説明

パルスレーザー光源装置

【課題】パルスレーザー光源より短い間隔で撮影対象物にパルスレーザー光を照射できるパルスレーザー光源装置を提供する。
【解決手段】高速撮影用のパルスレーザー光源装置は、撮影対象物3に照射されるパルスレーザー光を出射する光源1と、光源1から出射されたパルスレーザー光を複数の分岐パルスレーザー光に分岐する光分岐手段2と、複数の分岐パルスレーザー光の少なくとも一部の光路長を延長することにより複数の分岐パルスレーザー光の光路長を互いに異ならせる遅延光路手段A、Bとを備え、遅延光路手段A、Bは、分岐パルスレーザ光が対象物3を照射する照射期間が重複しないように、且つ、分岐パルスレーザー光の照射間隔が光源1のパルス繰り返し周期よりも短くなるように光路長を延長する。分岐パルスレーザー光が本来のパルス繰り返し周期より短い時間差で同一対象物3に繰り返し照射されるため、従来より高速で撮影する場合も鮮明な撮影画像を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で変化する現象を高速で連続して撮影するために用いられるパルスレーザー光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば破壊、爆発、燃焼等の高速で変化する現象を高速度カメラで連続して撮影すると、対象物の動きを動画として撮影することができる(特許文献1)。このような高速撮影では露光不足が問題となるため、撮影対象物を照明するための光源が必要となる。一方、撮影対象物が高速で変化するため、光源の発光時間が長引くと、その撮影の間に被写体が大きく変化し、撮影画像がぼける等の問題が生じる。そのため、発光時間の非常に短い光源を用い、高速度カメラのフレーム間隔に発光タイミングを同期させて撮影することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-354209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撮影速度が数千〜数十万コマ/秒の場合には、従来からストロボやパルスレーザーといった発光時間が短く、かつ高速で繰り返し発光可能な光源が利用されている。しかし、数百万コマ/秒以上のように、さらに高速で撮影を行いたい場合、発光タイミングをフレーム間隔に同期させるためには数MHzで繰り返し発光する発光源が必要となり、従来のストロボやパルスレーザーの繰り返し周波数ではこれに対応できない。通信用のLEDにはこのような高速で発光可能なものもあるが、光量が少なく、これを高速撮影用の光源として用いることはできない。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高速撮影装置において、従来のパルスレーザー光源よりも短い間隔で撮影対象物にパルスレーザー光を照射することのできるパルスレーザー光源装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明の第一の態様に係るパルスレーザー光源装置は、高速撮影に用いられるパルスレーザー光源装置において、
撮影対象物に照射されるパルスレーザー光を出射するパルスレーザー光源と、
前記パルスレーザー光源から出射されたパルスレーザー光を複数の分岐パルスレーザー光に分岐する光分岐手段と、
前記複数の分岐パルスレーザー光の少なくとも一部の光路長を延長することにより前記複数の分岐パルスレーザー光の光路長を互いに異ならせる遅延光路手段と、
を備え、
前記遅延光路手段は、前記分岐パルスレーザー光が前記撮影対象物を照射する照射期間が重複しないように、且つ、前記分岐パルスレーザー光の照射間隔が前記パルスレーザー光源のパルス繰り返し周期よりも短くなるように、光路長を延長することを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明の第二の態様に係るパルスレーザー光源装置は、前記第一の態様に係るパルスレーザー光源装置において、
前記遅延光路手段は光ファイバーから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るパルスレーザー光源装置によると、光源から出射されたパルスレーザー光は複数に分岐され、少なくとも一部の分岐パルスレーザー光は、それぞれ別個の光ファイバーなどに導入される。光ファイバー入口端から導入される分岐パルスレーザー光は光ファイバーの長さに応じ、遅延して光ファイバー出口端から出力され、撮影対象物に照射される。撮影対象物に照射される分岐光の照射間隔は、パルスレーザー光源から出射されるパルスレーザー光のパルス繰り返し周期より短く、また、それぞれの分岐パルスレーザー光が撮影対象物を照射する照射期間が重複しないように、即ち同一対象物に照射される光が間欠的に発光するように、各分岐パルスレーザー光の照射期間と遅延時間が設定されている。
【0009】
分岐パルスレーザー光が、パルスレーザー光源の本来のパルス繰り返し周期より短い時間差で同一対象物に繰り返し照射されるため、従来より高速で撮影を行う場合にも鮮明な撮影画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例に係る高速撮影用光源装置、及び撮影装置の要部構成を示す構成図。
【図2】本実施例におけるレーザー光出射タイミング、分岐光の発光タイミング、及びカメラ露光タイミングを示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例について図1及び図2を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
本実施例にかかるパルスレーザー光源装置は、パルスレーザー光源1、ハーフミラー2、光ファイバーA、B、集光レンズα、βから成る。ハーフミラー2はパルスレーザー光源1のレーザー光軸上に配置され、ハーフミラー2によって分岐されたレーザー光La、Lbが光ファイバーA、Bにそれぞれ入射するようにこれらは配置されている。撮影対象物3は、集光レンズα、βによる集光点に配置されている。光ファイバーA、Bの出口端は撮影対象物3の近傍で開口しており、光ファイバー出口から出射された分岐光が撮影対象物に到達するのに要する時間は無視できる程度である。制御部5はパルスレーザー光源1に内蔵されており、高速カメラ4と接続されている(図1)。
【0013】
以下、本実施例に係るパルスレーザー光源装置を用い、高速カメラ4で撮影速度500万コマ/秒で高速撮影するための手順を図2のタイムチャートを用いて説明する。
【0014】
ユーザが撮影開始の指示を出すと、制御部5はパルスレーザー光源1から1回目のパルスレーザー光L1を出射させる。ここでは、パルスレーザー光源1から出射されるパルスレーザー光の発光時間は100ns(t1)に設定されている。
ハーフミラー2で分岐されて光ファイバーAに導入されたレーザー光La1は、光ファイバーAの長さ分だけ光路が長くなり、その分遅延して光ファイバーAの出口端から出射される。ここで、光ファイバーAの長さを10m、光ファイバーのコアの屈折率を1.5とすると、光速が約30万km/sであることから約50ns(t2)の遅延が生じることになる。遅延して光ファイバーA出口端から出射された分岐光La1は集光レンズαで集光されて撮影対象物3に照射される。
【0015】
パルスレーザー光L1の出射と同時に制御部5は高速カメラ4に撮影開始タイミング信号を送信する。ただし、分岐パルスレーザー光La1が対象物に照射されるタイミングと撮影開始タイミングとを同期させる必要があるため、制御部5からの信号を受けた高速カメラ4は、光ファイバーAによるレーザー光の遅延を見込み、遅延時間t2の分、撮影(露光)開始を遅らせる。このようにして高速カメラ4による1コマ目の撮影は、分岐光La1の撮影対象物3への発光タイミングに合わせて行われる。
【0016】
500万コマ/秒で2コマ目を撮影するためには、高速カメラ4の2コマ目の露光を1コマ目から200ns(t3)後に開始し、且つ撮影対象物3への分岐パルスレーザー光Lb1の照射を露光に同期させてLa1との照射間隔を200ns(t3)としなければならない。即ち、撮影開始の指示を行ってから250ns(t2+t3)後に分岐光Lb1が対象物3に照射されるようにLb1の光路長を調整する必要がある。光ファイバーのコアの屈折率1.5と光速から計算すると、光ファイバーBの長さを50mに設定すればよいことが分かる。
【0017】
このようにして設定された光ファイバーBを通過した分岐パルスレーザー光Lb1は、集光レンズβで集光されて撮影対象物3に照射される。この分岐光Lb1の照射の下で2コマ目の撮影が行われる。
【0018】
500万コマ/秒で3コマ目を撮影するためには、3コマ目の露光を2コマ目から200ns(t3)後に開始し、且つ撮影対象物3への分岐パルスレーザー光の発光タイミングを露光に同期させなければならない。本実施例ではパルスレーザー光源1から出射されたレーザー光は2つに分岐されるため、3コマ目の撮影は、光源1から2回目に出射されたパルスレーザー光L2が分岐され、光ファイバーA内を通過したパルスレーザー光La2の照射の下で行われる。従って、レーザー光源1からの2回目の出射を1回目の出射の400ns(t3+t3)後に行うことになる。4コマ目以降の撮影も同様にして行われる。
【0019】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲で変更が許容される。例えば、上記実施例では分岐光を全て光ファイバーに導入しているが、分岐光Lbのみを光ファイバーに導入し、分岐光Laは撮像対象物3に直接照射される構成にしてもよい。また、制御部5はパルスレーザー光源1から独立して設置しても構わないし、高速カメラ4と無線で接続してもよい。光ファイバーA、Bの出口端から出射される分岐光La、Lbが直接撮影対象物3を照明できる場合には、集光レンズを設けなくても構わない。
【0020】
本実施例ではパルスレーザー光源1からの出射光Lを2つに分岐したが、ハーフミラーの数を増やして3以上に分岐させることも可能である。その場合、さらに短い間隔で撮影対象物3に分岐パルスレーザー光を照射することも可能である。また、本実施例では分岐光La、Lbの撮影対象物3への照射間隔が等しくなるように光ファイバーA、Bの長さを調整したが、照射間隔は等間隔でなくてもよい。例えば、本実施例において光ファイバーBの長さのみを44mに変更すると、光ファイバーBを通過した分岐光Lbは光源1からの出射より220ns(光ファイバーAを通過した分岐光Laより170ns)遅れて撮影対象物3に照射される。カメラの2回目の露光時間を同期させると、1コマ目と2コマ目の撮影間隔は170nsとなり、上記実施例より短い間隔での撮影、即ち、より高速での撮影が可能になる。
【0021】
本発明の変形例として、光出力遅延手段として光ファイバーの代わりに1対の光路長調整用ミラーを配置し、これらのミラー間でレーザー光を往復させる構成にしてもよい。この場合、これら1対のミラーの配置位置と角度によってミラー間の距離と反射の繰り返し回数を調整し、光路長を所望の遅延時間に対応する長さに設定することができる。
【符号の説明】
【0022】
1…パルスレーザー光源
2…ハーフミラー
3…撮影対象
4…高速度カメラ
L…出射光
La、Lb…分岐光
A、B…光ファイバー
α、β…集光レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速撮影に用いられるパルスレーザー光源装置において、
a)撮影対象物に照射されるパルスレーザー光を出射するパルスレーザー光源と、
b)前記パルスレーザー光源から出射されたパルスレーザー光を複数の分岐パルスレーザー光に分岐する光分岐手段と、
c)前記複数の分岐パルスレーザー光の少なくとも一部の光路長を延長することにより前記複数の分岐パルスレーザー光の光路長を互いに異ならせる遅延光路手段と、
を備え、
前記遅延光路手段は、前記分岐パルスレーザー光が前記撮影対象物を照射する照射期間が重複しないように、且つ、前記分岐パルスレーザー光の照射間隔が前記パルスレーザー光源のパルス繰り返し周期よりも短くなるように、光路長を延長することを特徴とするパルスレーザー光源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパルスレーザー光源装置において、
前記遅延光路手段は光ファイバーから成ることを特徴とするパルスレーザー光源装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−209661(P2011−209661A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80015(P2010−80015)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】