説明

パルスジェット式集塵機用フィルター装置

【課題】フィルターに発生する静電気を外部に逃がす除電性能を備えると共に、フィルターの濾過性能(捕集性能)を損なうことなく、フィルター装置の通気性を確保し、更には、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返しても、通気性濾過材が補強部材としてのケージとの摩擦によって破損しないパルスジエット式集塵機用フィルター装置を提供する。
【解決手段】フィルター10を構成する通気性濾過材10Hの濾過面と反対側の面に金属等の導電性物質から成る導電層10Tを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集塵機に使用するフィルター装置に関するものであって、具体的には、パルスジエット式集塵機に使用するフィルター装置において、並設された複数本のフィルターの内部に圧縮エアーを吹き込んで、各フィルターに付着したダスト類を払い落す除塵機能を備えると共に、フィルターに対する帯電を防止する除電機能を備えたフィルター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集塵機において、帯電しやすい粉体やダスト類を含んだ含塵空気を集塵するフィルターには、静電気が帯電蓄積されるため、最悪の場合、静電気によるスパークの発生によって粉塵爆発や火災が引き起こされて、人的被害も含めて多大な被害が生じてしまう問題がある。これらの問題を防止するために、従来のフィルターには、静電気を逃がすための対策や、集塵中に静電気が蓄積しないようにするための対策が施されているのが一般的である。
【0003】
例えば、帯電しやすい粉体としては、でん粉、小麦粉、複写機等で使用するトナーなどが挙げられる。でん粉や小麦粉の物性としては、帯電しやすく、且つフィルターの表側に付着しやすい性質を備えており、また、トナーの物性としては、帯電しやすく、且つ、粒子径が極めて細かい性質を備えている。
【0004】
そこで、上記帯電しやすい粉体を含んだ含塵空気を集塵する場合には、例えば、特許文献1に見られるように、通気性濾過材に対して、繊維径や通気度などを適宜集塵する粉体に調整した、フッ素樹脂の一種であるポリテトラフルオロエチレン多孔質膜や、四フッ化エチレン多孔質膜を使用した濾過材、及び、帯電を防止するための除電性能を備えた導電層を介在させたフィルター装置等が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3108750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1によると、通気性濾過材の表側(濾過面側)に対して、スパッタリング法によりステンレス等からなる導電性物質を付着させた後、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を積層させている。ところが、スパッタリング法により通気性素材の表側に付着した金属性物質は、尖形(尖っている)状態を形成している為、上記のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を傷つけて痛めてしまう虞れが有って、捕集性能や払い落し性能が劣化してしまう危険性が生じる。
【0007】
また、上記特許文献1には記載はないが、一般的には、パルスジエット式集塵機に使用するフィルター装置に関しては、濾過面積を増大させるために、通気性濾過材がヒダを円周方向に連続形成した断面略星型に成形されており、このフィルターを支える補強部材としてのケージが、その横棒を通気性濾過材の内周面の折り目部分に接触するようにフィルター内部に組み込まれている。
【0008】
このため、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返す度に、上記横棒との接触部分がこすれて通気性濾過材が傷つけられて破損してしまい、最悪の場合、集塵物が捕集されずに、この破損部分から集塵機の外部に洩れ出てしまう危険性があった。
【0009】
加えて、含塵空気の中に例えばトナーのような帯電性の性質を備え、且つ、非常に細かい粉体が含まれているダストを捕集する場合、これ等ダストを捕集する通気性濾過材の表側(濾過面)には、それら粉体を捕集することが可能な後述する四フッ化エチレン多孔膜に代表される高性能濾過材が接合されている。
【0010】
また、一般的にフィルター装置を構成する通気性濾過材に導電層を形成する方法として、金属フィラー等を含んだ導電性材料を通気性濾過材の表面側(濾過面側)に塗布するが、この通気性濾過材の通気性が導電性材料の塗布によって損なわれてしまうため、通気性濾過材を構成するフィルターの差圧(圧力損失)が上昇してしまい、フィルターを使用する期間が短くなってしまったり、吸引源であるブロアーなどに負荷を掛けてしまう問題が生じる。
【0011】
更に、通気性濾過材を構成するフィルターには、自身に静電気を帯電させることなく、外部に静電気を逃がす除電性能が必要となる。この場合、フィルターに導電性を持たせることが必要となってくるが、例えば通気性濾過材の表側に高性能濾過材を接合した状態で、更に導電性を備えた導電性濾材を接合すると、導電性濾材の分だけフィルター差圧(圧力損失)が上昇してしまい、フィルターを使用する期間が短くなってしまったり、ブロアーなどの動力源に負荷を掛けてしまう問題が生じる。
【0012】
また、導電性を備えた金属製物質(ステンレスなど)を、後述する真空蒸着法などによりフィルター表側(濾過面側)に蒸着する場合、前述の高性能濾過材である四フッ化エチレン多孔膜の表側は、摩擦係数が少なくて滑らかで、剥離性及び潤滑性が良好なため、蒸着した金属製物質が付着することができない問題が発生する。
【0013】
また、通気性濾過材の表側(濾過面側)に金属性物質を蒸着させた後、これに高性能濾過材である四フッ化エチレン多孔膜を接合すると、蒸着した金属性物質は尖形(尖っている)状態である為、四フッ化エチレン多孔膜を傷つき痛めてしまう虞れが生じる。といった、各種の問題点を有していた。
【0014】
従って本発明の技術的課題は、フィルターとして高性能濾過材を使用して、帯電性の性質を備えた粉体やダスト類を含んだ含塵空気を捕集する場合において、フィルターに発生する静電気を外部に逃がす除電性能を備えると共に、フィルターの濾過性能(捕集性能)を損なうことなく、フィルター装置の通気性を確保し、更には、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返しても、通気性濾過材が補強部材としてのケージとの摩擦によって破損しないように工夫したパルスジエット式集塵機用フィルター装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1) 上記の技術的課題を解決する為に、本発明の請求項1に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、断面が略星型の筒状に形成されているフィルターの長手方向の両端口を夫々のプレートで塞ぎ、片側のプレートには集塵運転時の吸引と除塵運転時の圧縮エアーの吹き込みを行う開口部を設け、上記フィルターの長手方向の内側面には、補強部材としてのケージを取付けて成るパルスジェット式集塵機に使用するフィルター装置であって、
当該フィルターは、空気中に含まれる塵埃を捕集するための濾過材の骨材となる通気性濾過材を用いて構成され、当該通気性濾過材の表面側には、通気性濾過材では捕集が困難な塵埃を捕集可能にした高性能濾過材を接合し、且つ、上記通気性濾過材の裏側には、金属等の導電性物質を付着させて成ることを特徴としている。
【0016】
(2) また、本発明の請求項2に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、真空蒸着法によるスパッタリング方式により、前記金属等の導電性物質の薄膜を前記通気性濾過材の裏側に付着させて成ることを特徴としている。
【0017】
(3) また、本発明の請求項3に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、前記通気性濾過材と高性能濾過材を接合した総厚みが、1mm以下に構成されていることを特徴としている。
【0018】
(4) また、本発明の請求項4に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、前記導電性物質が、ステンレス材料で形成されていることを特徴としている。
【0019】
(5) また、本発明の請求項5に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、前記フィルターと接地部との間に、静電気を逃がすための放電路が形成されていることを特徴としている。
【0020】
(6) また、本発明の請求項6に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、前記フィルターの一端部材のプレートに、導電性を備えたアース部材が取付けられていることを特徴としている。
【0021】
(7) 更に、本発明の請求項7に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置は、前記フィルターの一端部材のプレートに導電性を備えたアース部材が取付けられていて、このアース部材は、フィルターの内側に設けられたケージと導通接続されていることを特徴としている。
【0022】
上記(1)で述べた請求項1に係る手段によれば、通気性濾過材の濾過面と反対側の面に導電性物質を付着させているので、高性能濾過材の性能に影響を与えることなく、導電性を備え、且つ、粒子径が細かい粉体や、フィルター表側に付着しやすい粘着性を備えた粉体等の捕集が可能となる。
【0023】
また、上記(1)で述べた請求項1に係る手段によれば、補強用としてのケージを構成する横棒と通気性濾過材の内周面とが接触する接触部分において、濾材の繊維の表側に導電性物質が付着しているので、ケージと濾材の繊維が直接接触することがなくなり、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返しても、通気性濾過材がケージとの摩擦によって傷つけられて破損してしまう問題が解消されるため、長期間に渡って通気性濾過材の性能を維持することができる。
【0024】
加えて、上記(1)で述べた請求項1に係る手段によれば、付着された導電性物質により形成された導電層は、直接含塵空気に接触しないため、導電層が含塵空気の気流との接触によって痛んだり傷つけられたりすることがなく、導電層の導電性能を長期間に渡って維持することを可能にする。
【0025】
更に、上記(1)で述べた請求項1に係る手段によれば、通気性濾過材の裏側(濾過面側とは反対側のケージ側)には、金属性物質を付着させていて、その付着た金属性物質は尖形(尖っている)状態となっているが、高性能濾過材は、通気性濾過材の表側(濾過面側)に接合しているので、高性能濾過材を傷つき痛めてしまう虞れがなく、捕集性能に影響を与えることがない。
【0026】
上記(2)で述べた請求項2に係る手段によれば、真空蒸着法によるスパッタリング方式により、金属等の導電性物質が過熱され気化もしくは昇華して、通気性濾過材を構成する繊維の表側(周面)に付着させて薄膜が形成されるため、通気性濾過材の通気性をほとんど損なうことなく確保できるので、通気性濾過材の性能にほとんど影響を与えることがない。また、真空蒸着法により、比較的面積の大きい通気性濾過材においても蒸着が可能となり、通気性濾過材全体において均一に、且つ安定的に導電性物質の薄膜を形成することができる。
【0027】
上記(3)で述べた請求項3に係る手段によれば、通気性濾過材と高性能濾過材を接合した総厚みが、1mm以下と非常に薄いため、通気性濾過材の濾過面側に対して、その反対側に導電層を形成したとしても、十分な静電気除電性能を発揮することができる。
【0028】
上記(4)で述べた請求項4に係る手段によれば、導電性物質にステンレスを用いることにより、金、銀、アルミなどの導電性物質に比べて低コストであり、且つ、耐摩耗性が高い。よって、通気性濾過材の繊維の表面に耐摩耗性に優れたステンレスが蒸着により薄膜として付着しているので、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返しても、通気性濾過材がケージとの摩擦によって傷つけられて破損してしまう問題がなくなり、通気性濾過材を保護しながら静電気除去性能を維持することができる。
【0029】
上記(5)で述べた請求項5に係る手段によれば、フィルターには静電気が蓄積することがなく、放電路を経由して静電気を大地に放出することができるので、静電気による粉塵爆発や火災などの被害の発生を防止することができる。
【0030】
上記(6)で述べた請求項6に係る手段によれば、フィルターに設けたアース部材を経由して、フィルターの静電気を確実に大地に逃がすことができる。
【0031】
上記(7)で述べた請求項7に係る手段によれば、アース部材及びケージは、夫々フィルターの内側(濾過面側と反対側)に設けられているので、捕集性能や払い落とし性能に影響を与えることなく、フィルターの静電気を確実に大地に逃がすことを可能にする。
【発明の効果】
【0032】
以上述べた次第で、本発明に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置によれば、フィルターに発生する静電気を外部に逃がす除電性能を備え、且つ、フィルターの濾過性能(捕集性能)を損なうことなく、フィルター装置の通気性を確保すると共に、更には、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返しても、通気性濾過材が補強部材としてのケージとの摩擦によって破損しないように工夫したパルスジエット式集塵機用フィルター装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るフィルター装置が実施されたパルスジェット式集塵機の全体を説明した構成図。
【図2】本発明に係るフィルター装置の構成を説明した一部断面正面図。
【図3】図2のX2−X2方向から矢視した本発明に係るフィルター装置を構成する通気性濾過材の一部を拡大して示した断面図。
【図4】図3のY−Y方向から矢視した本発明に係るフィルター装置を構成する通気性濾過材の構成の一部分を拡大して示した断面図。
【図5】図2のX1−X1方向から矢視した本発明に係るフィルター装置の拡大断面図。
【図6】本発明に係るフィルター装置の要部拡大断面図。
【図7】請求項7に記載の構成を説明した本発明に係るフィルター装置の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明に係るパルスジエット式集塵機用フィルター装置の実施の形態を図面と共に説明する。
【0035】
<集塵機の構成>
図1は本発明を実施したパルスジェット型集塵機PSの一例を示した概略図であって、図中符号1で全体的に示したのは、上側に排気口(図示省略)を設けると共に、内部を仕切板1Tによってダストサイド1Dとクリーンサイド1Cの2室に仕切ると共に、全体が支持脚1Z…によって所定の高さに支持された集塵機の機体で、仕切板1Tには1列数本のフィルター10…が複数列分割して取付けられている。
【0036】
また、2は含塵空気の吸込口で、吸塵ファン(図示省略)がモータ(図示省略)によって回転を始めると、機体1内に吸引作用を及ぼして、吸込口2より吸い込んだ含塵空気中のダストは、各フィルター10…に捕集され、次いで、以下に述べるパルスジェットによってこれ等各フィルター10…から下側のホッパー3内に払い落されて、ロータリーフィーダー4によって外部に排出される仕組に成っている。
【0037】
次に、図中符号20で全体的に示したのは、パルスジェット式の除塵作動部であって、この作動部20は供給源(図示省略)からの圧縮空気を蓄えるヘッダータンク21と、夫々電磁弁22を介してヘッダータンク21に連設した前記フィルター10…の列数と同じ本数のブローチューブ23…によって構成されており、これ等各ブローチューブ23…は前記対応するフィルター10に対して圧縮されたパルスジェットを噴射できる様に、夫々機体1のクリーンサイド1C内に並べて取付けられている。
【0038】
そして、上記ヘツダータンク21に取付けた各電磁弁22は、制御部24から送られて来る制御信号に従って適宜順番に開閉作動して、各ブローチューブ23より複数列のフィルター10…に対して、除塵用のパルスジェットを順番に而かも間隔をおいて噴出することができ、この噴射を全ての列のフィルター10…に対して順番に行なう構成になっている。
【0039】
<フィルター全体構成の説明>
次に上述したフィルター10の構成について説明すると、図2に示す如くフィルター10は、全体を図示した様に多数のヒダ10A…が円周方向に連続する断面略星型(プリーツ型)の円筒状に成形した通気性濾過材10Hによって構成され、、この通気性濾過材10Hの上下両端部(両端口)には、合成樹脂製の上部プレート11及び下部プレート12が取り付けられている。
【0040】
具体的には、上部プレート11及び下部プレート12は断面略凹形状をしており、その凹部内に断面略星型(プリーツ型)の通気性濾過材としてのフィルター10の上下両端部を差し込んで装着した後、充填材を流し込んでモールド固定される。
【0041】
また、上述した上部プレート11の底面側には、中央に開口した通気孔11Hに連通するように、除塵用圧縮エアーを吹き込むためのベンチユリー13が下向きに一体形成され、また、下部プレート12には、下側より通気性濾過材としてのフィルター10の内部に突出して、その内部容積を減少させるための内部充填体14が一体形成されている。
【0042】
更に、上記フィルタ10には、除塵用圧縮エアーを噴射することによって通気性濾過材10Hが必要以上に膨らんでしまうことを防止するために、その外周の複数個所に帯状のバンド15…で巻き付け固定されている。
【0043】
本発明に係るパルスジェット式集塵機用フィルター装置では、集塵運転時の吸引力によって、円周方向にヒダ10A…が連続する断面略星型の円筒状(プリーツ状)に成形した通気性濾過材としてのフィルター10…が変形しないように、当該フィルター10の内部に金属製の棒材を縦横に組んで全体を略篭型に構成した補強用の金属製ケージ16を取付けることによって、集塵運転による内部方向への変形を支持する一方、圧縮エアー(パルスジエット)をフィルター10の内部に吹き込む除塵運転時には、当該金属製ケージ16によってフィルター10が長さ方向に変形しないように支持する仕組になっている。
【0044】
<濾材の説明>
図3は、図2のX2−X2方向から矢視したフィルター10の断面図であり、図4は図3の3Y−3Y方向から矢視した拡大断面図、図5は図2のX1−X1方向から矢視したフィルター10の断面図である。これ等の図面において、符号10Hは濾過体の骨材となる繊維などからなる通気性濾過材であり、ここではポリエステル製の厚さ0.6mm程度の不織布を使用している。
【0045】
また、図中符号10Kで示したのは、上記通気性濾過材10Hの外表面に被覆した高性能濾過材である四フッ化エチレン(フッ素樹脂)の多孔膜であり、ここでは繊維径0.1〜1μm、孔径1〜5μm、厚さ0.02〜0.03mm、通気度2〜4
cc/cm2・secのものを採用していて、含塵空気に含まれる粒子径が10μm以下の微粉塵や粘着性の塵埃DS…を捕集するのに適した濾材である。更に、上記通気性濾過材10Hの表側(濾過面側)とは反対側(ケージ側)の内側面には、ステンレス等の薄膜からなる導電性物質を上記の真空蒸着法により付着させることにより、導電層10Tが構成されている。
【0046】
尚、上述した真空蒸着法とは、アルミニウム、銀、金、銅、錫、ステンレスなどの成膜用材料を金属やガラス、またはプラスチックなどの素材にコーティングする方法であり、真空を用いた物理蒸着技術の1つである。また、上述したスパッタリング方式とは、ステンレス等を加熱して蒸発気化させる方法であり、本発明では、真空中においてスパッタリング方式を用いて、導電層10Tを形成する薄膜材料となるステンレス等の切板(シート材)を加熱して溶融蒸発させた後、図4に示す如くその金属蒸気(ステンレス等)を濾過面側とは逆側の通気性濾過材10Hの繊維1本毎の表面に蒸着する仕組みとなっている。
【0047】
また、温度や時間などの蒸着条件を調整した結果、蒸着される金属蒸気(ステンレス等)は、図4に示す如く通気性濾過材10Hである不織布の表側から約40μm程度形成されていて、不織布の繊維径が平均14μm程度とすると、不織布の表側から約3本(3層目)程度、ステンレス等の金属蒸気によって真空蒸着されている結果となった。加えて、蒸着されたメッキ厚を測定した結果、1ミクロン以下であった為、フィルター10の濾過性能(捕集性能)には殆ど影響しないことがわかった。
【0048】
尚、通気性濾過材10Hに四フッ化エチレン多孔膜10Kを接合した総厚さは、1mm以下と薄いため、通気性濾過材10Hの裏側(濾過面側と反対側)に導電層10Tを形成したとしても、フィルター10としての導電性能を確保していることが検証された。この検証の詳細は、後述のような実験結果を参照したものである。
【0049】
上記のような構成により、フィルター10の装置表側に接合した高性能濾過材10Hとしての四フッ化エチレン多孔膜10Kとは、反対側に金属蒸着による導電層10Tを形成することで、四フッ化エチレン多孔膜10Kを痛めたり傷つけたりすることがなくなるため、四フッ化エチレン多孔膜10Kの濾過性能(捕集性能)を損なうことがない。
【0050】
加えて、真空蒸着法によるスパッタリング方式によって、蒸着される金属蒸気(ステンレス等)が、通気性濾過材10H(フィルター10)の繊維の表面に薄膜を作るので、フィルター10の通気性を確保しながら、導電層10Tを形成することを可能とした。
【0051】
尚、本発明では、真空蒸着法によって通気性濾過材10Hの濾過面側とは反対側にステンレス等からなる導電性物質を蒸着させて導電層10Tを構成したが、導電物質として金属フィラー、金属粉末、カーボン粉末などを含有する導電性物質を用いても構わないし、蒸着法においても、物理蒸着(PVD)の一方法である真空蒸着法に限らず、例えば、凹凸のある表面でも満遍なく製膜できる化学蒸着(CVD)で行なっても構わない。
【0052】
<金属製ケージと通気性濾過材についての説明>
次に、金属製ケージ30と通気性濾過材10Hから成るフィルター10についてその構成を詳細を説明する。
図5は、図2のX1−X1方向から矢視したフィルター10の断面図であり、補強材としての金属製ケージ30を構成するリング杆31(横杆)及び縦杆32と、通気性濾過材10Hの詳細を示したものであって、金属製のケージ30の全体は、複数本の縦杆32…とリング杆31(横杆)とによって全体が略篭型の円筒状に構成されている。
【0053】
即ち、略円環状のリング杆31(横杆)の外周には、プリーツ形状をした通気性濾過材10Hが介在しているので、補強として強度を保つ役目を果たしている。図5のように金属製ケージ30を構成するリング杆31と通気性濾過材10Hの内周面の折り目部分10S…とは、接触する構造となっているが、折り目部分10S…を構成する通気性濾過材10Hの繊維の表面には、ステンレス等からなる導電性物質が導電層10Tとして通気性濾過材10Hの表面(この場合はケージ側)から約40μm程度形成されている。
【0054】
このことにより、通気性濾過材10Hの表側を形成する繊維の周囲はステンレス等からなる導電性物質が導電層10Tとして付着されて保護されているので、金属製ケージ30と通気性濾過材10Hが直接接触することがなくなり、よって、集塵運転とパルスジェットによる除塵運転を繰返しても、通気性濾過材10H、即ち、フィルター10が金属製ケージ30との摩擦によって傷つけられて破損してしまう問題が解消される。
【0055】
<アースの説明>
次に、図5及び図6を用いてフィルター10の固定方法及びアース処理について説明する。
集塵機PSの機体1の内部を仕切る仕切板1Tには、円形の開口部1Tbが複数設けられていて、その開口部1Tbにフィルター10が収納された後、フィルター押さえ板40を用いてボルト41などの締結部品で固定される。仕切板1Tは、機体1と溶接などによって接合され、更に、機体1は図1の如く大地とアース線ATによって接続されている。結果的に、仕切板1Tと接地部AXである大地とは、アース接続されていることとなる。
【0056】
また、フィルター10には、静電気を外部に逃がすためのアース線ASが取付けられている。具体的には、アース線ASは、外側を絶縁皮膜で覆われた金属線で製作されていて、夫々の端部にはネジ止め可能な丸型端子A1,A2が圧着されている。アース線ASの一方の端子A1は、図2に示す如くフィルター10の上部のプレート11に設けた金属製のアース部材であるフィルターアースネジ11Nに締め付け固定されて、もう一方の端子A2は、図6に示す如く仕切板1Tに設けた仕切板アースネジ1Kに締め付け固定されている。
【0057】
次に、フィルター10の上部のプレート11に設けたアース部材であるフィルターアースネジ11Nについて説明する。
【0058】
高性能濾過材を接合したフィルター10としての通気性濾過材10Hと上部のプレート11とは、合成樹脂系の充填材によって固着形成されている。アース部材であるフィルターアースネジ11Nは、図5並びに図6に示す通り、プリーツされた通気性濾過材10Hの山と山の間を、プレート11と充填材11Xを貫通するように設けられている。フィルターアースネジ11Nとアース線ASとは、ネジ・ナットなどの締結部品によってフィルター10の上部プレート11に締付け固定される。
【0059】
実施例では、フィルターアースネジ11Nの一方の端部(プレート11の上面側)は、プレート11の上面側より突出した状態で取り付けられていて、アース線ASの端子をフィルターアースネジ11Nに取り付けた後、ナット11Tにより締め付け固定する。
【0060】
一方、含塵空気との摩擦、接触などによりフィルター10に発生する静電気は、通気性濾過材10Hに金属蒸着による導電層10Tを形成した効果により、フィルター10a表側の各部分から夫々最短距離を通ってフィルターアースネジ11N、アース線AS、仕切板1Tを経由した後、大地に逃げることとなり、帯電しない仕組みとなっている。
【0061】
また、フィルターアースネジ11Nの一方の端部11Na(プレートの下面側)は、上記の充填材11Xより下方に突出していて、そのフィルターアースネジ11Nの周辺の充填材11Xの表側には、導電性塗料11XTが塗布されている。更に、上記フィルターアースネジ11Nとの距離が近い通気性濾過材10Hの山部10A(図3参照)には、図5、図6に示す如く金属製の金具10AXが接合されている。この金属製の金具10AKとフィルターアースネジ11Nは、充填材11Xの表側に塗布された導電性塗料11XTによって導通状態となり、フィルター10の導電抵抗値を安定的に下げる仕組みとなっている。
【0062】
次に、他の実施例として、フィルター10の一端部材のプレートに導電性を備えたアース部材が取付けられていて、アース部材としてのフィルターアースネジ11Nは、金属製のケージ30と導通接続されている請求項7に記載の構成について、図7を用いて説明する。
【0063】
図7は、図5と同様な図2のX1−X1方向から矢視したフィルター10の断面図であり、補強材としての金属製のケージ30を構成するリング杆31と通気性濾過材10Hの詳細を示したものである。
【0064】
上述した金属製のケージ30は、図2と同様に複数の縦杆32…とリング杆31…とによって、全体が略篭型に構成されている。また図5並びに図7のように、当該ケージ30を構成するリング杆31と通気性濾過材10Hの内周面の各折り目部分10S…とは、接触する構造となっているが、折り目部分10S…を構成する通気性濾過材10Hの繊維の表側には、ステンレス等からなる導電性物質10Tが導電層として通気性濾過材10Hの表側(この場合はケージ30側)から約40μm程度形成されているため、摩擦による破損は防止される。
【0065】
また、アース部材としてのフィルターアースネジ11Nは、図示の様にプリーツ形成された通気性濾過材10Hの内側(ケージ30側)に位置しており、図6と同様に上部のプレート11と充填材11Xを貫通するように設けられている。更に、このフィルターアースネジ11Nの先端部11Naは、ケージ30を構成する略円環状のリング杆31の外周と導通接続している。また、フィルターアースネジ11Nとアース線ASとは、ネジ・ナット11Tなどの締結部品によってフィルター10の上部プレートに締付け固定される。実施例では、図6と同様にフィルターアースネジ11Nの一方の端部(プレート11の上面側)は、プレート11の上面側より突出した状態で取り付けられていて、アース線ASの端子A1をフィルターアースネジ11Nに取り付けた後、ナット11Tにより締め付け固定する。
【0066】
このような構成により、アース部材としてのフィルターアースネジ11N及びケージ30は、フィルター10内側に設けているので、捕集性能や払い落とし性能に影響を与えることなく、フィルター10の静電気を確実に大地に逃がすことができる。
【0067】
<実験結果>
以下に、この発明のフィルター10の除電性能(帯電防止性能)の実験条件及び実験結果を記す。
(1)実験条件
・長さ1500mm、直径250mmの断面略星型(プリーツ型)の円筒状のフィルター10を使用する。
・長さ方向の夫々の端部間で500V印加時の抵抗値を測定する。
抵抗値の測定は、導電抵抗測定器(日置電機株式会社製メガオームハイテスター)を使用する。
(2)実験結果
一般的に、フィルター装置において、静電気に対して十分な安全性を確保するためには、100 kΩ以下の導電抵抗値が必要とされている。
上記実験条件に基づき、本発明である導電層を形成したフィルター10においての、導電抵抗値を測定したところ20kΩ程度以下であり、静電気に対して十分な安全性を確保できることが実験によって確認できた。
【0068】
尚、比較のために、導電層を形成していないフィルター10の導電抵抗値を測定したところ、無限大であり、静電気に対して安全性を確保することができないことが確認された。
【符号の説明】
【0069】
PS パルスジェット型集塵機
1 パルスジェット型集塵機の機体
1T 仕切板
10 フィルター
10H 通気性濾過材
10A ヒダ
10K 高性能濾過材の多孔膜
10T ステンレスの薄膜からなる導電層
11 上部のプレート
11N フィルターアースネジ
11X 充填材
11XT 導電性塗料
AS アース線
15 バンド
30 金属製のケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が略星型の筒状に形成されているフィルターの長手方向の両端口を夫々のプレートで塞ぎ、片側のプレートには集塵運転時の吸引と除塵運転時の圧縮エアーの吹き込みを行う開口部を設け、上記フィルターの長手方向の内側面には、補強部材としてのケージを取付けて成るパルスジェット式集塵機に使用するフィルター装置であって、
当該フィルターは、空気中に含まれる塵埃を捕集するための濾過材の骨材となる通気性濾過材を用いて構成され、当該通気性濾過材の表面側には、通気性濾過材では捕集が困難な塵埃を捕集可能にした高性能濾過材を接合し、且つ、当該通気性濾過材の裏側には、金属等の導電性物質を付着させて成ることを特徴とするパルスジェット式集塵機用フィルター装置。
【請求項2】
真空蒸着法によるスパッタリング方式により、前記導電性物質の薄膜を前記通気性濾過材の裏側に付着させて成ることを特徴とする請求項1に記載のパルスジェット式集塵機用フィルター装置。
【請求項3】
前記通気性濾過材と高性能濾過材を接合した総厚みが、1mm以下に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のパルスジェット式集塵機用フィルター装置。
【請求項4】
前記導電性物質が、ステンレス材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスジェット式集塵機用フィルター装置。
【請求項5】
前記フィルターと接地部間においては、静電気を逃がすための放電路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパルスジェット式集塵機用フィルター装置。
【請求項6】
前記フィルターの一端部材のプレートに、導電性を備えたアース部材が取付けられていることを特徴とする請求項1に記載のパルスジェット式集塵機用フィルター装置。
【請求項7】
前記フィルターの一端部材のプレートに、導電性を備えたアース部材が取付けられていて、このアース部材は、フィルターの内側に設けられた、ケージと導通接続されていることを特徴とする請求項1又は6に記載のパルスジェット式集塵機用フィルター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−135708(P2012−135708A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288551(P2010−288551)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000101617)アマノ株式会社 (174)
【Fターム(参考)】