説明

パルスレーザ堆積のための装置

本発明は、パルスレーザ堆積のための装置に関し、この装置は、−基板が載せられる基板マウントと、−この基板マウントに対向し,ターゲット材料が載せられるターゲットマウントと、−ターゲット材料にレーザ光を照射するレーザ装置と、−基板の上方に配置されるシャドーマスクを備え、シャドーマスクは、移動可能なディスクに載せられ、この移動可能なディスクは、上記基板マウントに対して接離するように軸方向に移動できる。さらに、本発明は、この装置を操作する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
基板が載せられる基板マウントと、
この基板マウントに対向し、ターゲット材料が載せられるターゲットマウントと、
上記ターゲット材料にレーザ光を照射するレーザ装置と、
上記基板の上方に配置されるシャドーマスクを備えたパルスレーザ堆積のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザ堆積(PLD)は、物体の表面を被覆する周知の方法である。この方法では、レーザによってターゲット材料が除去されて、ターゲット材料のプラズマプルームとなる。そして、このプラズマプルームが基板上に堆積して、基板表面がターゲット材料で被覆される。
【0003】
PLDは、最初は主として10mm×10mm程度の小さい基板を被覆するために開発された。PLDは、小さな基板を全種類の材料で高い薄膜品質に被覆する研究において用いられた。
【0004】
この研究では、結果としてより大きい表面を被覆する必要を生じた。その結果、数インチ以上の直径をもつ表面を被覆できる革新的な技術が生まれた。
【0005】
基板は、このPLD技術によって数層に被覆することができる。この数層を堆積した基板から、フォトリソグラフィを用いて半導体素子を作ることができる。しかし、この製造方法の欠点は、基板を真空室から取り出して、フォトリソグラフィのためのクリーンルームへ運ばなければならないことである。フォトリソグラフィ過程は、薄膜(またはバルク基板)の一部を選択的に除去する微細加工に度々用いられ、幾何学的形状をフォトマスクから基板上の感光化学物質(フォトレジストつまり単に"レジスト")に転写する。そして、一連の化学的処理や物理的処理が、フォトレジストの下方の材料に露光パターンを刻み込む。(例えば、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)などの)複雑な集積回路では、ウェハはフォトリソグラフを50回も繰り返して受ける。
【0006】
時々、追加の被覆をPLDによって堆積するため、基板を真空室に返送する必要が生じる。ごみ粒子により基板が汚染される虞があるため、真空室への返送は望ましくない。他の欠点は、薄膜および薄い構造をもつ基板は、堆積処理のため、度々再加熱されなければならないことである。冷却の後の加熱は、堆積した薄膜の特性に悪影響を与えるので、同様に制限しなければならない。堆積の際にパターンを形成する他の方法は、基板の上面に僅かなマスク-基板間距離をあけてシャドーマスクまたはステンシルを置くことである。この方法は、PLDによって特定のパターンで基板の表面を被覆することを保証する。このようなシャドーマスクは、ねじやボルトを用いて基板に着脱自在に固定され、真空室の外で基板に取り付けられ、取り外される。基板にマスクの先鋭なパターンを形成するため、シャドーマスクを基板に密着させて配置する必要がある。
【0007】
この種の付属品は、従来のPLD方法が鉛直に配置された基板マウントをもつ場合、更に必要になる。シャドーマスクを基板に取り付ける適切な取付具がなければ、シャドーマスクは基板上でずれたり基板から外れたりする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、上述の問題を少なくとも部分的に解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、移動可能なディスクにシャドーマスクが配置され、移動可能なディスクが基板マウントに対して軸方向に接離するように移動できることを特徴とする本発明によって達成される。
【0010】
本発明の装置によれば、シャドーマスクを所望のときに取り付け,取り外しすることができる。これは、移動可能なディスクを、基板表面に平行な方向に自由に動けるようにして基板マウントから離れるように移動させて行われる。次に、移動可能なディスクを、例えば基板マウントの上方に在るシャドーマスクの位置など所望の位置へ移動させる。最後に、基板マウントに向けてディスクを再び下降させて、基板マウント上の基板と移動可能なディスク内のシャドーマスクを密着させる。
【0011】
ディスクの移動は、回転,並進または両者を組み合わせた1次元以上の運動にできる。ディスクは、軸方向に並進でき、軸の周りに回転できるのが好ましい。
【0012】
移動可能なディスクは、複数のシャドーマスクをもつのが好ましい。これは、複雑な構造の素子をPLD法で製造することを可能にする。
【0013】
本発明の1実施形態によれば、移動可能なディスクは、シャドーマスクを収容する少なくとも1つの開口を有する。この開口は、シャドーマスクを支持するフランジをもつのが好ましい。
【0014】
上記実施形態では、シャドーマスクは開口に収容されているから、移動可能なディスクに対する正確な位置決めが保証される。好ましい実施形態による装置は、少なくとも1つのシャドーマスクを移動可能なディスクに向けて付勢するばね手段を備える。シャドーマスクはばね手段で付勢されるので、基板の表面と平行な方向への位置合わせにおける小さな差を解消できる。さらに、ばね手段は、シャドーマスクが基板を押圧する押圧力を実質的に一定にする。
【0015】
大面積のPLDでは、基板は時々回転される。基板が回転すると、シャドーマスクも回転させねばならない。回転するシャドーマスクと基板の間の隙間を確実に小さくするために、シャドーマスクの上部に比較的重いリングを載せて、付勢力を追加することができる。このリングは、シャドーマスクの穴を覆わないように載せられる。上記リングは、シャドーマスクの中央部分も基板を押圧するように複雑な構造にできる。
【0016】
本発明の他の好ましい実施形態では、少なくとも1つのシャドーマスクは、シャドーマスクを移動可能なディスクに対して整列させる第1の整列手段を有する。この整列手段は、例えば、シャドーマスクに設けられ、移動可能なディスクに設けられたノッチと協働するリッジからなる。
【0017】
本発明の更に他の好ましい実施形態では、パルスレーザ堆積のための装置は、移動可能なディスクを基板マウントに対して整列させる第2の整列手段を有する。ディスクは、例えば、シャドーマスクが基板と適切に接触しないような角度に配置される。また、第2の整列手段なしでは、ディスクの偏心のため、シャドーマスクを総てが総て互いに整列できる訳ではない。
【0018】
少なくとも2つのノッチを、移動可能なディスクとの協働による整列のために、基板マウントの対向する両側に設けることが好ましい。例えば、ディスクまたはシャドーマスクに設けられたピンを、整列のための上記ノッチに嵌合させることができる。
【0019】
本発明の非常に好ましい実施形態では、複数のターゲットマウントが移動可能なアームに設けられる。この実施形態は、ターゲット材料を交換するために真空室を開放する必要なしに、基板上に種々の材料を堆積させることができる。交換可能なシャドーマスクと相俟って、異なる材料で異なるパターンの種々の層からなる複雑な素子を製造することができる。
【0020】
本発明の更に他の実施形態は、少なくとも1つのシャドーマスクの基板に対する方向を監視する視覚手段を有する。この視覚手段は、カメラまたは顕微鏡であるのが好ましい。
【0021】
本発明では、複数のマスクが容易に交換できるが、マスクを基板の構造に対して整列させなければならない。本発明では、複数のマスクの基板に対するマイクロメーター精度の整列は、位置決め装置および光学または走査型電子顕微鏡などの視覚手段によって行われる。斯かる顕微鏡によって、操作中に、マスクに対する基板の平面内運動(x, y)および回転運動(φ)を観察できる。ホルダに載置された基板は、x,y,z方向および回転方向に位置決めできなければならない。上記顕微鏡による観察は、マスクに対する基板の位置決め手段にフィードバックされる。
【0022】
視覚手段がシャドーマスクを一見で観察できない場合や拡大視が必要な場合、視覚手段がシャドーマスクに平行に少なくとも2次元移動できるのが好ましい。更に、視覚手段の焦点合わせや視覚手段の除去のために、第3の次元を用いることができる。
【0023】
他の実施形態では、視覚手段は、少なくとも1つのシャドーマスクに向かって接離するように移動できる。視覚手段は、回転可能なアームに設けるのが好ましいが、真空室の壁などに取り付けられた分離したガイドに配置することもできる。
【0024】
光学顕微鏡は、好ましくは、シャドーマスクに対する基板の表面や位置を見るため、複数のマスクを順次整列させるためにフォトリソグラフィで主に用いられるアラインメントマーカーを観察すべく、シャドーマスクの直上に設けるべきである。
【0025】
さらに、本発明は、パルスレーザ堆積のための上記装置を操作する方法に関し、この方法は、
第1のシャドーマスクを基板の上方に配置して、移動可能なディスクがシャドーマスクに当接するように移動可能なディスクを下降させるステップと、
ターゲット材料にレーザ光を照射して、第1のシャドーマスクに従ったターゲット材料の被覆を基板上に形成するステップと、
上記移動可能なディスクを上昇させ、かつ、回転させて、第2のシャドーマスクを基板の上方に位置させるステップとからなり、
これらのステップを繰り返す方法である。
【0026】
本発明の更なる実施形態では、回転可能なアームは、第2のターゲット材料を載せた第2のターゲットマウントが基板に対向するように回転させられる。
【0027】
本発明の方法は、移動可能なディスクを下降させた後に基板マウントを上昇させるステップを備えるのが好ましい。このステップは、基板マウントを上昇させることによって、移動可能なディスクを基板マウントと適切に整列させることができ、基板がシャドーマスクに押し付けられて密着することが保証される。
【0028】
本発明の上記実施形態による何れの装置でも、重力の方向は、基板の表面に直交し、シャドーマスクが基板の頂部に配置されるのが好ましい。
【0029】
本発明の上述の特徴および利点は、添付図面を参照して次に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である装置の概略斜視図である。
【図2A】図2Aは、図1の装置において基板上にシャドーマスクを配置する第1ステップを示す図である。
【図2B】図2Bは、図1の装置において基板上にシャドーマスクを配置する第2ステップを示す図である。
【図2C】図2Cは、図1の装置において基板上にシャドーマスクを配置する第3ステップを示す図である。
【図3】図3は、シャドーマスクの2つの実施形態を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態による装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の第1の実施形態1の概略を示す。この装置1は、基板マウント2とこの基板マウント2に載せられた基板3を備える。この基板マウント2は、鉛直方向に移動できる。
【0032】
基板マウント2の上方には、4つのアーム5をもつ回転枠4が配置されている。各アーム5の自由端には、ターゲットマウントが固定されている。各ターゲットマウントには、特定のターゲット材料が配置できる。
【0033】
ターゲットマウント6と基板マウント2の間に、回転ディスク7が配置される。ディスク7は、1つを除く開口8にシャドーマスク9が収容される5つの開口8を有する。
【0034】
シャドーマスク9がない開口8から明らかなように、各開口は、シャドーマスク9を保持するフランジ10を有する。
【0035】
図2Aは、図1の装置の断面図を示す。基板マウント2の両側には、位置決めチップ12をもつホスト11が配置される。チップ12は、回転ディスク7に在るノッチ13に嵌合するようになっていて、基板マウント2と基板3に対する回転ディスク7の正確な位置合わせを保証する。
【0036】
シャドーマスク9自体は、フランジ10の内径と略同じ直径の小径部を底部に有して、回転ディスク7に対するシャドーマスクの適切な位置合わせを保証する。
【0037】
シャドーマスク9の頂部には、複数のばね要素14が在り、ばね要素14は、シャドーマスク9をディスク7の開口8に押し込む。
【0038】
図2Bに示す次のステップでは、回転ディスク7が下降されて、チップ12がノッチ13に嵌合する。こうして、ディスク7,従ってシャドーマスク9が、基板3に対して適切に位置合わせされる。
【0039】
そして、基板3を載せた基板マウント2が、図2Cに示すように上昇され、その結果、基板3がシャドーマスク9に密着させられる。これは、PLD法で堆積される被覆にマスクの先鋭なパターンを残すために必要である。
【0040】
シャドーマスク9を基板に密着させることによって、シャドーマスク9は、開口8内でフランジ10の上方まで幾分押し上げられる。シャドーマスク9と基板3が、高温によって膨脹した場合、シャドーマスク9が、ディスク7,とりわけ開口8のフランジ10によって拘束されないというのが、上記構成の利点である。
【0041】
図3は、シャドーマスク20,21の2つの実施形態を示す。これらのシャドーマスク20,21は、主として交互に適用される。シャドーマスク20,21の正確な位置合わせを保証するため、各シャドーマスク20,21は、シャドーマスク20,21上の所定の位置に配置されたアラインメントマーク22を有する。これらのアラインメントマークによって、シャドーマスクの正確な方向付けを決定し、基板をシャドーマスクに位置合わせすることが可能になる。
【0042】
図4は、本発明の第2の実施形態25を示す。この装置25は、頂部に基板27を載せた基板マウント26を備える。基板マウント26の両側には、位置決めチップ29をもつポスト28が配置される。位置決めチップ29は、回転ディスク31に在るノッチ13に嵌合するようになっていて、ポスト28従って基板マウント26に対するディスク31の適切な位置合わせを保証する。
【0043】
基板27に対するシャドーマスク20の適切な位置合わせを保証するには、シャドーマスク20の付近に顕微鏡32を下降させる。顕微鏡32によってアラインメントマーク22とその下の基板27を観察することができる。前回のマスクのアラインメントマークが基板27上にマークを残しているので、このマークにアラインメントマーク22を位置合わせすることによって、次のシャドーマスク20を適切に揃えることが保証される。
【0044】
位置合わせは、3次元の全運動と回転運動を与えるポジショナー34,35,36,37によって基板マウント26を位置決めすることによって行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載せられる基板マウントと、
この基板マウントに対向し、ターゲット材料が載せられるターゲットマウントと、
上記ターゲット材料にレーザ光を照射するレーザ装置と、
上記基板の上方に配置されるシャドーマスクを備えたパルスレーザ堆積のための装置において、
上記シャドーマスクは、移動可能なディスクに載せられ、この移動可能なディスクは、上記基板マウントに対して接離するように軸方向に移動できることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、上記移動可能なディスクは、複数のシャドーマスクを有することを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置において、上記移動可能なディスクは、上記シャドーマスクを収容する少なくとも1つの開口をもつことを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置において、上記開口は、上記シャドーマスクを保持するフランジを有することを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の装置において、少なくとも1つの上記シャドーマスクを上記移動可能なディスクに向けて付勢するばね手段を有することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の装置において、少なくとも1つの上記シャドーマスクの頂部にこのシャドーマスクを上記移動可能なディスクに向けて付勢する重りを有することを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の装置において、少なくとも1つの上記シャドーマスクは、このシャドーマスクを上記移動可能なディスクに対して整列させる第1の整列要素を有することを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の装置において、上記移動可能なディスクを上記基板マウントに対して整列させる第2の整列要素を有することを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置において、上記移動可能なディスクと協働して整列を行わせる少なくとも2つの整列ノッチを、上記基板マウントの対向する側に設けたことを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の装置において、上記ターゲットマウントは、複数のマウントをもつ回転アームに設けられていることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1つに記載の装置において、少なくとも1つの上記シャドーマスクの上記基板に対する方位を観察するための視覚手段を備えることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置において、上記視覚手段は、カメラまたは顕微鏡であることを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の装置において、上記視覚手段は、少なくとも1つの上記シャドーマスクに接離するように移動できることを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項10および請求項11乃至13のいずれか1つに記載の装置において、上記視覚手段は、上記回転アームに配置されていることを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項10に記載の装置を操作するための方法であって、
第1のシャドーマスクを上記基板の上方に配置し、上記移動可能なディスクを下降させて、上記シャドーマスクを基板に当接させるステップと、
上記ターゲット材料に上記レーザ光を照射して、上記基板上に上記第1のシャドーマスクに応じたターゲット材料の被覆を形成するステップと、
上記移動可能ディスクを上昇および回転させて、第2のシャドーマスクを基板の上方に配置するステップを有し、
上記ステップを繰り返すことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、上記回転アームは、第2のターゲット材料をもつ第2のターゲットマウントを上記基板に対向して位置させるように回転できることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の方法において、上記移動可能なディスクを下降させた後に、上記基板マウントを上昇させるステップを有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−524838(P2012−524838A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506444(P2012−506444)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054877
【国際公開番号】WO2010/121931
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511052015)ソルマテス・ベスローテン・フェンノートシャップ (4)
【氏名又は名称原語表記】Solmates B.V.
【Fターム(参考)】