説明

パラレルシーム接合装置

【課題】 パッケージとキャップとの良好な接合結果を得ること。
【解決手段】 回路部品を収容しているパッケージとキャップとにローラ電極を介して溶接電流を流して前記パッケージとキャップとを固着するパラレルシーム接合装置において、インバータ回路は、その半導体スイッチがスイッチング周波数でオンオフを繰り返すインバータ運転時間と、インバータ運転時間よりも長い時間前、半導体スイッチがオフしているインバータ運転停止時間とを交互に繰り返すように動作し、インバータ運転時間を制御することによって、インバータ運転時間に相当するパルス幅を有するパルス状直流電流のパルス幅を制御し、スイッチング周波数で動作する半導体スイッチのオン時間をパルス幅制御することによりパルス状直流電流の値を制御し、制御されたパルス状直流電流を溶接電流としてパッケージとキャップとに通電するパラレルシーム接合装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体素子などの回路部品を収容してなるパッケージとこのパッケージを密閉するためのキャップとを接合又はろう付けによって固着するパラレルシーム接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子などのような回路部品を収納してなるパッケージと、このパッケージの開口部を覆って気密封止する蓋となるキャップとを接合するには、図9(A)に示すように、一対のローラ電極51をパッケージ53とキャップ55との互いに対向する周縁に沿って転動させながら、これらローラ電極間に溶接電流を流して接合を行っている。ローラ電極51に給電される電力については、図9(B)に示すように50Hz又は60Hzの商用交流電力を位相制御して、必要な交流電力を供給する一般的な方法と、商用電力を整流回路によって一端直流電力に変換し、その直流電力を通常のインバータ回路によって所望の周波数の交流電力に変換して、図9(C)に示すような所望周波数の交流電力を供給する方法などが既に提示されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1の発明による電力供給方法は、インバータ周波数1kHz程度で正負一対のパルス(図9(C))を溶接トランスに供給することによって、その溶接トランスを偏励磁させることなく動作させ、また、適当な冷却時間を設けることによって蓄熱現象に対応しながら、交流電力をローラ電極間に供給している。インバータ回路は溶接電流の繰り返し周波数を1kHz〜2kHzと高くすることができるという利点はあるものの、特許文献2にも述べられているように、インバータ周波数が1kHz〜2kHzと高くなると、表皮効果によって、本来の接合部であるパッケージとキャップとを通して流れる溶接電流が減少し、キャップを通して流れる電流が増大するために、満足の行く溶接ができなくなる場合もある。また、1kHz〜2kHzは可聴周波数であり、耳障りな騒音が発生するので、可聴周波数よりも高い周波数、例えば20kHz以上にすると、前述のように表皮効果によって溶接に寄与する電流が更に少なくなるので、可聴周波数よりも高い周波数まで高周波化することは難しい。このことは、溶接トランスの小型化にとっても中途半端になり、満足するほど小型化はできない。
【0004】
特許文献2の発明による電力供給方法は、特許文献1の発明による電力供給方法の問題点を解決するために、インバータ周波数を250Hz〜500Hzと低周波数にしているが、この電力供給方法の場合には、インバータのパルス幅制御だけで溶接電流の幅と冷却時間とを制御することになるので、それらの制御範囲が制約されてしまい、種々の大きさ、材料のパッケージに対応できない場合があり、また、インバータ周波数が低いので、溶接トランスが大型化してしまうという問題がある。
【0005】
さらに、特許文献1、2の発明における問題点を解決する溶接装置として、インバータ回路によって高周波電力に変換した高周波交流電力を溶接トランスの2次側に備えた整流回路によって直流電力に変換し、パッケージとキャップとに直流出力電力を供給して溶接するものも開示されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3の発明の溶接装置は、特にパラレルシーム接合を意図したものでは無いので、高周波インバータ回路で前記直流出力電力のパルス幅を制御しても、パラレルシーム接合装置において解決しなければならない蓄熱現象による問題を回避するのは難しい。
【特許文献1】特開平9−206957号公報
【特許文献2】特開2000−301351公報
【特許文献3】特開平6−71461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1ないし特許文献3の発明によれば、それぞれ前述したような問題点を包含しており、本発明では、そのような問題点をすべて解決し、かつ従来構造の接合だけでなく、パッケージとキャップとを銀ろうのようなろう材によるろう付けにも対応できるパラレルシーム接合を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、前記課題を解決するため、交流入力電源と、溶接エネルギー蓄積用コンデンサと、前記交流入力電源からの交流電力を直流電力に変換して前記溶接エネルギー蓄積用コンデンサに供給する入力側整流回路と、半導体スイッチを備えるインバータ部と前記半導体スイッチを前記交流入力電源の周波数に比べて高いスイッチング周波数でオンオフさせる制御部とを備えるインバータ回路と、そのインバータ回路が接続されている1次巻線と出力側整流回路が接続されている2次巻線とを有する溶接用トランスとを備え、回路部品を収容しているパッケージとキャップとにローラ電極を介して溶接電流を流して前記パッケージとキャップとを固着するパラレルシーム接合装置において、前記インバータ回路は、前記半導体スイッチがスイッチング周波数でオンオフを繰り返すインバータ運転時間と、そのインバータ運転時間よりも長い時間、前記半導体スイッチがオフしているインバータ運転停止時間とを交互に繰り返すように動作し、前記インバータ運転時間を制御することによって、前記インバータ運転時間に相当するパルス幅を有するパルス状直流電流のパルス幅を制御し、前記スイッチング周波数で動作する前記半導体スイッチのオン時間をパルス幅制御することにより前記パルス状直流電流の値を制御し、制御された前記パルス状直流電流を前記溶接電流として前記パッケージとキャップとに通電することを特徴とするパラレルシーム接合装置を提供する。
【0008】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記パルス状直流電流は、そのパルス幅に等しい時間内で脈動し、断続しないことを特徴とするパラレルシーム接合装置を提供する。
【0009】
第3の発明は、前記第1の発明又は前記第2の発明において、前記インバータ運転時間の途中から前記インバータ回路の前記半導体スイッチのオンパルス幅を急激に小さくして、前記パルス状直流電流を段階的に減少させることを特徴とするパラレルシーム接合装置を提供する。
【0010】
第4の発明は、前記第1の発明ないし前記第3の発明のいずれかにおいて、前記インバータ運転時間の途中から前記インバータ回路の前記半導体スイッチのオンパルス幅を徐々に小さくして、前記パルス状直流電流を所定の傾斜又は曲線に従って減少させることを特徴とするパラレルシーム接合装置を提供する。
【0011】
第5の発明は、前記第1の発明ないし前記第4の発明のいずれかにおいて、前記インバータ運転時間における前記半導体スイッチのオンパルス幅は、その直ぐ前の前記インバータ運転時間における前記半導体スイッチのオンパルス幅よりも小さいことを特徴とするパラレルシーム接合装置を提供する。
【0012】
第6の発明は、前記第1の発明ないし前記第5の発明のいずれかにおいて、前記パッケージとキャップとの接合工程の途中から前記インバータ運転時間を短くして前記インバータ運転停止時間を長くすることを特徴とするパラレルシーム接合装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
前記第1ないし第6の発明によれば、高周波化による表皮効果の影響が無く、かつ蓄熱現象による問題点を解決し、パッケージとキャップとを良好に接合することができる。特に、前記第3の発明ないし第6の発明によれば、パッケージとキャップとを銀ろうでろう付けする場合にも良好な溶接結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[実施形態1]
図1ないし図3により本発明に係る第1の実施形態であるパラレルシーム接合装置100について説明する。図1はパラレルシーム接合装置100を示す図であり、図2はパラレルシーム接合装置100における駆動回路の1形態を示す図であり、図3はパラレルシーム接合装置100を説明するための波形図である。
【0015】
3相交流電源1からの3相交流電力は通常の回路構成の3相全波整流器のような入力側整流回路3によって直流電力に変換され、エネルギー蓄積用コンデンサ5に充電される。入力側整流回路3は、整流用ダイオードだけで構成されても良いし、整流用ダイオードと制御整流器のような制御可能なスイッチ素子とを直列接続したものを3相ブリッジ構成としてもよい。また、エネルギー蓄積用コンデンサ5は複数個の電解コンデンサを並列接続したものからなる。エネルギー蓄積用コンデンサ5に充電されたエネルギーはインバータ回路によって交流に変換される。インバータ回路は、IGBT又はMOSFETのような電圧駆動型のもの、あるいはバイポーラトランジスタのような電流駆動型のものからなる半導体スイッチQ1〜Q4をブリッジ構成にしたインバータ部7とそれを制御する制御部9とからなる。エネルギー蓄積用コンデンサ5に充電されたエネルギーは、インバータ回路によって溶接トランス11の1次巻線N1交互の向きに電流となって放電され、その2次巻線N2に流れる交流電流は出力側整流回路13によって直流に変換され、ローラ電極15と17との間をパッケージ19とキャップ21を通して直流電流が流れる。
【0016】
出力側整流回路13は、溶接トランス11の2次巻線N2の中点に一方のローラ電極15が接続され、2次巻線N2の両端は整流用ダイオード13a、13bを通して共通に接続された両波整流回路となっているが、通常の構成の全波整流回路であってもよい。インバータ回路の制御部9は、溶接電流を検出する電流検出回路9A、電流設定回路9B、電流検出回路9Aで検出された検出信号と電流設定回路9Bからの電流設定信号とを演算して、それの差に相当する信号を出力する演算回路9C、演算回路9Cからの信号に応じて溶接電流の前記検出信号が前記電流設定信号に等しくなるような駆動信号をインバータ部7に与える駆動回路9Dで構成される。
【0017】
駆動回路9Dは、図2に示すように、可聴周波数を越える高周波、例えば20kHz以上の高周波パルス信号H(図3(A))を発生する高周波信号発生回路9D1、低周波数、好ましくは50〜100Hzの範囲のパルス幅制御信号L(図3(B))を発生するPWM信号発生回路9D2、高周波信号発生回路9D1からの高周波パルス信号HとPWM信号発生回路9D2からの低周波数のパルス幅制御信号LとのAND論理を行うAND論理回路9D3、及びAND論理回路9D3からの信号を分周してインバータ部7のIGBTのような半導体スイッチ用の四つのパルス信号を形成すると共に、必要な電圧値に増幅してそれぞれの前記半導体スイッチの駆動端子に駆動信号を出力する分周・電力増幅回路9D4からなる。
【0018】
PWM信号発生回路9D2は、周波数の調整やデューティサイクルの設定を行うことができるものであり、それらが調整され、あるいは設定された状態で、演算回路9Cからの信号によって、溶接電流が設定値になるようにパルス幅制御信号Lのデューティサイクルが制御される。このデューティサイクル(T1/T1+T2)は、インバータ回路のインバータ運転時間T1とインバータ運転停止時間T2とを決定し、インバータ運転時間T1は1.5〜3ミリ秒強の範囲内にあることが好ましく、インバータ運転停止時間T2は7〜20ミリ秒の範囲にあるのが好ましい。これら時間はローラ電極15、17の速度にも影響される。
【0019】
この実施形態1では、PWM信号発生回路9D2が出力するパルス幅制御信号Lの周波数を80Hzとする。この周波数は、高周波信号発生回路9D1の高周波パルス信号Hの周波数を20kHzとすると、1/125である。パルス幅制御信号Lの1周期は12.5ミリ秒であり、デューティサイクルが1/5とすれば、正のパルス幅制御信号Lのパルス幅は2.5ミリ秒であり、10ミリ秒の期間はほぼゼロ電位の期間である。したがって、AND論理回路9D3は2.5ミリ秒の期間に20kHzの高周波パルス信号Hを50個送出し、10ミリ秒の期間は高周波パルス信号Hを分周・電力増幅回路9D4に送出しない。そして次の周期に入って、また2.5ミリ秒の期間に高周波パルス信号Hを50個送出してインバータ部7を高周波でスイッチング動作させ、10ミリ秒の期間は高周波パルス信号Hを分周・電力増幅回路9D4に送出しないので、インバータ部7はスイッチング動作を行わない。つまり、駆動回路9Dは、2.5ミリ秒の期間に高周波の駆動信号(図3(C))を50個送出し、続く10ミリ秒の期間は駆動信号をインバータ部7に送出しない。このことを繰り返す。ここで、PWM信号発生回路9D2は外部から周波数を変更できるようになっており、ローラ電極15、17の回動速度に応じてパルス幅制御信号Lの周波数、つまり周期を変えられるようになっている。
【0020】
駆動回路9Dから2.5ミリ秒の期間に、50個の高周波駆動信号(図3(C))がインバーバ部7の半導体スイッチQ1〜Q4に印加されることによって、半導体スイッチQ1、Q2と、半導体スイッチQ3、Q4とが交互にオンオフを繰り返し、高周波の交流電流が溶接トランス11の1次巻線N1に流れ、2次巻線N2に伝達されて高周波の交流電流が流れ、その高周波の交流電流は、出力側整流回路13によって図3(D)に示すようなパルス状直流電流Pに変換される。このパルス状直流電流を拡大すると、高周波交流電流を整流した小パルス幅のパルスが溶接トランス11の2次側回路に含まれているインダクタンスを充電、放電することによって脈動した電流波形となり、図3(E)に示すようになる。つまり、パルス状直流電流Pの頂部は平坦ではなく脈動する波形になるが、前記インダクタンスが小さ過ぎたり、そのインダクタンス値に対してインバータ周波数が低過ぎる場合には、脈動が大きくなるが、20kHzの高周波では回路に必然的に含まれるインダクタンスによって不都合は生じない。もしも前記脈動が大きくなったり、断続が生じるような場合には、所期の熱エネルギーをパッケージ19とキャップ21とに与えることができないので、溶接トランスの2次側に適当なインダクタを備えればよい。
【0021】
したがって、この実施形態1ではほぼ2.5ミリ秒のパルス幅T1をもつパルス状直流電流Pがローラ電極17からキャップ21、パッケージ19を通してローラ電極15に流れ、そのパルス幅T1に続く10ミリ秒の期間T2では駆動信号がインバータ部7に与えられないので、インバータ部7はスイッチング動作を停止する。この状態を繰り返す。つまり、ほぼ2.5ミリ秒のインバータ運転時間の後にはほぼ10ミリ秒のインバータ運転停止時間T2となる状態を繰り返す。インバータ運転時間T1でパルス状直流電流Pがローラ電極17側からキャップ21とパッケージ19とを通してローラ電極15側に一方向に流れることにより入熱が行われ、その後のインバータ運転停止時間T2でその熱が広がり、かつ放熱が行われることによって、従来問題とされていた蓄熱現象を解決することができ、また、キャップ21とパッケージ19には直流電流が流れるので、表皮効果は働かず、したがって、高周波化しても良好な接合結果を得ることができる。
【0022】
この実施形態によれば、PWM信号発生回路9D2が発生する低周波数のパルス幅制御信号Lのパルス幅を変えるだけで、つまりデューティサイクルを変更するだけで、例えばデューティサイクルを1/4、あるいは1/8などに変更することによって、インバータ運転時間T1とインバータ運転停止時間T2とを任意に変えることができる。このことは、パッケージ19とキャップ21との材質、それらの間の接合用金属材料の材質、又は銀ろうで代表されるろう材によるろう付けに対して容易に対応でき、良好な接合結果を得ることができる。例えば、パルス幅制御信号Lの周波数が100Hzであって、そのデューティサイクルが1/5であるとし、高周波信号発生回路9D1の高周波パルス信号Hの周波数は20kHzのままであるとすると、インバータ運転時間T1はほぼ2ミリ秒で、インバータ運転停止時間T2はほぼ8ミリ秒となる。ほぼ2ミリ秒の期間では40個の高周波パルス信号Hが発生され、これがほぼ2ミリ秒のパルス状直流電流をほぼ8ミリ秒の間隔をおいて供給する。したがって、この場合には、ほぼ2ミリ秒の期間にパッケージ19とキャップ21とに溶接電流が流れ、ほぼ8ミリ秒の期間で放熱が行われることになる。そして前述のパルス幅制御信号Lのデューティサイクルは、演算回路9Cからの信号によって、パルス状直流電流の検出値が電流設定回路9Bの設定値と等しくなるように、制御される。
【0023】
[実施形態2]
図1、図4、図5によって本発明に係る第2の実施形態であるパラレルシーム接合について説明する。図4は、この実施形態によるパルス状直流電流Pの波形を示す波形図である。図5はこのパラレルシーム接合装置における駆動回路9Dの別の1形態を示す図である。図5において、図1、図2で用いた記号と同一の記号は同じ名称の部材を示すものとする。この実施形態2が前記実施形態1と異なる点は、高周波信号発生回路9D1からの高周波パルス信号Hを、パルス幅設定回路9D6に従ってパルス幅制御を行う高周波パルス幅変調信号発生器9D5を備え、高周波パルス幅変調信号発生器9D5が出力する高周波パルス幅変調信号hのパルス幅を制御することによって、パルス状直流電流Pの初期電流値Iaを途中から予め決めた電流値Ibに減少させるところにある。このようにパルス状直流電流Pの電流値を途中から減少させることによって、前述の蓄熱現象による問題点を解決している。高周波パルス幅変調信号発生器9D5は、一般的には、高周波信号発生回路9D1からの高周波パルス信号Hを鋸歯状の電圧波形にし、パルス幅設定回路9D6からの信号によって変化する電圧レベルと比較してパルス幅を決めるものである。
【0024】
例えば、PWM信号発生回路9D2のパルス幅制御信号Lの周波数を50Hzとすると、その1周期は20ミリ秒であるから、そのデューティサイクルを1/10とすると、前述からも分かるように、インバータ運転時間T1はほぼ2ミリ秒になり、インバータ運転停止時間T2はほぼ18ミリ秒となる。つまり、2ミリ秒のパルス幅のパルス状直流電流Pをほぼ18ミリ秒の間隔をおいてパッケージ19とキャップ21とに供給することになる。そして、高周波信号発生回路9D1からの高周波パルス信号Hの周波数を20kHzとすると、高周波パルス幅変調信号発生器9D5が出力する高周波パルス幅変調信号hの周波数も20kHzとなる。この実施形態2ではその周波数を一定とする。2ミリ秒の時間には、高周波パルス幅変調信号hが約40個含まれ、パルス幅設定回路9D6から設定信号が与えられなければ、実施形態1の場合と同じように、前記40個の高周波パルス幅変調信号hのパルス幅は皆同じで、予め設定されたパルス幅になる。
【0025】
しかし、この実施形態では予め決められた時点t1、例えば、パルス幅の中間時点と同等な、高周波信号発生回路9D1の高周波パルス信号Hを20個カウントした時点t1で、21個目以降の高周波パルス信号Hについて、パルス幅設定回路9D6はパルス幅を所定値に縮小、例えばそれまでのパルス幅の5/8にするような信号、つまり、鋸歯状の電圧波形と比較される電圧レベルが対応するレベルに変化することによって、高周波パルス幅変調信号発生器9D5はパルス幅の縮小された高周波パルス幅変調信号hを出力する。パルス幅が5/8に縮小された高周波パルス幅変調信号hによって、図1のインバータ部7の半導体スイッチQ2、Q4のオン期間は時刻t1から5/8になるので、パルス状直流電流は図4に示すように、時刻t1まで電流値がIaで、時刻t1を経過すると電流値がIbとなる段階的に減少する電流波形になる。なお、半導体スイッチQ1、Q3は交互にオンオフを繰り返す。
【0026】
このようなパルス状直流電流Pを通電することによって、パッケージ19とキャップ21とを銀ろうでろう付けする場合にも、短時間で銀ろうが溶融又は軟化するように、各パルス状直流電流Pの初期を大きな電流値とし、途中から電流値を適切な値に低下させることによって、パッケージ19とキャップ21とにおける銀ろうの接合形状が、ローラ電極15、17の転動方向に比べてローラ電極15と17との間の方向、つまりパルス状直流電流の流れる方向に長くなるようにできる。基本的にこのような電流波形にすることによって、パッケージ19とキャップ21との大きさ、接合金属材料の種類、あるいは銀ろうなどのろう材の種類に応じて、短時間でそれら接合金属材料又はろう材を軟化又は溶融させる大きな初期電流値に設定し、接合金属材料又はろう材が軟化又は溶融した時点でその状態を保持する発熱量を維持する電流値に減少させることにより、銀ろうでもってパッケージ19とキャップ21とをろう付けする場合にも良好な接合結果を得ることができる。
【0027】
この場合にも、インバータ運転時間T1、インバータ運転停止時間T2を選定することは大切である。また、実施形態2においても、各パルス状直流電流Pが図1で示した電流設定回路9Bからの電流設定信号と等しくなるように、PWM信号発生回路9D2はパルス幅制御信号Lのパルス幅変調動作を行い、インバータ運転時間T1、インバータ運転停止時間T2の制御を行って、パルス状直流電流Pの検出値が電流設定回路9Bからの電流設定信号になるように制御する。したがって、電流設定回路9Bは図4に示したような電流波形パターンを設定値として有している。なお、前記実施形態では時刻t1で1回だけ電流値を低下させたが、必要ならば同様にして、2段階、3段階で電流値を減少させても良い。
【0028】
[実施形態3]
図1、図5、図6によって本発明に係る第3の実施形態であるパラレルシーム接合について説明する。図6はこの実施形態によるそれぞれのパルス状直流電流の波形を示す波形図である。パラレルシーム接合装置の構成は実施形態2のものと同様であり、図1における電流設定回路9Bの電流設定の変更と、図5におけるパルス幅設定回路9D6の基準電流設定の変更などを行うことによって実現される。
【0029】
図1に示す制御部9における電流設定回路9Bは、各種パラレルシーム接合実験の結果から求められた、図6に示すような電流波形の電流設定パターンを有する。パルス状直流電流Pの初期電流値は、短時間で接合金属材料又はろう材を軟化又は溶融させる大きな値に設定され、その初期電流値をどの程度の長さの時間保持し、その後どの程度の傾斜で電流値を減少させれば良好な接合結果が得られるかを実験結果から求めて設定したものである。この実施形態では、PWM信号発生回路9D2のパルス幅制御信号Lの周波数は80Hzで、デューティサイクルを1/5としている。したがって、パルス状直流電流の1周期は12.5ミリ秒、インバータ運転時間T1、つまりパルス状直流電流Pのパルス幅は2.5ミリ秒、インバータ運転停止時間T2は10ミリ秒となる。初期電流値が保持される時刻はt1までであり、時刻はt1はインバータ運転時間T1、つまりパルス状直流電流のパルス幅の20〜30%の時間であり、時刻t1後は初期電流値の30〜50%の値までほぼ直線的な傾斜で下降する。
【0030】
パルス状直流電流Pの傾斜部Icは、図5に示す高周波パルス幅変調信号発生器9D5の高周波パルス幅変調信号hのパルス幅をパルス幅設定回路9D6によって、時刻t1から徐々に狭くすることによって形成される。例えば、高周波信号発生回路9D1の高周波パルス信号Hの周波数を20kHzとし、時刻t1が2.5ミリ秒のパルス幅のパルス状直流電流Pの0.5ミリ秒であるとすれば、傾斜部Icは2ミリ秒となる。2ミリ秒には40個の高周波パルス信号Hが含まれ、時刻t1から高周波パルス信号Hの初期電流値の1.5%の割合でパルス幅を縮小すると、40個目の最後の高周波パルス幅変調信号hのパルス幅は初期電流値の40%になる。このようにすることにより、初期電流値のほぼ40%になるまで電流値を徐々に減少させることができ、前述した蓄熱現象による障害を取り除くことができる。
【0031】
この実施形態3において、実施形態2における図4のパルス状直流電流Pの波形と組み合わせ、例えば時刻t1で急激に高周波パルス幅変調信号hのパルス幅を小さくし、その後は徐々に小さくするようにパルス幅制御することによって、パルス状直流電流Pの初期電流値を大きなものにすることができ、しかも接合部の温度を有効に保持でき、かつ蓄熱の問題を解決し得るパルス状直流電流Pを形成することができる。なお、傾斜部Icは必ずしも直線である必要はなく、弧状であってもよい。
【0032】
この実施形態3においても、図1における電流設定回路9Bは図6に示すような電流設定パターンを有する。したがって、図1における演算回路9Cはこの電流設定パターンと前記パルス状直流電流の検出値とを演算してそれらの差に相当する信号をPWM信号発生回路9D2に与え、PWM信号発生回路9D2はその信号に基づいてパルス幅制御信号Lのパルス幅制御を行い、前記パルス状直流電流Pの検出値が前記電流設定パターンと等しくなるよう制御する。
【0033】
[実施形態4]
図1、図5、図7によって本発明に係る第4の実施形態であるパラレルシーム接合について説明する。図7はこの実施形態によるそれぞれのパルス状直流電流Pの波形を示す波形図である。パラレルシーム接合装置の構成の概要は実施形態2のものと同様であり、図1における電流設定回路9Bの電流設定の変更と、図5におけるパルス幅設定回路9D6の基準電流設定の変更などを行うことによって実現される。図7のパルス状直流電流Pの波形は、電流値が交互に小さくなっている。電流値の大きなパルス状直流電流P1の場合には、図5に示す高周波パルス幅変調信号発生器9D5の高周波パルス幅変調信号hのパルス幅は大きい。つまり、パルス幅設定回路9D6は高周波パルス幅変調信号hのパルス幅を大きくするレベルの信号を出力する。次に、パルス状直流電流P1に比べて値が20〜30%小さいパルス状直流電流P2の場合には、パルス幅設定回路9D6は高周波パルス幅変調信号hのパルス幅を20〜30%小さくするレベルの電圧信号を出力する。一般的なパルス幅制御では、鋸歯状波電圧と比較される前記レベルの電圧信号を高くすることによって、高周波パルス幅変調信号hのパルス幅は小さくなる。
【0034】
次のパルス状直流電流P3はパルス状直流電流P1と同じ電流値を有し、パルス状直流電流P2の電流値よりも20〜30%大きくなるように、パルス幅設定回路9D6は高周波パルス幅変調信号hのパルス幅を大きくするレベルの電圧信号を出力する。この電圧信号のレベルは、パルス状直流電流P1のときのレベルと同じである。更に、その次のパルス状直流電流P4はパルス状直流電流P2と同じ電流値を有し、パルス状直流電流P1、P3に比べて20〜30%電流値が小さい。パルス幅設定回路9D6は、パルス状直流電流P2のときと同様に、パルス状直流電流P1、P3に比べて高周波パルス幅変調信号hのパルス幅を20〜30%小さくするレベルの電圧信号を出力する。このように交互にパルス状直流電流の電流値を大小に変化させることによって、前述の蓄熱現象による問題点を解決することができ、良好な接合結果を得ることができる。
【0035】
この実施形態4においても、図1における電流設定回路9Bは図7に示すような波形に相似する輪郭の電流設定パターンを有する。したがって、図1における演算回路9Cはこの電流設定パターンと前記パルス状直流電流の検出値とを演算してそれらの差に相当する信号をPWM信号発生回路9D2に与え、PWM信号発生回路9D2はその信号に基づいてパルス幅制御を行い、前記パルス状直流電流の検出値が前記電流設定パターンに等しくなるよう制御する。なお、パルス状直流電流P1とP3、P2とP4の電流値は必ずしも同一である必要はなく、この実施形態4は、パルス幅設定回路9D6にプログラミングされている前記電圧信号のレベルに従ってパルス状直流電流P1、P2、P3、P4の電流値を適切に変更することによって、前述の蓄熱現象による影響の無い良好な接合結果が得られる具体例を示したものである。また、実施形態1〜3との組み合わせも可能である。
【0036】
[実施形態5]
図1、図5、図8によって本発明に係る第5の実施形態であるパラレルシーム接合について説明する。図8はこの実施形態における接合工程の終了近傍のパルス状直流電流の波形を示す波形図である。この実施形態では、図1に示した制御回路9の電流設定回路9Bが接合工程の終了近傍でパルス幅を狭くする電流設定パターンを有すると共に、図5に示す駆動回路9Dにおける高周波パルス幅変調信号発生器9D5がパルス幅一定の高周波パルス幅変調信号hを発生するところに特徴がある。したがって、この実施形態では、接合工程の終了近傍におけるパルス状直流電流P1、P2、P3の電流値は一定であり、電流設定回路9Bの電流設定パターンに従って、PWM信号発生回路9D2は100Hz以下の低周波数のパルス幅制御信号Lのパルス幅を狭くする。これによって、インバータ運転時間T1は短くなるのでパルス状直流電流P1、P2、P3のパルス幅が狭くなり、パッケージ19とキャップ21とに通電される電流量が減ると共に、パルス状直流電流P1とP2との間隔、パルス状直流電流P2とP3との間隔が長くなるので、冷却時間が長くなり、前述の蓄熱現象による影響の無い良好な接合結果を得ることができる。
【0037】
なお、以上の実施形態は入力が3相交流の場合について述べたが、単相交流の場合でも勿論よく、単相交流の場合には、図示しないが、入力側整流回路3は整流用ダイオードを4個ブリッジ接続した構成の整流回路などとなる。
また、インバータ部7については、前述のような2個の半導体スイッチと2個のコンデンサとをブリッジ構成に接続したハーフブリッジ回路、又は小電流容量の場合には1個の半導体スイッチを用いたシングルエンデッドタイプの回路など種々の公知のインバータ構成を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る実施形態1のパラレルシーム接合装置100を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパラレルシーム接合装置100に用いられる駆動回路の一例を示す図である。
【図3】本発明に係る実施形態を説明するための各部の電圧波形、電流波形を示す図である。
【図4】本発明の別の実施形態を説明するためのパルス状直流電流を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るパラレルシーム接合装置100に用いられる駆動回路の別の一例を示す図である。
【図6】本発明の別の実施形態を説明するためのパルス状直流電流を示す図である。
【図7】本発明の別の実施形態を説明するためのパルス状直流電流を示す図である。
【図8】本発明の別の実施形態を説明するためのパルス状直流電流を示す図である。
【図9】従来のパラレルシーム接合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・交流電源
3・・・入力側整流回路
5・・・エネルギー蓄積用コンデンサ
7・・・インバータ部
9・・・制御回路
9A・・・制御回路
9B・・・電流設定回路
9C・・・演算回路
9D・・・駆動回路
9D1・・・高周波信号発生回路
9D2・・・PWM信号発生回路
9D3・・・AND論理回路
9D4・・・分周・電力増幅回路回路
9D5・・・高周波パルス幅変調信号発生器
9D6・・・パルス幅設定回路
11・・・溶接トランス
13・・・出力側整流回路
15、17・・・ローラ電極
19・・・パッケージ
21・・・キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流入力電源と、
溶接エネルギー蓄積用コンデンサと、
前記交流入力電源からの交流電力を直流電力に変換して前記溶接エネルギー蓄積用コンデンサに供給する入力側整流回路と、
半導体スイッチを備えるインバータ部と前記半導体スイッチを前記交流入力電源の周波数に比べて高いスイッチング周波数でオンオフさせる制御部とを備えるインバータ回路と、
該インバータ回路が接続されている1次巻線と出力側整流回路が接続されている2次巻線とを有する溶接用トランスとを備え、
回路部品を収容しているパッケージとキャップとにローラ電極を介して溶接電流を流して前記パッケージとキャップとを固着するパラレルシーム接合装置において、
前記インバータ回路は、前記半導体スイッチがスイッチング周波数でオンオフを繰り返すインバータ運転時間と、該インバータ運転時間よりも長い時間、前記半導体スイッチがオフしているインバータ運転停止時間とを交互に繰り返すように動作し、
前記インバータ運転時間を制御することによって、前記インバータ運転時間に相当するパルス幅を有するパルス状直流電流のパルス幅を制御し、
前記スイッチング周波数で動作する前記半導体スイッチのオン時間をパルス幅制御することにより前記パルス状直流電流の値を制御し、
制御された前記パルス状直流電流を前記溶接電流として前記パッケージとキャップとに通電することを特徴とするパラレルシーム接合装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記パルス状直流電流は、そのパルス幅に等しい時間内で脈動し、断続しないことを特徴とするパラレルシーム接合装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記インバータ運転時間の途中から前記インバータ回路の前記半導体スイッチのオンパルス幅を急激に小さくして、前記パルス状直流電流を段階的に減少させることを特徴とするパラレルシーム接合装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、
前記インバータ運転時間の途中から前記インバータ回路の前記半導体スイッチのオンパルス幅を徐々に小さくして、前記パルス状直流電流を所定の傾斜又は曲線に従って減少させることを特徴とするパラレルシーム接合装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記インバータ運転時間における前記半導体スイッチのオンパルス幅は、その直ぐ前の前記インバータ運転時間における前記半導体スイッチのオンパルス幅よりも小さいことを特徴とするパラレルシーム接合装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記パッケージとキャップとの接合工程の途中から前記インバータ運転時間を短くして前記インバータ運転停止時間を長くすることを特徴とするパラレルシーム接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−7236(P2006−7236A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184378(P2004−184378)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】