPコレクターを20mg加え、1時間攪拌した。それから溶液をろ過し、UV−VIS−NIR解析用に固体材料を取った。ろ過溶液はICP−OESによって分析した。
【0070】
図16は、HOM5−DDHMPコレクターを浸漬する前の水溶液における種々の金属イオン濃度を示す表である。図17は、HOM5−DDHMPコレクターを浸漬した後のろ過液における種々の金属イオン濃度を示す表である。これらのデータはICP−OES分析から得られた。図16および図17から、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度は2.1ppmから0.021ppmへ大きく減少しており、HOM5−DDHMPコレクターによって水溶液中のパラジウム{Pd(II)}イオンは殆ど抽出(除去)されている。測定誤差も考慮すれば、ほぼ100%のパラジウム{Pd(II)}の抽出(除去)率である。一方、パラジウム{Pd(II)}以外のすべての金属イオンは殆ど抽出(除去)されていない。測定誤差も考慮すれば、0%の抽出(除去)率である。このようにHOM5−DDHMPコレクターはパラジウム{Pd(II)}イオンの抽出の選択性が極めて高く、多数の金属が含まれていてもその効果に対して影響は全くないことが分かる。また、このことから、HOM5−DDHMPコレクター(収集剤)は溶液中のパラジウムをすべて収集でき、完全にパラジウムを除去できるので、完全なパラジウム収集剤または完全なパラジウム除去剤と言える。
【0071】
図18は、種々の金属イオンを含む場合におけるろ過後の固形物の色調を示す図である。浸漬前のHOM5−DDHMPコレクターの色調{0.00ppm Pd(II)}は薄い黄色を示すが、浸漬後でろ過後の固形物の色調は濃い褐色に変色している。しかもパラジウム{Pd(II)}イオンだけを含む水溶液に浸漬した場合のろ過後の固形物の色調{2.00ppm Pd(II)}とパラジウム{Pd(II)}イオンを含む種々の金属イオンを含む水溶液に浸漬した場合のろ過後の固形物の色調{2.00ppm Pd(II)+Different metal
ions}は同じであり、パラジウム{Pd(II)}イオンを含む種々の金属イオンを多数含んでも固形物の色調に影響を与えないことが分かる。この色調の結果からもHOM5−DDHMPコレクターは選択性が極めて優れたパラジウム{Pd(II)}イオン吸着剤であることを示している。
【実施例13】
【0072】
<HOM5−DDHMP−Pd(II)からのパラジウム{Pd(II)}イオンの分離>
HOM5−DDHMP−Pd(II)から以下のようにしてPd(II)を分離できる。複数イオンの混合溶液からPd(II)を除去後、50mlビーカーに溶離溶液(0.005MのHCl)を20ml取り、この中にこの固体材料HOM5−DDHMP−Pd(II)を入れ、1時間攪拌した。この固体材料を含む水溶液をろ過し、ろ過液と固形材料に分けた。固形材料の色調はHOM5−DDHMPと同じ薄い黄色に変化した。固形材料のN2吸着等温線は図11に示したHOM−DDHMPと同じ特性を示した。また、UV-VIS-NIRのデータからもPd(II)を吸着していないHOM−DDHMPのプロファイルと同じであった。図19はろ過液のICP−OES分析から得られた各種金属イオン濃度を示す図である。ろ過液にはパラジウム{Pd(II)}イオン以外の金属イオンは全く含まれていないことが分かる。また、パラジウム{Pd(II)}イオン濃度は1.89ppmであり、図17に示したHOM−DDHMPを浸漬する前の水溶液のパラジウム{Pd(II)}イオン濃度2.1ppmの約90%の濃度である。HOM−DDHMPにはほぼ100%のパラジウム{Pd(II)}イオンが吸着されたことから、HOM−DDHMP−Pd(II)のPd(II)量の約90%を分離することができた。測定誤差などを考慮すれば極めて高い分離能力である。さらに分離液を最適化することによりこの分離率を高めることができる。
【0073】
図20は、本発明のHOM5−DDHMPコレクターを用いたパラジウム{Pd(II)}の回収サイクルを示す図である。メソポーラスシリカHOM5にDDHMPを担持したHOM−DDHMPコレクターをパラジウム{Pd(II)}イオンを含む酸性水溶液に浸漬すると、薄い黄色のHOM−DDHMPコレクターはパラジウム{Pd(II)}イオンを吸着した褐色のHOM5−DDHMP−Pd(II)に変化する。このHOM5−DDHMP−Pd(II)を薄いHCl濃度の溶離溶液に浸漬するとHOM5−DDHMP−Pd(II)中のパラジウム{Pd(II)}イオンが溶離(遊離あるいは分離とも言う)して、褐色のHOM5−DDHMP−Pd(II)は再び薄い黄色のHOM−DDHMPコレクターに戻る。溶離溶液に溶出したパラジウム{Pd(II)}イオンは単独金属イオンであるから容易に回収できる。またHOM−DDHMPコレクターはリユースしてパラジウム{Pd(II)}イオンの吸着に使用できる。
【0074】
この色調の変化を用いてHOM−DDHMPコレクターがどの程度の量のパラジウム{Pd(II)}イオンを吸着したか知ることができる。たとえば、HOM−DDHMPコレクターが褐色になれば2ppm以上のパラジウム{Pd(II)}イオンを吸着しているので、HOM−DDHMPコレクターの{Pd(II)}イオンを含む水溶液への浸漬をやめて、水溶液からHOM−DDHMPコレクターを取り出し、HOM−DDHMP−Pd(II)からパラジウム{Pd(II)}イオンの溶離を行なうことができる。このように比色法を用いてパラジウム{Pd(II)}イオンの吸着の量を判定でき、終点検知も可能となる。
【0075】
また、この褐色のHOM−DDHMP−Pd(II)が溶離溶液に入れた後薄い黄色に変色したら殆どのパラジウム{Pd(II)}イオンはHOM−DDHMP−Pd(II)から遊離してHOM−DDHMPに変化した(戻った)と判断して良いので、HOM−DDHMPを溶離溶液から取り出して、次のパラジウム{Pd(II)}イオンの抽出に使用することができる。すなわち、HOM−DDHMPはパラジウム{Pd(II)}イオンの抽出/分離に対して可逆的である。このように色調だけでパラジウム{Pd(II)}イオンの吸着量を把握し、あるいはパラジウム{Pd(II)}イオンを吸着していないと把握できるので、パラジウム{Pd(II)}イオンの迅速な検出だけでなく、迅速な回収を行なうことができる。この結果生産性を大幅に向上させることもできる。HOM−DDHMPはパラジウムを吸着すると変色してHOM−DDHMP−Pd(II)になり、黄色からだんだん濃くなり褐色(あるいは茶色)へと変化する。この色調の変化程度によりパラジウムの吸着濃度を判定できる。そして、HOM−DDHMP−Pd(II)は溶離溶液に入れるとパラジウムを溶離して変色してHOM−DDHMPになり、褐色(あるいは茶色)から黄色へと変化する。パラジウムイオンが完全に除去されたことは、ICP−OES測定からも確認することができる。
【0076】
図21は、上記の実施例から得られた本発明のHOM5−DDHMPコレクターの適用範囲を示した表である。HOM5−DDHMPコレクターをパラジウム{Pd(II)}イオンを含む酸性水溶液に浸漬したときのHOM5−DDHMPコレクターのパラジウム{Pd(II)}イオンを吸着する応答時間は約2分、視覚的抽出限界は3.5x10-9 (mol.dm-3)で、視覚上の抽出範囲は0.0002〜15.0ppmである。パラジウム{Pd(II)}1gを吸着するHOM5−DDHMPの必要量は10gである。しかし、HOM5−DDHMPコレクターは安定な構造を有しており繰り返し使用できるので、少ない材料で多くのパラジウム{Pd(II)}を回収することができる。
【0077】
図22は、本発明のDDHMPを担持したメソポーラスシリカ(HOMS)を用いたパラジウム(Pd)の回収システムを示した図である。第1段階でメソポーラスシリカ(HOMS)を作製し、第2段階でパラジウム吸着性化合物であるDDHMPをHOMSへ担持させ、HOMS−DDHMPを作製する。次に第3段階で鉱石中(都市鉱石や自然界の鉱物など)等のパラジウムを含む金属を溶解した金属溶解液にHOMS−DDHMPを浸漬し、抽出すべき(あるいは収集すべき)目標金属であるパラジウムをHOMS−DDHMPに吸着し、HOMS−DDHMP―Pdを作る。次の第4段階(図1では第5段階)では、このHOMS−DDHMP―Pdをたとえば酸性溶液などの溶離溶液に浸漬等して目標金属であるパラジウムを分離する。この一連の操作によってパラジウムが回収または収集された。HOMS−DDHMPは第3段階で再び使用することができ、HOMS−DDHMPをリユースして何回でも使用できる。
【0078】
HOMS−DDHMPは選択性が非常に優れているため、パラジウムイオン以外の金属が金属溶解液に含まれていても、あるいはアニオンイオンや界面活性剤などがパラジウムイオンを含む溶液に含まれていても、すなわち、これらの競合イオンが存在しても、非常に選択性が良く、パラジウムイオンだけを抽出あるいは収集する。パラジウムイオンの量がppb〜ppmレベルの微量でもあるいは多量に含まれていても、他の金属イオンやアニオンや界面活性剤の含有量が微量あるいは多量に含まれていても、本発明のHOMS−DDHMPはパラジウムイオンだけを選択的に抽出あるいは収集することができる。
【0079】
本発明の特徴の一つは、メソポーラス材料の内壁を任意の複合酸化物で構成させることにより、異種の原子が整列した状態を作り上げ、そこに適切なキレートを固着させることを通じてセンシングを行うことである。本発明の技術を用いて作製したHOM5−DDHMPコレクターは産業廃棄物から貴金属イオンであるパラジウムを吸着すると視覚的に変化することからパラジウムの回収を容易に行なうことができる。しかもHOM5−DDHMPコレクターは種々の金属イオンの中でもパラジウム(II)イオンに対して高選択性を有し、光学的応答機能を備えている。本発明のHOM5−DDHMPコレクターは、活性重金属・レアアースメタル・その他の貴金属を含む廃棄物からのパラジウム(II)イオンの抽出に大変有望なものである。
【0080】
上述したように、本発明は、有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカに目標金属であるパラジウム{Pd(II)}イオンを選択的に吸着するキレート化合物のようなパラジウムイオン吸着性化合物を担持させ、そのパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目標金属であるパラジウムイオンが溶解された溶液と接触させ、目標金属であるパラジウムイオンを選択的にメソポーラスシリカに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物に吸着させる。その後で、目標金属であるパラジウムイオンを吸着したパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目標金属であるパラジウムイオンをメソポーラスシリカに担持されたパラジウムイオン吸着性化合物から遊離させ、目標金属であるパラジウムを回収する。目標金属であるパラジウムイオンが遊離されたパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、再使用できる。また、このパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはパラジウム(イオン)コレクターおよび濃度検出センサーとして使用することもできる。
【0081】
本発明は都市鉱石等に含まれるパラジウムを効率よく安価に取り出す材料およびその方法さらにはパラジウムイオンコレクターおよびセンサーを提供するものであるが、上記の説明からも分かるように、都市鉱石ばかりではなく、各種金属を含む通常の鉱石からのパラジウムイオンの抽出・吸着・逆抽出にも適用できるし、パラジウムイオンが溶け込んだ溶液、たとえばメッキや冶金等の工程から排出される廃液からのパラジウムの抽出・吸着・逆抽出して、パラジウムを回収できる。また、生活用水や廃液等に有害なパラジウムが溶け込んでいるかどうかを検査することができるし、その濃度がppb〜ppmオーダーという微量な濃度でも検出することができる。さらに生活用水や廃液等に溶け込んだパラジウムを吸着して非常に微量な濃度までパラジウム濃度を低減することができる。従ってパラジウム除去フィルターとしても使用することができる。
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、パラジウムコレクターおよびセンサーに関する産業分野、種々の金属を含む物質や材料からパラジウムを除去する産業分野、およびパラジウムを回収する産業分野において利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標金属であるパラジウムを含む各種金属が溶解された溶液(金属溶解溶液)からパラジウムイオンを吸着するとともに吸着されたパラジウムイオンを遊離することが可能な、パラジウムイオンを吸着するパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ。
【請求項2】
パラジウムイオン吸着性化合物は目標金属であるパラジウムイオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項3】
パラジウムイオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第2項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項4】
キレート化合物は、N,N’-ジサリチリデン-4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン(N,N’-4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)(DDHMP)であることを特徴とする、特許請求の範囲第3項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項5】
パラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを、目標金属であるパラジウムイオンが最大に吸着されるpH値に調整された金属溶解溶液と接触させ、メソポーラスシリカに吸着したパラジウムイオン吸着性化合物に目標金属であるパラジウムイオンを吸着させることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項6】
前記DDHMPの場合には前記pH値は2〜5、好適には3〜4であることを特徴とする、特許請求の範囲第5項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項7】
パラジウムを吸着する前は黄色の状態であり、パラジウムを吸着すると褐色に変色し、さらにパラジウムを分離するともとの黄色の状態に戻ることを特徴とする請求項4または6に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項8】
パラジウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する工程、
目標金属であるパラジウムイオンを最も良く吸着するpH値に調整された目標金属であるパラジウムイオンを含む金属溶解溶液にパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを接触させ、前記パラジウムイオン吸着性化合物に目標金属であるパラジウムイオンを選択的に吸着する工程、
目標金属であるパラジウムイオンを吸着した前記パラジウムイオン吸着性化合物から目標金属であるパラジウムイオンを遊離する工程
を含むことを特徴とするメソポーラスシリカを用いたパラジウム回収方法。
【請求項9】
比色法を用いてパラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカに吸着されたパラジウムイオンの濃度を判定する工程をさらに含むことを特徴とする特許請求の範囲第8項に記載のパラジウム回収方法。
【請求項10】
パラジウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはリユースすることを特徴とする、特許請求の範囲第8項または第9項に記載のパラジウム回収方法。
【請求項11】
パラジウムイオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第8項〜第10項のいずれかの項に記載のパラジウム回収方法。
【請求項12】
キレート化合物は、N,N’-ジサリチリデン-4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン(N,N’-4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)(DDHMP)であることを特徴とする、特許請求の範囲第11項に記載のパラジウム回収方法。
【請求項13】
前記pH値は2〜5、好適には3〜4であることを特徴とする、特許請求の範囲第12項に記載のパラジウム回収方法。
【請求項14】
前記DDHMPを担持したメソポーラスシリカがパラジウムイオンを吸着すると変色することを用いてパラジウムイオンを抽出し、および/またはパラジウムイオンを吸着したDDHMPを担持したメソポーラスシリカがパラジウムイオンを溶離すると変色し前記DDHMPを担持したメソポーラスシリカに戻ることを用いてパラジウムイオンを分離することを特徴とする、特許請求の範囲第12項または第13項に記載のパラジウム回収方法。
【請求項15】
高濃度の競合イオンの存在下でも低濃度のパラジウムイオンを収集し検出することができる、N,N’-ジサリチリデン-4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシ-2-メルカプトピリミジン(N,N’-4,5-diamino-6-hydroxy-2-mercaptopyrimidine)(DDHMP)を担持したメソポーラスシリカをベースとした視覚コレクター。
【請求項16】
比色法または紫外可視分光分析(UV-VIS-NIR
spectroscopy)を用いてパラジウムイオン濃度を決定するために使用することが可能な特許請求の範囲第15項に記載の視覚コレクター。
【請求項17】
250nm〜600nmの波長を変えながらUV−VIS−NIR分光分析を適用することによってパラジウムイオンの濃度を決定するために、視覚的にまたは定性的に使用することが可能な特許請求の範囲第16項に記載の視覚コレクター。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカを用いたパラジウム除去フィルター。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−639(P2013−639A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132745(P2011−132745)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】