説明

パルスレーダ装置

【課題】アナログ受信信号に含まれる背景信号成分およびシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を有効に除去する。
【解決手段】
D/A変換器22は、記憶部21から読み出されたデジタル参照背景信号をアナログ化することによって、アナログ参照背景信号を出力する。アナログ減算器13は、アナログ受信信号と、アナログ参照背景信号との減算を行って、アナログ受信信号から背景信号成分を除去したアナログ減算信号を出力する。A/D変換器23は、アナログ減算信号をデジタル化することによって、デジタル減算信号を出力する。補正部24は、記憶部21から読み出されたデジタル補正信号に基づいて、デジタル減算信号を補正し、ターゲットの測距に用いられるデジタル応答信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距対象となるターゲットが存在する放射空間に放射されたパルス信号のうち、受信アンテナによって受信されたパルス信号をアナログ受信信号として受信して、ターゲットの測距を行うパルスレーダ装置に係り、特に、アナログ受信信号に含まれる不要な信号成分の除去に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーダ装置において、受信アンテナによって受信されたアナログ受信信号には、測距対象となるターゲットにて反射・散乱された応答信号(S)の他に、不要な背景信号等(I)も含まれている。背景信号としては、クラッタ信号や回折波等が挙げられる。クラッタ信号は、例えば大地(路面)といったターゲット以外の周囲環境に依存した反射成分である。また、回折波は、送信アンテナから送信されたパルスが回折して受信アンテナに直接入り込むノイズ成分である。測距でのノイズとなる背景信号には、再現性のない信号(ストキャスティックな信号)と、再現性のある信号とが存在する。前者に対しては、信号値の平均を算出するといった統計的な処理によってある程度除去することができる。しかしながら、後者に統計的な処理を施すと、逆に信号が強調されてしまい、S/I比の悪化を招いてしまう。
【0003】
特許文献1には、デジタル化された受信信号と、予め記憶された再現性のある背景信号との減算によって、S/N比の向上を図るFM−CWレーダが開示されている。また、特許文献2には、デジタル化した上で記憶した再現性のある背景信号を再びアナログ化し、これと受信信号との減算によって、受信信号に含まれる背景信号成分を除去する近接物体検出用レーダシステムが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−318143号公報
【特許文献2】特表2001−526767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的なアナログデジタル変換(以下、「A/D変換」という)では、丸め誤差(以下、「量子化誤差」という)が重畳する。また、デジタルアナログ変換(以下、「D/A変換」という)では、量子化誤差以外にアパチャー誤差も重畳する。上述した特許文献1,2では、これらの誤差成分が考慮されていない。そのため、特許文献1では、応答信号の強度が量子化誤差よりも低い場合、A/D変換によって、応答信号自体が量子化により丸められ、結果的に消去されてしまうといった事態が生じ得る。一方、特許文献2では、応答信号が消去されてしまうことはないが、量子化誤差およびアパチャー誤差よりも応答信号の強度が小さく、S/I比を十分に改善することができない。また、特許文献1,2のいずれであっても、応答信号の強度を量子化誤差よりも大きくする必要があるので、S/I比の低下にしたがって、A/D変換器やD/A変換器の出力ビット数を増大させる必要がある他、より大きな容量のメモリを用いる必要もあった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アナログ受信信号に含まれる背景信号成分およびシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を有効に除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明は、記憶部と、D/A変換器と、アナログ減算器と、A/D変換器と、補正部とを有し、測距対象となるターゲットが存在する放射空間に放射されたパルス信号のうち、受信アンテナによって受信されたパルス信号をアナログ受信信号として受信して、ターゲットの測距を行うパルスレーダ装置を提供する。記憶部には、デジタル参照背景信号とデジタル補正信号とが記憶されている。デジタル参照背景信号は、アナログ受信信号に含まれるターゲット以外の背景に起因した背景信号成分を除去するためのデジタル信号である。また、デジタル補正信号は、信号のデジタル化およびアナログ化を含むシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を除去するためのデジタル信号である。D/A変換器は、記憶部から読み出されたデジタル参照背景信号をアナログ化することによって、アナログ参照背景信号を出力する。アナログ減算器は、アナログ受信信号と、D/A変換器から出力されたアナログ参照背景信号との減算を行うことによって、アナログ受信信号から背景信号成分を除去したアナログ減算信号を出力する。A/D変換器は、アナログ減算信号をデジタル化することによって、デジタル減算信号を出力する。補正部は、記憶部から読み出されたデジタル補正信号に基づいて、A/D変換器から出力されたデジタル減算信号を補正することにより、ターゲットの測距に用いられるデジタル応答信号を出力する。
【0008】
ここで、本発明において、デジタル参照背景信号は、放射空間内にターゲットが存在しない状態で受信されたアナログ受信信号をA/D変換器でデジタル化した信号であってもよい。また、デジタル補正信号は、アナログ減算器から出力されたアナログ減算信号をA/D変換器によってデジタル化した信号であってもよい。このアナログ減算信号は、放射空間内にターゲットが存在しない状態で受信されたアナログ受信信号と、D/A変換器から出力されたアナログ参照背景信号とをアナログ減算器によって減算したものである。
【0009】
また、本発明において、第1の減衰器、遅延調整部および第2の減衰器の少なくとも一つをさらに設けてもよい。第1の減衰器は、D/A変換器とアナログ減算器との間に設けられており、アナログ参照背景信号の利得を減衰させる。また、遅延調整部は、記憶部とD/A変換器との間に設けられており、D/A変換器から出力されたアナログ参照背景信号の遅延量を調整する。第2の減衰器は、記憶部とD/A変換器との間に設けられており、D/A変換器から出力されたアナログ参照背景信号の利得を調整する。また、デジタル参照背景信号と、放射空間内にターゲットが存在しない状態で受信されたアナログ受信信号とに基づいて、遅延調整部の遅延または第2の減衰部の利得を調整する評価部をさらに設けてもよい。
【0010】
また、本発明において、D/A変換器は、入力されたデジタル参照背景信号のサンプル点の間を前後のサンプル値を用いて補間することにより、デジタル参照背景信号よりも高い分解能を有するアナログ参照背景信号を出力することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明において、D/A変換器は、アナログ参照背景信号の利得をデューティ比によって可変に設定することが好ましい。この場合、D/A変換器とアナログ減算器との間に設けられ、D/A変換器が出力したアナログ参照背景信号を時間的に平準化するローパスフィルタをさらに設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、受信アンテナによって受信されたアナログ受信信号に含まれる背景信号成分の除去をアナログ信号ベースで行い、その処理結果をデジタル化したデジタル減算信号に含まれる誤差成分の除去をデジタル補正信号を用いてデジタル信号ベースで行う。このデジタル補正信号は、信号のデジタル化およびアナログ化を含むシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を除去するための信号であり、記憶部に予め記憶されている。このような2段階の処理を通じて、背景信号成分を有効に除去でき、かつ、A/D変換で信号に重畳する量子化誤差およびD/A変換で信号に重畳するアパチャー誤差の双方も有効に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(背景信号除去のモデル)
まず、本実施形態に係るパルスレーダ装置の具体的な構成の説明に先立ち、背景信号除去の概要について説明する。図1は、背景信号除去の説明図である。同図(a)は、放射空間内に測距対象となるターゲットが存在しない状況(以下、「基準環境」という)で受信されたアナログ受信信号の波形を示す。基準環境におけるアナログ受信信号は、背景信号そのものである。同図(b)に示すように、アナログ受信信号がデジタル化され、デジタル参照背景信号が生成される。このデジタル参照背景信号には、A/D変換で重畳する量子化誤差が含まれている。ターゲットが存在する状況下であってもアナログ受信信号のS/I比が低ければ、アナログ受信信号は背景信号と見なすことができるので、この場合には、これを基準環境のアナログ受信信号として扱う。これは、例えば路面に存在する側溝等のように、定常的に存在する対象物をターゲットとして検出する場合に有効である。
【0014】
同図(c)は、同図(b)のデジタル参照背景信号を再びアナログ化し、背景信号との減算を行った信号(アナログ減算信号)の理想形である。デジタル参照背景信号にはA/D変換時に量子化誤差が重畳するので、アナログ減算信号は、本来、量子化誤差のみの信号となるはずである。しかしながら、実際には、のアナログ参照背景信号には、D/A変換時に量子化誤差とアパチャー誤差とがアナログ参照背景信号に更に重畳する。したがって、実際のアナログ減算信号は、同図(d)に示すように量子化誤差とアパチャー誤差との合成信号となる。本実施形態では、これらの誤差成分を除去するために、同図(e)に示すようにアナログ減算信号を用意し、これをデジタル化したデジタル補正信号をシステム内に記憶しておく。デジタル補正信号は、信号のデジタル化およびアナログ化を含むシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を除去するために用いられる。
【0015】
同図(d)のアナログ減算信号をデジタル化したデジタル減算信号と、同図(e)のデジタル補正信号とを減算すると、同図(f)に示すようにフラットな信号を得る。また、放射空間内にターゲットが存在する状況(以下、「測距環境」という)では、たとえターゲットが変動するとしても、同図(g)に示すように量子化誤差およびアパチャー誤差の影響を除去した理想的なデジタル応答信号を得ることができる。本発明は、かかる点に着目したものであり、このようなデジタル応答信号を用いてターゲットの測距を行うことで、測距精度の向上を図る。これに対して、同図(h)に示すように、上記誤差成分が重畳したままのデジタル応答信号では、十分な測距精度を確保することが困難である。
【0016】
(パルスレーダ装置)
図2は、本実施形態に係るパルスレーダ装置の構成図であり、上述した概念をハードウェア的に実現したものである。このパルスレーダ装置は、アナログ信号ベースでの処理を行うアナログ処理部1と、デジタル信号ベースでの処理を行うデジタル処理部2とに大別される。アナログ処理部1は、受信アンテナ11と、レーダ回路12と、アナログ減算器13とを主体に構成されており、主にターゲットT等によって反射された送信パルスを受信する。受信アンテナ11は、パルスの放射空間内に測距対象となるターゲットTが存在する状態(測距環境)において、あるいは、測距対象のターゲットTが存在しない状態(基準環境)において、送信系(図示しない送信アンテナ)によって送信された送信パルスを受信する。レーダ回路12は、受信アンテナ11によって受信された受信パルスをサンプリングし、アナログ受信信号を出力する。アナログ減算器13は、レーダ回路12によって出力されたアナログ受信信号と、デジタル処理部2中のD/A変換器22によって出力されたアナログ参照背景信号との減算を行い、この減算結果をアナログ減算信号として出力する。
【0017】
アナログ処理部1は、上記回路要素の他に、増幅器14、ローパスフィルタ15および減衰器16も有する。増幅器14は、アナログ減算器13と、デジタル処理部2(正確には、A/D変換器23)との間に設けられており、デジタル補正信号の取得時およびデジタル応答信号の取得時の双方において、アナログ減算器13によって出力されたアナログ減算信号を増幅する。ローパスフィルタ15および減衰器16は、デジタル処理部2中のD/A変換器22と、アナログ減算器13との間に設けられている。減衰器16は、アナログ減算器13からA/D変換器23に至る処理系における信号の利得増幅分だけ、D/A変換器22から出力されたアナログ参照背景信号の利得を減衰させる。減衰器16としては、例えばアッテネータを用いることができ、D/A変換器22によって出力されたデジタル参照背景信号をアナログ受信信号と同じ利得に減衰させる。
【0018】
デジタル処理部2は、記憶部21と、D/A変換器22と、A/D変換器23と、補正部24とを主体に構成されており、主にアナログ処理部1が受信したアナログ受信信号からデジタル応答信号を抽出する。そして、このデジタル処理を行うために必要な信号、あるいは、このデジタル処理によって生成された信号は、記憶部21に格納・記憶され、必要に応じて読み出される。記憶部21に格納される信号には、デジタル参照背景信号、デジタル補正信号、デジタル応答信号の3種類がある。デジタル参照背景信号は、図1(b)で示した信号であり、基準環境で受信されたアナログ受信信号に含まれるターゲットT以外の背景に起因した背景信号成分を除去するために用いられる。この信号は、基準環境におけるアナログ受信信号をA/D変換器23でデジタル化することによって得られる。デジタル補正信号は、同図(e)で示した信号であり、システム内部の処理において生じる誤差成分を補正するために用いられる。この信号は、基準環境におけるアナログ受信信号と、D/A変換器22によって出力されたアナログ参照背景信号との減算値をA/D変換器23でデジタル化することによって得られる。デジタル応答信号は、同図(h)に示した信号であり、ターゲットTの測距に用いられる。この信号は、測距環境において記憶部21から読み出されたデジタル補正信号に基づいて、A/D変換器23から出力されたデジタル減算信号を補正したものである。
【0019】
補正部24は、測距環境において用いられ、デジタル応答信号を抽出するために、アナログ処理部1におけるアナログ減算器13からA/D変換器23を介して入力されたデジタル化されたデジタル減算信号と、記憶部21から読み出されたデジタル補正信号との減算を行い、デジタル応答信号を出力する。デジタル応答信号は、測距対象データとして取り扱われ、これによって測距対象であるターゲットTまでの距離が算出される。
【0020】
デジタル処理部2は、上記回路要素の他に、評価部25、背景信号調整部26、雑音信号調整部27およびD/A変換器28も有する。評価部25は、デジタル処理部2におけるA/D変換器23の出力側に設けられている。背景信号調整部26は、記憶部21とD/A変換器22との間に設けられており、記憶部21に記憶されたデジタル参照背景信号を読み出し、必要に応じてその利得(振幅)や遅延量(位相)を調整する。背景信号調整部26は、遅延調整部26aと、利得調整部26bとで構成される。雑音信号調整部27は、記憶部21に記憶されたデジタル補正信号を読み出して、D/A変換器28を介した増幅器14に対する利得制御を行う。
【0021】
本実施形態において、ローパスフィルタ15を設けた理由は、D/A変換器22の振幅(利得)の分解能よりも高い精度でアナログ参照背景信号を生成するためである。D/A変換器22は、出力値に応じた電圧値をデューティ比で出力する。ローパスフィルタ15は、このデューティ比を時間的に平準化し、これをアナログ参照背景信号として出力する。これによって、A/D変換器22の本来の分解能よりも高いレベルで、アナログ参照背景信号の電圧を設定することが可能になり、より精度の高い参照信号が得られる。
【0022】
図3は、背景信号除去プロセスのフローチャートであり、記憶部21に何ら信号が格納されていない初期状態から、(1)デジタル参照背景信号を得るまでの手順、(2)デジタル補正信号を得るまでの手順、(3)測距対象データであるデジタル応答信号を得るまでの手順を統合的に示している。デジタル参照背景信号およびデジタル補正信号の取得は共に、基準環境で受信されたアナログ受信信号に基づいて行われる。これに対して、デジタル応答信号の取得は、測距環境で受信されたアナログ受信信号に基づいて行われる。アナログ受信信号は、それが必要となる毎に受信アンテナ11およびレーダ回路12を経由して取得される。その際、各環境下でのアナログ受信信号を記憶しておけば、これらを複数回取得せずに済む。
【0023】
まず、ステップ1において、デジタル参照背景信号が取得される。具体的には、基準環境、すなわち、放射空間内にターゲットTが存在しない状態において、受信アンテナ11およびレーダ回路12によって、アナログ受信信号が取得される。理論上、アナログ受信信号には、ターゲットT以外の背景に起因した背景信号成分のみが含まれている。取得されたアナログ受信信号は、A/D変換器23によってデジタル化された上で、デジタル参照背景信号として記憶部21に格納される。なお、ここでの処理は、アナログ減算器13、増幅器14および補正部24を介して行われるが、この状態では、デジタル参照背景信号およびデジタル補正信号が記憶部21に未だ格納されていない。したがって、これらのユニット13,14,24において、後述するような処理は行われず、入力がそのまま出力となる点に留意されたい。また、受信アンテナ11等による信号の取得が正常ではなく、デジタル参照背景信号が適正でないと判断される場合には、これが正常に取得されるまで、デジタル参照背景信号の取得が繰り返される。
【0024】
ステップ2では、記憶部21からデジタル参照背景信号が読み出され、D/A変換器22によってアナログ化されたアナログ参照背景信号がアナログ減算器13に入力される。これに続くステップ3では、アナログ減算器13によってアナログ参照背景信号と受信信号との減算が行われ、アナログ減算信号が出力される。出力されたアナログ減算信号は、A/D変換器23によってデジタル化され、デジタル減算信号として出力される。
【0025】
ステップ4では、デジタル処理部2に入力されたデジタル減算信号の遅延量(位相差)が評価部25によって評価され、A/D変換器23に入力されたデジタル参照背景信号の遅延量が適正であるか否かが判断される。デジタル減算信号の遅延量が最小(min)でない場合には、A/D変換器23に入力されたデジタル参照背景信号が適正でないと判断される。この場合にはステップ5に進む。ステップ5では、ステップ4で評価した遅延量に基づいて、背景信号調整部26における遅延調整部26aに対してデジタル参照背景信号の遅延量、すなわち出力タイミングが調整される。その後、ステップ2に戻る。一方、ステップ4において、デジタル減算信号の遅延量が最小である場合、A/D変換器23に入力されたデジタル参照背景信号が適正であると判断して、ステップ6に進む。
【0026】
ステップ6では、ステップ2と同様に、記憶部21から参照背景信号が読み出され、D/A変換器22によってアナログ参照背景信号がアナログ減算器13に入力される。これに続くステップ7では、ステップ3と同様に、アナログ減算器13によってアナログ参照背景信号とアナログ受信信号との減算が行われ、アナログ減算信号が出力される。出力されたアナログ減算信号は、A/D変換器23によってデジタル化され、デジタル減算信号として出力される。
【0027】
ステップ8では、ステップ7でデジタル処理部2に入力されたデジタル減算信号の利得が評価部25によって評価され、A/D変換器23に入力されたデジタル参照背景信号の利得が適正であるか否かが判断される。デジタル減算信号の利得が最小(min)でない場合、A/D変換器23に入力されたデジタル参照背景信号が適正でないと判断される。この場合には、ステップ9に進み、ステップ8で評価した利得に基づいて、背景信号調整部26における利得調整部26bに対してデジタル参照背景信号の利得が調整される。その後、ステップ6に戻る。一方、ステップ8で、デジタル減算信号の利得が最小である場合、A/D変換器23に入力されたデジタル参照背景信号が適正であると判断され、ステップ10に進む。
【0028】
ステップ10では、増幅器14に対する利得制御が行われる。ステップ8で適正と判断された場合のデジタル減算信号が、デジタル補正信号として暫定的に記憶部21へ格納される。そして、このデジタル補正信号に基づいて、増幅器14に対する利得制御が行われる。この利得制御は、雑音信号調整部27によってA/D変換器23が規定する入力レンジ幅となるように利得(Gain)が算出され、その計算結果が、D/A変換器28を介して増幅器14に反映される。
【0029】
ステップ10に続くステップ11では、デジタル補正信号の取得が行われる。まず、受信アンテナ11によって基準環境での受信パルスが受信され、レーダ回路12によってサンプルされたアナログ受信信号が出力される。そして、アナログ受信信号は、アナログ減算器13によってアナログ参照背景信号と減算されてアナログ減算信号が出力される。出力されたアナログ減算信号は、増幅器14によって増幅される。増幅されたアナログ減算信号は、更にA/D変換器23によってデジタル化され、デジタル補正信号として記憶部21に格納される。デジタル減算信号は、補正部24に入力されるが、この段階では記憶部21にデジタル補正信号が未だ確定していない。したがって、補正部24は、入力されたデジタル減算信号をそのまま出力する。また、ステップ1と同様に、制御部によって、デジタル補正信号の評価が行われる。例えばアナログ減算、増幅処理あるいはA/D変換処理等が正常に行われず、デジタル補正信号が適正でないと判断される場合には、これが適切に取得されるまでデジタル補正信号の取得が繰り返される。
【0030】
ステップ12では、デジタル応答信号の取得が行われる。まず、受信アンテナ11によって測距環境での受信パルスが受信され、レーダ回路12によってサンプルされたアナログ受信信号が出力される。そして、アナログ減算器13によって、アナログ受信信号とアナログ参照背景信号とが減算されてアナログ減算信号が出力される。出力されたアナログ減算信号は、増幅器14によって増幅される。増幅されたアナログ減算信号は、さらにA/D変換器23によってデジタル化されてデジタル減算信号となる。測距環境におけるデジタル減算信号は、補正部24によってデジタル補正信号と減算されてデジタル応答信号として記憶部21に格納される。これ以降、アナログ受信信号が受信・取得される毎に、記憶部21からデジタル背景信号とデジタル補正信号とが読み出され、これらに基づいた減算・補正処理が繰り返される。
【0031】
図4は、ステップ2,6におけるD/A変換器22の説明図である。同図(a)に示すように、出力レートが低くサンプル数も少ない場合、遅延量の分解能が低く、デジタル参照背景信号の除去率が低い。また、同図(b)のように、出力レートが高くサンプル数も高い場合、遅延量の分解能も高くなる。その反面、サンプル数の増大に伴い演算負荷も増大し、処理のリアルタイム性を損なうおそれがある。そこで、同図(c)のように、サンプル数は少ないまま、D/A変換器22の出力レートをデジタル参照背景信号のデータ点数よりも高くすることで、データ量を変えずアナログ参照背景信号の遅延量の分解能向上を図ることができる。具体的には、D/A変換器22は、入力されたデジタル参照背景信号のサンプル点の間を前後のサンプル値を用いて補間することにより、デジタル参照背景信号よりも高い分解能を有するアナログ参照背景信号を出力する。
【0032】
図5は、背景信号除去のシミュレートの説明図である。同図(a)は、背景信号除去前の測距環境におけるアナログ受信信号および背景信号の特性を示す。アナログ受信信号からデジタル応答信号を抽出するためには、基準環境時の背景信号を減算する必要がある。同図(b)は、同図(a)のアナログ受信信号からデジタル参照背景信号を減算し、さらに増幅およびデジタル化したデジタル減算信号の特性を示す。測距環境におけるデジタル減算信号は、測距対象となるデジタル応答信号に量子化誤差およびアパチャー誤差を含む。一方、基準環境におけるデジタル減算信号は、量子化誤差およびアパチャー誤差そのものである。したがって、同図(c)に示すように、測距環境におけるデジタル減算信号と、基準環境におけるそれ(デジタル補正信号)とを補正部24にて減算することで、ターゲットTからの応答信号をデジタル化したデジタル応答信号を得ることができる。
【0033】
このように、本実施形態では、受信アンテナ11によって受信されたアナログ受信信号に含まれる背景信号成分の除去をアナログ信号ベースで行い、その処理結果をデジタル化したデジタル減算信号に含まれる誤差成分の除去をデジタル補正信号を用いてデジタル信号ベースで行う。このデジタル補正信号は、信号のデジタル化およびアナログ化を含むシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を除去するための信号であり、記憶部21に予め記憶されている。上述したように、A/D変換での量子化誤差およびD/A変換でのアパチャー誤差は共に再現性がある。本実施形態は、この点に着目し、基準環境においてこれらの誤差成分を再現し、これを除去するためのデジタル補正信号を生成する。そして、背景信号成分の除去および誤差成分の除去という2段階の処理を行うことで、背景信号成分、量子化誤差およびアパチャー誤差のいずれも有効に除去することができる。
【0034】
本実施形態によれば、A/D変換器23やD/A変換器22の出力ビット数を増大等させずに済み、応答信号の強度が量子化誤差以下の場合であっても、S/I比を改善することが可能になる。
【0035】
さらに、本実施形態によれば、送信アンテナからの直接波や大地反射波などの定常的な干渉波を有効に除去できる。利得の分解能は、一般的にはA/D変換の出力ビット数に依存するが、本実施形態によれば、アナログベースおよびデジタルベースの双方で減算を行うことで、利得の分解能を”MIN(A/D変換のビット数,D/A変換のビット数)+log2(I/S)”に高めることができる。なお、本実施形態は、量子化誤差およびアパチャー誤差の除去を想定したものだが、本発明はこれに限らず、例えば、D/A変換器22で発生するグリッチ等の統計的な誤差を含めて、システム内での処理によって信号に重畳する各種の誤差成分に対して広く適用可能である。
【0036】
なお、本実施形態では、デジタル参照背景信号の遅延量の調整(ステップ2〜5)を行った後にデジタル参照背景信号の利得調整(ステップ6〜9)を行っているが、この利得調整を先に行った後に遅延量調整を行ってもよく、両者を同時並行的に行ってもよい。
【0037】
また、本実施形態では、デジタル参照背景信号の遅延量・利得の調整をデジタルベースで行っているが、これをアナログベースで行ってもよい。この場合、デジタル参照背景信号とアナログ受信信号との遅延量・利得の減算値を求め、その減算値に基づいて背景信号調整部26に対するデジタル参照背景信号の遅延量・利得を調整する。評価部25は、デジタル処理部2内に設けられている必要は必ずしもなく、アナログ減算信号を読み出して背景信号調整部26を調整してもよい。また、評価部25は、アナログ減算器13からのアナログ減算信号の出力(A/D変換器23への入力)を待たず、記憶部21から読み出したデジタル参照背景信号と、レーダ回路12が出力したアナログ受信信号とを直接読み出して調整することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】背景信号除去の説明図
【図2】パルスレーダ装置の構成図
【図3】背景信号除去プロセスのフローチャート
【図4】D/A変換器の説明図
【図5】背景信号除去のシミュレートの説明図
【符号の説明】
【0039】
1 アナログ処理部
11 受信アンテナ
12 レーダ回路
13 アナログ減算器
14 増幅器
15 ローパスフィルタ
16 減衰器
2 デジタル処理部
21 記憶部
22,28 D/A変換器
23 A/D変換器
24 補正部
25 評価部
26 背景信号調整部
26a 遅延調整部
26b 利得調整部
27 雑音信号調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距対象となるターゲットが存在する放射空間に放射されたパルス信号のうち、受信アンテナによって受信された前記パルス信号をアナログ受信信号として受信して、前記ターゲットの測距を行うパルスレーダ装置において、
前記アナログ受信信号に含まれる前記ターゲット以外の背景に起因した背景信号成分を除去するためのデジタル参照背景信号と、信号のデジタル化およびアナログ化を含むシステム内での処理によって信号に重畳する誤差成分を除去するためのデジタル補正信号とを記憶する記憶部と、
前記記憶部から読み出された前記デジタル参照背景信号をアナログ化することによって、アナログ参照背景信号を出力するデジタルアナログ変換器と、
前記アナログ受信信号と、前記デジタルアナログ変換器から出力された前記アナログ参照背景信号との減算を行うことによって、前記アナログ受信信号から前記背景信号成分を除去したアナログ減算信号を出力するアナログ減算器と、
前記アナログ減算信号をデジタル化することによって、デジタル減算信号を出力するアナログデジタル変換器と、
前記記憶部から読み出された前記デジタル補正信号に基づいて、前記アナログデジタル変換器から出力された前記デジタル減算信号を補正することにより、前記ターゲットの測距に用いられるデジタル応答信号を出力する補正部と
を有することを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記デジタル参照背景信号は、前記放射空間内に前記ターゲットが存在しない状態で受信された前記アナログ受信信号を前記アナログデジタル変換器によってデジタル化した信号であることを特徴とする請求項1に記載されたパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記デジタル補正信号は、前記放射空間内に前記ターゲットが存在しない状態で受信された前記アナログ受信信号と、前記デジタルアナログ変換器から出力された前記アナログ参照背景信号とを前記アナログ減算器によって減算し、前記アナログ減算器から出力された前記アナログ減算信号を前記アナログデジタル変換器によってデジタル化した信号であることを特徴とする請求項1または2に記載されたパルスレーダ装置。
【請求項4】
前記デジタルアナログ変換器と前記アナログ減算器との間に設けられているとともに、前記アナログ参照背景信号の利得を減衰させる第1の減衰器をさらに有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載されたパルスレーダ装置。
【請求項5】
前記記憶部と前記デジタルアナログ変換器との間に設けられているとともに、前記デジタルアナログ変換器から出力された前記アナログ参照背景信号の遅延量を調整する遅延調整部をさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載されたパルスレーダ装置。
【請求項6】
前記記憶部と前記デジタルアナログ変換器との間に設けられているとともに、前記デジタルアナログ変換器から出力された前記アナログ参照背景信号の利得を調整する第2の減衰部をさらに有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載されたパルスレーダ装置。
【請求項7】
前記デジタル参照背景信号と、前記放射空間内に前記ターゲットが存在しない状態で受信された前記アナログ受信信号とに基づいて、前記遅延調整部の遅延または前記第2の減衰部の利得を調整する評価部をさらに有することを特徴とする請求項5または6に記載されたパルスレーダ装置。
【請求項8】
前記デジタルアナログ変換器は、入力された前記デジタル参照背景信号のサンプル点の間を前後のサンプル値を用いて補間することにより、前記デジタル参照背景信号よりも高い分解能を有する前記アナログ参照背景信号を出力することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載されたパルスレーダ装置。
【請求項9】
前記デジタルアナログ変換器は、前記アナログ参照背景信号の利得をデューティ比によって可変に設定し、
前記デジタルアナログ変換器と前記アナログ減算器との間に設けられ、前記デジタルアナログ変換器が出力した前記アナログ参照背景信号を時間的に平準化するローパスフィルタをさらに有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載されたパルスレーダ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−68941(P2009−68941A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236494(P2007−236494)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】