パラメトリック時間領域手法を用いた地上反射波軽減
手法及びシステムは、レーダを用いた注目領域の調査のために開示される。レーダ信号は注目領域へ伝播される。注目領域に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータは収集される。尤度関数は、定義されたパラメータセットに対する、注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて計算される。パラメータセットは尤度関数の極値を見つけるために変更される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、概ねレーダに関する。さらに具体的には、本願は、パラメトリック時間領域手法(PTDM:Parametric Time-Domain Method)を用いて、レーダへの地上反射波の寄与の軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
気象レーダシステムの基本的な目的の一つは、降水量の定量的尺度を提供するために、地球を取り巻く大気をサンプリングすることである。従来の気象レーダは、大抵は100キロメートルのオーダーの広範囲にわたる許容範囲を供給している。従来のレーダシステムがどのように機能するかを表す一般的な図式は、図1に示される。この図では、レーダは丘や山104のような隆起した地理的特徴の頂点に配置される。レーダは、距離に応じて近似的に線形に伝播する電磁ビーム108を生成する。図では、ビーム108の幅が、レーダからの距離に応じてどのように増大するかが示されている。システム100がサンプリングしようとする、存在しえる気象パターン116のさまざまな例は、地球の表面112の上方の異なる位置に示される。
【0003】
気象レーダでは、地上のターゲットからくる信号は、反射波を示す。一般的には、レーダ信号の品質の改良、及び定量的な適用のために、全レーダ信号への地上波の寄与を軽減することが好ましい。このような軽減は、従来はゼロ近傍のドップラー周波数にノッチフィルタを適用することにより達成されている。このような手法の主な弱点は、特に気象エコーが小さな視線速度を有するケースにおける信号損失である。レーダ信号処理装置の最近の製品は、反射波の抑制の改良が可能である。例えば、一つの手法では、刻まれたスペクトル線を補間する高度スペクトルフィルタを用いることにより、ノッチフィルタの影響を補正する。スペクトルフィルタ技術の制限は、スペクトルモーメント測定値において有限のサンプリング長によって生じる、スペクトル漏損効果である。結果として、スペクトル処理は、反射波と信号の比率を抑える場合の、反射波の抑制の効果には限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、地上反射波の効果を軽減する改良のために、上述した技術の全般的な要求は存続している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の実施形態は、レーダ観測における地上反射波を軽減するために、パラメトリック時間領域手法(PTDM)を用いる。従って、このような実施形態は、レーダを用いた注目領域の調査方法を与える。レーダ信号は注目領域へ伝播される。注目領域に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータは収集される。尤度関数は、定義されたパラメータセットに対する、注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて計算される。パラメータセットは尤度関数の極値を見つけるために変更される。
【0006】
ある実施形態において、極値は大域的な極値であり、一方で他の実施形態では極値は局所的な極値である。極値は最小値であってもよい。
【0007】
特有の実施形態では、尤度関数は
【0008】
【数1】
であり、ここでRは要素を有する共分散行列
【0009】
【数2】
k,l=1,...,N である。
【0010】
Tsは測定された信号のサンプル、λはレーダ信号の波長、jは
、及びδはクロネッカー関数である。
【0011】
パラメータセットは、降水量信号の強さであるPp、降水スペクトル幅であるσp、降水量の平均速度である
、反射波の強さであるPc、反射波スペクトル幅であるσc、及びノイズの強さであるσN2を備える。
【0012】
ある事例では、取得された、サンプリングされた時間領域レーダデータは、取得された、不均一な時間において分布された時間領域レーダデータを備える。例えば、ある特定の実施形態では後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に2:3である。別の特定の実施形態では、後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に3:4である。
【0013】
注目領域を調査する手法は、レーダ源、レーダ検出器、及び計算機を備えるレーダシステムにおいて具現化されてもよい。レーダ源はレーダ信号を伝播するために構成され、レーダ検出器はレーダデータを収集するために構成される。計算システムは、レーダ源及びレーダ検出器と通信される。計算システムは、処理装置及び処理装置と対になるメモリを備える。メモリは、具体化されたコンピュータ読み取り可能なプログラムを中に有する、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を備える。コンピュータ読み取り可能なプログラムは、上述した手法に従って注目領域を調査するためのレーダシステムの命令操作の指示を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の本質及び利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分及び図面の参照によって実現されよう。図では、同様の参照ラベルは、数枚の図面の始めから終わりまで、同様の要素を参照するために用いられる。場合によっては参照ラベルは、後ろにラテン文字の添え字が続く、数字部分を含む。参照ラベルの数字部分だけの参照は、異なるラテン文字の添え字の数字部分を有する全ての参照ラベルを全体で参照することを目的としている。
【図1】従来のレーダシステムの実施の略図を示す。(全米科学アカデミーのレポート「複合地域にわたる鉄砲水の予測」から複製した)
【図2A】発明の実施形態において、地上反射波を軽減するためのパラメトリック時間領域手法を要約するフローチャートである。
【図2B】発明の手法が具体化されるだろう計算システムの略図である。
【図3A】、
【図3B】高度スペクトルフィルタ及びPTDMを用いた、スペクトルモーメント推定技術の性能を評価するための、模擬スペクトルを示す。
【図4A】、
【図4B】、
【図4C】、
【図4D】第1の測定シナリオの、高度スペクトルフィルタ及びPTDMを用いた反射波の軽減を比較する模擬スペクトルを示す。
【図5A】、
【図5B】、
【図5C】、
【図5D】第2の測定シナリオの、高度スペクトルフィルタ及びPTDMを用いた反射波の軽減を比較する模擬スペクトルを示す。
【図6】PTDMの、時間をずらしたパルス繰り返し時間(PRT)シーケンスへの応用を図示する。
【図7A】、
【図7B】時間をずらしたPRT観測による速度推定値の誤差を示す。
【図8】PTDMによって、2つの伝送方式における時間をずらしたPRT観測から得られた速度推定値の、バイアス及び標準偏差を示す。
【図9A】、
【図9B】、
【図9C】、
【図9D】得られた及び推定された、特殊なレーダによって計測された小量の降水量のスペクトルグラフを示す。
【図10A】、
【図10B】2つの気象エコーの状態かにおいて、PTDMが推定したスペクトルグラフを示す。
【図11A】、
【図11B】、
【図11C】、
【図11D】、
【図11E】特定のレーダによって収集された吹雪のデータにPTDMの適用例を示す。
【図12A】、
【図12B】PTDM及び高度スペクトルフィルタが推定した、反射性の違いを示す。
【図13A】、
【図13B】、
【図13C】、
【図13D】、
【図13E】特定のレーダからの観測における、PTDMの性能を図示する。
【図14A】、
【図14B】、
【図14C】、
【図14D】特定のレーダを用いて収集されたデータの速度推定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の実施形態では、レーダの地上反射波を軽減するためにパラメトリック時間領域手法を用いる。低い仰角において、降水量のドップラーパワースペクトルは、ガウス関数形式に従って考えられてもよい。これはパラメトリックスペクトルモーメント推定量の構造を許容し、最大尤度推定量の分散は漸近的にクレーマー・ラオ下界に到達するので、このようなアプローチは、より正確な評価を供給するかも知れない。多くのレーダ観測は、地上反射波スペクトルが、ゼロの中心周波数及び0.1から0.4m/sの間のスペクトル幅を用いて、ガウス関数形式に従うことで、詳細に近似値が求められるかもしれないことを示している。
【0016】
発明の手法の大まかな概説は、図2Aのフローチャートによって提供される。手法は、ブロック204として表された、注目領域にレーダ信号を伝播することにより始まればよい。サンプリングされた時間領域データは、ブロック208で収集され、注目領域の時間領域パラメトリックモデルのパラメータを決定するために用いられる。特有のモデルは、以下に示されるが、発明の別の実施形態は、異なるパラメトリックを用いてもよい。
【0017】
ブロック212で、モデルは初期パラメータセットを用いて初期化される。手法の次のステップでパラメータセットは変化し、注目領域を正確に記述するモデルのパラメータを決定することになっている。それ故に、ブロック216で、パラメトリックモデルは、初期パラメータセットとともにサンプリングデータに適用される。サンプリングデータは、異なる実施形態において、均一にまたは不均一にサンプリングされてもよい。パラメトリックモデルの適用は、特徴付ける注目領域において、パラメータセットがどれほど適しているかの基準として働く、尤度関数Lを計算するために用いられる。尤度関数Lは、パラメータ空間における尤度関数の局所的極値での最適な近似が実現されるために構成されてもよい。図2Aの例は、尤度関数Lの極小値が求められる実施形態を図示している。しかしながら、この図に限定されることを意味せず、即ち尤度関数Lの極小値が最適な近似を定義する、別の実施形態も存在する。
【0018】
従って、尤度関数はブロック220のモデル及び、ブロック224でなされる局所的極値が存在するか否かの判別で計算される。局所的極値が存在しない場合、モデルのパラメータはブロック232で変更され、手順は繰り返される。即ち、パラメトリックモデルは、ブロック220での新しい尤度関数Lの計算、及びブロック224での局所的極値が存在するかどうかの新たな試行を許容するために、ブロック216で新しいパラメータセットが適用される。ブロック232で実行されるかもしれないパラメータ変化には多くの方法があり、これらの方法は本技術分野に属する当業者に知られている。例えば、いくつかの実施形態では、多次元パラメータ空間の1次元で局所的極値が見つかるように、ブロック232に到達するにつき1つのパラメータの値を、即ちこれに続いて、他の次元の局所的極値を見つけるために他のパラメータの変化し、パラメータ空間の全ての次元の局所的極値が見つかるまで繰り返される。他の実施形態では、複数のパラメータは、ブロック232で変化されてもよい。モデルパラメータの変化の異なる手法は、注目領域の物理的特性によって少なくとも一部が決まる局所的極値への収束率を伴う、異なる実施形態で用いられてもよい。
【0019】
図2Aに関連して述べられる尤度関数Lの局所的極値の測定は、図2Bに概略的に示されるような、個々のシステム要素が分離またはより結合された方式でどのように実装されていてもよいかが図示されている計算装置に実装されてもよい。装置250は、バス276を介して電気的に連結されたハードウェア要素を備えていることが示されている。ハードウェア要素は処理装置252、入力装置254、出力装置256、記憶装置258、コンピュータ読み取り可能記録媒体リーダ260a、通信システム264、DSPや特殊用途プロセッサ等の処理加速装置266、及びメモリ268を含む。コンピュータ読み取り可能記録媒体リーダ260aは、さらにコンピュータ読み取り可能記録媒体260bが接続される。コンピュータ読み取り可能記録媒体260bは、リモート、ローカル、固定及び着脱可能で包括的に表される記録装置、さらにコンピュータ読み取り可能情報を含む一時的及び恒久的の少なくともいずれかの記録媒体のいずれの組み合わせであってもよい。通信システム264は、有線、無線、モデム、及びその他の形式の接続インタフェースの少なくともいずれかを備えてよく、データがレーダから収集されることを許容する。場合によってはこのようなデータ収集は、環境の固有パラメータを評価する通信システムによって、リアルタイムで実行される。
【0020】
計算装置250は、オペレーティングシステム274、及び発明の手法を実装するために作られたプログラムのようなその他のプログラムコード272を含む、ワーキングメモリ270に一般的に設置されるものとして示される、ソフトウェア要素も備える。本発明の技術分野に属するものであれば、多くの変更が、特定の要求に従って用いられてもよいことは、容易に理解されよう。例えば、カスタマイズされたハードウェアもまた用いられてもよいし、特定の要素がハードウェアやソフトウェア(アプレットのような携帯用のソフトウェアを含む)、またはその両方において実行されてもよい。さらに、ネットワーク入出力装置のような計算装置との接続が用いられてもよい。
【0021】
適切な尤度関数Lを構築する場合に関連する、考慮すべき事項が多数存在する。下記は、図2Aに従って実装されたPTDMと、高度スペクトルフィルタの性能の詳細な比較を示す。詳細な記述は、例示的なものであって、以下の例に限定されない。詳細な記述では、特に高度スペクトルフィルタが達成する精度と比較して、PTDMによって達成されるであろう精度の例を示す。別の実施形態では、尤度関数のその他の形式は、本発明の精神と範囲から逸脱して用いられるかもしれない。
【0022】
PTDMは時間領域の信号特性の推定に基づくため、結果はスペクトル漏損によって大きく作用されない。これにより、反射波が強い場合でも、スペクトルモーメントを正確に推定できる。反射波及び信号特性の同時推定は、降水量及び反射波スペクトルが強く重なっている場合でも、降水スペクトルモーメントを正確に検索することができる。
【0023】
速度幅のあいまいさは、レーダ観測の基本的限界である。均一なパルスの場合、最大範囲raは、明白な最大速度vaにvara=cλ/8として関連する。式において、cは光速、λはレーダ波長である。それ故、パルス繰り返し時間(PRT:Pulse Repetition Time)が増加すると、最大明確範囲が増加するが、最大明確速度は減少する。よって、レーダ信号の均一なサンプリングは常に、明白なドップラー速度と最大範囲との間のトレードオフを黙示的に内包する。
【0024】
これは、T1とT2の2つの異なるパルス間隔を切り替える、時間をずらしたPRTパルス方式が選択されることによって適合されるかもしれない。パルス対処理はこのような時間をずらしたPRTパルスが用いられる場合、明白なドップラー速度はパルス繰り返し時間の差によって決定されてもよい。特定の場合において、最大範囲は、パルス繰り返し時間の和に関連してもよい。
【0025】
発明の実施形態は、時間をずらしたPRTシーケンスに直接、PTDMが適用される。このような取り組みは、反射波フィルタ、及びパラメトリック時間領域モデルに基づくスペクトルモーメント推定の両方を許容する。それ故に、時間をずらしたPRT観測のような、不均一にサンプリングされたレーダ信号の場合にも容易に拡張できる。
【0026】
レーダ信号は、レーダ分解能量の散乱体から得られる個々の信号の和として表されてもよい。個々の信号は同様の統計的特性を有するため、受信した信号の実数及び虚数の部分の同時確率密度関数は、平均最低標準であると考えられるであろう。複素電圧の多変数の確立密度関数は、下記のように表されるだろう。
【0027】
【数3】
ここで、Vは受信した信号標本のベクトル、R=E[VVH]は共分散行列、Rv=VVHは標本共分散行列である。これらの式において、上付き文字Hは、共役の転置を意味するために用いられる。
【0028】
ノイズのドップラースペクトルがガウス形式で十分に表される条件下において、ドップラースペクトルは次のように表されるだろう。
【0029】
【数4】
ここで、Ppは降水信号の強さ、σpは降水スペクトル幅、式は降水量の平均速度、Pcは反射波の強さ、σcは反射波スペクトル幅、及びσN2はノイズの強さを示す。このスペクトル表現が与えられることにより、TSを別々にサンプリングした、計測された信号の共分散行列は、次のように表されるだろう。
【0030】
【数5】
k,l=1,...,N、及びλはレーダ波長を意味する。
【0031】
共分散行列及び密度関数のパラメトリック表現が与えられると、尤度関数Lの対数は本実施形態では次のように表されるだろう。
【0032】
【数6】
は未知のパラメータを有するベクトルであり、
は行列演算子を意味し、及びtr()はトレース演算子を意味する。上述したように、降水信号及び反射波のスペクトルモーメントは、最小化問題の解決によって得られるだろう。
【0033】
時間をずらしたPRT観測方式が用いられる実施形態において、パルス繰り返し時間は2つのパルス間隔T1及びT2を交互に行う。パルス対処理方式の場合、ドップラー速度は次のように表される。
【0034】
【数7】
ここで、R(t)は観測された信号の自己相関関数である。この場合、明白な速度vaは次のように定義される。
【0035】
【数8】
ここでT1<T2である。
【0036】
一般的にT1及びT2は、ある時間単位Tuの倍数として設定される。ある特有な実施形態ではT1/T2は約2/3であり、他の特有の実施形態ではT1/T2は約3/4であるが、発明はこれらのパルス間隔比の値に限定されず、PTDMを用いる発明の実施形態は、不均一にサンプリングされたシーケンスに直接有利に適用されてもよく、均一に信号をサンプリングする手法の適用に匹敵する結果を生み出す。時間をずらしたPRT観測の場合、特定の実施形態の標準共分散は、次のように与えられる。
【0037】
【数9】
従って、PTDMは時間をずらしたPRTシーケンスに直接適用されてもよい。
【0038】
発明者はレーダ信号シミュレーションのエラー解析を含む、発明の手法の信頼性を評価するためのいくつかの研究を実行している。手法の性能を実証するために、時系列データは特定のレーダにおいて、時間をずらしたPRT及び均一のパルスのPRT方式で収集した。PTDMは時間をずらしたPRT観測に適用され、高度スペクトルフィルタは均一のPRTを用いてデータに適用された。下記に詳細に述べるものは、匹敵する結果であり、強い反射波による悪影響の下において、PTDMは反射波の抑圧において約10dBを実現する。
【0039】
このように、第1の一連の研究において、PTDM及び高度スペクトルフィルタの性能は、時系列データにおいて評価される。シミュレーションされた時系列データのウィンドウ効果を含むために、信号は所望の時系列長の長さで40回シミュレーションされた。シミュレーションは多数の入力パラメータについて実行された。これらのパラメータの値は、以下のテーブルで示される。
【0040】
【表1】
【0041】
シミュレーションされたシナリオは比較的大きなCSR値を有するため、高度スペクトルフィルタはブラックマンウィンドウによって重み付けされた時系列データを伴うDFTを用いることにより得られたドップラースペクトルに適用される。
【0042】
スペクトルモーメント推定技術の性能を評価するために、高度スペクトルフィルタ及びPTDMはシミュレーションされた時系列データに適用された。スペクトルグラフの結果の例は図3A及び図3Bに示される。これらの結果は、CSR=40dB、SNR=20dBであり、ブラックマンウィンドウを用いて得られた、シミュレーションされたスペクトルに対応する。図3Aはスペクトル幅が4m/sの際に、シミュレーションされたパワースペクトルを示している。「高度スペクトルフィルタ近似」と識別された曲線は、高度スペクトルフィルタが推定した降水スペクトルを表しており、「PTDM近似」と識別された曲線はPTDM検索を表す。図3Bは、似ているが、降水スペクトル幅が2m/sの際の結果を示している。
【0043】
小さい降水スペクトル幅及び小さい視線速度の場合である図3A及び図3Bから、PTDMは高度スペクトルフィルタよりよく機能することは、容易に理解できる。これはノッチングフィルタの影響、及び高度スペクトルフィルタ推定におけるウィンドウによる結果として理解されてもよい。
【0044】
高度スペクトルフィルタ及びPTDMの性能のさらに完全な評価は、2つの測定シナリオにおいて実行される。第1のシナリオは、CSR=40dB及びSNR=20dBの場合である。結果は、σp=4m/s、N=64、Tu=1msである際の、強さ及び速度の測定におけるエラーを示している、図4Aから図4Dで示される。結果は、正規化された速度v/vaの関数としてプロットされている。PTDMがほとんど不偏の速度推定を与えていることは明らかである。さらに、PTDMの降水量の強さ推定は、高度スペクトルフィルタより約1dB低い標準偏差を有する。
【0045】
第2のシナリオでは、PTDMを、CSR=60dB及びSNR=20dBの場合について検証した。結果は図5Aから図5Dに示され、同様に正規化された速度v/vaの関数としてプロットされる。この場合、使用サンプル数はN=64、PRTはTu=1が再び設定された。速度推定の標準偏差が2ms未満であり、バイアスが0.6m/s未満であることは明らかである。推定強さは0.2倍のvaより大きい速度において不偏であり、標準偏差は3dB未満である。結果はそれ故、CSRが60dBのように高い場合であっても、PTDMがよい検索結果を得られることを主張している。
【0046】
時間をずらしたPRTシーケンスの結果は、反射波による悪影響がない場合、及び反射波による悪影響がある場合の両方について考えてもよい。反射波による悪影響がない場合、速度推定精度は、発明者によって、スペクトル幅の異なる値について考えられている。図6では、速度を読み出したPTDMの標準エラーは、パルス対の値と比較される。パルス対手法はTuのサンプリングタイムが0.5msである均一なシーケンスに適用され、PTDMは時間をずらしたPRTシーケンスの二つの場合に適用された。第1の場合、T1は2倍のTuと等しく、T2は3倍のTuに等しかった。第2の場合、T1は3倍のTu、T2は4倍のTuに等しかった。両方の場合、80及び112msの観測時間のそれぞれにおける結果として、シーケンス長は64のサンプルであった。均一なシーケンスの長さは、80msの観測時間に対応する160のサンプルであった。
【0047】
両方の場合に、PTDMはスペクトル幅のほとんどの値において、パルス対技術よりよく機能することは、図6において明らかである。3/4観測形式は、5.5m/sを上回る降水エコースペクトル幅において、速度の標準偏差の上昇がある。2/3観測形式は、8m/sを上回るスペクトル幅において、このような上昇がある。比較のために、図6は特定のスペクトル手法を用いて得られた結果を含んでいる。即ち、前述の結果は、M.サチダナンダ及びD.S.ズルニックによる「時間をずらしたパルス繰り返し時間(PRT)を用いたドップラー気象レーダのための反射波フィルタ及びスペクトルモーメント推定」J.アトモス.オーシャニック研究所 17, 323(2000)(サチダナンダ)に記載されている。
【0048】
反射波による悪影響が存在する場合における発明の手法の性能を評価するために、CSR値がそれぞれ40及び60dBの、2つの場合がシミュレーションされている。CSR値が40dBである場合のPTDM速度推定の結果は、図7A及び図7Bに与えられる。図7Aはサチダナンダによって計測された速度推定のエラーを示しているが、一方、図7BはSNR=20dB、CSR=40dB、σp=4m/s、及びN=64の場合の、PTDMの性能を示している。PTDMの性能は、速度推定のバイアス及び標準偏差で定量化されている。図7Bと同様の結果は、CSR=40の場合の速度推定のバイアス及び標準偏差の形で、図8に与えられる。この図の場合、観測はT1/T2が2/3及び3/4の2つの伝達方式において与えられる。これらの結果の発生に用いられるほかの関連のあるパラメータは、SNR=20dB、σp=4m/s、及びN=64を含む。2つの伝達方式の両方において、速度推定の標準偏差は1m/sを上回らず、速度バイアスはゼロに近い。地上反射波の複製が見られると思われる周波数帯において、推定バイアスの増加もない。これらの結果は、発明のPTDM手法が、CSRが60dBと高い反射波による悪影響を伴う場合でさえも、とても正確な速度推定を与えることを示している。これらの推定は、全てのドップラー周波数帯において不偏である。
【0049】
下記に示す上述以外の結果は、特定の日の特定のレーダによって収集された、時系列の降水量のデータに上述した手法を適用することによる、発明の手法の性能を示している。これらの測定において、レーダアンテナは0度の仰角を成していた。図9Aから9Dで、観測及び推定されたスペクトルグラフは、レーダによって計測された小量の降水量を表している。図9Aはオリジナルのスペクトルグラフを示している。図9Bは、推定された降水量に対する高度スペクトルフィルタのスペクトルグラフを示している。図9C及び9Dは、それぞれ発明のPTDM手法によって推定された反射波及び降水スペクトルグラフを示している。これらの結果から、高度スペクトルフィルタが推定したスペクトルは、はわずかにPTDMスペクトルより広いことは明らかである。このような特性は、高度スペクトルフィルタ検索におけるウィンドウの影響に起因すると考えてもよい。計算されたスペクトルの目視検査の後、それらはガウス形式曲線に従っていないと結論を出すかもしれない。
【0050】
これは2つの降水エコーを考慮するために手法が適応された、発明の実施形態において対応されている。図10A及び10Bで、このような実施形態の応用例の結果である降水量推定がプロットされている。ほとんど全ての範囲のゲートにおいて、推定手順は2番目の気象エコーの存在を発見していることは容易に観測できる。図9Aのスペクトルグラフと、図10Aのスペクトルグラフが酷似していることは注目すべきに値する。
【0051】
PTDM及び高度スペクトルフィルタ手法は、特定の日に収集された吹雪のデータにもまた適用された。観測のPPIは図11Aから11Eに示されている。仰角は0.5度、PRTはTu=1msであった。フィルタされていない反射性は図11Aに示される。それぞれPTDM及び高度スペクトルフィルタによる結果の反射性は、図11B及び図11Cに示される。そして、PTDM及び高度スペクトルフィルタによる結果の速度は図11D及び図11Eに示される。方位角が270度近辺におけるとても強い反射波の存在は、結果から明らかである。推定された反射性の違いは、図12A及び図12Bに示される。図12Aは高度スペクトルフィルタによる結果を示し、図12BはPTDMによる結果を示している。これらの結果は、この特定の例において、PTDMを用いる発明の実施形態は、高度スペクトルフィルタよりも約10dB以上の反射波の抑圧を与えていることを裏付けている。
【0052】
時間をずらしたPRTシーケンスの発明の手法の応用例は、図13及び図14に示されている。レーダ測定におけるPTDMの性能を示すために、時間をすらしたPRT観測は特定のレーダで特定の日に収集された。測定は、反射性が20dBZを上回らない小量の雨の際に行われた。全体で、次の3つのPPIが収集された。(1)T1=1.5ms及びT2=2msにおける3/4の時間をずらしたPRTサンプリング方式のPPI、(2)T=1msにおける均一なサンプリング方式のPPI、(3)T1=1ms及びT2=1.5msにおける時間をずらしたPRTのPPIである。それぞれの測定における時間差は約5分であった。
【0053】
時間をずらしたPRTシーケンスにおけるPTDMの性能と比較するために、高度スペクトルフィルタの反射波抑圧手法は、均一にサンプリングされた観測に適用された。図13Aから13EはPPIの結果を示している。図13Aはオリジナルの反射性を示し、図13Bは高度スペクトルフィルタ手法で測定された1つのPRTの反射性を示している。図13CはPTDMにおける1つのPRTの結果を示し、図13DはPTDMにおける2/3の時間をずらしたPRTサンプリングでの反射性を示し、及び図13EはPTDMにおける3/4の時間をずらしたPRTサンプリングでの反射性を示している。図14Aから14Dは、対応する速度推定を示している。具体的に、図14Aは高度スペクトルフィルタ手法で測定された速度を示し、図14BはPTDMにおける均一なPRTの速度を示し、図14CはPTDMにおける2/3の時間をずらしたPRTサンプリングの速度を示し、及び図14DはPTDMにおける3/4の時間をずらしたPRTサンプリングの速度を示している。少なくともこの例では、PTDMは全ての場合において高度スペクトルフィルタよりよい性能を有している。これは、20kmより短い範囲、及び既知の地質特性からの反射波による悪影響が存在する西の方向を含めた測定において、明確である。概して、発明の手法の使用は、高度スペクトルフィルタよりも約10dB以上の反射波の抑圧結果を得ることができ、この性能は伝播された波形から実質的に独立している。
【0054】
パラメトリック時間領域手法を用いる発明の実施形態は、均一及び時間をずらしたPRTシーケンスの両方に適用されてもよい。CSRが少なくとも60dB程高い、強い反射波による悪影響がある場合でさえも、手法の性能は良い。レーダ観測のシミュレーションは、速度推定は視線速度の全ての値において実質的に不偏であることを明らかにしている。加えて、時間をずらしたPRTサンプリングを用いた測定方式は、少なくともスペクトル幅の値が6m/sに至るまで、良い結果を示している。発明の手法は、概して高度スペクトルフィルタの使用よりもよい、反射波の抑圧を達成している。
【0055】
このように、いくつかの実施形態で述べられていることは、本技術分野に属する当業者によって、発明の精神を逸脱しない範囲で、様々な変更、別の構造及び相当物が用いられることが認められるだろう。したがって、上述の記載は発明の範囲を限定するものとしてとられるべきではなく、発明は以下の請求項で定義される。
【技術分野】
【0001】
本願は、概ねレーダに関する。さらに具体的には、本願は、パラメトリック時間領域手法(PTDM:Parametric Time-Domain Method)を用いて、レーダへの地上反射波の寄与の軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
気象レーダシステムの基本的な目的の一つは、降水量の定量的尺度を提供するために、地球を取り巻く大気をサンプリングすることである。従来の気象レーダは、大抵は100キロメートルのオーダーの広範囲にわたる許容範囲を供給している。従来のレーダシステムがどのように機能するかを表す一般的な図式は、図1に示される。この図では、レーダは丘や山104のような隆起した地理的特徴の頂点に配置される。レーダは、距離に応じて近似的に線形に伝播する電磁ビーム108を生成する。図では、ビーム108の幅が、レーダからの距離に応じてどのように増大するかが示されている。システム100がサンプリングしようとする、存在しえる気象パターン116のさまざまな例は、地球の表面112の上方の異なる位置に示される。
【0003】
気象レーダでは、地上のターゲットからくる信号は、反射波を示す。一般的には、レーダ信号の品質の改良、及び定量的な適用のために、全レーダ信号への地上波の寄与を軽減することが好ましい。このような軽減は、従来はゼロ近傍のドップラー周波数にノッチフィルタを適用することにより達成されている。このような手法の主な弱点は、特に気象エコーが小さな視線速度を有するケースにおける信号損失である。レーダ信号処理装置の最近の製品は、反射波の抑制の改良が可能である。例えば、一つの手法では、刻まれたスペクトル線を補間する高度スペクトルフィルタを用いることにより、ノッチフィルタの影響を補正する。スペクトルフィルタ技術の制限は、スペクトルモーメント測定値において有限のサンプリング長によって生じる、スペクトル漏損効果である。結果として、スペクトル処理は、反射波と信号の比率を抑える場合の、反射波の抑制の効果には限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、地上反射波の効果を軽減する改良のために、上述した技術の全般的な要求は存続している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の実施形態は、レーダ観測における地上反射波を軽減するために、パラメトリック時間領域手法(PTDM)を用いる。従って、このような実施形態は、レーダを用いた注目領域の調査方法を与える。レーダ信号は注目領域へ伝播される。注目領域に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータは収集される。尤度関数は、定義されたパラメータセットに対する、注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて計算される。パラメータセットは尤度関数の極値を見つけるために変更される。
【0006】
ある実施形態において、極値は大域的な極値であり、一方で他の実施形態では極値は局所的な極値である。極値は最小値であってもよい。
【0007】
特有の実施形態では、尤度関数は
【0008】
【数1】
であり、ここでRは要素を有する共分散行列
【0009】
【数2】
k,l=1,...,N である。
【0010】
Tsは測定された信号のサンプル、λはレーダ信号の波長、jは
、及びδはクロネッカー関数である。
【0011】
パラメータセットは、降水量信号の強さであるPp、降水スペクトル幅であるσp、降水量の平均速度である
、反射波の強さであるPc、反射波スペクトル幅であるσc、及びノイズの強さであるσN2を備える。
【0012】
ある事例では、取得された、サンプリングされた時間領域レーダデータは、取得された、不均一な時間において分布された時間領域レーダデータを備える。例えば、ある特定の実施形態では後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に2:3である。別の特定の実施形態では、後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に3:4である。
【0013】
注目領域を調査する手法は、レーダ源、レーダ検出器、及び計算機を備えるレーダシステムにおいて具現化されてもよい。レーダ源はレーダ信号を伝播するために構成され、レーダ検出器はレーダデータを収集するために構成される。計算システムは、レーダ源及びレーダ検出器と通信される。計算システムは、処理装置及び処理装置と対になるメモリを備える。メモリは、具体化されたコンピュータ読み取り可能なプログラムを中に有する、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を備える。コンピュータ読み取り可能なプログラムは、上述した手法に従って注目領域を調査するためのレーダシステムの命令操作の指示を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の本質及び利点のさらなる理解は、明細書の残りの部分及び図面の参照によって実現されよう。図では、同様の参照ラベルは、数枚の図面の始めから終わりまで、同様の要素を参照するために用いられる。場合によっては参照ラベルは、後ろにラテン文字の添え字が続く、数字部分を含む。参照ラベルの数字部分だけの参照は、異なるラテン文字の添え字の数字部分を有する全ての参照ラベルを全体で参照することを目的としている。
【図1】従来のレーダシステムの実施の略図を示す。(全米科学アカデミーのレポート「複合地域にわたる鉄砲水の予測」から複製した)
【図2A】発明の実施形態において、地上反射波を軽減するためのパラメトリック時間領域手法を要約するフローチャートである。
【図2B】発明の手法が具体化されるだろう計算システムの略図である。
【図3A】、
【図3B】高度スペクトルフィルタ及びPTDMを用いた、スペクトルモーメント推定技術の性能を評価するための、模擬スペクトルを示す。
【図4A】、
【図4B】、
【図4C】、
【図4D】第1の測定シナリオの、高度スペクトルフィルタ及びPTDMを用いた反射波の軽減を比較する模擬スペクトルを示す。
【図5A】、
【図5B】、
【図5C】、
【図5D】第2の測定シナリオの、高度スペクトルフィルタ及びPTDMを用いた反射波の軽減を比較する模擬スペクトルを示す。
【図6】PTDMの、時間をずらしたパルス繰り返し時間(PRT)シーケンスへの応用を図示する。
【図7A】、
【図7B】時間をずらしたPRT観測による速度推定値の誤差を示す。
【図8】PTDMによって、2つの伝送方式における時間をずらしたPRT観測から得られた速度推定値の、バイアス及び標準偏差を示す。
【図9A】、
【図9B】、
【図9C】、
【図9D】得られた及び推定された、特殊なレーダによって計測された小量の降水量のスペクトルグラフを示す。
【図10A】、
【図10B】2つの気象エコーの状態かにおいて、PTDMが推定したスペクトルグラフを示す。
【図11A】、
【図11B】、
【図11C】、
【図11D】、
【図11E】特定のレーダによって収集された吹雪のデータにPTDMの適用例を示す。
【図12A】、
【図12B】PTDM及び高度スペクトルフィルタが推定した、反射性の違いを示す。
【図13A】、
【図13B】、
【図13C】、
【図13D】、
【図13E】特定のレーダからの観測における、PTDMの性能を図示する。
【図14A】、
【図14B】、
【図14C】、
【図14D】特定のレーダを用いて収集されたデータの速度推定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の実施形態では、レーダの地上反射波を軽減するためにパラメトリック時間領域手法を用いる。低い仰角において、降水量のドップラーパワースペクトルは、ガウス関数形式に従って考えられてもよい。これはパラメトリックスペクトルモーメント推定量の構造を許容し、最大尤度推定量の分散は漸近的にクレーマー・ラオ下界に到達するので、このようなアプローチは、より正確な評価を供給するかも知れない。多くのレーダ観測は、地上反射波スペクトルが、ゼロの中心周波数及び0.1から0.4m/sの間のスペクトル幅を用いて、ガウス関数形式に従うことで、詳細に近似値が求められるかもしれないことを示している。
【0016】
発明の手法の大まかな概説は、図2Aのフローチャートによって提供される。手法は、ブロック204として表された、注目領域にレーダ信号を伝播することにより始まればよい。サンプリングされた時間領域データは、ブロック208で収集され、注目領域の時間領域パラメトリックモデルのパラメータを決定するために用いられる。特有のモデルは、以下に示されるが、発明の別の実施形態は、異なるパラメトリックを用いてもよい。
【0017】
ブロック212で、モデルは初期パラメータセットを用いて初期化される。手法の次のステップでパラメータセットは変化し、注目領域を正確に記述するモデルのパラメータを決定することになっている。それ故に、ブロック216で、パラメトリックモデルは、初期パラメータセットとともにサンプリングデータに適用される。サンプリングデータは、異なる実施形態において、均一にまたは不均一にサンプリングされてもよい。パラメトリックモデルの適用は、特徴付ける注目領域において、パラメータセットがどれほど適しているかの基準として働く、尤度関数Lを計算するために用いられる。尤度関数Lは、パラメータ空間における尤度関数の局所的極値での最適な近似が実現されるために構成されてもよい。図2Aの例は、尤度関数Lの極小値が求められる実施形態を図示している。しかしながら、この図に限定されることを意味せず、即ち尤度関数Lの極小値が最適な近似を定義する、別の実施形態も存在する。
【0018】
従って、尤度関数はブロック220のモデル及び、ブロック224でなされる局所的極値が存在するか否かの判別で計算される。局所的極値が存在しない場合、モデルのパラメータはブロック232で変更され、手順は繰り返される。即ち、パラメトリックモデルは、ブロック220での新しい尤度関数Lの計算、及びブロック224での局所的極値が存在するかどうかの新たな試行を許容するために、ブロック216で新しいパラメータセットが適用される。ブロック232で実行されるかもしれないパラメータ変化には多くの方法があり、これらの方法は本技術分野に属する当業者に知られている。例えば、いくつかの実施形態では、多次元パラメータ空間の1次元で局所的極値が見つかるように、ブロック232に到達するにつき1つのパラメータの値を、即ちこれに続いて、他の次元の局所的極値を見つけるために他のパラメータの変化し、パラメータ空間の全ての次元の局所的極値が見つかるまで繰り返される。他の実施形態では、複数のパラメータは、ブロック232で変化されてもよい。モデルパラメータの変化の異なる手法は、注目領域の物理的特性によって少なくとも一部が決まる局所的極値への収束率を伴う、異なる実施形態で用いられてもよい。
【0019】
図2Aに関連して述べられる尤度関数Lの局所的極値の測定は、図2Bに概略的に示されるような、個々のシステム要素が分離またはより結合された方式でどのように実装されていてもよいかが図示されている計算装置に実装されてもよい。装置250は、バス276を介して電気的に連結されたハードウェア要素を備えていることが示されている。ハードウェア要素は処理装置252、入力装置254、出力装置256、記憶装置258、コンピュータ読み取り可能記録媒体リーダ260a、通信システム264、DSPや特殊用途プロセッサ等の処理加速装置266、及びメモリ268を含む。コンピュータ読み取り可能記録媒体リーダ260aは、さらにコンピュータ読み取り可能記録媒体260bが接続される。コンピュータ読み取り可能記録媒体260bは、リモート、ローカル、固定及び着脱可能で包括的に表される記録装置、さらにコンピュータ読み取り可能情報を含む一時的及び恒久的の少なくともいずれかの記録媒体のいずれの組み合わせであってもよい。通信システム264は、有線、無線、モデム、及びその他の形式の接続インタフェースの少なくともいずれかを備えてよく、データがレーダから収集されることを許容する。場合によってはこのようなデータ収集は、環境の固有パラメータを評価する通信システムによって、リアルタイムで実行される。
【0020】
計算装置250は、オペレーティングシステム274、及び発明の手法を実装するために作られたプログラムのようなその他のプログラムコード272を含む、ワーキングメモリ270に一般的に設置されるものとして示される、ソフトウェア要素も備える。本発明の技術分野に属するものであれば、多くの変更が、特定の要求に従って用いられてもよいことは、容易に理解されよう。例えば、カスタマイズされたハードウェアもまた用いられてもよいし、特定の要素がハードウェアやソフトウェア(アプレットのような携帯用のソフトウェアを含む)、またはその両方において実行されてもよい。さらに、ネットワーク入出力装置のような計算装置との接続が用いられてもよい。
【0021】
適切な尤度関数Lを構築する場合に関連する、考慮すべき事項が多数存在する。下記は、図2Aに従って実装されたPTDMと、高度スペクトルフィルタの性能の詳細な比較を示す。詳細な記述は、例示的なものであって、以下の例に限定されない。詳細な記述では、特に高度スペクトルフィルタが達成する精度と比較して、PTDMによって達成されるであろう精度の例を示す。別の実施形態では、尤度関数のその他の形式は、本発明の精神と範囲から逸脱して用いられるかもしれない。
【0022】
PTDMは時間領域の信号特性の推定に基づくため、結果はスペクトル漏損によって大きく作用されない。これにより、反射波が強い場合でも、スペクトルモーメントを正確に推定できる。反射波及び信号特性の同時推定は、降水量及び反射波スペクトルが強く重なっている場合でも、降水スペクトルモーメントを正確に検索することができる。
【0023】
速度幅のあいまいさは、レーダ観測の基本的限界である。均一なパルスの場合、最大範囲raは、明白な最大速度vaにvara=cλ/8として関連する。式において、cは光速、λはレーダ波長である。それ故、パルス繰り返し時間(PRT:Pulse Repetition Time)が増加すると、最大明確範囲が増加するが、最大明確速度は減少する。よって、レーダ信号の均一なサンプリングは常に、明白なドップラー速度と最大範囲との間のトレードオフを黙示的に内包する。
【0024】
これは、T1とT2の2つの異なるパルス間隔を切り替える、時間をずらしたPRTパルス方式が選択されることによって適合されるかもしれない。パルス対処理はこのような時間をずらしたPRTパルスが用いられる場合、明白なドップラー速度はパルス繰り返し時間の差によって決定されてもよい。特定の場合において、最大範囲は、パルス繰り返し時間の和に関連してもよい。
【0025】
発明の実施形態は、時間をずらしたPRTシーケンスに直接、PTDMが適用される。このような取り組みは、反射波フィルタ、及びパラメトリック時間領域モデルに基づくスペクトルモーメント推定の両方を許容する。それ故に、時間をずらしたPRT観測のような、不均一にサンプリングされたレーダ信号の場合にも容易に拡張できる。
【0026】
レーダ信号は、レーダ分解能量の散乱体から得られる個々の信号の和として表されてもよい。個々の信号は同様の統計的特性を有するため、受信した信号の実数及び虚数の部分の同時確率密度関数は、平均最低標準であると考えられるであろう。複素電圧の多変数の確立密度関数は、下記のように表されるだろう。
【0027】
【数3】
ここで、Vは受信した信号標本のベクトル、R=E[VVH]は共分散行列、Rv=VVHは標本共分散行列である。これらの式において、上付き文字Hは、共役の転置を意味するために用いられる。
【0028】
ノイズのドップラースペクトルがガウス形式で十分に表される条件下において、ドップラースペクトルは次のように表されるだろう。
【0029】
【数4】
ここで、Ppは降水信号の強さ、σpは降水スペクトル幅、式は降水量の平均速度、Pcは反射波の強さ、σcは反射波スペクトル幅、及びσN2はノイズの強さを示す。このスペクトル表現が与えられることにより、TSを別々にサンプリングした、計測された信号の共分散行列は、次のように表されるだろう。
【0030】
【数5】
k,l=1,...,N、及びλはレーダ波長を意味する。
【0031】
共分散行列及び密度関数のパラメトリック表現が与えられると、尤度関数Lの対数は本実施形態では次のように表されるだろう。
【0032】
【数6】
は未知のパラメータを有するベクトルであり、
は行列演算子を意味し、及びtr()はトレース演算子を意味する。上述したように、降水信号及び反射波のスペクトルモーメントは、最小化問題の解決によって得られるだろう。
【0033】
時間をずらしたPRT観測方式が用いられる実施形態において、パルス繰り返し時間は2つのパルス間隔T1及びT2を交互に行う。パルス対処理方式の場合、ドップラー速度は次のように表される。
【0034】
【数7】
ここで、R(t)は観測された信号の自己相関関数である。この場合、明白な速度vaは次のように定義される。
【0035】
【数8】
ここでT1<T2である。
【0036】
一般的にT1及びT2は、ある時間単位Tuの倍数として設定される。ある特有な実施形態ではT1/T2は約2/3であり、他の特有の実施形態ではT1/T2は約3/4であるが、発明はこれらのパルス間隔比の値に限定されず、PTDMを用いる発明の実施形態は、不均一にサンプリングされたシーケンスに直接有利に適用されてもよく、均一に信号をサンプリングする手法の適用に匹敵する結果を生み出す。時間をずらしたPRT観測の場合、特定の実施形態の標準共分散は、次のように与えられる。
【0037】
【数9】
従って、PTDMは時間をずらしたPRTシーケンスに直接適用されてもよい。
【0038】
発明者はレーダ信号シミュレーションのエラー解析を含む、発明の手法の信頼性を評価するためのいくつかの研究を実行している。手法の性能を実証するために、時系列データは特定のレーダにおいて、時間をずらしたPRT及び均一のパルスのPRT方式で収集した。PTDMは時間をずらしたPRT観測に適用され、高度スペクトルフィルタは均一のPRTを用いてデータに適用された。下記に詳細に述べるものは、匹敵する結果であり、強い反射波による悪影響の下において、PTDMは反射波の抑圧において約10dBを実現する。
【0039】
このように、第1の一連の研究において、PTDM及び高度スペクトルフィルタの性能は、時系列データにおいて評価される。シミュレーションされた時系列データのウィンドウ効果を含むために、信号は所望の時系列長の長さで40回シミュレーションされた。シミュレーションは多数の入力パラメータについて実行された。これらのパラメータの値は、以下のテーブルで示される。
【0040】
【表1】
【0041】
シミュレーションされたシナリオは比較的大きなCSR値を有するため、高度スペクトルフィルタはブラックマンウィンドウによって重み付けされた時系列データを伴うDFTを用いることにより得られたドップラースペクトルに適用される。
【0042】
スペクトルモーメント推定技術の性能を評価するために、高度スペクトルフィルタ及びPTDMはシミュレーションされた時系列データに適用された。スペクトルグラフの結果の例は図3A及び図3Bに示される。これらの結果は、CSR=40dB、SNR=20dBであり、ブラックマンウィンドウを用いて得られた、シミュレーションされたスペクトルに対応する。図3Aはスペクトル幅が4m/sの際に、シミュレーションされたパワースペクトルを示している。「高度スペクトルフィルタ近似」と識別された曲線は、高度スペクトルフィルタが推定した降水スペクトルを表しており、「PTDM近似」と識別された曲線はPTDM検索を表す。図3Bは、似ているが、降水スペクトル幅が2m/sの際の結果を示している。
【0043】
小さい降水スペクトル幅及び小さい視線速度の場合である図3A及び図3Bから、PTDMは高度スペクトルフィルタよりよく機能することは、容易に理解できる。これはノッチングフィルタの影響、及び高度スペクトルフィルタ推定におけるウィンドウによる結果として理解されてもよい。
【0044】
高度スペクトルフィルタ及びPTDMの性能のさらに完全な評価は、2つの測定シナリオにおいて実行される。第1のシナリオは、CSR=40dB及びSNR=20dBの場合である。結果は、σp=4m/s、N=64、Tu=1msである際の、強さ及び速度の測定におけるエラーを示している、図4Aから図4Dで示される。結果は、正規化された速度v/vaの関数としてプロットされている。PTDMがほとんど不偏の速度推定を与えていることは明らかである。さらに、PTDMの降水量の強さ推定は、高度スペクトルフィルタより約1dB低い標準偏差を有する。
【0045】
第2のシナリオでは、PTDMを、CSR=60dB及びSNR=20dBの場合について検証した。結果は図5Aから図5Dに示され、同様に正規化された速度v/vaの関数としてプロットされる。この場合、使用サンプル数はN=64、PRTはTu=1が再び設定された。速度推定の標準偏差が2ms未満であり、バイアスが0.6m/s未満であることは明らかである。推定強さは0.2倍のvaより大きい速度において不偏であり、標準偏差は3dB未満である。結果はそれ故、CSRが60dBのように高い場合であっても、PTDMがよい検索結果を得られることを主張している。
【0046】
時間をずらしたPRTシーケンスの結果は、反射波による悪影響がない場合、及び反射波による悪影響がある場合の両方について考えてもよい。反射波による悪影響がない場合、速度推定精度は、発明者によって、スペクトル幅の異なる値について考えられている。図6では、速度を読み出したPTDMの標準エラーは、パルス対の値と比較される。パルス対手法はTuのサンプリングタイムが0.5msである均一なシーケンスに適用され、PTDMは時間をずらしたPRTシーケンスの二つの場合に適用された。第1の場合、T1は2倍のTuと等しく、T2は3倍のTuに等しかった。第2の場合、T1は3倍のTu、T2は4倍のTuに等しかった。両方の場合、80及び112msの観測時間のそれぞれにおける結果として、シーケンス長は64のサンプルであった。均一なシーケンスの長さは、80msの観測時間に対応する160のサンプルであった。
【0047】
両方の場合に、PTDMはスペクトル幅のほとんどの値において、パルス対技術よりよく機能することは、図6において明らかである。3/4観測形式は、5.5m/sを上回る降水エコースペクトル幅において、速度の標準偏差の上昇がある。2/3観測形式は、8m/sを上回るスペクトル幅において、このような上昇がある。比較のために、図6は特定のスペクトル手法を用いて得られた結果を含んでいる。即ち、前述の結果は、M.サチダナンダ及びD.S.ズルニックによる「時間をずらしたパルス繰り返し時間(PRT)を用いたドップラー気象レーダのための反射波フィルタ及びスペクトルモーメント推定」J.アトモス.オーシャニック研究所 17, 323(2000)(サチダナンダ)に記載されている。
【0048】
反射波による悪影響が存在する場合における発明の手法の性能を評価するために、CSR値がそれぞれ40及び60dBの、2つの場合がシミュレーションされている。CSR値が40dBである場合のPTDM速度推定の結果は、図7A及び図7Bに与えられる。図7Aはサチダナンダによって計測された速度推定のエラーを示しているが、一方、図7BはSNR=20dB、CSR=40dB、σp=4m/s、及びN=64の場合の、PTDMの性能を示している。PTDMの性能は、速度推定のバイアス及び標準偏差で定量化されている。図7Bと同様の結果は、CSR=40の場合の速度推定のバイアス及び標準偏差の形で、図8に与えられる。この図の場合、観測はT1/T2が2/3及び3/4の2つの伝達方式において与えられる。これらの結果の発生に用いられるほかの関連のあるパラメータは、SNR=20dB、σp=4m/s、及びN=64を含む。2つの伝達方式の両方において、速度推定の標準偏差は1m/sを上回らず、速度バイアスはゼロに近い。地上反射波の複製が見られると思われる周波数帯において、推定バイアスの増加もない。これらの結果は、発明のPTDM手法が、CSRが60dBと高い反射波による悪影響を伴う場合でさえも、とても正確な速度推定を与えることを示している。これらの推定は、全てのドップラー周波数帯において不偏である。
【0049】
下記に示す上述以外の結果は、特定の日の特定のレーダによって収集された、時系列の降水量のデータに上述した手法を適用することによる、発明の手法の性能を示している。これらの測定において、レーダアンテナは0度の仰角を成していた。図9Aから9Dで、観測及び推定されたスペクトルグラフは、レーダによって計測された小量の降水量を表している。図9Aはオリジナルのスペクトルグラフを示している。図9Bは、推定された降水量に対する高度スペクトルフィルタのスペクトルグラフを示している。図9C及び9Dは、それぞれ発明のPTDM手法によって推定された反射波及び降水スペクトルグラフを示している。これらの結果から、高度スペクトルフィルタが推定したスペクトルは、はわずかにPTDMスペクトルより広いことは明らかである。このような特性は、高度スペクトルフィルタ検索におけるウィンドウの影響に起因すると考えてもよい。計算されたスペクトルの目視検査の後、それらはガウス形式曲線に従っていないと結論を出すかもしれない。
【0050】
これは2つの降水エコーを考慮するために手法が適応された、発明の実施形態において対応されている。図10A及び10Bで、このような実施形態の応用例の結果である降水量推定がプロットされている。ほとんど全ての範囲のゲートにおいて、推定手順は2番目の気象エコーの存在を発見していることは容易に観測できる。図9Aのスペクトルグラフと、図10Aのスペクトルグラフが酷似していることは注目すべきに値する。
【0051】
PTDM及び高度スペクトルフィルタ手法は、特定の日に収集された吹雪のデータにもまた適用された。観測のPPIは図11Aから11Eに示されている。仰角は0.5度、PRTはTu=1msであった。フィルタされていない反射性は図11Aに示される。それぞれPTDM及び高度スペクトルフィルタによる結果の反射性は、図11B及び図11Cに示される。そして、PTDM及び高度スペクトルフィルタによる結果の速度は図11D及び図11Eに示される。方位角が270度近辺におけるとても強い反射波の存在は、結果から明らかである。推定された反射性の違いは、図12A及び図12Bに示される。図12Aは高度スペクトルフィルタによる結果を示し、図12BはPTDMによる結果を示している。これらの結果は、この特定の例において、PTDMを用いる発明の実施形態は、高度スペクトルフィルタよりも約10dB以上の反射波の抑圧を与えていることを裏付けている。
【0052】
時間をずらしたPRTシーケンスの発明の手法の応用例は、図13及び図14に示されている。レーダ測定におけるPTDMの性能を示すために、時間をすらしたPRT観測は特定のレーダで特定の日に収集された。測定は、反射性が20dBZを上回らない小量の雨の際に行われた。全体で、次の3つのPPIが収集された。(1)T1=1.5ms及びT2=2msにおける3/4の時間をずらしたPRTサンプリング方式のPPI、(2)T=1msにおける均一なサンプリング方式のPPI、(3)T1=1ms及びT2=1.5msにおける時間をずらしたPRTのPPIである。それぞれの測定における時間差は約5分であった。
【0053】
時間をずらしたPRTシーケンスにおけるPTDMの性能と比較するために、高度スペクトルフィルタの反射波抑圧手法は、均一にサンプリングされた観測に適用された。図13Aから13EはPPIの結果を示している。図13Aはオリジナルの反射性を示し、図13Bは高度スペクトルフィルタ手法で測定された1つのPRTの反射性を示している。図13CはPTDMにおける1つのPRTの結果を示し、図13DはPTDMにおける2/3の時間をずらしたPRTサンプリングでの反射性を示し、及び図13EはPTDMにおける3/4の時間をずらしたPRTサンプリングでの反射性を示している。図14Aから14Dは、対応する速度推定を示している。具体的に、図14Aは高度スペクトルフィルタ手法で測定された速度を示し、図14BはPTDMにおける均一なPRTの速度を示し、図14CはPTDMにおける2/3の時間をずらしたPRTサンプリングの速度を示し、及び図14DはPTDMにおける3/4の時間をずらしたPRTサンプリングの速度を示している。少なくともこの例では、PTDMは全ての場合において高度スペクトルフィルタよりよい性能を有している。これは、20kmより短い範囲、及び既知の地質特性からの反射波による悪影響が存在する西の方向を含めた測定において、明確である。概して、発明の手法の使用は、高度スペクトルフィルタよりも約10dB以上の反射波の抑圧結果を得ることができ、この性能は伝播された波形から実質的に独立している。
【0054】
パラメトリック時間領域手法を用いる発明の実施形態は、均一及び時間をずらしたPRTシーケンスの両方に適用されてもよい。CSRが少なくとも60dB程高い、強い反射波による悪影響がある場合でさえも、手法の性能は良い。レーダ観測のシミュレーションは、速度推定は視線速度の全ての値において実質的に不偏であることを明らかにしている。加えて、時間をずらしたPRTサンプリングを用いた測定方式は、少なくともスペクトル幅の値が6m/sに至るまで、良い結果を示している。発明の手法は、概して高度スペクトルフィルタの使用よりもよい、反射波の抑圧を達成している。
【0055】
このように、いくつかの実施形態で述べられていることは、本技術分野に属する当業者によって、発明の精神を逸脱しない範囲で、様々な変更、別の構造及び相当物が用いられることが認められるだろう。したがって、上述の記載は発明の範囲を限定するものとしてとられるべきではなく、発明は以下の請求項で定義される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダを用いた注目領域の調査方法であって、
前記注目領域へレーダ信号を伝播する伝播手段と、
前記注目領域内に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータを収集する収集手段と、
定義されたパラメータセットに対する、前記注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて、尤度関数を計算する計算手段と、
前記尤度関数の極値を求めるために、前記定義されたパラメータセットを変更する変更手段とを有することを特徴とする調査方法。
【請求項2】
前記極値は大域的な極値であることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項3】
前記極値は局所的な極値であることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項4】
前記極値は最小値であることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項5】
前記尤度関数は
であり、ここでRは要素を有する共分散行列
k,l=1,...,N
であり、
Tsは測定された信号のサンプル、
λはレーダ信号の波長、
jは
、及び
σはクロネッカー関数であり、
前記パラメータセットは
降水量信号の強さであるPp、
降水スペクトル幅であるσp、
降水量の平均速度である
、
反射波の強さであるPc、
反射波スペクトル幅であるσc、及び
ノイズの強さであるσN2
を備えることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項6】
前記サンプリングされた時間領域レーダデータを取得する取得手段は、取得された、不均一な時間において分布された時間領域レーダデータを備えることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項7】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に2:3であることを特徴とする請求項6に記載の調査方法。
【請求項8】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に3:4であることを特徴とする請求項6に記載の調査方法。
【請求項9】
レーダを用いて注目領域を調査するレーダシステムであって、
レーダ信号を伝播するレーダ源と、
レーダデータを収集するレーダ検出器と、
前記レーダ源、及び前記レーダ検出器と通信する計算システムであって、前記計算システムは処理装置及び前記処理装置と対になるメモリを備え、前記メモリは、前記レーダシステムの命令操作のために、前記注目領域の調査が具現されたコンピュータ読み取り可能なプログラムを有する、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である計算システムとを備え、
前記コンピュータ読み取り可能なプログラムは、
前記レーダ源を用いて、前記注目領域に前記レーダ信号を伝播するための伝播指示と、
前記レーダ検出機を用いて、前記注目領域内に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータを収集する収集指示と、
定義されたパラメータセットに対する、前記注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて、尤度関数を前記処理装置で計算するための計算指示と、
前記尤度関数の極値を前記処理装置で求めるために、前記定義されたパラメータセットを変更するための変更指示を有することを特徴とするレーダシステム。
【請求項10】
前記極値は大域的な極値であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項11】
前記極値は局所的な極値であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項12】
前記極値は最小値であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項13】
前記尤度関数は
であり、ここでRは要素を有する共分散行列
k,l=1,...,N
であり、
Tsは測定された信号のサンプル、
λはレーダ信号の波長、
jは
、及び
σはクロネッカー関数であり、
前記パラメータセットは
降水量信号の強さであるPp、
降水スペクトル幅であるσp、
降水量の平均速度である
、
反射波の強さであるPc、
反射波スペクトル幅であるσc、及び
ノイズの強さであるσN2
を備えることを特徴とすることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項14】
前記サンプリングされた時間領域レーダデータを取得するための取得指示は、不均一な時間において分布された時間領域のレーダデータを取得するための指示を含むことを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項15】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に2:3であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項16】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に3:4であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項1】
レーダを用いた注目領域の調査方法であって、
前記注目領域へレーダ信号を伝播する伝播手段と、
前記注目領域内に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータを収集する収集手段と、
定義されたパラメータセットに対する、前記注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて、尤度関数を計算する計算手段と、
前記尤度関数の極値を求めるために、前記定義されたパラメータセットを変更する変更手段とを有することを特徴とする調査方法。
【請求項2】
前記極値は大域的な極値であることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項3】
前記極値は局所的な極値であることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項4】
前記極値は最小値であることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項5】
前記尤度関数は
であり、ここでRは要素を有する共分散行列
k,l=1,...,N
であり、
Tsは測定された信号のサンプル、
λはレーダ信号の波長、
jは
、及び
σはクロネッカー関数であり、
前記パラメータセットは
降水量信号の強さであるPp、
降水スペクトル幅であるσp、
降水量の平均速度である
、
反射波の強さであるPc、
反射波スペクトル幅であるσc、及び
ノイズの強さであるσN2
を備えることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項6】
前記サンプリングされた時間領域レーダデータを取得する取得手段は、取得された、不均一な時間において分布された時間領域レーダデータを備えることを特徴とする請求項1に記載の調査方法。
【請求項7】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に2:3であることを特徴とする請求項6に記載の調査方法。
【請求項8】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に3:4であることを特徴とする請求項6に記載の調査方法。
【請求項9】
レーダを用いて注目領域を調査するレーダシステムであって、
レーダ信号を伝播するレーダ源と、
レーダデータを収集するレーダ検出器と、
前記レーダ源、及び前記レーダ検出器と通信する計算システムであって、前記計算システムは処理装置及び前記処理装置と対になるメモリを備え、前記メモリは、前記レーダシステムの命令操作のために、前記注目領域の調査が具現されたコンピュータ読み取り可能なプログラムを有する、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である計算システムとを備え、
前記コンピュータ読み取り可能なプログラムは、
前記レーダ源を用いて、前記注目領域に前記レーダ信号を伝播するための伝播指示と、
前記レーダ検出機を用いて、前記注目領域内に散乱された、サンプリングされた時間領域レーダデータを収集する収集指示と、
定義されたパラメータセットに対する、前記注目領域のパラメトリックモデルのサンプリングされた時間領域データを用いて、尤度関数を前記処理装置で計算するための計算指示と、
前記尤度関数の極値を前記処理装置で求めるために、前記定義されたパラメータセットを変更するための変更指示を有することを特徴とするレーダシステム。
【請求項10】
前記極値は大域的な極値であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項11】
前記極値は局所的な極値であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項12】
前記極値は最小値であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項13】
前記尤度関数は
であり、ここでRは要素を有する共分散行列
k,l=1,...,N
であり、
Tsは測定された信号のサンプル、
λはレーダ信号の波長、
jは
、及び
σはクロネッカー関数であり、
前記パラメータセットは
降水量信号の強さであるPp、
降水スペクトル幅であるσp、
降水量の平均速度である
、
反射波の強さであるPc、
反射波スペクトル幅であるσc、及び
ノイズの強さであるσN2
を備えることを特徴とすることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項14】
前記サンプリングされた時間領域レーダデータを取得するための取得指示は、不均一な時間において分布された時間領域のレーダデータを取得するための指示を含むことを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項15】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に2:3であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【請求項16】
後に取得された時間領域レーダデータ間の時間間隔の比は実質的に3:4であることを特徴とする請求項9に記載のレーダシステム。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【公表番号】特表2010−535344(P2010−535344A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520135(P2010−520135)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/071495
【国際公開番号】WO2009/045618
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(592246587)コロラド ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (17)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/071495
【国際公開番号】WO2009/045618
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(592246587)コロラド ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (17)
【Fターム(参考)】
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